Nara Women's University Digital Information Repository Title 自閉症スペクトラム障害児・者の親は障害をどう意味づけているか : Benefit Finding とSence Making からみた予備的検討 Author(s) 山根, 隆宏 Citation 山根隆宏:奈良女子大学心理臨床研究, 第1号, pp. 49-56 Issue Date 2014-03-31 Description URL http://hdl.handle.net/10935/3876 Textversion publisher This document is downloaded at: 2015-01-30T22:41:16Z http://nwudir.lib.nara-w.ac.jp/dspace 自閉症スペクトラム障害児・者の親は障害をどう意味づけているか -B e n e f i tF i n d i n gと S e n s eMakingからみた予備的検討一 山根隆宏 (奈良女子大学研究院生活環境科学系) 要約:本研究では,親が障害のある子どもをもっ経験に対してどのように意味づけ,意味づけが親の 適応にどう関連するかを検討することを目的とした。自閉症スペクトラム障害のある子どもをもっ親 5 1名に対して自由記述による質問紙調査をおこない,障害のある子どもをもつことに関する Ber 児島 F i n d i n gとS e n s eMakingの実際について検討した。その結果,多くの親が Bene 五tF i n d i n gを報告し, 「共感性の高まり J「視点・価値観の変化J「人間関係の広がり・深まり Jなどに分類された。約 7割 の親が S e n s eMakingを報告し,「視点・価値観の変化J「運命的・宗教的な理解」「人間的成長J「 人 生の変化Jなどに分類された。また, S e n s eMakingを見いだせているほど心理的ストレス反応は低 下し意味の模索や保留をしているほど心理的ストレス反応は高まることが示唆された。 キーワード:自閉症スペクトラム障害,障害のある子どもの親, Bene 五tF i n d i n g ,S e n s eMaking 問題と目的 近年,発達障害のある子どもや大人だけで なく,その家族を視野に入れた支援が求めら れている。発達障害のある子どもをもっ親は, 養育上の不安や負担感といった様々な困難を 経験しやすい。例えば,子どもの将来への不 0 0 4 ),障害に関する周囲の理解の 安(宋ら, 2 0 1 0;柳楽ら, 2 0 0 4 ),障害 得にくさ(山根, 2 0 0 3;山根, の認識や受容の困難さ(松下, 2 e n e f i tF i n d i n g (以下, BFと略記す 別すると B e n s eMaking (以下, SMと略記)の 2 る)と S つの心理的試みが多くの研究で取り上げられて いる。 BFとは,個人が喪失や逆境的な出来事 から肯定的な側面や有益性を見出すことを指し, 意味を探求した結果もたらされるものである ( D a v i se ta l . ,1 9 9 8 。 ) BFによって,喪失や逆境 的な出来事のネガテイブな含みが最小限にされ ることや,緩和されたりすることにつながると 2 0 1 3),障害特性の理解や対応の困難さ(山根, 2 0 1 3;柳楽ら, 2 0 0 4 )などが挙げられる。発 喪失や逆境的体験の原菌や意味合いを理解する 達障害のある子どもの家族支援を行っていく ことで,それらの体験によって揺らいだ想定世 上で,発達障害児・者の親の心理的適応にい s s u m p t i v eworld;J a n o f f B u l m a n ,1 9 9 2 ) 界( a かなる要因が関わっているかを明らかにして の秩序や一貫性を修復しようとする心理的試み いくことは重要といえよう。 a v i s ,e ta l . ,1 9 9 8)。一方で, SMとは される(D を指す。例えば,障害のある子どもをもっ親が「な 障害のある子どもをもっ親の心理的適応に寄 ぜ自分に障害のある子どもが生まれたのか。」「な 与する個人の心理的な試みとして,障害のある ぜわが子に障害があるのか。」と自問自答する 子どもをもっ体験の意味づけの役割が注目され ケースがしばしば臨床現場でみられるが,この ている(S amiose ta l . ,2 0 1 2)。近年の喪失や逆 間いに自分なりの答えを見いだすことが SMに 境的体験に関する悲嘆理論では,人が喪失や 該当するといえるだろう。このように障害のあ 逆境的体験を解決するためには,個人にとって る子どもをもっ親は,子どもの成長発達段階で 脅威となるその経験から意味を見出すことが心 次第に子どもに障害があるという予期しなかっ t t i g , 理学的に重要であると考えられている(A た事実が明らかになることで,それまでの想定 1 9 9 6 ;J a n o f f ”B u l m a n ,1992; S t r o e b e& S c h u t , s s u m p t i o nw o r l d )や価値観が揺らいだ 世界( a 1 9 9 9)。