平成 26 年度 解析力学 講義ノート [9](担当:井元信之) 第 3 章 ラグランジュ形式の力学 — 一般編 — 58 2014 年 6 月 26 日 前回の演習問題の答 3.5.1 時間の並進対称性とエネルギー保存則 [問 3.4]2 次元中心力場下での質点のラグランジアンは (2.30) 式より " 同じ実験を今始めても数秒後に始めても一ヶ月後に始めても、まったく同じ結果が得られるであ m! 2 2 2 L= r˙ + r θ˙ − U (r) (1) ろう 。このような再現性がなければ自然科学は成り立たない。言い換えれば物理法則や自然定数は 14 2 また粘性力 Fx! および Fy! は、題意より 時々刻々変わらない。同じ結果が得られないとすれば、制御しきれていないゆらぎが混入している F ! = −kx˙ , F ! = −ky˙ x y か、あるいは時間とともに変化する外力が働いて実験を再現することができない場合である。 (2) なので、散逸関数は いまポテンシャルが時間とともに変化しない場合を考える。その系のラグランジアンは t を陽に含 " k! 2 " k! 2 2 2 2 D= x˙ + y˙ = r˙ + r θ˙ (3) 2 まない。すなわち L = L(t, qj , q˙j ) ではなく2 L(qj , q˙j ) である。このとき (∂L/∂t) = 0 だから、 (1) と (3) を散逸関数のある場合の方程式 (3.127) すなわち " # !" # dL ∂L ! ∂L dqj # ∂L $dqj ∂L dqj ∂L dqj d + ∂L ∂L= ∂D = + + (3.136) − =− (4) dt ∂t ∂qj dtdt ∂∂ qq˙˙jj dt ∂ q˙j dt ∂qj ∂ q˙j∂qj dt j j に代入すると、 ∂L θ について となる。この ∂qj すなわち = にラグランジュの運動方程式を適用すると、 d ! 2 " 2 !$ j d dt " ∂L ∂ q˙j # mr θ˙ − 0 = −kr θ˙ dt ! ∂L dqdj ! 2 " d ! ∂L d ! " k q˙j + pj q˙j r=θ˙ = − r2 θ˙ q˙j = dt ∂ q˙j dt dt mj ∂ q˙j dt " j! % (5) (3.137) (6) k を得る。面積速度はその意味から 12 r · r θ˙ = 12 r2 θ˙ であるから、これは面積速度が exp − m t で減衰することを 意味する。 となる。 (3.136) と (3.137) の両端を結ぶと なお面積速度は問 1.3 の記述「原点から引いた線分が dt の間に掃く面積は 1 (xy˙ − y x)dt ˙ 」からも 2 ! ! " ! "& 1 1% (xy˙ − y x) ˙ = r cosdθ r˙ sin θ + r θ˙ cos θ − r sin θ r˙ cos θ − r θ˙ cos θ = 2 2 pj q˙j − L = 0 dt 1 2˙ r θ 2 (7) (3.138) j と求まる。 である。そこで新たに H≡ 58 ! j pj第 q˙j − L ラグランジュ形式の力学 — 一般編 (3.139) 3章 — と定義すると、 (3.138) は H = const. を意味するので、H は運動の積分(系の保存量)となる。こ 3.5.1 時間の並進対称性とエネルギー保存則 の H を ハミルトニアン(Hamiltonian)と呼ぶ。すなわち「ラグランジアンが時間の並進対称性を 同じ実験を今始めても数秒後に始めても一ヶ月後に始めても、まったく同じ結果が得られるであ 持つ」という仮定だけから H の保存則が導かれた。この H が T + U すなわち全エネルギーに等し ろう14 。このような再現性がなければ自然科学は成り立たない。言い換えれば物理法則や自然定数は いことを見て行こう。 時々刻々変わらない。同じ結果が得られないとすれば、制御しきれていないゆらぎが混入している いまデカルト座標から一般座標への座標変換は時間を含まないとする。このときラグランジアンは、 か、あるいは時間とともに変化する外力が働いて実験を再現することができない場合である。 1! いまポテンシャルが時間とともに変化しない場合を考える。その系のラグランジアンは t を陽に含 L(x1 , · · · , xn , x˙ 1 , · · · , x˙ n ) = mi (x˙ i )2 − U 2 i まない。すなわち L = L(t, qj , q˙j ) ではなく L(qj , q˙j ) である。このとき = 0 だから、 * (∂L/∂t) + ! # ! ∂x"i ! ∂xi 1 " # mji ! q∂L ˙j dqj dL ∂L ! ∂L dq= ∂L dq ∂L q˙dq k j −U j = + +2 i =j ∂qj + ∂qk (3.136) dt ∂t ∂qj dt ∂ q˙j dt ∂qj dt k ∂ q˙j dt j j 1 ! ! ∂xi ∂xi = mi q˙j q˙k − U (3.140) ∂L 2 ∂qj ∂qk となる。この ∂q にラグランジュの運動方程式を適用すると、 j,k j i % のようになる。ここで一般座標における質量テンソル M を jk ! $ d " ∂L # ! ! ∂L dqj d ∂L d = q˙j + = q˙j = pj q˙j ! ∂x dt ∂ q ˙ ∂ q ˙ dt dt ∂ q ˙ dt j j j i ∂xi j j j Mjk (q1 , · · · , qn ) ≡ mi ∂qj ∂qk i となる。(3.136) と (3.137) の両端を結ぶと で定義すると、ラグランジアンは ! d != 0 pj q˙1j − L 1 L(q1 , · · · , qndt , q˙1 , · j· · , q˙n ) = Mjk q˙j q˙k − U 2 (3.137) (3.141) (3.138) (3.142) j,k である。そこで新たに となる。 14 量子力学における単一事象の観測を除く。 H≡ ! j pj q˙j − L (3.139) と定義すると、(3.138) は H = const. を意味するので、H は運動の積分(系の保存量)となる。こ の H を ハミルトニアン(Hamiltonian)と呼ぶ。すなわち「ラグランジアンが時間の並進対称性を d dt である。そこで新たに j H≡ pj q˙j − L = 0 ! j (3.138) pj q˙j − L (3.139) と定義すると、(3.138) は H = const. を意味するので、H は運動の積分(系の保存量)となる。こ の H を ハミルトニアン(Hamiltonian)と呼ぶ。すなわち「ラグランジアンが時間の並進対称性を 持つ」という仮定だけから H の保存則が導かれた。この H が T + U すなわち全エネルギーに等し いことを見て行こう。 いまデカルト座標から一般座標への座標変換は時間を含まないとする。このときラグランジアンは、 1! mi (x˙ i )2 − U 2 i * + ! ∂xi ! ∂xi 1! mi q˙j q˙k − U 2 i ∂qj ∂qk j L(x1 , · · · , xn , x˙ 1 , · · · , x˙ n ) = = k 1 ! ! ∂xi ∂xi mi q˙j q˙k − U 2 ∂qj ∂qk i = (3.140) j,k のようになる。ここで一般座標における質量テンソル Mjk を Mjk (q1 , · · · , qn ) ≡ で定義すると、ラグランジアンは ! mi i L(q1 , · · · , qn , q˙1 , · · · , q˙n ) = ∂xi ∂xi ∂qj ∂qk (3.141) 1! Mjk q˙j q˙k − U 2 (3.142) 2 j,k 14 量子力学における単一事象の観測を除く。 3.5. 対称性と保存則 59 となる。 さてハミルトニアンとの関係を見るのであるから、ここでポテンシャル U が座標の時間微分を含 まず座標のみの関数であるとしよう。(3.142) の U は U (q1 , · · · , qn , q˙1 , · · · , q˙n ) でなく U (q1 , · · · , qn ) となる。すると pm ≡ 1! ∂L = ∂ q˙m 2 j,k ! ! ! 1 Mjk (δjm q˙k + q˙j δkm ) = Mmk q˙k + Mjm q˙j = Mmk q˙k (3.143) 2 j k k となる。最後の等式は質量テンソルが対称テンソルであることを用いた。これを使うと (3.139) は、 ( 3.142) も援用して、 H≡ ! j pj q˙j − L = !! j k Mjk q˙k q˙j − L = 2(L + U ) − L = T + U (3.144) となって、エネルギー保存則が一般的に導かれた。 ポテンシャルが時間に依存する場合に、そのポテンシャルを作っているもののエネルギー変化を無 視して系のエネルギーだけ見るならば、そのエネルギーは保存しない。しかし全エネルギーを見るな らば保存する。その保存の由来は、全系の再現実験を今日行おうと明日行おうと変わらないという時 間の並進対称性にある。 3.5.2 空間の並進対称性と運動量保存則 ラグランジアンに空間的並進対称性があるとしよう。この節から 3.5.4 節までは質点の番号を i と し、質点 i の位置ベクトルを ri とする。いま ri を新たに ri +δri に変えたとしよう。どの質点も(i にかかわらず)一斉に δri = ∆r(∆ は微小な数、r は定ベクトル)だけ動かしたとしても、それに らば保存する。その保存の由来は、全系の再現実験を今日行おうと明日行おうと変わらないという時 間の並進対称性にある。 3.5.2 空間の並進対称性と運動量保存則 ラグランジアンに空間的並進対称性があるとしよう。この節から 3.5.4 節までは質点の番号を i と し、質点 i の位置ベクトルを ri とする。いま ri を新たに ri +δri に変えたとしよう。