Title 雁行型経済発展の国際的伝播(下) Author(s) 小島 - HERMES-IR

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Issue Date
Type
雁行型経済発展の国際的伝播(下)
小島, 清
駿河台経済論集, 11(2): 1-36
2002-03
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/16673
Right
Hitotsubashi University Repository
雁行型経済発展の国際的伝播 阿
論 文
雁行型経済発展の国際的伝播
小
㈹
島
清
前稿 (
本誌第1
1
巻第 1号 ,2
0
01
年 9月)では,雁行型経済発展の 2国 2財 2
要素による基本モデルを,最適資源配分図式によって提示 し,技術革新,技術
移転,資本蓄積などに基づ く生産 ・貿易基盤の拡大 という4つの動態的ケース
を解明 した。本稿では進んで貿易投資拡大の効果 と,雁行型発展の国際的伝播
メカニズムとを解明 したい。
Ⅳ 貿易拡大 と経済成長
前節 における最適資源配分分析のい くらか繰返 しになるが,アウタルキー時
か ら貿易を開始 し,貿易均衡に達 した場合の貿易の静態的利益,つづいて生産
条件のい くつかが改変 された場合の貿易の動態 的利益 を,生産可能性 フロン
ティア (
PPF)の拡延 という方法で分析 してみたい。その間に生ずる前方 ・後
方連関効果によって雁行型発展の国際伝播が生み出されることが明 らかにされ
るであろう。
雁行 型発展 の 国際 的伝播 が分析 の対 象 と して い るの は,後発 の新 興 国
(
e
me
r
gi
nge
c
o
no
mi
e
s
)が封 鎖 (
c
l
o
s
e
d)体 制 を開放 (
o
pe
n) して,貿易 や
資本移動 を通 じて,経 済発 展 を達 成 す る プ ロセ スで あ る。 これ を最 近 は
gl
oba
l
i
z
a
t
i
o
nとも言 う。 しか し地球大でな く近隣諸国が地域的に統合 (
制度的
または機能的に)して,経済発展 を相互に伝播 し合 うのが最 も能率的である(
そ
の理由は第Ⅵ節で明 らかにする)。それ故 ここでは 「
地域統合」とか 「
統合体」
という述語 を用いることにする。
貿易 自由化 とい くつかの基盤拡充 によって,前号図 3 (
p.3
3
) に要約 した
地域
ような,2国合計つ まり地域統合体の生産量増加が実現 された。それが 「
統合の利益」である。繰返 しになるが,それ と同 じ結果 を,PPF (
pr
o
duc
t
i
o
n
po
s
s
i
bi
l
i
t
yf
r
o
nt
i
e
r:生産可能性 曲線) を用いて解明 してお きたい。そこに発
- 1-
駿河台経済論集 第11
巻第 2号 (
2
002
)
展の伝播 の累積 的因果関係が ひそんでいることが明 らか になるのであ る
(
Oz
a
wa 1
9
9
6を参照)0
4
.1 自由貿易化 :後方連環効果
7′
は,アウタルキー時のA国 (
大文字)のPPFで,E
図 4を見 ようO扇型07
点でⅩ財 (
横軸) とY財 (
縦軸)を生産 しかつ消費 していた。他方,B国 (
小
t
で,A国と同じE点で生産かつ消費 し
文字)のPPFは逆転 して描かれた扇型ot
ていた.アウタルキー生産点Eにおいて,両財の相対価格 は,A国は直線 1,
B国は直線 Zの傾斜であ り,A国の方がY財 (
資本集約財)で割安,B国の
方がⅩ財 (
労働集約財)で割安 という比較生産費差をもっていた。かかるアウ
図4
1
)
Pr
o
d
u
c
t
i
o
nPo
s
s
i
b
i
l
i
t
yFr
o
n
t
i
e
r(
-
W
X
雁行型経済発展の国際的伝播 (
勺
アルキー時の両国合計の生産量 は,両国の原点O とO との距離 (
或いは簡単に,
o点の座標)で示 される。
さて,両国が貿易 を開始 し,関税その他の国境貿易障害が撤廃 され (
自由貿
易化 し),かつ運送費 もゼロであるとすると,両 国間で一物一価の完全競争均
衡が実現 し,交易条件 (
t
e
r
mso
ft
r
a
d
e
)pc線に両国の相対価格比率が収欽す
T
T′
に,B国のそれot
t
%,常 に外
ることになる。そ うす るには,A国の扇型o
t
a
n
g
e
n
t
になる) ようにスライ ドさせれば よい。それがo
'
t
'
t
′
であ り,
接す る (
外接点の一つ としてP点 (
最適生産点)が求 まる。 また座標o′
の軌跡 として
wo′
Wなる両国合計のi
n
t
e
g
r
a
t
e
dPPFが措 ける.そ こでo点 とo′
点のひ らきだ
けの統合生産量増加が実現 されたことが示 される。これが 自由貿易の利益 を示
駿河台経済論集
第11
巻第 2号 (
2
0
0
2
)
す重要な指標 となるのである。
p点が均衡点 として決 まるためには,上の相対価格比率 (
=生産費比率)が
両国で同一にな り交易条件pc線 に収赦することだけではな く, もう一つ,こ
の交易条件 によって輸出=輸入 という貿易均衡が成立 しなければな らない。C
点は,A国の (
B国にとって も同様だが)無差別曲線 (
i
nd
i
f
f
e
r
e
nc
ec
u
r
ve
s
)
の一つがpc線 に外接 し,最高のwe
l
f
a
r
e(
厚生)が達成で きる最適消費点であ
る. (
なおC点はE点 と同 じ水平線上 に来る とは限 らないが,図を簡明にする
ためにこうしてお く。
)三角形pQCが描ける. これがいわゆる 「
貿易三角形」
であるoA国は,生産点pと消費点Cとの差額 たるY財 のPQ量 を輸 出 し,代
りにⅩ財のQC量 を輸入するが,それはpc線なる交易条件の下で貿易均衡に達
するのである。
貿易後の消費点Cで交易条件pc線に接す る無差別 曲線 (
措かれていない)
は,アウタルキー時の消費 (=生産)点たるEで相対価格比率線 1に接 した
無差別曲線 よりも,より高次なものである。それだけ無差別曲線で示 される二
財消費か ら得 られる総効用つまりwe
l
f
a
r
e(
厚生)が高 まった (
be
t
t
e
ro刑こなっ
た)のである。そういう厚生の尺度によってのみ,A国の貿易利益 は正確に表
現 されると,近代経済学は結論 している。
厚生の向上は 2つの変化か ら生 まれるO-つは生産の変化であるoA国では,
E点か ら,QE量のⅩ財 を減産 し代 りにpQ量の Y財 を増産するよう,Ⅹ財相対
価格の低落,Y財相対価格の騰費につれて,生産が調整 される。 しか しこの生
産調整は何 ら国民経済的利益 をもた らさない。けだ しP
PF曲線は,一定の総労
働 ・資本の投入の下で生産 されるⅩ,Y財の種々な組合わせ生産量であるか ら
である.む しろE点か らp点への生産調整 に伴 って調整 コス トが生ずる。 (
こ
こでは無視 しているが,それが部門別保護主張の根拠 とされる。
)
もう一つは,E点 とくらべたC点での消費の変化である。それは,相対価格
が騰費 した Y財の消費量 は不変にとどまるが (
若干減少することもあ りうる),
相対価格が低落 したⅩ財の消費をEC量だけ増 したことになるOこれが価格変
純粋交換 (
pur
ee
xc
ha
n
ge
)
化 に応ずる交換 か ら生ず る厚生の向上 とい う,「
の利益」である。生産調整は何 ら積極的利益 を生むものでないとすると,貿易
利益 はすべて交換の利益だということになる。それは無差別曲線で示 されるよ
うな噂向 (
t
a
s
t
e
)の違 う 2国があるとき,価格変化 に照応 して生ず る厚生の
- 4-
雁行型経済発展の国際的伝播 阿
向上である。
結果 としては,pQなるY財の増産 とQEなるⅩ財の減産という生産調整を必
要 としたものの,Y財の消費量は不変だが (
pQ量だけ増産 したがそれだけ輸
,
出するので) Ⅹ財の消費量 をECだけ増加 したことになる。 Ⅹ財QC量なる輸
労働 ・資本)でY
入は,A国がⅩ財QE量の生産を減 らし,それだけの資源 (
財pQ量を増産 しそれを輸出したことの交換 として入手されたoX財EC量だけ
A国
入手コス トが節約 されたことになる。従って貿易利益 とは,輸入可能財 (
にとってはⅩ財)がより沢山,より低廉に入手で きるよいうになったことであ
,
る。つまり 「
輸入こそゲインである」 「
輸出は必ず しもゲインではないから,
利益ある輸入をまかなう程度に生産特化すればよい」という,実践的な基準 (
効
用 タームでなく)に到達するのである。
Ⅹ財EC量 という消費量増加分 (
或いは入手 コス ト節約分)が,両国合計の
生産量増分たるoo′
のひらきの一部 としてあ らわれるわけである。そ して,説
明を省略 したB国にとっての貿易利益,つまりその輸入可能財
(
Y)の消費量
のひらきの残 りの部分になる。そういう意味では,両国合計つ ま
増加分がoo′
e
f
f
i
c
i
e
nc
y)が,国
り世界 (
或いは地域)の資源 (
労働 ・資本)利用の能率 (
際分業 と自由貿易化によって, より高まったと言ってよい。これは世界的一物
一価でば宙かったアウタルキー時の資源配分を,そういう完全競争状態の資源
配分に調整 したことか ら生み出された利益なのである。
統合地域内の諸国間)に次のような第
以上のような自由貿易化は, 2国間 (
1種連環メカニズムを発生 させて相互の経済成長を増幅させることになる。す
なわち,自国が貿易 自由化により輸入を増加するということは,相手国の輸出
が拡大するということであ り,相手国でその輸出増を基礎に乗数倍の国民所得
(
有効需要)が増加 し,それに応 じて相手国の輸入が高まる。相手国の輸入が
増加すれば, 自国の輸出が増加 し,同様な乗数的所得波及が自国で生ずるとい
うのである。これが次節で解明する輸出需要乗数の問題である。
4
.2 技術導入 ・技術進歩 ・前方連関効果
上述では, 2国 2財の生産諸条件は所与で変 らないものとし,比較生産費差
の存在するアウタルキー状態から,両国間で一物一価が成立するよう自由貿易
を行うと,いかなる静態的貿易利益が実現できるかを分析 した。今度は,既述
- 5-
駿河台経済論集 第11
巻第 2号 (
2
002
)
(
ケース
2) と (
ケース
3)のように,生産の基礎条件 自体が技術導入や
技術進歩によって改善 されるといかなる動態的変化が生ずるかを検討 したい。
c
a
pa
c
i
t
y)
それはそれぞれの国の比較優位 を強め,貿易 を拡大する基礎能力 (
を増幅することになるのである。
図 5を見 ようo扇型o
T
T′
はA国のPPF,扇型o
′
t
′
t
′
は B国のPPF,両者の合
計たるi
nt
e
gr
a
t
e
dPPFが扇型o
wwである (図 4か ら移画 したものである)。そ
こまでの解明で重要なのは,両国合計の生産量が座標Oか らo′
へ増大 したこと
(
両点の開きが静態的貿易利益である)である。
さて最初に (
ケース
2) を取上げよう。すなわち,先導国Aか らの直接投
資によって後続国 Bの比較優位産業 Ⅹに優れた技術が導入 されたとするのであ
る。 これによって図 5では,B国のPPFがⅩ財生産に偏 って拡大 し,
扇型o
"
t
"
t
〝
になった とす るOこの新PPFをA国のPPFたる扇型0
7
7′
に外接 させ なが らス
ライ ドすると,両国合計の新統合PPFとして扇型o
ww′が求 まるO座標o ′がo "
に移る。両点の差が B国比較優位産業Ⅹ-の技術導入による両国合計にとって
′
とo
"
の差はⅩ財 もY財 も生産量が増加することを表 しているo
の利益である。o
その点で,Ⅹ財生産量のみが増加するとした前号の (
ケース
て くる。 これは (
ケース
2) とは異なっ