その中でも個人の体験の意味づけは,大 り,崩れたりすることにつながる。障害のある -49ー 子どもをもっ親は,障害のある子どもをもっ経 どのように寄与するのかを検討していく必要が 験を意味づけることで,そのような想定世界の ある O 一貫性や秩序を修復や建直しをしようとしてい そこで,本研究は, ASDのある子どもをも っ親が障害のある子どもをもつことについて ると捉えることができるだろう。 発達障害のある子どもをもっ親の SMに関 どのような意味づけをおこなっているかについ する先行研究では,自閉症児やアスペルガー て,その実態を明らかにすることを目的とする。 症候群の子どもをもっ親が子どもの障害に関 具体的には,障害のある子どもをもつことに対 t する意味の探求を試みていること(Huwse する BFおよび SMについて,自由記述による a l . ,2 0 0 1 ;Pakenhame ta l . ,2 0 0 4)や,アスペ 調査をおこなう。次に, BFや SMといった意 ルガー障害の子どもをもっ親の適応と子ども 味づけが, ASDのある子どもをもっ親の適応 の障害に対する SMとの関連が示唆されてい にどのように関連しているかについて検討をお る(S amiose ta l . ,2 0 0 8)。これらのことから, こなう。 自閉症スペクトラム障害(以下、 ASDと略記) 児・者をもっ親が子どもの障害に対する意味 方法 を再構成することは親の適応にとって重要な 1 .調査時期 2 0 1 0年 7月から 8月にかけておこなわれた。 要素であることが考えられる。 一方の BFに関しでも同じように,先行研究 では,ダウン症候群や自閉症,アスペルガ」 症候群といった障害のある子どもをもっ親に a t t e r s o n , おいても報告されている(King& P 2 .調査協力者 近畿圏の 2つの ASD児・者の親の会の会員 3 2名 1を対象とした。 である親 2 2 0 0 0 ;Phepse ta l . ,2009;Tarakeshwar& P a r g a m e n t ,2 0 0 1)。我が固においても,障害児 をもっ親が,障害児を育てることによる自己成 3 .調査手続き 事前に親の会の役員会で調査内容に問題が 長を体験したり,何らかの有益性を見出したり ないかの確認をお願いした。質問紙の配布は 2 0 0 9 ; していることが示唆されている(前盛, 2 通りの方法で行われた。第 1に,役員会を通じ 田中・丹羽, 1 9 9 0;牛尾 1 9 9 8;山根, 2 0 1 2 。 ) て調査者が調査趣旨や倫理的配慮等を説明し さらに, BFが発達障害児・者の親の適応に た上で,質問紙を配布した。第 2に,親の会の 肯定的な影響を与えることが示唆されている。 会報に質問紙と調査協力依頼の文書を同封し 例えば,親はアスペルガー症候群や高機能自閉 てもらい,質問紙を配布した。いずれの配布方 症の子どもを育てる経験を自己の肯定的な変化 法においても,調査協力者が厳封し調査者へ返 や成長がもたらされた,あるいは通常では経験 信する形で回収した。なお,回答にあたっては, しがたいものがもたらされたなどと意味づけて プライパシーが保護されること,研究調査以外 0 1 2),そのような肯定的な意味 おり(山根, 2 には使用されないこと,回答は決して強制する づけが親の良好な適応と関連することが示唆さ ものではないことを紙面上に明記した。 amiose ta l . ,2 0 0 9 。 ) れている(S 以上のように自閉症やアスペルガー障害のあ る子どもをもっ親の適応に, BFや SMといっ た障害のある子どもをもっ経験に対する意味づ 4 .調査内容 1 )B e n e f i tF i n d i n g ASDの あ る 子 ど も を も つ こ と に よ る BF けが寄与することが指摘されている。しかしな について回答を求めた。具体的な方法は, がら,我が国では ASDのある子どもをもっ親 Pakenhame ta l .( 2 0 0 4 )を参考に,「障害のあ の適応について BFや SMに焦点づけた研究は る子どもをもっ親の中には,その経験から得ら 乏しく,その実態がいまだ明らかにはなってい れたものがあると感じている人がいます。例え ない。また,このような意味づけが親の適応に ば,ある人は自分自身や他者について学ぶこと - 50- ができたと感じています。あなたは自分の子ど 験した親の感情や行動の状態にどれくらいあて もが発達障害であることから,何か自分なりに はまるかについて 4件法(0:全くちがう∼ 3 : 得られたものがあると感じていますかけと教 その通りだ)で回答を求めた。 示し,「はい J「いいえ Jの 2件法で回答を求 4)フェイス項目 めた。次に,「はい」と回答した場合は BFの 親の年齢・性別,子どもの年齢・性別・診断 内容について自由記述による回答を求め,「い 名,子どもの数,発達障害のある子どもの出生 いえ Jと回答した場合は BFを感じられない 順位を記入してもらった。 理由について自由記述で回答を求めた。また, Pakenhame ta l .