第22巻 第1号 2015.01 ラボ情報共有クラウドサービス CLISSサービス開始 2015年春より、Cloud-based Laboratory Information Sharing Service(CLISS)のサービスを開始します。 CLISSは、Web画面で実験レポートの作成や閲覧、管理ができる、大学や企業の研究者向けのクラウドサービ スです。 研究データや参考文献などの研究情報を実験レポートと共に一元管理することにより、研究グループでの情 報の共有化を促進し、無駄な実験を省くことができます。論文や報告書を作成する際にも関連情報に迅速に アクセスできるため作業効率が上がります。クラウドサービスのため、実験室や居室、あるいは研究施設外か らなど場所を問わずにアクセスできます。また、研究グループから研究所レベルまで利用人数に応じてサー ビスの利用拡張が容易です。次ページでは、このようなことが実現できるCLISSについて紹介します。 <CLISSサービス内容> 登録ユーザー数:20人まで ディスク容量:30 GB(追加可能) 新製品情報 ラボ情報共有クラウドサービス 創薬支援ツール 次世代シーケンサーデータ解析ソフトウェア 統合計算化学システム 材料設計支援統合システム CLISSサービス開始 SeeSARリリース Partek Flow 3.0リリース MOE 2014.09リリース MedeA:最新版2.15リリース 2 3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 技術情報 熱力学物性推算ソフトウェア 創薬研究・医薬品開発支援システム COSMOtherm:最新応用事例の紹介 SYMMETRY:がん領域における予測モデルの選択と構築 8 10 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ セミナ ー 情 報 材料設計支援統合システム MedeA:ユーザー会報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 新製品情報 ラボ情報共有クラウドサービス CLISSサービス開始 ■ CLISSの実験レポート ■ グループのみ ■ 管理項目 完成したレポートは、公開範囲を「グループのみ」にする CLISSでは研究者の思考や実験の順序に沿ってレポー ことで、 同じグループのメンバーから閲覧できるようになり トを記録できるように一般的な学術論文の様式に則っ ます。 特定のグループ内での情報共有が可能になります。 ています(図1)。シンプルな構成なので、どこに何を記入 ■ 全体 したらよいかを迷うことはありません。また、登録したレ グループに関わらず、同じCLISSの全利用者と共有し ポートは閲覧しやすく情報の再利用が容易になります。 たいレポートについては、グループ リーダーが公開範囲 を「全体」に変更できます。レポートの利用頻度が高まり データ項目 タイトル 共同実験者 日付 実験目的 材料・方法 実際に行った手技 結果 考察 ます。 添付ファイル ※複数ファイルの登録が可能 これらに該当しないデータは、備考欄に入力するか、 ファイル添 付します 。ファイル内に書かれているキー ワードでも検索できるため、登録した情報を余すことな く活用できます。 図2 公開範囲 ■ CLISSのメリット ■ すぐに手軽に利用 利用契約が完了すれば、すぐにでもCLISSを利用でき ます。アプリケーションをインストールする必要がなく、 Webブラウザーだけで手軽に利用できます。 ■ 資産が不要 クラウドサービスであるため、ハードウェアやソフト ウェアライセンスといった初期投資が必要ありません。 ■ IT管理者が不要 サーバーの管理やバックアップがすべてサービスに含ま れます。セキュリティパッチ適用や機器の不具合対応と 図1 登録・編集画面 いったメンテナンスのためのIT管理者を確保する必要が ありませんので、すべての研究員が本業に専念できます。 ■ 登録済みレポートのコピー機能 ■ 安全かつ堅牢 同じ系列の実験や再実験を行う場合、実験の材料や CLISSの基盤であるAmazon Web Services( AWS)の 手法などは毎回ほとんど変わりません。このようなとき データセンターは、金融機関でも利用されている安全性、 に便利な機能がコピーです。以前のレポートのデータが 耐久性に優れた技術プラットフォームです。 転記された状態で新規レポートを起票できるので、編集 また、端末とCLISSとの通信はすべて暗号化されてい 箇所が少なくて済み、レポートを書く手間を大幅に削減 ますので、たとえ傍受されてもその内容が漏えいするこ できます。 とはありません。 ■ 3段階の公開範囲 ■ まとめ 実験レポートには3段階の公開範囲を設定できます (図2)。 CLISSは手軽に研究情報の管理をして、情報共有を図 ることができますので、ノウハウの蓄積やアイデアの創 ■ 自分のみ 出に貢献します。各種資産を保有しなくても済むため、 実験レポートを一気に完成させることは稀でしょう。 短期間のプロジェクトにも最適です。 「自分のみ」は登録者本人のみがアクセスできる状態で 30日間の無料トライアルができます。こちらのフォー あるため、自分のペースでレポートを仕上げることがで ムより、お気軽にお申し込みください。 きます。 https://secure.rsi.co.jp/kagaku/cs/contact/request_ research.html 2 新製品情報 創薬支援ツール SeeSARリリース 独BioSolveIT社からメディシナルケミストのための対話型SBDDツール「SeeSAR」がリリースされました。 SeeSARは、バイエル社、ハンブルグ大学、そしてBioSolveIT社で共同で開発された“Hydeテクノロジー”1,2) を搭載しており、原子単位での結合自由エネルギーを即座に算出します。SeeSARを使えば、受容体ポケット にリガンドが結合する際に生じる脱水和を考慮したリード最適化ができます。SeeSARに搭載されたエディ ターを用いて、簡単なマウス操作だけで、対話的に分子設計を行うことができます。 ■ SeeSARの代表的な機能 LE( Ligand Efficiency、Affinityを重原子数で割ったも SeeSARは、メディシナルケミストがSBDDを行うため の)、LLE(Lipophilic LE)、またはSDファイル内に保存され に必要な情報を可視化し、マウス操作だけで極めて直 た他のプロパティを用いて、並べ替えることができます。 