SURE: Shizuoka University REpository

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http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
Title
開離時アークの分光計測に関する研究
Author(s)
竹内, 満
Citation
p. 1-192
Issue Date
URL
Version
2000-03-24
http://doi.org/10.11501/3171869
ETD
Rights
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電子科学研究科十
0002515849 R
開離時アークの分光計測に関する研究
Study of spectroscopic measurement for breaking arcs
縛周医惇個厘
1999年12月
竹 内 満
Takeuchi Mitsuru
博 士 論 文 目 次
開離時アークの分光計測に関する研究
Study of spectroscopic measurement for breaking arcs・
目 次
第1章 緒 論
1.1 電気接点と開離時アーク
1
1.2 開離時アークに関する研究の動向
4
1.3 アーク放電の分光計測に関する研究
16
1.4 本研究の目的と概要
21
第1章の参考文献
24
第2章 計測システム
30
2.1 はじめに
30
2.2 等速電極開離装置と実験回路
30
2.3 マルチチャネル分光計測システム
34
2.4 アーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布観測システム
42
2.5 アーク柱断面内の2スペクトル強度分布観測システム
55
2.6 実験結果の評価
66
2.7 高速度カラービデオによる開離時アーク像の撮影
71
2.8 おわりに
76
第2章の参考文献
77
第3章 マルチチャネル分光言十測システムによる観測
81
3.1 はじめに
81
3.2 実験条件
81
3.3 開離時アークの継続時間
82
3.4 P d電極対とAg電極対での開離時アークの特性
87
3.5 Ag P d合金電極対での開離時アークの特性
90
3.6 おわりに
95
第3章の参考文献
96
第4章 アーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布の観測
98
4.1 はじめに
98
4.2 実験条件
98
4.3 P d電極対での開離時アークの特性
98
4.4 A g電極対での開離時アークの特性
103
4.5 A g P d合金電極対での開離時アークの特性
110
4.6 おわりに
115
第4章の参考文献
116
第5章 アーク柱断面内の2スペクトル強度分布の観測
117
5.1 はじめに
117
5.2 実験条件
117
5.3 P d電極対での開離時アークの特性
117
5.4 A g電極対での開離時アークの特性
139
5.5 A g P d合金電極対での開離時アークの特性
158
5.6 おわりに
162
第5章の参考文献
164
第6章 計測結果の検討
167
6.1 はじめに
167
6.2 接点表面の損傷
167
6.3 P d電極とA g電極の金属蒸気量の比較
168
6.4 陰極の消耗量
173
6.5 おわりに
177
第6章の参考文献
178
第7章 結 論
179
謝 辞
付 録
付録1.アーク柱内粒子組成の計算
研究業績
188
第1章 緒 論
1.1 電気接点と開離時アーク
1.1.1電気接点について
電磁リレーやスイッチは電気回路の機構デバイスとして1850年ごろから使用さ
れている。半導体技術の急激な進歩が続き、機械的な電磁リレーやスイッチは半
導体スイッチに置き換わるだろうと言う予測もあったが、予測ははずれ、図1−1に
示すように[1]、電磁リレーだけを見ても最近9年間の国内の生産量と生産高は不
況の影響はあるものの増大の傾向にある。1998年度には国内で電磁リレーだけで
も7億個以上製造され、自動車、産業機器、オフィス機器、家庭電化製品に内蔵
され稼働している。そして、近年、エレクトロニクスの進展に伴って電磁リレー
やスイッチの小型化、高性能化、長寿命化、高信頼性化などの要求はますます厳
しくなっているが、それにもかかわらずそれらの使用量、使用範囲ともさらに拡
大している[2]。
80,000
2・0001
70,000
976 976 965 970
0
800
20
000
0
1
000
19901991199219931994199519961g971998
年 度
図1−1国内における電磁リレーの生産高と生産量
− 1 −
腸∵恥∵即︵拙壷︶
1,000
00000
00
4030
腫
1.087
0
0
0
60
)
0
0
2
巴
堪
1
(
リレーやスイッチを構成する部品の中で電気接点は電気回路の接続・分離や回
路電流の投入・遮断を行う重要な素子である。電気接点の主な機能は、通電時に
接触抵抗が低く安定な状態で接触し、非通電時に絶縁抵抗が高い状態で分離し、
多数回の開閉動作に対処できることである。電気接点は実用化されているにもか
かわらず、すべての接点性能を満足する接点はなく、今なお接点にかかわるトラ
ブルは多い。
電気接点の機能は閉成時に起こる現象と開離時に起こる現象の影響を受け、そ
れらの接点現象は非常に複雑である。電気接点の接点現象は今だに解明されてい
ないため長寿命化・高信頼性化を意図して基礎的・実用的な視点からの研究成果
が国内外の学会や研究会で活発に発表されている。例えば、1998年度を見ても国
外では隔年開催の”19thInternational Conference on Electric Contact Phen
omena”や毎年開催のIEEE主催”44thIEEE Holm Conference on Electrical Cont
act”があり、国内では電子情報通信学会・機構デバイス研究会や、11月に500回目
の開催を行い1999年7月に名古屋にて500回記念の国際会議を開催した継電器研究
会などで多数の論文が発表されている。
研究の成果がリレーやスイッチなどの機構デバイスや電気接点の設計にフィー
ドバックされ、それらの故障率の低減や寿命予測、あるいは新しい合金接点材料
の開発に役立たせることが必要である。さらにユーザーにおいては機構デバイス
の選択方法あるいは取扱い上の注意点や現場でのトラブル対策に役立たせること
が必要である。
1.1.2 開離時アークについて
リレーやスイッチの信頼性を低下させる要因の一つに電気接点の開閉時に発生
するスイッチングアーク(アーク放電)がある。スイッチングアークは接点表面の
損傷、接点材料の消耗・転移、ロッキング・溶着による開離不良、酸化物・ポリ
マーの生成による接触抵抗の増大や導通不良などを引き起こす。さらに、スイッ
チングアークは電磁ノイズを発生するので電子機器の誤動作の原因となる。した
がって、電気接点の故障率の低下、寿命予測、あるいは現場でのトラブル対策の
ためにはスイッチングアークの発生機構や放電維持機構を解明することが重要で
− 2 −
ある。
放電現象の形態としては火花放電、グロー放電、アーク放電の3つがある。ス
イ ッチングアークはアーク放電の一種であり、他の放電より放電電流が大きく、
電流密度が高く、アーク柱内の電離度が高く、大気圧(高気圧)中ではアーク柱内
の電子温度とイオン温度と蒸気温度がほぼ熱平衡状態にあるという特徴を有する。
スイッチングアークは接点の開離時と閉成時に発生する。接点の閉成時にはバ
ウンスが起こる。閉成時の初回の衝突前に発生するアーク放電の継続時間は大変
に短く、それに比べてバウンス期間中のアーク放電の継続時間は非常に長い。従
って、開離時アークはバウンス期間前の短間隙アークとは違ってアーク長を長く
取れるので計測しやすく、閉成時アークの特性は開離時アークの特性と同様に説
明できるので、主として開離時アークが研究の対象となっている[3]。
図卜2のように2本の電極を水平に対向させ、これに負荷(抵抗)と直流電源を接
続し、電極を一度接触させて通電した後に引き離すと、最終接触面は接触抵抗の
ジュール熱によって溶融して、電極が開離するにつれて電極間に溶融ブリ ッジ(金
属橋絡)が形成され、ブリッジは引き伸ばされる。この細いブリ ッジの部分に電
流が流れているためジュール熱により高温になり、ブリ ッジは爆発破壊して蒸発
する。その金属蒸気空間の絶縁破壊後に、アーク放電の維持に必要な電圧と電流
が印加されていれば、開離時アークが点弧する。
陰極と陽極の間の部分は、陰極点、アーク柱(または陽光柱,アークプラズマ)、
陽極点と呼ばれている。アーク放電を観察すると陰極表面に特に小さな輝いた部
分すなわち小面積の陰極点(陰極足)が認められる。陰極は電子を放出し、アーク
電流はこの陰極点のみを流れている。また、陽極点はアーク柱からの電子流が流
電源
負荷(抵抗)
図1−2 アーク放電の各部の名称
− 3 −
れるところであるが、陰極点に見られるような電流の集中はなく、陽極点は小電
流においては発生しない。
アーク柱は高温になっており、周囲の気体よりも比重が低いため、水平電極間
に点弧したアーク柱は浮力によって浮かび上がり、電極間で弧を描く。アークと
いう名称はこれに由来している。
リレーやスイッチの多くは通常大気中で扱われるため、本研究における開離時
アークも大気中で発生するものを扱う。
1.2 開離時アークに関する研究の動向
開離時アークは、溶融ブリッジ破壊直後の極めて間隙の短い状態で点弧し、接
点の間隙の広がりに応じてアーク長が過渡的に変化し、短時間かつ微小空間の現
象である。また、開離時アークは接点の材料や形状、印加電圧、負荷、雰囲気な
どの影響を受けるため、開離時アークのメカニズム解明は困難なテーマとされて
きた。そのため、開離時アークについての研究が今なお積極的に行われている。
本節では、接点性能と接点材料について述べ、次に開離時アークの放電形態に
っいて述べる。そして、この放電形態と関連づけて開離時アークに関する研究の
動向について述べる。
l
1.2.1接点性能
開離時アークに関係する電気接点の性能は主として(1)消耗・転移,(2)接触抵
抗,(3)開離不良 の諸特性で決まり[4][5]、開離時アークに関する研究テーマは
これらに関連づけられている。
また、接点性能を評価する場合、その性能を表す量としてアーク放電の継続時
間が測定される。それは、アーク継続時間が消耗・転移の量[6][7]や接触抵抗の変
動[7][8]と関連深いためである。
最近では開離時アークの影響をメタリック相とガス相に分けて消耗・転移量や
接触抵抗などを測定した研究が報告されている[6][9]∼[14]。
− 4 −
(1)消耗・転移
接点の表面には、開離時アークによる溶融や消耗・転移により変形や荒れが生
じる。その表面の損傷は接触抵抗の増加など接点の接触性能の劣化に大きな影響
を与える。このため、接点材料の消耗・転移量あるいは接点の表面形状の変化の
測定は接点の寿命を検討する上で重要な測定項目である。
消耗量・転移量は電極の重量で評価する場合[7]や体積で評価する場合[14][15]
[16]が多い。長谷川ら[16]は走査型レーザ顕微鏡で接点表面を計測して突起の高
さや消耗痕の深さから消耗・転移体積を評価する方法を提案している。曽根ら[14]
[17]は光切断法によって接点表面の形状から体積の変化量として消耗・転移量を
測定する方法を提案している。また、放射性同位元素を使用した方法もある[18]。
電極材料の消耗・転移に関する研究として、高木ら[7]はアーク継続時間の積算
値と陰極消耗量の関係を測定し、P d電極では2∼5Aの範囲で遮断電流が大きいほ
どアーク継続時間は長くなり、陰極の消耗量も多くなるが、A g電極では遮断電
流約3Aを境界にしてそれ以上ではアーク継続時間は大きく増加するとともに、
定のアーク継続時間の積算値に対する陰極の消耗量が著しく減少することを指摘
している。
曽根ら[10][13]はA g電極において気圧と遮断電流を変化させてメタリ ック相
アーク継続時間と電極重量増減の関係を研究し、電極の消耗・転移は全体のアー
ク継続時間よりもメタリ ック相継続時間と密接な関係があることを報告している。
一方、沢ら[6][9]は、A gとP d電極の開離時アークによる材料転移はアーク
継続時間に依存し、P d電極では、遮断電流が約2.5A以下の場合、メタリ ック相
アークの継続時間がガス相アークの継続時間より長いので陽極から陰極へ転移す
るが、遮断電流が2.5A以上の場合、メタリック相アークの継続時間がガス相アー
クの継続時間より短いので陰極から陽極へ転移する。また、A g電極では、遮断
電流が0.4A以上になると陽極アークから陰極アークになりA g電極の材料転移の
アーク継続時間に対する依存性はP d電極と一致することを指摘している。した
がって、開離時アークによる材料転移はアーク継続時間に依存し、メタリ ック相
アークの継続時間がガス相アークのそれより長い場合、材料転移は陽極から陰極
に転移するが、ガス相アーク継続時間の方が長くなると材料転移の方向は逆にな
ることを発見し、P S D(Particle Sputtering Deposition)モデルを提案した。
ー 5 −
そして、そのモデルを用いて開離時アークによる材料転移と接触抵抗劣化の物理
的機構を明らかにした。
また、N.B.Jemaaら[19]は車載用リレpやスイッチに使われる接点材料(AgSnO2,
AgCdO,AgNi,AgCu,Ag)と負荷(抵抗負荷,ランプ負荷,誘導性負荷)の組み合
わせで電源電圧DC14V,遮断電流2.5∼35A,開離速度l∼40cm/Sにて消耗・転移量と
アーク継続時間の測定を行い、抵抗負荷とランプ負荷ではアーク継続時間は短く、
陽極アーク(陽極の重量は減少し、陰極は増加する)であるが、誘導性負荷ではア
ーク継続時間が長く、陰極アーク(陰極重量は減少し、陽極重量は増加する)に移
行することを指摘している。
(2)接触抵抗
接点の接触特性の良さを表すのが接触抵抗である。接触抵抗は接触面に電流が
集中して生じる集中抵抗と皮膜の存在によって生じる境界抵抗の和である。
曽根ら[10]∼[14]は気圧と遮断電流を変化させてアーク継続時間と接触抵抗の
関係を研究し、接触抵抗はアーク継続時間、陰極および陽極表面の皮膜の生成状
態、電極材料および周囲気圧によって大きく異なることや、Ag接点の接触抵抗
値はメタリック相アークのみで消滅した後は低く安定しているのに対して、ガス
相アークへ移行した後は高い値になることを明らかにしている。
(3)盟_離不良
接点開閉時に発生する溶融ブリッジやスイッチングアークによって接触面が損
傷し、多数回の開離動作で接触面の荒れはひどくなる。その結果として、ロッキ
ングや溶着[20]が起こる。ロッキングや溶着が原因となり閉じた接点対が開離困
難となる現象をスチッキングと呼ぶ。
ロッキングは凹凸粗面化した接触面が摺動や庄接を受けることにより、機械的
にかみ合うことで起こる。
溶着は溶かされた一部接触面が密着中に冷却固体化することで起こる[21]。
ロッキングと溶着の区別は難しいが窪野ら[22]はリレーを10万回開閉し、スチ
ッキングの起こった動作前後の接触抵抗と開離時アークの継続時間、閉成時アー
クの継続時間からロッキングと溶着の区別を試み、ロッキングの判定基準を提示
ー 6 −
している。
1.2.2 接点材料
接点材料としては、(1)導電率が低いこと(2)消耗・転移量が少ないこと (3)
接触抵抗が小さく、接触状態が安定であること(4)硬度や加工性などの機械的特
性が良いこと(4)酸化などの化学的特性が良いこと(5)安価であること が要求
される[23]。
しかし、接点としての性能がすべて優れている材料は単原子金属では存在しな
い。そこで、これらの性能を改善するため、接点材料を合金化することにより、
純金属接点の欠点を補っている。しかしながら、電気接点としての性能がすべて
優れている材料はいまだになく、現状では使用される負荷や環境などを考慮して、
それぞれの目的に応じた材料が選択されている。そのため、接点材料の違いによ
る接点性能の違いの研究が多数行われている。
電力系統の大電流遮断器では銅電極が使われていているが、耐消耗性に乏しく、
アーク放電によって酸化物ができて接触抵抗が高くなるため、小中電流で使用さ
れるリレーやスイッチの接点では使用されていない。小中電流用のリレーやスイ
ッチに使用されている主な電気接点材料を表1−1に示す[24][25]。
本論文では、代表的な接点材料[25]であるパラジウムと銀および銀パラジウム
合金(以下、P d,A g,AgPd合金と略す)に発生する開離時アークを研究対象と
する。
P d接点は1972年以前に電話交換機のワイヤスプリングリレーに搭載されてい
た[26]ことから、現在でもP d開離時アークは研究の対象となっている。そして、
アーク継続時間が短く[7]、耐溶着性が良く、P dの触媒作用で活性化現象や皮膜
抵抗に関係するポリマーができやすいことなどは良く知られている。
A g接点は小中電流用接点として古くから使用されている[25]。A g接点は低
い電気抵抗率と高い熱伝導率を有し、接触抵抗が低いので連続動作をしたとき温
度上昇が少ない。また、A g開離時アークの特徴としてアーク電圧の時間変動が
小さく[27]、アーク継続時間のバラツキが小さく[7]、メタリック相からガス相へ
の移行がある[13]。しかし、A g接点は、硬度が低いので、接触力が高く、開閉