( 2 0 0 4) や McLaneye ta l . , 結果と考察 e k ,& F i t z g e r a l d( 1 9 9 5)を参考に, BF A盟e 得られるものがあると信じている Jという質問 1 .調査協力者と子どもの属性 3名の回答が得られ 質問紙の配布の結果, 5 (囲収率 22.84%),本調査の対象外の診断を受 1名を分析対象とした。 けている回答を除き, 5 3 . 7 4歳(3 2歳∼ 6 3歳)で、あっ 親の平均年齢、は 4 への将来的な確信について,「たとえ今の時点 で、ははっきりしていなくても,最終的には自分 の子どもが発達障害であることから,私なりに 項目(BFへの将来的な確信)に 4件法( 1: た。親の性別は父親 3名(5.88%),母親 47名 全くあてはまらない∼ 4:とてもあてはまる) ( 9 2 . 1 6 %)不明 1名( 1.96%)であった。子ど で回答を求めた。 もの人数は 2人が 2 7名(5 2 . 9 4 % ) , 1人が 1 4 2 ) SenseMaking 名(27.45%に 3人が 8名( 15.69%)の順に多 ASDのある子どもをもつことの意味合いに かった。 ASDのある子どもの出生順位は第 1 ついて回答を求めた。具体的には, Pakenham 子が 3 0名(5 8 . 8 2 %) , 第 2子が 1 6名( 3 3 . 3 3 % ) , )を参考に,「あなたは,自分の子 e ta l .( 2 0 0 4 第 3子が 3名(5.88%)であった。子どもの平 どもが発達障害であることの自分にとっての意 均年齢は 1 3 . 1 8歳(4歳∼ 3 7歳),性別は男性 味をどのように理解できた(理解を深めること 4 2名( 82.35%),女子 9名( 1 7 . 6 5 %)であった。 ができたか)とお感じですか。 jと教示し,「はい」 の 2件法で回答を求めた。次に,「はいJ 「いいえ J 2 .自由記述回答の分類 と回答した場合は SMの内容について自由記述 5 1名より意味づけに関して計 2 3 7件の記述 による回答を求め,「いいえ」と回答した場合 7件 , SMが 64 が得られた。その内, BFが 9 は意味を感じられない理由について自由記述で 件の該当する記述がみられた。すべての自由 K J法(川喜田, 1 9 6 7)を援用し, ta l .( 2 0 0 4 ) 回答を求めた。また, Pakenhame 記述回答は, や McLaneye ta l .( 1 9 9 5)を参考に, SMへの 心理学を専攻する大学院生 1名とともに内容分 将来的な確信を,「たとえ今の時点では意味を 類をおこなった。 理解できないでいても,最終的には私は自分の 子どもが発達障害であることの自分にとっての 3 .B e n e f i tF i n d i n g ASDの子どもを育てる中で何らかの得られ 意味を理解ができるようになる(理解が深まる ようになる)と信じている Jという項目(SM 0 たものがあると感じていると回答した親は 5 への将来的な確信)について 4件法( 1:全く 名(98.04%)であり,未記入が 1名であった。 あてはまらない∼ 4 :とてもあてはまる)で回 ASDの子どもを育てる中で得られたものはな 答を求めた。 いと回答した親はみられなかった。自由記述回 3)心理的ストレス反応 答の分類と記述率を表 1に示す。分類の結果, S t r e s sResponseS c a l e 1 8 (以下, SRS ・ 1 8と 「共感性の高まり J( 3 5 . 2 9 %)と「視点・価値 略記;鈴木ら, 1 9 9 8)を使用した。「抑うつ・不安J 観の変化」(35.29%)が最も多く,「人間関係 「不機嫌・怒り J「無気力 Jの 3因子, 1 8項目 から構成される。ここ 3か月間で育児の中で経 3 3 . 3 3 %),「感謝J( 2 3 . 5 3 % ) の広がり・深まり J( の順に多かった。 - 5 1- 表l B e n e f i tF i n d i n gの分類結果と記述率,自由記述例 カテゴリ名 % 自由記述の回答例 1 8 3 5 . 2 9 頑張っても,できない人の気持ちが理解できるようになった/つらい思いをした分,他の方のつら 1 l さもよくわかる/いろいろなタイプの人がいるとわかり,広い心で人に接することができることが 多くなった 共感性の高まり 視点・価値観の変化 1 8 3 5 . 2 9 周りの人を見る目も変わった。欠点ばかり目がいかずに,長所を認められるようになった/人の優 れたところは様々で,価値観が変わった 1 7 3 3 . 3 3 息子のおかげで,たくさんの人と出会えた/頑張っているすばらしい多くのお母さん方に出会え た/同じ障害をもっお母さんたちとたくさん知り合えて,輪が広がった/夫婦共に支え合うように なった 人間関係の広がり・深まり 感謝 知識の獲得 生き方の変化 自己理解 世間体からの解放 自己の強さ その他 1 2 2 3 . 5 3 どんな小さいことでも喜びとして感じることができた/人への感謝をもつことができるように なった/たくさんの人に支えられているということがわかった 8 1 5 . 6 9 大多数の人とは違う知識を知ることができた/障害に関する知識を得た 6 1 1 . 