ノロウイルスに関する最新知見 - 食の安全と安心を科学する会

食の安全と安心フォーラム シリーズ第10回
ノロウイルスの最新研究とその防御対策
2015/2/25
ノロウイルス感染における臨床症状、潜伏期間
及び発症率(食中毒事例)
食の安全と安心フォーラム シリーズ第10回
ノロウイルスの最新研究とその防御対策
ノロウイルスに関する最新知見
日時:平成27年2月7日(土)
場所:東京大学農学部キャンパス弥生講堂一条ホール
主催:NPO食の安全と安心を科学する会(SFSS)
国立医薬品食品衛生研究所
野田 衛
出典
食品安全委員会ホームページ(「食品中のノロウイルス」リスクプロファイル)
小児の感染性胃腸炎とノロウイルス集団発生の月別報告数発生状況
(2002/03~2010/11シーズンの平均)
不明
ヒト‐ヒト伝搬(疑いを含む)
食品媒介(疑いを含む)
感染性胃腸炎
•乳幼児、小児
の子供が中心
•冬季を中心に
一年中発生
•無症状感染者
もいる
ノロウイルス感染者(数百万人)
定点当たり患者数
事件数(
平均)
■
■
■
―
ノロウイルス感染症の発生状況
発生動向調査等に基づく小児の
ノロウイルスによる感染性胃腸炎
推定患者数(135万人)
飲食店
ノロウイルス食中毒
患者数(約1万人)
その他
旅館
販売店
仕出屋
事業場
出典
感染性胃腸炎患者数は、発生動向調査を基に集計。
集団発生報告数は集団発生病原体票のデータ(山下和予博士提供)を集計
食中毒事件の病因物質別の発生割合
事件数
学校
製造所
家庭
病院
ノロウイルスの感染経路
患者数
2012年
24%
2003年~
2012年の
平均
49%
出典:厚生労働省食中毒統計を基に集計
野田 衛
1
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ノロウイルスの最新研究とその防御対策
2015/2/25
市販カキの月別ノロウイルス汚染状況
今日の内容
陽性率
600
500
60
陽 50
性
40
率
平 400
均 300
値 200
(
30
% 20
)
加熱調理用
• ノロウイルスの生き残り戦略と二枚貝
• 食中毒の原因究明等における新技術
• ヒトノロウイルスが培養できた??
定量値の平均
10
100
0
0
12月前
12月後
1月前
1月後
2月前
生食用
60
2月前
12月前 12月後 1月前
1月後
2月前
(
平 400
均 300
値 200
30
)
10
100
0
0
12月前 12月後
1月前
1月後
GI
2月前
GII
野田ら 2003年 (2002/03年採取検体)
ノロウイルスの生き残り戦略
(東京都、平成7年~平成10年)
• 点変異
• 遺伝子組み換え
ホ ッキ 貝
ア カ貝
ム ー ル貝
ナ ミ貝
カキ
ホタ テ
タ イ ラ貝
シジ ミ
20
18
16
14
12
10
8
6
% 4
2
0
1月後
600
500
陽 50
性
40
率
% 20
市販流通二枚貝からのノロウルス検出状況
12月前 12月後 1月前
ノロウイルスは二枚貝に共通したリスク
十分に加熱すれば、安全性に問題はない
東京都健康安全研究センター
ノロウイルスの分類
ノロウイルス
科
• 冬期に流行:小児の散発性感染性胃腸炎、高齢
者施設等での集団感染、食中毒の主要原因
• 直径35‐40nmの金平糖状(エンベロープなし)
• 遺伝子:約7,600bのプラス鎖1本差RNA
カリシウイルス科
属
ノロウイルス属
種
ノーウォークウイルス
遺伝子群
GⅠ
ヒト
遺伝子型
GⅠ/1~GⅠ/14
サポ
ベシ
ラゴ
ネボ
1属1種
GⅡ
ヒト
GⅣ
ヒト
GⅡ/1~GⅡ/19
GⅢ
ウシ
GⅤ
マウス
(国立感染症研究所HP)
流行の主流はGⅡ
ORF1
VPg
野田 衛
NTPase
VPg Protease Polymerase
ORF2
ORF3
polyA
Capsid
(VP1)
Capsid
(VP2)
変異型(GⅡ/4)
変異株、亜型等
たくさんの種類がいる
変異しやすい
GⅡ/4 2006b
2006/07シーズンに大流行
GⅡ/4 2012
2012/13シーズンに大流行
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ノロウイルス食中事件の発生状況
流行期別のノロウイルス遺伝子型
35000
600
30852
513
30000
500
438
25000
399
400
365
318
300
286
262
279
15835
10809
10781
11055
254
11033
10885
8086
100
20000
293
274
13436
200
19771
15000
事件数
患者数
9750
10000
5000
0
0
大流行した2006/07、2012/13シーズンはGII/4変異株が出現
2006/07、2012/13シーズンはNoVが大流行
13
出典:厚生労働省食中毒統計を基に集計
国立感染症研究所病原微生物検出情報のデータを基に集計(2014年8月19日現在)
ノロウイルス遺伝子型GII/4に対する抗体保有状況