頻度が高い場合には変形と摩耗を起こす。また、硫化しやすいことも知られてい
− 7 −
表卜1接点材料
特
材
料
名
性
パ ラジウム (P d ) 耐 溶着性 ・耐消耗性 ・耐硫 化性が 良い。
ポ リマ ー を生成 しやす い。
銀 (A g )
導電率 が低 い (
体積抵 抗率 ;1.62川 cm)。 熱伝導率 が高 い。
接触抵 抗が低 い (
2.4mn位 )。貴金 属 中比較的安価。
耐 消耗性 に乏 しい。 硫化 して接触抵 抗が増加 しやす い。
体積 抵抗率 ;
5.5川cm )。
タ ングステ ン(
W ) 耐 溶着性 が 良い。 導電率が 悪い (
酸化膜 を作 り易 く、 酸化膜 によ り接触抵抗 は高 くな る(
23.Omn 位)。
A g P d 合金
耐摩耗 性 ・耐 消耗が 良い。
接触 抵抗 は A g よ りわず か に高いが安定 している。
A g へ の P d の添 加 によ り耐 硫化性 が 良い。
A g W 合金
硬度、融 点が高 く、 転移、 溶着が A g よ り少ない。
接触抵 抗が A g よ りわず か に高 い。 耐環境性 に劣 る。
A g N i 合金
転移、 溶着が A g よ り少な い。
接触抵 抗が A g よ りわず か に高い (
3.1mn位 )。
A g C d O 合金
耐溶 着性が 良い。 接触 抵抗が 低い (
2.7mn 位)。
C d が 人体 に有害。
A g S n O 2合金
耐 溶着性が 良い。接触 抵抗 が低 い。
耐消耗性 に乏 しい。
る[25]。
合金接点として、低い電気抵抗率と高い熱伝導率を有するが硫化しやすいA g
材料と、耐溶着性・耐消耗性・耐硫化性にすぐれアーク継続時間は短いが、有機
ガス中でポリマーを生成しやすいP d材料との合金であるAgPd合金接点がある。
AgPd合金接点は谷井ら[26]によって電話交換機用ワイヤスプリングリレーの接点
として実用化され、接触安定性、耐消耗特性などの総合評価試験からAg/Pd60Yt%
合金接点が1974年以降大量に使われるようになった。この実用化の背景には、そ
れまで使用されてきたP d接点が高価であること、我が国ではP dの生産量が少
ないことから、P d接点の安定した接触特性を維持しつつ、なるべくP dを少な
一 8 −
く した合金接点の開発が望まれていたという事情があり、A gを混入したAgPd接
点が検討の対象となった。しかしながら、AgPdの合金組成による接点特性はまだ
充分に把握されていなく、現在もアーク継続時間や接触抵抗の合金組成への依存
性を評価した研究[28][29][30][31]が見られる。
1.2.3 開離時アークの放電形態の分類
開離時アークの放電形態は電極の消耗・転移の方向や放電の維持形態によって
分類される。
(1)電極の消耗・転移による分類
開離時アークの初期において、電極間隙が狭い(電子の平均自由行程以下)とき
には、陰極からの放射された電子はアーク電圧で加速され、電極間の金属蒸気原
子とは衝突せずにそのほとんどが陽極に達し陽極を加熱する。この場合、陰極よ
りも陽極の加熱量の万が大きいため、陽極からの蒸発量が多くなる。つまり、陽
極材料が消耗し、陰極に転移する。R.Holm[32]はこの状態に Anode dominated
arc(陽極優性消耗アーク)という名称を与えている。
次に、電極間隙が広くなったとき(電子の平均自由行程より十分長いとき)、陰
極から放出された電子のほとんどが電極間にある金属蒸気原子と衝突して、運動
エネルギーを伝達し、原子を加熱、励起、電離させる。イオンは断面積の狭い陰
極点に向かって陰極降下領域内で加速されて陰極点へ衝突し、陰極へ運動エネル
ギーとポテンシャルエネルギーを与え陰極点を加熱する。ところが、電子は原子
と衝突して運動エネルギーを与えてしまうため、陽極に達する電子の持つエネル
ギーは陽極降下電圧で得た運動エネルギーとポテンシャルエネルギーとなり、陽
極面の広い面積に突入する。この場合、陰極の万が陽極よりも加熱されるため、
陰極の蒸発量が多くなる。つまり、陰極材料が消耗し、陽極に転移する。R.Holm
[32]はCathode dominated arc(陰極優性消耗アーク)という名称を与えている。
N.B.Jemaaら[33]の研究ではR.Holmと同様の分類を用いている。
また、接点の重量の増減から陽極アークと陰極アークに分類される。陽極アー
クは接点間隙が小さい場合に発生して、陽極の重量が減少し、陰極重量が増加し
た状態、および陰極へ転移した接点材料が陽極へ戻り、陰極の重量変化がゼロに
− 9 −
なるまでのアーク放電期間である。これに対して、間隙が大きくなると陰極重量
は放電前よりも軽くなり、陽極重量は重くなるので陰極アークとなる[34][35]。
すなわち、両者の分類の定義は異なり、両者の関係を図に示すと図1−3のように
なる。
移動方向
}>
±_ ___rl/二と
三三‥三三三二卓二≡
電極の重量
陰極:消耗陽極:転移
陰極:転移陽極‥消耗
陰極:消耗陽極:転移
陽極優性消耗アーク
陰極優性消耗アーク
陰極優性消耗アーク
陰極:増加陽極:減少
陰極:増加陽極:減少
陰極:減少陽極:増加
陽極アーク
陽極アーク
陰極アーク
図ト3 間隙長(アーク長)による消耗・転移と放電形態の関係
(2)放電の維持形態
接点の開離時において溶融ブリッジの爆発破壊に続いて発生した開離時アーク
は、陰極からの電子放出と溶融ブリッジ破壊によって生じた金属蒸気原子の電離
したイオンと電子により維持される。 この段階の開離時アークはメタリック(金
属)相アークと呼ばれる[27][36]。
間隙の増大につれてアーク柱全体の金属蒸気密度が低下し、アーク柱へ周囲気
体が流入する。その結果、周囲気体の電離がアーク維持に大きな役割を果たす相
に移行する。その際、開離時アークの電圧は上昇する。開離時アークの電圧が急
上昇するときの間隙長を臨界距離[27]と呼び、臨界距離以降をガス(気)相アーク
と呼ぶ[27][36]。
開離に伴いアーク電圧は上昇するが、電源電圧が一定ならばアーク電流は減少
する。その後、アーク電流が最小アーク電流より少なくなった時点で開離時アー
クは消滅する。
メタリック相アークからガス相アークへの移行に関しては、1960年代から1970
年代にかけて系統的な研究が行われ、ガス相アークにおいてN2㌦N2(励起状態)の
− 10 −
スペクトル強度が増大することや、電流の増加につれて臨界距離が増大すること、
同一アーク電流では周囲気圧の減少につれて臨界距離が増大することなどが明ら
かにされている[27][36][37]。
P d電極対とA g電極対の開離時アークの代表的なアーク電圧波形を測定する
と図1−4のようになる。なお、P d開離時アークではアーク電圧とアーク電流に高
い周波数の変動が重畳している[38][39]。それゆえ、図卜4−(a−2)では10kHzのロ
ーパスフィルタを通して高い周波数の電圧変動を除去したアーク電圧波形を示す。
また、参考までにアーク電流波形も示す。
P d開離時アークのアーク電圧(図1−4−(A)参照)は 放電の開始から徐々に増大
するが、放電開始約12ms後にジャンプして階段的に上昇し、その後、また徐々に
増大する。アーク電圧の段階的上昇(不連続)となる点を臨界距離(Critical
distance)[27]、あるいはMetellic一gaSeOuS tranSition point[38]と呼び、その
点より前をメタリック相アーク、後をガス相アークと呼んでいる。
A g開離時アークのアーク電圧(図1−4−(B)参照)も 放電の開始から徐々に増大
するが、放電開始約14ms後に不連続点があり、その後、増大している。なお、高
い周波数の電圧と電流変動の発生について、E.W.Gray[38]はイオン密度の変動、
あるいは陰極点と陽極点の動きに関係していると述べている。
A g開離時アークにおける臨界距離とアーク消滅距離(アーク継続時間と開離
速度の積)について、曽根ら[40]は1mm¢クロスバー電極で電源電圧DC 48V,遮断
電流4A,開離速度14mm/S,気圧760mmHgの条件下で臨界距離が約120〟m,アーク消滅
距離が約600〟mであり、高橋ら[37]は2mm¢クロスバー電極で電源電圧DC 48V,遮
断電流的lAにて臨界距離が約50〟mであると報告している。
なお、本研究では図ト4に示すように、放電の維持形態に対して放電の期間を放
電初期・中期・後期、および、メタリック相アークを前期と後期に分けて呼ぶこ
とにする。
− 11 −
ア ー ク継 続 時 間
アー ク継 続 時間 」
二初臥 .
_中れ .
_後期 ]
M
、・. 雪
・
一・ 止
1
一二
▼ ̄
■
■
r ■
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 ̄
十
(a−1)アーク電圧
メ タ リ ッ ク柑 ガス相
J
亀貞○>Uhく
召むヒヨUUhく
小口むヒコUUhく
l
ア︵名≧巴
Time(10m扉血可
(a−2)10kHzローバスフィルタと通過した時の
︵人等N︶
(a−2)10kHZローバスフィルタと通過した時の
アーク電圧
ガ ス 相 ︵AコさrON︶
︵A叩きrON︶
島屋OAUhq
前期後
Time(5ms旭Ⅴ)
 ̄
T im e (
10 m 扉div)
Time(5m頭か)
(a−1)アーク電圧
メタリック相
・
_.
_
準 期
「
︵人妻rON︶
島屋〇三壱
島屋○>U童
︵
>
書
r
O
N
︶
ー1, 1 1 1
初期 −
▲
中期
ーク電圧
l
(b)アーク電流
T血e(10m頭か)
匝)アーク電流
(のPd開離時アーク
田)Ag開離時アーク
Time(5m扉dY)
図卜4 アーク電圧・電流波形
1.2.4 開離時アークの特性に関する研究
接点材料によって接点の消耗・転移量[6][7][9][28][33][41]や接触抵抗[10][2
8][29][42]やアーク継続時間[6][7][9][10][28][33][43]に相違が見られる0その
ため接点材料の違いによる接点の性能の違いの研究も多数行われている0
本論文では、代表的な接点材料[25]であるP dとAgおよびAgPd合金に発生す
る開離時アークを研究対象とする。次に、これらの接点材料に発生する開離時ア
ークに関する研究の動向を紹介する。
− 12 −
(1)P d開離時アーク
P d接点は、アーク継続時間が短く[7]、耐溶着性が良く、P dの触媒作用で活
性化現象や皮膜抵抗に関係するポリマーができやすいことなどは良く知られてい
る。
P.J.Boddyら[27]は、P d電極の開離時アークでアーク長(間隙長)がアーク電流
や周囲気圧に依存した臨界距離に達すると、アーク電圧が不連続的に急上昇し、
その原因が周囲気体の影響によることを指摘している。
E.W.Gray[36][38]は、P d電極を搭載したワイヤースプリングリレーの開離時
アークの電圧変動と分光スペクトルの強度変動の関係を検討し、電圧変動がスペ
クトル強度の変化に対応していることや、臨界距離以上の長いアーク長では周囲
気体のスペクトル強度が強くなることを発見した。そして、前述したようにアー
ク長が臨界距離より短い場合をメタリ ック相アーク、長い場合をガス相アークと
名付けた[36]。
高木ら[7]は、2∼5Aの範囲では遮断電流が大きいほどP d開離時アークのアー
ク継続時間な長く、それらのバラツキが大きくなり、陰極の消耗量も多くなるこ
とを報告している。
沢ら[6][9]は、アーク継続時間と接触抵抗と消耗・転移を測定し、表面形状を
観測したところ、遮断電流が約2.5A以下の場合、メタリ ック相アークの継続時間
がガス相アークの継続時間より長いので陽極から陰極へ転移するが、遮断電流が
2.5A以上の場合、メタリ ック相アークの継続時間がガス相アークの継続時間より
短いので陰極から陽極へ転移することと、接触抵抗劣化の原因は接触部分が酸化
皮膜で覆われるためであり、放電がガス相アークに移行すると厚い酸化物が陽極
表面に生成され、接触抵抗の劣化が顕著になることを指摘している。
石田ら[44]は、P d開離時アークの継続時間は開離速度に反比例せず、電極基
台を加熱すると極端にアーク継続時間が短くなることを報告している。そして、
熱伝導率の小さいP d電極では開離速度を小さくすると開離時アークによる熱で
接触面近傍の電極の温度がA gなどの熱伝導率の大きい材料の場合に較べて高く
なり、アーク放電が維持できなくなると考察している。
− 13 −
(2)A
アーク
A g接点は接触抵抗が低く、熱電気伝導度が高いので連続動作をしたとき温度
上昇が少ない。また、A g開離時アークの特徴としてアーク電圧の時間変動が小
さく[27]、アーク継続時間のバラツキが小さく[7]、メタリック相からガス相への
移行がある[13]。しかし、A g接点は、硬度が低いので、開閉頻度が高い場合に
は変形と摩耗を起こす。また、硫化しやすいことも知られている[25]。
高木[7]はA g開離時アークの継続時間を測定して 遮断電流3.2A以下でアーク
継続時間の度数分布が2つのピークを持つことを指摘している。
曽根ら[10]∼[13]は気圧と遮断電流を変化させてメタリック相アークの継続時
間と電極重量増減の関係やアーク継続時間と接触抵抗の関係を研究し、電極の消
耗・転移はアーク放電の全継続時間よりもメタリック相アークの継続時間と密接
な関係があることを報告している。そして、接触抵抗値はメタリック相アークの
みで消滅すると低く安定しているのに対して、ガス相アークへ移行すると高い値
になることも明らかにしている。
沢ら[8]はA g開離時アークの接触抵抗を調べ、接触抵抗値のバラツキは正規分
布であり、接触抵抗は皮膜抵抗が支配的であることを明らかにした。そして、開
離時アークにより酸化銀(Ag20)が主に陽極に堆積して接触抵抗が増大することを
明らかにしている。また、遮断電流0.4∼0.6Aでアーク継続時間100∼200〟S程度
の場合、接触抵抗特性が最も悪化することを明らかにし、原因としてアーク継続
時間が200〟S以上になると酸化銀の熱分解が促進される可能性のあること、およ
び陰極表面の生成物層の成長が鈍化するためと考察している。
吉田ら[45]は、A g開離時アークにおいて回路条件(インダクタンス,電源電圧
の大小)がメタリック相アークの継続時間に及ぼす影響を調べ、ガス相アークへ
の移行が起きる場合、インダクタンスと電源電圧はメタリック相アーク継続時間
に影響しないが、メタリック相アークのみで消滅する場合、インダクタンスと電
源電圧が大きいほどメタリック相アーク継続時間が長くなることを明らかにして
いる。
一 14 −
(3)A_一g」2__旦_全_金開離時ア二之
AgPd合金接点は、低い電気抵抗率と高い熱伝導率を有するが硫化しやすいAg
材料と、耐溶着性・耐消耗性・耐硫化性にすぐれアーク継続時間が短いが有機ガ
ス中でポリマーを生成しやすいPd材料の合金である。
AgPd合金接点は谷井ら[26]によって電話交換機用ワイヤスプリングリレーの接
点としてAg/Pd60Yt%合金接点が実用化されるに至った。しかしながら、AgPdの合
金組成による接点特性はまだ充分に把握されていなく、現在もアーク継続時間や
接触抵抗の合金組成への依存性を評価した研究[28][29][30][31]が見られる。
石田ら[28]は電源電圧DC48V、遮断電流4∼8Aで、接点径1mm¢の棒状対向形接
点とクロスバ接点について、アーク継続時間と消耗・転移質量増減の材料混合比
依存性を測定し、Ag/Pd60Yt%接点ではアーク継続時間は長いが、消耗は少なく、
Ag/PdlOYt%接点ではアーク継続時間は長く消耗も激増する傾向がみられることや、
電極の取り付け形状によりアーク継続時間や消耗・転移量の特性が異なることを
報告している。
沢ら[29]は電源電圧DC24V、遮断電流1.2Aの回路を接点径4mm¢のAgPd合金接
点で遮断した際に発生するアーク放電の形態と接触抵抗の関係について調べ、Pd
50wt%以上の接点では接触抵抗が小さいことや、P dの含有率によってアーク継続
時間や放電波形に違いのあることを明らかにしている。窪野[23][30][31]は小型
継電器にAgPd合金接点を搭載して電源電圧DC30V、遮断電流10Aの回路を開閉する
際の接触抵抗やスチッキングについて検討している。
また、内村[46]は、A g,P d,AgPd合金接点アークにおける放射電磁ノイズ
を測定して、放射電磁ノイズが接点材料に依存することを明らかにしている。
以上のように、接点の性能に関係した開離時アークの特性を調べることや、接
点材料の違いによる接点の性能や開離時アークの特性を調べることは、電気接点
の故障率低減、寿命予測やそれを使っている機構デバイスの信頼性の向上、ある
いは新しい接点材料の開発のために重要である。
そこで、開離時アークの特性を解明するには、基礎データとしてアーク柱内の
温度を知ることが必要である。さらに、接点の損傷や消耗・転移量について検討
するには接点材料の蒸気量を知ることが必要である。しかしながら、今まで開離
時アークにおけるアーク温度や金属蒸気量についてはほとんど検討されていない。
− 15 −
1.3 アーク放電の分光計測に関する研究の動向
ァーク柱から放射する発光スペクトルはアーク柱内の原子や分子の組成、励起
状態を知る情報源である。そして、開離時アークの発光スペクトルを解析するこ
とによってアーク柱内の温度や金属蒸気密度などが明らかにできる。
本節では、アーク放電の分光計測に関する従来の研究を概説する0
1.3.1分光計測
開離時アークの発生機構や維持機構を研究する手段としてアーク柱から放射す