7 6 たくさんの人からの恩を返そうと,特別支援学校の支援員の仕事をするようになった/発達障 害のある子どもとその親の支援の仕事に就くようになった 4 7 . 8 4 自分自身の長所・欠点にも気付き,どうすべきか理解できたのでよかった/自分が人として生き 4 7 . 8 4 世間一般の価値観にとらわれなくなった/常識はあってないようなもの。周り,世間を気にしなく 3 5 . 8 8 今までのんきで怠け者の私だったが,子どものために今までにない自分があった。強くなったと 4 7 . 8 4 自閉症の子どもを育てることはなかなかできない。貴重な体験をさせてもらっている/障害のあ ていく上で,自分の役割みたいなものを感じている なった 思う/人として成長できたと思う る子とそうでない子のそれぞれの子育てができてよかったと思う 多くの親は, ASDの子どもを育てる経験 自分自身の強さや成長を経験していることを報 から得られた恩恵を見出していたと考えられ 告していた。アスペルガー症候群の子どもを a m i o se ta l .( 2 0 0 9) は ア ス ペ ル る。また, S もっ親の BFは,肯定的な人格変化が最も多い ガー症候群の子どもをもっ親を対象に, new ta l . ,2 0 0 4 。 ) ことが示されている(Pekenhame p o s s i b i l i t i e s ,p e r s o n a lg r o w t h ,a p p r e c i a t i o n , s p i r i t u a lg r o w t h ,p o s i t i v ee f f e c t so ft h ec h i l d の 6因子から成る BFを測定する尺度を作成し ている。本研究で得られた ASD児・者の親の BFはこの 6因子にほぼ類似したものと考えら れる。また,先行研究ではみられなかった「世 間体の解放」ゃ「視点・価値観の変化」に関す る記述がみられた点が特徴的で、あるといえる。 また,死別などの喪失体験に関する先行研究 ( D a v i s ,2 0 0 1)によれば, BFは大きく「自分自 身の成長J ,「展望の獲得J ,「関係の強まり Jの 3要素から成るとされる。本研究の親の BFの 本研究においても同様に,親は ASDのある子 , 内容をみると,「共感性の高まり」,「自己理解J どもをもつことについて 自分自身の人格の肯 定的な変化を経験しているといえる。 ,「視点・価値観の変化J ,「世 次に,「感謝J 間体からの解放J ,「生き方の変化Jは,先行研 究における「展望の獲得Jと類似する BFの内 容であると考えられる。親は ASDの子どもを 育てる経験の中から,物事に対する感謝の念を 抱く気持ちが高まったり 能力の優劣にとらわ れず他人の個性を尊重する視点や価値観をもつ ようになったり,世間の一般的な価値観にとら われなくなったり,自らの生き方が変化したり したことを見出しているといえる。 「自己の強さ」が先行研究における「自分自身 次に,「人間関係の広がり・深まり」は,他 の成長Jと類似する結果であると考えられる。 者との関係について恩恵を発見するという点 「共感性の高まり」では,親は ASDの障害特 で,先行研究の「関係の強まり」と類似すると 性を知ったことや自分自身が辛い経験から,他 考えられる。しかし後者は家族や友人との関 者への共感性の高まりを獲得していた。また, 係の深まりについて恩恵を見出しているのに対 「自己理解Jでは,親は自分の内面や生き方に して,本研究の「人間関係の広がり Jは通常で 関する理解が深まることを経験していた。さら は出会えない他者と出会いや特別な人間関係の に,「自己の強さ」では,親は国難な体験から, 構築に対する恩恵も含んでいることに差異がみ -52- 表2 S e n s eMakingの分類結果と記述率,自由記述例 カテゴリ名 視点・価値観の変化 意味はない n % 自由記述の例 1 1 2 1 . 5 7 子育てを深く考える機会になった/普通で、ずっと過ごしていたら,ハ一ドルも高く,小さな成功も 見つけられなかったと思う/自分のものさしだけで判断していたことに気付いた 1 0 1 9 . 6 1 自分にとっては特に意味はない。たまたま,子どもが発達障害であったというだけ/自分にとって の意味はない杭理解するようにはこころがけている 9 1 7 . 6 5 子どもが私を選んで生まれてきてくれた/二子どもはよりよく生きるために私の元に生まれてきた のかと,ある意味運命的なものを感じる/抽象的に言えば,神がわれわれ夫婦なら大丈夫だと 障害児を託されたのかなと思う 運命的・宗教的な理解 人間的成長 意味の模索中 人生の変化 障害のある人への理解 感謝 その他 9 1 7 . 6 5 色々と子どもを通じて,教えてもらっていると思う/息子を育てることで,私は人として,立派な大 人になれたしこれからもなれるのだと思う 7 1 3 . 7 3 あまり深く考えたことが無い/子育てに奮闘中で,達観した境地には至っていない/意味はない と思う。まだまだ,悩んだり,くよくよしたり,怒ったりと,人としては自分まだまだだと思うから。 7 1 3 . 7 3 同じ立場の親を助けるようになった/自分の仕事に行かせるようになった 6 1 1 . 