EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory EY Institute EYについて EYは、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイザリ ーなどの分野における世界的なリーダーです。私たちの深い洞察と高 品質なサービスは、世界中の資本市場や経済活動に信頼をもたらしま す。私たちはさまざまなステークホルダーの期待に応えるチームを率 いるリーダーを生み出していきます。そうすることで、構成員、クライ アント、そして地域社会のために、より良い社会の構築に貢献します。 EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバル・ ネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メン バーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グロ ーバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは 提供していません。詳しくは、ey.com をご覧ください。 EY総合研究所株式会社について EY総合研究所株式会社は、EYグローバル・ネットワークを通じ、さま ざまな業界で実務経験を積んだプロフェッショナルが、多様な視点か ら先進的なナレッジの発信と経済・産業・ビジネス・パブリックに関す る調査および提言をしています。常に変化する社会・ビジネス環境に EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 応じ、時代の要請するテーマを取り上げ、イノベーションを促す社会 の実現に貢献します。詳しくは、eyi.eyjapan.jp をご覧ください。 © 2014 Ernst & Young Institute Co., Ltd. All Rights Reserved. 本書は一般的な参考情報の提供のみを目的に作成されており、会計、税務 およびその他の専門的なアドバイスを行うものではありません。意見にわ たる部分は個人的見解です。EY総合研究所株式会社および他の EYメンバー ファームは、皆様が本書を利用したことにより被ったいかなる損害について も、一切の責任を負いません。具体的なアドバイスが必要な場合は、個別 に専門家にご相談ください。 ED None レポート 「アベノミクス 第三の矢」としての コーポレートガバナンス改革 特集 自動車とIoT (Internet of Things) CONTENTS EY総研インサイト バックナンバー Vol.2 Autumn 2014 • 前号(創刊号)の特集は 「2020東京五輪を『新生日本』実現のスプリングボードに」 巻頭のごあいさつ …………………………………………………………………………………………… •「EY総研インサイト」のバックナンバーおよび 2 理事/所長 柴内 哲雄 その他関連レポートについてはWebサイトに掲載しております。 eyi.eyjapan.jp/knowledge レポート 成長戦略と収益性向上の必要性 ………………………………………………………………………… 3 エコノミスト 高垣 勝彦 エコノミスト 鈴木 将之 シンガポールにおけるカジノ事業者規制 …………………………………………………………… 9 主任研究員 渡邉 真砂世 変化する価値観:シェアの時代 …………………………………………………………………………… 12 上席主任研究員 ルレ 美華子 「アベノミクス 第三の矢」としてのコーポレートガバナンス改革 ……………………… 15 主席研究員 藤島 裕三 特集 お問い合わせ 自動車とIoT(Internet of Things) 自動車の情報化(テレマティクス)から始まるIoTの世界 「EY総研インサイト」の掲載内容について、詳細な情報をご希望の場合は、 ………………………… 19 上席主任研究員 廣瀨 明倫 会社概要 執筆者またはその分野の専門家が対応させていただきます。下記までお問 い合わせください。 EY総合研究所 企画担当 Tel:03 3503 2512 Fax:03 3503 2513 E-mail:[email protected] …………………………………………………………………………………………………………… 27 EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 発行日:2014年10月3日 編集者:(責任者)柴内哲雄 (主幹)小川高志 (担当)企画担当 協 力:新日本有限責任監査法人 ナレッジ本部 1 EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 28 MESSAGE 巻頭のごあいさつ 理事/所長 柴内 哲雄 2014年7 月よりEY 総合研究所株式会社の理事/所長に就任いたしました。 EY 総合研究所は、このたび設立一周年を迎えました。ひとえに皆さま方のご指導ご支援のたまものと感謝し ております。 EY 総合研究所は、世界 150 カ国以上に展開する EY 拠点と、そこで活動しているエコノミスト、産業アナリ スト、経営戦略コンサルタントなど、多くの専門家との機動的な連携による研究調査活動を行うことを特色の 一つとしております。 グローバル化の流れは、製造業からサービス業、大企業から中堅企業へと拡大してきております。また、日 本からのアウトバウンドとしてばかりでなく、インバウンドの流れも強まってきております。まさに、一企業 の経営戦略にとどまらず、国家・社会の発展、成長のためにも重要な要因になってきております。 EY 総合研究所では設立以来、このように拡大していくグローバル化のニーズにお応えできるよう体制を整え てまいりましたが、これからも、さらにグローバル連携の強化、専門領域の拡大、専門スタッフの充実を進め ることで、高度化、グローバル化する研究調査活動へのご要請、ご期待に的確にお応えすべく努力する所存で あります。 さて、今回お届けする季刊誌「 EY 総研インサイト」 Vol. 2 Autumn 2014 では、第 2 次安倍内閣発足から 2年を迎えることから、アベノミクスの原点でもある第一の矢「大胆な金融政策」、第二の矢「機動的な財政政策」 の経済効果と課題、さらに民間投資を喚起する成長戦略としての第三の矢「日本再興戦略2013 ―JAPAN is BACK―」「日本再興戦略 改訂2014 ―未来への挑戦―」に関わる動向について、研究成果をお伝えいたします。 き たん 本季刊誌の編集、内容などに関して忌憚 のないご意見、ご助言を賜りたく存じます。今後ともご協力のほど、 よろしくお願い申し上げます。 EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 2 レポート <要旨> これまで金融緩和や財政支出が繰り返されてきたにもか 成長戦略と収益性 向上の必要性 かわらず、設備投資が思うように伸びず、日本の経済成長 率は、経済協力開発機構(OECD)諸国に比べて低いまま となっている。なぜ、設備投資は増えてこなかったのかと いう問題意識から、まず、金融緩和によってマネーの供給 が増えても貸し出しには回らず、設備投資が増えていない 状況を確認した。次に、実体・期待の両面からの、期待イ ンフレ率の上昇が投資のコストを引き下げて、設備投資を 下支えする環境になっている一方で、投資の収益性が重し エコノミスト 高垣 勝彦 となって、 設備投資が伸び悩んでいることを明らかにした。 これらを踏まえれば、設備投資を増やすには、企業の事業 環境を整える金融政策に加えて、将来の収益性を向上させ る成長戦略が必要条件だと考えられる。 エコノミスト 鈴木 将之 キーワード:成長戦略、設備投資、貨幣乗数、期待イン フレ率、資本コスト はじめに 日本経済は、1990年代初頭のバブル崩壊後、日本銀行 による複数回にわたる金融緩和を経験してきた。これまで の金融緩和は<図1>のとおり、90年代後半のゼロ金利政 策に始まり、2001年から06年まで続いた量的緩和政策、 リーマンショック後の包括的な金融緩和政策、そして現在 の量的・質的金融緩和政策という、世界にも前例がない長 期的な緩和政策というかたちで、日本経済を支えてきた。 さらに、GDPに占める長期債務残高が、OECD諸国の平 均をはるかに超える財政状況の中、政府は足元の経済対策 として、財政出動を繰り返してきた。しかし、経済成長と いう観点では、90年代後半以降、OECD諸国の実質経済 成長率は年平均で約2%のラインを越えているにもかかわ らず、日本は、わずか年平均0.7%の成長にとどまってお り、物価においても一部の期間を除き、デフレが続いてき た。また、将来の企業の成長期待を反映する株式市場にお いても、00年1月を100とした場合、米国のベンチマーク 指数は14年6月時点で140を超える一方、日本株式におい ては、75ほどにとどまっている(<図2>参照)。 以上のように、長年にわたる金融緩和、さらには繰り返 される財政支出にもかかわらず、長期的な民間の設備投資 を映し出す銀行融資が伸びず、将来に対する成長基盤の構 築が遅れ、結果として日本経済は諸外国に比べ、アンダー パフォームの状態が続いている。 このような問題意識から、 3 Report 図1 金融緩和政策の概要 ゼロ金利政策 99年2月∼00年8月 • 無 担 保コールレー ト を事実上ゼロに 量的緩和政策 包括的な金融緩和政策 01年3月∼06年3月 量的・質的金融緩和政策 10年10月∼13年3月 13年4月∼現在 • 金融政策の操作目標を無担 • 金利の誘導目標の0∼0.1 保コールレートから日銀当 座預金残高に変更 • 日銀当座預金残高目標を当 時の4兆円強から5兆円程度 に。最終的には30兆∼35 兆円ほどに拡大 (2年程度で2%に) •「中長期的な物価安定の理 • マネタリーベースを金融市場調 • 国債、CP、ETF、J-REITな • 長期国債買い入れ拡大(長期国 解」に基づく時間軸の明確化 整の操作目標に(2年で2倍に) ど多様な金融資産の買い入 れと固定金利方式の共通担 保オペレーションを行う資 産買入等の基金の創設 • 日銀当座預金を円滑に供給 するために月4,000 億円で 実施してきた長期国債の買 い入れを増額する。最終的 には1兆2,000億円へと拡大 • 物価目標の達成時期の明確化 %への変更 債:年間約50兆円、年限長期化 :約7年) • リスク資産の買い入れ拡大(ETF 年間1兆円、J-REIT年間300億円) • 資産買入等基金は、資産買 • 消費者物価指数(生鮮食品 を除く)の前年比が安定的 に0%以上になるまで量的 緩和政策を継続 入5兆円程度、資金供給オ ペレーション30兆円程度 の計35兆円でスタート。 12年12月には101兆円に • 2%の「物価安定の目標」を目 指して、これを安定的に持続す るために、必要な時点まで量的 ・質的金融緩和を継続 出典:日本銀行資料からEY総合研究所(株)作成 (00年1月=100) 図2 日米主要株価指数の推移 40 20 日経平均 TOPIX 期待インフレ率の推移 デフレ脱却に向けて、12年末から金融緩和への期待が 高まったことで期待インフレ率が上昇しており、低金利と 相まって投資のコストを低下させている。 (年) 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 0 2007 持続的な経済成長の観点から考察する(<図3>参照) 。 60 2006 上させるための成長戦略に関して、 前記の分析結果を基に、 80 2004 最後に、長期にわたる緩和政策、そして企業の競争力を向 100 2005 した実質資本コストと企業の収益性の重要性を分析する。 120 2003 る。次に、企業の投資の側面から、期待インフレ率を考慮 140 2002 から企業への融資に伴う貨幣乗数の変化について分析す 160 2000 復期待という面において、期待インフレ率、さらには銀行 2001 本稿では、まず、金融緩和下における将来の日本経済の回 180 NYダウ平均 S&P 500 出典:トムソン・ロイターからEY総合研究所(株)作成 図3 マネーの流通、投資と信用創出 金融政策 中央銀行 当座預金 このような期待インフレ率の上昇には、足元の物価上昇 と、将来予想される物価上昇が影響している。 一つ目は、物価の実体面からであり、主に円安による輸 入物価の上昇と、経済全体の需給バランスの引き締まりな どを通じた足元の物価上昇が、期待インフレ率を上昇させ ベース マネー* 国債等 市中銀行 預金 期待インフレ 資本コスト 成長戦略 収益性 資金融資 (信用創出) 投資 企業 る経路である(<図4>参照) 。その中で、現実の物価が 上昇しはじめると、将来も同じように物価が上昇すると家 賃金 配当 預貯金 計や企業が予想するようになり、消費や投資行動が変わる 家計 ので、結果として物価も上昇するようになる。 輸入物価については、12年末からの金融緩和への期待 によって、わずか半年間で1米ドル=80円前後から100円 超まで、為替レートが円安になったことで、輸入財の円建 * 「日本銀行が供給する通貨」のことであり、具体的には、市中に出回っているお 金である流通現金と日銀当座預金の合計値 出典:EY総合研究所(株)作成 EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 4 図4 期待インフレ率の推移 (前年同期比%) 5 おける方向性の相違に基づく円安ドル高傾向が挙げられ 家計(消費者)の期待インフレ率 る。日本ではデフレ脱却を目指した金融緩和が当面続く一 企業(生産者)の期待インフレ率 方で、米国では量的緩和政策の縮小と、来年には利上げが (年) 2013 2011 2009 2007 2005 2003 2001 1999 ることになる。 -3 1997 よって、前向きな消費が増えて、物価上昇率が下支えされ -2 1995 しょくされようとしている。デフレマインドからの転換に -1 1993 融緩和と実際の物価上昇によって、デフレマインドが払 0 1991 二つ目の家計や企業のマインドについては、大規模な金 1 1989 レートは円安ドル高傾向になりやすいといえる。 2 1987 予想されているので、日米金利差が拡大することで、為替 3 1985 4 出 典:総務省「消費者物価指数」、内閣府「消費動向調査」、日本銀行「全国企業短 期経済観測調査(短観) 」「企業物価指数」からEY総合研究所(株)作成 (注)家計の期待インフレ率は「消費者物価指数」を基に「消費動向調査」を用いて、 また企業の期待インフレ率は「企業物価指数」を基に「短観」を用いて計算した。 ここでの計算は、物価上昇についての見通しの回答バイアスを考慮した鎌田・ 吉村(2010)の修正カールソン・パーキン法を用いている。詳しい計算方法 などについては、鎌田・吉村(2010)を参照。 以上のような経路から、家計や企業が予想する期待イン フレ率が上昇していることは、コストの低下を通じて、投 資環境の改善につながる。なぜなら、期待インフレ率の上 昇とともに、金融緩和政策によって金利が低位で安定して いることで、設備投資のコストを表す実質金利(=名目金 利-期待インフレ率)はマイナス圏まで低下しているから である。つまり、設備投資をコスト面からみれば、マイナ スの実質金利によって、金利負担が劇的に軽減されている て価格が上昇し、それが商品価格に転嫁されて、13年半 ため、投資環境は改善しているといえる。 ばからの物価上昇につながった。ただし、量的・質的金融 緩和が発表された頃には、すでに円安の進行は一服してお キーポイント1 り、今後一段の円安がなければ、14年には、この経路か 円安による輸入物価の上昇や、景気回復による経済全 らの物価上昇は収まるとみられる。 また、経済全体の需給バランスについては、一般的な需 要と供給の関係を想定した場合に、供給に対して需要が増 えれば価格が上昇する関係を表している。12年末から日 本経済は景気回復局面に入っており、 内需の回復とともに、 経済全体の需要不足が縮小してきた。その一方で、人手不 足のように供給の天井が企業に意識されており、需給の ひっ迫から価格が上昇しやすくなっている。当面、景気回 復が続くという想定に基づけば、需給バランスは物価に上 5 体の需給引き締まりなどから、物価は上昇に転じた。そ の一方で、大胆な金融緩和によって、家計や企業のデフ レマインドが払しょくされつつある。こうした中、消費 税率引き上げが重なったこともあって、期待インフレ率 がプラスに転じている。期待インフレ率の上昇は、実質 金利を低下させるので、投資環境が改善している。 金融緩和と民間銀行融資 昇圧力をかけることになるだろう。 それでは、金融緩和による投資環境の改善は、設備投資 二つ目は、家計や企業の将来の物価予想が、現在の物価 の増加につながっているのだろうか。それを確かめるため に影響を及ぼす経路である。例えば、家計が将来の値上が に、本節では貨幣乗数※1を計算し、金融緩和と民間銀行融 りを予想しているとしよう。そうならば、今のうちに買っ 資の関係を考察する。 ておいた方が得だと思い、実際に多くの家計や企業が買う 実際に貨幣乗数を計算したものが<図5>である。結果 と、現在の需要が増えるので、現在の物価が上昇すること をみると、00年代前半の金融緩和、そして08年以降の金 になる。つまり、物価上昇という将来の予想が、現在の物 融緩和の期間ともに、 貨幣乗数は低下しており、 元手のベー 価を上昇させるのである。 スマネーの増加に比べて、民間貸し出しの増加が見劣りし この影響が大きくなるためには、家計や企業が将来の物 ていることが分かる。 価上昇を予想できる材料があることと、将来の物価を予想 その内訳をみると、準備・預金比率が高まっており、ベー しやすい家計や企業のマインドの二つが必要となる。 スマネーの増加が、民間企業へ貸し出されているのではな 一つ目の将来の物価上昇については、日米の金融政策に く、日銀の当座預金に積み上がっていることが分かる。つ Report 図5 貨幣乗数の推移 (前年同期比%) 30 た理由は、90年代のように負債の過多が設備投資を左右 するとみられるためである。 現金・預金比率 準備・預金比率 その他 貨幣乗数(前年同期比) 貨幣乗数:右軸 20 13 さらに、設備投資を説明する要因に、前年度の設備投資 12 を加えることで、複数期間にまたがる設備投資の意思決定 11 10 10 を考慮している(以下、 動学モデル) 。これは、 設備投資が、 0 9 ある理想的な水準と現実の水準の間で調整されていること -10 8 を想定したものである。 -20 7 まず、設備投資をコスト面からみると、資本コストが重 6 要な役割を果たしている。金融緩和政策には、名目金利を -30 5 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 -50 1995 -40 4 引き下げる効果と、期待インフレ率を上昇させる効果の二 3 つがある。これらによって、実質金利(=名目金利-期待 (年) 出典:日本銀行「マネーストック」「マネタリーサーベイ」からEY総合研究所(株) 作成 インフレ率)が低下し、設備投資が促されると考えられる。 また、収益面からみると、設備投資の収益性が重要であ る。収益が見込めるならば、企業が設備投資をするという まり、期待インフレ率が上昇する一方で、金利が低水準に 意思決定を捉えるものである。 抑えられており、実質金利の低下のみでは、投資が増えて 以下では、設備投資に対する収益性と資本コストの影響 いないとみられる。 に焦点を当てる。資本コストに注目する理由は、物価上昇 もちろん、金融緩和と投資にはタイムラグがあるので、 と金利の影響を考えるためである。また、収益性を取り上 異次元緩和においては、急激なベースマネーの増加により げた理由は、費用と対になる収益面を考慮するためだ。こ 貨幣乗数も低下しているが、今後の成長戦略いかんでは、 の設備投資関数の推計結果から、収益性と資本コストの設 持ち直すことも期待できると考える。 備投資への影響力を抜粋した(<図6>参照) 。 キーポイント2 図6 設備投資関数の推計結果 (収益性と資本コストのパラメータの推定値) 前節の期待インフレ率の結果と合わせて要約すると、 直近の異次元緩和や円安、そして消費税増税などの影響 → → る。 ← 本格的な設備投資の増加には至っていないことが分か モデル4 モデル5 資本コスト モデル3 * 収益性 モデル2 <静学モデル> * 資本コスト モデル1 * 収益性 ← * 資本コスト 資に影響を及ぼすとみられる、キャッシュフローや負債残 -0.5 収益性 ると想定したものである。それらに加えて、企業経営や投 * -0.4 資本コスト からの資本コスト※2、収益面からの収益性※3などから決ま * -0.3 収益性 ここで用いる設備投資関数とは、設備投資が、コスト面 * -0.2 資本コスト て、設備投資についての決定要因を考えてみる。 * * * 0 収益性 こうした問題意識から、以下では「設備投資関数」を用い * * * * 0.1 資本コスト で、 なぜ企業は設備投資を増やしてこなかったのだろうか。 99-12年度 -0.1 大 金融緩和政策が実施されて、投資環境が整いつつある中 * * * * 収益性 投資喚起には収益性向上が必要 0.2 小 設備投資への影響力 て実質金利が低下するなど、 投資環境は整いつつあるが、 大 により、期待インフレ率は上昇しており、 低金利と相まっ 76-12年度 0.3 モデル6 <動学モデル> 出典:財務省「法人企業統計」、日本銀行「短観」 「企業物価指数」からEY総合研 究所(株)作成 (注1)プラス・マイナスともに数値が大きいほど、収益性と資本コストの設備投 資への影響力が大きいといえる。「*」は推定されたパラメータが統計的に 有意(有意水準5%)であることを示す。 (注2)静学モデルはモデル1 ~ 3の三つ、動学モデルはモデル4 ~ 6の三つを推計 した。これらの相違や計算方法については、文末の〈補注〉を参照。 高の影響も考慮している(以下、 静学モデル) 。キャッシュ フローを加えた理由は、企業の手持ち資金などが設備投資 に影響を及ぼすと想定されるためであり、負債残高を加え EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 6 この結果によると、事前に想定されるように、収益性が 高まれば設備投資が増えるという収益性のプラスの影響力 おわりに や、コストが増えれば設備投資が減るという資本コストの 本稿では、期待インフレ率、貨幣乗数や設備投資関数な マイナスの影響力が、おおむね確認できる。 