る発光スペクトルを分光計測する方法がある。
時間的、空間的に変動する開離時アークのアーク柱を精度良く分光計測する場
合に要求される条件としては、
(1)同一時刻に多数のスペクトルを測定できること(並列分光計測)
(2)スペクトル強度の空間分布を測定できること
(3)スペクトル強度の時間変化を測定できること
が、あげられる。
分光計測の方法としては、分光器を用いてアーク光をスペクトルに分解し、特
定の単一スペクトル線を光電子増倍管などの受光素子を用いて測定する方法があ
る[36][47]∼[51]。しかし、この方法だと同一時刻における複数のスペクトルの
測定(並列分光計測)は困難である。そこで、アーク光を2分岐光ファイバで受光
・分配して2台の分光器で分光を行い2つのスペクトルを同時に計測[52]する方
法もある。
並列分光計測で古くから用いられている方法として分光写真法がある。アーク
光を分光器によってスペクトルに分解し、写真撮影する0 その後、写真のネガの
濃度をフォトミクロメータで分析し、同時刻における複数のスペクトル線の強度
を測定できる[53]∼[58]。分光写真法によりアーク柱断面内の空間分布を測定す
る方法もある[56]∼[58]。
また、並列分光計測として、分光器でアーク光をスペクトルに分解し、高速度
のCCDリニアイメージセンサを用いて複数のスペクトル線の強度の時間変化を
測定する方法もある[59]∼[61]。
最近の並列分光計測として、アーク光を分光器によってスペクトルに分解し、
− 16 −
OMA(Optical Multichannel Analyzer)を用いて複数のスペクトル線の強度を
同時に求め、空間分布を測定したり[62]、時間変化を測定する[63]方法もある。
ストリークカメラを用い空間分布や時間間隔100〟Sで時間変化を測定する方法[6
4]もある。また、アーク柱直径方向を2方向から同時に観測してアーク柱断面の
発光強度あるいは単波長発光スペクトルの空間的、時間的変化や最大発光点位置
の変化の測定や断面方向電流分布の推定[65]∼[67]を行った報告もある。
しかしながら、開離時アークの分光計測に要求される3つの条件をすべて満足
する分光言十測方法は現在のところない。
1.3.2 固定電極アークの分光に関する研究
開離時アークの特性を理解するのに重要な要素である金属蒸気量や電子移動速
度や導電率はアーク温度の関数として考えられているので、開離時アークの物理
特性の解明の手段としてアーク温度を測定することは極めて重要である。
アーク放電の温度測定は古くから多くの研究者によって行われている。その測
定にはアーク光を分光して2つ以上の発光スペクトル強度の比からアーク温度を
計算する分光多線強度比法あるいは分光2線強度比法が利用されている。そして、
アーク温度とスペクトル強度が明らかになると金属蒸気密度や金属蒸気量が計算
できる。
固定電極におけるアーク柱断面内の温度分布に関する研究は多数ある。C.H.Co
rliss[53]やP.G.Sladeら[56]や中桶[58]は分光写真法を用い、V.Vogelら[51]と宮
地ら[47]は分光器と光電子増倍管を用い、平野ら[48]は分光器と光電子増倍管と
回転鏡を用い、J.F.Keyら[62]は分光器とOMAを用い、いづれも一方向からスペ
クトル強度分布を測定している。そして、アーク柱断面内のスペクトル強度分布
を軸対称形と仮定して測定データにAbel変換[47][68]∼[70]を施して空間分布を
計算し、アーク温度を測定している。しかしながら、アーク柱断面内のスペクト
ル強度分布が完全な軸対称形に成るのは希であり[56]、正確な測定とは言えない。
大気中で銅(C u)電極におけるアーク温度は多くの研究者によって確かめられ
ている。
アーク柱の測定部分が明確にされている宮地ら[47]は電極間隙10mm,アーク電
一 17 −
流5Aでアーク柱の中心軸上において陰極点6440K,アーク柱中央5480K・陽極点641
0Kであり、アーク柱全体の平均温度が5180Kであると報告している。
また、中桶[69]は電極間隙長3mm,アーク電流DC10Aにおける典型的な2例のCu
ァークの分光像写真からアーク柱の中心軸上における温度を求め、陰極点6380Xと
6300X,アーク柱中央5290Kと5090X,陽極点6460Kと5600Kであり、アーク柱全体の
平均温度が5150Kと4990Kであると報告している。
信頼性の高いC.H.Corlissら[53][71]の測定結果では電極間隙長3mm・アーク電
流DClOAのアーク柱全体の平均温度が5100±110Kであると報告されている0
ァークを発生させる実験条件や測定場所(アーク全体,陰極近傍,アーク柱中
央,陽極近傍など)の違いがあるので得られた結果は文献によって相当異なる0
また、分光2線強度比法で用いるgnA。m値の不正確さが誤差要因としてアーク温
度の絶対値に影響を与えている可能性がある。
ァーク柱軸方向に沿った温度分布について、宮地ら[47]はアーク電流5Aで陰極
側より陽極側に向かって段々低くなり、陽極近傍で多少高くなると報告している。
しかしながら、Sladeら[56]は交流電源のCuアークにおいて電流1100Aの時、陰
極近傍と陽極近傍でアーク温度が低下すると述べている○ これらの差は遮断電流
の違いにあると考えられる。
固定電極アークでは分光計測で得られたスペクトル強度とアーク温度から金属
蒸気量[47][69]を計算した研究もある。
1.3.3 開離時アークの分光に関する研究
開離時アークの温度の測定には、固定電極アークと同様に分光多線強度比法あ
るいは分光2線強度比法が利用されている。
中島ら[57]は電源電圧DCllOV、アーク電流10AのCuW合金接点の開離時におけ
る陰陽両極点とアーク柱中央部分の平均アーク温度を調べたところ、時間的、空
間的最高アーク温度は5670Kであり、時間経過に伴い陰極や陽極近傍で約3000Kま
で低下すると述べている。
また、窪野ら[72]もCu電極でDC50V,10Aの回路を遮断した時の平均アpク温
度を調べたところ、放電後半に温度は5000Xに低下すると報告している。
ー 18 −
アーク柱断面内の温度分布に関する興味深い研究として V.Vogelら[51]の研究
がある。彼らはC u電極でDC90V,5Aの回路を大気中で遮断した際の開離時アーク
について、短間隙におけるアーク柱断面内の半径方向の温度分布を測定したとこ
ろ、陰極近傍のアーク柱の中心軸上部分に8000Xの高温領域を持ち、その周辺部は
6000∼7000Kまで減少することを指摘している。
一方、リレー、スイッチ等の接点間に発生する小中電流の開離時アークにおい
てもアーク温度の測定を行った研究はあるが、固定電極アークに較べて放電が微
小かつ短時間であるため、いずれの研究も開離時アークの点弧から消滅までのス
ペクトル強度分布を1つのかたまりと考え平均的なアーク温度を求めてきた[49]
[50][55][63]。しかしながら、開離時アークの温度を正確に理解するにはアーク
柱断面内の温度分布と時間変化を測定する必要があるが、これらを測定した研究
はほとんど見あたらない。
(1)P d開離時アークの分光
P d開離時アークの分光計測に関する研究として、E.W.Gray[36]はP d開離時
アークの電圧変動とスペクトル強度の関連を測定したところ、アーク電圧の変動
はP dやN2のスペクトル強度の変化に対応し、メタリ ック相アークからガス相ア
ークへ移行すると周囲気体のスペクトル強度が高くなることを明らかにした。
佐藤ら[73]は光トランジェントスペクトラムアナライザ(=マルチチャネル分
光計測システム)を用いてP d開離時アークの分光計測を行い、スペクトルのほ
とんどがP d原子スペクトルであることを確認し、P d原子スペクトル以外にCN
とNaスペクトルの存在を確認している。彼らはアーク温度を計算していなかった。
P d開離時アークの温度に関しては、文献[36]にアーク柱の中心軸上が20000K
以上、周辺が4000∼6000K、陰極点と陽極点が2000∼3000Kと記されているが、計
測方法の詳細は記されていない。
(2)A g開離時アークの分光
吉田ら[52]は2分岐ファイバと2台の分光器の組み合わせでA g開離時アーク
を分光計測して、A gイオンスペクトル強度がアーク点弧後徐々に強くなるが、
ガス相アークへの移行以降では徐々に減少すること、全A gイオンスペクトルの
− 19 −
強度和は全A g中性原子スペクトルの強度和や周囲気体スペクトルの強度和より
もかなり大きいことを発見した。また、マルチチャネル分光計測システムによっ
て佐藤ら[60][73]はA g、P d接点対での発光スペクトル強度の時間変化及びア
ーク柱内の成分原子を調べ、窪野ら[61]はA g接点で発光スペクトル強度の時間
変化及び出現割合の測定を行なった。
アーク温度に関する過去の研究結果を表卜1に示す。表1−1で糸山[55],相田[49]
は平均アーク温度であり、C.Brecherら[63],青山ら[74]は大電流アークであり、
測定方法や実験条件の違いから、表1−2のアーク温度を相互に比較することはでき
ない。
表1−2 A g合金接点におけるアーク温度
参考文献
方
法
度
No.電極対 雰囲気 発生方法 回路電圧電流 温
糸山(
1973)
分光器一分光写真
1 AgCdO 大気中 開離速度 DC 42∼72V AgCdO
55]
1.
5∼8A 4900±200K ーフォトミクロメータ [
分光2 線強度比法
(
Ag421.1nm,
447.
6nm)
5500K
2 AgCdO 大気中 開離速度 DC 50V
1∼5A
8.
5cm/
S
3 AgCdO
Agにて
大気中 ギャップ 半波電流
max5400K
50,
75,100
4mm
Arms Cd にて
max6100K
4
大気中 開離速度 半波電流
lkA
5m/
S
A g
分光器一
光電子増倍管 相田(
1976)
49]
ボルツマンプロット [
(
Ag546.
4nm,520.
9nm
338.
3nm,
328.1nm
Cd508.
6mm)
オプテ ィカルマルチ C.
Brecher,
J.
Gustafson
アナライザ
(
1982)[
63]
(
Vid icon Array)
アーク柱中心 分光器
−ストリークカメラ
10700K
分光2 線強度比法
(
Abe l変換)
青山,
岡田
(
1988)[
74]
(3)A g P d合金開離時アークの分光
佐藤ら[73]はアーク柱の発光スペクトル分析を行い、Ag/Pd70Yt%接点ではP d
蒸気が多く、A g蒸気が少ない場合にアーク継続時間が短くなり、A g蒸気が多
い場合にアーク継続時間が長くなるという推測を行っている。井上ら[75]はc c
一 20 −
Dエリアイメージセンサを用いて0.78ms/frameの走査速度でA g接点とAg/Pd30Y
t%接点の開離時のアーク柱からの放射光を観測して発光強度分布の特徴を明らか
にし、アーク電圧の変動と陰極近傍の最大発光強度と最大発光強度部分の移動距
離の相関を論じて、A g接点とAg/Pd30Yt%接点では放射光の性質が全く違うこと
を明らかにした。
AgPd合金接点の開離時アークの温度測定に関する文献は見あたらない。
開離時アークの状態や性質は電極の間隙の広がり(アーク長)に応じて過渡的に
変化するため、アーク温度を精度よく測定するには同一時刻に多数のスペクトル
の強度分布を測定し、さらに時間変化も測定することが重要である。また、アー
ク柱内の空間分布を測定することも重要である。しかしながら、従来の計測方法
ではこれらの条件を同時に満足するまでには至っていない。そして、開離時アー
クの同一時刻に多数のスペクトル強度を測定して精度良くアーク温度と金属蒸気
量のアーク柱断面内の空間分布や時間変化を計算した研究はほとんど見あたらな
い。
1.4 本研究の目的と概要
リレーやスイッチに使用されている電気接点の故障率の低減と寿命予測、そし
て新しい接点材料の開発・改良、あるいは現場でのトラブル対策のためには、開
離時アークの特性を詳細に把握することは極めて重要である。
そして、従来からアーク継続時間と消耗・転移量や接触抵抗との関係について
は多くの研究がなされているが、開離時アークの放電持続機構あるいは電極材料
がP dの場合はA gの場合よりアーク継続時間が短い理由や、金属蒸気量と消耗
・転移量の関係など、開離時アークの特性に関する解明は十分に行われていない。
また、開離時アークの金属蒸気密度やスペクトル強度は温度の関数として考え
られているので、開離時アークの特性を解明するのにアーク温度を測定すること
は極めて重要である。さらに、電気接点の故障原因となる消耗・転移は接触面の
溶融や電極の蒸発と密接に関係するので、アーク柱内の金属蒸気量や密度を定性
ー 21 −
的・定量的に測定することも極めて重要である。しかしながら、アーク温度や金
属蒸気量に関する実験的なデータは少ない。また、開離時アークが過渡現象であ
りながら、アーク温度や金属蒸気量の時間的変化についての研究はほとんど見あ
たらない。
開離時アークの特性を解明する方法として分光計測がある。開離時アークの性
質は接点の間隙の広がり(アーク長)に応じて過渡的に変化し、短時間かつ微小空
間の現蒙であるため、分光スペクトルを精度よく測定するには同一時刻における
多数のスペクトルについて、それらの空間分布を測定し、さらに時間変化も測定
することが重要である。しかしながら、従来の分光計測ではこれらの要求をすべ
て満足するまでには至っていない。そこで、筆者は、同一時刻における多数のス
ペクトルの空間分布およびそれら空間分布の時間変化を測定できる分光計測シス
テムが開離時アークの特性の測定に有効であると考えた。
本研究では開離時アークの時間的、空間的に変動しているアーク柱内の発光ス
ペクトル強度およびアーク温度と金属蒸気量の測定が可能なC C Dイメージセン
サを用いた下記の3種類の分光計測システムを開発した。
(1)C C Dリニアイメージセンサと分光器を使い、複数のスペクトル強度の同時
観測と時間変化の測定の可能なマルチチャネル分光計測システム
(以下、マルチチャネル分光計測システムと略す)
(2)C C Dカラーカメラと光学フィルタを使い、アーク柱軸方向に沿った2つの
スペクトル強度の分布の同時観測の可能な計測システム
(以下、アーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布観測システムと略す)
(3)2組のC C Dカラーリニアイメージセンサと光学フィルタを使い、アーク柱
直径方向断面内の2つのスペクトル強度の分布の同時観測と時間変化の測定
の可能な計測システム
(以下、アーク柱断面内の2スペクトル強度分布観測システムと略す)
本研究では、上記3種類の分光計測システムを用いて、大電流アークで代表的
な研究対象である銅電極の開離時アークのアーク温度や金属蒸気量の測定を行い、
これらの分光計測システムの有効性を実証する。
次に、その応用として、接点材料であるP dとA gにおいて、開離時アークの
アーク柱内の発光スペクトル強度分布を測定し、アーク温度や金属蒸気量の空間
ー 22 −
分布および時間変化を測定した。さらに、AgPd合金電極における開離時アークの
温度や金属蒸気量の特性を明確にし、新しい接点材料を開発するための基礎デー
タを提供する。
本論文は以下の7章より構成される。
第1章は緒論であり、電気接点と開離時アークについて述べ、さらに、開離時
アークに伴う接点現象の研究および開離時アークの分光計測に関する研究の現状
について述べた。さらに、本研究の目的について述べる。
第2章では、本研究で開発した上記の3種類の分光計測システムの説明を行な
う。3種類の分光計測システムによって、銅電極の開離時アークの計測を行い、
本研究で開発した計測システムの有効性を実証する。
第3章では、マルチチャネル分光計測システムを用いてP d電極対とAg電極
対とAgPd合金電極対の開離時アークの分光計測を行い、各電極の開離時アークの
アーク温度と金属蒸気量の特性を明らかにする。
第4章では、アーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布観測システムを用
いて開離時アークの分光計測を行い、アーク温度と金属蒸気量の特性を明らかに
する。
第5章では、アーク柱断面内の2スペクトル強度分布観測システムを用いて開
離時アークの分光計測を行い、アーク温度と金属蒸気量の特徴を明らかにする。
そして、アーク継続時間と金属蒸気量の関係および電極の接触面形状が開離時ア
ークに与える影響についての検討を行なう。
第6章では、分光計測で得られた結果から接点表面の損傷や金属蒸気量の比較
や陰極の消耗量についての検討を行なう。
第7章は結論であり、本研究をまとめる。
以上、本論文は全7章から構成されている。
− 23 −
第1章の参考文献
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ー 29 −
第2章 計測システム
2.1 はじめに
電気接点間に発生する開離時アークの特徴は、放電が微小かつ短時間の過渡現
象ということである。この開離時アークの温度や金属蒸気量を測定する際に分光
計測に要求される条件としては[1][2]、
(1)同一時刻における多数のスペクトルの強度を同時に測定できること
(2)各スペクトル強度の空間分布を測定できること
(3)各スペクトル強度の時間変化を測定できること
が、あげられる。しかしながら、これらをすべて満足する分光計測方法は今まで
なかった。そこで本研究ではCCDイメージセンサを用い上記条件を考慮した下