どの質点も(i にかかわらず)一斉に δri = ∆r(∆ は微小な数、r は定ベクトル)だけ動かしたとしても、それに 伴うラグランジアンは変化しないから、 δL = N N ! ! ∂L ∂L · δri = ∆r · =0 ∂r ∂r i i i=1 i=1 である。微小変位ベクトル ∆r は勝手にとってよいので、これは ラグランジュの運動方程式より N N N ! ! ∂L d ∂L d ! ∂L = = =0 ∂ri dt ∂ r˙ i dt i=1 ∂ r˙ i i=1 i=1 ⇒ これは全運動量保存則にほかならない。 &N ∂L i=1 ∂ri (3.145) = 0 を意味する。すると N N ! ! ∂L = pi = const. ∂ r˙ i i=1 (3.146) i=1 もし外力やポテンシャルが空間の位置に依存する場合、それを作っているものの運動量変化を無視 して系の運動量だけ見るならば、その運動量は保存しない。しかし全運動量を見るならば保存する。 その保存の由来は、全系を再現する実験を宇宙のどこで行おうと変わらないという空間の並進対称 性にある。 第 3 章 ラグランジュ形式の力学 — 一般編 — 60 3.5.3 空間の回転対称性と角運動量保存則 ラグランジアンに空間の回転対称性があるとしよう。微小回転 δφ に対しラグランジアンは変化し # で表す。すなわち δ φ # を回転軸とし、回転角は δφ ≡ |δ φ| # であ ない。微小回転を微小回転ベクトル δ φ る。ベクトル解析では角速度ベクトルを図 3.4 右図で表すが、その回転運動を δt だけ行い、ω # δt のこ # としたと思えばよい。 とを δ φ !"#$%&!! !' *-.#$%&! !' "! !!! ()*+!!! ()*""!!! !' !' ! !!""+,!! #' #$!"!""$#"!' #' !!!"!!!"#"!' !' !' "' "' 図 3.4: 微小角 δφ の回転 回転前の質点 P の位置ベクトル r およびその時間微分 r˙ は、δφ の回転後は ! " #×r , r + δr = r + δ φ となる。これに対しラグランジアンの変化は δL N $ # ∂L ! " # × r˙ r˙ + δ r˙ = r˙ + δ φ % # $ %' N & " ∂L dpi ! # dri # = · δri + · δ r˙ i = · δ φ × ri + pi · δ φ × ∂ri ∂ r˙ i dt dt i=1 i=1 % N $ N # # dpi dri #· #· d = δφ ri × + × pi = δ φ (ri × pi ) dt dt dt (3.147) (3.148) (3.149) ! " #×r , r + δr = r + δ φ となる。これに対しラグランジアンの変化は · δri + ∂L · δ r˙ i ∂ r˙ i % (3.147) $ %' N & " # dpi ! # # × dri · δ φ × ri + pi · δ φ ∂ri dt dt i=1 i=1 $ % N N # # dpi dri #· #· d = δφ ri × + × pi = δ φ (ri × pi ) dt dt dt i=1 i=1 δL = N $ # ∂L ! " # × r˙ r˙ + δ r˙ = r˙ + δ φ = (3.148) (3.149) # は任意に選べるので、これは となる。微小回転ベクトル φ N # i=1 (ri × pi ) = const. (3.150) を意味する。これは角運動量保存則にほかならない。 もし外力やポテンシャルが空間の方向に依存する場合、それを作っているものの角運動量変化を無 視して系の角運動量だけ見るならば、その角運動量は保存しない。しかし全角運動量を見るならば保 存する。その保存の由来は、全系を再現する実験をどの方向に向いて行おうと変わらないという空間 の回転対称性にある。 3.5.4 ネーターの定理 3.5.1 節から 3.5.3 節までの話を一般化したのがネーターの定理である。いま一般座標 q に対し、あ るパラメーター α — これは 3.5.2 節では ∆ に相当し 3.5.3 節では δφ に相当する — で特徴づけられ る変換 q → q(α) を考える。この変換に対しラグランジアンが不変であるためには dL(q(α),q(α)) ˙ dα =0 ということになり、 dL(q(α), q(α)) ˙ ∂L(q(α), q(α)) ˙ ∂q(α) ∂L(q(α), q(α)) ˙ ∂ q(α) ˙ = + =0 dα ∂q(α) ∂α ∂ q(α) ˙ ∂α (3.151) 第 3 章 ラグランジュ形式の力学 — 一般編 — ( ( ( ∂L(q, q) ˙ ∂q(α) (( ∂L(q, q) ˙ ∂ q(α) ˙ ( + (3.152) ( ( q(α)) ∂q ∂α ∂ q ˙ ∂α dL(q(α), q(α)) ˙ ∂L(q(α),α=0 q(α)) ˙ ∂q(α) ∂L(q(α), ˙ ∂ q(α) ˙ ( ( $ % $α=0 %= 0 = + (3.151) dα ˙ d ∂q(α) ((∂α d ∂L(q, q) ˙ ∂q(α) ∂q(α) (( ∂α ∂L(q, q) ˙ ∂ q(α) = + (3.153) ( dt ∂q ∂α α=0 ∂ q˙ dt ∂α (α=0 である。ここで α → 0 とすればこれは ( $ % ( d ∂L(q, q) ˙ ∂q(α) ! ! ( = ∂L(q, q) =q) (3.154) ! ˙ ∂q∂q(α) !!∂α ( ∂L(q, ˙0 ∂ q(α) ˙ dt ! +α=0 (3.152) ! ! ∂q ∂α α=0 ∂ q˙ ∂α α=0 ! ! " # " # ! d ∂L(q, q) ˙ ∂q(α) ! ∂L(q, q) ˙ d ∂q(α) !! = + (3.153) dt ∂q ∂α !α=0 ∂ q˙ dt ∂α !α=0 ! " # d ∂L(q, q) ˙ ∂q(α) !! = =0 (3.154) dt ∂q ∂α !α=0 $n となる。いま一つの一般座標 q についてこのようになったので、qj (j = 1, 2, · · · n) の場合は適宜 j 58 である。ここで α → 0 とすればこれは が入り、最終的には となる。すなわち ! n d ' ∂L(q, q) ˙ ∂q(α) !! =0 ! dt ∂q ∂α α=0 j ! n ' ∂L(q, q) ˙ ∂q(α) !! = const. ∂q ∂α !α=0 j (3.155) (3.156) となる。これがネーターの定理(Noether’s theorem)である。 たとえば空間の並進対称性の場合は α = ∆ として、ri (∆) = ri + ∆r とすれば、(3.156) 式は (3.146) を導く。また空間の回転対称性の場合は、α = δφ として、極座標(z も含めれば円筒座標) で xi (δφ) = ri cos(θi + δφ) および yi (δφ) = ri sin(θi + δφ) とすれば、(3.156) 式は (3.150) を導く。 59 第 4 章 ハミルトン形式の力学 59 59 第 4 章 ハミルトン形式の力学 微分方程式になった。しかし 3.2.2 節のパラメトリック励振を扱ったとき、振り子の振れ角 θ に関す ラグランジュ形式の力学ではニュートン力学と同様、具体的な運動方程式は座標 x や q の 2 階の る 2 階の微分方程式 (3.66) を解く代わりに、(3.67) のように θ とその時間変化 v に関する 1 階の連 立微分方程式に分解した。そうしたのは定数変化法で振幅と位相の微分方程式にするときに、θ の 2 階の微分方程式を使うより θ と v の 1 階の連立微分方程式を使った方がうまく解けるからであった。 ラグランジュ形式の力学ではニュートン力学と同様、具体的な運動方程式は座標 や qq の の 22 階の 階の ラグランジュ形式の力学ではニュートン力学と同様、具体的な運動方程式は座標 xx や 2 階の微分方程式を 1 階の連立微分方程式に分解するのは計算の便法のように見えるが、それだけ 微分方程式になった。しかし 3.2.2 節のパラメトリック励振を扱ったとき、振り子の振れ角 節のパラメトリック励振を扱ったとき、振り子の振れ角 θθ に関す に関す 微分方程式になった。しかし 3.2.2 ではない。一般に解の構造を大局的に見たいときは、座標の時間依存性だけを追うより座標とその速 る 22 階の微分方程式 階の微分方程式 (3.66) (3.66) を解く代わりに、 を解く代わりに、(3.67) (3.67) のように のように θθ とその時間変化 とその時間変化 vv に関する に関する 11 階の連 階の連 る 度の関係を見る方が便利である。たとえば質点の座標がわかったとしても、速度ベクトルがわからな 立微分方程式に分解した。そうしたのは定数変化法で振幅と位相の微分方程式にするときに、θθ の の 22 立微分方程式に分解した。そうしたのは定数変化法で振幅と位相の微分方程式にするときに、 い限り質点の運動は決まらない。すなわち座標空間 — 質点一つなら実空間、質点 N 個の場合は xi 階の微分方程式を使うより 階の微分方程式を使うより θθ と と vv の の 11 階の連立微分方程式を使った方がうまく解けるからであった。 階の連立微分方程式を使った方がうまく解けるからであった。 が張る 3N 次元の配位空間( configuration space)— での軌跡(trajectory)の群を見ると、それら 22 階の微分方程式を 11 階の連立微分方程式に分解するのは計算の便法のように見えるが、それだけ 階の微分方程式を 階の連立微分方程式に分解するのは計算の便法のように見えるが、それだけ は一般に無数に交差するであろう。一本の軌跡が自分自身と交差することもあるだろう。そのような ではない。一般に解の構造を大局的に見たいときは、座標の時間依存性だけを追うより座標とその速 ではない。