(愛知県、2006年)
ノロウイルスの構造
構造蛋白質(カプシド)
遺伝子(RNA)
ノロウイルスの電子顕微鏡像
(広島市衛生研究所提供)
3~5歳以上の年齢層では、約50~90%が抗体を保有
(感染の既往がある)
ノロウイルスの模式図
直径:35~40nm(nm:10億分の1m)
Kobayashi S, et al:MI, 53, 356‐359(2009)
ノロウイルスの生き残り戦略
• 点変異
• 遺伝子組み換え
形を変え、免疫から逃避し、感染しやすくなる
野田 衛
3
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ノロウイルス(類似ウイルス)の増え方
1 侵入
6 放出
(Entry)
(Release)
ノロウイルス
宿主細胞(人の腸管上皮細胞)
5 成熟
(Maturation)
ORF1
VPg
NTPase
4 RNA複製
(RNA replication)
VPg Protease Polymerase
2 脱殻
(Uncoating)
Capsid
(VP2)
ORF2,3
ORF1
核
ORF2,3
ORF1
ORF2,3
19
後期
Capsid
(VP1)
ORF2,3
ORF1
初期
ORF3
polyA
sub-genomic RNA
ORF1
3 翻訳
(Translation)
ORF2
ノロウイルスの生活環
ORF2,3
ORF1
ORF2,3
ORF1
ORF2,3
ORF2,3
組織血液型(HGBA)抗原糖鎖合成経路
ノロウイルスは腸管上皮細胞に発現する組織血液型(HBGA)抗原
に結合する。
分泌型のB型
非分泌型
分泌型のA型、O型
ノーウォーク/68
ウイルスの場合
組織血液型(HBGA)抗原
A型、B型、O型(H型)
ルイスa、ルイスb など
(LeX抗原)
白土東子他、ウイルス、
57,181-190(2007)
2型はβ1-4結合
(2型糖鎖)
(FUT3,4,5,6,9)
(FUT1,2)
FUT1:赤血球
FUT2:唾液に分泌、腸管
細胞等で発現
O型のこと
(LeY抗原)
分泌型:腸管上皮細胞、唾液などに
ABH抗原が発現する。日本人の約
86%、欧米人の約80%。
非分泌型:腸管上皮細胞、唾液など
にABH抗原が発現しない。日本人の
約14%、欧米人の約20%。
野田 衛
4
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ノロウイルスが認識するHBGA抗原
遺伝子型
株名
H1/H2
A
B
Le-a
Le-b
Le-X
GI/1
NV68
+
+
-
-
+
-
+
GI/2
C59
+
+
-
+
-
nd
nd
GI/10
Boxer
-
-
-
-
+
-
+
カキ消化管における組織血液型抗原の存在
NVのカキ中腸腺への特異的結合
Le-y
GII/1
Hawaii
-
-
-
-
-
-
-
GII/2
BUDS
SMV
-
+
-
+
+
-
-
nd
nd
GII/3
PiV
Mexco
-
+
+
+
+
-
+
+
-
-
GII/4
VA387
Grimsby
104
+
+
+
+
+
+
+
+
+
-
+
+
+
nd
nd
+
nd
nd
GII/5
MOH
-
+
+
-
-
-
-
GII/7
VA207
+
-
-
+
-
+
+
GII/14
OIF
-
-
-
+
-
-
-
1.
2.
3.
Norwalk virus-specific binding to oyster digestive tissues (Guyader et al, 2006)
Norovirus binds to blood group A-like antigens in oyster gastrointestinal cells (Tian et al, 2006)
Norovirus recognizes histo-blood group antigens on gastrointestinal cells of clams, mussels, and
oysters: a possible mechanism of bioaccumulation (Tian et al, 2007)
供試VLP
種類
発現
HBGA
カキ
A,H1
ハマグリ、アサリ
(Clam)
A
ムラサキイガイ
(Mussel)
A
GII/4
(rVA387)
GI/1
(rNV)
GII/5
(rMOH)
GII/7
(rVA207)
+
-
+
+
+
-
+
+
+
文献3より
白土東子他、ウイルス、57,181-190(2007)、一部改変
ノロウイルスとネコカリシウイルス
を用いた浄化実験
インフルエンザウイルスとノロウイルスの生き残り戦略
ヒト-ヒト感染の継続
による抗原変異
遺伝子再集合による新型出現
同時感染による
遺伝子組み換え
ノロウイルス
ネコカリシウイルス
植木洋ら AEM,73,5698-5701,2007
今日の内容
• ノロウイルスの生き残り戦略と二枚貝
• 食中毒の原因究明等における新技術
• ヒトノロウイルスが培養できた??