記の3種類の分光計測システム[3][4][5]の開発を行った。
(1)マルチチャネル分光計測システム[3]
(2)アーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布観測システム[4]
(3)アーク柱断面内の2スペクトル強度分布観測システム[5]
本章では、最初に開離時アークを発生するための等速電極開離装置と実験回路
について説明し、次に、直流電気回路を銅(C u)電極で遮断する際に発生するC u
開離時アークを上記の3種類の分光計測システムで計測した結果を示し、それら
システムによる測定の有効性を示す。
さらに、分光計測システムで測定した結果の妥当性を評価するため、高速度カ
ラービデオを用いて開離時アークを観測[6]したので、その方法についても示す。
2.2 等速電極開離装置と実験回路
2.2.1 等速電極開離装置
本研究の分光計測装置で使うCCDリニアイメージセンサの最高走査速度は2
msである。そのため、開離時アークの発光スペクトル強度の時間変化を測定する
には、開離時アークを長時間継続させる実験用の低速開離装置が必要となる。さ
らに開離時アークの長さと他の諸特性との関係を明確にするため、接触していた
電極対が分離する瞬間から等速であることも必要である。このような点を実現し
− 30 −
た低速・等速電極開離装置を本実験では使う。
図2−1に等速電極開離装置の外観を示す。電極対は固定電極と可動電極から構
成されており、それら試料電極は2本の円柱棒状型電極を円柱端面で突き合わせ
る配置で各々ターミナル③にねじの締め付けで取り付けられる。
閉成時の可動電極①はシャフト部ばね⑧の圧縮にて固定電極②に押しつけられ
ている(図2−1−(B−a)参照)。開離時にはラック⑪が移動を開始し等速になった時
点で、シャフト⑤の一部であるガード⑦がばねにてホルダー⑥に押さえつけられ、
シャフト⑤はラックと一体になり可動電極①は等速にて開離を開始する機構であ
る(図2−1−(B−b)参照)。またシャフト⑤は回転しないようスライダー⑨に固定され
ている。可動電極の開閉動作は、ステッビングモータに回転運動を往復運動に変
えるラック・どこオン機構を取り付けたリニアステッビングモータを用いている。
電極の開離速度が一定であることを確認するため可動電極と一体になっている
スライダー部分の動きを光変位計(アンリツ:KL133A)で測定した。図2−2に示す
ように可動電極は放電開始からほぼ等速度で開離している。電極が等速開離して
いることから、アーク柱の長さ、すなわち、電極間隙の距離は開離速度(10mm/S)
と経過時間の積で表すことができる。
2.2.2 実験回路
実験回路は、電源(DC 50V)、セラミック抵抗体、等速電極開離装置に取り付け
た試料電極対と補助スイッチの直列回路である。開離時のみアーク放電が発生す
るように補助スイッチで実験回路を制御する。
ー 31 −
(A)装置の構造
(B−a)開成時
(B−b)開離時
(B)動 作
図2−1等速電極開離装置
Arcvoltage
(20V/div)
l
Gapdistance
(250〃m/div)
l
Time(10ms/div)
図2−2電極開離速度の直線性
− 32 −
2.2.3 実験条件
本研究における実験条件は表2−1のように設定する。電気的条件(DC 50V,2.5∼
5.OA)は従来の他の研究[7][8]と同じような条件にする。
表2−1実験条件
電極 材料
銅 (Cu),
パ ラ ジ ウ ム (Pd),
銀 (Ag ),
銀 パ ラ ジ ウ合 金 (
A gPd)
電極形 状
円 柱 棒 :2mm ¢, 長 さ :20mm
接 触 面
円柱棒端面 :
球 面 (曲 率 半 径 約 2mm )
雰 囲 気
大気中
電源 電圧
DC 50V
遮断 電流
2.5A, 3 .3A, 5.OA
負 20 日 , 15 日 , 10 日
セ ラ ミ ッ ク 抵 抗 体
荷
固定電極
陰極
開離速度
10mm/S
開 離 間隔
4sec/回 (通 電 時 間 0.5sec )
測定時期
開離時
2.2.4 試料電極の加工
試料電極の接触面形状の加工は以下の手順で行う。
直径2mmの試料電極を卓上ボール盤に取り付け、回
転した試料棒をエメリー紙(♯180∼1500)に押しつけ
試料の接触面形状を曲率半径約2mmに加工する。最
後にエメリー紙(#2000)で研磨する。そして、卓上ボ
ール盤から取り外し、実体顕微鏡で電極の接触面形
状が図2−3の形状になっていることを確認する。次に、
その試料電極をエタノールで洗浄して、さらに純水
で超音波洗浄して自然乾燥させる。
図2−3 電極の接触面形状
− 33 −
2.3 マルチチャネル分光計測システム
近年のエレクトロニクスの進歩により、センシングデバイスであるCCDリニ
アイメージセンサを用いたマルチチャネル分光計測システムが開発され、開離時
アークの発光スペクトル分析が積極的に行われてきた[9][10]。
本節では、本研究で開発したマルチチャネル分光計測システムを紹介する[3]。
本計測システムの特徴は、同一時刻における多数の発光スペクトル強度分布を同
時測定できることにある。これにより分光多線強度比法を用いれば、アーク温度
の計算を精度よくできる。また、アーク温度や金属蒸気量の時間変化も測定が可
能である。
そして、C u電極対で電源電圧DC50V、通電電流3.3∼5.OAの回路を遮断したと
きの分光計測を行い、マルチチャネル分光計測システムの有効性を示す。
2.3.1計測システムの構成
マルチチャネル分光言十測システムの概略構成を図2−4に示す。この分光計測シス
テムは、アーク光入力部、マルチチャネル分光計、データ記録のためのデジタル
メモリ、データ処理用パソコンより構成されている。以下各部の詳細について説
明する。
図2−4 マルチチャネル分光計測システム
(1)マルチチャネル分光計
図2−4に示すように、マルチチャネル分光計は分光器とC CDリニアイメージセ
ンサから構成されている。固定電極(陰極)近傍のアーク光が集光レンズによって
分光器のスリ ットへ入射されている。
ー 34 −
(2)分光墨
使用した分光器はChemspeclOOS(American Holographic)である。分光器に
は凹面ホログラフィックグレイティング(格子数440groove/mm)と スリット(幅50
〟m)を使用し、380∼900nmの分光測定が可能である。焦点距離は97mmである。
(3)C C Dリニアイメージセンサ
アーク光のスペクトル強度の空間分布の影響を受けないようにするため、CC
Dリニアイメージセンサには画素高h(図2−4参照)の大きなTCD131D(㈱東芝)を使
用する。TCD13lDは、画素数が2048画素であり、画素形状が波長方向の画素幅W=
14LLmで画素高h=200〟mである。分解能は0.25nn/画素である。アーク柱の直径は
CCDリニアイメージセンサ上の分光幅と等しく、例えばA gアークで遮断電流
3・3Aのアーク柱を集光レンズで縮小するとアーク柱の直径はCCDリニアイメー
ジセンサ上のアーク像で約200〟mとなる。したがって、C CDリニアイメージセ
ンサの画素高hが200〟mあるので、アーク柱断面がCCDリニアイメージセンサ
全体に入り、各スペクトル線の強度は陰極近傍のアーク柱断面内の平均値となる。
このC CDリニアイメージセンサの走査時間は最短2msである。C C Dl)ニアイ
メージセンサでは走査時間を長くすることにより蓄積電荷量が増大するので、感
度が上がる。そのため本装置では走査時間を5msと長く設定してある。この設定
とデジタルメモリの記憶容量が32kwordあるので、スペクトル強度の測定時間は最
長70msとなる。
(4)センサ出力の記録
C C Dリニアイメージセンサからの出力デp夕は分解能10bitで32kYOrdのデジ
タルメモリ(岩通:DM2350A)に記録する。
デジタルメモリに収集されたデータはGP−IBインターフェイスで パソコンへ転
送され、フロッピィディスクに記録される。同時にパソコンでデータを処理して、
発光スペクトル強度分布の時間変化を求める。
(5)分光感度の校正
文献[11][12]を参考にして各スペクトル線の波長の同定を行う。その後、分光
− 35 −
感度の校正を行う。スペクトル強度が低いアーク光の測定では、分光器による減
衰とCCDリニアイメージセンサの不感電圧の影響で誤差が大きくなる0そこで、
本システムでは分光器とCCDリニアイメージセンサによる不惑電圧を考慮して
分光感度の校正を行う。
光源として分光放射照度が判明している標準電球(ウシオ電機‥JPD−100−500C
s)を用い、光源からの放射光を透過率が既知の減光フィルタで減衰させ、各スペ
クトルに対応したCCDリニアイメージセンサからの出力電圧を測定する0分光
感度の校正方法を図2−5に示す0その測定データに最小自乗直線近似を用い、図2
−5に示すように本システム全体の不惑電圧b、および直線の傾きから校正係数を
求める。そして、本システムで測定した出力電圧値に不感電圧bを加算し、校正
係数を掛けることにより発光スペクトル強度の校正を行う0
丁
ヽ
ン2 .
0
b
●
■
■
●
l
:N o n − Se n S id v e v o lta g e
547nn
// / _521nm
乱雲OA召d︺コ○
//
一
//
′
〆
豪 ‡
‥
ク
)
の
亡
■
←
:1 .
0
…
769nm
467mm
448nm
827nm
421nm
■
■
J
■
)
一三
シ′
.
−
■㌣●
:
=i 十 二
r
J ⊃
l
■
t
−
〔
t
5 0 t
l
l
1 0
Transmittance(%)
図2−5 校正方法
(6)CNバンドスペクトルの補正
本研究で測定したAg電極やPd電極の場合中性原子スペクトルのAgI42lnm・
pdI389nm,PdI396nm,PdI42lnm付近にはCN(0−1)とCN(0−0)バンドスペクト
ルが存在し[10][13]、中性原子スペクトルに重畳する場合がある0図2−6にAg電
極でAg中性原子スペクトルにCNバンドスペクトルが重畳した場合のスペクト
ル強度分布を示す。図2−6に示す測定値からCNバンドスペクトルの発光強度成分
を減算したAを中性原子スペクトルの発光強度としてアーク温度は計算する。
− 36 −
︵.コ.沌︶音su莞ul
図2−6 C Nバンドスペクトル(Ag,DC 50V,3.3A)
(7)アーク温
出
アーク温度の計算には分光多線強度比法を用いる。分光多線強度比法はアーク
柱から発生する多数の発光スペクトル線の相対強度からボルツマンプロットを描
き、熱平衡状態であることを確認して、その傾きからアーク温度を算出する[14]
[15]。
アーク柱の内部で粒子間衝突が頻繁に起こり、観測場所で局所熱平衡状態が成
り立つと仮定すると、励起された原子が励起状態nからmへ遷移する時、波長人の
スペクトル強度Ⅰ。mは次式で与えられる[16]。
I。n=N nA nmh L)
(2−1)
Ann;nからmの遷移に対する遷移確率 h;Planck定数 6.626×10 34J・S
Nn;励起状態nの原子密度[cm 3] L);波長人に対応する振動数
また、励起状態の原子数N。はボルツマン分布に従って次式で与えられる。
g n
N。=No
e
x
p(−E
n/k
T)
(2−2)
U(T)
No;基底状態の原子密度[cm 3] E。;励起状態nの励起エネルギー[eV]
g n;励起状態nの統計的重率 k;Boltzmann定数=8.61×10 ̄5ev/K
U(T);温度Tで決まる分配関数 T;アpク温度[K]
式(2−1)と式(2−2)より、励起された原子から放射されるスペクトル強度Ⅰ。。は
アインシュッタイン・ボルツマンの次式で与えられる[14][15][17]。
N o h c
I nm=g nA nm(
A U(T)
)exp(一羞)
ー 37 −
(2−3)
C;光速 2.997×108m/s
A;波長[nm]
式(2−3)を書き直し、常用対数をとると
0.434E n
Ⅰス
g。A。m
N o h c
)+log(
)=−(
k T
(2−4)
U(T)
同一空間内の原子から放出されるスペクトルのU(T)は同一であるので、測定ス
ペクトルのEnを横軸に、log(InmA/g。A。m)を縦軸に多数のスペクトル強度を
プロットして、プロットした点が直線上に乗れば、直線の勾配から測定場所のア
ーク温度が求められる。
なお、分光多線強度比法を用いてアーク温度を計算する際、利用するスペクト
ルとしては励起エネルギーの差が大きく、自己吸収のないスペクトルを選択する
必要がある[14][18]。
式(2−4)からアpク温度を求めるには光学定数としてのgn(統計的重率)とAnn
(遷移確率)の積が必要である。g。A。m値を求めるには量子力学的に計算で求め
る方法と実験的に求める方法があるが、本研究では[12]に記載された実験的に測
定された相対発光スペクトル強度からgnAnm値を計算した0 計算したgnAnm値
を表2−2に示す。本研究では表2−2に示すgnAnm値を用いてアーク温度を計算する。
開離時アークにおいて、過渡的変化の各瞬間に熱平衡関係が成立しているかと
いう問題がある[19]。また、アーク柱の光学的希薄性が重要な特性量となる[20]。
ァーク柱内の構成粒子間の衝突により熱平衡に達するまでの緩和時間について遮
断電流3.3Aの場合を計算するとCuアークが5500Kの時287×1012sec、Pdアー
クが6000Kの時149×1012sec、Agアpクが10000Kの時12・8×1012sec・5500Kの
時287×1012secであり、測定システムの走査時間が最高 2ms/scanであることか
ら、走査時間に対して充分に熱平衡状態に達しているとみなした。
光学的希薄性については、本研究と同じような条件での分光2線強度比法によ
る計測例[14]∼[16][20][21]があるため、若干、光学的希薄性は疑わしいが、希
薄に近いものと考えられるので、光学的希薄と仮定した。
− 38 −
表2−2 g。A。m値
(A)Cuアーク
波
長
(
m n ) 4 0 2 .3 4 2 7 .5 4 6 5 .1 5 10 .
6 5 1 5 .3 5 2 1.8 5 2 9 .3 5 7 0 .
0 5 7 8 .2
励起 エネル ギー (
eV ) 6 .8 7 7 .7 4 7 .7 4 3 .8 2 6 .19
6 .1 9 7 .7 4
3 .8 2 3 .7 9
発 光 強 度 (
a.
u .)
2
4
8
40
20
100
4
10
40
g nA H 。
(
10 8/S )
2 .1
32
7 0 0 .0 5 1
5.7
2 8.
9
3 9 0 .0 14 0 .0 5 4
(B)P dアーク
波
長
(
m n ) 3 8 9 .4 3 9 5 .9 4 2 1 .3 4 4 7 .4 4 7 8 .8 5 1 1 .1 5 1 6 .4
励 起 エ ネル ギー (
ev)
発
光
強
4 .6 4
4 .5 8
4 .4 0
4 .2 2
6 .8 1
6 .8 2
6 .8 0
6 .7 9
7 .2 4
6 .8 2
6 .0 5
(
a .u .)
24 0
16 0
280
20
6
6
17
13
4
6
7
(1 0 日/S )
1 .8
1 .1
1 .3 0 .0 6 8
7 .9
8 .6
24
18
16
9 .4
2 .3
度
g HA 一
、
.
m 5 2 9 .6 5 3 9 .5 5 5 4 .3 6 7 8 .5
(C)Agアーク
波
長
(
m n ) 4 2 1.1 4 4 7 .6 4 6 6 .8 5 2 0 .9 54 6 .5 7 6 8 .8 8 2 7 .4
励 起 エ ネ ル ギー (
eV )
発
光
強
g l、
A ‖tn 度
6 .7 2
6 .4 4
6 .4 4
6 .0 4
6 .0 4
5 .2 7
5 .2 7
(
a .u .)
90
50
60
10 0 0
1 00 0
320
500
(10 ㌧ S )
5 .1
1 .7
2 .1
15
16
1 .3
2 .2
2.3.2 実験結果
C u電極で通電電流3.3Aの回路を 遮断するとき発生する開離時アークの発光
スペクトルの測定結果を図2−7に示す。放電開始から10msの間はアーク温度の計算
に必要なスペクトルの強度がC C Dリニアイメージセンサの感度以下であり、ア
ーク温度を測定できない。しかし、時間経過に伴い受光スペクトル強度は強くな
り、測定可能となる。
C u開離時アークでは多くのC u中性原子スペクトルが放射され、どのスペク
トルも電極間隙が広がるにつれて発光強度を増している。
これらのデータをもとにボルツマンプロットを行ない、最小自乗直線近似の勾
配からアーク温度を求める。ボルツマンプロットを描くと図2−8となる。プロット
した点はほぼ直線上に乗っているのでアーク柱内の熱平衡は極端にずれてはいな
いと考えられる。直線の傾きからアーク温度を計算すると放電開始から30−35msの
期間の平均温度は約5594Kである。
ボルツマンプロットを使って計算したアーク温度の時間変化を図2−9に示す。遮
断電流3.3Aの時、放電開始約20ms後(間隙長200〟m)にアーク温度は約5800Kで最
大値に達し、電極間隙が開くに伴い徐々にアーク温度は低下し、アーク消滅時(間
隙長500〟m)の温度は約5350Kである。
− 39 −
合1 Cu515
Cu402 cu465 1Cu522
宕つ 肯 28Fu5Jl Cu529Cu578
羞j
1 1
適
血
′
∼
的
融
価 ̄
着
ボ
 ̄
 ̄
 ̄
知
細
蝿.