感 的 に分 子 設 計 が 可能 なリード最 適 化ツールです 。 SeeSARには以下のような機能が搭載されています。 4. 置換基付加可能な空間を自動検出 SeeSARはポケット内の空間を自動的に検出します 1. 原子レベルで結合自由エネルギーを評価 (図3)。この隙間を利用してリガンドを改変することで、 各原子におけるリガンド-受容体間の脱水和自由エネ より受容体と適合するリガンド候補構造を設計すること ルギー (Desolvation) と水素結合エネルギー (Interaction) が可能です。 の合算値としてΔGを評価し、その寄与の大きさを原子 ごとに視覚的に表現します(VisualΔG:球の色と大きさ で表現(図1))。VisualΔGを評価に用いることで、例えば、 疎水性相互作用を視覚的かつ定量的に把握することがで きます。また、リガンド原子ごとのΔGを可視化すること で、リガンド結合の安定性の根拠を知ることができます。 図3 置換基付加が可能な領域を自動探索(PDB ID:3D7Z) 5. 水素原子付加状態の最適化 ProToss 4)によるプロトン化/脱プロトン化、OH、NHの 回転、互変異性体の選択、側鎖アミドのフリップを考慮し た精度の高い水素原子付加を高速に実行します。 ■ SeeSARによるリード最適化 図1 VisualΔGの表示(PDB ID:1HPV) (赤はΔGが正の値、緑はΔGが負の値を示す) リガンドの親和力を向上させるためには図4のような 操作を行います。この例では、ΔGの値が正(赤)の窒素 原子を硫黄原子に変更することでΔGが負(緑)に変わ 2. ねじれ角の妥当性評価 3) り、分子全体の親和性であるEstimated Affinityが改善 CSDデータベースの結晶構造から得た化合物のジオメ されています。またLEも改善されています。 トリーデータと比較してねじれ角の出現頻度を提示し、 ねじれ角の妥当性を解析します(図2)。結晶構造におけ る不自然な部分をチェックできます。 図2 ねじれ角の妥当性評価 (出現頻度は低(赤)、中(黄)、高(緑)で 表現) 3. さまざまなプロパティに基づく解析 リガンド候補構造のランキングリストはほんの数秒で 得られます。これにより迅速で合理的なSAR解析を可能 にし、次に行うべきことを即座に見つけることができます。 リストはSeeSARによって算出した親和力、logP、TPSA、 図4 SeeSARによる分子改変(PDB ID:3D7Z) 1)Reulecke, I. et al., ChemMedChem, 2008, 3, 885-897. 2)Schneider, N. et al., J Comput Aided Mol Des, 2013, 27(1),15-29. 3)Schär fer, C. et al., J. Med. Chem., 2013, 56(5), 2016-2028. 4)Bietz, S. et al., J. Cheminform., 2014, 6:12. 3 新製品情報 次世代シーケンサーデータ解析ソフトウェア Partek Flow 3.0リリース 2014年夏にPartek Flow(以下、Flow)の新バージョン3.0がリリースされました。Flowは次世代シーケン サーデータ解析ソフトウェアです。次世代シーケンサーから出力されたリード配列の参照ゲノム配列への マッピング、マッピング済み配列から遺伝子ごとの発現量の定量と遺伝子発現解析、マッピング済み配列 の 一塩基変 異や挿入 欠 失および 融合 遺伝 子の検出など様々な解 析機能を搭載しています。今回は新 バージョンでの新機能や変更点を含めたFlowの機能の概要について紹介します。 ■ 製品概要 データノードを選択すると、データの種類に応じた解 FlowはWebブラウザーを介して利用する次世代シー 析メニューが自動的に表示されます。例えば、図1のよう ケン サー デ ー タ解 析ソフトウェア で す 。ユーザー は にFASTQファイルを選択すると、QA/QCレポートの作成、 Google ChromeなどのWebブラウザーでFlowがインス 前処理、参照ゲノム配列へのマッピングといった解析項 トールされたサーバーにアクセスして、データのアップ 目が表示されます。 ロードやダウンロード、参照ゲノム配列へのマッピングの 複数の解析ノードから構成される一連の解析内容を 設定や実行、遺伝子発現解析や変異解析、ゲノムビュー パイプラインとして保存できます。例えば、Pre-Alignment アーで の 解 析 結 果 の 表 示 などを行 います 。そのため 、 QA /QCレポートの作成、クオリティ値の低い塩基の除 WindowsやMacなど様々なOSのマシンでFlowを利用 去、Bowtie 2での参照ゲノム配列へのマッピング、Post- できます。 Alignment QA/QCレポートの作成、遺伝子ごとの発現 FlowはLinuxマシンにのみインストールできます。新 量の定量、遺伝子ごとの発現解析の6つの解析ノードをパ バージョンからLinuxのパッケージインストールに対応し イプラインとして保存すると、FASTQファイルのデータ たため、ソフトウェアのインストールやアップデートが簡 ノードに 対してこのパイプラインを 選 択 するだ けで 単にできるようになりました。また、クラスター環境に対 RNA-seqデータ解析が実行できます。新バージョンでは 応したため、複数のLinuxマシンにFlowをインストールし パイプラインのインポートおよびエクスポートが可能にな て解析作業を割り振ることで解析時間の短縮が図れま りました。Partek社のWebサイト1)では様々なパイプライ す。クラウドサービスと組み合わせることで、データ量に ンが公開されているため、目的に応じて活用できます。 応じて解析能力を柔軟に調節できます。 ライフテクノロジーズジャパン株式会社のIon Torrent ■プロジェクトとタスク 次世代シーケンサーをご利用の場合は、Torrent Suiteの Flowではデータや解析内容をプロジェクト単位で管 専 用プラグイン をインストールすることで To r r e n t 理します。プロジェクトを作成したユーザーは共同研究 ServerからFlowに直接データをアップロードできます。 者を登録することで、他のユーザーがそのプロジェクト ■ ワークフローとパイプライン のデータを閲覧したり解析を実行したりすることを許可 できます。 