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NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
口腔アモエバ(Entamoeba gingivalis)並びに口腔トリコモナス
(Trichomonas tenax)の出現頻度に就いて
Author(s)
詫摩, 一郎; 長岡, 貞彦
Citation
長崎大学風土病研究所業績 3. p.952-957, 1954
Issue Date
1954-12-25
URL
http://hdl.handle.net/10069/4861
Right
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http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
バ
952 長暗医学会雑誌崇29巻賢12号952-957貢
口腔アモエバ(Entamoeba gingivalis)並びに
口腔トリコモナス(Trichomonas tenax)の出現
頻度に就いて
長崎大学風土病研究所病理部〔主任:璽倉敷環〕
詫摩一郎 長岡貞彦
†二く 王 いち ろう なが 山か さだ ひこ
未講の概要に就いては,長崎医学会第119回例会(1953年9月15日・長崎〕J日未寄生
虫学会第6回九州相方部会(1954年10月22日・鹿児島〕に於いて逐次口演発表した.
蘇
記
(緒言に代阜て)
人体の口匪に2種の原虫が嵐乱することが
口匝アキエバは,人体寄生原虫中,最頻繁に
知られている.根足虫類(Rhizopoda)の了
遭遇する種であって,例えば, FISCH皿(1921),
モエバてと鞭毛虫類(Mastigophora)のh Uコ
Gottigen, 51%, -EncH & KIEFER(1923),
モナスとがそれである.しかし,病原性は確
Bonn, 52%, - JEPPS (1923), Malaya, 56
認されていないから,寄生(parasitism)と
%,-PopopF, SASSOUHINE & KouDRIAUTZKW
云うよりは寄居(亡Om皿ensalism)と云うのが
(1929), Moskau, 63%というような比較的高
正しいかも知れない.
い検出率が報告されている.WEnTP打AL(1941)
口陸了モエバは,人体寄生アキエバとして
は,健常口匪の培養検査によ&, 73%という
最初に知られた程であって, Gros(1849)の
高率を挙げている.しかし,概しで ABOU-
発見に係り,爾来, ‖Amoeba gingivalis"
RAEE忙ow (1934),並びに JIROVEC,EnKTOS,
Gros 1849, Amoeba buccalis SrEiNBEKG 1862,
Entamoeba buccalis VON PROWAZEK 1904,
MEZL & NovAK (1942)の調査研究の成績忙
示されているように,幼年者には少く,年齢
Enda皿oeba b耶callsEnss & JoHN占1915等
の増すに従って多くなることは疑うべくもな
と呼ぼれたが,現在, Entamoeba gingivahs
い.榎本〔1952)は,東京都及び神奈川共に
(G且os 1849)En口端pi- 1913,又は Endamoeba
於いて, 15才以上の任意の-100例に就いて60
gingivalis (Gnos 1849) SMIT打&EnRKET 1915
%の検出率を挙げている.
という学名が一般に用いられている. Entamoeba
pulmonalis
(ARTAUTバT1898),
Entampeba
人項以外の曙乳動物の口腔にも本種の寄生
することが知られている GooDRICH&MoN-
kartulisi (DoFLEIN 1901), Entamoeba pyo-
sEnEY(1916)は犬及び猫に於いて, NIESCHULZ
genes 皿OUM &EnuyA耶1911, Entamoeba
(1925)は馬に於いて KTRBY & JoI-TNSTO-
皿acrohyalina TIBALDI 1920等と呼ぼれたの
(1930), HEGNER & CHU (1930)は揖に於い
は, Gingivalis桂が検出個所を異にしたため
て, Entamoeba gingivalisを検出した.しか
し,諸種の動物の口腔7モエバの同定に就い
に別種と見倣されただけのものに他ならない.
口腔アモエバ*(Entamoeba gingivalis)鮭びに口腔ト1)コモナス〔Trichomonas tenax〕の出耳寂匡に就いて953
ては,・諸家の意見が完全に一致しているわけ
JIROVEC,EnRTOS, MEZL & NovAK (1942),
ではない. SIMIT月(1938)は Entamoeba
Flag, 2Q%一 榎本(1952〕,東京都及び神
canibu亡亡ahs と名づけた犬のそれは人のそれ
奈川県, 5%という検出率が報告されている.