一般に解の構造を大局的に見たいときは、座標の時間依存性だけを追うより座標とその速 軌跡だけを見ても、軌跡の各点をどんな速度で動くかはわからない。時間とともに点が動くアニメー 度の関係を見る方が便利である。たとえば質点の座標がわかったとしても、速度ベクトルがわからな 度の関係を見る方が便利である。たとえば質点の座標がわかったとしても、速度ベクトルがわからな ションを伴っていれば運動の情報としては完全になるが、それでも無数に交わる軌跡群から運動の構 い限り質点の運動は決まらない。すなわち座標空間 い限り質点の運動は決まらない。すなわち座標空間 — — 質点一つなら実空間、質点 質点一つなら実空間、質点 N N 個の場合は 個の場合は xxii 造を理解するのは容易ではないだろう。 が張る が張る 3N 3N 次元の配位空間( 次元の配位空間(configuration configuration space space) )— — での軌跡( での軌跡(trajectory trajectory)の群を見ると、それら )の群を見ると、それら これに対し、座標と速度を独立した変数としてプロットする空間を考えると、その中の一点からそ は一般に無数に交差するであろう。一本の軌跡が自分自身と交差することもあるだろう。そのような は一般に無数に交差するであろう。一本の軌跡が自分自身と交差することもあるだろう。そのような の後およびその前の運動が決まるので、軌跡は交わることもないし、アニメーションにしなくても時 軌跡だけを見ても、軌跡の各点をどんな速度で動くかはわからない。時間とともに点が動くアニメー 軌跡だけを見ても、軌跡の各点をどんな速度で動くかはわからない。時間とともに点が動くアニメー 間情報を含んでいる。こうすれば、たとえば運動が位置的にあるいは速度的に局在しているか広域に ションを伴っていれば運動の情報としては完全になるが、それでも無数に交わる軌跡群から運動の構 ションを伴っていれば運動の情報としては完全になるが、それでも無数に交わる軌跡群から運動の構 わたるかなど、運動のあり方が位相空間内で棲み分けする様子がわかる。次元が 2 倍に増えてしまう 造を理解するのは容易ではないだろう。 造を理解するのは容易ではないだろう。 代償はそれを補ってあまりある。 これに対し、座標と速度を独立した変数としてプロットする空間を考えると、その中の一点からそ これに対し、座標と速度を独立した変数としてプロットする空間を考えると、その中の一点からそ ここで、本当に座標とペアになる変数は「速度」でいいかという問題がある。座標と「それに共役 の後およびその前の運動が決まるので、軌跡は交わることもないし、アニメーションにしなくても時 の後およびその前の運動が決まるので、軌跡は交わることもないし、アニメーションにしなくても時 な運動量」というペアの方がよいことはないか。デカルト座標では、質量 m が時間とともに変化し 間情報を含んでいる。こうすれば、たとえば運動が位置的にあるいは速度的に局在しているか広域に 間情報を含んでいる。こうすれば、たとえば運動が位置的にあるいは速度的に局在しているか広域に 1 ない限り速度と運動量は同義語だから、この違いはさしたる意味はない 。しかし一般座標になると、 わたるかなど、運動のあり方が位相空間内で棲み分けする様子がわかる。次元が 22 倍に増えてしまう わたるかなど、運動のあり方が位相空間内で棲み分けする様子がわかる。次元が 倍に増えてしまう 2 q代償はそれを補ってあまりある。 ˙j と pj は別物である 。質点の運動を支配しているラグランジアンは qj と q˙j の関数である3 が、こ 代償はそれを補ってあまりある。 れに対し qj と pj の何らかの関数が運動を支配するような形式の力学はないか? ここで、本当に座標とペアになる変数は「速度」でいいかという問題がある。座標と「それに共役 ここで、本当に座標とペアになる変数は「速度」でいいかという問題がある。座標と「それに共役 本章で展開するハミルトン形式の力学は独立変数を qj と q˙j のペアから qm pj のペアに変えるも j と な運動量」というペアの方がよいことはないか。デカルト座標では、質量 が時間とともに変化し な運動量」というペアの方がよいことはないか。デカルト座標では、質量 m が時間とともに変化し 1 のである。そこでラグランジアンの代わりに運動を規定する役割を担う新しい関数がハミルトニア ない限り速度と運動量は同義語だから、この違いはさしたる意味はない ない限り速度と運動量は同義語だから、この違いはさしたる意味はない1。しかし一般座標になると、 。しかし一般座標になると、 2 33 qj と pj に関するものになるが、得られる運動方程式は qj と pj に関し対称 qンとなる。運動方程式は qqj と が、こ q˙˙j と と ppj は別物である は別物である2。質点の運動を支配しているラグランジアンは 。質点の運動を支配しているラグランジアンは と qq˙˙j の関数である の関数である が、こ j j j j となり、しかも時間に関し 1 階の連立微分方程式になる。ハミルトン形式を使うと問題が解きやすく れに対し ?? れに対し qqjj と と ppjj の何らかの関数が運動を支配するような形式の力学はないか の何らかの関数が運動を支配するような形式の力学はないか なる例はもちろんあるが、ハミルトン形式の意義はそれよりは、力学を超えてあらゆる物理 — 量子 本章で展開するハミルトン形式の力学は独立変数を 本章で展開するハミルトン形式の力学は独立変数を qqj と と qq˙˙j のペアから のペアから qqj と と ppj のペアに変えるも のペアに変えるも j j j j 力学にまで — 繋がる点にあり、理論上重要となる。 のである。そこでラグランジアンの代わりに運動を規定する役割を担う新しい関数がハミルトニア のである。そこでラグランジアンの代わりに運動を規定する役割を担う新しい関数がハミルトニア ンとなる。運動方程式は ンとなる。運動方程式は qqjj と と ppjj に関するものになるが、得られる運動方程式は に関するものになるが、得られる運動方程式は qqjj と と ppjj に関し対称 に関し対称 となり、しかも時間に関し となり、しかも時間に関し 11 階の連立微分方程式になる。ハミルトン形式を使うと問題が解きやすく 階の連立微分方程式になる。ハミルトン形式を使うと問題が解きやすく 1問 4.3 参照 なる例はもちろんあるが、ハミルトン形式の意義はそれよりは、力学を超えてあらゆる物理 — 2 問 4.1 参照 なる例はもちろんあるが、ハミルトン形式の意義はそれよりは、力学を超えてあらゆる物理 — 量子 量子 ポテンシャル自体が時間 t に直接依存する場合は時間の関数でもあるが、いまポテンシャルは時間に依存しないとする。 力学にまで 力学にまで — — 繋がる点にあり、理論上重要となる。 繋がる点にあり、理論上重要となる。 3 11問 4.3 参照 問 4.3 参照 22問 4.1 参照 問 4.1 参照 33ポテンシャル自体が時間 t に直接依存する場合は時間の関数でもあるが、いまポテンシャルは時間に依存しないとする。 ポテンシャル自体が時間 t に直接依存する場合は時間の関数でもあるが、いまポテンシャルは時間に依存しないとする。 第 4 章 ハミルトン形式の力学 60 [問 4.1]球座標 r, θ, φ と共役な運動量 pr , pθ , pφ を用いて質量 m の質点の運動エネルギーを T = " 1 ! A p2r + B p2θ + C p2φ 2m とするとき、 A(r, θ, φ)、B(r, θ, φ)、C(r, θ, φ) を求めよ。 60 (4.1) 第 4 章 ハミルトン形式の力学 [問 4.1]球座標 r, θ, φ と共役な運動量 pr , pθ , pφ を用いて質量 m の質点の運動エネルギーを 4.1 正準方程式 T = " 1 ! A p2r + B p2θ + C p2φ 2m (4.1) ハミルトン形式の力学の中心をなすのは正準方程式である。それを導くにはラグランジアンのル とするとき、 A(r, θ, φ)、B(r, θ, φ)、C(r, θ, φ) を求めよ。 ジャンドル変換としてハミルトニアンを導く方法と、ハミルトンの原理に基づき変分法を使う方法が ある。変分法は第 1,2 章で頻繁に使ったので、あらためて変分法を使うよりルジャンドル変換を使う 方がよいだろう。ここでは前者で導く。また正準方程式の使い方の簡単な例を通じて、位相空間での 4.1 正準方程式 軌跡の読み方に親しみ、次節の正準変換への準備とする。 ハミルトン形式の力学の中心をなすのは正準方程式である。それを導くにはラグランジアンのル ジャンドル変換としてハミルトニアンを導く方法と、ハミルトンの原理に基づき変分法を使う方法が 4.1.1 ルジャンドル変換 — 独立変数の変更 — ある。変分法は第 1,2 章で頻繁に使ったので、あらためて変分法を使うよりルジャンドル変換を使う 方がよいだろう。ここでは前者で導く。また正準方程式の使い方の簡単な例を通じて、位相空間での qj と q˙j のペアから qj と pj のペアに変えるということは、qj と q˙j と pj の三つは独立ではないと 軌跡の読み方に親しみ、次節の正準変換への準備とする。 いうことである。だからその関係式を使って、qj と q˙j の何らかの関数 — たとえばラグランジアン — をそのまま qj と pj の関数として書き下すことはできる。しかしここでいう「独立変数の変更」と はそれだけのことではない。 4.1.1 ルジャンドル変換 — 独立変数の変更 — しばらく添え字 j は一つに決めたとして、式を簡明にするために落とそう。いま q が q + dq にな qj と q˙j のペアから qj と pj のペアに変えるということは、qj と q˙j と pj の三つは独立ではないと り(かつそれとは独立に)q˙ が q˙ + dq˙ になったとき、ラグランジアンが L + dL になったとしよう。 いうことである。