どから、定量的に収益性や資本コストが設備投資に与える 収益性と資本コストの設備投資への影響力を比べると、 影響を分析した。 いずれのモデルにおいても、おおむね資本コストの影響力 総括として、異次元緩和政策により足元の期待インフレ の方が大きいようにみえる。しかし、静学モデルのうち低 率は上昇しており、資本コストは低い水準に保たれている 金利の時期(99 ~ 12年度)には、資本コストの影響力は ことで、投資環境は整いつつある。こうしたことから、金 統計的に有意とはいえず、必ずしも、そのような見方はで 融政策には、設備投資に係る資本コストを下げるという意 きないため、資本コストの低下が設備投資を押し上げたと 味において、環境整備を担う一面がある。 はいいにくい。 しかしながら、本格的な融資の増加には至っていないこ それに対して、収益性については、両モデルともに統計 とが確認された。そして、設備投資を増加させ、企業が持 的に有意にプラスとなっており、収益性が設備投資に対し 続的に成長していくためには、 資本コストの低下に加えて、 て重要な役割を果たしていることが、あらためて確認でき 収益性の向上が重要であることが示された。従って、収益 た。しかも、ゼロ金利の時期では、 収益性の影響力が強まっ 性の観点から、企業の競争力を強化し、日本経済の潜在成 ている傾向がある。つまり、低金利の時期に設備投資を高 長率を引き上げることが必要であり、その点において、成 めるためには、収益性を高めることが欠かせないといえる。 長戦略が重要なカギを握っているといえる。 現在、金融緩和政策によってゼロ金利が続く中で、期待 最後に、 政府の成長戦略の目玉である、 日本版スチュワー インフレ率は上昇しており、実質金利はマイナスになって ドシップ・コードの導入、企業における人的資産の最適化 いる。この資本コストの低下は、 設備投資を促すといえる。 や企業競争力強化を目的とした女性活用、裁量労働制、外 しかも、成長戦略では、今後20 %台を目指した法人税率 国人受け入れ、さらには金融・医療・農業分野を中心とし の引き下げが盛り込まれており、さらに資本コストが低下 た戦略特区など、現在、成長戦略の中身の具体化が進んで すると期待される。 いる。 しかし、コスト面からの刺激策には限界があることも確 これらは、適切な経営資源の配分や、企業経営の効率化、 かだ。それに加えて、前記の設備投資関数の推計結果に基 そして新しい分野においては先行者利益の獲得に寄与し、 づくと、これまで資本コストの引き下げが、必ずしも設備 期待利益を高めるため、さらなる需要を喚起する長期的な 投資の増加につながってこなかった可能性もある。 投資をするインセンティブを生む(高垣、 2014)。そして、 こうした状況で、設備投資を増やすためには、収益性の これらの成長戦略を確実に実行するには、それぞれの企業 向上が必要といえる。経済のパイを取り合うのではなく、 自身の戦略的取り組みが、重要な要素になると考える。そ 企業の収益性を集計した概念である日本経済の「成長の天 して、日本経済の持続的成長には、これらの取り組みによ 井」を引き上げることが必要だ。そのためには、日本経済 る企業価値向上、さらには長期的な資本生産性の改善によ の潜在成長率を高めることが求められ、この点から成長戦 り、潜在成長率を上げていくことが不可欠である。 略への期待は、ますます大きくなっている。 成長戦略によって、 企業にとっては収益性見通しの向上、 日本経済にとっては潜在成長率の引き上げを目指していく キーポイント3 ことが不可欠だ。 設備投資を増やすためには、金利や期待インフレ率など から、資本コストとともに、将来の収益性の向上が重要 キーポイント4 である。これを踏まえると、将来の収益性を高める成長 金融政策は、設備投資に係る資本コストを下げるという 戦略が注目される。 意味において、環境整備の役割を担うが、持続的成長の ためには、企業の生産性・国際競争力の向上が必要であ る。そのためにも、アベノミクス第3の矢である成長戦 略の実質的内容と、確実な実行が重要である。 7 Report <補注>設備投資関数の推計について 定、LM検定、Hausman検定を行い、静学モデルについ 設備投資を決める要因として、将来の収益性という収益 ては一元配置ランダム効果モデルを用いた(詳しくは北村 面と、実質金利というコスト面を想定している。この設備 (2003) 、Croissant and Millo(2008)を参照。ここで 投資の定式化は、花崎・Thuy(2002)の設備投資を参 はRのplm pacakgeを用いた)。また、動学モデルについ 考にしている。花崎・Thuy(2002)では、収益性を捉 てはArrellano-BondのDynamic GMMによって推計した。 えるトービンのqについて、企業の最適化行動を前提とす Sargan検 定 の 結 果、 操 作 変 数 の 妥 当 性 は 棄 却 さ れ ず、 ると導き出される資本の限界生産性を平均の限界性で置き Arrellano-Bond検定でAR(1)は棄却され、AR(2)は 換えることで、ROAで代替し、資本コストについて法人 棄却されなかった。推計期間は、産業構成などを踏まえて 税率や償却率などを単純化することで、実質金利を用いて 75 ~ 12年度とした。また、デフレやゼロ金利政策など低 いる。静学モデル(モデル1 ~ 3)に加えて、ここでは動 金利の状況を考慮して99 ~ 12年度を別途推計した。 学モデル(モデル4 ~ 6)を推計している。 <参考文献> 鎌田康一郎・吉村研太郎(2010)「企業の価格見通しの硬直性:短観DIを用いた • モデル1 ∆(It/Kt -1)=β 1∆ROA t-1+β 2∆rt- 1+β 3∆(Casht/K t -1)+β 4∆ (Debtt/At ) ただし、(It/Kt -1):設備投資・資本ストック比率、ROAt :ROA、rt :実質金利、 (Casht/Kt -1) :キャッシュフロー・ 資本ストック比率、(Debtt/At ) :期首の負債・総資産比率 とする。また、Δは階差を表している。 分析」日本銀行ワーキングペーパーシリーズNo.10-J-3. 北村行伸(2003)「パネルデータ分析の新展開」経済研究Vol.54 No.1 pp.74- 93. 佐藤智紀(2010) 「法人税と海外直接投資の実証分析」フィナンシャル・レビュー 第101号pp.179-192. 高垣勝彦(2014) 「2020年に向けたニュービジネス」IPOセンサー 2014年春号 (新日本有限責任監査法人)pp.12-15. 花崎正晴・Tran Thi Thu Thuy(2002)「規模別および年代別の設備投資行動」 フィナンシャル・レビュー第62号pp.36-62. Croissant Y. and G. Millo(2008)“Panel Data Econometrics in R: The plm モデル2はモデル1から負債・総資産比率を除き、モデ ル3はモデル2からキャッシュフロー・資本ストック比率 を除いたものである。また、動学モデルは次のようになる。 Package”Journal of Statistical Software, Vol.27, No.2(www.jstatsoft.org/ v27/i02/). ※1 信用乗数ともいわれ、中央銀行がコントロールできるベースマネー 1単位に 対して、何単位のマネーサプライを作り出すことができるかを示す指標。つ まり、この貨幣乗数の推移をみることで、金融緩和において増加したベース • モデル4 ∆(It/Kt -1)=β1∆ +β2∆ROAt- 1+β3∆rt- 1+β4∆ (It -1/Kt -2) (Casht/ Kt -1)+β5∆(Debtt/At ) モデル5はモデル4から負債・総資産比率を除き、モデ ル6はモデル5からキャッシュフロー・資本ストック比率 を除いたものである。 マネーに対し、民間の設備投資等の資金需要は増加しているかが分かる。 ※2 設備投資を行うときの資本調達にかかるコスト。一般的に、長期金利が用い られることが多い。ここでは、名目長期金利から期待インフレ率を引いたも のとして定義している。 ※3 設備投資によって得られると見込まれる収益を評価したもの。ここでは、総 資産利益率(ROA)で捉えている。 対象とした産業は、財務省「法人企業統計」から製造業 15産業、非製造業8産業の計23産業である。各変数につ いては、財務省「法人企業統計」から、設備投資はソフト ウ エ ア を 除 い た も の、 資 本 ス ト ッ ク は 有 形 固 定 資 産、 ROAは営業利益を期首期末平均有形固定資産で割ったも の、キャッシュフローは内部留保(=当期純利益-配当額 計)に減価償却費を加えたもの、負債、総資産はそれぞれ 負債総額、総資産額である。実質金利は、長期国債(10 年物)を期待インフレ率で実質化したものである。期待イ ンフレ率は、日本銀行「企業物価指数」の企業物価指数(総 合)を基に、日本銀行「短観」の販売価格DIの回答構成比 から、鎌田・吉村(2010)の修正カールソン・パーキン 法によって計算した。 前記のデータについて、パネル分析の手順に沿ってF検 EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 8 レポート わが国へのカジノ導入の動きが進展している。カジノを 含む統合型リゾート(IR:Integrated Resort)の整備を シンガポールに おける カジノ事業者規制 推進するため、2013年12月に「特定複合観光施設区域の 整備の推進に関する法律案」 (以下、IR推進法案)が臨時 国会に提出され、14年6月に通常国会において審議入りし た。秋の臨時国会で引き続き審議され、年内に可決・成立 する可能性が高まっている。 カジノ施設のほか、レジャー施設、国際会議場、展示施 設、ホテル等が一体となったIRの整備は、わが国の観光に おける国際競争力の強化、新規雇用をはじめ経済効果創出 につながるものと期待されている。他方で、マネーロンダ リングやギャンブル依存症等のリスクが懸念されており、 主任研究員 渡邉 真砂世 IRの整備推進に当たっては、規制やITシステム等による、 さまざまな措置が講じられることが重要である。 これまでの、わが国におけるIRの議論において、たびた び参考とされてきたのが、わが国に先んじて10年に二つ のIRを開業したシンガポールである。開業後、海外からの 観光客数が増え、経済的な成果を挙げるとともに、諸外国 の経験を参考として諸規制を整備・運用し、種々のリスク コントロールに比較的成功しているとの評価があるためと 考えられる。 以下では、カジノ施設での不正行為の防止や、有害な影 響の排除のため、カジノ事業者に対してシンガポールでど のような規制が導入されているか、ポイントを紹介する。 シンガポールのカジノ規制は、09年のカジノ管理法 (Casino Control Act 2009)と、 関連の規則(regulation) で構成されている。全体的に、ラスベガスがある米ネバダ 州の法制度がベースとされており、規制体系の検討に当た っては、米国のカジノ規制の専門家が助言を行った。 カジノ管理法は計202条で構成され、カジノ規制の中心 的役割を果たす「カジノ規制局」の組織体制や権限のほか、 カジノ事業者への免許や監督・監視方法、カジノ事業者が 順守すべき、さまざまな義務(入場規制、内部統制、広告 規制等) 、違反時の罰則等について規定されている。