よ申は造に形が小さいし,そして人体口腔に
EnATEnN (1933)は, Philadelphiaに於いて,
移植されないと報告し, DBBOHLAV (1932〕は
健常口腔の11.4%に対して,病変口腔の26.5
Entamoeba gingivalisを犬口腔に移植するこ
とに成功しなかったが HINS打Alv (1938)は
%という寄生率の差異を証明し牢.勿論'培
養試験によれば,検出率は倍加する. WEST-
Entamoeba gingivalis 及び Trichomonas
pFバu, (1936)は,それによって, 53%という
bu亡callsを犬口腔に実験的に感染させ得たと
高率を挙げた Tn 九L (19ヰ7〕の著書を参
報告している.此処に興味ある問題が遺され
照するとy Trichomonas vaginalisとTri亡ho-
ていると思う.
monas tenaxとの寄生率の関係を討検した報
口腔ト1)コモナスも,口腔了モエバ{と同じ
告が引相されているが,それによれぼ, STEIN
く,顧歯,歯髄経典,歯根膜炎,歯槽膿漏症
& CopI二(1933)は58例の腔炎患者中3倒しか
等, =不潔な=環境を好んで棲息する原虫で
口腔感染を見ていないしI LI占TON & LISTON
ある PARISorr & SIMONIK (1921〕, CRAIG
(1939〕は 200例の麻人に就いて, 90例の
(1926), WENYON (1926)等によって,肺壊
Vaginalis感染に対して6例のTenaxを認め
症,ダンサンロ昧炎,屈桃腺膿坊,胃痛胃内
たに過ぎない.EnMFD &EnKOFF (1937)は,
容からも検出されている Tri亡homonas pul-
200例の婦人に就いて, Vaginalis感染23.5%,
monalis S<バ:HMIDT 1895と名づけられたのは,
Tenax感染1占.5%,両種感染ヰ.5%という成
曝昧中から本接が見出されただけのことであ
績を挙げている.すなわち,大部分の婦人に
って,現在別種と見倣されてはいない O.F.
MttLLER (1773)がCercaria tenax と命名
ないことが窺われる.
したのが最初の報告である. STEINBERG(1862)
は) Trichomonas elongata, -caudata,
nagellataの3種を区別Lバたが,人体口腔には
あっては,口腔清掃と腔清浄度が一致してい
HEGNE号 & RA-I〔汀JI柑E (1927), HEG耶了も&
C- (1930)等の研究によれぽ,槙・犬・猫
等の口腔にも本種又は近似種が寄生するとい
唯1種しか棲息しないというのが現代の定説
ラ. HINSHAW (1928)はTenax種を犬口腔に
である Trichomonas denticola LE班耶RI
感染させることに成功した KoI^OID, HIN-
MAN 1902, Tetratrichomonas buccalis GooDICY
sHAW & JoHNSTONE (1929)は, Tenax種を
1917リ Tetratri亡homonas hominis O耶RA 良
槙睦腔には接種し得なかったけれども,それ
NoGUCHI 1917等と呼ぼれた後,一時, Triehomonas buccalis (GooDEY 1917) KoFOTD
を口腔に移植することができた.EnNESTKLL
(1936)は仔猫の口腔に感染させている. RA-
1920という命名が公認されたように見えたが,
KOFF (1934)は鼠の腹腔内に感染させ得たと
命名規約(Rules of Nomenclature〕の優蒐
云っている.
法則(Law of priority)によって、再吟味され
た結果,現在 Trichomonas tenax (O. F.
私達は'昭和28年6月から.8月までの問,
長崎県諌早市に於いて,歯科患者100例に就
MiiLリーEB1773) DoEnLL 1939という学名が採
いて Entamoeba gingivalis並びにTricho-
用されている.
monas tenaxを検索し,これらの寄生原虫の
口腔リJ)コモナスの寄生率は口腔アキエバ,+
のそれほど高くはない,BACH& KiEn.E王も(1923),
Bonn, 4鬼 出現頻度と唾液及び口腔疾患との関係を観察
した.
jEpps(1923), Maiユya, 32%,
換 査
方 法
954 詫 間i長 岡
白金耳をもって,歯頚部よ中歯塀をとり,
生理的食塩永をもって適度に稀釈して,生鮮
n検査に供した.唾液pHの就査には東洋鰭紙
のpH試験紙のB.T-Enを使用した.培幕試
J
験は行っていない. c
i `
.換 査
Entam占eba gリingivalis.は100例中38例に
成 績
例中38例で,.検出率は46%である. 16歳以下
■、 r ■
藷められ,.検出率は38%である(表Ⅰ).榎本
18例には1例も見られていない.