2)ではA国の生産量は不変にとどまるとしたが,
今回はA国で,T
T′
曲線 に沿 って生産点がpか らp′
へ移 り, Ⅹ財が減産 され,
Y財が増産 されるというように,より精密な分析 に直 したか らである。
の近傍については拡大 した別図を必要 としよう (
それを示 し
新均衡生産点p′
ていないが)。
T
T′
曲線上で見て,両国PPFが互に外接するP′
点が新均衡生産点 になる.外
接線がp′
C′
直線であ り,これが新交易条件線 となる。これは旧均衡生産点pに
pc線) よ りも横傾斜 になる。つ ま りⅩ財の価格が相対
おける旧交易条件線 (
的に低落 し,Y財の価格が相対的に騰費する。交易条件は,Ⅹ財を輸出するB
国にとって不利化 ,Y財 を輸出するA国にとって有利化する。
そこで A国は,価格が相対的に騰費するY財 を増産 してその輸出を増 し,価
格が相対的に低落す るⅩ財 を減産 しその輸入 を増す ように,生産点 をpか ら
p'
へ移す。これはきわめて合理的な行動である。輸入可能財 (
Ⅹ) をより安 く
より沢山入手 しうることになる。A国にとっては 「
輸入 こそゲイン」なのであ
る。
- 6-
雁行型経済発展の国際的伝播 阿
t
′
t
′
上のP点か
他方,B国にとっての変化 はやや複雑であるO生産点は旧o′
ら,新o
"
t
〟
t
"
tのP′
点へ移るのである。垂直距離ではか られるY財の生産量は,
種々のケースがあ りうるが,図示のように不変であったとしよう。水平距離で
はか られるⅩ財の生産量は明 らかに大幅に増加する (
p点か らo
′
E
′
垂直線 まで
.x財の相対価格が低落す
の水平距離 <p′
点か らo
"
t
力
垂直線 までの水平距離)
るにも拘わ らず,それを増産 し輸出を増す ことになる。価格低落率を上回る技
術導入によるⅩ財生産費の節約があ り,それだけ生産 (
輸出)上の利益が増大
するか らである。
つ まり,比較優位生産 (
Ⅹ) に技術導入 を行ってその比較優位 を強めた B国
は,たとえ交易条件の不利化 を伴 うにして も,それを上回る生産性の向上,コ
ス ト引下げが実現するため,輸出をより低廉 に, より大量に行 うことがで きる。
B国にとっては 「
かかる輸出拡大がゲイン」 となるのである。 この輸出増は投
資増,雇用増 を誘発 し,GDPの水準 を高める。つ ま り 「
輸出増が経済成長の
エ ンジン」になるのである。そ う見 るのが供給側重視の経済学である。GDP
の成長がwe
l
f
a
r
e
向上の基礎 になるわけであるが,その評価 は需要側重視の経
済学に任せるのである。
両国間の貿易が拡大することは次のように説明で きる。新消費点が どこに決
まるかは正確 に確定 しなければな らないが,か りに図 5のC′
点であるとしよ
Q′
C′
となる。B国側か らみ る とQ′
C′
量 のⅩ財 を輸 出 し,
う.新貿易三角形 はp'
Q′
量の Y財 を輸入す ることになる。これは旧貿易三角形pQCに くら
代 りにP'
l
f
a
r
e
が
べ,輸出量 も輸入量 も増大することになる。この貿易拡大 につれ,we
向上するという貿易利益 も増大するわけである。
さて次に,(
ケース
2
)に続いて,或いはそれ と同時に,(
ケース 3
)が
起 こったとしよう。今度は先導国Aでその比較優位財
(
Y)の生産関数が技術
進歩によって改善されたとするのである。後続国 Bの市場開放や,B国への直
Y) の供給増に誘発 されて,A国の Y財生産をより大 き
接投資に伴 う中間財 (
な最適規模に編成替え (
r
e
f
o
r
m)することが契機 になっている。
図 5では,A国の扇型PPFが これ までの07
7′
か らY財生産 に偏 って拡大す
るoT"
T′
(
全貌が措かれていないが)に移 るのであるo これに (
ケース
2
)
による B国の新扇型PPFたるoi"t"
を外接 スライ ドさせ るのである.その結果,
"
新 々統合PPFとしてow"
W′
が求 まる.座標o
`
が o′
′
′
へ移 り,それだけ両国合計
- 7-
駿河台経済論集
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巻第 2号 (
2
0
0
2
)
のⅩ財 とY財の生産量が増加する。 これが A国 Y財の技術進歩の成果である。
(
前号の (
ケース
3) とは若干異なる結果になったが,前回は相手国 Bでの
生産調整 をゼロとみな したか らである。
)
国別には,(
ケース
2)について述べたの と論理的に同 じ利益が実現 され
る。交易条件は,比較優位国Aが技術改善をするY財の価格が相対的に低落す
ることになる。A国はY財の価格低下 を上回るコス ト引下げが実現できるので,
より多 くの利潤 を得つつ,Y財 をより低廉 に,より大量に輸出するという 「
輸
出のゲイン」 を実現する。他方,B国はその輸入 Y財 を,より低廉 に,より大
l
f
a
r
eの向上 を
量 に入手で きるとい う 「
輸入のゲ イ ン」 を獲得す る。そ してwe
実現するのである。
分析対象 とする 2商品 (
Ⅹ財,Y財)が ともに最終消費財であるならば,こ
れまでの三ケースにおける貿易の拡大は,輸入品が より低廉に, より大量に入
手で きるという 「
輸入のゲイ ン」 をもた らし,we
l
f
a
r
eの向上 とい う尺度で評
a
c
kwa
r
d
価 される。これは需要拡大が生産増加 を誘発す る 「
後方連 関効果b
,
l
i
nka
gee
f
f
e
c
t
」であ り 「
需要乗数de
ma
ndmul
t
i
pl
i
e
r
」 としてf
o
r
ma
l
i
z
eで きる。
しか しなか ら,両財の一部は中間財であって,それが貿易 され,A国の輸出
(
Y財)はB国のⅩ産業の中間財 とな り,逆にB国の輸出 (
Ⅹ財)はA国のY
産業の中間財 として使用 されるな らば, どうなるであろうか。「
投入一産出関
係i
nput
l
0
mt
putr
e
l
a
t
i
o
ns
」における 「
前方連関効果f
o
r
wa
r
dl
i
nka
gee
f
f
e
c
t
」と
いう第 2種連関効果が生ずる。輸入中間財が増加 し,かっ より低廉 に入手で き
れば,それを使用す る輸出可能財の生産が拡大 し,かっ よ り低 コス トになる
(
比較優位 を強める)
。そ して両国はお互いにより低廉 に,より大量の輸出を
uppl
ymul
t
i
pl
i
e
r
」 としてf
o
r
ma
l
i
z
eで
実現できるのである。それは 「
供給乗数s
きるであろう。そ して,かかる相互に有利な前方 (
第 2種)連関効果こそが,
雁行型発展の地域的伝播の重要な担い手 となるのである。
Ⅴ 雁行型発展の国際伝播メカニズム
いよいよ雁行型発展の国際的 (
地域的)伝播 メカニズムそのものを究明する
ことにしたい。それは結局,市場開放 (
貿易 自由化)
,技術革新 ・技術導入お
l
i
nkよび資本蓄積 を起動力 とする貿易拡大か ら生み出される前方 ・後方連関 (
PPF)の
a
ge
)効果 に依存する。 このことを上述の生産可能性 フロンティア (
- 8-
雁行型経済発展の国際的伝播 洞
拡大 と関連づけつつ,順次解明 してみたい。
5
.1 資本蓄積 :成長相乗効果
後続国 Bが資本蓄積 を進め,資本 ・労働既存度を高めると,賃金を上昇 させ
なが ら労働集約的Ⅹ財の特化生産を拡大する。それが ピークに達するとより資
本集約的Y財の生産に多様化する。 これが後続国のc
a
t
c
h
-uppr
o
c
e
s
s
である。
赤松要博士の用語に従えば,それが 「
世界経済の同質化」 (
赤松
1
9
6
5
) をも
た らす。
他方,先導国 Aも資本蓄積の進展に応 じて賃金 を上昇 させつつ Y財の特化生
産を進め,そのピークに達すると,より資本 ・知識集約的なZ財の生産に多様
化 ・高度化する。 これが先発国のp
i
o
ne
e
r
的l
e
a
de
r
s
h
i
pである。赤松博士が 「
世
界経済の高度異質化」 と名づけた現象である。
こうして,後続国の追い上げ と,先導国のいっそ うの前進 (
ro
f
nt
i
e
r
開発)
の縦起的繰返 しによって,両国合計 (
すなわち世界或いは地域) として発展段
階移行を達成するのである。
ここで,技術導入 を挺子 とする後続国の成長が速いほど,また技術革新 を起
動力 とする先進国の成長が速いほど,両者は相互促進的に働いて,両国合計の
高度成長をもた らす。循環的 ・累積的因果関係による好循環が実現する。その
メカニズムの一つは, 2国間投入 ・産出関係 を結ぶ相互の中間財輸出が,より
低廉 に,より大量に行われることにより,相互に前方連関効果が働 くことに依
存する。就中コス ト引下げへの相乗的貢献は大 きい。 もう一つ, 2国相互の高
度成長が,最終消費財貿易のやは り相乗的拡大,その後方連関効果によって,
加速 されることは言 うまでもない。 2種の連関メカニズムが相侯って, 2国の
発展のスパイラル的好循環をもた らすのである。
5
.2 2種の連関効果
Gunne
rMyr
da
l
(
1
9
5
7,p.1
7,訳1
9
5
9,p.2
0
)はc
i
r
c
ul
a
ra
ndc
umul
a
t
i
vec
a
u
循環的 ・累積的因果関係)なる青葉 を用 いた。第 1の変化が,次の第
s
a
t
i
o
n(
2の変化の原因にな り,ついで第 2の変化が第 1の変化の原因となるという循
環的因果関係である。そ して変化は累積的に加重 され加速 される。下方旋回す
る場合が悪循環 (
vi
c
i
o
usc
i
r
c
l
e
),上方旋回する場合が好循環 (
vi
r
t
u
o
usc
i
r
c
l
e
)
- 9-
駿河台経済論集
第1
1
巻第 2号 (
2002)
である。
この循環的 ・累積的因果関係 は先ず既述の 2つの連関々係 に集約できる。す
ba
c
kwa
r
dl
i
nka
ge
) と前方連関 (
or
f
wa
r
dl
i
nka
ge
)である.
なわち後方連関 (
s
pi
l
l
o
ve
r
)効果 を生み出す こと
それ らが,直接の変化以上に増幅された波及 (
か ら好循環 とか悪循環が導かれるわけである。
2つの連関効果をHi
r
s
c
hma
n(
1
9
5
8,p.1
0
0,邦訳1
9
6
1
,p.1
7
4
)は次のよ
うに定義 している。すなわち
i
nput
l)
r
O
Vi
s
i
o
n),派生需要効果 (
de
r
i
ve
dde
ma
nd)
(
1
) 投入物供給効果 (
すなわち (
o
r
)後方連関効果。これは, (
第 1次産業以外 の)あ らゆる
経済活動が,その活動に必要な投入物 を国内生産によって供給 しようと
する努力を誘発することである。
(
2
) 産出物利用 (
o
ut
putut
i
l
i
z
a
t
i
o
n)効果,すなわち (
o
r
)前方連環効果。
これは (
最終需要の充足だけを本来の 目的とする産業以外の)あ らゆる
経済活動が,その産出物 を何 らか新 しい経済活動の投入物 として使用せ
んとする努力を誘発することである。
かかるハーシュマ ンの二分法はわか りに くい。けだ し(
1
)
に言 う「
投入物供給」
ということと,(
2)
に言 う 「
新 しい経済活動の投人物 として使用」 ということと
は,同 じことではないのかという疑問が もたれるか らである。両者の区分基準
は,連関 (
波及)効果を担 う因子の違いにあるのではあるまいか。すなわち,
(
1
)
の後方連関は需要 (
有効需要)の波及的変化か ら生ずるのに対 し,(
2)
の前方
連関は投入/産出の生産 (
供給)の技術的関係か ら生ずると思われる。そこで
本稿での 目的に沿って,以下のように定義 し直 してお きたい。
5
.