Flowは解析内容を図1のようなワークフローとして表 ユーザーがワークフローに追加した解析ノードは、プ 示します。円形のデータノードはFASTQファイルやBAM ロジェクトごとのタスクキューにタスクとして登録されま ファイルなどのデータを、長方形の解析ノードは参照ゲノ す。Flowでは全てのプロジェクトのタスクキューに登録さ ム配列へのマッピング、QA/QCレポートの作成、遺伝子 れたタスクを登録順に実行します。ユーザーはFlowにロ ごとの発現量の定量、SNVの検出などの解析を表します。 グインすると図2のホーム画面やタスクキューで、プロ ワークフロー機能により解析内容全体を一目で把握で ジェクトや現在のタスクの状況、実行が完了したタスク きます。 などを一覧できます。新バージョンでは管理者がタスク を実行する優先順位をプロジェクトごとに設定できるよ うになりました。 図2 左:ホーム画面、右:タスクキュー 図1 ワークフロー 4 次 世 代シーケンサーデータ解 析ソフトウェア ■ FASTQファイルの解析 マッピングに変換、複数のBAMファイルの結合が実行で FASTQファイルを選択すると、QA/QCレポートの作成、 きます。BAMファイルは、指定したマッピングクオリティ 前処理、参照ゲノム配列へのマッピングの3種類の解析 値やミスマッチ塩基数でリード配列をフィルタリングで メニューが選択できます。QA/QCレポートの結果を確認 きます。 して、必要に応じて前処理を行うとマッピング結果の改 ■ 遺伝子ごとの発現量の定量 善に寄与します。 BAMファイルからRefSeqやEnsemblといったトランス ■ QA/QCレポートの作成 クリプトームデータベースを使って遺伝子や転写産物ご FastQCプログラムによるQA/QCレポート、外部RNA との発現量をカウントします。Flowでは、Partekの期待 コントロールによるQA/QCレポート(ERCCレポート)を 値最大化(E/M)アルゴリズムあるいはオープンソースの 作成できます。QA/QCレポートの結果に応じて、クオリ RNA-seqデータ解析ツールであるCufflinksの2つのツー ティ値の低い塩基を除去するとマッピング結果が改善 ルを使って発現量をカウントできます。 します。 遺伝子や転写産物ごとの発現量をカウントした後、サ ■ 前処理 ンプルに設定した実験条件に沿って発現解析を行いま 塩基の除去、アダプター配列の除去、リード配列の部 す 。遺伝 子 発 現 解 析 の詳 細については 、昨 年 の記 事 分抽出を実行できます。塩基は、5’末端あるいは3’末端 (2014年1月号7ページ)をご覧下さい。新バージョンでは、 から指定した長さ、または指定したクオリティ値より低 遺伝子発現解析を行う際の標準化の手法が改善され、 い塩基を除去できます。 発現量が低い遺伝子や転写産物をフィルタリングする ■ 参照ゲノム配列へのマッピング 最小カバレッジオプションが追加されました。また、解 次世代シーケンサーに付属するシステムソフトウェア 析結果のレポートの書式も改善されています。 を使って、FASTQファイルを参照ゲノム配列にマッピン ■ 変異解析 グすることもできますが、リード配列の長さや解析の目 BAMファイルを選択して一塩基変異や挿入欠失あるい 的に応じて様々なオープンソースのマッピングツールが は融合遺伝子を検出します。一塩基変異の場合、Flowで 開発されています。 Flowでは、 Bowtie、 TopHat、 Bowtie 2、 はPar tekのSNV Callerあるいはオープンソースの解析 TopHat 2、BWA、TMAP、SHRiMP 2、GSNAP、STARの9つ ツールであるSamtoolsの2つのツールを使って検出でき のマッピングツールを利用できます。 ます。挿入欠失は、Samtoolsを使って検出できます。融 オープンソースのマッピングツールを単体で利用する 合遺伝子の場合、Partekの融合遺伝子検出アルゴリズム 場合、様々なパラメーターを設定したコマンドを入力す あ るい は オープ ンソースのマッピ ング ツールであ る る必要があります。しかし、FlowではパラメーターをWeb TopHatまたはSTARの3つのツールを使って検出できます。 ブラウザー内のプルダウンメニューやチェックボックスな 検出した一塩基変異は、トランスクリプトームデータ どで設 定できるため非常に簡便です。また、ワークフ ベースを使って図3のようにミスセンス変異やナンセンス ローのレイヤー機能により同じマッピングツールをパラ 変異などのアノテーション情報を付加できます。 メーターだけ変更して複数回実行できるため、パラメー ターの調節にかかる時間を短縮できます。新バージョン で は 、一 部 のパラメーターの 初 期 値 が 変 更されたり 、 STARのsparsityパラメーターが追加されたりしています。 ■ BAMファイルの解析 BAMファイルを選択すると、QA /QCレポートの作成、 前処理、遺伝子ごとの発現量の定量、変異解析の4種類 の解析メニューが選択できます。 ■ QA/QCレポートの作成 FastQCプログラムによるQA/QCレポート、カバレッジ 図3 一塩基変異のアノテーション ■ご評価 Flowは無償トライアルにより4週間ご評価いただけま レポートを作成できます。QA/QCレポートの結果を確認 す。Partek Genomics Suiteをご利用のお客様だけでな して、必要に応じてマッピングツールやパラメーターを変 く、Partek社製品は初めての方もぜひお試し下さい。ト 更して再び参照ゲノム配列へのマッピングを実行します。 ライアルをご希望の方は弊社Webサイトよりお問い合わ ■ 前処理 せ下さい。 BAMファイルのフィルタリング、トランスクリプトーム にマッピングしたBAMファイルを参照ゲノム配列への 1)http://www.partek.com/pipelines 5 新製品情報 統合計算化学システム MOE 2014.09リリース 昨年12月にMOEの最新版MOE 2014.09がリリースされました。最新版では、受容体構造に基づく分子設計 (SBDD)に関わる多様なデータをデータベースに統合するMOE Project、目的の物性値を持つタンパク質のアミ ノ酸配列を推定するFocused Libraryなどが新機能として追加されました。また、タンパク質構築ツール、タン パク質デザイン機能、熱安定性スコアは非天然アミノ酸に対応したものへと刷新され、さらに12種類のタンパ ク質ファミリーデータベースが新たに追加されました。