1皿
︵.コ.王宮suU盲l
1
適
4do くっ
=
掌
1 580 1 6do
Wavelength(nm)
(B)
465.1nm
515.3nm
︵.コ.£倉suU召H
Wavelength(nm)
(C)32ms
図2−7 C u開離時アークの分光分析(Cu,DC50V,3.3A)
ー 40 −
9
7
5
︵。。亘。ゼ Y己。宝叫01
6
Energylevel(eV)
図2−8 ボルツマン・プロット(Cu,DC 50V,3.3A)
Cathode
anode
Center
Time(ms)
図2−9 C u開離時アークにおけるアーク温度の時間変化
(Cu,DC 50V,3.3A)
ー 41 −
2.4 アーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布観測システム
C CDカラーエリアイメpジセンサを内蔵したC CDカラーカメラと追加フィ
ルタの組み合わせでアーク柱の全体を1方向(側面)から撮像し、アーク柱の軸方
向に沿った2つのスペクトルの強度の空間分布を同時に観測する分光計測システ
ムの開発を行った。
本システムの特徴は、CC Dカラーエリアイメージセンサを使っているため、
電極開離時のアーク柱の軸方向に沿ったスペクトルの強度分布を縦と横の面積と
してとらえることができ、アーク柱断面内の2つのスペクトル強度の空間分布を
測定できることである。その結果、同時刻、同一場所における2つのスペクトル
強度の空間分布を測定できるので、アーク柱内のアーク温度や金属蒸気量の分布
を精度良く計算できる。
本節では、本分光計測システムを紹介する。そしてC u電極対で電源電圧DC 50
V、通電電流3.3Aと5.OAの回路を遮断したときに発生するアーク柱の軸方向と半径
方向に沿ったCuI 465nmとCuI 515nmスペクトルの分布を示し、さらに、それら
のスペクトル強度からアーク温度と金属蒸気量を算出して、本分光計測システム
の有効性を示す。
2.4.1計測システムの構成
全体のシステム構成を図2−10に示す。C C Dエリアイメージセンサの各画素に
RGBカラーフィルタを載せたC C Dカラーカメラ(SONY:XC711)と集光レンズ
と追加フィルタを組み合わせてアーク柱の全体を1方向(側面)から撮像し、アー
ク柱の軸方向に沿った2つのスペクトル強度分布を同時に得る。C C Dカラーカ
メラから得られたスペクトル強度分布の投影データをデジタルメモリに一旦記録
し、パソコンへ転送してプロッピディスクに記録してからデータ処理する。
ー 42 −
図2−10 アーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布観測システム
(1)測定スペクトルの選遡
この研究で、測定対象とするスペクトルの選択では、以下の条件を満たす必要
がある。
1)発光スペクトル強度が強いこと。
2)CCDカラーカメラ内のCCDカラーエリアイメージセンサの色感度の青,
線,赤の各領域に1本のスペクトルが存在すること。
3)アーク温度や金属蒸気量を計算するために、測定される2本あるいは3本
のスペクトル線の励起エネルギーに大きな差があること。
C uアークでは図2−7に示すように発光強度の強い中性原子スペクトルCuI42
8nmとCuI465nmとCuI51lnmとCuI515nmとCuI522nmスペクトルが存在する。
それぞれのスペクトルの励起エネルギーはCuI428nmが7.74eV,CuI465nmが7.
74eV,CuI51lnmが3.82eV,CuI515nmが6.19eV,CuI522nmが6.19eVである。
上記の理由からCCDカラーエリアイメージセンサはそれ自身の青色の領域でCu
I465nm、緑色の領域でCuI515nmのスペクトルを撮像する。なお、3つの色の領
域のスペクトルを同時に抽出できる追加フィルタの作製が困難であったため、今
回の実験では赤色の領域は使用しない。
− 43 −
(2)盤_学フィルタの選択
CCDカラーカメラ内のカラーフィルタの配列とアーク柱の撮像方向の関係を
図2−11に示す。図2−11の配置によりアーク柱に対してCCDカラーエリアイメー
ジセンサの同一走査線上の青と緑のフィルタでアーク柱の直径方向の同一断面の
投影像を測定する。
ccDカラーエリアイメージセンサと追加フィルタの分光特性を図2−12に示す。
図2−12のCCDカラーエリアイメージセンサの青色フィルタの破線は推定値であ
る。このCCDカラーエリアイメージセンサと追加フィルタの組み合わせにより、
青領域にCuI465nm、緑領域にCuI515nmのスペクトルが抽出される。
重R≡
ーR
RR 蒜 −
∈
ユ
▼・」
「「「「[[「71「{
4ま3]国開国
f血els
]回回回
[
回
[且
回
甜
]回回[且
出鼓
回回
回回回回回[
〓月山
ト768。kels
I
山臣配
1 13〃m
」」 ]
回回瓦
回回回
回回回回瓦
匝]回瓦直回巨
mu日月
由
回
ぎーuu日ShOuOで巴占
回回
回回回腿[
回回回回
ロ旧口
瓦回回 呂 胃巨
一
図2−11ccDカラーエリアイメージセンサの画素上のカラーフィルタの
配列とアーク柱の撮像方向の関係
− 44 −
0
︵芭sh茎警告〇三pPごOUUu5辛ESu巴↑
︵芭口UUJO倉A雲SuUSだ焉tU出
図2−12 c c Dカラーエリアイメージセンサと追加フィルタの分光特性
(3)C C Dカラーカメラの動作設定
C C Dカラーカメラに内蔵されている電子シャ ッターの開放時間を500LL Sに設
定することにより、露光時間は500LLSになる。C C Dカラーエリアイメージセン
サの走査方式はノンインターレスモードに設定することにより、C C Dカラーエ
リアイメージセンサの全データ転送に16.7msを要する。C C Dカラーカメラから
の出力はR G B信号に分離されて出力されるため、CuI 465nnlを青出力信号、Cu
I 515nmを緑出力信号としてデジタルメモリ(岩通:DM2350A)の2c hへ入力する。
(4)データ収集
C C Dカラーエリアイメージセンサ上の赤色と青色と緑色フィルタの数はC C
Dカラーエリアイメージセンサの画素の数(768(H)×493(Ⅴ)=378,624画素)と同
じである。デジタルメモT)のメモリ容量が32KYOrdX2chであるため、C C Dカラ
ーエリアイメージセンサセンサの全データをデジタルメモリに記録できない。そ
こで、デジタルメモリへのデータの転送は以下のように行う。
アーク像はC C Dカラーエリアイメージセンサ上の画素の一部に投影される。
C C Dカラーエリアイメージセンサ上のアーク像に相当する青色と緑色の信号の
みを200ns間隔で サンプリングしてデジタルメモリへ記録する。このことによっ
て青色信号と緑色信号を各32Kvord以内で記録する。そのため、1つの開離時アー
− 45 −
クについて、記録できるアーク像は1つである。あるいは、1〟Sでサンプリング
して、1つの開離時アークについて、2つのアーク像を記録する。
サンプリング200nsの場合、レンズ系の倍率が1.4倍であり、C C D画素形状の
アーク柱軸方向の長さが13〟mであり、走査方式がインターレスモードであるこ
とから、アーク柱軸方向のC C Dカメラの分解能は18.6〟m/div(13LLmX2/1.4倍)
である。またアーク柱直径方向の分解能は25〟m/divである。以後、分解能とな
る18.6〟mX25〟mを1メッシュ(例えば図2−14の1つのデータ)と呼ぶことにする。
また、サンプリング1〟Sの場合、アーク柱軸方向のC C Dカメラの分解能は18.
6LLm/divであり、アーク柱直径方向の分解能は125LLm/divである。
(5)校 正
分光測定部のCuI 465nmとCuI 515nmスペクトルに対する追加フィルタと組み
合わせたC C Dカラーカメラからの出力電圧の感度の校正は以下のようにして行
う。
最初に、ハロゲンランプを光源として分光器(JOBIN YUON:H20UV)で分光し、
分光器の出力スリットから任意のスペクトルを取り出す。そして各波長における
スペクトル強度を光パワーメータ(ANDO:AQ2125,AQ2726)で測定する。光パワー
メータで400∼700nmの範囲の発光強度を測定する。測定するスペクトル強度は出
力スリットから放射される全スペクトル強度W(州)である。
次に、C C Dカラーカメラに取り付けてある追加フィルタを取り外し、C C D
カラーエリアイメージセンサのみの絶対分光感度の測定を行なう。任意の波長幅
における全スペクトル強度WをC C Dカメラ内のC C Dカラーエリアイメージセ
ンサが受光しているメッシュ数で割ることにより1メッシュあたりのスペクトル
強度W(州/メッシュ)を算出する。
次に、C C Dカラーカメラの光学系の焦点を分光器の出力スリットに合わせ、
C C Dカラーカメラの青と緑の各出力電圧VRとV。を測定する。
W/VBとW/VGからCuI465nmとCuI515nmに対するC CDカラーエリアイメ
ージセンサの1メッシュあたりの絶対分光感度が算出できる。
次に、追加フィルタの透過率は分光計(日立:340S)によって測定した。追加フ
ィルタの465nmと515nmの透過率によって、追加フィルタを装着した時の分光測定
ー 46 −
ユニットのCuI465nmとCuI515nmに対する感度を計算する。
以上の結果から、CCDカラーカメラが撮像した時の出力電圧に対する1メッ
シュ(18.6LLmX25LLm)あたりの絶対分光感度はCuI465nmスペクトルが0.2006
I川/V、CuI 515nmスペクトルが0.2214州/Vとなる。
(6)アーク温度の
出
アーク温度の計算には分光2線強度比法を用いる。分光2線強度比法はアーク
柱内部が局所的熱平衡状態にあると仮定して、アーク柱から放射される2本のス
ペクトル線の強度比からアーク温度を計算する方法である[14][15]。計算方法は
以下のようである。
式(2−4)を使い、同一被測定空間の原子から放射されるスペクトルのU(T)は同
一であるので、2つのスペクトル強度比(IlとⅠ2)からその原子の温度を求める
ことができる[14][20][21]。
−5040×(E。1−E n2)
Il
T=
Al
I 2人2
(2−6)
)−log(
g。1A。ml g n2A nm2
E nl,Il,g nl,Anmlは 波長Alの時の値
E。2,Ⅰ2,g。2,Anm2は 波長ス2の時の値
式(2−6)を用いることにより、CuI465nmとCuI515nmスペクトルの強度から式
(2−7)でアーク温度は計算できる[14][15]。
5040(E。465。m−E。515。m)
g。Ann465nm
A465。m
トlog(
g。Anm515nm
I465。m
トlog(
A515mn
I515。m
7812
(2−7)
Ⅰ465
1.1335 −10g(−)
Ⅰ515
なお、アーク温度の計算に必要なgnAnm値は表2−2のg。Anm値を用いる。その値は
CuI 465nmスペクトルのg。Annが70×108/S、CuI 515nmスペクトルのg。Anmが5.7
×108/Sである。
ー 47 −
本研究では、アーク柱断面内のスペクトル強度分布から計算した局所的なアー
ク温度(例えば、スペクトル強度ピーク値部分のアーク温度)と、アーク柱直径方
向の断面内の測定されたスペクトル強度分布(投影像)の総量(積分値)から計算し
た平均アーク温度を示す。
(7)金属蒸気密度の算出
式(2−3)からアーク柱内の基底状態の原子密度すなわち金属蒸気密度Noは
Ⅰ。mA U(T)
(2−8)
N o=
h c g。Anmexp(−E。/k T)
で表される[14][15][22]。金属蒸気密度Noを計算するには分配関数U(T)が必要
である。分配関数U(T)は
U(T)=∑g nexp(−E n/k T)
(2−9)
n
g。=2J+1
J;電子の内部量子数
(2−10)
から計算できる[14][18][23]。
文献[24]に掲載されているC u原子65個、P d原子64個、A g原子49個のエネ
ルギー状態から分配関数を計算した。アーク温度がC uアークとP dアークでは
3000∼10000K、A gアークでは3000∼30000Kの範囲における分配関数U(T)の計
算結果を図2−13に示す。
式(2−8)を用いると、局所部分の発光スペクトル強度ⅠMとアーク温度Tから金
属蒸気密度N。が計算できる。そして、アーク柱断面内の測定されたスペクトル強
度分布(投影像)の総量(積分値)から計算した平均アーク温度と測定されたスペク
トル強度の総量から計算した値を金属蒸気量とする。ただし、本研究で測定され
るスペクトル強度Ⅰ。mは絶対値でないため、金属蒸気密度の絶対値を算出できな
い。そこで、金属蒸気量と金属蒸気密度は最大値で正規化して比較する。
ー 48 −
5000 7000
珊0
Arctemperature(K)
(B)P dアーク
15 10
5
︵ヒnGOで白眉百〇で葛d
10000 20000
Amtemperature(Ⅹ)
(C)Agアーク
図2−13 分配関数
− 49 −
30000
2.4.2 実験結果
実験中、試料の電極面を研磨し、洗浄した後のアーク発生回数によってスペク
トル強度分布が違うので[25]、放電回数の少ない例として放電4回目の開離時ア
ーク、多い例として放電15回目の開離時アークのスペクトル強度を測定した。
(1)発光スペクトル強度の分布
電源電圧DC50V,通電電流3.3Aと5.OAの回路をC u電極で遮断する。サンプリン
グ速度200nsの時のアーク柱軸方向に沿ったスペクトル強度分布(投影像)の測定
結果を図2−14に示す。遮断電流が大きいほどアーク柱の径は大きく、スペクトル
強度も強くなっている。そして、放電回数4回目ではスペクトル強度の分布は陰
極近傍の強度が強く、陽極近傍の強度は弱い。しかしながら、放電回数が増すに
つれて陽極近傍のスペクトル強度は強くなり、図2−14に示すように放電回数15
回目では陽極近傍に強い輝点を発生する。
また、図2−15には放電回数4回目におけるサンプリング速度1〟Sの時のスペク
トル強度分布(投影像)の時間変化を示す。図2−15から放電開始時に陰極近傍に光
の強い輝点(陰極輝点)が形成され、その後、陰極輝点と陽極間に光の弱い部分が
形成されることが分かる。中桶[15]も固定間隙長5mm,アーク電流DC 5Aの大気中
C uアークの分光写真像にて陽極輝点の発生を報告している。
(2)アーク柱軸方向の平均アーク温度と金属蒸気量
図2−14におけるアーク柱軸方向に沿った各アーク柱断面内の平均アーク温度を
計算する。遮断電流5.OAの時の結果を図2−16に示す。なお、図中の()内の数字
は(測定された時のアーク長/消滅する時のアーク長)を示す。放電回数4回目で
は陽極近傍のスペクトル強度は弱く、陽極近傍のアーク温度は計算できなかった。
図から分かることは放電回数4回目と15回目ともにアーク温度は陰極近傍で高
く、アーク柱中央に向かって低下し、陽極近傍に向かって上昇している。また、
遮断電流が大きいほど発光強度は強く、アーク柱径は太くなったが、アーク柱全
体の平均温度の変化は少なかった。遮断電流3.3Aの時も同様の傾向であった[25]]。
− 50 −
乱雲○>Uhd
︵⇒8倉の宕一占
Time(10m扉div)
Time(10m扉div)
(a)入=465nm
(a)入=465nm
ひ)入=515mm
m)入=515nm
(1)4回目(T=34ms)
︵⇒ヱ倉S宕一占
亀8一〇>Uhd
︵>欄ぎON︶
(1)4回目汀=33ms)
Time(10m釘div)
Time(10m少diY)
平∵■↑㍉
(a)入=465mm
(2)15回目汀=おms)
仲)入=515nm
(2)15回目(T=彪ms)
(B)5.OA
(A)3.3A
図2−14 アーク柱軸方向に沿った発光スペクトル強度分布(投影像)
(Cu,DC 50V)
︵>叫≡rON︶
U叫遥○>U壱
T血e(10m扉dV)
(1)T=11ms
ね)入=465mm
仲)入=515nm
図2−15 アーク柱軸方向に沿った発光スペクトル強度分布(投影像)
の時間変化(Cu,DC 50V,5.OA,放電回数4回目)
ー 51 −
図2−16のアーク柱軸方向に沿った各断面内の平均アーク温度と、アーク柱軸方
向に沿った各断面の測定スペクトル強度総量から計算した平均金属蒸気量を図2−
17に示す。図2−17では遮断電流5.OAの放電回数15回目の金属蒸気量の最大量で正
規化してある。金属蒸気量は陰極近傍や陽極近傍で少なく、アーク柱中央で多く
なっている。遮断電流3.3Aの時も同様の傾向であった[26]。
図2−16 アーク柱軸方向に沿った平均アーク温度(Cu,DC50V,5・OA)
0 5
︵.コ.空音芸当b旨dg⊥月旦言
100 200 300
Length丘omcathode(FLm)
図2−17 アーク柱軸方向に沿った金属蒸気量(Cu,DC50V,5.OA)
一 52 −
(3)アーク柱断面内のアーク温度
図2−14で測定されたアーク柱直径方向の断面のスペクトル強度の投影像にAbel
変換[27]∼[30]を施してアーク柱断面内の温度分布を計算する。Abel変換を用い
るときはスペクトル強度分布がアーク柱の中心軸に対して対称であることが必要
である。しかし、図2−18に示すように大気中の開離時アークの測定されたスペク
トル強度の投影像は完全な軸対称にならない。そのため、今回の実験では測定さ
れたスペクトル強度の投影像をアーク柱中心軸に対して対称であると近似してAb
el変換を行った。
遮断電流DC5.OA、放電回数4回目におけるアーク柱断面内の温度分布を図2−19
に示す。アーク柱断面の半径方向の温度分布はアーク柱の中心軸付近で高く、周
辺に行くほど低くなる。また、図2−20にアーク柱の中心軸部分の温度分布を示す。
アーク柱軸方向に沿った各断面内の平均アーク温度(図2−16参照)と同様に、アー
ク温度は陰極近傍と陽極近傍で高く、アーク柱中央で低くなっていて、アーク柱
軸上の温度は平均アーク温度より平均540K高かった。
−400 −200 0
200 400
Lengthfromaxis(FLm)
図2−18 アーク柱直径方向の断面におけるCuI 515nmスペクトル強度
の投影像(Cu,DC 50V,5.OA,放電回数4回目)
ー 53 −
4th arcing,at34ms
(340〃m/520〟m)
6000
Distancefrom
thecathode=
37.2〃m
167.4〃m
100
200
Lengthhomaxis(FLm)
図2−19 アーク柱断面内半径方向の温度分布
(Cu,DC 50V,5.OA,放電回数4回目)
図2−20 アーク柱中心軸上の温度分布(Cu,DC 50V,5.OA)