2
.1 後方連関効果
最終需要 (
消費 ・投資 ・輸出)が増加すると,先ずそれだけの生産が行われ
有効需要 (
GDP)が増加す るが,その一定割合 (
限界消費性 向分)が消費 さ
れ,その分だけ生産が増加 される。そういう有効需要の波及的増加が もたらさ
れる。Ke
yne
s
Ha
r
r
o
d
-Hi
c
ks
の言 う通常の乗数 (
mul
t
i
pl
i
e
r
)波及 として把 え
られる。これを 「
需要乗数d
e
ma
ndmul
t
i
pl
i
e
r
」 と呼 んでお く。他方,相手国
が貿易 自由化 によって輸入 を増加す ると, 自国の輸出が増加 し,それが基 と
なって,GDPの波及的増加 と輸入増加が生ずる。それが 「
輸 出需要乗数」で
ある。 自国 も貿易 自由化すれば相手 国 に同様 な乗 数的効果が生 じ,お互 に
- 10-
雁行型経済発展の国際的伝播 阿
GNP成長を促進 しあうことになる。 これが 「
外国反作用 (
or
f
e
i
gnr
e
pe
r
c
us
s
i
on)
を含んだ国際連関乗数 (
i
nt
e
r
na
t
i
ona
ll
i
nke
dmul
t
i
pl
i
e
r
)
」を形成するのである。
いま輸出が△Ⅹだけ増加す ると,△Ⅹだけの所得△Yが生み出される。次に
は,限界消費性 向 をCとす る と, (1+C)△Ⅹの所得増 とな り,その次 は,
(1+C2) △Ⅹの所得増 とな り,これが無限に続 くとすると,所得増加の稔和
(
△Y)は
△Y-了士
△Ⅹ
(
1
4
)
となる。限界貯蓄性向を S,限界輸入性向をmであ らわ し, C+S十m≡ 1で
あるとすると,乗数 kは
k-十㌔
言霊
(
1
5
)
となる。ここで留意すべ きは,限界消費性向 Cに従 う消費の波及的増加,つま
△C-C ・△Y,をもたらす ということである。貯蓄増加△S=S ・△Yと,
り
輸入増加 △M-m ・△Yとは,国民所得増加 プ ロセスか ら抜 け出る漏損l
e
a
k-
a
geとなる。
以上が 「
需要乗数」の骨子である。これを 2国 (
下添字 A,Bで示す) に拡
張 す る と,外 国反作 用 を含 ん だ国際連 関 (
需 要)乗 数 は次 の よ うに な る
(
Ma
c
hl
up 1
9
43
)
0
s
B
+mB
(
s
A+m^
)(
s
B
+mB
)-mA
mB
mA
(
s
A十mA
)(
s
B十mB
)
これはA国側で輸出増 (
B国の貿易 自由化による)のごとき自発的変化が生 じ
た場合である。この 自発的変化 に基づ くA国のGDPの増加が A国の輸入増加,
mA
△YA
,を生むが,それは B国の輸出増加 にはかならないので,この輸 出増
1
7
)
式である。
を基点 として B国側の需要乗数が働 らくことになる。それが(
いまか りに,A国ではc
A=0
.
5
,m∧=0
.
1
,s
A-0
.
4
であ り,B国ではc
B
-0
.
5
5,
mB=0.
2
5,s
B=0.
2であ る と仮 定す る と,kA-2
.
2
5
,k。
-0
.
5とな る (
小島
1
9
81 (
外国貿易),p.8
8:また図による解明,p.89
)0B国の貿易 自由化 によ
2
.
2
5という)需
りA国の輸出拡大が実現すると,それはA国にかな り大 きな (
- ll-
駿河台経済論集 第1
1
巻第 2号 (
2
0
0
2
)
要乗数効果 を生むだけでな く,相手国 Bにも若干 とは言 え所得増加 をもた らす
r
e
c
i
pr
o
c
a
l
l
y) にA国 も貿易 自由化 し,それ に よ りB国の
のである。互恵 的 (
輸出が拡大す るな らば,B国の乗数倍所得増加 と,A国にとっての誘発的所得
増加が もた らされる。 これが有効な国際連関需要乗数効果である。
5.
2
.2 前方連関効果
輸入は最終製品 として消費に向け られ厚生 を向上 させ るだけではない。い く
たの動態的効果 をもつ。第 1に,輸入が国内に需要 を植 えつけ普及 させ る。 こ
の輸入 による国内需要喚起効果が赤松雁行型産業発展の起動力 となった (
小島
2
0
0
0. 3参照)Hi
r
s
c
hma
n(
1
9
5
8,p.1
21:邦訳p.2
09
)も 「
輸入の創造的役
割」 と言ってその重要性 を強調 している。需要が十分 に大 きくなるとは じめて
国内生産が着手 されるのである。第 2に,原料,部品,生産機械設備 な どを一
括 して中間財 と呼ぶな らば,国内で生産で きないか,或いは著 しく割高につ く
中間財が輸入 されることによって新産業が起動 し拡大 される。輸入 中間財 に
次々に加工が加 え られ付加価値が増 して,最終製品に至る。つ ま り次々に前方
に向けて生産 を誘発す るのである。前方連関効果 といわれる所以である。赤松
博士 はこれを 「
輸入供給乗数」
3
)
と名づけた。輸入中間財はその乗数倍の国内生
産を誘発 し付加価値 を生むのである。
輸入供給乗数は次の ように定式化 される。
1
(
1
8
)
△Y-丁 丁丁 (
V△Z)
ここで Zは輸入中間財である。国産中間財Kも投入 される場合 には,被乗数 は
Ⅴ(
△Z+△K) となる。次つ ぎに生産波及 を誘発する加工度係数 (
或いは付加
価値率) Vが,需要乗数における限界消費性向 Cと同 じように, コンス タン ト
な値 をとるとよいのであるが,そ うみな しえない点に問題が残 る。
それだけではない。輸入中間財は国産 よ りも著 しく低廉 に入手で き,それを
投入する製品のコス トを低める。 また輸入中間財に体化 された優れた技術が国
内生産に伝播 されることになる (
直接投資受けいれの場合のように)0
そ こで,A国は中間財 (
〟,
) を B国の比較優位産業 (
Ⅹ)へ供給 し,代 り
に B国は中間財 (
Mx
) をA国の比較優位産業 (
Y)-供給す るな らば, この
中間財相互貿易 を通 じて,お互に,前方連関的生産誘発 とそのコス ト・ダウン
(
能率化)とを,循環的 ・累積的に与 え合 うことになる。経済発展の 2国間 (
地
-1
2-
雁行型経済発展の国際的伝播 阿
域的)好循環が創造 されるのである。
5
.
2
.3 傭貿易志向的 (
PROT)経済発展
もうーっ第 3の連関効果がある。「
国民経済全体の産出量 (
つ ま りGDP)の
成長が速いほ ど,稔合 (
o
ve
r
a
l
l
)生産性 の向上が高い」 (
その道ではない) と
l
do
r(
1
9
6
6
)が 「
Ve
r
d
o
o
r
nの法則」
4
)
と名づ
言 うことが発見 された。 これ をKa
けた。 これは,「
市場が大 きくなるほ ど,生産工程の分業が深め られ,規模の
経済性の利益が得 られて,生産性が高 まる」 というAd
a
m Smi
t
h(
1
7
7
6
)の命
題 と軌 を一にす る。ここに総合生産性 とい うのは,さい きんの用語の 「
t
o
t
a
l
f
a
c
t
o
r pr
oduc
t
i
vi
t
y:全要素生産性」に相当す るもので,労働 ・資本 という生
産要素投入の直接的貢献を超える諸要素の総合的貢献か ら生み出される収穫逓
増効果である (
次 を参照 :小島,1
9
8
8
.9,1
9
9
9
.3)
。総合生産性向上の主 な
原因は,経済全体の分業の深化 ・拡大に伴 う社会的規模の経済性 という技術進
歩要因に基づ く。その中で,成長率の高い産業 を拡大 し,成長率が低い産業 を
縮小するという産業構造の順転換 (
高度化)が大 きく貢献するのである。
本誌前号の (
モデル
4と 5)で明 らかにしたように,一国の資本 ・労働既
存度に最 も近い投入要素集約度の産業ほど,産出高が最 も多 く,比較優位 をも
つ。そ ういう産業ほど,資本蓄積の進展につれ,成長が速 く,技術進歩 (
技術
導入 を含む) も多 く,総合生産性 も高まる。 したがって,かかる有望成長産業
(
それは需要の伸びる所得弾力性の大 きい財の生産で もなければならないが)
をリーディング ・セクターに据え,速い成長をはかるならば,そのセクターは
生産性 を高め比較優位 を強め,輸出を拡大することになる。輸出拡大が より大
きな規模経済を実現 させ,いっそ う生産 と輸出の増大 を加速する。 こうして経
済全体の成長 と輸出拡大 との相乗的 (
r
e
i
nf
o
r
c
i
ng)発展の好循環が生ずる。こ
れがExp
o
r
t
l
e
dgr
o
wt
hであ り,その実態は「
pr
o
t
r
a
d
eo
ie
r
nt
e
dde
ve
l
o
pme
nt:
順貿易志向的経済発展」に他ならない。
先導国A と後続国 Bとの間に,資本 ・労働既存度或いは賃金率 (
一人当 り所
得水準)において発展段階的格差が存在すると,A国は資本集約財 Yに,B国
は労働集約財Ⅹに,それぞれ比較優位 を見出 し,補完的な貿易が開始 される。
A国の成長が速いほど,B国の高成長が誘発 され,逆にB国の高成長が,A国
の速い成長をいっそ う加速するという 2国間の好循環が生ずる。それは貿易の
r
o
前方連 関 と後方連 関 とい う相促 的連 関効果 に基づ く。そのプ ロセスがp
-1
31
駿河台経済論集
第1
1
巻第 2号 (
2
002)
t
r
a
d
eo
r
i
e
n
t
e
dFDIによって促進 されるのである。
国内的には成長率の高い産業 (
所得弾力性が大 きく,技術進歩の速い産業 (
徳
原 1
9
8
7
,p.1
8
5
参照) を選んで リーデ ィング ・セクターにすべ きである一絶
対的成長率原理。他方対外的には比較優位産業を選ばねばならない一比較優位
原理5
)
。両原理か ら見て矛盾 な く,A国の Y産業が有望 リーデ ィング ・セ ク
ターであると選びうるならば,p
r
o
t
r
a
d
eo
r
i
e
n
t
e
dd
e
v
e
l
o
p
me
n
t
が もた らされ
r
o
る。後続国 Bとの間に発展段 階差が存在す る限 り,A国 もB国 もともにp
t
r
a
d
eo
r
i
e
n
t
e
dd
e
ve
l
o
p
me
n
t
をお互に加速 しあいなが ら実現することがで きる
のである。
しか し,発展段階差が存在 しな くなるならば,両国とも同 じ産業 を有望セク
ターとして選びた くなる。両国の産業構造は同質化 し,競合的 ・相勉的になる。
すべての産業でな くてもい くつかの産業はそうなる。この矛盾 を解決するには
産業内分業或は合意的分業の考察に進 まねばならない。 これが雁行形態論の第
3局面での問題であ り,次稿の中心課題 となる。
5
.3 逆貿易志向的FDl
これまで述べて来た 2国間 (
地域的)経済発展の好順環が,順貿易志向的海
外直接投資 (
PROTFDI
)によって担 われていることに再度注意 を喚起 して
お きたい。それは,投資国が比較優位を弱めつつある生産活動 (
A国のⅩ財生
産)か ら直接投資進出を行い,ホス ト国 Bの対象産業
(
Ⅹ)を立ちあげ,生産
性 を改善 し (
