山陰地域における人口減少・少子高齢化を踏まえた 企業の

Bank of Japan Matsue Branch
Sanin Research Papers
2016 年 1 月 12 日
日本銀行松江支店
山陰地域における人口減少・少子高齢化を踏まえた
企業の戦略・対応状況
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1.全体感
山陰地域では、全国対比、人口減少・少子高齢化の動きが早くから始まって
いたこともあり、地域全体としてこれらの動きに対する問題意識は浸透してい
る。すなわち、山陰地域の企業をみると、域内の需要の減少分を域外や海外か
ら取り込む動きや高齢者ビジネスに参入する動きが他地域よりも比較的早くか
らみられ、足もともこうした動きは続いている。
また、地方創生が謳われる中で、官民が協同して問題に取り組んでいる事例
もみられる。具体的には、①生産年齢人口の社会減をせき止める「ダム」とな
る広域経済圏の形成に向けた取り組みや、②地域の資源をブランド化して販路
を拡大することで、地域に新たな仕事を生み出している動き等がみられている。
こうした中には、地方創生の好事例として取り上げられるものもあり、危機感
の高まりと共に、前向きな動きが広がりをみせている。
(図表2)高齢化率※
(図表1)人口
130
(%)
(1970年=100)
14年
40
122.5
120
14年
島根県
30
鳥取県
全国
110
31.7
29.1
26.0
20
100.9
100
島根県
90
10
90.1
鳥取県
全国
0
80
70 75 80 85 90 95 00 05 10
年
70 75 80 85 90 95 00 05 10 年
(出所)総務省
※ 全人口に占める 65 歳以上の人口の割合
(出所)総務省
2.人口減少・少子高齢化に対する企業の受け止め方
人口減少・少子高齢化の進展に伴い生産年齢人口が減少しており、需要の獲
得や労働力の確保が経営上の重要課題の一つとして位置付けられている。
これをやや詳しくみると、需要面では、中山間地域における商流の低迷等で、
1
既に事業への影響が出始めている先がみられている。また、スーパー等の小売
業では、足もとよりも先行きのマーケット縮小を懸念する先が多い。
供給面をみると、地場企業において、新規採用者数等の確保が難しくなって
いる背景として、若年層の減少を指摘する先がみられている。
一方、人口減少・少子高齢化をビジネスチャンスと前向きに捉え、中には事
業転換や異業種の買収を行う積極的な先があるほか、消費者のニーズの変化を
いち早く察知し、需要の取り込みを進めようとする先もみられている。
3.企業の具体的な戦略・対応
(1)需要面
需要開拓に取り組んでいる企業の動きを整理すると、主に、①高齢者向け商
品の開発・製造、②新事業への参入や高付加価値商品・サービスの開発・強化、
③国内外での販路拡大の 3 つが挙げられる。
① 高齢者向け商品の開 
発・製造
高齢者人口が増加傾向にあることから、高
齢者向け需要の取り込みを企図し、介護関
連を中心に高付加価値商品の開発や他社と
の差別化を実施・検討する先が多く、大企
業と共同開発を行う事例もみられている。
② 新事業への参入や高 
公共工事が減少傾向にある建設業を中心
付加価値商品・サービ
に、農業や高齢者向けサービス等の新事業
スの開発・強化
に参入する動きがみられる。また、需要創
出のため、既存分野で消費者の嗜好の多様
化に対応した商品を開発したり、顧客層を
広げるために取扱いブランドやイベントな
どに工夫を凝らす動きもみられる。
③ 国内外での販路拡大

新規先の開拓や、同業他社の M&A による規
模の拡大、インターネット販売や他地域・
国外への進出等により、需要の取り込みを
図っている事例がみられる。
2
(2)供給面
供給面での企業の戦略・対応をみると、一部には競合激化や消費者の購買ス
タイルの変化から、店舗の閉鎖等で事業を縮小し、経営資源を集約する先があ
る。
一方、製造業を中心に、省人化投資や自動化投資等により、生産性を改善し
ながら人手不足を解消する動きがみられる。また、幅広い業種において、①正
社員化や就労形態の見直し、②働くに当たり魅力のある事業の提示、③女性の
社会進出支援策の充実やワークライフバランスの推進等の施策に粘り強く取り
組むことで、人手不足を緩和している先がみられる。
(3)地域経済への影響
積極的な企業の中には、①商品の共同配送、地元企業への OEM 生産や、②提
携による事業拡大等に伴う地域内の雇用増に加え、③域外の大手企業等と連携
し、地域資源を再発見・再評価して需要拡大に繋げる動きなど、地域経済に好
影響をもたらす事例もみられている。
4.先行きの展望
以上のように、山陰地域では、需要が中長期的に減少していくことを想定し
つつも、新たな需要の獲得等により業容の維持・拡大を図る動きがみられてい
る。もっとも、供給面では、専門性を持った人材や経営を任せられる後継者の
不足・不在、新卒採用の困難化を課題として挙げる先も少なくない。
このため、今後、企業や地域における危機感がますます高まっていく中で、
自治体や金融機関等との連携体制の下で、人材の受け皿づくりや出生率を高め
るための子育て支援など人手不足を緩和するためのより中長期的な施策が着実
な成果を上げていくことが期待される。
以
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上