わが 国でIR推進法が成立した場合には、その施行後1年以内を めどとして、 必要な法制上の措置が講じられるべきことが、 IR推進法案に規定されている。シンガポールのカジノ管理 法に類似した法律が整備されることになると想定される。 カジノ管理法自体をよく理解することはもちろん、カジノ 管理法案の検討時に、米国をはじめ他国の法制度をどのよ うに参考としたのかを認識することは、わが国の法整備に おいて有意義である。 カジノ事業者を規制するための実務的で詳細なルール 9 Report は、次のようなカジノ規制局が制定する多数の規則に定め 次のような取り組みが継続的かつ機動的に行われるように られている。法律ではなく、カジノ規制局が制定する規則 することが非常に重要である。 に実務上重要なルールを定めることにより、規制の改廃を 機動的に行えるようにしている。 • カジノ施設の近隣に査察官が常駐し、随時、立ち入り検査 を行う。 • ITシステムの導入を促進し、監視の効率性・有効性を高める。 【シンガポール・カジノ規制局の主な規則】 • ライセンス規則(3年ごとに更新) • 施設の設計・配置規則 • ゲーミング行為規則 • ゲーミング機器規則 • マーケティング規則 • 広告規則 • 信用貸し規則 • 入場料規則 • 入場排除規則 • マネーロンダリング対策規則 • 内部統制規則 • サブライセンス規則 • 契約締結規則 • 査察官との紛争解決規則 • ギャンブル依存症等対策規則 • ゲーミングの秩序維持規則 • カジノ税規則 • 監視規則 これらの多数の規則により、カジノ施設における、あら • カジノ施設の運営状況・実態に応じて頻繁に規制を改正す る。 <表1>は、シンガポールにおいて、監視の結果、カジ ノ事業者に違反があったと認定された場合の、カジノ規制 局による措置を整理している。高額の罰金が、規制の実効 性を高める一要素になっていると考えられる。わが国の罰 金の一般的な水準に照らすと、かなり高額ではあるが、カ ジノという事業の特性に鑑み、わが国においても金額水準 を参考にすべきである。 表1 シンガポールにおけるカジノ規則違反事例とカジノ 規制局による措置(13年分) 対象社 されることとなっている。また、カジノ事業者は、さまざ まな規則を「どのように順守するか」という行動指針を策 定し、あらかじめカジノ規制局の承認を受け、その順守を 担保することが要求されており、内部統制の体制整備が非 常に重要となっている。 例えば、監視規則では、カジノ事業者に次のことが定め られている。 カジノ規制局による措置 A社 罰金102,500ドル A社 入場規制の違反 (排除義務関連) 罰金235,500ドル B社 入場規制の違反 (入場料関連) 罰金55,000ドル B社 入場規制の違反 (排除義務関連) 罰金70,000ドル B社 入場規制の違反 (未成年者入場規制関連) 罰金65,000ドル ゆる行為が監視対象にされ、事後的にも検査・監査がなさ れ、違法行為等が確認された場合には、厳しい罰則が適用 違反内容 入場規制の違反 (入場料関連) A社 監視システムの精度が不十分 罰金150,000ドル A社 監視システムの精度が不十分 罰金100,000ドル A社 監視システムの精度が不十分 罰金225,000ドル A社 入場規制の違反 (入場料関連) 罰金35,000ドル A社 入場規制の違反 (排除義務関連) 罰金80,000ドル A社 入場規制の違反 (未成年者入場規制関連) 罰金15,000ドル • カジノ規制局が要求する場合には、同局に指定された監視 B社 入場規制の違反 (入場料関連) 罰金40,000ドル • 監視システムを担当する専門職員が、同システムを適切な B社 入場規制の違反 (排除義務関連) 罰金40,000ドル • 違法行為があったとする合理的な疑いがある場合には、査 B社 入場規制の違反 (未成年者入場規制関連) 罰金20,000ドル • 自ら「監視計画」を策定し、カジノ規制局の承認を受ける こと • 監視計画に合致したビデオ監視システムを導入すること • 査察官が要求する場合には、監視システムの録画映像のコ ピー等を提出すること システムを導入すること 状態に管理すること 察官によるゲーム・カジノ運営の立ち入り検査、差し止め 措置等を受けること など シンガポールの規則の制定・運用状況は、わが国でも参 出典:カジノ規制局資料(app.cra.gov.sg/public/www/content.aspx?sid=13)を 基に新日本有限責任監査法人作成 考になろう。また、初期に仕組みを構築するだけでなく、 EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 10 Report <参考資料> EYの関連実績 EYは、世界中の多くのカジノ関連事業者、規制機関等に対して、継続的にゲーミング産業への支援業務を展開 してきました。 【カジノ規制に関する実績】 【監査実績】 EYでは、03年にCITY officeを開設し、そのグローバルな ネットワークを通じて、北米、アジア、欧州、オーストラ リアにおいてゲーミング産業の監査業務を展開してきてい ます。 ゲーミング産業におけるEYの監査業務のシェアは圧倒的 に高く、専門性の高い人材も豊富です。EY全体で、約250 人の担当者が、監査・税務等に関する業務を担当しています。 デロイト その他 4.0% 14.0% 2012 Ames Research Groupのデータベースに よるEYのゲーミング分野 の監査業務売上シェア PwC 18.9% 《主要例》 • ネバダ州ゲーミング管理局:同局が所掌する内部統制規制に準じた 内部統制がなされているかどうかのチェックリスト策定支援 • 米国全土において、ゲーミングに関連する政府機関に対して研修セ ミナーを実施 • ゲーミングのライセンス申請に関する審査や、ライセンスを受けた 企業の実績報告の検査 【その他アドバイザリー実績】 KPMG 2.0% 出典:The Ames Research Group, August 2012 11 EY 61.1% EYは、ゲーミングに係る新たな法制度や、スタートアップ 時の計画策定について、豊富な実績を有しています。EYが支 援した実績があるカジノ規制機関としては、シンガポール・ カジノ規制庁、澳門特別行政區政府博彩監察協調局(中国マ カオ) 、米ネバダ州ゲーミング・コミッション、ネバダ州ゲー ミング管理局などがあります。 また、米国公認会計士協会に対しては、カジノに関する監 査および会計のガイドライン策定について、支援いたしました。 EYは、監査、税務、コンサルティングなどの複数の専門分 野を生かし、カジノ事業者における内部統制システムのレ ビュー、バイサイドおよびセルサイドのデューデリジェン ス、組織体制最適化支援、税務関連支援などの多様なアドバ イザリーを展開しています。 レポート 変化する価値観: シェアの時代 はじめに 急速な都市化による環境負荷や、農村部との貧困格差、 少子高齢化による労働力減少など、さまざまな課題が顕在 化しつつある。一方、こうした課題を解決するための事業 や取り組みも世界中で始まっている。例えば、低炭素社会 実現や生活の質(Quality of Life)向上を目指すスマート シティ、 貧困軽減への自立支援を行うソーシャルビジネス、 地域コミュニティ活性化など、その手法、主体、解決する 課題は多様でも、人々が、安全で幸せに暮らせるサステナ 上席主任研究員 ルレ 美華子 ブルな未来社会構築を志向する点では、どれも一致してい る。しかし、このような社会を良くするための事業であっ ても、現実には、低い採算性、ビジネスモデル構築の難し さ、市民関心度の低さなどが障壁となり、なかなかビジネ スの本流には至っていない。 価値観の変化 ところが、この時流に少しずつ変化が見え始めている。 例えば、内閣府の国民生活世論調査によると、人々は物 質面の豊かさよりも、心の豊かさや、ゆとりに重きを置い た生活をしたいとする回答が、1980年以降、年々増加し ている(<図1>参照) 。 (株)電通総研は、東日本大震災発生直後から人々の意 識変化を調査し、2013年に「震災後一年半を経て定着し た10の意識、ライフスタイル」としてまとめた。それに よると、震災後に強まった意識、ライフスタイルとして、 次が挙げられている。 • 日常生活の中の「ささやかな幸せ」を大事にしたい (65.2% ⇒77.2%) • 無駄を見直し、節約我慢できること、買わずに済むこ とを考えたい(67.6% ⇒70.1%) • 非日常的な気持ちになれる時間・場所を作っておきた い(60.6% ⇒67.5%) ※ かっこ内は「とてもそう思う」 「そう思う」と回答した合計値の、11年4月か ら12年9月の変化 このような意識、価値観の変化は、日本だけではない。 例えば、米国でのアメリカンドリームに関する調査(New American Dream Survey 2014)によると、従来のよう に、モノの豊かさと裕福な生活が成功の象徴だ、と考える 米国人は23.1%だった。それに対し、 70%以上の人が「行 動や選択の自由」 「必要最低限の生活の保障」 「地位や富裕 とは無関係な可能性追求の機会」 「人生を楽しむための仕 EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 12 図1 今後の生活における力点(年推移) (%) 70 心の豊かさ 60 57.2 57.4 57.2 53.0 50 40 49.6 49.1 49.6 46.4 40.0 40.3 41.6 41.3 40.9 41.3 41.3 41.4 41.1 40.4 40.9 37.3 36.7 36.1 30 35.3 38.8 36.8 42.2 40.7 39.9 40.1 39.5 40.3 39.8 38.8 62.6 62.6 57.8 61.8 60.5 60.0 61.4 52.0 50.3 49.3 46.5 44.3 44.8 60.0 59.0 56.3 57.0 56.8 64.0 62.9 60.7 58.8 36.8 37.6 36.8 32.9 32.7 34.0 32.0 32.7 30.1 29.0 30.8 30.5 30.0 27.3 20 28.1 27.9 30.4 29.1 29.3 27.4 28.7 28.4 31.1 30.2 28.6 30.1 31.0 30.2 30.3 物の豊かさ 10 ・6 11 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 12 10 10 ︵年月︶ ・6 ・ ・6 ・6 ・6 ・7 ・ ・6 ・6 ・6 ・6 ・ 9・5 8・5 7・5 6・5 5・5 4・5 3・5 2・5 ・5 48 49 49 50 50 51 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 11 11 11 平成元・5 ・5 ・5 ・5 ・5 ・5 ・5 ・5 ・5 ・5 ・5 ・5 ・ ・5 ・ ・5 ・ ・1 47 ・1 昭和 ・1 0 出典:内閣府 国民生活に関する世論調査(平成25年6月調査) 事外での十分な自由時間」などを新しいアメリカンドリー の世話をするドッグシッターや、高齢者から部屋を貸して ムの姿と考え、大量消費・廃棄、環境負荷の軽減のために、 もらう代償として、若者が買い物や掃除、外出支援などを 生活スタイルを大きく変えていく必要性を感じているとの する相互扶助的なサービスも提供されている。 