第 49 回日本理学療法学術大会 (横浜) 6 月 1 日(日)11 : 20∼12 : 10 ポスター会場 (展示ホール A・B)【ポスター 神経!脳損傷理学療法 20】 1547 Gait Solution 長下肢装具が立脚終期の股関節伸展角度に与える影響 山本 洋平1),田口 藤本 康浩2) 1) 医療法人尚和会 潤智1),笹岡 保典1),堤 万佐子1),中谷 知生1),炭本 貴大1),脇田 光1), 宝塚リハビリテーション病院,2)川村義肢株式会社 key words 長下肢装具・Gait Solution・歩行 【目的】 油圧制動式足継手 Gait Solution(以下,GS)は,立脚初期の踵ロッカーにおける底屈を油圧制動により補助し麻痺側への滑らか な体重移動を可能にするとされている。このため,当院においても脳卒中片麻痺患者の歩行改善のために GS を短下肢装具と長 下肢装具に採用し積極的に活用している。先行研究では,GS 短下肢装具が脳卒中片麻痺患者の歩行能力を改善することを報告 したものは多い。一方,GS 長下肢装具に関する報告は散見する程度であり,その中でも特別な効果を示さなかったものも多く, GS 長下肢装具の効果が十分に立証されているとはいえない。しかし,臨床での手ごたえとしては従来の底屈を固定した足継手 よりも GS による油圧制動の方が立脚期の体重移動は向上している印象を受ける。本研究の目的は,長下肢装具の足継手の油圧 制動と底屈固定の違いが,脳卒中片麻痺患者の歩行の麻痺側立脚期に与える影響を検証することである。 【方法】 対象は,2012 年 12 月から 2013 年 9 月の間に当院回復期病棟に入院した脳卒中片麻痺患者 8 名(平均年齢 77.6±13.3 歳,男性 5 名,女性 3 名) とした。選択基準は,発症後 1 ヵ月以上 6 ヶ月以内の者,片麻痺で非麻痺側に明らかな麻痺がない者,長下肢装 具を作成した者とした。その内,Brunnstrom stage 下肢 II が 3 名,III が 4 名,IV が 1 名であった。評価項目は,長下肢装具を 装着しての 10m 介助歩行における麻痺側立脚期の股関節伸展最大角度と足関節背屈最大角度,所要時間,歩幅とした。股関節と 足関節角度の計測には川村義肢社製 Gait Judge System を用いた。これは GS にポテンショメータを装着し関節角度を記録する 装置である。股関節角度の計測には可変抵抗式角度計測器を骨盤帯と大腿の外側部に固定し,ポテンショメータに接続した。歩 行を実施するにあたり,長下肢装具の足継手は GS とクレンザックによる底屈 0 度固定(以下,固定)とし,それぞれ背屈角度 はフリーに設定した。介助は全て同一の者が実施し,GS と固定の順序はランダムに決定した。2 条件間の歩行の評価項目は対応 のある t 検定を用いて比較した。統計学的有意水準は 5% とした。 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,被験者に研究の目的,方法を説明し同意を得た。また所属施設長の承認 を得て実施された。 【結果】 各項目の平均値は,股関節伸展角度が GS 群 11.25±7.13 度,固定群 5.52±6.94 度,足関節背屈角度が GS 群 5.56±4.14 度,固定 群 2.7±3.12 度といずれも GS 群で有意に大きくなった(P<0.05)。歩幅においても GS 群 27.89±15.58cm,固定群 24.90±12.14 cm と GS 群で有意に拡大した (P<0.05) 。10m 歩行の所要時間は GS 群 31.05±10.07 秒,固定群 33.17±8.98 秒と両群間に有意差 はなかったが GS 群で短縮した(P>0.05)。 【考察】 本研究の結果,底屈を油圧制動にすることで立脚期の股関節伸展と足関節背屈角度は増大し,歩幅は拡大した。先行研究では, 下肢装具は足関節の固定ではなくロッカー機能を引き出すような可動性のある方が歩行の再建に有効であると言われており, その中でも GS は健常歩行に近い下肢筋活動を促しやすいことが確認されている。このため,長下肢装具においても GS による 踵ロッカーの補助は前方への推進力に繋がり,立脚相の延長に影響を与えたものと考える。具体的な理由として,底屈固定では 荷重応答期に足部と下肢が一体となって急速に前方回転するため体幹の前傾を引き起こすが,GS では足底接地が先行し徐々に 下肢が前方回転するという健常歩行パターンに近い関節運動であり,体幹前傾への影響が少ないため股関節が伸展しやすい。ま た,筋活動においても,底屈固定では荷重応答期に MP 関節に圧が集中して足関節底屈筋群の筋活動が強くなると言われている が,GS では底屈筋群の過度な筋活動が抑制され立脚中期以降の足関節背屈角度が増大し,立脚終期の股関節伸展の拡大に繋 がったものと考えられる。このように健常歩行パターンに近い関節運動と筋活動を促す GS は,長下肢装具においても効果を発 揮し歩行因子の改善に影響することが示唆された。 【理学療法学研究としての意義】 GS 長下肢装具によって立脚期の股関節伸展は増大するという一つの傾向が示された。このことは長下肢装具を使用した効果的 な歩行練習をするための一助になるものと考える。
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