だからその関係式を使って、qj と q˙j の何らかの関数 — たとえばラグランジアン このとき — をそのまま qj と pj の関数として書き下すことはできる。しかしここでいう「独立変数の変更」と ∂L ∂L dL(q, q) ˙ = dq + dq˙ (4.2) ∂q ∂ q˙ はそれだけのことではない。 となる。この式は「L の微小変化は q の微小変化と(それと独立な)q˙ の微小変化だけが関わってい しばらく添え字 j は一つに決めたとして、式を簡明にするために落とそう。いま q が q + dq にな る」ことを示し、q と q˙ が独立変数であることを端的に物語っている。この L(q, q) ˙ に何らかの関数 り(かつそれとは独立に)q˙ が q˙ + dq˙ になったとき、ラグランジアンが L + dL になったとしよう。 H(q, p) を対応させ このとき ∂H ∂H ∂L dq + ∂L dH(q, (4.3) dL(q, p) q) ˙ = = ∂q dq + ∂pddp q˙ (4.2) ∂q ∂ q˙ という表現が得られれば、初めて独立変数を q と p のペアに変えたと言えるだろう。このとき、当 となる。この式は「L の微小変化は q の微小変化と(それと独立な)q˙ の微小変化だけが関わってい 該力学系の性質を L(q, q) ˙ が特徴づけているのと同様、H(q, p) はその力学系の全てを特徴づけてい る」ことを示し、q と q˙ が独立変数であることを端的に物語っている。この L(q, q) ˙ に何らかの関数 る必要がある。そのような L(q, q) ˙ から H(q, p) への変換をルジャンドル変換(Legentre transform) H(q, p) を対応させ ∂H ∂H という。ルジャンドル変換は力学系に限らない概念なので、一般的な書き方をしよう。さしあたり dH(q, p) = dq + dp (4.3) ∂q ∂p q はそのままで q˙ から p ≡ ∂L/∂ q˙ に変数を変更したいので、q˙ を x と書き、L(q) ˙ を f (x) と書き、 という表現が得られれば、初めて独立変数を q と p のペアに変えたと言えるだろう。このとき、当 p ≡ ∂L/∂ q˙ を u ≡ df /dx と書いて変数一つの問題にする。 該力学系の性質を L(q, q) ˙ が特徴づけているのと同様、H(q, p) はその力学系の全てを特徴づけてい y = f (x) という関数関係において、x の各点において微分係数を u ≡ df /dx とすると る必要がある。そのような L(q, q) ˙ から H(q, p) への変換をルジャンドル変換(Legentre transform) df = u dx (4.4) という。ルジャンドル変換は力学系に限らない概念なので、一般的な書き方をしよう。さしあたり q はそのままで q˙ から p ≡ ∂L/∂ q˙ に変数を変更したいので、q˙ を x と書き、L(q) ˙ を f (x) と書き、 である。これは「u を固定して x が自由に dx だけ動いたとき f は従属的に df だけ変化する」こと p ≡ ∂L/∂ q˙ を u ≡ df /dx と書いて変数一つの問題にする。 を意味する(図 4.1 左)。ここで f も u も x の関数である。さて、x の値と u の値が1対1対応して y = f (x) という関数関係において、x の各点において微分係数を u ≡ df /dx とすると いる場合を考える。このようなことが起こるのは u(x) が単調増加関数または単調減少関数のときで ある。f で言えば、x のいたる所で f (x) が下に凸か上に凸のときである。さてこのような場合、 uを df = u dx (4.4) である。これは「u を固定して x が自由に dx だけ動いたとき f は従属的に df だけ変化する」こと を意味する(図 4.1 左)。ここで f も u も x の関数である。さて、x の値と u の値が1対1対応して いる場合を考える。このようなことが起こるのは u(x) が単調増加関数または単調減少関数のときで ある。f で言えば、x のいたる所で f (x) が下に凸か上に凸のときである。さてこのような場合、u を いる場合を考える。このようなことが起こるのは u(x) が単調増加関数または単調減少関数のときで ある。正準方程式 f で言えば、x のいたる所で f (x) が下に凸か上に凸のときである。さてこのような場合、u 61 を 4.1. 4.1. 正準方程式 61 指定すれば x を指定したことになるので、変数を u に変えて問題を表現する方法があるはずである。 いる場合を考える。このようなことが起こるのは u(x) が単調増加関数または単調減少関数のときで いる場合を考える。このようなことが起こるのは u(x) が単調増加関数または単調減少関数のときで ここで「x を固定して u が自由に du だけ動いたとき従属的に変化する」ような関数 g(u) を構成す ある。f で言えば、 x のいたる所で が下に凸か上に凸のときである。さてこのような場合、 uを ある。 f で言えば、xf (x) のいたる所で f (x) が下に凸か上に凸のときである。さてこのような場合、 uを ることができるだろうか。つまり 指定すれば x を指定したことになるので、変数を u に変えて問題を表現する方法があるはずである。 指定すれば x を指定したことになるので、変数を u に変えて問題を表現する方法があるはずである。 dg = x du (4.5) ここで「x を固定して u が自由に du だけ動いたとき従属的に変化する」ような関数 g(u) を構成す ここで「 x を固定して u が自由に du だけ動いたとき従属的に変化する」ような関数 g(u) を構成す となる g とは何だろうか。図 4.1 右の図からそれは f (x) の接線の y 切片(の符号を変えたもの)で ることができるだろうか。つまり ることができるだろうか。つまり du0 )) を通る接線を y = ax + b (4.5) あることがすぐわかるだろう。少していねいに書くと、点 (x0=, fx(x とす dg = x du dg (4.5) ると、a = u(x0 ) となる かつ b g=とは何だろうか。図 f (x0 ) − x0 u(x0 ) であることがすぐ計算できる。この b にマイナスを付け 4.1 右の図からそれは f (x) の接線の y 切片(の符号を変えたもの)で となる g とは何だろうか。図 4.1 右の図からそれは f (x) の接線の y 切片(の符号を変えたもの)で て g ≡ −b とすると、 あることがすぐわかるだろう。少していねいに書くと、点 (x0 , f (x0 )) を通る接線を y = ax + b とす あることがすぐわかるだろう。少していねいに書くと、点 (x0 , f (x0 )) を通る接線を y = ax + b とす ると、a = u(x0 ) かつ g(x b =0f)(x x0 u(x であることがすぐ計算できる。この b にマイナスを付け =0 )x− (x0 ) (4.6) 0) f 0 u(x 0) − ると、a = u(x0 ) かつ b = f (x0 ) − x0 u(x0 ) であることがすぐ計算できる。この b にマイナスを付け て g ≡ −b とすると、 となる。 が x の凸関数とすれば、u を指定すれば x0 は決まるので、x0 は u の関数である。 て g ≡ −bf (x) とすると、 g(x0 ) = x0 u(x0 ) − f (x0 ) (4.6) g(x0 ) = x0 u(x0 ) − f (x0 ) (4.6) y となる。f (x) が fx (x) の凸関数とすれば、 u を指定すれば x0 は決まるので、x0 は u の関数である。 という関数関係において、 y= y y = f (x) という関数関係において、 となる。f (x) が x の凸関数とすれば、u を指定すれば x0 は決まるので、x0 は u の関数である。 y y df f (x0 ) ux − g f (x0 ) ux − g df y = f (x) という関数関係において、 y y= f (x) y= ux という関数関係において、 −g y f /dx とすると =x y = ux − g f (x0 ) ) x0 df f (x0 ) f /dx y = ux − gとすると = x ux − g ) x0 ux −fg/dx とすると ) x0 =x y = f (x) という関数関係にお y= f (x) y= ux という関数関係において、 −g = x y = ux − g ) x0 y = ux − g= x + dg) ) x(g 0 )x − (g + dg)) y = (u + du)x − f (x 0 ux − g y = (u + = du)x x − (g + dg) )x − (g + dg) ) x0 ux − g )x − (g + dg) y = (u + du)x − (g + dg) f (x0 ) 図 4.1: 左:u 固定の下、x の微小変化 dx に対する f の変化 df (= u dx)。右:x 固定の下で u が微小変化 したとき dg = x du gは f の接線のx yの微小変化 切片であることを示す図。 図となる 4.1: 左: u 固定の下、 dx に対する f の変化 df (= u dx)。右:x 固定の下で u が微小変化 したとき dg = x du となる g は f の接線の y 切片であることを示す図。 図 4.1: 左:u 固定の下、 したがって (4.6) を単にx の微小変化 dx に対する f の変化 df (= u dx)。右:x 固定の下で u が微小変化 したがって (4.6) を単に y 切片であることを示す図。 4.1. 正準方程式 43 したとき dg = x du となる g は f の接線の g = xu − f (4.7) g = xu − f (4.7) したがって (4.6) を単に したがって (4.6) を単に u の関数と考えることができる。