7 6 私とは少し違う捉え方などをすること杭理解できるようになってきた/色々な子がいて,その子 にあったやり方があるとわかっただけで,発達障害を知ることができてよかったと思う。 3 5 . 8 8 人よりも多く悩み,多く喜ひ:感謝の重さを感じることができた/子どもが純粋で,いつも一生懸 命なので,ありがたいと感じる 3 5 . 8 8 ある意味子育ての上級コース/文化の違う子どもを育てるのはおもしろさがある な人間関係の構築に恩恵を見出す点は,海外 4 .SenseMaking ASDの子どもを育てることの自分にとって のアスペルガー症候群の子どもの親を対象とし の意味を理解できるようになったと回答した親 ta l . ,2 0 0 4:Samiose ta l . , た研究(Pekenhame は , 3 5名(6 8 . 6 3 %)であった。意味は理解で 2 0 0 9)ではみられないが,我が国の障害児や 発達障害児を育てる中で人間関係の広がりや変 0名 きるようになっていないと回答した親は 1 ( 1 9 . 6 1%),「無回答」の親は 6名( 1 1 . 7 6 %)で、あっ 化を経験していることがいくつか指摘されてい た。自由記述回答の分類と記述率を表 2に示す。 0 0 9;山根, 2 0 1 2 。 ) ASDのある子 る(前盛, 2 「視点・価値観の変化」(2 1 . 5 7 %)が最も多く, どもを育てる中で,親は夫婦や両親といった既 1 7 . 6 5%),「人間的 「運命的・宗教的な理解 J( られる。これらの新たな他者との出会いや特別 存の関係性が深まることや教師や支援者,親 7 . 6 5 %に「人生の変化J( 1 3 . 7 3 %),「障 成長」( 1 の会の友人など新たに獲得された関係性につい 害のある人への理解」( 1 1 . 7 6 %)の順に多かっ 9 . 6 1%)や「意味の た。また,「意味はない」( 1 て,恩恵を見いだしているといえる。 さらに,アスペルガー症候群の子どもをもっ 模索中 J( 1 3 . 7 3 %)と回答した親もみられた。 親の BFと SMの背景に共通しているのは,ア ASDのある子どもをもつことに対して,“子 スペルガー障害の子どもの視点で子どもや自 どもが私を選らんで生まれてきてくれた”など 分自身,他者の行動を理解しようとしている の「運命的・宗教的な理解j をおこなっている ta l . , 点であるという指摘がある(Pekenhame 親がみられた。 M i l o( 1 9 9 7)は,発達障害のあ 2 0 0 4 。 ) ASDはその障害特性により,能力の個 る子どもの死を体験した親が,子どもの生と死 人内差が激しく,ある部分では高い能力を発 に特別な意味を見出していることを明らかにし 揮するが,別のある部分では著しいつまずき ている。本研究においても, ASDのある子ど や苦手さをもつことは少なくない。本研究の親 もの生を,親自身の人生において特別な意味あ においても,「視点・価値観の変化」のように, るものとして意味づけている親がみられたとい ASDの障害特性を尊重する視点、から自己や他 える。 者への理解や価値観の変化が生じていると考え られる。 次に,「視点・価値観の変化j ,「人間的成長J , 「人生の変化」などの SMの内容は, BFと類 -53- 似するものであった。死別などの喪失体験にお とは有意な正の関連 ( r=. 4 0,ρく . 0 1) , 「SM a v i se ta l . ,1 9 9 8)では,死別 ける先行研究(D の有無( 1:はい, 2:いいえ)」とは有意な負 経験者の意味生成は BFとSMが明確に区別さ の関係 ( r= . 5 4 , ρく . 0 0 1)がみられた。また, れていることが明らかにされている。しかし 「意味の模索・保留」は,「SMの有無Jと有意 Pekenhame ta l .( 2 0 0 4 )は,アスペルガー症候 群の子どもをもっ母親の SMを調査したところ, r=. 7 0, ρく . 0 0 1)がみられ,「SM な正の関係 ( 本研究と同様に自己の成長や価値観の変化を与 への将来的な確信Jと有意な負の関係 ( r= . 6 0 , ρく . 0 0 1)がみられた。意味づけ変数とデモグ えてくれた機会として意味づけている者が多い ラフイツク変数との関連はみられなかった。心 ことを報告している。障害のある子どもをもつ 理的ストレス反応との関連をみると,「意味の ことを自身の成長の機会として意味づけること 模索・保留」と「抑うつ・不安j と有意な正の は , ASDなどの発達障害の子どもをもっ親の r= . 3 5,ρく . 0 5),「不機嫌・怒り Jと 関連 ( 特徴的な SMの方略であるのかもしれない。 有意な正の関連 ( r=. 2 7, ρく . 1 0)がみられた。 ,「意味はない Jと 一方で,「意味の模索中 J また,「SMの有無」は「抑うつ・不安Jと有 回答した親もみられた。このことは,ほとんど 意な正の関連 ( r=. 3 2, ρく . 0 5)がみられ,「SM の親が BFを発見していたことと比較すると, への将来的な確信Jは「無気力 Jと有意な負の ASD児・者の親にとって SMの達成は難しく, 関係 ( r=. 