これらの新機能や機能強化により、MOEの生命科学研 究での利便性が飛躍的に向上しました。 本稿ではMOE 2014.09の代表的な新機能や機能強化を紹介します。 ■ MOE Project ファージディスプレイを行い、突然変異体の広大な探索 MOE Projectは複数の異なるファイル形式で保存され 空間から目的の物性値を持つタンパク質のアミノ酸配 たSBDDに関わるデータ(X線結晶構造、電子密度マップ、 列を推定します。突然変異体ライブラリーをこの推定さ PDB ID、活性値、分子記述子など)を一つのデータベー れたアミノ酸配列に限定すれば、目的の物性値を持つタ ス(プロジェクトデータベース)に統合します。さらに設 ンパク質の大部分を効率よく取得できます。 定に応じて、立体構造の重ね合わせ、配列のアラインメ Focused Libraryでは、①無作為に突然変異を導入す ント、構造/配列アノテーション、分子記述子の算出な る部位とアミノ酸の種類を決定して、突然変異体の立体 どを自動で行います。また、更新作業も専用のパネルか 構造モデルを構築します。②このモデルにおける目的の ら容易に行えます。プロジェクトデータベースは、最新 物性値(熱安定性スコア、親和性スコア、ゼータ電位な データの研究チーム内での円滑な共有を可能にします。 ど)を算出します。③この算出された物性値と事前に準 プロジェクトデータベースの作成には、MOE/webから 備したトレーニングセットの統計情報から、実際に目的 容易に作成できるXML形式の設定ファイルとMOE形式 の物性値を持つ確率を算出します。①~③の手続きを のリファレンスファイルを用います。設 定ファイルでは、 繰り返し行い、目的の物性値を持つ確率を突然変異部 プロジェクトデータベースのフィールドの定義、その値の 位のアミノ酸の種類ごとに集計します。その結果として、 取得方法を指定します。取得方法には、SDF形式などの 目的の物性値を得るために重要な突然変異の部位とア ファイルからの抽出だけでなく、HT TPやSOAPなどを用 ミノ酸の種類を推定することができます。 いてサードパーティー製ソフトウェアを利用することもで Focused Libraryを用 きます。一方、リファレンスファイルには、1つ以上の立体 いて、hGH/hGHR複合体 構造と10~20のアラインメント済みの配列を保存します。 (PDB ID: 1A22)の親和 立体構造は座標系や重ね合わせの基準として利用され 性についてファージディ ます。また、関心のある構造・配列にアノテーションを行 スプレイ法の実験値1)と えば、プロジェクトデータベースにも反映されます。 比較しました(図2)。実 験で親和性の向上が確 認できた突然変異体の 5%以上に含まれるアミ ノ酸が計算結果の上位 10件に約7割含まれてい ます。この計算結果を基 にして、突然変異体の作 成を親和性の向上が期 図1 ヒストンアセチル基転移酵素のファミリーデータベース MOE 2014.09ではMOE Projectで作成された12種類 のタンパク質ファミリーデータベースがデータコンテン ツとして提 供されています(図1)。これらのファミリー データベースを用いたファミリータンパク質の同定、構 造・配列のアノテーション、ホモロジーモデリングがすぐ に利用できます。 ■ Focused Library F o c u s e d L i b r a r y はコンピューター上で 仮 想 的に 6 図2 hGH/hGHR複合体(PDB ID: 1A22)の親 和性の実 験値と計算値の比較。着色 されたアミノ酸は実 験で 親和性の向上が確認でき た突 然 変 異体に多く含ま れる。 待できる突然変異のみ に 限 定 す れ ば 、目的 の 物 性 値 を持 つタンパク 質の大部分を含む突然 変 異 体ライブラリーが 構築できます。 ■ 非天然アミノ酸のサポート 前バージョンまでのMOEで非天然アミノ酸を含む系 の ポ テン シャルエ ネ ル ギ ー 計 算 に 必 要 な 分 子力 場 統 合 計 算 化 学システム (Amber10: EHT、Amber12: EHT)や部分電荷の割り当 て方法が提供されていました。MOE 2014.09では新たに ■ SBDD ドッキングシミュレーションにおける化合物の配置手 側鎖配座ライブラリー、タンパク質構築ツール(Protein 法としてTemplate Forcingが新たに追加されました。 Builder)、タンパク質デザイン(Protein Design)で非天 Template Forcingはタンパク質のポケットにあるリガン 然アミノ酸を利用できます。また、4文字表記のアミノ酸 ドの分子構造全体、部分構造、SMARTS、類似の性質を の表示にも対応しました。 持つ3原子を基準に化合物を配置します(図4)。さらに、 ■ Protein Builder タンパク質-リガンド結合状態の電子密度分布との一致 天然アミノ酸と非天然アミノ酸の両方について、下記 度による評価も追加されました。 の操作が同一のパネルから実行できます。 1. 残基単位でのφ/ψ二面角を指定した新規構築 2. アミノ酸の置換(突然変異の導入) 3. 側鎖配座の探索(図3) 4. 周辺のアミノ酸側鎖の再配置 5. 周辺に拘束をかけたエネルギー極小化計算 図4 リガンドのベンゼン環を基準に複数の化合物で Template Forcingを実行した結果(PDB ID:1RO6) タンパク質-リガンド相互作用フィンガープリント機能 は拡張ヒュッケル法に基づく相互作用の定量的な評価 を用いるようになり、ハロゲン結合やCH…O相互作用な ども新たに評価できるようになりました。 図3 リン酸化チロシン残基の 側鎖配座の探索例(PDB ID:1EEO) ■ 分子シミュレーション サードパーティー製量子化学(QM)計算ソフトウェア ■ 側鎖配座ライブラリー との連携が強化されました。特にGaussianではHessian 側鎖配座ライブラリーには、非天然アミノ酸の側鎖配 行列を用いた多段階の構造最適化プロトコルが利用で 座 が 新 た に 追 加 さ れ ました 。側 鎖 配 座 の 生 成 に は きるようになりました。また、配座解析後に自動でQMを LowModeMDを利用し、前バージョンと同等の精度と側 利用した構造最適化計算を行うオプションが追加され、 鎖配座空間の網羅性が保証されています。また、目的の より精密な配座が得られるようになりました。 