ー 54 −
2.5 アーク柱断面内の2スペクトル強度分布観測システム
CCDカラーリニアイメージセンサと追加フィルタを組み合わせで2方向から
アーク柱から放射される2つのスペクトル強度の分布を同時に測定して、再構成
法によりアーク柱断面内の2つのスペクトル強度の空間分布を同時に測定できる
分光計測システムの開発を行った[5]。
本計測システムの特徴は、分光器を使用せず同時刻における2つのスペクトル
強度の時間変化を測定できること、さらにアーク柱断面内の空間分布が得られる
ことにある。その結果、アーク柱内のアーク温度や金属蒸気量の分布を精度良く
評価できる。
本節では、本分光計測システムを紹介する。そして、C u電極対で電源電圧DC
50V,通電電流3.3∼5.OAの回路を遮断した際に発生する開離時アークのアーク柱
断面内のCuI465nmとCuI515nmスペクトル強度分布を測定することを事例にし
て本計測システムを説明し、測定結果を示すことにより、本分光計測システムの
有効性を示す。
2.5.1計測システムの構成
全体のシステム構成を図2−21に示す。CCDカラーリニアイメージセンサと特
CCD colorlinear
imagesensor
図2−21アーク柱断面内の2スペクトル強度分布観測システム
ー 55 −
定の2つのスペクトルを抽出する追加フィルタを先端に取り付けた集光レンズを
図のように配置し、電極間隙内の同一断面を直角の2方向から同時測定する。得
られた投影データはデジタルメモリに一旦記録され、パソコンへ転送してデータ
処理を行う。
(1)測定スペクトルの選択
アーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布観測システムの「2.4.1−(1)測
定スペクトルの選択」と同様に、C uアークのCuI 465nmとCuI 515nmの測定に
ついて述べる。
(2)C C Dカラーリニアイメージセンサ
C C DカラーリニアイメージセンサはC C Dリニアイメージセンサ上にRG B
フィルタがオンチップされたものである。本研究では図2−22に示す画素配置の㈱
東芝TCD136Cを使う。画素数は520画素×3色の1560画素である。センサからのデ
ータはRG Bの順(図の左から右)に順次連続してシリアルに出力される。
C C Dカラpリニアイメージセンサの選定にあたっては、C C Dカラーリニア
イメージセンサの残像特性が発光強度の時間変化に影響するため、あらかじめ残
像特性の測定を行い、残像量の少ないことを確認した[31]。本実験に使用したC
C Dカラーリニアイメージセンサのデータ転送速度は500kHzであり、光信号蓄積
時間2msに設定した。これによりC C Dカラーリニアイメージセンサの1走査あ
たりのデータ転送画素数は全画素数1560画素中の1000画素であり、デジタルメモ
リはlkword分ですむ。試料電極の径2mm¢に相当する受光部分は約190画素であり、
63.5川
12
9
12
l l
9 T 12 ′19.
5
図2−22 c c Dカラーリニアイメージセンサの画素の配列
− 56 −
C C Dカラーリニアイメージセンサの受光範囲としては充分である。
開離時アークの発光スペクトル強度は高速で変動している。その変動速度に較
べてC C Dカラーリニアイメージセンサの光信号蓄積時間2msは非常に長い。その
ため、測定したデータは2ms間の平均値として得られることになる。
(3)追加フィルタ
C C DカラーTJニアイメージセンサの集光レンズにはCuI 465nmとCuI 515nm
の2つのスペクトルを抽出するための追加フィルタを取り付ける。追加フィルタ
の分光特性及びC CDカラーリニアイメージセンサの分光特性を図2−23に示す。
追加フィルタの分光特性は分光計(目立:340S)で測定した。
465nm,515nm以外の不要な波長がカットされているかどうかは シャープカット
フィルタを使用して465nm,515nmを遮光し、出力がないことで確認した。
また、追加フィルタを取り付けた集光レンズによる光学系の倍率は放電、集光
レンズ、CCDカラーリニアイメージセンサの位置及びレンズの焦点距離f=50
から計算すると約1.84倍である。
︵辞︶ ︼忍一竜−苫〇三pp霊OUUU再三ESU巴↑
図2−23 ccDカラーリニアイメージセンサと追加フィルタの分光特性
(4)
センサ出力
追加フィルタの使用により、CCDカラーリニアイメージセンサの出力として
ー 57 −
青領域に465nmと緑領域に515nmのスペクトル強度に比例した電圧が出力される。
2値のCCDカラーリニアイメージセンサからの出力データは、分解能10ビッ
トで32kYOrdX2chデジタルメモリ(岩通:DM2350A)の2chに記録する。
(5)投____ __重
図2−21のシステムで計測した2つのスペクトル強度に対する出力電圧の校正は
以下のように行う。
最初に、分光器を用いハロゲンランプから分離した465nmと515nmのスペクトル
の強度W447nmとW540nmを光パワーメーターで測定して、次に、同じスペクトル
を図2−21の各観測ブロックに供給する。各観測ブロックからの出力電圧V465。mと
V515nmを測定する。各ブロックの校正係数α1とα2は次式によって計算される。
W465。m V465。m
(2−10)
W515。m V515。m
測定結果は両方ともaは2.77であった。そこで、CuI515nmを1とするとCuI465
nmの出力電圧に2.77をかけなければならない。
(6)観_測位置
可動電極にLEDを取付け固定電極に接触させ2つのCCDカラーリニアイメ
ージセンサ上に結像させる。その際、2つのCCDカラーリニアイメージセンサ
の画素配列方向が固定電極に対し垂直になるように、また2つの画素配列方向が
直行するように調整する。さらに、LEDの発光強度に対し2つのCCDカラー
リニアイメージセンサNo・1,No・2の出力が等しいことを確認する。
今回の研究の結果から、放電開始後2∼4msでCCDカラーリニアイメージセン
サの出力が有り、この時、電極間間隙が20∼40〟mとなっていることから固定電極
から40〟m以内の空間を観測していると推測される。
(7)データ処理
デジタルメモリに収集されたデータはGPIBインターフェイスにてパソコン
へ転送し、フロッピィディスクに記録する。同時に、パソコン内でデータ処理し
て、測定データから投影データを出力し、さらに、この投影データから再構成法
にて各スペクトル強度の空間分布の時間変化を求める。
ー 58 −
(8)垂構成法
アーク放電の空間分布を求める一般的な方法として1方向からの投影データに
Abel変換[14][15][20][21][27]∼[30][32]を用いる方法がある。しかしながら、
この手法は放電のスペクトル強度分布が軸対称形の場合に適用できるものである
が、開離時アークの場合接触面の状態や気流の影響によって図2−18で示したよう
にスペクトル強度分布は完全な軸対称形ではないので[33]、厳密にはAbel変換の
適用は困難である。そこで本研究では再構成法を用いる[35]∼[38]。
再構成法にはCT(Computer Tomography)と呼ばれ、医学用にはFBP法[35]、
プラズマ計測ではART法やスプライン補間法[35][36]が用いられているが、こ
こでは計算が最も簡単な逐次近似法の1つの代数的再構成法(ART:Algebratic
Reconstruction Technique)を用いる。以下にART法について説明する[34][37]。
図2−24のようにアーク柱断面に対し2方向にCCDイメージセンサを配置する。
ccDimagesensoro=90。
 ̄  ̄ ̄ ̄ ■−−−  ̄ − 二二_.−
○=Q hOS已US
=
PrqjecdondataP(k,0)
図2−24 A RT再構成法
そこで断層面をいくつかの画素(i,j)に分割する。そして各画素に発光強度F(i,j)
として適当な初期値(例えば一様分布)を入れ、ある投影像の線積分値であるF(i,
j)の合言十値を仮の投影データとし
R(k,0)=∑wijX F(i,j)
(2−11)
により算出する。ここでkはC C Dリニアイメージセンサにおける各画素の投影
像の順序、βは投影角度、Uijは 各画素(i,j)を投影像の積分値となる線上の面
積に比例する重み係数である。R(k,β)と投影データP(k,β)と比較して、その差
を小さくするようにF(i,j)の値を修正する。 これをすべてのP(k,0)について順
− 59 −
次繰り返し、逐次に近似していく。
F(i,j)を修正する方法としては、乗法的A RT法と呼ばれるP(k,0)とR(k,0)
の比を利用する方法を使う。F(i,j)のn次の推定値をF。(i,j)とすると
P(k,β)
(2−12)
F n.1(i,j)=F n(i,j)×
Rn(k,β)
の式を用い、各投影ごとの P(k,β)とRn(k,β)がほぼ一致するまで繰り返してF
(i,j)を求める。
本研究においてはC C Dカラーリニアイメージセンサの方向が2つであるので
β=0,900 また、重み係数U=1と仮定して計算を行なう。
開離時アークのアーク柱断面内の発光スペクトルを想定したモデルの2方向の
投影データからパソコンによるシミュレーションで再構成を行った結果を図2−25
に示す。
︵.n.色合su望占
P=ピーク値
(A)モデル (B)再構成像
図2−25 A RT再構成法のシミュレーション
ー 60 −
C C Dカラーリニアイメージセンサの観測位置が2方向からの限られた方向か
らであるため、センサに対し斜め方向の分離あるいは楕円については正確な形状
を再生してないが、ピーク値についてはモデルに近い値を示している。
本計測システムは測定間隔2msで最大測定時間60msであり、再構成像は39×39
画素で30画面の動画像を得ることができる。
(9)アーク温度と金属蒸気量
2.4.1−(6)(7)と同様にCuI 465nmとCuI 515nmの2スペクトルの強度から分光
2線強度比法を用いてアーク温度と金属蒸気量を計算する。
2.5.2 実験結果
C u開離時アークでは放電回数によりアーク電圧波形は変化する。測定は遮断
電流5.OA,2.5A,3.3Aについて放電回数を変えて測定を行った[39]。ここでは、
遮断電流5.OAの時や放電回数4回目と8回目および遮断電流3.3Aの時の測定結果
を示し、検討を行う。
(1)発光スペクトル強度の空間分布測定
通電電流3.3∼5.OAの回路をC u電極で遮断した場合の 陰極近傍におけるアー
ク柱断面内のスペクトル強度の空間分布を図2−26に示す。
図2−26からスペクトル強度分布の直径は放電初期には細いが、その後太くなる。
図2−26の発光スペクトル強度の分布は極めて単純で整った形状をしているが、
実際の発光スペクトル強度分布は時間的にも空間的にも激しく変化している可能
性がある。このように単純で整った形状となったのはC C Dカラーリニアイメー
ジセンサTCD136Cの信号蓄積時間を2msとして、2ms間の入射光量の平均値をとって
いること、およびA RT再構成法のアルゴリズムで像が平滑化されたためである。
図2−26から遮断電流5.OAの時の放電回数4回目のCuI 546nmとCuI 515nmのア
ーク柱断面内の測定スペクトル強度総量およびアーク柱中心軸付近のスペクトル
強度のピーク値の時間変化をCuI515nmの最大値で正規化して図2−27と図2−28に
示す。測定スペクトル強度の総量とスペクトル強度ピーク値は放電開始後増加し
て、その後、徐々に減少している。
ー 61 −
(●n■P)旬Su叩II
可の.?−︵e
EuのlSエコU︵巴 EUm等⊥コU︵S
︵AO∽UQ.コU︶
Eu些聖TIコU︵S
可の.N=−︵3
EUのTS⊥コU︵巴
賠余嘲憎ユニへてK岩槻QE層壷世へ1ト将士将り一堅城盟曲芸・N区
EU爪等⊥コU︵S
﹁匝トト予−軒j
盛闇盛轡.
62
4 0 . ∽ = l ︵ U ︶
Euのlの⊥コU︵e
︵>竃も∈01︶UE声
(・ヽtP仏OZ)
3号の10人コJV
5
仇
0
︵・n・£倉S已む召二男U乱s
p巴nS謡∈ちS盲コOEヱ80↑
20
40
60
Time(ms)
図2−27 陰極近傍におけるアーク柱断面内の測定スペクトル強度総量
の時間変化(Cu,DC 50V,放電回数4回目)
Time(ms)
図2−28 陰極近傍における発光スペクトル強度ピーク値の時間変化
(Cu,DC 50V,放電回数4回目)
(2)アーク温度
陰極近傍のアーク柱断面内の温度分布を図2−29に示す。アーク温度の分布は放
電初期には中心部と周辺部の温度勾配は大きいが、放電後期には小さくなる。
図2−30にアーク柱断面内のスペクトル強度ピーク値部分の温度の時間変化を示
す。また、破線でアーク柱断面内の平均アーク温度を示す。スペクトル強度ピー
ク値部分のアーク温度と平均アーク温度とも放電初期に上昇し、その後減少する。
また、いずれのアーク温度も時間変動が大きい。
− 63 −
Lengthfromaxis(Jlm)
(A)Inthehorizontaldirection
Length丘omaxis(Flm)
(B)Intheverticaldirection
図2−29 陰極近傍におけるアーク柱断面の温度分布(Cu,DC 50V,3.3A)
20
40
60
Time(ms)
図2−30 陰極近傍における発光スペクトル強度ピーク値によるアーク温度
の時間変化(Cu,DC 50V,3.3A)
− 64 −
(3)金属蒸気量
陰極近傍におけるアーク柱断面内のスペクトル強度の強い範囲の金属蒸気密度
の分布を図2−31に示す。また、アーク柱断面内の平均アーク温度とスペクトル強
度総量から計算した金属蒸気量を図2−32に示す。スペクトル強度としてはCuI 4
65nmの強度を用いる。なお、本研究で測定したスペクトル強度は絶対値でないた
め、計算で得られる金属蒸気量は遮断電流5.OAの金属蒸気量の最大値で正規化す
る。
図2−31から、陰極近傍の金属蒸気密度は、放電初期にはアーク柱中心軸上で低
く、アーク柱の周辺で高いが、放電後期にはアーク柱断面内の金属蒸気密度の分
布は均一になる。図2−32から、陰極近傍の金属蒸気量は放電初期には増加するが、
中期以降には徐々に減少する。そして、アーク電圧の不連続部分で金属蒸気量は
急激に増加している。
図2−31陰極近傍におけるアーク柱断面内の金属蒸気密度の分布
(Cu,DC 50V,3.3A)
− 65 −
0 5
0
︵.n.丘と召ヨb︼Od璧二月属言
Time(ms)
図2−32陰極近傍における金属蒸気量の時間変化(Cu,DC50V,5.OA)
2.6 実験結果の評価
(1)アーク温度
分光2線強度比法で2つのスペクトル強度の測定誤差が計算したアーク温度に
与える影響を検討するため、Cu電極対,P d電極対,Ag電極対における測定
したスペクトル強度比とアーク温度の関係およびスペクトル強度比が±10%の誤
差を含むと仮定した場合のアーク温度の誤差幅を図2−33に示す。なお、計算結果
は各電極について本研究で得られる温度の範囲内で示し、Ag電極対の温度につ
いては、数万Xに達する可能性が出たため約30000Kまで計算した。
例えば、Cu電極対では5500Kのとき←壬三喜Eであり、P d電極対では6000Kのと
き・133正であり、他の温度においても測定誤差はほぼ一定である。Ag電極対で
は5500Kのとき誹等臣であり、他の電極より測定誤差は大きい。以上の結果から、
Ag電極対では、スペクトル強度が弱く、特に高温になると測定誤差は大きくな
る。
3種類の分光計測システムで測定した結果の整合性を確認するためアーク長34
0∼350〟mの陰極近傍の平均アーク温度をまとめると表2−3のようになる。測定時
期と陰極近傍の測定場所および時間変動を考慮するといずれも妥当な温度と考え
られる。
ー 66 −
1.5
0.5 1.0
スペクトル強度比(Ⅰ465〝515)
51.0 3.0
5.0
スペクトル強度比0447〝540)
田)Pdアーク
(A)Cuアーク
冊 冊
︵邑こ竺曙へIh
00
05 0.1 0.2
0.3
スペクトル強度比0421〝547)
(C)Agアーク
図2−33 スペクトル強度比とアーク温度の関係
表 2−3 平均アーク温度の測定結果
測 定 シ ス テ ム
マ ル チ チ ャネ ル
分 光 計 測 シス テ ム
陰 極 近 傍 の 平 均 ア ー ク 温 度
3 .3 A 5 4 0 5 K (3 5 0 〟 m /5 0 0 〟 m ), 5 2 1 6 K (消 滅 時 )
′
′ 5 4 7 9 K (3 5 0 〟 m /5 5 0 〟 m ), 5 3 5 0 K ( ′
′ )
(陰 極 近 傍 )
5 .O A 5 4 5 4 K (3 5 0 〟 m /6 5 0 〟 m ), 5 2 8 5 K ( ′
′ )
ア ー ク柱 軸 方 向 に 沿 った
3 .3 A 5 5 0 0 K (3 3 0 〟 m /4 2 0 〟 m )
2 ス ペ ク トル 強 度 分 布
観 測 シ ス テ ム
′
′ 5 4 5 2 K (3 5 0 〟 m /4 2 0 〟 m )
5 .O A 5 4 4 5 K (3 4 0 〟 m /5 2 0 〟 m )
(陰 極 か ら 3 7 .2 〟 m )
ア ー ク柱 断 面 内の
5 .O A 5 2 8 0 K (3 4 0 〟 m /6 0 0 〟 m ), 5 2 2 0 K (消 滅 時 )
2 ス ペ ク トル 強 度 分 布
′
′ 5 2 3 0 K ( ′
′ ), 5 3 3 0 K ( ′
′ )
観 測 シ ステ ム
′
′ 5 2 0 0 K ( ′
′ ), 5 1 8 0 K ( ′
′ )
(陰 極 か ら 4 0 〟 m 以 内 )
*()内の数字は(測定時のアーク長/消滅時のアーク長)を表す
− 67 −
大気中で間隙の距離が一定のC u電極におけるアーク温度は多くの研究者によ
って確かめられている。そこで本研究のアーク温度と金属蒸気量を他の研究と比
較することにより、測定したアーク温度と金属蒸気量の正確さについて検討する。
過去におけるC uアークの温度の測定結果を表2−4に示す。
アーク柱の測定部分を明確にしている宮地ら[14]は電極間隙長10mm,アーク電
流DC5Aでアーク柱の中心軸上において陰極点の温度6440X,アーク柱中央部の温度
5480K,陽極点の温度6410Xであり、アーク柱全体の平均温度が5180Kであると報告
している。
中桶[15]は電極間隙長5mm一定,アーク電流DC5Aでアーク柱の中心軸上にお
いて典型的な2例のC uアークの分光写真像から陰極点6380Kと6300K,アーク柱
中央5290Kと5090X,陽極点6460Kと5600Xであり、アーク柱全体の平均温度が5150K
と4990Kであると報告している。
C.H.Corlissら[16]は電極間隙長3mm,アーク電流DClOAのアーク柱全体の平均
温度が5100±110Kであると報告している。
図2−14のアーク柱全体のスペクトル強度(投影像)から平均アーク温度を計算す
ると3.3Aの場合4回目で5418Xと15回目で5122Kであり、5.OAの場合 5056Kと4949
Kであり、C.H.Corlissに近い値になった。また、図2−26の陰極近傍におけるアーク
柱断面内の測定スペクトル強度の総量から平均アーク温度を計算した結果を図2−
30に破線で示す。図2−30の放電後期の平均アーク温度は3.3Aの時5260Kであり5.O
Aの時5137Kであり、宮地ら[14]やCorliss[16]に近い値になった。
アーク放電を発生させる実験条件や測定場所(アーク全体,陰極近傍,アーク柱
中央,陽極近傍など)の違いがあるので、得られた結果は他の文献の測定値と異な
ることが考えられる。また、分光2線強度比法での誤差要因としてはg。A。m値の
不正確などが考えられアーク温度の絶対値に影響を与えている可能性がある。し
かし、電流や間隙長の違いやアーク柱の測定部分を考慮すると本装置で測定した
アーク温度は妥当な結果と考えられる。
アーク柱軸方向に沿ったアーク温度の分布に関しては、宮地ら[14]は陰極側よ
り段々弱くなり、陽極側で多少強くなると述べており、この特徴は筆者らの結果
と似ていた。
また、アーク温度の時間変化に関しては、中島ら[40]は電源電圧DCllOV、アー
ク電流10Aの開離時におけるC uW合金接点のアーク温度を調べたところ 時間経
ー 68 −
表2−4Cu電極におけるアーク温度
温 度
No.雰囲 気 発生場所 回路電圧 電流
1 大気 中 固定電極 DC lOA
5100±110K
間隙 3mm
方 法
参考文献
分光器 一分光写真
C.H.Corliss
16]
−フ ォ トミクロメー タ (1962)[
2
大 気中 固定電極 DC 5A
10mm
アー ク柱 中央
6350K
陰極近傍
635rO K
陽極近傍
6700K
分光器 一光電子増倍管 宮地,鬼頭,
分光 2 線強度比法
岡田 (
1967)
(
Abel変換)
[14]
3
大気 中 固定 電極 DC 3∼9A
3∼8mm
間隙 5mm
アー ク柱中央
4600K
陰極近傍
分光器一回転鏡
ー光電子増倍管
(
Abel変換)
4
大 気中 開離時
5
大 気中 固定電極 DC 5A
3mm
陰極近傍
AC 440V,
18200K
1100A
(lms一定 ) アー ク柱 中央
22500K
陽極近傍
21000K
アー ク柱 中央
5290
∼5090K
陰極近傍
5600
平 野,堤,杉本
(
1971)[1]
分光器一分光写 真
P.G.Slade,E.