2 7,ρく . 1 0)がみられた。 個人差の大きい体験である可能性が考えられ る。しかしながら,喪失体験や逆境的体験に対 意味づけ変数開の相関関係をみると,「BF への将来的な確信」と「SMへの将来的な確 して意味を求めない適応的な人々が存在するこ 信」とに正の関連がみられた。 BFと SMは相 されているのt r o e b e& S c h u t ,2 0 0 1 。 ) とが指掠j 互に関連しあうものと考えられるが,関連の強 また,むしろ意味を探し求めたが,それを見 さを考慮すると, ASDのある子どもをもっ経 出すことができなかったときにより不適応に陥 験への意味づけの異なる側面を独立に捉えて e i m e y e r ,2 0 0 0)。親が るという指摘もある(N いるものと考えられる。また親の適応の指標と SMを達成していないことが,必ずしも親の不 適応につながるとは言えないことに注意する必 して心理的ストレス反応は,先行研究と異な , り BFと有意な関連がみられなかった。 BF 要があるだろう。 や SMは喪失や逆境が生じた時期や経過によっ て役割が異なることから(D a v i se ta l . ,1 9 9 8 ) , 5 . 意味づけ変数とデモグラフィック変数,ス 今後はこのような要因を加味して検討していく トレス反応との関連 必要があるだろう。 意味づけ変数と他の関連変数との関係をみる 一方では, SMについてはいくつかの有意な ために,相関係数を算出した。まず SMの分類 正の関連がみられた。特に,意味を模索して カテゴリーに基づき,「意味の模索・保留 Jと いる場合や意味を見いださない場合には抑う して,「意味はない J「意味の模索中 Jを 1に つや不安がより高く,不機嫌・怒りがより高 それ以外のカテゴリーを 2の数値を割り当てて くなることが示唆された。また, SMを見いだ ダミー変数を作成した。なお, BFの有無につ しているほど抑うつや不安が低く, SMへの将 いてはほとんどの親が「はい」と答えたため分 来的な見通しをもてるほど無気力が低くなる 析には用いなかった。次に,意味づけに関する という結果であった。これらのことから,障 ,「意味の模索・ 変数(「BFへの将来的な確信J 害のある子どもをもっ経験に対してその意味 保留J , 「SMの有無」,「SMへの将来的な確信」) 合いを自分なりに見いだすことは良好な適応 とデモグラフイック変数(「親の年齢J ,「子ど をもたらすものと考えられる。一方で,意味 ,「診断の時期 J ),心理的ストレス反 もの年齢J を探し求めるが見いだせない場合や意味合い 応 (SRS1 8)の相関係数を求めた。その結果,「BF を感じられない場合は への将来的な確信Jは「SMへの将来的な確信J につながりやすいものといえる。ただし前 司 -54- 心理的ストレス反応 述したように必ずしも喪失や逆境的体験に意 引用文献 味を求めずとも適応的なケースが存在するこ とが指摘されているため,この結果は慎重に A抗i g ,T .( 1 9 9 6 ) .Howweg r i e v e :R e l e a r n i n gt h e 検討してく必要があるだろう。 worldNewY o r k :OxfordUniv 町s i t yP r e s s . D a v i s ,C .G . ,Nolen-Hoeksema,S .( 2 0 0 1 ) .L o s s 総合考察 andm e a n i n g :Howdop e o p l emakes e n s eo f 本研究は, ASDのある子どもをもっ親が障 e hσ νi o r a ls c i e n t i s t ,4 4 ,726 l o s s ?Americanh 凶 害のある子どもをもつことについてどのような 意味づけをおこなっているかについて,その実 7 4 1 . .L a r s o n ,J . D a v i s ,C .G . & Nolen-Hoeksema, S 態を明らかにすることを目的とした。その結果, ( 1 9 9 8 ) .Makings e n s eo fl o s sandb e n e f i t i n g ASD児・者の親の BFや SMの具体的な内容 企om t h ee x p e r i e n c e : Two c o n s t r n a l so f が明らかになった。また,意味づけのうち SM o u r n a lofP e r s o n a l i t yandS o c i a l m e a n i n g .J が親の適応において肯定的な役割をもつことが 5 ,5 6 1 5 7 4 . P s y c h o l o g y ,7 示唆された。本研究の知見は, ASD児・者の Huws,J .C . ,J o n e s ,R .S .P . ,& l n g l e d e w ,D .K. 意味づけについて基礎的な資料を提供するもの ( 2 0 0 1 ). P a r e n t so fc h i l d r e nw i t ha u t i s mu s i n として意義があるものといえる。