非天 然アミノ酸が 側 鎖 配 座ライブラリーに無ければ、 分子動力学シミュレーション(MD)においては、サー ユーザー自身で簡単に側鎖配座が追加できます。 ドパーティー製MDソフトウェアのNAMDとの連携が強 ■ 熱安定性スコア 化され、マルチコア、クラスター、GPUを利用した計算設 前バージョンの熱安定性スコアでは、アンフォール 定がパネルから行えるようになりました。 ディング状態におけるタンパク質の突然変異の寄与に は天 然アミノ酸ごとに用意した 定 数を利 用しました 。 ■ Database Viewer MOE 2014.09では、非天然アミノ酸を含むタンパク質も 最新版のDatabase Viewerでは分子の立体構造と分 評価できるよう個々のアミノ酸に依存しない関数に置 子構造式を合わせて表示することができるようになりま き換えられました。この関数はアンフォールディング状 した(図5)。さらに、複数の物性値も同時に表示し、関心 態での突 然 変 異によるタンパク質の溶 媒自由エネル のある分子に対して目印をつけることができるようにな ギー、グリシンの数、環状アミノ酸(プロリン)の数、ヒス りました。 チジンの数の変化の線形和で表現されます。 ■ 低分子の重ね合わせ 低分子同士の重ね合わせには、分子構造全体、部分 構造、SMARTS、類似の性質を持つ3原子を基準とした重 ね合わせができるようになりました。また、FlexAlign機 能の類似性スコアによる評価や構造最適化も行えるよ うになりました。 図5 Database Viewerの分子構造表示 1)C. A. Smith, et al., PLoS One, 6, e20451(2011). 7 技術情報 熱力学物性推算ソフトウェア COSMOtherm:最新応用事例の紹介 COSMOthermは、COSMO-RS法に基づき蒸気圧・溶解度・相平衡などの平衡物性を推算するための熱力学物 性推算ソフトウェアです。本稿では、COSMO-RS法では取り扱うことができない高分子溶液や液液界面に対 応するために考案された計算方法とその応用事例を紹介します。なお、紹介する計算方法はCOSMOthermの 新バージョンに搭載予定です。 ■ はじめに ■ 応用事例:15種の高分子に対する低分子のガス溶解度 COSMO-RS法では、溶液中の分子間相互作用が分子 考案された計算方法を15種の高分子へのガス溶解度 表面のセグメント(分子表面の断片)間で独立に起こる 予測に適用し、その有用性が評価されました1)。検討さ と仮定し、分子の化学ポテンシャルを算出します。この れた高分子は、以下のとおりです。 仮定は、溶質と溶媒がほぼ均一に分布していることに相 Ethylcellulose、HDPE、LDPE、Nitrocellulose、PDMS、 当し、液液界面など偏った濃度分布をもつ溶液を取り扱 PEMA、 PET、 PODP、 Polybutadiene、 Polychloroprene、 うことはできません。また、分子をセグメントに分解して Polydimethylbutadiene、Polyisoprene、 相互作用を評価するため、過剰混合エントロピーを経験 Polyvinylbenzoate、PTFE、PVC 的に考慮する必要があります。COSMOthermには、低分 また、溶質として、21種のガス分子を評価しています(図 子溶液に適した補正機能はありますが、高分子には対応 1参照)。COSMO-RS法による活量係数の計算に必要な していませんでした。 高分子の表面電荷は、3量体からリピートユニットに対応 これらのCOSMO-RS法の制約に対して、COSMOlogic する部分の表面電荷を切り出すことによって用意してい 社を中心とした研究グループにより、 「 自由体積理論に ます(図2参照)。ガス溶解度の実測値と推算値の比較を 基づく高分子溶液の過 剰混合エントロピーを補正する 図1に示します。 方法」1)や「界面相の導入による液液界面を取り扱う方 法」2 )が考案されました。そして、高分子溶液への低 分 子のガス溶解度や界面張力の予測に適用し、その有用 性が確認されました。以降では、各方法の概要と予測事 例を紹介します。 ■ 自由体積理論に基づく高分子溶液の取扱い ■ 計算方法 自由体積理論は、系中で分子が自由に動ける体積、す なわち自由体積とさまざまな物性値との相関性・関連性 を評価した諸理論の総称です。その一つに高分子溶液 中の過剰混合エントロピーに由来する低分子の活量係 数への寄与が式1のように定式化されています。 ( ) lnγfv i =ln φifv φfv +1- i xi xi (1) 図1 高分子へのガス溶解度の実測値と推算値の比較 R 2=0.81から、実測値と推算値の相関性が高いことが確 は、式2で定義される化合物iの自由体積分率 ここで、φfv i 認できます。また、2乗平均誤差(RMSE=0.62)から、誤 です。 差も比較的小さいことが分かります。本計算方法を用い φfv = i x(ν -ν*) i i i Σj x(ν j j-νj*) (2) ることで、これまで計算できなかった高分子溶液の取り 扱いが可能になりました。 xi 、 νi 、およびνi*は、それぞれ化合物iのモル分率、モル体 積、剛体球モデルの体積です。モル体積には実測値を用 い、剛体球モデルの体積には、原子にVDW球を重ねて得 られる体積(COSMO法計算に用いるCavity体積)を用 います。式1の活量係数をCOSMO-RS法で得られる活量 係数に加えることで、任意の高分子溶液中の低分子の 活量係数が得られます。そして、活量係数に基づき、高 分子溶液へのガス溶解度や高分子-溶液間の分配係数 の推算が行えます。 8 図2 3量体から切り出したポリスチレンのリピートユニットの 表面電荷 熱 力 学 物 性 推 算ソフトウェア ■ 界面相を導入した界面張力の推算 ■ 応用事例:水-有機溶媒の界面張力の推算 ■ 計算方法 考案された計算方法を水-有機溶媒の界面張力の推 COSMOthermには、従来から液液界面における分子 算に適用し、予測精度が検証されました 2)。検討対象の の自由エネルギーを評価するためのFlatsurfという機能 有機溶媒は次のとおりです。 が用意されていました。しかしながら、2つの相からなる n-heptane、cyclohexane、hexane、CS2、 理想的な液液界面のモデル(図3左)を使用しており、界 tetrachloroethylene、CCl 4、1,1,1-trichloroethane、 面組成を考慮することはできず、界面張力(IFT)の推算 ethylbenzene、trichloroethylene、 は行えませんでした。