技術導入 により),その比較優位 を強化 し,両国間の補完的貿易
を拡大するというものである。
,
それ とは逆の 「
逆貿易志 向的海外直接投 資 :ANTFDI
」であると,2国
発展の好循環は起 りえないことをここで理解 されたい。前号図 1のような状況
において,今度は,A国が圧倒的比較優位 をもつY産業 (
例えば自動車アセ ン
ブリー)が,B国にとっては比較劣位 にあるY財生産に直接投資を行 うとしよ
う。Y財はA国が圧倒的比較優位 をもつ商品であるか ら,本来,A国か らの輸
出を続けそれを拡大することがお互いに有利である。B国にとって も低廉な輸
入の方が望 ましいはずである。 しか しB国で高関税 とか数量制限 という貿易障
害が設けられている。そこで B国の輸入障壁 を乗 り越え,その背後で直接投資
4)
企業は開始する。つ まり貿易障害に誘発 されたF
DI
である.この
生産をA国(
-1
4-
雁行型経済発展の国際的伝播 用
A国(
J)
企業は,他の企業 (
A囲以外の企業 も含め)に先駆けて進出し,B国市
場 をで きれば独 占 (
ない し寡占) しようとする。その際,B国の関税その他の
貿易障害は,A国(
1)
企業をも保護することになる。それ故,自由貿易化は遅 ら
されることになる。
とまれ この種 の貿易障害克服 塑FDI
は,A国か らの輸 出に代替す るだけで
あって,それだけ貿易を縮小する方向に働 らく。A国の輸出が減る分だけ,A
国の輸入 も減 らされることになる。A国 Y財の生産が減るか ら,その中間財輸
入 も縮小することになる。
が,その A国産業の 「
空洞化」 をもた らし易
それ故 この種 A国のANT-FDI
いことは明 らかである。
ANT-FDI
は,貿易に代って,その企業の市場拡大 を志向するものである。
ホス ト国の現地生産の能率化 を志 向す るPROT-FDIとは大 きく異 なる。前者
は,ホス ト国 Bが Y財生産に適する発展段階にいまだ達 していない未成熟な状
忠 (
資本蓄積度,人的資本,関連産業などの不足 している状態)において,早
まった直接投資進出をすることになる。 このため A国(
1)
企業の現地生産は,そ
の輸出価格 よりも高いコス トにつ き,B国での保護な くしては収益 を上げえな
いであろう。 これではホス ト国にとって,コス ト-価格 を引下げる有利な効果
はもた らされないのである。
Ⅵ 東アジアの雁行型経済発展
雁行型経済発展の国際的伝播 は具体 的には 日本一NI
Es
-ASEAN-中国 と
いった順序で東アジア地域において成功裏に実現 した。それは 「
直接投資前線
の拡延」 と要約できる。
6
.1 直接投資前線の拡延
図 6を見 よう。この図は 2つの仮定に基いて描かれている。
(
a) 一国の産業構造はⅩ-Y-Zといった産業 に,順次多様化 し能率化 され
るとい う雁行型発展 をとげる。 (
各産業は輸入-生産-輸出 とい う発展 を経過
す る。
) ここでⅩ産業は繊維その他の労働集約財 ,Y産業は鉄鋼,化学 といっ
た資本集約財
,Z産業は機械その他資本 ・知識集約財である。いずれ も大 きな
範時の産業 (
いわば発展段階別産業)であって,一つ一つの範晴の中には,多
-1
5-
駿河台経済論集 第1
1
巻第 2号 (
2
0
0
2
)
数の業種 ・品種への多様化 ・能率化が含 まれている。 このキイ産業のシフ トは,
図 6の時間 Ⅰ-Ⅱ-Ⅲ-Ⅳ-の経過 につれて,水平に進展 してい く。
(
b) 先導国 A (日本)の雁行型発展は, 順貿易志 向的 (
PROT)海外直接投
NI
Es
)
,C (
ASEAN 4
)
,そ して D (
中
資 を媒体 と して,順 次,後続雁 B (
国)へ と,それ らの発展段階差 ない し一人当 り所得水準の差 に照応 して, タイ
ム ・ラグをおいて,図では垂直的に,伝播 (
t
r
a
n
s
mi
t
)される。
さて,第 Ⅰ期では, 日本 はⅩ産業 における欧米への追い上げプロセスを卒業
す るが,直接投資にはいまだ進出 していない。第 Ⅱ期 に入 ると, 日本は Y財生
産の比較優位 を獲得 し,B国Ⅹ産業へ直接投資進 出す る (
PROT-FDI
)
。第 Ⅲ
期 に進む と, 日本 は比較優位 を Z財生産に高度化移行 し,B国 Y生産 とC国Ⅹ
生産 に直接投資進出す る。第Ⅳ期 (
2
000年現在 とせ よ)では, 日本の拡大 キイ
産業
(
Z′)が何であるかい まだ不明である
(
それがI
T革命であるか どうか は
後述)が,直接投資は,B国 Z生産 ,C国Y生産,そ して D国Ⅹ生産へ と,広
範に拡大 したのである。 これは,あたか も天気図における温暖前線 と同 じ様 に,
C(
AS
EAN4
)
B(
NI
Es
)
A (日本)
雁行型経済発展の国際的伝播 (
勺
産業別には左か ら右へ水平的に,地域的 (
相手国別) には下か ら上へ垂直的に,
日本の雁行型産業発展が,東 アジア地域 に,o
vert
i
meに伝播 ・拡延 していっ
たことを示 しているのである。
実は 「
輸出前線の拡延」 とい う概念図を古 く (
小島
1
9
5
9,第1
4図) に発表
している。その延長が 「
直接投 資前線 の拡延」であ り,小 島 (
1
9
9
6第 7章),
Ko
j
i
ma(
1
9
9
5.1
2
)で展開 した。 これに近い概念図を,青木健 ・馬田啓一 (
1
9
9
7,
]
p.3
5[
菅原 ),大野健一 ・桜井宏二郎 (
1
9
9
7,p.1
9
),C.
H.
Kwa
n(
2
0
01
),Ye
n
Bl
oc:Towar
dEc
o
no
mi
cI
nt
e
gl
l
aE
i
o
ni
nAs
i
a,Br
o
oki
ngsI
ns
t
i
t
ut
i
o
n,Wa
s
hi
ngt
on
D.
C.
,p.1
7,な どがサ ジエス トして くれている。
6
.2 雁行型発展の東アジア伝播の実証研究
雁行型 (
産業 ・経済)発展の東アジア地域への国際伝播 は,数多 くの実証研
究 によって6)支持 されるようになった。その うち最 も重要 な もの を 5つだけ,
以下に要約 ・紹介 しておこう。
6.
2.1 小島 清 「わが国海外直接投資の動態」
(
初出1
9
9
5. 3& 4,再録 1
9
96第 7章,英文1
9
95
) は, 日本の東アジア 9カ国
への直鹿的投資 (
大蔵省届出統計) を整理 した上,それが,小島の順貿易志向
的F
DI
の法則 に従 って東 アジア経済 に伝播 し,「
FDI前線 の拡延」 (本稿 図 6の
如 き) を描 き出 しうることを実証 している。い くつかの詳細 な分析 を試みてい
るのであるが,その中核 は次の表 1の ように要約で きる。
日本の海外直接投資を次の 6つに分類す る。
L:労働集約的軽工業 :食料,繊維,その他
Ⅰ :中間財 :木材 ・パルプ,化学,鉄 ・非鉄
K:
機械類
:一般機械,電機,輸送機
R :資源開発投資 :農林業,漁 ・水産業,鉱業,建設業
S:
サービス :商業,金融保険,サービス業,運輸業,不動産業,支店,そ
の他
9
73.9,1
9
83.
1
2,1
9
87
.1
2
,1
9
9
1
.
1
2,
(
資料 :大蔵省,財政金融統計月報,1
1
9
9
3.
1
2より算出。)
この うち L (
労働集約的軽工業)投資か らK (
機械類)投資への産業別多様
化 ・高度化が東 アジア(日本 を除 く 9カ国)
FDI全体 にあ らわれている。K/L
-1
7-
駿 河台経済論集
第11巻第 2号 (
2
002)
表 1 日本の対束アジア直接投資
(
単位 累計額1
0
0
万 ドル :シェア% :高度代率 倍率)
1
9
7
2
1
9
82
1
9
先発国
L投資 :
【台湾
誓 警
4
4
0
.
4
1
2
1
0
4
4
8
9
K疫資 【誓 警
高度化率 (K/
4
3
0
.
0
3
0
2
3
4.
4
8.
9
2
0
.
9
9
4
3
4
1
.
3
中進
0.
9
8
L)
5
7
.
6
7
4
L投可
国 :誓
タイ警
K投資 【誓 警
高度化率 (K/L)
8
6
.
4
0.
l
l
後発国
L投可 :讐
インド
警ネシア
K投可 誓 警
高度化率 (冗/L)
0
2
1
2
1
.
6
5
0
1
.
0
1
5
2
.
1
3
2
6
5
2
2
.
1
0
6
4
7
0
.
3 1
1
.
8
6
1
3
,
1
0
9
0
2
.
2
5
3
.
9
.
2
4
5
5
4
1
.
71
8
9
6
7
.
6
1
3
0
4
1
.
8
8.
6
31
2
3
.
0
東アジア
L投資 【誓
9カ国計
警
2
4 4,
3
5
3
2
.
0 1
1
2
.
4
2
6
1
0
1
.
6
4
0
7
,
7
7
K投資 【誓 誓
.
3 5,
1
5
1
7
2
.
4 1
,
3
4
9
6
9
5
0
出
高度化率 (K/L)
0
.
3
9
0.
7
6
1
4
.
9
1
4
0
,r
を高度化率 と言 うな
ら
(
1
9
9
6
) 開放経済体系』文異堂,第 7章。
所 :小島清
そ して1989年 には1.40へ
に0.
3
9であった ものが 1982年 に0.76へ ,
ば,それ
は1972年
と高 まってお
り,F
D
I
s
pr
ead) に相 手 国別 に遅 速 の差 が生
そ の拡 延 (
の産業別拡延 を示 す。 ところが
先 国,後発 国 とい う 3つの タイプに分類 で きる。
中進
じて い る。工 業 化 の先 発 国,
ず先発
たL投
資 国の典型 と して台湾へ の 日本直接投 資 を見 る と,1950年か ら始 まっ
ピー クに達
してい
972年 まで
に4
4百
ドル,対
台 湾 投Ⅰ
資期のでうち
4
0.
4% を 占め る程 の
は1
る。つ
ま
り万
195
0
- 1972年の第
はL
投
資
雁行型経済発展の国際的伝播 ㈹
1
9
8
9
年では1
9
7
2
年の1
0
倍)したが,対台湾投資稔額に占めるシェアは4
0.
4
%
加(
か ら2
3.
0
%,さらに2
0.
9
%へ と低減 している。つ まりこの間にK投資への多様
9
7
2
年にすでにL投資額 と等 しい水準に達し
化 ・高度化が急速に進んだ。即ち1
ていたK投資が,第 Ⅱ期に4
3
百万 ドルか ら2
3
4百万 ドルへ5
.
4
倍化 し,第Ⅲ期に
9
4
3
百万 ドルへ とさらに4
.
0
倍化 したのである。かかる早期のK投資への高度化
.
9
8
-2
.
1
3
-2
.
1
0
が,先発工業化国の特色である。それ故高度化率 (
K/L)は0
と 2以上にまで高まっているのである。
0
.
0
%か ら4
8.
9
%のピークに達 したのが4
1
.
3
%に後退
だがK投資のシェアは4
している。L投資のシェアと合計 してみると,すでに8
0.
4
%-7
1
.
9
%-6
2
.
2
%
とかな り低落 している。これは Lや K以外の投資, とくにサービス投資が増加
(
5
.
0
%-6
.
7
%-2
1
.