原因食品や汚染経路を究明
↓
食品の汚染防止対策を講じる
↓
食中毒の予防法が確立し、患者が減少
厚生労働省HPより
野田 衛
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食の安全と安心フォーラム シリーズ第10回
ノロウイルスの最新研究とその防御対策
原因食品別ノロウイルス食中毒事件数
2015/2/25
食品へのノロウイルスの汚染経路(過去の事例)
2002/03~2010/11シーズン
カキ以外の貝類(シ
ジミ、アサリ、ハマ 刺身
グリ、ホタテなど) 0%
1%
寿司
4%
カキ
11%
サラダ
1%
餅、菓子(おはぎ、
ケーキなど)
1%
パン、サンドイッチ
0%
その他・不
明・記載無
41%
水(井戸水、地
下水など)
0%
食事特定
41%
原因食品不明事例が82%
多彩な食品汚染経路がある
IASR32(2011) (食中毒統計を集計 2011年11月1日現在)
原因食品や汚染経路を究明
↓
食品の汚染防止対策を講じる
↓
食中毒の予防法が確立し、患者が減少
課題
• 食品からウイルスを見つけることが困難
• 見つけたウイルスは原因?
• 見つけたウイルスは生きている?
課題
• 食品からウイルスを見つけることが困難
• 見つけたウイルスは原因?
• 見つけたウイルスは生きている?
どんな食品からもウイルスを検出する技術
の開発
パンソルビン・トラップ法(パントラ法)の特徴
課題
•
•
•
•
野田 衛
食品に依存せず、同一手技で検査可能
多検体処理が可能
低速遠心機があれば検査可能
必要な試薬
パンソルビン(市販、自家調整)
抗血清またはガンマグロブリン(市販研究用)
• 食品からウイルスを見つけることが困難
• 見つけたウイルスは原因?
• 見つけたウイルスは生きている?
同じウイルスを見つける技術
6
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ノロウイルスの最新研究とその防御対策
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カキ事例で検出遺伝子型が多様になる理由
A
カキ
ダイレクトシーケンスによる塩基配列解析
B
複数の遺伝子型が含まれ
ている場合は配列を決定することが
困難な場合がある
ウイルスの核酸RNAを精製
中腸腺の取り出し,ウイルス濃縮・ウイルス精製
逆転写反応
nested PCR
検体中の遺伝子の陽性判定
リアル・タイムPCR 検体中の遺伝子コピー数の判定
食中毒事例等ではPCR産物をシーケンス解析
・ダイレクトシーケンス
・クローニング後にシーケンス
たくさん含まれる型
結合しやすい型
免疫がない型
↑が示すように複数のクローンが存在している可能性が高
い
次世代シーケンサーを用いたNoV遺伝子検出検査の流れ
課題
• 食品からウイルスを見つけることが困難
• 見つけたウイルスは原因?
• 見つけたウイルスは生きている?
感染性ウイルスを検出
する技術
中腸腺の取り出し,ウイルス濃縮・ウイルス精製
ウイルスの核酸RNAを精製
逆転写反応
nested PCR
リアル・タイムPCR
検体中の遺伝子の陽性判定
検体中の遺伝子コピー数の判定
PCR産物をクローニングすることなく網羅的にシーケンス
微生物の培養
感染性推定遺伝子検査法の開発
鑑別方法
鑑別対照
細菌
人工培地
RNase
培養細胞
ウイルス蛋白の変性・破壊
インフルエンザウイルス
プロテインGカラム処理
パンソルビン処理
抗体の被覆の有無
RNase処理
加熱、乾燥、消毒剤
広島市安佐動物公園HPより
遺伝子の損傷・切断
紫外線、太陽光
Oligo(d)Tによる逆転写
約2,500b
‐AAAAAAAA
ノロウイルス
人とチンパンジーのみ
野田 衛
33%
TTTTTTT
7
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ノロウイルスの最新研究とその防御対策
今日の内容
2015/2/25
DOI: 10.1126/science.1257147
Science 346, 755 (2014)
7 NOVEMBER 2014 ・ VOL 346 ISSUE 6210 755
• ノロウイルスの生き残り戦略と二枚貝
• 食中毒の原因究明等における新技術
• ヒトノロウイルスが培養できた??
http://first.lifesciencedb.jp/archives/9498
HuNoVの増殖に関する知見
ノロウイルス
BJAB細胞
で検索
謝 辞
下記の研究班等の研究分担者、研究協力者の先生に深謝します。
• ヒトのノロウイルスはB細胞に由来する培養細
胞に感染する
• 腸内細菌はノロウイルスの感染を促進する
厚生労働科学研究費補助金食品の安全性確保推進研究事業
平成22~24年度「食品中の病原ウイルスのリスク管理に関する研究」班
平成25~26年度「食品中の病原ウイルスの検出法に関する研究」班
内閣府食品安全委員会食品健康影響評価技術研究
平成24~25年度「食品のウイルス汚染のリスク評価のための遺伝子検査法の開
発と応用に関する研究」班
Norovirus Surveillance Group of Japan
佐々木 貴正先生、春名 美香先生(農林水産省 消費安全局)
広島市衛生研究所・生物科学部 ウイルス担当
野田 衛
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