考案された計算方法では、界面相 1,2-dimethylbenzene、1,4-dimethylbenzene、 を導入し、各相から界面相への分配を計算することで、 1,3-dimethylbenzene、toluene、benzene、CHCl3、 界面相の組成を決定することができます。また、同時に chlorobenzene、cis-dichloroethylene、 界面張力(IFT)の計算も行います。具体的には、以下のス 1,1,2-trichloroethane、CH2Cl2、1,2-dichloroethane、 キームで界面張力と界面相の組成を求めます。 trans-dichloroethylene、nitrobenzene、 diisopropylether、1-butyl acetate、 2-ethyl-1-hexanol、acetophenone、diethyl ether、 4-methyl-2-pentanone、nitromethane、1-octanol、 1-heptanol、aniline、1-hexanol、ethyl acetate、 1-pentanol、cyclohexanone、cyclohexanol、 2-butanol、1-butanol、methyl acetate、1-heptanol、 aniline 図3 Flatsurfの界面モデル(左) と界面相を導入したモデル(右) I F Tの 推 算値と実 測 値の比 較を図 4 に 示します 。R 2 と RMSEから実測値と計算値の相関が高く、誤差も小さい 1)液液平衡計算機能を用いて、A相とB相の相分離組成 ことが確認できます。図4より、0~50までの幅広いIFT を精度良く再現できることが分かります。加えて、より精 を計算 2)IFTの初期値として30 mN/mを用い、Flatsurfを用い てA相→Surface Phase( S)相、およびB相→S相間の 度の高い量子化学計算を用いたTZVPD-FINEの方が、推 算精度が高いことも確認されました。 各成分の自由エネルギー変化を計算 3)2で得られた自由エネルギー変化からS相の組成θ (i) を次式で計算 θ’(i )= θ (i)= 1 2 x(i )e +x(i )e [ ] A - Gtot,A→S (i ) RT B - Gtot,B→S (i ) RT θ’(i) Σnθ’(n) 4)3で得られた組成に基づきA-S間の界面張力を次式で 計算(B-S間も同様に計算) Σ [G tot,A→S ]+x(i) θ (i) (i)-RTln (x(i) ) +RTln (θ (i) ) G tot,A→S (i) A A IFTA = i (i ) 2Aav,A→S 5)A-B間の界面張力をA-S間、B-S間の界面張力の和で 図4 水-有機溶媒間の界面張力の実測値と推算値の比較 近似 IFT=IFT A+IFT B 6)5で得られたIFTが2で使用したIFTと一致すれば計算 終了。異なる場合、2に戻り、5で得られたIFTを用いて 1)C. Loschen, A . Klamt, Ind. Eng. Chem. Res., 53, 11478(2014). 2)M. P. Andersson, M. V. Bennetzen, A. Klamt, S. L. S. Stipp, J. Chem. Theory Comput., 10, 3401(2014). 再計算。 9 技術情報 創薬研究・医薬品開発支援システム SYMMETRY:がん領域における 予測モデルの選択と構築 Prous Institute SYMMETRYは、作用機序、安全性、ADME、適応症、経路解析、ケモゲノミクスを予測する 多数のモデルを搭載し、探索段階から開発研究、承認までのプロセスの各段階において意思決定を支援し ます。Prous Institute社では、モデルの検証例や新たに追加された予測モデル、SYMMETRYによる解析例 を掲載したレポート(SYMMETRY Report)を定期的に発行しています。ここでは2013年のレポートから、米 国がん研究協会年次総会(AACR 2013)の情報に基づくがん領域の予測モデルの選択と構築について紹介 します。 ■ 学術会議からの情報収集 PI3K/AKT/mTOR経路とRAS/RAF/MEK/ERK経路およ SYMMETRYの予測モデルは、文献、特許、学術会議な び表1の標的タンパク質に加えて、AACR 2013では多く どから収集された生物医学データを解析することにより の作用機序が引用されました(表2)。その中には新規の 構築されています。ここでは、学術会議の情報からどの 標的タンパク質も含まれます。 ようにSYMMETRYの予測モデルを選択し構築するのか 表2 その他の作用機序と標的タンパク質(一部掲載) を説明します。 ACK1 阻害剤 炭酸脱水酵素 DDR1 阻害剤 がんは病気に関連した第2位の死亡原因であり、新し ERRβ 調節薬 HIF-1 阻害剤 IKB 阻害剤 い治療薬が積極的に開発されています。米国がん研究協 JNK 阻害剤 KCNJ2 阻害剤 LPAAT-β 阻害剤 MAPK 阻害剤 PDK1 阻害剤 RET 阻害剤 SYK 阻害剤 Tak1 阻害剤* Wee1 阻害剤 会(AACR)の年次総会で報告された知見を分析して得ら れたがん治療分野の最新知識から、がん研究の潮流を 明確にし、最も適切なモデルを構築することが可能です。 * Tak1は新規の標的タンパク質 AACR 2013では、6,000以上の抄録が提出され、基礎科学、 SYMMETRY Reportでは、AACR 2013で発表された化 橋渡し研究、臨床試験およびポピュレーションサイエンス 合物を作用機序と標的タンパク質でグループ化していま の最新の研究について約600の講演がありました。 す。表3にPI3K/AKT/mTOR経路に分類された化合物を示 Prous Institute社では、AACR 2013から176の化合物を します。 作用機序と共に収集しました。合計で少なくとも79の標 的タンパク質が提示されました。最もよく研究されていた のはPI3K(Phosphoinositide 3-kinase)でした。次いで、 mTOR(mammalian target of rapamycin)でした。 