また,本研究 巧f s 加d y . a ne m a i lg r o u p :A g r o u n d e dt h e o J o u r nα lo f 」 百e α l 的P s y c h o l o g y ,6 ,5 6 9 5 8 4 . の知見は, ASD児・者の親に対する心理臨床 実践や支援において,親の心理面を理解し介入 h a t t e r e da s s u m p t i o n s : J a n o f f B u l m a n ,R .( 1 9 9 2 ) .S する枠組みを提供するものといえよう。例えば, ゐ α1 1 仰 p s y c h o l o g yo f t r a u m a .NewY o r k : T o w a r i 支援者と親とがともに障害のある子どもをもっ F r e eP r e s s . 経験について協働的に意味を探っていくような K i n g ,L . A .&P a t t e r s o n ,C .( 2 0 0 0 ) .R e c o n s t r n c t i n g アプローチが考えられる。 l i f eg o a l sa f t e rt h eb i r t ho fac h i l dw i t hDown 今後の課題として以下の 2点が考えられる。 s y n d r o m e :F i n d i n gh a p p i n e s s andg r o w i n g . 第 1にサンプル数の問題が挙げられる。本研究 I n t e r n a t i o n a lJ o u r n a lofR e h a b i l i t a t i o nand ではサンプル数が十分とは苦いがたい。今後は ,1 7 3 0 . H e a l t h ,5 データを多く積み重ねていく必要がある。第 2 前盛ひとみ(2009).重症心身蹄害者の母親に に , BFや SMの詳細な検討が必要である。 BF おけるアイデンテイティ危機体験の様態 や SMのそれぞれが親の適応に異なった役割を の類型化および発達過程の分析.広島大 担うのかどうか,どのようにして意味づけがな 学大学院教育学研究科紀要(第三部教育 されていくのか,また縦断的な研究によって因 果関係の同定などを明らかにしていくことが求 8 ,2 1 52 2 4 . 人間科学関連領域), 5 幽 松下真由美(2003).軽度発達障害児をもっ母 められるだろう。 親の障害受容過程についての研究応用社 3 ,2 7 5 2 . 会学研究, 1 McLaney, M. A . ,T e n n e n ,H . ,A f f l e c k ,G . ,& 注 1 . 親の会の会報誌に同封して配付したものが F i t z g e r a l d ,工( 1 9 9 5 ) .R e a c t i o n st oi m p a i r e d 含まれており、実際の対象者数とは異なる。 f e r t i l i t y : The v i c i s s i t u d e so fp r i m a r y and s s e c o n d a r y c o n t r o l a p p r a i s a l s . Women’ H e a l t h ,1 ,1 4 3 1 5 9 . M i l o ,E .M.( 1 9 9 7 ) .M a t e r n a lr e s p o n s e st ot h el i f e 付記 調査にご協力いただきました親の会会員の andd e a t ho fac h i l dw i t had e v e l o p m e n t a l d i s a b i l i t y :as t o r yo fh o p e .DeathS t u d i e s ,2 1 , 皆様に心より御礼申し上げます。 4 4 3 4 7 6 N e i m e y e r ,R .A .( 2 0 0 0 ). S e a r c h i -5 5ー 7 ,6 8 8 0 . ofm e a n i n g :G r i e ft h e r a p yandt h ep r o c e s sof eathS t u d i e s .2 4 ,5 4 1 5 8 . r e c o n s t r u c t i o n .D .( 2 0 0 1 ). T a r a k e s h w a r , N & Pargamen K. I Pakenham, K. I . ,S o f r o n o f f ,K . ,& S a m i o s ,C . R e l i g i o u sc o p i n gi nf a m i l i e s of c h i l d r e n 昭 m eaningi np a r e n t i n gac h i l d ( 2 0 0 4 ). F i n d i ocus o nA u t i s m andO t h e r w i t ha u t i s m .F σl D i s a b i l i t i e s ,1 6 ,2 4 7 2 6 0 . D e v e l o p m e n t . w i t hA s p e r g e rs y n d r o m e :C o r r e l a t e so fs e n s e 五tf i n d i n g .R e s e a r c hi n making and bene 牛尾穂子( 1998).