両辺の全微分をとれば、 と書いたとき、両辺とも と書いたとき、両辺とも u の関数と考えることができる。両辺の全微分をとれば、 g = xu − f (4.7) g = xu − f (4.7) dg = d(xu) − df = x du + u dx − u dx = x du (4.8) と書いたとき、両辺とも u の関数と考えることができる。両辺の全微分をとれば、 dg = d(xu) − df = x du + u dx − u dx = x du (4.8) と書いたとき、両辺とも u の関数と考えることができる。両辺の全微分をとれば、 dg = d(xu) − df = x du + u dx − u dx = x du となって、確かにとなって、確かに (4.5) が実現される。これをルジャンドル変換という。図 4.1 の右の図は x = (4.8) x0 x = x0 (4.5) が実現される。これをルジャンドル変換という。図 4.1 の右の図は = d(xu) − df = x du u dxdf − u dxの関数として動く。その様子を図 =4.1 x の右の図は du (4.8) となって、確かに (4.5) が実現される。これをルジャンドル変換という。図 x = x0 の点について の点について描いたが、 xdg が動くにつれ 切片 g は+u(≡ の点について描いたが、 xyが動くにつれ y 切片/dx) g は u(≡ df /dx) の関数として動く。その様子を図 描いたが、 x が動くにつれ y 切片g(u) g はのルジャンドル変換をとれば u(≡ df /dx) の関数として動く。その様子を図 4.2 に示す。g(u)g(u) のルジャ に示す。 f (x) に戻ることも示すことができる。つまり 4.2 に示す。 g(u) 4.2 のルジャンドル変換をとれば f (x) に戻ることも示すことができる。つまり は g(u) は となって、確かに (4.5) が実現される。これをルジャンドル変換という。図 4.1 の右の図は x =x 0 ンドル変換をとれば f (x) に戻ることも示すことができる。つまり g(u) は f (x) の全情報を完全に保っている。 f (x) の全情報を完全に保っている。 fの点について描いたが、 (x) の全情報を完全に保っている。 x が動くにつれ y 切片 g は u(≡ df /dx) の関数として動く。その様子を図 ちなみに、全情報を保ちながら変数がすっかり変わってしまう変換の例としてラプラス変換やフー y ちなみに、全情報を保ちながら変数がすっかり変わってしまう変換の例としてラプラス変換やフー y = f (x) という関数関係において、 g(u) は 4.2 に示す。g(u) のルジャンドル変換をとれば f (x) に戻ることも示すことができる。つまり リエ変換がある。これらの積分変換は、関数 f が x の全域で定められないと変換ができない。一方 リエ変換がある。これらの積分変換は、関数 f が x の全域で定められないと変換ができない。一方 f (x) の全情報を完全に保っている。 で単なる変数変換のように、x の一点における f の値を教えてもらっただけでその x における変数変 で単なる変数変換のように、 xの各点において微分係数を の一点における f の値を教えてもらっただけでその x における変数変 u ≡ df /dx とすると ちなみに、全情報を保ちながら変数がすっかり変わってしまう変換の例としてラプラス変換やフー 換ができるものもある。ルジャンドル変換は大域的積分変換ではないが、f の値だけでなく導関数 u 換ができるものもある。ルジャンドル変換は大域的積分変換ではないが、 f の値だけでなく導関数 u リエ変換がある。これらの積分変換は、関数 f が xxの近傍の様子も知らなければ の全域で定められないと変換ができない。一方 の値も知らなければ — すなわち点 — 変換できない。 =x の値も知らなければ — すなわち点 x の近傍の様子も知らなければ — 変換できない。 で単なる変数変換のように、 の一点における x における変数変 — g は ところで図x4.1 右の図から、f f (x)の値を教えてもらっただけでその が下に凸の関数であれば y 切片は単調に負の方向に行く g(u) 的に変化する」ような関数 を構成することができるだろうか。つまり ところで図 4.1 右の図から、 f (x) が下に凸の関数であれば y 切片は単調に負の方向に行く —gは xu − 換ができるものもある。ルジャンドル変換は大域的積分変換ではないが、 f の値だけでなく導関数 u 単調に増加する — ことがわかる。そればかりでなく、g は凸関数であることもすぐわかる。これは 単調に増加する — ことがわかる。そればかりでなく、 g は凸関数であることもすぐわかる。これは の値も知らなければ — すなわち点 x の近傍の様子も知らなければ — 変換できない。 ところで図 4.1 右の図から、f (x) が下に凸の関数であれば y 切片は単調に負の方向に行く — g は 図 4.2: f から g へのルジャンドル変換 単調に増加する — ことがわかる。そればかりでなく、g は凸関数であることもすぐわかる。これは ちなみに、全情報を保ちながら変数がすっかり変わってしまう変換の例としてラプラス変換やフーリエ変換 がある。これらの積分変換は、関数 f が x の全域で定められないと変換ができない。一方で単なる変数変換の ように、x の一点における f の値を教えてもらっただけでその x における変数変換ができるものもある。ルジャ ンドル変換は大域的積分変換ではないが、f の値だけでなく導関数 u の値も知らなければ — すなわち点 x の 近傍の様子も知らなければ — 変換できない。 ところで図 4.1 右の図から、f (x) が下に凸の関数であれば y 切片は単調に負の方向に行く — g は単調に増 加する — ことがわかる。そればかりでなく、g は凸関数であることもすぐわかる。これは f (x) が上に凸の関 数でも同じである。したがって g(u) もルジャンドル変換できるが、その結果は f (x) に戻る。 ように、x の一点における f の値を教えてもらっただけでその x における変数変換ができるものもある。ルジャ ンドル変換は大域的積分変換ではないが、f の値だけでなく導関数 u の値も知らなければ — すなわち点 x の 近傍の様子も知らなければ — 変換できない。 ところで図 4.1 右の図から、f (x) が下に凸の関数であれば y 切片は単調に負の方向に行く — g は単調に増 加する — ことがわかる。そればかりでなく、g は凸関数であることもすぐわかる。これは f (x) が上に凸の関 第 4 章 ハミルトン形式の力学 44 数でも同じである。したがって g(u) もルジャンドル変換できるが、その結果は f (x) に戻る。 4.1.2 [問 4.2]正準方程式と位相空間 g(u) が凸関数であることおよびルジャンドル変換が f (x) に戻ることを示せ。 ではいよいよラグランジアンの独立変数 qj , q˙j を qj , pj に変更するルジャンドル変換を実行しよう。前節の x f (x1 , · · · , xn ) のように変数がたくさんあって、その中の xi だけ独立変数を ui ≡ ∂f /∂xi に変更したい場合は 5 を q˙j に、f を L に、u を pj に、g を H にすればよい。すべての j に対し一斉にルジャンドル変換する 。前節 g = xi ui − f (4.9) 最後の議論から結果はただちに ! H= q˙j pj − L(t, {qj }, {q˙j }) がルジャンドル変換となる。このとき全微分は (4.13) j dg = u1 dx1 +, · · · , +ui−1 dxi−1 + xi dui + ui+1 dxi+1 +, · · · , +un dxn (4.10) である。ここで q1 , · · · , qn を略して {qj } などと書いた。もちろん右辺において、pj ≡ ∂L/∂ q˙j (j = 1, · · · , n) のように、i 番目だけ独立変数が変更されている。これは熱力学で言えば、たとえば内部エネルギー を逆に解いて、すべてを qj と pj の関数にしておく必要がある。こうしてハミルトニアン H (t, {qjE(S, }, {pjV, })Nを) をルジャンドル変換してヘルムホルツの自由エネルギー F (T, V, N ) を得るときのように、エントロピー S だけ 得る。次にこれの全微分であるが、ラグランジュの運動方程式を援用して ! 独立変数を温度 T に変更したい場合、 F = E − T S とルジャンドル変換することに相当する。そうすれば dH = (pj dq˙j + q˙j dpj ) − dL(t, {qj }, {q˙j }) dE = T dSj − P dV + µ dN ⇒ dF = −S dT − P dV + µ dN (4.11) " # ! ! ∂L ∂L のように1カ所だけ独立変数を変更したことになる4 。∂L = (pj dq˙j + q˙j dpj ) − dt + dqj + dq˙j ∂t ∂q ∂ q˙j j すべての i についてルジャンドル変換したければ (4.9) の代わりに j j = ! j とすればよい。 " ! g= (pj dq˙j + q˙j dpj ) − i ∂L xi ui − f! dt + (p˙ j dqj + pj dq˙j ) ∂t j ! ∂L = − dt + (q˙j dpj − p˙ j dqj ) ∂t j [問 4.3]1 次元の直線運動をする質点の運動エネルギー T (x) ˙ = % $% (4.12) (4.14) m 2 x˙ 2 の独立変数 x˙ を運動量 p ≡ ∂T /∂ x˙ に 変更しルジャンドル変換せよ。 (結果は単に x˙ から p へ変数変換したのと同じになる。