データもある。 P2Pシェアリングエコノミーの最大の特徴は、サービス このように、長期化する経済不況、大規模な自然災害な 提供者と利用者がフェイスブックなどのソーシャルメディ どの経験を経て、人々は、ちょうど良い程度のモノの所有、 アを介してつくるP2Pシェアコミュニティの存在である。 そして心の豊かさへと、豊かさに対する価値観を変化させ ネットビジネスやネットオークションでの「口コミ」によ ている。 る評判が、取引の判断に影響していることは、すでに多く の人が経験しているだろう。このP2Pシェアコミュニティ シェアリングエコノミー(共有型経済) 13 の場合も同様で、 「評判」や「不満や称賛などの口コミに よる仲間への貢献」がネット上のソーシャルメディアで共 こうした社会環境や価値観の変化に適用したビジネスの 有される。P2Pシェアコミュニティにおける仲間同士の 在り方の一つに、シェアリングエコノミーがあり、現在、 「信頼」が、 シェアビジネス成功のカギである。お金があっ 欧米を中心に急速に広まり始めている。 て社会的地位が高くても、 仲間の信頼が獲得できなければ、 このビジネスは、個人が所有する「遊休資産」の貸し借 シェアビジネスへの参加は困難になる。 りを、インターネットやフェイスブックなどのソーシャル シェアリングエコノミーは、先進国だけでなく、アジア メディアを利用して仲介するネットビジネスで、 「Peer- や中東、アフリカにも巨大な潜在市場があることを、ニー to-Peer(P2P)」シェアリングエコノミーと呼ばれる。 ルセンの調査結果が示している(ニールセン シェアリン 08年ごろから欧米を中心に急成長し、今後約11兆円規模 グエコノミーに関するグローバル調査 13年第3四半期) 。 (MIT Sloan Experts 11年12月)の巨大市場になると予 シェアリングエコノミーへの参加意志を地域別でみると、 想される、新しい消費スタイルである。取引される資産は すでにシェアビジネスが実践されている北米や欧州では、 幅広く、自動車、空き部屋、駐車場、キャンプ用品や衣類 2人 に1人 程 度 の 参 加 意 志 だ っ た の に 対 し、 中 国 で は など、購入しなくても、利用したいときに安く手軽に借り 94%、インドネシア87%、タイ84%と、新興国では4人 られるのが魅力になっている。貸す側も、使っていない資 のうちの3人以上が、参加に大変意欲的であった。 産を人と共有することで副収入を得られるので、相互利益 日本では、カーシェアリングやシェアハウスといった につながる。これ以外にも、旅行中の飼い主に代わって犬 「Business-to-Consumer(B2C) 」シェアリングエコノミー Report が、やっと注目されてきた段階で、まだP2Pシェアリング 立ち上げの資金を世界中から集められるようになってき エコノミーの普及には至っていない。 しかし、 インターネッ た。また、融資者側にとっても、負担やリスクが小さい資 トによるシェア市場は、国内だけでなく世界中に広がって 金援助を気軽にできるのが魅力である。 いるため、今後、日本での発達も期待できる。 おわりに クラウドを利用したソーシャルビジネス 短期的利益志向で、これまで本流となり得なかった数々 日常生活でのシェアリングエコノミーの実践や、ソー の社会事業も、人々の価値観の変化や、インターネットな シャルメディアでの仲間との交流を通じて、社会や人のた どの技術の進歩により、事業化が現実のものとなりつつあ めに働くことに喜びを感じる人は、今後ますます増えてい る。そうした事業を育て、成功させるためには、それを支 くであろう。実際、インターネットやソーシャルメディア 援する社会的な仕組みやルール、 啓発が必要になるだろう。 を活用して、不特定多数の人から小口融資や寄付を集める 旧弊にとらわれ過ぎて芽を摘むのではなく「変えていく」 「クラウドファンディング」 は、海外で急速に成長している。 ことに熱意と勇気をもち、次世代の社会づくりを見守る姿 この仕組みを活用し、社会起業家は、ソーシャルビジネス 勢が大切である。 • EY総合研究所 Webサイトのご案内 eyi.eyjapan.jp EY総合研究所では、独自の調査・研究、広範囲に収集した最新情報や知見を、国内独自の視点を加味した 上で、Webサイトにて公開しております。 また、所属する研究員・エコノミスト、会社概要、メディア掲載、セミナーに関する情報についても紹介し ておりますので、ぜひ、ご覧ください。 EY JapanおよびEYと連携した幅広い情報・知 見をお伝えいたします。 会社案内、各種レポート、パンフレットもダウ ンロードできます。 「EY総研インサイト」のバックナンバー(創刊 号)も掲載しています。 7 EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 14 レポート 「アベノミクス 第三の矢」 としての コーポレート ガバナンス改革 成長戦略としてのガバナンス 2012年12月に第2次安倍内閣が発足して1年半超が経 過した。同内閣が推進してきた経済政策「アベノミクス」 は一貫して、国内外でおおむね高く評価されている。14 年7月28日付の日本経済新聞によると、わが国企業の14 年3月期決算は、リーマンショック前の最高益だった08年 3月期に迫る利益水準を回復し、15年3月期には最高益を 更新する可能性も小さくない。政権発足時に約1万円だっ た日経平均株価は急騰しており、14年7月末日時点で1万 5,000円を超えて推移している。 もっとも、アベノミクスは企業に優しい施策だけではな い。第一の矢 「大胆な金融政策」 でデフレマインドを払しょ くし、第二の矢「機動的な財政政策」で積極的に需要が喚 主席研究員 藤島 裕三 起されたことで、企業の収益基盤は強化された。これを受 けた第三の矢「民間投資を喚起する成長戦略」として、 13年6月14日に公表された「日本再興戦略2013 ―JAPAN is BACK―」では、規制緩和やベンチャー投資の促進など の支援プランとともに、民間の力を最大限引き出す方策と して、コーポレートガバナンス(企業統治)改革が大きく 取り上げられている。 企業経営者に大胆な新陳代謝や新たな起業を促し、それを 後押しするため、設備投資促進策や新事業の創出を従来の 発想を超えたスピードと規模感で大胆かつ強力に推進する。 加えて、株主等が企業経営者の前向きな取組を積極的に後 押しするようコーポレートガバナンスを見直し、日本企業 を国際競争に勝てる体質に変革する。(3頁) さらに、14年6月24日発表の「日本再興戦略 改訂2014 ―未来への挑戦―」は、わが国企業の「稼ぐ力」を高める ために必要な道筋として、コーポレートガバナンスの強化 による経営者マインドの変革を挙げた上で、その成果指標 (KPI)として「グローバル水準の自己資本利益率(ROE)」 を例示した。以上の点から、コーポレートガバナンス改革 は、アベノミクス第三の矢における最も重要な施策の一つ だといえよう。 日本企業の「稼ぐ力」 、すなわち中長期的な収益性・生産性 を高め、その果実を広く国民(家計)に均てんさせるには何 が必要か。まずは、コーポレートガバナンスの強化により、 経営者のマインドを変革し、グローバル水準のROEの達成等 を一つの目安に、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断 を後押しする仕組みを強化していくことが重要である。 (4頁) 15 Report コードは、上場規則として「Comply or Explain(順守す 矢継ぎ早なガバナンス改革 るか、説明するか) 」を求めるもので、各上場会社は、そ <表1>は、アベノミクス第三の矢として実施された、 の順守度合いに応じた実質的な自社コードを備えることに コーポレートガバナンス関連の主要な取り組みである。基 なる。この自社コードは、投資家との対話において、基本 本的に、グローバルな資本市場の論理(独立取締役による 的な経営スタンスを示す重要な前提になるだろう。 ガバナンス、ROE重視のマネジメントなど)を取り入れ ②の統合レポートとは、13年12月に国際統合報告評議 るため、法規制の改正などが矢継ぎ早に講じられてきた。 会(IIRC)が発表した 「国際統合報告フレームワーク」 に いずれも重要な意味を含んでいるが、特にインパクトが強 おいて、「企業の戦略、コーポレートガバナンス、業績の かったのは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) 現状および将来見通しが、どのように短期、中期、長期に における運用方針の見直しではないだろうか。新たに選定 わたる価値の創造および維持につながるかについて説明す された受託機関には「モノ言う投資家」すなわち、 アクティ る、一連のプロセスおよびコミュニケーション活動」と定 ビストとして著名な外資ファンドも含まれており、今後の 義されている。同レポートの対象は「長期投資家」と明示 資本市場改革が「アクティビスト目線」で進められる可能 されていることから、その目的は長期的なROE向上に対 性も示唆される。 する信頼の獲得だと捉えられ、まさに資本市場で訴えるべ 表1 2014年上半期のコーポレートガバナンス関連施策 月 主体 施策 1 東証 株価指数JPX日経インデックス400の算出開 始 東証 独立性の高い社外取締役の確保に係る有価証 券上場規程の一部改正 金融庁 「責任ある機関投資家」の諸原則(日本版ス チュワードシップ・コード)の確定 4 GPIF 国内株式運用受託機関の選定、マネジャー ・ ストラクチャーの見直し 6 法務省 2 会社法の一部を改正する法律案が可決成立 き内容だといえよう。 ガバナンス改革に求められるもの 前述のコーポレートガバナンス改革、そして投資家との コミュニケーションを通じて、企業は何を実現するべきな のか。究極的にはグローバル水準のROEを達成すること に相違ないが、そのために有効な取り組みとして次の提言 をしたい。 • 従来の成功体験に縛られない、非連続かつ大胆な価 値創造ストーリーを構築する。 • 事業ポートフォリオを積極的に組み替えることで、 出典:各種報道および主体に示した団体のウェブサイトからEY総合研究所(株)作成 事業のグローバル競争力を高める。 • 長期的な理想の企業イメージを実現するため、必要 二つのコミュニケーションツール な施策を短期間で断行する。 このようにコーポレートガバナンス改革が進展する中、 わが国企業の多くは、国内市場の過当競争で収益性を損 わが国企業は資本市場に対して、どういったスタンスで向 ない、いわゆるグローバル企業との比較では中途半端な規 き合うべきだろうか。次に挙げる二つの 「コミュニケーショ 模のため、 スケールメリットを享受できない。結果として、 ンツール」を備えた上で、投資家とのエンゲージメントに 事業のマージン(売上高利益率)が低く抑えられており、 臨むことが、理想的な取り組みだと筆者は考える。 ①グローバルな要求水準に沿った株主重視の経営体制 (コーポレートガバナンス・コード) ②長期継続的にROEを維持・向上させるための企業価 値創造ストーリー(統合レポート) ①のコーポレートガバナンス・コードについては「日本 グローバル市場における競争力に影響している。14年7月 に米フォーチュン誌が発表した世界企業の売上高ランキン グ(フォーチュン・グローバル500)をみると、500社の うち米国が128社、中国が95社である一方で、わが国企 業は57社にとどまっている。