−フ ォ トミクロメー タ Schulz−Gulde
(1973)[17]
分光 多線強 度比法
(
Abel変換 )
(
N Ⅱ444.
7nm,
NⅡ463.Onm)
中桶 (1978)
分光器 一分光 写真
−フ ォ トミクロメー タ [15]
分光 2 線強度比法
(
Abe l変換)
∼6380K
陽極近傍
5600
∼6460K
6
大気 中 開離時
14cm/S
アー ク柱 中心
DC 90V,
5∼40A 陰極近 傍
5A 7500K
20A 12500K
アー ク柱中央
5A 8500K
7
大気 中 開離時
10mm/S
DC 50V, 10A
回転鏡−プ リズ ム
ー光電子増倍管
(
Abel変換)
放電後半ほ ど マルチ チ ャネル分光
器−CCDリニアイメーシやセン
サ
低下
開離40ms以降 分光多線強度 比法
5000±500K
一 69 −
N.Voge l,
Z.
Kolacinsk i
(
1987)[
42]
窪野,鈴木
(1998)[41]
過に伴い低下するという結果があり、本装置の測定結果と傾向が一致した。また、
窪野ら[41]もC u電極でDC 50V,10Aの回路を遮断した時の開離時アークの温度を
調べた所、放電後半ほど温度は低下する傾向があり、本研究の測定結果の傾向は
一致した。
アーク柱断面内の温度分布に関する興味深い研究として V.Vogelら[42]の研究
がある。彼らはC u電極でDC90V/5Aの回路を遮断した際の開離時アークで陰極近
傍のアーク柱断面内の半径方向の温度分布を測定して、40〟m以下のアーク柱中心
部分に8000Kの高温領域を持ち、その周辺部は6000∼7000ほで減少することを指
摘している。V.Vogelらの測定した温度分布は図2−29の結果と似ている。
(2)金属蒸気量
図2−16と図2−17から、各電極近傍では温度は高く、電極が蒸発しているのにも
かかわらずアーク柱内の金属蒸気量は少ない。金属蒸気がアーク柱中央部に多く
分布する傾向は宮地ら[14]と同様である。金属蒸気量がアーク柱の中央部で多い
理由としては、両電極近傍では蒸発原子と電子の衝突で励起や電離が激しく起こ
っているため、あるいは、蒸発原子の速度は電極近傍で速く、アーク柱軸方向の
中央部に達するころには多数回の衝突で減速されているためと考えられる。
図2−31に示すように、陰極近傍のアーク柱断面内の金属蒸気密度の分布は、放
電初期には、アーク柱中心軸付近の温度が高く、電離や励起が激しいため、アー
ク柱中心軸付近の金属蒸気量は少ない。放電後期には、アーク柱中心軸付近の温
度は低くなり、アーク柱断面内の金属蒸気密度の分布は均一になると考えられる。
一 70 −
2.7 高速度カラービデオによる開離時アーク像の撮影
開離時アークの研究において、アーク像全体の発光スペクトル強度分布を連続
的に観測することが必要である。しかしながら、開離時アークの現象は短時間に
発生する過渡現蒙であり、アーク像全体の連続的な観測は容易ではない。
一方、近年のエレクトロニクスの発展に伴い画像計測の技術も進歩し、高速度
現蒙を観察する手段として高速度カメラや高速度ビデオがある。
糸山ら[43][44]は高速度カメラを用いて5,000frame/Sで開離時アークを撮影し、
撮影されたアーク像の解析によって陽極点の面積を推定し、陽極点の電流密度の
時間変化を求めた。上田ら[45]は 高速度ビデオを用いて13,500frame/SでA g系
接点(Ag,AgSnO2,AgCdO)の開離時アークの挙動を測定し、各接点材料に対する
アーク移動特性を分析した。
本研究ではアーク柱軸方向に沿ったスペクトル強度分布観測システムやアーク
柱断面内の2スペクトル強度分布観測システムで測定した結果の妥当性を評価す
るため高速度カラービデオで観測した結果を示す。
本節では、高速度カラービデオを用いてC u電極対の開離時アークを観測する
方法を説明し、C u開離時アークの観測結果を示す。そして、分光計測システム
で得られる結果の検証を行う。
2.7.1実験方法
観測装置の構成を図2−34に示す。高速度カラービデオは等速電極開離装置に搭
図2−34 高速度カラービデオ観測装置の構成
ー 71 −
載の試料電極対を水平側面から観測できる。なお、試料電極の位置を明らかにす
るため試料電極に対して高速度カラービデオと反対の位置にバックライトを配置
してある。
実験条件は表2−1と同じで、本節における試料電極対はC u電極である。
(1)高速度カラービデオ
高速度カラービデオはHSV−400(㈱ナック)である。この高速度カラービデオは
プランピコン撮像管を使用しているので、高画質で残像の少ない画像が得られる。
画像はビデオテープに記録される。
高速度カラービデオによる開離時アークの撮影では陰極近傍に強い輝点が観測
される。文献[46]によるとパルス色素レーザによる測定で、約150Aの真空C uア
ークの陰極点の長さは5∼10〟mであり、本研究で測定される陰極近傍に発生する
輝点は陰極面よりかなり離れているので、陰極点とは区別して陰極輝点と呼ぶこ
とにする。
開離時アークの陰極点は高速で移動する可能性があり[46][47]、それに伴って
陰極近傍の陰極輝点も移動する。そこで、陰極輝点のプレのない鮮明な画像を捕
らえるためメカニカルシャッターを用いて露光時間(最短100〟S)を短くする。メ
カニカルシャッターを用いて 露出時間を100〃Sにすると 記録速度と露出時間の
関係は図2−35のようになり、記録される開離時アークの像は100〟Sの間のアーク
光の蓄積となる。
し
2.
5m s J
「
1
Recordin g SPeed
l
(
Fm m e)
2
図2−35 記録速度と露光時間の関係
− 72 −
3
高速度ビデオの設定を表2−5に示す。
表2−5 高速度ビデオの設定値
記 録 媒 体
ビ デ オテ ー プ
記 録 時 間
最 大 3 6 m in .
記 録 速 度
2 .5 m s /f r a m e (4 0 0 fr a m e /s e c )
(測 定 間 隔 )
露 出 時 間
10 0 〟 S (メ カ ニ カ ル シ ャ ッ タ ー )
(2)光学丞
図2−34のように集光レンズの前には図2t36の追加フィルタを装着する。この追
加フィルタにより、C u電極では529nm付近のC u中性原子スペクトル、P d電極
では554nm付近のP d中性原子スペクトル、A g電極ではA g中性原子スペクトル
AgI547nm[11]と、バックライト光のみ透過する。
バックライトを点灯又は消灯した場合の高.速度カラービデオによって撮像した
A g開離時アークのスペクトル像を図2−37に示す。バックライトを点灯すると電
極のシルエットおよびバックライト光に重畳したAgスペクトル(AgI547nm)を
観測できる。バックライトを消灯するとAgスペクトルのみの強度分布を観測で
きる。
図2−36 追加フィルタの分光特性
− 73 −
C e n te r (
U
U
C
(
勺
+
J
.
巴
▼
‘
【
コ
(
‡
ゴ
日
.
■
Jコ
∽
〉
_ 辛le呼h
of c o n tact 只
C e n te r o f
c ath o d e
gh te n ln g Sp O t
(Stati。諾濫読.▲▲(M。霊冨思慕)
(A)Withbacklight
Cathodebrighteningspot
D ark positive
A rc le ngth
「
COlumn
レ望む∈再責
昌一Length
(B)Withoutbacklight
図2−37 A g開離時アークのアーク像(Ag,DC 50V,3.3A)
2.7.2 実験結果および考察
高速度カラービデオに図2−36の追加フィルタを装着して、電源電圧DC 50V,通
電電流3.3AをC u電極で遮断したときの放電回数12回目における中性原子スペ
クトルを測定した結果を図2−38に示す。図2−14と同様に図2−38でも陽極輝点が発
生していることが確認できる。
陽極輝点の発生は、放電回数が多くなると発生していることから、陽極面に付
着したブラックパウダの生成により電極の表面が変化し[46][47]、陽極輝点が生
成し易くなると考えられる。詳細については今後の研究に委ねることにする。
− 74 −
l
Cn
一、1
l
40(ms)
図2−38高速度カラービデオによるCu開離時アークの観測結果
(Cu,DC50V,3.3A,放電回数12回目)
Time(10ms/div)
∵・!・一三■●●千一 ̄?竿一一?_三上■●?●一弓子■−●〒∴
︵八竜き01︶
乱雲lO>Uhd
2.8 おわりに
第2章では開離時アークの分光計測のため開発した3種類の分光計測システム
の説明を行った。
3種類の分光計測システムの特徴は以下のようである。
1.マルチチャネル分光計測システム
(1)複数のスペクトル強度の同時観測が可能(周波数範囲;380∼900nm)
(2)スペクトル強度の時間変化の測定が可能
(走査時間5ms/scan(最短2ms/scan),最大70ms)
(3)アーク温度と金属蒸気密度の算定が可能
2.アーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布観測システム
(1)分光器を使用せずC C Dカラーカメラと追加フィルタを用いた簡単なシス
テム
(2)C C Dカラーエリアイメージセンサと追加フィルタの組み合わせによりア
ーク柱の軸方向に沿った2スペクトル強度の同時観測が可能
(3)A b el変換によりスペクトル強度の空間分布測定が可能
(4)スペクトル強度の時間変化の測定が可能(走査時間;16.7ms/scan)
(5)アーク温度と金属蒸気密度の算定が可能
3.アーク柱断面内の2スペクトル強度分布観測システム
(1)分光器を使用せずC C Dカラーリニアイメージセンサと追加フィルタを用
いた簡単なシステム
(2)C C Dカラーリニアイメージセンサと追加フィルタの組み合わせによりア
ーク柱断面内の2スペクトル強度の同時観測が可能
(3)再構成法によりスペクトル強度の空間分布の測定が可能
(4)スペクトル強度の時間変化の測定が可能(走査時間;2ms/scan,最大60ms)
(5)アーク温度と金属蒸気密度の算定が可能
本研究で開発した分光計測システムを用いて電源電圧DC 50V,通電電流2.5∼5.
OAの回路をC u電極対で遮断した時の開離時アークの測定結果を示した。そして、
過去の研究結果と比較することによりその妥当性を評価し、これら分光計測シス
テムが電気接点の開離時アークの分光計測に有効であることを実証した。
− 76 −
第2章の参考文献
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of
spectroscopicintensityin
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Ag
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to
arc
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and
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king
arc
by
using
a
CCD
color
camera
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ー 78 −
an
additional
filter,”proc.
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On
Of
contact
netal
and
exposure
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organic
Phys.,VOl.48,nO.1,pp.104−109,Jan.1977.
ー 80 −
contaminants,”J.Appl.
第3章 マルチチャネル分光計測システムによる観測
3.1 はじめに
接点性能を評価する場合、アーク継続時間は接点の消耗・転移の量や接触抵抗
の変動と関連深いため良く測定される。
本章では最初に、P d電極対とA g電極対とA g P d合金電極対の開離時アp
クの継続時間を測定する。その結果、A g電極対とAgPd合金電極対では同一遮断
電流の開離時アークにおいても電極の合金組成によってアーク継続時間の長い場
合(長時間アーク)と短い場合(短時間アーク)がランダムに出現し、アーク継続時
間は合金組成に依存することを示す。
次に、マルチチャネル分光計測システム[1]を用いてP d電極対とA g電極対と
AgPd合金電極対における開離時アークを計測した結果を示し、考察を行う。
そして、長時間アークの発光スペクトル強度およびアーク温度の時間変化を求
めて金属蒸気量の観点からアーク継続時間と合金組成の関係を考察する[2][3]。
3.2 実験条件
実験条件は表2−1と同じであり、表3−1の電極対の開離時アークの継続時間を測
定する。その後、図2−4のマルチチャネル分光計測システムで観測する。
表3−1電極材料
材
料
名
組
成
パ ラジウム (
Pd )
99.95%以 上
銀(
Ag )
99 .95%以 上
銀パ ラ ジウム合金
(
AgPd )
Ag/Pd lOY t%,
Ag/Pd3 0Y t%
Ag/Pd50Y t%,
Ag/Pd6 0Y t%
Ag/Pd70Y t%
− 81 −
3.3 開離時アークの継続時間
開離時アークの特性を検討する場合、その特性を表す量としてアーク放電の継
続時間が測定される。それは、アーク継続時間が消耗・転移の量[4][5]や接触抵
抗の変動[5][6]と関連が深いためである。
アーク継続時間の測定には、オシロスコープを使いアーク電圧波形より求める
方法[4][7]や、接点間の電圧と電流の積がアーク放電の有無によって大きく変動
することに着目し、乗算器とコンパレ一夕とパルス発振器とAND回路を組み合わせ
てアーク継続時間を計測する方法もある[8][9]。
3.3.1実験方法
本実験ではアーク電圧(電極間電圧)及びアーク電流(回路電流)の積をとり、積
の大小でアーク放電の有無を判定し、アーク放電の継続時間を測定する[10]。ア
ーク継続時間測定装置のブロック図を図3−1に示す。実験条件は表2−1と同じであ
るが、遮断電流は2.0∼5.OAの範囲である。
図3−1アーク継続時間測定装置のブロック図
3.3.2 P d開離時アーク
P d電極対で遮断電流2.OA∼5.OAの範囲の1000回の開閉動作における放電回数
と開離時アークの継続時間の関係を図3−2に、遮断電流とアーク継続時間の関係を
図3−3に示す。
P d電極の開離時アークの継続時問はA g電極のそれらの約1/4と短く、ばらつ
きも大きい。この測定結果は文献[4]と一致する。そして、図3−3から分かるよう
に遮断電流が小さいほどアーク継続時間は短くなる。
一 82 −
●.