PI3K Inhibitors AZD8186 BAY80-6946 BKM120(buparlisib) BYL719 CAL101 CLR1502 Dactolisib(BEZ235)GDC-0032 GDC-0068 ■ 標的タンパク質と作用機序の解析 GDC-0941 GS-1101 GSK1059615 HS173 PF-4989216 PWT-458 トのがんにおいて最も頻繁に調節異常を引起すキナー Quinacrine SAR245408(XL147)SAR245409 SAR260301 X370 PI3K/AKT/mTOR経路とRAS/RAF/MEK/ERK経路は、ヒ ゼ・カスケードです。AACR 2013のレポートを解析したと ころ、PI3K/AKT/mTOR経路に関連して活性をもつ化合物 の引用は約165件、RAS/RAF/MEK/ERK経路に関連する化 合物の引用は約60件でした。また、両経路に関連する過 去20年間の特許情報を調べたところ、PI3K/AKT/mTOR AKT Inhibitors AZD5363 BAY10001931 BAY1125976 CCT129254 GDC-0068 GSK690693 MK-2206 Perifosine Triciribine mTOR Inhibitors 経路については2005~2012年までの7年間で特許数が AZD8055 Baicalein Dihydroartemisinin 大幅に増加しましたが、RAS/RAF/MEK/ERK経路は殆ど Everolimus Kawain KU63794 変化がありませんでした。 mCC-223 MLN0128 PP242 Rapamycin Temsirolimus Torin 2 PI3K/AKT/mTOR経路とRAS/RAF/MEK/ERK経路以外で 引用回数が多かった標的タンパク質を表1にまとめました。 表1 引用の多かった標的タンパク質(括弧内は引用数) HDAC(8) EGFR(14) PARP(9) HER(9) BTK(8) ALK(8) c-MET(7) Src kinase(6) PIM kinase(6)VEGF(5) Mcl(5) FLT(4) FAK(4) Exportin 1(3) IGF1R(3) HSP90(3) CRM1 (3) CDK (3) ABL(3) 10 表3 作用機序とターゲットで分類した化合物 BCL(3) Aromastase(3) AACR 2013で発表された情報は、がん治療領域にお ける重要な標的タンパク質を選択するために非常に有 用です。SYMMETRYには、その情報を最大限に利用した 予測モデルが搭載されています。また、AACR以外にも 重要な学術会議における情報を整理し、最新の予測モ デルを提供しています。 新製品情報 材料設計支援統合システム MedeA:最新版2.15リリース MedeAは原子・分子レベルのシミュレーション技術を基に様々な材料の物性評価を行うための統合環境 です。MedeAの最新版(バージョン2.15)がリリースされましたので、その新機能や改善点等を紹介します。 今回のバージョンアップでは、MedeAの基盤となるシステム(データベース管理システムや並列ライブラリー 等)の改善が図られ、より安定に動作し、より高速な計算を実行できるようになりました。また、新モジュール として定量的構造物性相関ツール「P3C」が追加されました。 ■ 基盤システムの改善 ■ SQLiteの採用 VA SPの最 新リビジョンである5.3.5への対応は、現 在開発が進行中です。次期バージョンのMedeAにて、 MedeAはデータベース技術を活用し、計算結果やモ VASP 5.3.5がリリースされる予定です。 デル構造を一元的に管理することができます。これまで、 ■ Phonon データベース管理システムは、Microsoft SQL Serverや IR/Ramanスペクトルを計算し、MedeA上で描画でき MySQLといったサーバー・クライアント構成のものを採 るようになりました(図1)。 用していました。 今回、SQLiteに対応することで、サーバー・クライアン ト間での通信がなくなり、より軽量で高速な動作が実現 しました。また、サーバーが停止するといった心配もあり ませんので、安定して利用できます。 ■ httpsへの対応 MedeAはネットワーク技術を活用したJob Server/Task Serverシステム(独自のキューイングシステム)を実装し 図1 PhononでのIRスペクトル計算例 ています。これにより、リモートマシンへの計算を簡便に 制御することができます。これまで、httpプロトコルを ■ フローチャート ベースにした通信を行っていましたが、本バージョンで MedeAではフローチャート機能により、計算内容をフ は、SSL / T L Sプロトコルに対応し、ht tps( Hy p er te x t ロー形式で構築し実行することができます。多くの改良 Transfer Protocol Secure)通信が可能になりました。こ がなされている他、利便性を向上させる機能も追加され れにより、Job ServerとTask Server間での通信内容が ています。 暗号化され、セキュアな運用が可能です。 フローチャートライブラリーが作成され、テンプレー ■ Intel MPI 4.1への対応 トとなるフローチャートが用意されました。テンプレート MedeAに搭載される計算モジュール(VASP、LAMMPS を基にして計算構築することができます。ライブラリー 等)は、Intel MPIライブラリーを利用した並列計算を は今後さらに充実される予定です。 行っています。今回、Intel MPIのバージョン4.1に対応し その他に、structure list file機能を利用した構造一括計 ました。これにより、並列処理がより高速になりました。 算に対応しました。structure list fileに登録した構造をフ 特にノード間並列では、Infinibandを利用した高速通信 ロー内で読み込み、ループ処理で各構造を逐次計算する の並列処理を行うことができるようになり、計算資源を ことができます。また、ループ毎の処理を一括して実行す 有効に活用できます。 ることもでき、すべての構造に対して同時実行も可能です。 ■ 各モジュールの改善点 ■ 新モジュール 現在、VASP 5.3.3をサポートしており、Van der Waals 新モジュールとして、 P3C (Polymer Property Prediction densit y func tional(optPBE-vdW等)やmeta- GGA using Correlations)がリリースされました。