これはデカルト座 これと全微分の一般式 $ ! # ∂H ∂H ∂H 標の特徴である。) dH = dt + dqj + dpj (4.15) ∂t ∂qj ∂pj 4 見て分かる通り、熱力学では習慣的に符号が異なった定義であるが。 j を比べると 44 dqj ∂H = dt ∂pj および dpj ∂H =− (すべてのj に対して) (4.16) dt ∂qj 第 4 章 ハミルトン形式の力学 を得る。これは時間に関して 1 階の連立微分方程式になっている。これを 正準方程式(canonical equations) 4.1.2 ハミルトンの運動方程式( 正準方程式と位相空間 あるいは Hamilton’s equations of motion)あるいは ハミルトンの正準運動方程式 (Hamilton’s canonical equations of motion)と呼ぶ。逆に、(4.16) 式を満たすような q と p の組み合わせを ではいよいよラグランジアンの独立変数 qj , q˙j を qj , pj に変更するルジャンドル変換を実行しよう。前節の x 正準変数(canonical variable)という。 を q˙j に、f を L に、u を pj に、g を H にすればよい。すべての j に対し一斉にルジャンドル変換する5 。前節 ∂H (4.16) の第1式を q˙ = ∂p と書かなかったのは、ハミルトン形式ではあくまで q と p が独立変数であること j 最後の議論から結果はただちに !q と q˙ の世界でないことを強調したいからである。しかし q˙ と を意識し、ラグランジュ形式で独立変数である H= q˙j pj − L(t, {qj }, {q˙j }) (4.13) dqj dq は同じことなので、ラグランジュ形式からハミルトン形式に移行するときに現れる q˙ を dtj に置き換える dt j ことは何ら問題はない。 の両端をイコールで結んだ式の両辺を dt で割ったあとにそのような置き換えを である。ここで q1 , · · · , q(4.14) n を略して {qj } などと書いた。もちろん右辺において、pj ≡ ∂L/∂ q˙j (j = 1, · · · , n) すると、 を逆に解いて、すべてを qj と pj の関数にしておく必要がある。こうしてハミルトニアン H (t, {qj }, {pj }) を dH ∂L ! ∂L = − + ( p ˙ q ˙ − q ˙ p ˙ ) = − (4.17) j j j j 得る。次にこれの全微分であるが、ラグランジュの運動方程式を援用して dt ∂t ∂t j ! dH = (pj dq˙j + q˙j dpj ) − dL(t, {qj }, {q˙j }) となる。これはラグランジアンが陽に時間に依存しない場合はエネルギーが保存することを言っている。 j " $% # ! qj (t) と pj (t) の運動がわかる。この「 ! ∂L t を媒介変数とした 具体的な問題で (4.16) を解くと、 qj と pj の軌跡」 ∂L ∂L = (pj dq˙j + q˙j dpj ) − dt + dqj + dq˙j を位相空間すなわち qj , pj 空間でプロットすると、初期条件に応じて軌跡が一つ決まる。同一の点から複数の ∂t ∂qj ∂ q˙j j j " % 運動が発生することはないから、この軌跡群は交わることはない。このようなことから、解の構造を俯瞰した ! ! ∂L いという目的のためにはハミルトン形式を用いて位相空間で考える方が見通しがよくなる。 = (pj dq˙j + q˙j dpj ) − dt + (p˙ j dqj + pj dq˙j ) ∂t j j 以下、正準方程式を使った解法と位相空間での軌跡の例を示す。挙げた例は単純なものであるが、そこでの ! ∂L 主眼はハミルトン形式を使うと解き易くなることを見るのではなく、解の構造が分析しやすくなること、およ = − dt + (q˙j dpj − p˙ j dqj ) (4.14) ∂t j びその次のリウビルの定理の視覚化や正準変換への準備をすることである。 これと全微分の一般式 ! ∂H dH = dt + ∂t j を比べると # ∂H ∂H dqj + dpj ∂qj ∂pj $ (4.15) dqj ∂H dpj ∂H 5 一部の変数だけルジャンドル変換をすると、その変数についてはハミルトニアンで、変換しなかった変数についてはラグ dt = ∂pj および dt =− ∂qj (すべてのj に対して) ランジアンである関数ができる。それをラウシアン(Routhian)という。 (4.16) を得る。これは時間に関して 1 階の連立微分方程式になっている。これを 正準方程式(canonical equations) あるいは ハミルトンの運動方程式(Hamilton’s equations of motion)あるいは ハミルトンの正準運動方程式 (Hamilton’s canonical equations of motion)と呼ぶ。逆に、(4.16) 式を満たすような q と p の組み合わせを ∂t j これと全微分の一般式 dH = ! ∂H dt + ∂t j を比べると dqj ∂H = dt ∂pj および # ∂H ∂H dqj + dpj ∂qj ∂pj $ (4.15) dpj ∂H =− (すべてのj に対して) dt ∂qj (4.16) を得る。これは時間に関して 1 階の連立微分方程式になっている。これを 正準方程式(canonical equations) あるいは ハミルトンの運動方程式(Hamilton’s equations of motion)あるいは ハミルトンの正準運動方程式 (Hamilton’s canonical equations of motion)と呼ぶ。逆に、(4.16) 式を満たすような q と p の組み合わせを 正準変数(canonical variable)という。 (4.16) の第1式を q˙ = ∂H ∂pj と書かなかったのは、ハミルトン形式ではあくまで q と p が独立変数であること を意識し、ラグランジュ形式で独立変数である q と q˙ の世界でないことを強調したいからである。しかし q˙j と dqj dt は同じことなので、ラグランジュ形式からハミルトン形式に移行するときに現れる q˙ を dqj dt に置き換える ことは何ら問題はない。(4.14) の両端をイコールで結んだ式の両辺を dt で割ったあとにそのような置き換えを すると、 dH ∂L ! ∂L =− + (p˙ j q˙j − q˙j p˙ j ) = − dt ∂t ∂t (4.17) j となる。これはラグランジアンが陽に時間に依存しない場合はエネルギーが保存することを言っている。 具体的な問題で (4.16) を解くと、qj (t) と pj (t) の運動がわかる。この「t を媒介変数とした qj と pj の軌跡」 4.1. 正準方程式 を位相空間すなわち qj , pj 空間でプロットすると、初期条件に応じて軌跡が一つ決まる。同一の点から複数の 45 運動が発生することはないから、この軌跡群は交わることはない。このようなことから、解の構造を俯瞰した 4.1.3 1次元調和振動子 いという目的のためにはハミルトン形式を用いて位相空間で考える方が見通しがよくなる。 以下、正準方程式を使った解法と位相空間での軌跡の例を示す。挙げた例は単純なものであるが、そこでの バネ定数 k のバネに付けられた質量 m の質点が x 軸に沿って往復運動をしている。バネの自然長のときの 主眼はハミルトン形式を使うと解き易くなることを見るのではなく、解の構造が分析しやすくなること、およ 質点の座標を x = 0 とすると、この系のハミルトニアン H = T第 +4U章は ハミルトン形式の力学 64 びその次のリウビルの定理の視覚化や正準変換への準備をすることである。 1 2 1 2 H= px + kx (4.18) 以下、正準方程式を使った解法と位相空間での軌跡の例を示す。挙げた例は単純なものであるが、 2m 2 そこでの主眼はハミルトン形式を使うと解き易くなることを見るのではなく、解の構造が分析しやす である。正準方程式は dx 1 dpx くなること、およびその次のリウビルの定理の視覚化や正準変換への準備をすることである。 = px および = −kx dt m dt となる。x = x0 cos ωt の解を仮定すると 4.1. 正準方程式 5 一部の変数だけルジャンドル変換をすると、その変数についてはハミルトニアンで、変換しなかった変数についてはラグ (4.19) ランジアンである関数ができる。それをラウシアン(Routhian)という。 1次元調和振動子 4.1.3 4.1.3 px = −mωx0 sin ωt mω 2 x0 1次元調和振動子 および x= cos ωt k (4.20) バネ定数 k のバネに付けられた質量 m の質点が x 軸に沿って往復運動をしている。バネの自然 バネ定数 k のバネに付けられた質量 m の質点が xω 軸に沿って往復運動をしている。バネの自然長 となる。よって k = mω 2 である。以後 k を質点の座標を で表すと、 x = 0 とすると、この系のハミルトニアン H = T + U は のときの質点の座標を x = 0 とすると、この系のハミルトニアン H=Tm + U は H = 1 p2x + 1 kx2 1 2 1 2 m px + kx = ω 2 x20 (sin2 ωt + cos2 ωt) = ω 2 x20 = E (const.) 2m 2 2m 2 2 2 1 2である。正準方程式は 1 2 H= p + kx (4.18) dx は 1 dpx さらに x0 の代わりに保存量であるエネルギー = px および = −kx 2m x E 2を使うことにすると、(4.20) dt m dt (4.21) ! √ 2E となる。x = x0 cos ωt の解を仮定すると cos ωt および px = − 2mE sin ωt (4.22) 2 mω 2 x0 mω dx 1 dpx px = −mωx0 sin ωt および x = cos ωt = px および = −kx (4.19) k dt x,mp 平面)にプロットすると図 dt となる。