早急に国際競争力を高める には事業再編が不可欠であり、M&Aなどを活用した前記 3提言の積極推進が期待される。 再興戦略 改訂2014」を受けて、現在、東京証券取引所が 策定に取り組んでいる(15年半ば成立見込み) 。この東証 EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 16 EY総合研究所では、研究員・エコノミストによる独 Report ON 自の調査・研究のみならず、EY各国の専門家や政策 当局から日々もたらされる最新情報や知見を広範囲に 収集し、国内独自の視点を加味した上で、幅広い情報 レポートのご紹介 発信を行っています。 詳細は、eyi.eyjapan.jp/knowledge をご覧ください。 • 10分でわかる経済の本質(シリーズ) ~中国における不動産市況悪化と地方財政・シャドーバンキングへの影響 (2014.07.25) ~消費税率引き上げの日本経済・アベノミクスへの影響をどう捉えるか? (2014.06.13) ~日本の経常黒字縮小傾向は何を意味しているのか?(2014.05.20) チーフエコノミスト 市川信幸 • 円安の日本経済への影響② 伸び悩む輸出の背景と先行きについて(2014.09.17) エコノミスト 鈴木将之 • 円安の日本経済への影響(2014.06.06) エコノミスト 鈴木将之 • おもてなし2.0 – 国際観光地・日本へのアプローチ –(2014.06.12) 主席研究員 小川高志 研究員 金城奈々恵 • Road to 観光立国 次世代を見据えたインバウンド旅行推進を(2014.06.06) エコノミスト 小杉晃子 エコノミスト 高垣勝彦 • 資本市場とのコミュニケーション・ツールとしての招集通知 ~経済産業省の調査とTOPIX Core30採用企業の事例を中心に~(2014.07.09) 主席研究員 藤島裕三 • 議決権行使における重要度が高まるROE ~投資家の注目は社外取締役から資本効率へ~(2014.06.09) 主席研究員 藤島裕三 17 EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 30 特集 自動車とIoT (Internet of Things) 近年、メディア等でも大きく取り上げられることが多い IoT(Internet of Things) 。スマートフォンやPCな どの情報端末だけでなく、多様なモノがインターネットにつながることで、サイバー空間だけでなく現実の物 理世界にまで広がった、さまざまな変革が訪れると考えられている。 中でも自動車は、IoTが展開していく先として最も注目を集めている業種の一つである。しかし、この分野 には海外IT企業の進出も多く報道されており、IoTにおける日本の国際競争力が脅かされるのではないかといっ た論調も多い。 自動車の情報化は「テレマティクス」という名称で呼ばれることが多いが、本稿では、このテレマティクス をキーワードとして、現在の自動車の情報化がIoTの世界にどのように進展していくのか、その状況を概観する。 EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 18 特集 自動車の情報化 (テレマティクス) から始まるIoTの 世界 はじめに インターネットに全てのモノがつながる、IoT(Internet of Things)の構想が注目されている。インターネットに 接続されるものが、従来の携帯電話やスマートフォンだけ でなく、多様なセンサーや実体物に広がっていくことで、 従来は得られなかった大量かつ多様なデータの入手が可能 となり、そのデータを、さらに資源として活用する、新た なビジネスの展開が期待されているためである。IoTのコ ンセプト自体は、1999年ごろから提唱されている「ユビ キタスネットワーク」に非常に近く、概念として目新しい ものではない。しかし、近年スマートフォンの爆発的普及 に伴い、その内部で利用されているセンサーや通信モ ジュールの低価格化が大幅に進むことによって、IoTのコ 上席主任研究員 廣瀨 明倫 ンセプトもコスト的に実現可能となってきたため、あらた めて注目されている。 IoTの接続先としては、橋・トンネル・工場・オフィス・ 都市・住宅など、さまざまなものが考えられているが、現 在、最も注目を集めている対象の一つが、自動車である。 自動車はわが国における産業の中でも極めて競争力が高 く、情報化の進展により輸出を中心とした国際競争力の強 化につながること、また、高額の耐久消費財であるため、 IoT実現に当たってのコスト負担にも耐えられるのではな いかという期待があることなどが、その理由である。 一方で近年、特に自動車の車載器分野を中心に、海外の スマートフォン関連のIT企業が進出を図っている。これら の 中 に は、 究 極 の 目 標 と し て 自 動 運 転(Autonomous Drive)を目指している企業もあるが、自動車メーカーで は、自動車の制御を行う部分は安心・安全の根幹であり競 争力の源泉として、この部分を中核領域として守っていく 傾向が見られる。 自動車の情報化は「テレマティクス」という名称で呼ば れることが多いが、本稿では、このテレマティクスをキー ワードとして、現在の自動車における情報化の進展状況を 概観する。 自動車の情報化と車載ネットワーク 現在、自動車の内部には、数十から、高級車では百を超 える数のECUと呼ばれる電子制御ユニットが配置されて おり、それぞれが車内でネットワーク化されている。自動 車自体がすでに、相当に複雑な複合電子機器であるといっ てよい。このECUに個別に一個一個配線をしていくと重量 19 Feature もかさむため、共通に配線を利用する形式を採ってLAN を中心に、スマートフォンとの差異や連携不足が目立つよ を形成し、ある程度、同種の目的を持つグループでまとめ うになっている。 られている(<図1>参照) 。車種によって違いはあるが、 スマートフォンはGPSも内蔵している機種が多く、車載 おおむね「パワートレイン系・シャーシ系」 「安全系」 「ボ 器に頼らずとも、それ自体で単独のナビゲーションシステ ディー系」「情報系」といったまとまりを形成しており、 ムとして利用可能な場合が多い。さらに、利用者がお気に それぞれの特性に応じたLANが引かれている。特に、パ 入りの楽曲を車内で楽しんだり、SNSやウェブを利用した ワートレイン系・シャーシ系には、車の安心・安全に関わ りする場面も増えているが、これらについて車載器との連 るLANとして、信頼性が高いネットワークが採用されて 携は、一部を除いて必ずしも十分な機能は提供されていな いる。逆に、車内のインフォテインメント に関係する情 かった。 報系LANには、高い通信速度を持つものが採用されてい 自動車を外部ネットワークに接続する方式については、 る。 従来は通信ユニットを車に搭載し、別途の回線契約が必要 ※1 であった(組み込み型) 。しかし、テザリングなどにより、 自動車がインターネットなどに接続することは、技術的に 情報系車載器とスマートフォン は容易になってきている。さらに、スマートフォンの機能 自動車のモデルチェンジサイクルは、わが国で平均5 ~ が車載器と連携する「統合型」接続が今後、著しく伸びる 6年になるため、車内ネットワークの進化の速度も、基本 と予想されている(<図2>参照) 。 的には、それに応じたものとなっている。他方、現在のス なお、組み込み型の通信ユニット、スマートフォン接続 マートフォンのモデルチェンジサイクルは1 ~ 2年といわ (スマートフォン統合型、テザリング利用型)に加えて、 れており、アプリのバージョンアップサイクルは、さらに もう一つ、自動車への接続口として考えられるのは、故障 短く、数週間~数カ月といった単位である。そのため、特 診断装置用のOBD-Ⅱポートである(<図1>参照)。こち に情報系の車載器部分において、ナビゲーション機能など らについては後述する。 図1 車載ネットワークの全体像 CANはプロトコルにより 33kbps ∼1Mbps パワートレイン系 シャーシ系 ステアリング CAN FlexRay (2.5∼ 20Mbps) 安全系 エンジン スピーカー センサー 情報系 テレビ ゲートウェイ トランス ミッション 車外と通信 通信 ユニット エアバッグ ABS ブレーキ CAN DSI、ASRBなど (5∼200kbps) オーディオ ナビ インパネ ボディー系 エアコン ミラー ライト ドア CAN、 LIN(2.4∼19kbps) CAN MOST (25∼150Mbps) IDB-1394(100∼400Mbps) テザリング(WiFi、Bluetoothなど)・ 有線接続 車外と通信 スマートフォン OBD-Ⅱポート (故障診断装置の接続口) モニタリング装置 (海外の保険事業で使用 通信ユニットを内蔵) 車外と通信 電子制御ユニット (ECU: Electronic Control Unit) または各機器 通信規格 出典:各社公表資料に基づきEY総合研究所(株)作成 EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 20 図2 自動車車載器の販売台数予測(ネットワーク接続を行うもの) 年間販売台数(千台) 80,000 70,000 60,000 50,000 スマートフォン統合型 40,000 スマートフォン 統合型 CAGR 49.9% テザリング利用型 組み込み型 30,000 20,000 組み込み型 CAGR 37.6% 10,000 0 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 (年) 出典:GSMA 車載器とスマートフォン連携をめぐる課題 車載器とスマートフォンの連携が難しかった理由の一つ ンジサイクルは自動車と同様、 5 ~ 6年程度である。スマー トフォンと車載器の連携に際しては、このような規制とコ スト制約が存在していた。 が「ドライバーディストラクション」の回避である。これ は、自動車の運転中に、運転手の注意を運転行為からそら さないために決められているルールであり、日本では自動 車工業会がガイドライン※2を定めている。走行中は「外部 現在、海外のIT企業は、スマートフォンで成功したビジ から提供され、時々刻々と変化する情報の文字数は31文 ネスの枠組みを自動車分野に導入することについて、意欲 字以上は表示しないこと」「テレビジョン放送およびビデ 的に動いている。具体的には、スマートフォン用OSの車 オ、DVD等の再生により表示される動画を表示しないこ 載器への導入や、そのOS上で動作するアプリの導入など と」といった各種の制限が規定されている。スマートフォ であり、スマートフォンの経済圏をIoTの世界に広げてい ンを車載器に接続し、スマートフォン上で動作させたアプ く試みの一つと考えられる。これらについては、米Apple リを車載器に表示させる場合などに、このような既存のガ 社がiPhoneを車で安全に使える枠組みとしてCarPlayを、 イドラインとの整合性が課題となっていた。 米Google社がAndroidプラットホーム搭載を推進するた また、スマートフォンの年間出荷台数が全世界で10億 めの枠組みとしてOAAというアライアンスを、それぞれ 台を超えている のに対し、車載器の出荷台数は約5,000 提唱している。