重症心身障害児をもっ母親 の人間的成長過程についての研究.小児 5 ,2 4 5 2 6 4 . D e v e l o p m e n t a lD i s a b i l i t i e s .2 7 ,6 3 7 0 . 保健研究, 5 P h e l p s ,K.W . ,McCammon,S .L . ,Wuensch,K .L . , 柳 楽 明 子 ・ 吉 田 友 子 ・ 内 山 登 紀 夫 (2 0 0 4 ) . &G o l d e n ,J .A .( 2 0 0 9 ).Enrichmen a r e n t i n g an i n d i v i d u a l and growth 企om p アスペルガー症候群の子どもを持つ母親 o u r n a lo f w i t hana u t i s ms p e c t r u md i s o r d e r .J の障害認識に伴う感情体験ー“障害”とし σ lD i s a b i l i t ; ぅ3 4 , I n t e l l e c t u a l& Development て対応しつつ,“この子らしさ”を尊重する 4 1 . 1 3 31 こと児童青年精神医学とその近接領域, 司 S a m i o s ,C . ,Pakenham,K . ,& So 企o n o f f ,K.( 2 0 0 8 ). 4 5 , 380 ”3 9 2 . Then a t u r eofs e n s emakingi np a r e n t i n ga 山根隆宏( 2010).高機能広汎性発達障害児・ c h i l dw i t hA s p e r g e rs y n d r o m e .R e s e a r c hi n 者の母親の障害認識過程に関する質的検 ,516”5 3 2 . a u t i s ms p e c t r u md i s o r d e r s ,2 2 ,6 1 7 3 . 討.家庭教育研究所紀要, 3 企o n o f f ,K. S a m i o s ,C . , Pakenham, K. I . , & So 山根隆宏(2012).高機能広汎性発達障害児・ 印r e ofbene 白 血i d i n gi n ( 2 0 0 9 ).The na 者をもっ母親における子どもの障害の意 p a r e n t sofac h i l dw i t hA s p e r g e rs y n d r o m e . 味づけ一人生への意味づけと障害の捉え R e s e a r c hi nA u t i s mやe c t r u mD i s o r d e r s ,3 , 3 ,1 4 5 方との関連.発達心理学研究, 2 1 5 7 . 3 5 8 3 7 4 . S a m i o s , C . M . , Pakenham, K. I . , So 企o no f f , 山根隆宏(2013).発達障害児・者をもっ親の K.( 2 0 1 2 ) .S e n s emakingandb e n e f i tf i n d i n g ストレッサー尺度の作成と信頼性・妥当 i nc o u p l e swhohaveac h i l dw i t hA s p e r g e r 3 ,5 5 6・5 6 5 . 性の検討.心理学研究, 8 Syndrome:Ana p p l i c a t i o noft h ea c t o rp a r t n e r 田 i n t e r d e p e n d e n c em o d e l .A u t i s m ,1 6 ,2752 9 2 . 閑 宋慧珍・伊藤良子・渡遺裕子( 2004).高機 能自閉症・アスペルガー障害の子どもた ちと家族への支援に関する研究ー親のス トレスとサポートの関係を中心に.自閉 ,1 12 2 . 症スペクトラム研究, 3 帽 S t r o e b e ,M. S . ,& S c h u t ,H. ( 1 9 9 9 ) . Thed u a l p r o c e s smodelo fcopmgw i t hb e r e a v e m e n t : R a t i o n a l eandd e s c r i p t i o n .D eaths t u d i e s ,2 3 , 2 4 . 1 9 72 閏 鈴木伸一・嶋田洋徳・三浦正江・片柳弘司・右 馬埜力也・坂野雄二( 1997).新しい心理 的ストレス反応尺度(SRS-18)の開発主 , 信頼性・妥当性の検討.行動医学研究, 4 2 2 2 9 . 田中千穂子・丹羽淑子( 1990).ダウン症児に 対する母親の受容過程.心理臨床学研究, -56-
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