4
%) したか らである。かかる製造業以外の投資へのシフ
トも,対先発国投資の特色である。
韓国は台湾 と並ぶ先発組 として,台湾 とよく似た傾向を示 している (
例えば
7
.
4%-1
8
.
9
%-ll
.
7
% と低下 している)0
L投資のシェアは5
シンガポールと香港 も戦後早 くか ら工業化を推進 した先発組に属するが,檀
小人口の中継港的都市経済であることか ら,台湾や韓国のようなティピカルな
傾向を示 していない。 日本のサービス投資が圧倒的に多 く,かつ期を追って増
6
.
0
%-2
5
.
6
%加 している。サービス投資のシェアは,シンガポールでは,1
5
0.
3
% と増加 している。また香港では,6
2
.
3
%-8
5
.
9
%-9
0.
5
% と上昇 してい
絶対額は増加 しているが)
る。その反面, L+K投資のシェアは低落 している(
のである。
中進的工業化国の代表 としてタイのケースを検討 してみよう。 日本のタイへ
9
7
2
のL投資もK投資も急増 しているのであるが,シェアで見ると,L投資は1
午 -5
7
.
6
%,1
9
8
2
年 =5
0
.
3
%で高い比率を保った ものが,1
9
8
9
年 -1
9
.
8
%へ著
.
4
%-1
2
.
2
%-3
3
.
9% と第Ⅲ期 に急増 している。
落 している。他方K投資は6
9
8
2
-8
9
年の第Ⅲ期において,
つまり第 Ⅰ期 と第 Ⅱ期は L投資が中心であ り,1
したがって台湾や韓国より1期遅れて,K投資に多様化 ・高度化 した。これが
.
ll-0
.
2
4と 1以
中進国型の特色である。このことは高度化率 (
K/L)が,0
9
8
9
年に1
.
71と 1以上にジャンプしたことによく現れてい
下であったものが,1
る。サービス投資のシェアが第Ⅲ期に増加 している (
1
7
.
0
%-1
8.
8
%-2
6
.
4
%)
が,先発組ほど高い水準にはまだ達 していない。
-1
9-
駿河台経済論集 第1
1
巻第 2号 (
2
0
0
2
)
タイに類似 している中進国はマレーシアであるが,そのK投資シェアのみ示
5
.
3
%-l
l
.
2
%-3
6
.
7
%という変化である。 もう一つはフィリピンであ
すと,1
.
5
%-ll
.
8
%-2
0
.
5
%と同様 な トレン ドをた
るが,そのK投資 シェ アは,2
どっているが,その水準 (
絶対額)はいまだ低い。
インドネシアへの日本の投資は,東アジア 9カ国中最大であるが,その大部
分は石油その他の資源開発向けである(
そのシェアは5
5
.
1
%-6
9
.
4
%-6
3
.
8
%)
0
このため L投資のシェア (
2
1
.
6
%-7
.
6
%-8
.
6
%)ち,K投資のシェア (
1
.
1
%
-1
.
8
%-3
.
0
%)もともに低い水準にあ り,工業化が立遅れている。なかんづ
く高度化率
(
K/L)が1
9
8
9
年で0
.
3
5と 1以下の億にとどまっている。このた
め工業化後発国と分類 した。工業化投資は中進組 よりもさらに 1期遅れて,
1
9
8
9
年以降の第Ⅳ期に期待 されるわけである。
9
7
9
年に開放経済に移った事実上の後発工業化国である。 日本の
中国は漸 く1
9
8
9
年に2
,
4
7
4
百万 ドル,1
9
9
2
年に4
,
4
7
2
百万 ドル と激増 した。
対中国投資は1
1
9
9
2
年にL投資シェアは1
5
.
2
%,K投資 シェアは1
8
.
1
% (したがってK/L比
.
1
9
)となり,幾多のセクターの総花的工業化 ・輸出化を中国が急いでい
率は1
る姿が反映されている。
以上のように,日本の対束アジア直接投資は,第 Ⅰ期 (
1
9
5
0
-1
9
7
2
年)に先
1
9
7
2
-8
2
年) と第Ⅲ期 (
1
9
8
2
ず先発工業化諸国にL投資から始まり,第 Ⅱ期 (
年)にK投資拡大に多様化 し高度化 した。同じプロセスがタイムラグを置
-8
9
いて中進工業化諸国に向けられ,第Ⅲ期にK投資が急増 した。そして後発工業
化国に対 しては1
9
8
9
年以後の第Ⅳ期にK投資に高度化するという動向にある。
こうして,労働集約的軽工業か ら資本集約的機械産業へ という産業別雁行が多
様化 し高度化するのと,地域的には先進工業化国か ら中進国さらに後発国へ と
拡延するという雁行型が描 き出される。それが小島の本稿図 6にはかならない
のである。
しなる日本の投資高度化率を高めてい く。そ
こうして各ホス ト国とも,K/
のピーク時に達 した後,サービス投資など第 3類の増加につれ 2ぐらいに次第
に収赦 してい くのでないか と思われる。ちなみに対北米投資のK/
L比率は
1
.
6
3
-2
.
6
0
-2
.
0
4と変化 している。 とまれかかる日本投資の高度化率の収敵は,
ホス ト各国間の,また日本 との,産業構造の同質化をもたらす。それは順貿易
志向的
(
PROT)FDIが限界に達することを意味するか もしれない。そうなる
-2
0-
雁行型経済発展の国際的伝播 何
とリーダー国が技術革新により新産業を創造 し,地域全体の雁行型産業発展の
ニュー ・フロンティアを開拓 しなければならないということになる。中国に続
き,ベ トナムなど一層の後発国に国際伝播 を拡延することも必要 となる。 もう
1つ,ホス ト各国の産業構造が大な り小な り同質化 して くると,その相互間の
貿易はどうなるかという新 しい問題に直面する。産業内分業 ・貿易の拡大がは
か られなければならなくなる。雁行形態論 も新 しい第 3の局面の考察に前進 し
なければならないのである。
6
.
2
.2 渡辺利夫教授グループ
2
0
0
0
)が公刊 されたO"
1
9
7
0年以降の東アジアでは,NI
Es
膨大な実証研究 (
が 日本を 「
追跡」 し,そのNI
EsをASEAN諸国が追跡するという 「
重層的追跡
p.5) とし,それを数種の優れた実証 を通 じて明 らかに
過程」がみられる" (
している。この 「
重層的追跡過程」7
)
はわれわれの 「
雁行型産業発展の国際 (
也
域)的伝播」そのものであ り,d
yn
a
mi
cd
e
v
e
l
o
pme
n
tp
r
o
c
e
s
s
の考察 としては
軌を一にするものであると私は了解 している。
実証分析の第 1は,工業化率 (
実質製造業生産/実質国内稔生産),総輸出
9
5
0
に占める工業製品輸出シェア,総輸出に占める機械製品輸出シェアの1
1
9
9
6
年にわたる日本 と東アジア 8カ国 (
中国を除 く) (
ならびに米国)につい
Es
,
ASEAN4の順序で,タイ
ての変化 を描 き出 している。それ らが 日本,NI
ム ・ラグを置 きなが ら,産業構造そして輸出構造 を多様化 し高度化 してきたこ
とをきれいに示 している。小島の直接投資前線の拡延 (
本稿図 6)に対応する
産業別雁行型 と輸出前線の拡延を明示 している。 (
ただし三者の関連づけが欲
しいのであるが,それは計量分析 されていない。
)これが渡辺グループの言 う
「
重層的追跡過程」の実証である。
詳細な,きれいな,多数の図が描 き出されているのであるが,せっか く算出
された数値が示されていないので,ここに要約 して再現するわけにいかないの
が残念である。資料的価値の大 きいこの拓殖大学アジア情報センター編の 「
東
アジア長期経済統計」においでは,図だけではな く,算出された数値をすべて
かかげてほしかった。
以上のシェア分析は分か り易い。またそれがすべてであると言ってもよい。
s
o
p
h
i
s
t
i
c
a
t
e
d
)加工指数を用いたい くつ
シェア分析に続いてより手の込んだ (
かの分析が行われるのであるが,結局は同 じ結論 を,い くつか別の切 り口に
-2
1-
駿河台経済論集 第1
1
巻第 2号 (
2
0
0
2
)
よって繰返 し導 き出しているにす ぎないように見 うけられる。
サの顕示比較優位RCA (
r
e
ve
a
l
e
dc
o
mpa
r
a
t
i
vea
d
すなわち第 2に,バラツ.
va
nt
a
ge)すなわち監 瑠 (
ただしEi
h
-h国の i商品の輸出額・Eh-h国の工
-世界全体の i商品の輸出額,W -世界全体の工業製
業製品の輸出総額,Wi
品の輸出額)を各国の1
9
5
0
年か ら1
9
9
5
年にわたる 5年毎に,相当多数 (3桁の
1
5
0
以上)の品目 iについて算出している。実はこの実数をこそ先ず掲載 して
はしかった。それを各品 目の輸出シェアで加重合計 して, 1つのRCA平準化
指数に直 して,図示 している。各国の工業化が進み,輸出構造が多様化 し,
RCA指数は次第に平準化 (0に近づ く)することを描 き出している。
製品別 (
化学製品,原料別,機械製品,維製品の 4分類)比較優位の国別比
較。用途別 (
非耐久消費財,労働集約的中間財,耐久消費財,資本集約的中間
財,資本財の 5分類),要素集約反別 (
資源集約型産業,労働集約型産業,規
模集約型産業,差別財産業,化学技術型産業の 5分類)の比較優位指数 も算出
し国際比較できるように図示 している。興味ある分析であるが,外部者は原数
値なしでは活用のしようがない。
(ただ しMi
- i商品の輸入額)を産出 LVe
r
第 3に・国際競争力指数 -賢諾
nonのPr
oduc
t Cyc
l
e
論やわれわれの雁行型産業発展の基本型 ・副次型 との関
連で,商品群別の 「
国際競争力の国際的追跡」図を描 き出 している。この指敬
ube
l
=Ll
o
ydの産業内貿易指数で もある。
は 「
貿易特化係数」 とも呼ばれる。Gr
さらに指数がマイナスの入超状態か ら,0で輸出入均衡,プラスになって出超
に転ずる 「
純輸出入比率指数」でもある。この図が商品別の 「
重層的追跡過程」
をきれいに示 している。また 「
産業内 (
水平)分業」の進展 という視点からも
分析 している。
第 4に,産業連関表から算出されるスカイライン ・マ ップを作成 している。
これは各産業需要額のGDPに占めるシェアを横軸にはかるとともに,垂直の
棒 グラフによって,国内需要,国内生産,輸出,輸入 を同時に示す興味ある
i
me l
a
gを伴 うものの年 とともに,産業構造 ・
マ ップである。各国のマップがt
貿易構造が多様化 し平準化 し,類似の形態に収赦 して くることを描 き出してい
る。興味あるユニークな実証分析である。せっか く算出された数値であるか ら
それを載せてほしい。 また図に横軸の産業項 目が示されていないのは残念であ
る。
-2
2-
雁行型経済発展の国際的伝播 阿
とまれい くつかの詳細 な手のこんだ実証分析は貴重である。だがそれによっ
て どれだけ新 しい発見があったのかは,ことに部外者にとっては,さだかでな
い。案外分か り易いシェア分析の結論の域 を出ることができないかもしれない
のである。一貫する理論モデルの構築が不可欠であろう。
6
.
2
.3 浦田秀次郎教授 (
2
0
01
)
これは東アジア経済成長への直接投資 と貿易の相互関連を通 じた形での貢献
を計量的に明 らか LLようとしている。先ず東アジア (日本 を含む 9カ国)の
貿易 (
輸出+輸入)は急拡大 し,その世界貿易 に占めるシェアは4
.
9
% (
1
9
8
0
午)-8
.
2
% (
1
9
9
0
年)-1
2.
1
% (
1
9
9
7
年)と高まった。域内貿易比率は3
4.
4
%
-4
2
.
9
%-5
0
.
4% と上昇 し,域内相互依存が深 まった。 これは直接投資 (
対外
+対内)の世界 シェアが3
.