(1952)の如く年齢を限定すれば, 17歳以上写2
表Ⅰ : Entamoeba gingivalis及びTrichombnas tenaxの検出率
Tnchomrma.s tenax
Enlamoeba gn】givalis
年 齢
亡検査例数 陽性例数 検出率(%〕検査例数 陽性例数 検出率(形)
17才以上
82
38
16才以下
18
0
46(^〕
82
6
K%1
00バ)
18
0
K%〕
i iiii;
6
6(?Oー
r
統 計
100
38
38(^〕
■r
唾液pHと出現頻度と由関係を見ると〔蓑
Trichomonas tenaxは, pH 7.4一臥0の問
II), pH 6.軸ゝら8.0の間に出ていて, pH7.4
に見られ100例中6例で,検出率6期であ
の場合に11/ 5=57%で最高の比率を示し,・
った〔表Ⅰ〕.これも16歳以下の年少者には見=
pH7.2では6/9ヒ55%, pH7.0ではVs-50%
られていない.口腔疾患と口腔トIj・コモナス
と次第に低くなっている.
の寄生の関係は,カ1)ェスの場合3例,歯髄
炎の場合1例,1歯根膜奥の場合1例,共他1
l
r
表II Enlamoebユgingivalisの出現頻度と
例であつ転が,例数が少くて格別の知見は得
られない.しかし,大体に於小て,清掃不充
唾液pHとの関係
60
表II Entamoeba gingivalisの寄生率と
口腔疾患との関係.
5tI
40
a>i>:
?0
30
80
TO
20
60
10
%
冒
FH砧-&.&
2/o▲
書-暑=
7.0 与
4/s 6/ "/19
so
冒
40
7占-8.O
30
20
/ォリ8
リ0
- y.
口腔疾患と口腔アモエバの寄生率との関係
を見ると'例数が少ないので明瞭ではないが,
大体'歯髄経炎(10/14-71&),歯槽膿漏
症(6/丁=71%〕,歯根膜炎(Ve=66510 の場
J
合に概して多く見られた(表II).
男女別では寄生率に有意の差はない.
-+__ --
′ーヽ ′ ヽ ′ーヽ ′ ヽ ′ ヽ ′ヽ
.苧三苧髄
幸手毒享毒手幸三手書
〕 ヽ_′ ヽJ 、J \ー/ 〕
3-/13 /7 4/ "/品 5/981且/lo
備考: pHを示す数字はアモエバl'の検出された
例のそれである
I
口腔アモエバ*(Entamoeba gingivalis)放びに口腔ト1)コモナス(Trichomonas tenax)の出講J數箆に就いて955
分の口腔に多いように思われる, Entamoeba
かったがIそれが共棲(symbiosis)又は助
gingivalisとの・況合寄生が6例中5例まで見
棲(metabiosis)の現象であるか香かは別
られ,単独に寄生していたの時1例に過ぎな
個の問題である.
考
Entamoeba gingivalis にしでも Tri亡ho・
monastenaxにしても,緒言で綜説したよう
に,歯牙及び歯髄の病変部位の他,健常口腔
轟
て,格別他意はないのかも知れない.