2014年7月時点での各社の対応は<表1> 万台程度 と約20分の1の規模であり、量産効果による部 のとおりである。これらの枠組みでは、ドライバーディス 品価格等のコスト低下を見込みにくい。 さらに、 モデルチェ トラクションへの配慮も行っており、音声入力やテキスト ※3 ※4 21 海外IT企業の自動車へのアプローチ Feature 表1 車載器関係のITプログラムへの対応 企業・ブランド名 GENIVI Windows Embedded Automotive (Microsoft) トヨタ自動車 CarPlay AGL (Apple) ü ü フォルクスワーゲン OAA (Google) ü アウディ ü ベントレー、セアト、シュコダ ü GM シボレー、オペル 日産自動車・(ルノー) ü ü ü ü ü ü(ü) ü ü ü ü(ü) ü ü(ü) ü ヒュンダイ・ (起亜) フォード フィアット ü(ü) ü(ü) ü ü ü ü ü ü アバルト、アルファロメオ ü ü フェラーリ ü マセラッティ ü クライスラー ダッジ、ジープ、ラム・トラックス ü ü ü ü ü 本田技研工業 ü ü プジョー・シトロエン ü ü スズキ ü メルセデス BMW ü ü ü ü ü マツダ ü ü 三菱自動車工業 ü ü ü ü 富士重工業 ジャガーランドローバー ü ボルボ ü ü ü ü ü 出典:各団体公表資料に基づきEY総合研究所(株)作成 読み上げなどの機能も追加され、車載器とスマートフォン る。逆に、自動車各社も、パワートレイン系・シャーシ系 のスムーズな連動が可能になっていると報道されている。 は自動車の安心・安全の根幹であり、自社の中核領域と認 一方で、Google社などが取り組んでいる自動運転の実 識している。そのため、情報系については海外IT企業との 現のためには、車載ネットワークの中でも、パワートレイ 連携を行っているものの、前記の「系」については、まだ ン系・シャーシ系と呼ばれるエンジン、ブレーキ、ステア 予断を許さない状況である。今後も、この「系」をどこが リングなどの車両操作に関係する部分をコントロールする 主導権を持ってコントロールすることになるかが、引き続 必要がある。その際、車外をセンシングする機器(具体的 き注目されるポイントである。 にはレーザーレーダー、可視光カメラなど)および地図情 報などからの入力情報に基づき、総合判断を行う必要があ る。今後、自動運転車を実現していく上では、技術的には、 自動車データの利活用 パワートレイン系・シャーシ系をセンシング機器の「系」 自動車のテレマティクス関連ビジネスからは、多種多様 と合わせて、どのように構築していくかが課題となる。 なデータが産生される。これらを模式図に起こしたものが なお、現時点では、CarPlayやOAAの枠組みは、専ら情 <図3>である。 報系を中心とした領域にとどまっていると考えられてい データの取得源は、各種車載器からスマートフォンまで EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 22 広がりがある。また、通信事業者は基地局からの情報を基 にした位置情報を活用している。データの取得者は、自動 ①データの取得者と利用者が大きく異なっているため、 シーズとニーズのミスマッチが起こっている。 アプリ提供会社など、多岐にわたっており、それぞれ自社 ②パーソナルデータは、どの程度まで活用可能なのか、 法制面などの環境が整っていないため利活用が進まない。 サービスの提供のために活用するものと、外部に提供して ①の解決策としては、データアグリゲーター(集約・仲 利用を促すものがある。 介機関) の設立が考えられる。データを各社から集約して、 自動車のデータに対する企業の取り組みは比較的早く、 利用者に提供する業務を行う存在である。欧米では、自動 03年ごろから自動車のプローブ情報※5に基づくサービス 車の事故情報などを集約する機関が存在し※6、中古車ビジ が提供されている。今日で言うビッグデータを活用したビ ネスの円滑化に寄与している。なお、経済産業省や国土交 ジネスに先行して取り組んできたということである。 通省なども、こういった取り組みを後押ししている※7。 しかし、これらの自動車関連企業はプローブ情報による また、②のパーソナルデータ関連については、内閣府に 高い収益機会を本当に得ているのであろうか。EY Japan よる「パーソナルデータ検討会」において、従来の個人情 が内外から関係企業を集めて行った会合で、匿名で実施し 報保護法が定めていた限定的な個人情報から、より幅広い 車会社、カーナビメーカー、スマートフォンのOS提供会社、 たアンケートでは、自動車からのビッグデータの収益性は 概念である「パーソナルデータ」に対象を拡大し、今後の 「低い」という回答が66%で、トップとなっている(<図 取扱いについて大綱が取りまとめられている。今後は、こ 4>参照)。なお、自動車のデータを活用するに際しての の大綱に沿って、15年の通常国会で個人情報保護法の改 主な障害としては「ニーズ面」という回答と、個人情報保 正が行われる予定であるが、位置情報を含むデータが、ど 護関連の「環境面」という回答で二分された(<図5>参 のように取り扱われるかは、まだ不明な点が多い。検討会 照)。 の途上で議論されていた「準個人情報」に類する形で、個 自動車から得られるデータの活用が進まない理由として 人情報に準じた取扱いをするのか、関係業界による自主規 は、次のことが考えられる。 制ベースでの取扱いが求められるのかは、法案の作成過程 で明確化されるはずである。 図3 テレマティクス関連データの取得源・取得者・利用者・種別 データ 取得源 データ 取得者 車載器 自動車会社 後付け車載器 (組み込み型) カーナビ メーカー 後付け車載器 保険会社 テレマティクス サービス提供会社 スマートフォン 基地局 (携帯端末経由) OS提供会社 通信会社 アプリ提供会社 (ナビアプリなど) データ 利用者 (利用方法) データ 種別 販売店 行政 一般 運輸 エネルギー 利用者 (渋滞情報 関連 利用など) など 位置、 車速、 加速度、 ブレーキ、 燃料 消費、 ワイパー速度、 アイドリング、 エアバッグ作動、エンジン・ブレーキ 系統などの異常 など 一般 利用者 (渋滞情報 利用など) 車両管理会社 保険会社 車速、 エンジン回転数、 スロットル 開度、 エンジン水温など 位置、車速、地点 【OBDⅡ経由情報】 データ (目的地、 検索など) 、燃料消費、 走行ルート、走行距離、出発時刻・ 音声認識データ、 地点、到着時刻・地点、 イベント情報 取得コンテンツ履歴 (急ハンドル、急加減速、 スピード など 超過、 アイドリング時間超過) など 【GPS内蔵ドライブレコーダー情報】 一般 利用者 行政 学術機関 など (渋滞情報 利用など) 位置、速度、 (加速度) など 位置 +個人データ (統計処理実施) いわゆるビッグデータ利用のインターフェイス 出典:各社公表資料に基づきEY総合研究所 (株) 作成 23 Feature 図4 自動車関連ビッグデータの収益性 図5 データ活用の障害 ►Q. 車から得られるいわゆる「ビッグ」データの、 現時点での収益性をどうお考えですか? ►Q.「データ」を活用するための主な障害は何ですか? シーズ面(技術的問題、サービスに必要なデータの 収益性は高い 0% 分からない 5% 提供・入手が困難、人材不足等) 0% 収益性は中程度 環境面 29% (個人情報保護関連) ニーズ面 56% 収益性は低い 66% 44% (コストに見合う需要が見込めない、 需要が未知数、そもそも可能なサービ スの態様が不明、等) 環境面 (上記以外規制等) 0% 出典:EY Japan主催の会合における無記名アンケート 出典:EY Japan主催の会合における無記名アンケート 車両情報などを緊急対応センターに通報するシステムであ テレマティクス保険 る。同システムの普及は、同時に車載情報機器や通信回線 テレマティクスを活用した損害保険商品は、データを活 など、テレマティクスに必要な要素が導入される、きっか 用するサービスとして有望と考えられている。日本では、 けとなり得る。車両への搭載義務化は当初15年10月から 対象車種を限定した上で、走行距離に連動して保険料が変 とされていたが、現在、欧州議会の採択がなされておらず、 化する商品(走行距離連動型)しか提供されていないが、 義務化開始日が遅れる可能性が高いと報道されている※10。 欧米では、ブレーキやハンドルの取扱い状況といった、運 現在、eCallのインフラ整備に向けた規則が「2017年10 転行動に応じて保険料を変動させる商品 (運転行動連動型) 月まで」に同インフラの完成を求めているため、搭載義務 が既に導入されている。 化も、この時期にずれ込む可能性が出ているが、いずれに ちなみに欧米では、故障診断装置用のOBD-Ⅱポートに せよ、テレマティクスの普及に向けての大きなマイルス 通信機能を備えたモニタリング装置を接続して、車両の挙 トーンになると思われる。 動情報を得て保険サービスに利用している企業がある 。 また、米国では車両にリ アカメラの搭載を求める法 日本では、OBD-Ⅱポートから得られる情報の標準化が完 令※11が、14年4月から施行されている。バックする車に 全にはなされておらず、各社により異なる仕様となってい 子どもが巻き込まれる事故の反省から、16年5月より段階 ※8 るが、国土交通省では、この情報を共通化する方針を打ち 的に導入され、18年5月以降は、ほぼ全ての新車について 出している※9。共通化が進めば、欧米と同様の後付けのモ 搭載が義務付けられる。直接的には、リアカメラ搭載に伴 ニタリング装置を活用した、運転行動連動型の保険商品が う車載ディスプレーの設置が後押しされるが、併せて、車 市場に投入されることが期待される。 載器も含めたテレマティクスサービス普及の一助になると 考えられている。 規制の状況 テレマティクスをめぐっては、国際的に普及を後押しす る要因として規制環境が挙げられる。中でも、影響が大き い規制要因は欧州のeCallである。 eCallは、自動車が事故に遭った際に、自動的に場所や EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 24 Feature 自動運転実現に向けた課題 自動運転については、 特定機能の自動化(レベル1)から、 へと移行していく。モノとしてのコモディティー化を避け るためにも、このIoTの世界をどのように構築していくか が問われている。 複合機能の自動化(レベル2) 、半自動運転(レベル3) 、 自動車産業は、自動運転技術も含めて5 ~ 10年先をみ 完全自動運転(レベル4)まで段階分けされている。報道 た事業設計と、最先端で変化が激しい情報通信技術(ICT) などで接する、各自動車メーカーが市場投入する予定の自 への柔軟な対応を両立させるという難題に加え、社会全体 動運転車は、前記レベルに照らせば、レベル3かレベル4 に対して、モノだけではない優れたサービスを提供しなけ のいずれかを指していると思われるが、メーカーごとに実 ればならないという、困難だがチャレンジングな課題を抱 現内容にはバラツキがあると推察される。 える時代に入りつつある。 