5
% (
1
9
8
0
年)-8
.
4
% (
1
9
9
4
年) と急拡大 し,対内
n
瓜)
W)の域内比率が42
.
0
%-5
4.
0
% に高 まったこ
直療投資 (
つ まり各国へのi
とに支えられている (
浦田論文の表3
.1)
。gr
a
vi
t
y mode
l
で計測すると,東ア
.
4
0(
1
9
8
0
年)と0
.
1
4
ジア 9カ国相互間の域内貿易 と域内直接投資の相関係数は0
(
1
9
9
4
年)で, ともに 1%水準で統計的に有意である (
表3
.2)
0
次に国際産業連関表 を用いて中間財 と最終需要に分けて見ると,いずれにお
いても東アジア諸国の城内か らの調達比率が,ことに中間財において,高 まっ
ている (
表3.3)。この結果,特定国において最終需要が 1単位増加す ること
.4)
。 この生産
によって誘発 される東 アジア全体の生産量 を算 出 しうる (
表3
誘発効果は 「
供給乗数」であって,地域内各国間の連環効果に基づ く好循環的
地域発展の成果であると言えよう。 カッコ外に1
9
8
5
年,カッコ内に1
9
9
0
年の生
産誘発係数 を示す と次の ようになる。イ ンドネシア 1
.
6
4
8(
1
.
6
8
9
)
,マ レー
シア 1
.
7
1
4(
1
.
8
2
3
),フ ィ リ ピ ン 1
.
6
7
1(
1
.
7
0
7
)
,シ ンガ ポ ー ル 1
.
7
7
4
(
1
.
7
2
6
),タイ 1
.
7
6
3(
1
.
7
2
9
),中国 1
.
9
4
0(
2
.
2
4
6
),台湾 1
.
9
0
4(
1
.
9
0
5
),
韓国 1
.
8
5
1(
1
.
8
6
0
)
, 日本 2
.
0
0
9(
1
.
9
4
7
)
。 日本やシンガポールなど先発工
業化国で係数が若干低下 しているが,他の国々では大体上昇 してお り,ことに
中国 (
後発国)での上昇は著 しい。
さて各国の生産誘発係数を合計すると,1
6
.
2
7
5(
1
6
.
6
3
2
) となる。 これは東
アジア 9カ国がすべてそれぞれ最終需要を 1単位だけ同時に増加 したならば生
ずる東アジア地域全体の好循環的生産増加 をあらわす。それが1
6
ポイン ト強 と
大 きく,かつ増加 していることが重要である。
-2
3-
駿河台経済論集 第11
巻第 2号
(
2
0
0
2
)
最後に,在アジア日系企業がアジアからの調達比率を5
0
.
9
% (
1
9
8
6
年)から
5
4
.
7
% (
1
9
9
5
年)へ引上げたこと,その販売比率 も2
8
.
6
%か ら3
2
.
2
%へ引上げ
たことも報 じている (
表3.5)。 日系進出企業が小島の言 う 「
順貿易志 向的
(
PROT)FDIを実行 したかどうかを検出で きるような実証分析 を果 したいも
のである。
6
.
2
.4 通産 白書 (
2
0
0
1
)
これが雁行形態論をサポー トする分析 を果たす とともに一つのコメントを与
えて くれている。
いま,内需 =生産 +輸入 一輸出とすると [(
生産/内需)-1]×1
0
0なる指数
を算出できる。この指数が 0の時は完全 自給の状態であ り,プラスならば輸出
/内需比率,マイナス (
図では▲印)ならば輸入/内需比率が示 される。「
生
産/内需」指数と呼んでおこう。図 7は,日本の 3産業について,この 「
生産
/内需」指数を,1
9
6
5
-1
9
9
8
年の長期にわたって描 き出している。これは正に
われわれの 「
雁行型産業発展」 をきれいに明示 している。繊維産業の輸出が先
ず伸長 したが1
9
8
6
年頃輸入化に転 じた。次いで重化学工業の輸出伸長の波がお
(
%)
4
0
3
0
2
0
1
0
0
▲1
0
▲ 20
6
5
7
5
8
5
9
5 9
8(
図
(
備考)
7 日
データは生産/内需
本産業構造の推移 (
生産+輸入一輸出)の比率をとって, (
午))
生産/内需 -1
×1
この比率は,内需に対
0
0
に置 き直 したもの。しての生産の超過
(
不足)比率を表 してお り,産業の
している。
(
資料)国際競争力を示
UNI
DO 「
I
SD」
(
出所) 通商 白書 2
,大蔵省
0
0
1
J
,p.1
5
.「貿易統計」より作成。
r
雁行型経済発展の国際的伝播 ㈹
9
75
年頃そのピークに達 し,以降漸減 している。続いて機械産業の
こったが,1
9
7
5
-85
年に急成長 したが以後漸落に転 じた。本稿図 6が想定 している
輸出が1
雁行塑産業発展 (日本側)の きれいな反映に他ならない。
繊維産業については図 8が,機械産業については図 9が,雁行型産業発展が
日本一NI
Es
-ASEAN4-中国の順 に, しか も両産業の間でt
i
mel
agをおいて,
国際的伝播 をとげたことを見事 に描 き出 している。まさにわれわれの図 6の想
定 したものなのである。
ここで通産白書は図 8,図 9について次の点に注 目する。後発開放経済化 ・
,
大工業化国である中国では 「
繊維産業が1
9
8
0
年代後半か ら国際競争力 (
つま
り輸出 ・内需比率) を高めるとともに,機械産業 も1
9
9
0年代半ばより急速に国
際競争力を高めている。
」つ ま り 「
中国が生産面及び輸出面での量の拡大に加
えて,比較的労働集約的な繊維産業か ら,比較的技術集約的な機械産業に至る
」
まで (
殆ん ど同時に一挙 に)国際競争力 を向上 させている 「これは,東アジ
アの発展形態が従来の雁行形態的発展か ら,新 しい発展形態に変化 しているこ
とを示 している。
」(
p.1
7
)。またp.4の 「
要 旨」においてはこう言 う。『
比較
(
%)
1
4
0
1
2
0
1
0
0
8
0
6
0
4
0
2
0
0
▲2
0
▲4
0
8
0
8
5
9
0
9
5
図 8 東アジアにおける繊維
際競争
9
8
(
辛)
産業の国
力の推移
(
備考) 比率は図
7
(
資料) アジア経済研究所
AI
D
に同じ。 「
「
I
S
D」 より
UNI
DO.
XT」
,
(
出所) 『
通商 自書2
0
01
』p.
作成O
駿河台経済論集 第1
1
巻第 2号 (
2
0
0
2
)
的労働集約的な繊維産業に加えて比較的技術集約的な情報機券関連産業まで幅
広い分野において急速に生産能力を拡大 させた中国の発展によって,東アジア
の発展形態は今まで見 られた雁行形態的発展から,必ず しも国の発展段階によ
る棲み分けが行われない,新 しい発展形態に変化 していることを示 している。
』
「
従来の雁行形態的発展」 とは何 を意味するのか明瞭でないが,われわれの
i
mel
a
gをおいた順次的多
図 6が想定するような,産業 ・輸出構造の,一定のt
様化 ・高度化を指すのであるとすれば,中国のような大 きな経済が,外国直接
投資の支援をえて急速な工業化をするときには,多数の産業が一挙に,給花的
に勃興 し,輸出化することは決 して不思議ではない。大国であるか ら既に工業
化が相当に進んだ沿海部 と,これから農業の改革,繊維工業のたち上げを始め
9
6
0
-1
9
7
4
年にはそうであった。
ねばならない奥地 とが併存 している。 日本でも1
したがってわれわれの 「
雁行形態的発展」 と矛盾するものではな く8
)
,その分
析の枠内にあると言えよう。
他方,通産自書の言う 「
新 しい発展形態」が何であるかを知 りたい。 「
要旨」
」促進の必要性 という
の引用か ら察すると,それは 「
産業内水平分業 (
貿易)
ことではあるまいか。図 8や図 9に見 られるように,東アジア (日本を含む)
各国の産業 ・貿易構造は次第に同質化 し,巨大な中国経済の参入 もあって,戟
争が激化 し,摩擦が増えて くる。それを回避 し,相互貿易を再拡大する方策が
産業内水平分業 (
小島の言う合意的国際分業)なのである。またそれを促進 し,
連関効果を深め,地域全体の好循環発展を誘導するのが中間財貿易の促進であ
,『通産自書2001』 (pp.7-
る。 この中間財貿易の分析 を前進 させているのが
8)のもう 1つの重要な貢献である。われわれも 「
雁行型経済発展論」の第 3
部として,こうした 「
同質化経済間の貿易 ・投資拡大」問題に取組 まねばなら
ないのである。
6
.3 雁行型発展の地域的伝播論の拡充
1
9
9
7
年 7月にタイか ら始った危機は,明かに短期資本の過剰流入 とその急激
な引揚げ (
投機による撹乱が大 きい) という金融通貨恐慌であった。高度成長
を成功させてきた東アジア経済の実体,それを支えてきた雁行型経済発展論が
誤 りであったわけでは決 してない。だが金融通貨恐慌 を契機にまき起ったコメ
ントを念頭において 「
直接投資前線の拡延」 (
図 6) という私の概念図につい
-2
6-
雁行型経済発展の国際的伝播 何
て, 2, 3の拡充を補足 してお きたい。
6
.
3
.1 -国産業の継起的 (
S
e
gu
en
t
i
al
)発展
これには自然の順序 (
na
t
u
r
a
lo
r
de
r
)があ り,それに従った方が,順調にし
てより速い成長が達成で きるとわれわれは期待 している9
)
。所得水準が高 まる
につれ,食,住,衣 さらにレジャーといった順序,或いは租 なる必需品か ら高
級賛沢品へ と,需要は多様化かつ高度化 してい く。需要側変化 とマ ッチ して産
業構造 を高度化 してい くべ きである。資本蓄積が進むのに応 じて, Ⅹ- Y- Z
--とより資本 ・知識集約的産業へ一歩一歩前進すべ きである。必要な人的資
本やインフラも長期間をかけてはじめて蓄積 ・整備 されるのである。
香港 (
人口4
5
0
万) とかシンガポール (
3
5
0
万人) という極小規模の中継都市
経済において,農業はきわめて少 く (
土地の制約か ら),大規模生産 を要する
鉄鋼業や 自動車アセ ンブリーが引合わないのは当然である。そういう 2地域の
dかつExpo
r
t
1
e
dの
例外 はあるが,他の東 アジア諸国では図 6に別 してFDHe
発展が成功 したと言ってよいのである。 また或る産業が,赤松雁行形態論の言
うように,輸入か らスター トするのでな く,輸入することなしに,多国籍企業
による技術導入 を桂子 にして直ちに生産 と輸出を始めるようになった, とのコ
メントも出されている。加工貿易立国がね らいであるなら,これも当然の結果
である。
6
.