この軌跡を位相空間( の一番外側の楕円になる。図ではそれより x となる。よって k = mω 24.3 である。以後 k を ω で表すと、 となる。小さいいくつかの x = x0 cos ωt の解を仮定すると E の値について軌跡を示した。エネルギー E がより大きい場合も、原点を中心とする大きい 1 2 1 2 m 2 2 m 2 2 2 2 である。正準方程式は x= px + kx = ω x0 (sin ωt + cos ωt) = ω x0 = E (const.) 2m 2 2 2 楕円が重なって行くだけである。媒介変数である時間 t が経つにつれ、どの楕円上も (x, px ) 点は同じ ω で時計 mω 2 x 0 さらに xx0 の代わりに保存量であるエネルギー E を使うことにすると、 (4.20) は および = cos ωt (4.20) px = −mωx0 sin ωt 回りに回転する。しかしそのようなアニメーションがなくても動きは容易に想像でき、この図だけで「1次元 k ! √ 2E — だけである」ことがわかる。 調和振動子の運動はただ一種類 — 位相空間内の同心楕円のどれかをx ω = で回る cos ωt および px = − 2mE sin ωt mω 2 となる。よって k = mω 2 である。以後 k を ω で表すと、 となる。この軌跡を位相空間(x, px 平面)にプロットすると図 4.3 の一番外側の楕円になる。図で px m 2 2 1 2 1 2 m √ 2 ωt +小さいいくつかの E がより大きい場合も、原点を中心と px + kx = ω 2 x20 (sin cos2 ωt) = Eωの値について軌跡を示した。エネルギー x0 = E (const.) (4.21) − 2mE sin 2m 2 2 2 楕円が重なって行くだけである。媒介変数である時間 t が経つにつれ、どの楕円上も (x, px ) 点は同 回りに回転する。しかしそのようなアニメーションがなくても動きは容易に想像でき、この図だけ さらに x0 の代わりに保存量であるエネルギー E を使うことにすると、 (4.20) は 調和振動子の運動はただ一種類 — 位相空間内の同心楕円のどれかを ω で回る — だけである」こと =x ! √ 2E px x= cos ωt および px = − 2mE! sin ωt √ (4.22) mω 2 − 2mE sin となる。 = 2E mω 2 図 4.3: 1次元調和振動子の位相空間上の軌跡。 =x = ! 2E mω 2 もう一つ付け足すならば、x = px = 0 の原点は、バネが伸びも縮みもしない静止状態にあることを示す。こ 図 4.3: 1次元調和振動子の位相空間上の軌跡。 れは質点に働くすべての力(バネや重力)が釣り合って動かない固定点(fixed point)であるが、今の場合は (1) バネの自然長の最下位置から上向きに測った質点の位置を座標 z とした場 り高く上がることもある。真上まで行ってそのまま逆側に降りて、鉛直面内を回転運動を続ける運動 心とする大きい楕円が重なって行くだけである。媒介変数である時間 t が経つにつれ、どの楕円上も px √ (2) 質点をバネに付けたときの釣り合いの位置から上向きに測った質点の位置 も考察の対象とする。要するに重力場中に立てて置かれた円周上に束縛された質点の運動を考える。 (x, px ) 点は同じ ω で時計回りに回転する。しかしそのようなアニメーションがなくても動きは容易 − 2mE sin 4.1. 正準方程式 65 について論ぜよ。バネ定数を k 、バネの長さを #、質点の質量を m とし、バネの 当然ながら微小振動近似は使わない。 に想像でき、この図だけで「1次元調和振動子の運動はただ一種類 — 位相空間内の同心楕円のどれ 2.2 座標変換とラグランジュの運動方程式 この状況で運動の種類を考える。直感的には、回転運動を続けるか、回転まで行かずに往復運動を この軌跡を位相空間( x, px 平面)にプロットすると図 4.3 の一番外側の楕円になる。図ではそれ かを ω で回る — だけである」ことがわかる。 =x 座標変換を行ってもラグランジュの運動方程式が変わらないことを見 するかに大別できると思いつくであろう。ここで位相空間を使うと、もう少し様子がきちんととわか より小さいいくつかの E の値について軌跡を示した。エネルギー E がより大きい場合も、原点を中 ! 縛条件のある例から入る。次に束縛条件がなくても座標変換が有効な場 2.2 px 座標変換とラグランジュの運動方程式 2E √ るのである。単振り子のラグランジアン (2.24) で T −= U を T + U に変え、変数を θ˙ から pθ に変え 心とする大きい楕円が重なって行くだけである。媒介変数である時間 t が経つにつれ、どの楕円上も 標を導入する。 mω 2 座標変換を行ってもラグランジュの運動方程式が変わらないことを見る。座標変換 ると、 (x, px ) 点は同じ ω で時計回りに回転する。しかしそのようなアニメーションがなくても動きは容易 1 1 2 縛条件のある例から入る。次に束縛条件がなくても座標変換が有効な場合(循環座標 − 2mE sin H= p − mg" cos θ = x— 位相空間内の同心楕円のどれ (4.23) に想像でき、この図だけで「1次元調和振動子の運動はただ一種類 2m "2 θ 図 4.3: 1次元調和振動子の位相空間上の軌跡。 標を導入する。 2.2.1 ホロノミックな束縛 かを ω で回る — だけである」ことがわかる。 ! である。運動エネルギーが (2.24) と mg" だけ異なるのは、最下点で静止している状態のエネルギー 2E2.4]振り子のラグランジアンを書き下し、ラグランジュの運動 [例題 もう一つ付け足すならば、 x = p = 0 の原点は、バネの力や重力などが釣り合って質点が静止状 x をゼロにとりたいだけで、本質的なことではない。そのエネルギーの原点の取り方にかかわらず正準 px = 2 mω の図の紙面内)での往復運動のみを考えよ。 √ 2.2.1 ホロノミックな束縛 態にあることを示す。すなわち自分からはそこから動かない固定点( fixed point)であるが、固定点 方程式は − 2mE sin 6 dθ 1 dpθ には安定なものと不安定なものと中立なもの がある。今の場合は安定な釣り合いを表す「安定な固 2.4]振り子のラグランジアンを書き下し、ラグランジュの運動方程式を書け = p [例題 および = mg" sin θ (4.24) 2 θ 図dt4.3: m" 1次元調和振動子の位相空間上の軌跡。 dt =x の図の紙面内)での往復運動のみを考えよ。 定点」である。 床に置かれたボールのように、ずらしたとき戻るわけでもどこかに行くわけでもないが、ずれたままとどまる。 ! もう一つ付け足すならば、 x = px = 0 の原点は、バネの力や重力などが釣り合って質点が静止状 6 2E mω = 態にあることを示す。すなわち自分からはそこから動かない固定点( fixed point)であるが、固定点 2 4.1.4 剛体棒単振り子 !!!!ℓ には安定なものと不安定なものと中立なもの6 がある。今の場合は安定な釣り合いを表す「安定な固 長さ " の重さのない剛体棒の先に付いた質量 m の質点が重力加速度 g の重力場の中で運動してい 定点」である。 図 4.3: 1次元調和振動子の位相空間上の軌跡。 る。状況としては例題 2.4(図 2.2)と同じく、鉛直面内(紙面内)を動く。質点が紙面の手前や奥に !!!!ℓ " 振れる運動は考えない。ただし例題 2.4(図 2.2)と異なる想定も入れる。すなわち、糸でなく剛体 もう一つ付け足すならば、x = p = 0 の原点は、バネの力や重力などが釣り合って質点が静止状 x " 4.1.4 剛体棒単振り子 図 2.2: [例題 2.4]の図。糸はピンと張っていて、弛むほど 棒とし、天井を外して剛体棒が天井でつっかえることがないとする。このため質点が振り子の支点よ 態にあることを示す。すなわち自分からはそこから動かない固定点(fixed point)であるが、固定点 り高く上がることもある。真上まで行ってそのまま逆側に降りて、鉛直面内を回転運動を続ける運動 6 m の質点が重力加速度 g の重力場の中で運動してい 長さ " の重さのない剛体棒の先に付いた質量 には安定なものと不安定なものと中立なもの がある。今の場合は安定な釣り合いを表す「安定な固 これを 単振り子 という。ラグランジアンは L = T − U から直ちに も考察の対象とする。要するに重力場中に立てて置かれた円周上に束縛された質点の運動を考える。 図 2.2: [例題 2.4]の図。糸はピンと張っていて、弛むほどの激しい運動 る。状況としては例題 2.4 (図 2.2 )と同じく、鉛直面内(紙面内)を動く。質点が紙面の手前や奥に 定点」である。 1 ˙ 2 − mg#(1 − cos θ) L = m(#θ) 当然ながら微小振動近似は使わない。 2 振れる運動は考えない。ただし例題 2.4(図 2.2)と異なる想定も入れる。すなわち、糸でなく剛体 これを 単振り子 という。ラグランジアンは L = T − U から直ちに である。さてラグランジュの運動方程式とは、元をただせば L の時間積 この状況で運動の種類を考える。直感的には、回転運動を続けるか、回転まで行かずに往復運動を 棒とし、天井を外して剛体棒が天井でつっかえることがないとする。このため質点が振り子の支点よ 1 4.1.4 剛体棒単振り子 ˙ 2 − mg#(1 − cos 題のオイラー方程式である。いまの場合、運動とは θ の時間依存性であ L = m(#θ) θ) するかに大別できると思いつくであろう。ここで位相空間を使うと、もう少し様子がきちんととわか り高く上がることもある。真上まで行ってそのまま逆側に降りて、鉛直面内を回転運動を続ける運動 2 66 第 4 章 ハミルトン形式の力学 るのである。