ちなみに、人間の仲介を一切必要としない完全自動運転 の実現については、事故発生時の責任がメーカー、システ ※1 インフォメーション(情報)とエンターテインメント(娯楽)の合成語で、 ム提供社側となることも想定されている。また、人間の仲 ※2 日本自動車工業会「画像表示装置の取り扱いについて 改訂第3.0版」 介が一部残るシステムについても、人間側の注意力が低下 する、あるいは人間側がシステムを過信して無理な運転を することによる事故の増加も懸念されており、自動運転の 実現に向けては、単に技術だけではない高いハードルが存 在する。一方、待ったなしで高齢化・過疎化が進み、公共 交通機関の撤退も予想される地方部においては、このよう な自動運転車に対するニーズは高いと予想されている。特 区制度の活用なども考慮しつつ、自動運転車を受け入れて いく「受容性」がある自治体・地域から、先駆的に導入が 進んでいくことも考えられるであろう。 IoTの視点からみた産業としての自動車の今後 今後、ネットワークにつながれる自動車の数は確実に増 え、モノのインターネットの一部を構成するようになる。 そのとき自動車は、単体の移動だけではない、さまざまな サービスを提供することが可能となる。 その端緒は、カーシェアリング(共同利用)やライドシェ アリング(相乗り)の伸長という形で、 すでに表れている。 両シェアリングの社会的意義は、路上や駐車場に止められ て無為に時間・空間を占有している自動車の有効活用と走 行台数の抑制を、社会全体で実現することにある。それに より、過度な交通の集中(例えば通勤時間帯のラッシュな ど)を減少しつつ、都市全体のモビリティーを向上させる ことができる。シェアリングに関しては、米国を中心に規 制当局との摩擦が多い面もあるが、都市全体の効率化を図 るという点からは、最初から排除してしまうには、もった いない事業アイデアと考えられる。 このように、テレマティクスが浸透してIoTの世界が実 現されるにつれて、自動車は単なるモノとしての存在から、 サービスも含めたモビリティー体験を提供する要素の一つ 25 車載器の場合はナビ、音声通話、テレビ、音楽再生などの機能を指す。 ※3 IDCプレスリリース(www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prUS24645514) 。11 ※4 矢野経済研究所「世界のカーナビ/PND/DA市場に関する調査結果2012」 年で、カーナビ/PND/DAの総計で4,910万台 ※5 自動車から送信される位置情報、交通情報などの各種情報。天候の参考とな るワイパーの動作情報なども含まれる。探り針(Probe)が語源。 ※6 米CAR FAX社、独DEKRA社が中古車の整備情報を集約・提供(国土交通省「自 動車関連情報の利活用に関する将来ビジョン検討会」資料) ※7 国土交通省「自動車関連情報の利活用に関する将来ビジョン検討会 中間と りまとめ」における提言、経済産業省「データ駆動型(ドリブン)イノベーショ ン創出戦略協議会」の設立など ※8 米Progressive社 ※9 国土交通省「自動車関連情報の利活用に関する将来ビジョン検討会 中間と りまとめ」 ※10 etsc.eu/ecall-delayed-until-2017/ ※11 Cameron Gulbransen Kids Transportation Safety Act of 2007 PICK UP より深く知るには? EY総合研究所:レポート 「ITS・テレマティクスの最新動向 自動車発 新ビジネスの可能性」 eyi.eyjapan.jp/knowledge EY:Thought Leadership (日本語訳) 「テレマティクス4.0の探求 -バリューチェーンとの対話 デトロイト・エグゼクティブ・ ラウンドテーブル会議要約」 www.shinnihon.or.jp/industries/ telecommunications/knowledge/ EY:Thought (英語版のみ) EY総合研究所およびEYでは、テレマティクスおよび それらに関連した産業・ビジネスにおける課題や機会 について、最新の論点に基づいて解説したレポートを 提供いたします。 詳細は、Webサイトをご覧ください。 EY総合研究所:レポート 「テレマティクス・ラウンド テーブル・ジャパンの開催 ~自動車の情報化をめぐる対話~」 eyi.eyjapan.jp/knowledge EY:Thought Leadership (英語版のみ) 「The quest for telematics 4.0: Dialogue with the value chain」 ey.com/automotive Leadership 「Deploying autonomous vehicles」 ey.com/automotive EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 26 会社概要 2014年9月30日現在 名 称 EY総合研究所株式会社 Ernst & Young Institute Co., Ltd. 設 立 2013年7月 所 在 地 〒100-6031 東京都千代田区霞が関三丁目2番5号 霞が関ビルディング 31階 代表取締役 鹿島 かおる 所 長 柴内 哲雄 Te l 03 3503 2512(代表) Web eyi.eyjapan.jp E-mail [email protected] EY Japan 新日本有限責任監査法人 EYリアルエステートアドバイザーズ株式会社 EY税理士法人 EY弁護士法人 EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社 EYソリューションズ株式会社 EYアドバイザリー株式会社 EYビジネスイニシアティブ株式会社 EY新日本サステナビリティ株式会社 EYフィナンシャル・サービス・アドバイザリー株式会社 EY新日本クリエーション株式会社 新日本パブリック・アフェアーズ株式会社 案 内 図 地下鉄 ───── • 銀 座 線 虎ノ門駅 • 丸ノ内線 霞ケ関駅 • 日比谷線 霞ケ関駅 • 千代田線 霞ケ関駅 • 有楽町線 桜田門駅 • 南 北 線 溜池山王駅 • 都営三田線 内幸町駅 徒歩 2分 徒歩 9分 徒歩 7分 徒歩 6分 徒歩 9分 徒歩 9分 徒歩10分 ※霞ケ関駅からの時間表示は各線の改札口から起算してい ます。 自動車 ───── 首都高速をご利用の場合、3号線「霞が関ランプ」 からお越しいただけます。 27 CONTENTS EY総研インサイト バックナンバー Vol.2 Autumn 2014 • 前号(創刊号)の特集は 「2020東京五輪を『新生日本』実現のスプリングボードに」 巻頭のごあいさつ …………………………………………………………………………………………… •「EY総研インサイト」のバックナンバーおよび 2 理事/所長 柴内 哲雄 その他関連レポートについてはWebサイトに掲載しております。 eyi.eyjapan.jp/knowledge レポート 成長戦略と収益性向上の必要性 ………………………………………………………………………… 3 エコノミスト 高垣 勝彦 エコノミスト 鈴木 将之 シンガポールにおけるカジノ事業者規制 …………………………………………………………… 9 主任研究員 渡邉 真砂世 変化する価値観:シェアの時代 …………………………………………………………………………… 12 上席主任研究員 ルレ 美華子 「アベノミクス 第三の矢」としてのコーポレートガバナンス改革 ……………………… 15 主席研究員 藤島 裕三 特集 お問い合わせ 自動車とIoT(Internet of Things) 自動車の情報化(テレマティクス)から始まるIoTの世界 「EY総研インサイト」の掲載内容について、詳細な情報をご希望の場合は、 ………………………… 19 上席主任研究員 廣瀨 明倫 会社概要 執筆者またはその分野の専門家が対応させていただきます。下記までお問 い合わせください。 EY総合研究所 企画担当 Tel:03 3503 2512 Fax:03 3503 2513 E-mail:[email protected] …………………………………………………………………………………………………………… 27 EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 発行日:2014年10月3日 編集者:(責任者)柴内哲雄 (主幹)小川高志 (担当)企画担当 協 力:新日本有限責任監査法人 ナレッジ本部 1 EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 28 EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory EY Institute EYについて EYは、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイザリ ーなどの分野における世界的なリーダーです。私たちの深い洞察と高 品質なサービスは、世界中の資本市場や経済活動に信頼をもたらしま す。私たちはさまざまなステークホルダーの期待に応えるチームを率 いるリーダーを生み出していきます。そうすることで、構成員、クライ アント、そして地域社会のために、より良い社会の構築に貢献します。 EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバル・ ネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メン バーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グロ ーバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは 提供していません。詳しくは、ey.com をご覧ください。 EY総合研究所株式会社について EY総合研究所株式会社は、EYグローバル・ネットワークを通じ、さま ざまな業界で実務経験を積んだプロフェッショナルが、多様な視点か ら先進的なナレッジの発信と経済・産業・ビジネス・パブリックに関す る調査および提言をしています。常に変化する社会・ビジネス環境に EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 応じ、時代の要請するテーマを取り上げ、イノベーションを促す社会 の実現に貢献します。詳しくは、eyi.eyjapan.jp をご覧ください。 © 2014 Ernst & Young Institute Co., Ltd. All Rights Reserved. 本書は一般的な参考情報の提供のみを目的に作成されており、会計、税務 およびその他の専門的なアドバイスを行うものではありません。意見にわ たる部分は個人的見解です。EY総合研究所株式会社および他の EYメンバー ファームは、皆様が本書を利用したことにより被ったいかなる損害について も、一切の責任を負いません。具体的なアドバイスが必要な場合は、個別 に専門家にご相談ください。 ED None レポート 「アベノミクス 第三の矢」としての コーポレートガバナンス改革 特集 自動車とIoT (Internet of Things)
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