3
.2 雁行型伝播の重層化
東アジア地域諸経済 と貿易 ・直接投資を拡大 したいと強い関心 を懐いて来た
先導雁 は, 日本だけでな く米国やEU (
欧州連合) とい う強大な競争国 もあるO
これ ら先進国に加 うるに,1
9
80年代か らNI
Es(
韓国,台湾,香港,シンガポー
ル)が,次いで 1,2
のA
S
EAN諸国 (マ レーシア, タイ)が投資国の地位 に
加わ り (
サブ ・リーダー雁 とな り), 日 ・米 を上回る程の近隣経済への投資急
拡大を果た している。東アジアへの直接投資構造 はこの意味で も重層化 してき
たのである。
こうなる と,先進国相互間,先進国 とサブ リー ダー との間,お よびサブ ・
リーダー相互間で,海外直接投資が可能になった類似産業 (
大範噂)について,
直接投資 とその製品の輸出について激 しい競争が まき起る。お互に,最小最適
d
i
f
f
e
r
e
nt
i
a
t
e
d
)商品
規模生産が達成で きるように,い くらか違 った差別化 (
或いは得意 (
n
i
c
he
)商品の生産に,お互に合意的分業を進め,産業内 (
i
nt
r
a
7-2
駿河台経済論集
第11
巻第 2号 (
2
0
0
2
)
小島 1
9
7
0
a,Ko
j
i
ma 1
9
7
0
b;
i
ndus
t
r
y)貿易 を拡大することが勧め られる (
Pe
t
r
i1
9
8
8
)
0
エ ドワー ド・チェ ン (
1
9
9
6
) はこう言 う。今や Ⅹ-Y-Zといった順序正 し
い雁行型産業移植ではな くなった。多国籍企業は,その生産 と販売のネット
e
nc
l
a
ve
)的拠点つ まり輸出プラッ
ワーク作 りのため,最適の立地に飛び地 (
トフォームを曲芸飛行の編隊 (
a
c
r
o
ba
t
i
cpa
t
t
e
r
n)のように形成する。雁行型
9
9
9を見 よ),演
ではなくアクロバ ット型 という真意はよく分 らないが (
阿部 1
似商品生産についての水平分業にあてはまる。大範噂産業の長期的高度化につ
いては,各国の発展段階差に従って,順序ある雁行型産業移植が行われ,垂直
的国際分業 と貿易が拡大すると期待 される。
もう一つ,後続雁の方がこれまでの先導雁より品目によっては先行するよう
pi
o
ne
e
r
の逆転) と指摘 される。I
T(
情報技術)の普及におい
になって来た (
てシンガポールが 日本を上回ったこと,中国が 日本を上回るか もしれないこと
がこの例 として挙げられる。た しかにそういう逆転は,細い商品分類においで
は起 りうることだし,むしろ奨励 される。だが雁行型発展論そのものの妥当性
を崩壊 させるわけではない。
I
T革命について私のコメントを追加 しておこう。I
T(
情報技術)は一つの
kno
wl
e
dge
)体系」であって,われわれの図 6における大範噂産業の
「
知識 (
Tのハー ドウェアはZ産業 とし
一つではない。コンピューター,半導体などのI
T自体は,情報の空間的伝達 を迅速化 し
て図に組み入れ られている。 しか しI
t
r
a
ns
a
c
t
i
o
n)- とくに金融,流通,直接投資な
グローバルに広げ,経済取引 (
ど-のコス トを引下げる 「
取引媒介手段」である。その役割は,輸送費の節約
や,関税その他の国境での貿易障害の軽減,撤廃 と同じ性格の貢献を果たす。
それ らによって,市場を拡大 し,取引コス トを軽減 し,取引量を増大 させる。
Tは,生産方法,経営方式の合理化,能率化 に役立つ 「
技術革新」
もう一つI
Tはむ しろ技術革新の役割の問題であ り,図 6
の継
でもある。この ように,I
起的産業高度化の問題ではないと解釈 してお きたい。それ故
「
I
T革命」の効
,「内部化 (internalization)の理論」
果は他の取引コス ト節約の問題 とならんで
j
i
ma 1
9
9
2;小 島
によって分析するのが,最 も有効であろう (
次 を見 よ,Ko
1
9
9
6 第 8章)
0
6
.
3
.3 日本の責任
-2
8-
雁行型経済発展の国際的伝播 何
1
9
9
7
年 7月にタイか ら始 まった東アジアの通貨 ・金融危機 (
ほぼ 2カ年で克
服 された) を契機に,雁行型経済発展の地域的伝播 は行 きづ まったと言 うよう
に,一転 した低評価 もあ らわれた。 日本経済のバブルが1
9
9
0
年代初期には じけ,
長期不況に陥ったことが,この伝播 の最大のつ まづ きとなった。 日本は新産
業 ・新生産方法を創造 し東アジア経済全体のフロンティア拡大に成功 していな
い。それは先のI
T関連産業であろうか。それ とも中小型の航空機生産であろ
うか。それ ともバイオ関係,或いは医薬品であろうか。いずれにして も先導国
日本が新革新産業を生み出 し,地域全体の累積的発展のフロンティアを拡大 し
なければならない。これは急務である。 リーダー雁が しっか りしなければなら
ないのだ。
そのうえ, 日本の貿易 ・投資の 自由化は十分に行われていないことが問題で
o
p
e
n
n
e
s
)の-指標 として,輸出入合計額のG
DP
比
ある。国民経済の開放度 (
率 をとると,米国は1
9
1
3
年1
1
.
2
%,1
9
7
3
年1
0.
5
%であったものが,1
9
9
5
年には
1
9
.
0
% に高 まり,米国経済のグローバル化進展 を反映 している。これに対 し日
本ではそれぞれ3
1
.
4%,1
8
.
3
%,1
4.
1
% と逆に貿易依存度を低めている。 しか
も日本は巨額の出超傾向に陥っている。東アジア経済を牽引 してい くため,ま
た米国との貿易摩擦 を少 くするためには, E
I
本は輸入市場 を大幅に開放 ・拡大
する必要がある。他方, 日本の対外直接投資は巨大 なものになったが,対内投
資の受入れはいまだ著 しく低い水準にとどまっている。数字の上だけでな く,
その根底にあるわれわれの経済ナショナリズム,或いはグローバル観 といった
ものが根本的に問い直 されねばならない時代 に来ている。o
p
t
i
mu
mo
p
e
n
n
e
s
s
といったテーマが究明されねばならない。
雁行型経済発展は,図 6に従って,既 に韓国,台湾,香港,シンガポール,
マ レーシア,タイにはかな り広範に伝播 し,それ らの所得水準を準先進国並み
に高めた。 イン ドネシア,フィリピン,そ して中国への伝播が遅れている。そ
れ を越 えてASEANの新 メ ンバー (
ベ トナム,カ ンボ ジア,ラオス, ミャ ン
マー),さらにイン ド,パキス タン,ス リランカなどへ雁行型経済発展 を波及
させる必要は大 きい。
だが,外国資本 ・外国技術依存の輸出主導成長方式 をどこまで続けうるかと
の反省が東アジア諸国で生 まれている。そ うい う 「
見せかけの発展」でな くし
て, 自らの貯蓄に基づ く投資, 自国による技術革新, 自国企業による 「自力経
-2
9-
駿河台経済論集
第1
1
巻第 2号 (
2
0
0
2
)
済発展」に転 じなけらばならない。中国の内陸開発などについてはことさらそ
うである。ここにも,雁行型発展の国際伝播方式の限界が見出さえる。だが も
ともと,外国直接投資受けいれは,後続国経済発展の起動力にす ぎず,総投資
のごく一部にす ぎない。それが行 き過 ぎにならないように注意せねばならない
pt
i
mum o
penne
s
sを考慮に入れつつ,外資を有効に活用することは依然
が,o
として必要不可欠である。
6
.4 地域統合の役割
雁行型発展の国際的伝播を積極的に成功 させるためには,近隣諸国グループ
r
e
gi
o
na
li
nt
e
gr
a
t
i
o
n) を基盤 とするのが よい。それはEU
か ら成る地域統合 (
(
欧州連合) やNAFTA (
北米自由貿易協定) のごとき制度的 (
i
ns
t
i
t
ut
i
o
na
l
)
に確立 されたものもあるが,東アジアにおける事実上の機能的 (
f
unc
t
i
o
na
l
)
統合 もある。ここでは 「日中韓 +ASEAN(
1
0
)
Jとい う 「アジア経済圏 :A
si
a
n
Ec
onomi
cCo
mmuni
t
y」を対象にお くことにする (
小島2
0
01
,第 4章 :2
0
0
2
.
1参照)0
雁行型発展の伝播が始発するためには,参加諸国の門戸が開放され,貿易が
自由化 され,相互に輸入市場を与え合わねばならない。それによる域内貿易の
FTA)の締結によ
拡大が,地域的発展伝播の第一歩 となる。 自由貿易協定 (
る (
それが制度的地域統合)域内関税の全廃が望ましいが,そうでなくても,
各国経済発展段階に応 じた自由化が,機能的統合でも順次推進される。それが
地域統合の第 1の役割である。
地域統合は,国境 における関税その他の貿易障害の撤廃 とい う浅い (
s
ha
l
-
l
o
w)統合か ら,より深い (
de
e
pe
r
)統合へ進む。貿易拡大の基盤たる各国生
産諸条件 を改善 ・再編成するのである (
c
a
pa
c
i
t
ybui
l
d
i
ng)。それが とくに順
貿易志向的直接投資の拡延によって果たされるのである。経済統合は,資本移
動の自由化,収益の本国送金の保証,外国企業の内国民待遇,工業所有権の保
証などの外国直接投資関連のルールを制定 し遵守 しなければならない0
外国直接投資の導入はホス ト国に広範なスピルオーバー効果を及ぼす。進出
企業は,その優れた生産技術や経営方式をホス ト国の同種企業に普及させその
能率を改善する。必要な関連産業,据野産業を誘発する。金融,運輸,通信,
流通などのビジネス ・インフラ,ならびに道路,港湾,空港,都市などの社会
-3
0-
雁行型経済発展の国際的伝播 何
的インフラの整備 をもた らす。 さらには生産をとりまく労使関係,教育向上,
r
e
法律や議会制度の民主化 ・近代化 をひきおこす。要するに経済全体の改革 (
or
f
m)をもた らすO地域統合の成果は,参加諸 国が どこまで深 くr
e
or
f
mを敢
行するかにかかっている (
Et
hi
e
r1
9
9
8
)
。 この点 において,I
T(
情報技術)辛
e
f
o
r
mを成功 させるかが注 目される。
命が どれ程大 きなr
多国籍企業 (
MNC) は,海外直接投資によってホス ト国で比較優位生産 を
創出で きるという利点を活用 して,統合地域の最適地に最適規模の拠点を立地
i
nt
e
gr
a
t
i
o
n)」を推進することになった。異なっ
するという 「
国際生産の統合 (
i
c
he (
得意)商品を 1つ 1つ異なる最適地で, しか し最適規模で,
た部品やn
分散 して生産 させ,それ ら諸活動 (
販売 も含め) を一つの企業の中にとりこむ
ことによ り,つ ま り内部化 (
i
nt
e
r
na
l
i
z
a
t
i
o
n) によ り,企業全体 として規模の
経済 (
e
c
o
no
mi
e
so
fs
c
a
l
e
)一或いはさらにe
c
o
no
mi
e
so
fs
c
o
peo
rne
t
wo
r
kを実現するのである。内部化 という動 きと同時に,研究開発,調達,生産,販
売,財務 な どの全活動 にわたって,多 国籍企業 間の各種 の協調 ・提携 (
a
l
l
i
-
a
nc
e
)が推 し進め られている。
この ように統合 を深化 させ るためには,何 らかの共同体意識 (
c
o
mmuni
t
y
s
o
l
i
da
r
i
t
y) をもった近隣諸国が地域統合 を形成するのが よい。WTO (
世界貿
易機関)のごときg
l
o
ba
l(
世界大)の膨大な仕組みでは,せいぜい貿易 自由化
といったs
ha
l
l
o
wi
nt
e
gr
a
t
i
o
nは推進で きようが,貿易拡大基盤のr
e
f
o
r
mまで進
めるde
e
pe
ri
nt
e
gr
a
t
i
o
nを敢行するには,地域統合の方がはるかに有効 なので
ある。
第 1に,「日中韓 +AS
EAN」の ごとき近隣諸 国グループである と,お互 に
I
T革命が さら
近距離の隣国同志であるので運輸 ・通信の取引 コス トが低い (
にコス ト・ダウンを導 く)
。 ヒ ト モノ,カネの交流が容易で相互依存が高 ま
る。お互の政治 ・経済問題 を熟知 しあえる。共 同体 (
C
o
mmuni
t
y)意識が醸
成 される。隣人同志であるか ら仲が悪いという面 もある (
兄弟関係のように)
が,隣人の成功に刺激 されて自らも奮起するとい うプライ ドと競争 ・協調の精
神が強 く働 く。
アジア人 (
非西欧人) として,歴史,文明,価値観の大枠の共通性 をもって
いる。 この東アジア地域の集団的安全保障について共同の利害関心 をいだ く。
敗戦か ら復興 した 日本,戦災か ら立直った東アジア諸国,植民地か ら独立 した
- 31-
駿河台経済論集 第1
1
巻第 2号 (
2
0
0
2
)
国々など,極貧の経済か ら,工業化 によって欧米先進国にc
a
t
c
h
-upLようと
した。「
経済発展志向共同体 (
C
o
mmuni
t
y)
」 とい う共通のS
o
l
i
da
r
i
t
y意識が 自
ら誕生 し成熟 したきたわけである。
,
経済発展志向共同体」として成果をあげることが東アジア ・グルー
第 2に 「
プの最優先の課題である。米国やWTOの要請する貿易 自由化はその一手段 に
す ぎない。貿易拡大の基盤を再構築する,より深い (
de
e
pe
r
)地域統合が必
要不可欠である。それを敢行するに当って直面する困難は,東アジア ・グルー
プの多様性である。国 (
人口と面積)のサイズ,経済発展段階,一人当 り所得
水準,GDP総額,企業 と国民経済の組織 ・運営 といった面で諸国間に巨大な
格差があ り,多様性に富んでいる。ここで,そのような発展段階差を認めた上
で,地域的発展の好循環をもたらしうるとする原理が 「
雁行型発展の地域的伝
播」の理論に他ならないことを想起 されたい。このモデルに従って東アジア経
済の発展を推進 してほしいものである。
欧州
付言するならば,欧州の地域統合は,就中最初の 6カ国によるEEC (
経済共同体)に見られるように,類似発展段階の等所得水準国間の域内貿易 自
由化による,一物一価の絶対的競争の世界の実現を日ざしていた。参加国間の
発展段階差 とか所得水準差を考慮する比較生産費的発想は含まれていない。単
一市場の形成,共通通貨ユーロの成立などのその後の統合の味化においても同
様であるO各国生産基盤のリフォームの理論を欠いているO.