P3Cは、 (TPSS等)に対応した設定をインターフェース上で行うこ Biceranoの方法論 1 )に基づいた定量的構造物性相関 ■ VASP 5.3.3 とができます。また、よく利用されるパラメーターとして、 ■ P3C (QSPR)ツールです。MedeAがもつ単量体のライブラ 対称性考慮オプション(ISYM)や電子数指定オプション リーから、高分子の各種物性(ガラス転移点、凝集エネ (NELECT)もインターフェース上で設定できるようになり、 ルギー、表面張力、誘電率、ヤング率等)を推算すること 利便性が向上しました。さらに、上記の通り、Intel MPI 4.1 ができます。 に対応してInfinibandを利用した並列処理計算を実行 1)J. Bicerano, Predic tion of Polymer Proper ties, できるようになりました。 rev is e d and e x p an d e d third e dition, Marcel Dekker, New York, 2002. 11 セミナー 情 報 材料設計支援統合システム MedeA:ユーザー会報告 MedeAのユーザー会が10月21~23日の日程で、米国フィラデルフィアで開催されました。MedeA最新版の ハンズオンを中心としたトレーニングセッションが1日、ユーザーならびに開発者からの発表が行われるサイ エンティフィックセッションが2日間開かれ、世界各地から60名あまりが参加しました。 ■ 新モジュールUNCLE、FFOの発表 本ユーザー会の開催にあわせ、2つの新モジュールの リリースが発表されました。 M e d e A - U N C L Eはクラスター展 開 法を搭載した 新モ ジュールです。配置のエントロピーの考慮が重要となる 合金や固溶体の取り扱いをより高精度に行うことがで きます。ユーザー会ではベータ版がお披露目されました。 正式リリースは来年春に予定されており、日本では紹介 “Current challenges to density-functional calculations: complexity, correlations and dynamics” ・Gus Hart - Brigham Young University “Building alloy models with compressive sensing” ・Tobias Kerscher - Hamburg Univ. Technology “Applications of UNCLE” ・Martijn Marsman - University of Vienna “VASP: Past, Present, Future” セミナーを開催する予定です。 共同研究先からの発表 ‒ Thermo-Calc もう一つは、力場パラメーター開発ツールのFFO(Force ・Paul Mason - Thermo-Calc Software Field Optimizer、仮 称)です。現在は、酸 化物向けの “ The application of CALPHAD based tools to the Buckinghamポテンシャルと金属向けのEAM(Embedded Materials Genome Initiative and ICME and the Atom Method)ポテンシャルの2タイプの力場関数に 対応しています。Buckinghamポテンシャルについては Li酸化物に対する適用事例が報告されています1)。 ■ サイエンティフィックセッションでの 広範な発表 corresponding needs for data” ・Chao Jiang - Thermo-Calc Software “ Thermophysical Proper ties of Liquid Al Alloys Using Molecular Dynamics” ユーザーからの発表 ・Fabio Rosciano - Toyota Motors Europe “Computational Design and Experimental Verification of Zero - and Low-strain Cathode Materials for Solid-State Li-Ion Batteries” ・Phuti Ngoepe - University of Limpopo “Simulation of nano-architectured electrodes for energy materials” 図1 ユーザー会風景 (演者はMD社CSOの Wimmer氏) ・Hiroki Moriwake - Japan Fine Ceramics Center “First-principles Calculations at Japan Fine Ceramics Center” MedeAモジュール開発元(VASP、UNCLE)からの発表 ・Jürgen Hafner - University of Vienna ・ 弊社 Web サイトには、取り扱い製品、最新のニュース、お客様向けサポート情報、 他のサイトへのリンクなどを掲載しております。 ・ 電子媒体でのニュースレターおよびバックナンバーは下記 URL をご利用下さい。 http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/news/newsletter.html ・ 本ニュースレターは、弊社取り扱い製品をご購入いただきましたサイトのご担当 者様にお送りしています。 その他に発送のご希望がございましたら弊社までご 連絡ください。 各社の商標または登録商標です。 ・ 記載されている会社名及び商品名は、 1)Ryoji Asahi, Clive M. Freeman, Paul Saxe and Erich Wimmer, Modelling Simul. Mater. Sci. Eng. 22 (2014)075009. RSI ニュースレター Vol. 22, No. 1, 2015 2015 年 1 月 1 日 発行 発行人 後藤 純一 発行所 株式会社菱化システム Copyright © 2015 Ryoka Systems Inc. TEL: 03-6830-9724 FAX: 03-5610-1161
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