此処に興味ある問題が遺されている.ABDUL*ABEKOVV (1934),出び忙 JaてOVEC, BA-rros,
からも多少は証明されるがI一方,局桃腹膜
症,顎骨膿坊,肺壊痘,胃痛胃円からも検出
されたという報告もあ与.しかし,それは二
次感染に過ぎないのであって,そのため原病
M且ZL & NovAK (1942〕も指摘し,私達の調
苛が悪影響を蒙るか否かも疑わ・しいのであつ
て, HoABE (1949)の記述を借りるならば,
いう事実である.一人体発育過程の時期に
"a harmless commensal which acts as a
であろうか甘口腔粘膜の自家清浄:Selbstrei-
s亡aveng即of diseased tissue when pyorrhoeic
nigungの横能が少年期には特に強いのであち
査の結果もそうなっているが Entamoeba及
びTrichomonasが少年期の口腔には棲息せ
すにIそれが成年期に入って初めて現れると
よって斯かる差の見られるのはどういうわけ
lesions are presentりと見撤すのが常識であ
うか甘口腔内に微生物の寄生を許す.ような条
ろう.病原体と見倣されるためには検出され
件が成年期に入って初めて備わって来るので
る個体の数が何時も飴りに少い.もつとも)
あろうか官→これは口腔生理学に取っては
病変部位の清掃者-‖scavenger と考えるに
興味ある重要な課題であると考えられる.
しても,同じことが言え畠であ・ろう.しかし,
両種とも,病原性は否定されているけれど
彼等自身の立場から言えば,彼等自身の種の
ち,原虫性疾患の類推実験に利摘され得る一
保存のため忙人体の口腔を借りるだけであつ
面はないではなylと思われる.
l
絶
括
昭和28年6月からS月に至る聞,長崎県諌
早市に於いて,歯科患者100名を対象として,
Entamoeba gingivalis 出びに Trichomonas
(ll/10-57%)を示L.た.
tenaxの感染状況を調査し,下記の結果を得
た:-
以上82例中6例(7鬼), 16歳以下18例中1例
(1) Entamoeba gingivalisは,総計38%の
検出率を示したが,少年期を別にすると, 17
歳以上82例中3S例(46%), 16歳以下18例中1
検出された.培養試験を併用するならば検出
例も見られなか?た.唾液pH6.6-8.0の間
に見られ,就中, pH7.4に於いて最高頚度
(3J歯槽膿漏症,歯髄縁炎,歯根膜炎の場
合に特に多かった.
(2) Trichomonas tenaxは,給計6%の検
出率を示したが,少-・期を別に・7:すると, 1丁歳
も見られなかった.唾液pH 7.4-8.0の問に
率が著しく高められるのではないかと思われ
ち.
概輩するに当りJ望倉敷摩の御懇篤なる御指導と御校閲に対して,また,ー長
崎大学医学部附属病院歯科の富崎講師の御援助及び佐藤技官の御協力に対し
てJ深甚な謝意を表する.
参 考 文 献
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〔昭29. 7. 15受付〕
風土病研究所業績追録
業績第2集〔長崎医学会雑誌第2巻第9^,風土病研究所業績特輯号,.昭和28年9月)と業蹟第
3集〔長崎医学会雑誌第2巻第12*1風土病研究所業摂待韓号;昭和29年12月)との中間に印刷発
!
表された業竜酌ま下記17篇である: -
〔177〕後藤 正彦:結核症に放ける感染期別発
病及び感染掛こ関する考察.長崎医学会雑誌, 29
〔2〕 : 111-113. 〔1954〕.
〔178〕後藤 正彦;再感染発病と恩はれる湿性
肋膜炎の2倒.長崎医学会雑誌, 29 〔2〕 : 109-
〔185〕山県 宏: Trichomonas 〔T. vaginalis
茂びT. foetus〕純粋増糞のマウス感染試験.長崎
医学会雑誌'29 〔4) : 375-379 (1954〕.
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放けるスパトニ'(の応用‥東西医学社編暁:新Lい
治療〔第2集〕 : 279-286∫ 東京,東西医学社,
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長崎県投合公衆衛生学会雑誌, 3 〔1〕 : 116-118
〔192〕森口 義春:バ`ンタロフト餅状虫症の臨
床的研究補遺川〕. 「くさふるい」の臨床像.長崎
医学会雑誌掲載予定.
〔193〕中原 呉郎 Shigelta groupの抗原構造
〔1954〕.
に関する研究.〔Ⅰ 〕 Shigella dysenteriae type lに
〔184〕麻筆卓郎&池田稔正: 1-Enomo-naphthol(2)による.鈎虫駆除成皆・.長崎医学会雑誌, 29 〔4〕
放ける3撞の阻止性抗原の証明と其阻止機転に就い
: 372-374 〔1954J.
て・長崎医学会雑誌'29 (10〕 : 791-808 〔1954〕.
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