むしろ絶対的競争
a
gg
l
o
me
r
a
t
i
o
n),他の地点の空
の結果,立地条件の有利な地点への産業集積 (
洞化,そ して所得格差の拡大が生 じている (
次を参照 :藤田ほか 2
0
0
0
,Wa
l
∑
1
9
9
9
)
。欧州型の地域統合形態やその理論を,異発展段階国間の東アジア統合
に安易に適用することが許されない所以である。
なおGATT/WTOも,発展段階のほほ等 しい先進国経済を対象 とし,絶対
的競争原理による貿易交渉の手続を設定 していると言える。従って南北問題は
St
a
i
ge
r2
0
0
0を見よ)
0
十分に考慮されていないのである (
第 3に,後続国がキャッチアブに成功するにつれやがて東アジア地域の諸経
済は等発展段階に達する。それは望 ましいことである。すべての業種でな く
キャッチアブした産業について競合が生 じ,産業内分業 (
ないし合意的地域内
Ha
r
r
o
d1
9
6
2
,p.1
6
;Myr
da
11
9
5
6
,p.2
5
9
,2
6
1を見よ)
。そ
分業)が有効になる (
ういう意志決定は経済発展志向の共同意識をもつ地域統合においてはじめて実
-3
2-
雁行型経済発展の国際的伝播 閏
施できる。A国とB国がそれぞれ違った品種の生産に特化 し, 2国合計の需要
をみたすように,最適生産規模を大 きくすれば,コス ト=価格を大幅に引下げ
9
6
5
年に成立 した
えて,域外か らの競争を容易に排除 しうる (
詳細 は次稿)0 1
米加 自動車協定はその成功例であ り,それが1
9
88年に調印された米加 自由貿易
協定の動因となった。
ASEANでは,AI
CO (
ASEAN i
ndus
t
r
i
a
lc
oope
r
a
t
i
ons
c
he
me:アセアン産
業協力スキーム)が1
99
6
年1
1月から発動 され,自動車部品など中間財は,ゼロ
ないし低い特恵関税で域内で調達するなどの促進措置が講ぜ られつつある。さ
らに1
99
8年には,ASEAN域内分業の促進 を協議するASEAN経済産業協力委
員会 (
AMEI
CC)が活動を開始 した。
すべては,企業の採算に合 うプロジェク トによって実現されてい くのである
が,東アジア全体の地域内分業をいかに形成 し,そのフロンティアを拡延 Lか
つ深化 していくかが,これか らのアジア経済圏の課題である。
第 4に,自由な貿易 は,統合地域 内に限 らず,で きるだけ広 く,世界大
(
gl
oba
l
)に拡延 した方がその利益は大 きい。域内では入手できないもの,刺
高なもの もある。NAFTA (
北米 自由貿易協定) とくに米国や,EU (
欧州連
令) ち,アジア経済圏製品の市場 として,また資本 と技術の提供者として,必
要不可欠である。 したがってアジア経済圏が 「
ope
nr
e
gi
ona
l
i
s
m :開かれた地
域主義」を採 り,域外非加盟国をMFN (
最恵国)無差別待遇するのは正 しい。
NAFTAやEUが,GATT2
4条を盾に,域外国を差別待遇 し,f
or
t
r
e
s
s(
要塞)
を造ることこそ正 しくないのである。開かれた地域主義を原則 とするとは言え,
アジア経済圏はその運営において,域内貿易の拡大 と城内経済開発を優先する
方策を先ず もって推進することは言 うまでもない。 と同時に対域外関係はその
補完 として重視 していかねばならないのである。
最後に,三極世界 (
Tr
i
ad)経済秩序の問題が残 る。共通通貨ユーロを使 う
EU (
欧州連合)が巨大な地域統合ブロックとして深化 と拡大を続けている。
それを上回ろうとして米国はNAFTAを拡大 してFTAA (
全米 自由貿易圏)杏
2
0
0
5
年 目標)
。これ らと対等な三極構造の一極 となる
結成 しようとしている (
べ く 「アセアン+日中韓」が経済発展志向共同体 としての 「アジア経済圏 :
As
i
a
n Ec
ono
mi
c Communi
t
y:AEC」を形成すべ きことは,われわれ東アジ
ア ・グループの重大共通関心事である。われわれは,中南米 と同様に,米国勢
-3
3-
駿河台経済論集
第11
巻第 2号 (
2
0
0
2
)
力 圏 に飲 み込 まれ るわけにはいか ない。独 自の一極 た りうるはず である。 それ
には上述 の ご と く経済発展志 向 に専念すべ きであ る。 また アジア通貨機構 の ご
とき通貨 ・金融 問題か らの接近 も急がれね ばな らない。
oba
l
な通 商秩 序 , また
米 州,欧州,そ れ に ア ジア とい う三極 を総 括 す るgl
ユ ー ロ, ドル, ア ジア通貨が どの ような形 に展 開 してい くか は もう一つ の重大
関心事 である。 ここで も同質化 世界経済 の下 での国際協 調 の秩 序が樹 立 されね
ばな らないのであ るO これ も次塙 の主要課題 の一つであ る。
注
3)赤松輸入供給乗数論のオ リジナルは,赤於要 「
貿易乗数論 と供給乗数論」一橋
論叢 1
9
4
8
.1
2:Aka
ma
t
s
uKa
na
me
,`
`
TheThe
o
r
yo
f`
Suppl
y
Mu
l
t
i
p
l
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nRe
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-
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so
ft
heHi
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ot
s
u
ba
s
hi
Ac
a
de
my,
No
.1
,Oc
t
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.であるO小島清による次の 2論文でエラボ
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,
レー トされた。小島清 「
需要乗数 と供給乗数」同著 『
開放経済体系』文鼻堂,1
第 4章。Ko
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井上義朗 (
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9
) エ ヴオルーシ ョナ リー ・エ コノ ミクス :批評的序説』有斐
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閣,第Ⅵ章 (
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1
9
以下)が,カル ドアが フェア ドー ンの動態効果論 を高 く評価
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し活用 していることを,見事に解明 している.(
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s.笹原昭五 ・高木邦彦 ・松本浩志 ・薄井正彦訳 『
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.
経済発展そ して国際問題』 日本経済評論社 ,2
5)私の 「
比較成長率原理」を想起 されたい。小島清 『
外国貿易 ・新版』春秋社,1
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6)なかんづ く,Uni
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ならびに浦田秀次郎 (
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)が積極的な支持を与えているo
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rV 「アジア経済の連環的再編成」は,私の畏友,コロラ ド州立大学
前者のCh
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eによるもので,雁行形態論を高 く評価 している。同教授は
の小棒輝智教授のa
-3
4-
雁行型経済発展の国際的伝播
阿
(
20
01
) で, (
小島モデルよ りも詳 しい) 4段 階に分 けた 「
産業構造高度化 とその
海外伝播」 なるモデルを提示 している。 さらにまた,雁行型経済発展 の金融 的側
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)
本文に紹介す るものに加 うるに,次が重要である。青木健 (
20
0
0)。経済企画庁
調査局編 (
200
0)。小島清 (
1
99
8.ll
)。 日本経済研究セ ンター (
1
9
9
9)
。末簾昭 (
2
00
0)0
中兼 (
1
999
)。 トラン ・ヴ ァン ・トウ (
2
001
)
。富士通総研経済研究所 (
2
001.ll)。
,「キャッチア ップ型工業化論」の構築 を目ざす とし,そ
,「テク
2
00
0) は
7)未贋昭教授 (
p.42
f)。 とくに
の先行研究の一つ として 「
雁行形態論」 を取入れている (
ノジャンプ」 と称 され る,従来の成長プロセスを辿 らない中抜 きの産業構造 の高
度化 (
中国での) を指摘 している。
8)(
1
)
一つの国民経済 における雁行型産業発展 (
生産 の多様化 と能率化),(
2)
雁行型
産業発展の国際的伝播,お よび(
3
)
同質化産業 の水平分業拡大,なる 3局面か ら成
,「その有効性 を
る雁行形態論の全体系 は,第 2局面が行 きづ まったか らといって
0
01,p
p,1
7
0
-71を見 よ)わけではない。む しろ第 2局面
失 う」 (
例 えば小林英夫2
の国際伝播が成功 して諸経済が同質化 した場合の困難 を克服す る手段 を第 3局面
において準備 している。そこに雁行形態論全体系の優れた点が見出される。
9)1
9
5
0-6
0年代 に,重工業化 を優先 させ軽工業 を軽視 したイ ン ド,或 いは戦後長
く軍需生産 を優先 し消費財工業 を軽視 した ロシア (
ソ連) な どの,経済発展 に失
敗 した例が,想起 される。
参照文献 (
追加)
,
伊藤隆敏 (
2
001. 9) 「アジアにおける開かれた地域主義」東アジアへの視点。
富士通総研経済研究所 (
20
01.ll
)『
東 アジア経済 の安定 と持席的成長のための域
内協力j委嘱調査報告o
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.
小島 清 (
1
9
9
4. 9) 「わが国海外直接投資の動態」駿河台経済論集,第 4巻第 1
号。
,「雁行型経済発展の国際的伝播(
且j 駿河台経済論集,第11
20
01
. 9)
小島 清 (
巻第1
号。
-3
5-
駿河台経済論集
第11
巻第 2号 (
2
0
0
2
)
,
(
2
0
0
2
. 1)
,「三極世界構造 とアジア」
小島 清編著 (
2
0
0
1
) 『
太平洋経済国の生成 ・第 3集J文展堂。
小島 清
世界経済評論 (
巻東言)。
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D.
粉本厚治 ・服部民夫編著 (
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0
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)
,『韓 国経済の解剖- 先進 国移行論 は正 しか っ
たか- 』文展堂.
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トラ ン ・ヴ ァン ・トウ/原 田泰/開志雄 (
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) 『
最新 ・ア ジア経済 と日本 :釈
世紀の協力 ビジョン』 日本評論社。
,
2
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1
) 「
東 アジアにお ける貿易 ・直接投資の拡延」小 島清編著 『
太
浦田秀次郎 (
平洋経済圏の生成 ・第 3集』文晃堂,第 3章.
-3
6-