単振り子のラグランジアン (2.24) で の質点が重力加速度 T − U を T + U に変え、変数を θ˙ から pθ に変え L の時間積分を最小にす 長さ " の重さのない剛体棒の先に付いた質量 m g の重力場の中で運動してい も考察の対象とする。要するに重力場中に立てて置かれた円周上に束縛された質点の運動を考える。 である。さてラグランジュの運動方程式とは、元をただせば 剛体棒とし、天井を外して剛体棒が天井でつっかえることがないとする。このため質点が振り子の支 題のオイラー方程式である。いまの場合、運動とは θ の時間依存性である。これがど ると、 る。状況としては例題 2.4(図 2.2)と同じく、鉛直面内(紙面内)を動く。質点が紙面の手前や奥に 当然ながら微小振動近似は使わない。 1 1 2 点より高く上がることもある。真上まで行ってそのまま逆側に降りて、鉛直面内を回転運動を続ける H (図 = 2.22)と異なる想定も入れる。すなわち、糸でなく剛体 p − mg" cos θ (4.23) この状況で運動の種類を考える。直感的には、回転運動を続けるか、回転まで行かずに往復運動を 振れる運動は考えない。ただし例題 2.4 2m " θ 運動も考察の対象とする。要するに重力場中に立てて置かれた円周上に束縛された質点の運動を考 するかに大別できると思いつくであろう。ここで位相空間を使うと、もう少し様子がきちんととわか 棒とし、天井を外して剛体棒が天井でつっかえることがないとする。このため質点が振り子の支点よ である。運動エネルギーが (2.24) と mg" だけ異なるのは、最下点で静止している状態のエネルギー える。当然ながら微小振動近似は使わない。 るのである。単振り子のラグランジアン (2.24) で T − U を T + U に変え、変数を θ˙ から pθ に変え り高く上がることもある。真上まで行ってそのまま逆側に降りて、鉛直面内を回転運動を続ける運動 正準変換 67 をゼロにとりたいだけで、本質的なことではない。そのエネルギーの原点の取り方にかかわらず正準 この状況で運動の種類を考える。直感的には、回転運動を続けるか、回転まで行かずに往復運動を ると、 も考察の対象とする。要するに重力場中に立てて置かれた円周上に束縛された質点の運動を考える。 跡を分類するならば、 方程式は 1 1 2 するかに大別できると思いつくであろう。ここで位相空間を使うと、もう少し様子がきちんととわか dθ 1 = dpθ cos θ H p − mg" (4.23) 当然ながら微小振動近似は使わない。 = p および = mg" sin θ (4.24) 2m "2 θ θ E = 0 すなわち原点、 2 ˙ dt m" (2.24) で T − U dt を T + U に変え、変数を θ から pθ に変え るのである。単振り子のラグランジアン この状況で運動の種類を考える。直感的には、回転運動を続けるか、回転まで行かずに往復運動を である。運動エネルギーが < E < 2mg! の楕円群(正確には楕円でない) 、 (2.24) と mg" だけ異なるのは、最下点で静止している状態のエネルギー ると、 6 床に置かれたボールのように、ずらしたとき戻るわけでもどこかに行くわけでもないが、ずれたままとどまる。 するかに大別できると思いつくであろう。ここで位相空間を使うと、もう少し様子がきちんととわか をゼロにとりたいだけで、本質的なことではない。そのエネルギーの原点の取り方にかかわらず正準 1 1 2 E > 2mg! の水平に波打つ曲線群 4.2. 正準変換 67 H =(2.24) 2で p − mg" cos θ (4.23) ˙ るのである。単振り子のラグランジアン 2m " θT − U を T + U に変え、変数を θ から pθ に変え 方程式は 2) と (3) の境界に位置する E = 2mg! の「目の形をした」曲線、 dθ と mg" 1 だけ異なるのは、最下点で静止している状態のエネルギー dpθ この軌跡を分類するならば、 ると、 である。運動エネルギーが (2.24) = pθ および = mg" sin θ (4.24) そしてその交点に位置する点 P 2 1 1 dt m" dt 2 (1) E = 0 すなわち原点、 H = p − mg" cos θ (4.23) θ をゼロにとりたいだけで、本質的なことではない。そのエネルギーの原点の取り方にかかわらず正準 2m "2 られる。 (2) 0 < E < 2mg! の楕円群(正確には楕円でない)、 6 床に置かれたボールのように、ずらしたとき戻るわけでもどこかに行くわけでもないが、ずれたままとどまる。 方程式は である。運動エネルギーが (2.24) と>mg" (3) E 2mg!だけ異なるのは、最下点で静止している状態のエネルギー の水平に波打つ曲線群 dθ 1 dpθ p 2 θ ! = p および mg" sin θ (4.24) θの境界に位置する (4) (2) と (3) E= = 2mg! の「目の形をした」曲線、 をゼロにとりたいだけで、本質的なことではない。そのエネルギーの原点の取り方にかかわらず正準 dt m"2 dt (5) そしてその交点に位置する点 P 方程式は となる。微小振動近似を使わないからには、これより先の計算は楕円関数が必要となるので、結果だ に分けられる。 dθ 1 dpθ = pθ 4.4 および = mg" sin( θ θ は 2π の周期性を示す。 (4.24) け概念図で示そう。θ, pθ の位相空間では図 のような軌跡になる。 ) dt m"2 dt sin θ !2 pθ 6 床に置かれたボールのように、ずらしたとき戻るわけでもどこかに行くわけでもないが、ずれたままとどまる。 E=0 0 = 0 0 < E < 2mg! E > 2mg! E = 2mg! 図 4.4: 剛体棒振り子の位相空間上の軌跡。 れ運動は次の通りである。 sin θ !! E=0 0 = 0 0 < E < 2mg! E > 2mg! E = 2mg! !! 図 4.4: 剛体棒振り子の位相空間上の軌跡。 (1) E = 0 すなわち原点、 (2) 0 < E < 2mg! の楕円群(正確には楕円でない)、 E=0 0 (3) E > 2mg! の水平に波打つ曲線群 E > 2mg! E = 2mg! !! (4) (2) と (3) の境界に位置する E = 2mg! の「目の形をした」曲線、 =0 0 < E < 2mg! (5) そしてその交点に位置する点 P 図 4.4: 剛体棒振り子の位相空間上の軌跡。 に分けられる。 それぞれ運動は次の通りである。 !2 pθ (1) E = 0 の原点は最下点での静止状態である。これは「安定な固定点」である。 sin θ (2) 0 < E < 2mg! の長円群は往復運動である。特に微小振動近似が使える原点近くでは前節の調 和振動子の楕円群と同じ構造である。 E > 2mg! (3) E > 2mg! の水平に波打つ曲線群は回転運動である。振り子が真下を通るときは速く真上を通 E=0 0 = 0 0 < E < 2mg! E = 2mg! るときは遅い。いずれにせよ θ は増える(減る)一方である。 !! (4) E = 2mg! の「目の形をした」曲線は特異な動きを示す。真上の状態から無限の時間を経て落 図 4.4: 剛体棒振り子の位相空間上の軌跡。 ちて来て、真下をぐるんと回ったあと逆向きにまた無限の時間をかけて真上に向かう。原理的 それぞれ運動は次の通りである。 には一回きりの振動である。 (1) E = 0 の原点は最下点での静止状態である。これは「安定な固定点」である。 (5) 点 P は最初から真上にある状態で、釣り合いの点である。ただし「不安定な固定点」である。 (2) 0 < E < 2mg! の長円群は往復運動である。特に微小振動近似が使える原点近くでは前節の調 前に「位相空間の軌跡は交わることはない」と書いたが、例外として点 P のような特異な点があり 和振動子の楕円群と同じ構造である。 得る。しかしその点は有限時間で通過することはできないし、初めからその点にあればどちらの分岐 に行っていいのかわからずとどまるしかない。 (3) E > 2mg! の水平に波打つ曲線群は回転運動である。振り子が真下を通るときは速く真上を通 るときは遅い。いずれにせよ θ は増える(減る)一方である。 (4) E =正準変換 2mg! の「目の形をした」曲線は特異な動きを示す。真上の状態から無限の時間を経て落 4.2 ちて来て、真下をぐるんと回ったあと逆向きにまた無限の時間をかけて真上に向かう。原理的 ラグランジュ形式の力学では座標変換が(独立性さえ保てば)自由にできた。ハミルトン形式の力 には一回きりの振動である。 学に特徴的なこととして、変数には座標と運動量があるので、正準方程式を変えない変換は 正準変換 (canonical transform)というものに限られるという事情がある。これは理論を不便にするものとい (5) 点 P は最初から真上にある状態で、釣り合いの点である。ただし「不安定な固定点」である。 うより、あるべき変数のペアとは何かという視点をもたらしてくれ、理論のさらなる展開を可能と 前に「位相空間の軌跡は交わることはない」と書いたが、例外として点 P のような特異な点があり 得る。しかしその点は有限時間で通過することはできないし、初めからその点にあればどちらの分岐 に行っていいのかわからずとどまるしかない。 4.2 正準変換 ラグランジュ形式の力学では座標変換が(独立性さえ保てば)自由にできた。ハミルトン形式の力 学に特徴的なこととして、変数には座標と運動量があるので、正準方程式を変えない変換は 正準変換 (canonical transform)というものに限られるという事情がある。これは理論を不便にするものとい うより、あるべき変数のペアとは何かという視点をもたらしてくれ、理論のさらなる展開を可能と
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