嶺責室料..
● ■●
●●
・、●●..・::二・′:‥・!●、− こ‥‥JJJ t:・・・い・
_ヾ●∫・ヽ ′・l・・:.・・T..ノ.・∫●さ.1.●.・
●
ヾ
.
.
.
20
●∴
●
二言十・二・言辛予圭戸雪景
●
言:ヽ:1:・・.・..・・
●
●
−.●
●
・・ノー●・三一 一●●
● ● − ● ● ●
●
︵∽∈︶uO焉hコpUh<
■■′−〆′ ●●●● ●●
●●
− ■■
● ●●● ● ● ● ●
● ヽ
√●●● ∼● 暮●●、・
ヽ′シ・・二・・.ふ′、●こ′r
●●一 ●● ●
●∴工●二.豆
● ●● ●
●● ヽこ .
ミ ●●.ヽ
●●
ヽ ● ●
● ●
500
1000
Numberofoperations
図3−2 P d開離時アークの継続時間(DC50V,5.OA)
︵S旦百〇で円ヨpU白む浮︼空々
図3−3 P d開離時アークの遮断電流とアーク継続時間の関係(DC50V)
3.3.3 A g開離時アーク
A g電極対で遮断電流1.25A∼5.OAの範囲の1000回の開閉動作における放電回
数とアーク継続時間の関係を図3−4に、遮断電流とアーク継続時間の関係を図3−5
に示す。
図3−5から分かるように、遮断電流が小さいほどアーク継続時間は短くなり、図
3−4から分かるように、遮断電流が2.7A以下では、アーク継続時間は”長時間アー
ク”と”短時間アーク”に2分化する。なお、図5−2中の()内の数字は長時間アー
クと短時間アークの発生頻度を示す。
同様な結果が高木ら[4]によっても指摘されている。また石田ら[11]もA g電極
対で電源電圧DC48V、遮断電流4A、開離速度10mm/Sの実験条件下で、アーク継続
ー 83 −
時間が約50msと約10msに2分化することを報告している。
I.ongarCduration
0
︵sE︶uj扇ヨpヒ4
準._.こ...鱒畔..− ‥章一‥・.輔
津軽輿や勲●叛苺●攣粟だ:チ…ミ●
● ヽ ● ● ● ●
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∴● ン・∴・・・●・∴・,1●こ・∴含::.ヽ:・万:、.J
●● ●
0
三・和衷義範建折単軸師肺嘲殆
500
1㈱
l
500
1㈱ 1
Numberofoperations
Numberofoperations
(C)Ⅰ=2.5A
(A)Ⅰ=5.OA
5
0
●● ● ● ●●● ∫● ●● ●
ヽr ◆
︵SE︶uj扇ヨpヒく
轡.空車撃.、撃琴錦聖.頭部や撃●
0二一・・一‥一・・・・‥二・・・亭・一二 一一・・
1 500
Numberofoperations
500
Numberofoperations
1(X氾
の)Ⅰ=2.OA
(B)Ⅰ=3.3A
図3−4 A g開離時アークの継続時間(Ag,DC 50V)
勤
︵S己︶百〇で円ヨpg心労︼む名
図3−5 A g開離時アークの遮断電流とアーク継続時間の関係(DC 50V)
ー 84 −
3.3.4 A g P d合金開離時アーク
Ag/Pd50Yt%電極について1000回の開離動作に対して各回のアーク継続時間を測
定した例を図3−6に示す。A g電極の開離時アークと同じように アーク継続時間
は2分化するが、A g電極の場合と違い遮断電流5.OAでも2分化は発生する。図3
−7では平均アーク継続時間と合金組成の関係を長時間アークと短時間アークに分
けて表わす。
図3−7からA g電極対とAgPd合金電極対でアーク継続時間の2分化が発生し、遮
断電流が大きいほど長時間アークの発生頻度が増加することが分かる。さらに長
時間アークの継続時間は遮断電流が大きいほど長く、また合金の組成に依存して
いてAg/Pd50Yt%電極で最も長い。
一万、1mm¢の棒状対向型の電極で電源電圧DC 48V,遮断電流4Aの回路を開離
速度10mm/Sで遮断する石田ら[11]の実験においては、アーク継続時間の2分化が
A g電極のみに発生し、Ag/PdlOYt%電極でアーク継続時間が最も長くなり、図3−7
の結果とは違った。そこで、本研究でも1mm¢棒状対向型電極で開離時アークを
測定したところ、文献[2]に示すようにAg/Pd10Yt%電極でのアーク継続時間が最も
長く、文献[11]の結果と一致した。すなわち、AgPd合金電極でのアーク継続時間
には電極の形状(直径)が影響していると考えられる。電極の形状の違いがアーク
継続時間に与える影響としては、アーク発生に伴う接点の熱的要因が考えられる
[12][13][14]が、詳細は今後の研究に委ねる。
● _ _ ヽ
● ヽ
. ● ● 一
J ∼
■ヽ
◆ ●
.′
■●
く,
●●
.
●
.、,●
∵・ン.
● ●l ● ▲
●’●●、●
ヽ●
▼●●
l
◆●●→●
●◆▲t●
.●−1
..7、
. ヽヽ
●暮
●、
′.′1.
一 ●●
●′
− ◆ ● ● ●
● . ● . T . ∵
′●●●
●◆ ●l ●ヽ
● ′ ● ●
● ● ■
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ヽ、 ●●
● ′ ● こ ヽ
..い↓
ヂ● ・..
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● ヽ ● ◆ ● 、 ●
ノ.ヽ●・’・
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100
一 ● ヽ ● ●
︳ ●●
︵sE︶uO⋮Jgコpヒ亘
Longarcduration
●●●
Shortarcduration
● ● ●ヽ ●● ●● ● ●● ●●
◆●●ヽ● ●■
ぷ錆癖圭南霜準癖箪声ざ;
● ●
声00
1000
Numberofoperations
図3−6 AgPd合金電極のアpク継続時間の測定
(Ag/Pd50Yt%,DC 50V,3.3A,1000回)
− 85 −
︵sE︶uO⋮JgコpU岳亀巴だ4
010 30 506070
Pd(wt%)
(C)Ⅰ=5.OA
図3−7 AgPd合金電極のアーク継続時間とP d含有率の関係(DC 50V)
ー 86 −
3.4 P d電極対とAg電極対での開離時アークの特性
3.4.1実験方法
電源電圧DC 50V,通電電流3.3と5.OAの回路をP d電極対とA g電極対で遮断し
た際発生する開離時アークの発光スペクトル強度分布を 図2−4のマルチチャネル
分光計測システム[1]で測定し、アーク温度を計算する。測定間隔は5msである。
3.4.2 発光スペクトル強度の分布
波長範囲 380nm∼900nmにおける発光スペクトル強度の測定結果を図3−9と図3−
10に示す。P d開離時アークでは強度の強い中性原子スペクトルが多数存在する
が、A g開離時アークでは強度の強いスペクトルが少なく、放電初期にはスペク
トル強度が弱い[1][15][16]。
3.4.3 アーク温度
P d開離時アークとA g開離時アークのボルツマンプロットを描く と図3−11と
図3−12のようになる。図3−11と図3−12のプロットした点はほぼ直線に載っている
ので直線の傾きからアーク温度を計算すると、P d開離時アークの温度は放電開
始後30−35msの期間の平均温度は約5812Kである。
アーク温度の時間変化を図3−13に示す。 P d開離時アークの温度は遮断電流3.
3Aと5.OAの両方とも5750∼6100Kであり、C u開離時アpクに較べ温度は高く、温
度の時間変化は小さい。
A g電極では放電初期にはスペクトル強度が弱いため、スペクトル強度が強く
なる放電中期以降のアーク温度しか測定できなかった。その結果、放電中期では
遮断電流3.3Aの場合5200∼5400K、遮断電流5.OAの場合5250∼5750Kとなり、遮断
電流が高いほどアーク温度も高くなる傾向を示す。また、C u開離時アークと同
じように時間経過にともないアーク温度は低下して、放電消滅時には5050∼5300
Kであり、遮断電流による差は少ない。
ー 87 −
♂
pd389 Pd421 Pd511Pd馳0 Id5糾
●
畜
宅芹当P77刊 画寧 Pi釘
8
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書評
訂 ̄ ̄面 ̄ ̄頂 7bo 血 細
Whvelength(nm)
(A)
︵.n・色合S宕盲l
労9.
5皿
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4皿
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字
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400
▲ 500
Wavelength(nm)
600
(B)
図3−9 P d開離時アークの分光分析(Pd,DC 50V,5.OA)
書出
之/
‰正常
lI7169 118
127
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560 血
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Wavelength(nm)
(A)
、
A 当 21 肌
Aか 脚 血
︵.n.色合su莞u−
一連
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 ̄■ l
・5 d o 600
Wivelength(nm)
(B)
図3−10 A g開離時アークの分光分析(Ag,DC 50V,3.3A)
− 88 −
7
6
︵雲句。ぞ Y日。巳叫Ot
ー ー
6
Energylevel(eV)
図3−11P d開離時アークのボルツマン・プロット
(Pd,DC 50V,5.OA)
7
︵白。句。ぞ Y8亡巳ぎ︻
4
図3−12 A g開離時アークのボルツマン・プロット
(Ag,DC 50V,3.3A)
︵邑巴コ︺巴乳∈月日可
50
25
Time(ms)
図3−13 P dとA g開離時アークにおけるアpク温度の時間変化
ー 89 −
3.5 A gP d合金電極対での開離時アークの特性
3.5.1実験方法
電源電圧DC 50V,通電電流3.3と5.OAの回路をA g P d合金電極対で遮断した際
発生する開離時アークの発光スペクトル強度分布を 図2−4のマルチチャネル分光
計測システム[1]で測定し、アーク温度と金属蒸気量を計算する。測定間隔は5ms
である。
3.5.2 発光スペクトル強度の分布
AgPd合金電極では長時間アークの陰極近傍の発光スペクトル強度を測定した。
遮断電流3.3Aの場合の長時間アークのアーク電圧波形を図3−14に、分光測定結
果を図3−15に示す。P d電極については遮断電流5.OAの測定結果を図3−15に示す。
また、Ag/Pd50Yt%の場合のみAgI 521nmとAgI 547nmの発光スペクトル強度が非
常に強いため、図2−4の集光レンズの前へ50%減光フィルタ(50% neutral densi
ty filter)を取り付けて測定を行っている。
図3−15の分光測定結果では、いずれの電極材料においてもA gとP dの中性原
子スペクトルが観測されている[2][15]。
ぎ言
開
錆
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Time(10mskliv)
︵A叫≡rOZ︶
&貞OAU童
q)
l I
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!l
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Time(10ms/div)
︵A叫≡rOZ︶
監百一〇AUhq
(A)Ag(アーク継続時間:51ms)(D)Ag仲d70wt%(55ms)
I
‡
†
1
1 1 1
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l I
日
Time(10mskliv)
︵Aヨぎ
乱雲OA
(E)Pd(5.OA)(33ms)
錘
Time(10mskliv)
(C)Ag伊d50wt%(67ms)
図3−14 AgPd開離時アークの電圧波形(DC 50V,3.3A)
− 90 −
図3−15 AgPd開離時アークの分光分析
図3−16にAgI 547nmとPdI 530nmスペクトルの強度の時間変化を示す。A g電
極とAgPd合金電極のA gスペクトルとP dスペクトルの時間変化は、放電初期に
増加して、後期は一定の傾向を示している。そして、図3−16より放電後期のA g
スペクトル(AgI 547nm)の強度はAg/Pd50Yt%電極で最も強くAg/Pd30Yt%電極,Ag
− 91 −
/Pd70Yt%電極,A g電極の順に弱くなることが分かる。この結果は、図3−7の合金
組成に対するアーク継続時間の大小の順序に一致する。しかし、P dスペクトル
(PdI 530nm)の強度に関しては、放電初期ではP d電極の場合が非常に強く、放電
後期ではAg/Pd50Yt%電極,Ag/Pd70Yt%電極,Ag/Pd30Yt%電極の順にそのスペクト
ル強度が弱くなり、図3−7のアーク継続時間の大小の順序と一致しない。すなわち、
放電後期でA gスペクトルの強度が強いほど、アーク継続時間が長くなる傾向と
なる。
25
Time(ms)
(A)Agト547nmスペクトラム
25 50
Time(ms)
田)Pdト530nmスペクトラム
図3−16 AgPd開離時アークの発光スペクトル強度の時間変化
(DC 50V,3.3A)
3.5.3 アーク温度
分光多線強度比法を用いてアーク温度を計算する。AgPd開離時アークでは、A
gスペクトルに重なるP dスペクトルが多くあるため、A gスペクトルを使うと
精度良くアーク温度を計算できない。そこで、A g開離時アークではA g中性原
子スペクトル421nm,448nm,467nm,521nm,547nm,769nm,827nmを用い、P d開離時ア
ー 92 −
ークではP d中性原子スペクトル389nm,396nm,421nm,447nm,479nm,511nm,516nm,
530nm,554nm,679nmを用い、AgPd開離時アークではP dスペクトルの中でA gスペ
クトルと重なっていないP d中性原子スペクトル 389nm,396nm,479nm,511nm,516
nm,530nm,679nmの強度からアpク温度を計算することにした。遮断電流3.3Aと5.
OAの時のアーク温度の時間変化を図3−17に示す。
図3−13に示したように、A g開離時アークの温度は、放電中期には遮断電流が
大きいほど高温となり、放電消滅時には遮断電流に関係なく約5050∼5300Kである。
P d開離時アークの温度は約5750∼6100Kであり、A g開離時アークに較べ全体に
高めである。
AgPd開離時アークの温度に関しては、放電初期にはAg/Pd30Yt%とAg/Pd50Yt%電
極の温度は約6000Kまで上昇するが、Ag/Pd70Yt%電極の温度は5100∼5700Kである。
そして、放電後期のAgPd開離時アークの温度は遮断電流3.3Aのとき約5000∼5300
K、遮断電流5.OAのとき約5250∼5750Kとなり、これらの温度はA g開離時アーク
に近い温度である。
︵邑賀一︺已乳EU︺眉
︵温む旨︺已乱∈霊屋
図3−17 アーク温度の時間変化(DC50V)
− 93 −
3.5.4 金属蒸気量
測定した発光スペクトル強度とアーク温度からA g原子とP d原子の蒸気量を
計算してそれぞれの最大値で正規化した結果を図3−18に示す。
A gの蒸気量はA g電極とAgPd合金電極において放電中期に増加し、放電後期
には時間経過に対して一定量の傾向を示している。P dの蒸気量は、P d電極で
は放電初期に多量に存在して放電後期には減少するが、AgPd合金電極ではA gの
蒸気量と同様に放電中期に増加して放電後期には時間経過に対して一定量の傾向
を示している。A g原子の蒸気量はA gスペクトルの強度と同様にAg/Pd50Yt%電
極で最も多くAg/Pd30Yt%電極,Ag/Pd70Yt%電極,A g電極の順に少なくなり、合
金組成に対するアーク継続時間の大小の順序に一致する。しかしながら、P d原
子の蒸気量はAg/Pd70Yt%電極で最も多く、アーク継続時間の大小の順序に一致し
ていない。
上記ことから、アーク継続時間は放電後期のA g原子の蒸気量に依存している
0 5
0
︵.n.j色盲望bhOdぎー召呂こぞ
と考えられる。
25 Time(ms)50
︵.n.ja召ヨbhOd空二項ち己pd
(A)Agの蒸気量
図3−18 AgPd開離時アpクの金属蒸気量の時間変化(DC 50V,3.3A)
ー 94 −
3.6 おわりに
電源電圧DC50V・通電電流3・3Aと5・OAの回路をPd電極対とAg電極対とAg
Pd合金電極対で遮断する際に発生する開離時アークのスペクトル強度を測定し、
そのスペクトル強度からアーク温度と金属蒸気量を計算した。その結果、次のよ
うな知見を得た。
(1)P d開離時アークの陰極近傍の平均アーク温度は、遮断電流に関係なく57
50∼6100Kとなる。
(2)Ag開離時アークの陰極近傍の平均アーク温度は、放電中期には遮断電流
3・3Aの時5200∼5400K、5.OAの時5250∼5750Kであり、遮断電流が高いほど平
均アーク温度も高くなる傾向がある。放電消滅時の平均アーク温度は遮断電
流に関係なく5050∼5300Kである。
(3)AgPd合金電極対の陰極近傍の平均アーク温度は、いずれの合金電極におい
ても放電初期には高温であるが、放電後期には低下し、合金組成による差は
少なく、A g開離時アークの温度に近い。
(4)P d電極対の蒸気量は放電初期に多く、その後減少するが、A g電極対お
よびAgPd合金電極対のP d原子とA g原子の蒸気量は放電中期に増加し、放
電後期には一定となる傾向を示す。
AgPd合金電極対では、アーク継続時間は放電後期のA g原子の蒸気量の増
加により長くなると考えられる。
− 95 −
第3章の参考文献
[1]竹内満,窪野隆能,”マルチチャネル分光計測システム(MSHS)とその接点開離
時アークの温度測定への応用,”信学論(C−Ⅱ),VOl.J79−C−Ⅱ,nO.9,pp.483
−489,Sep.1996.
[2]竹内満,窪野隆能,”AgPd合金接点における開離時アークのアーク継続時間と
発光スペクトルの関係,”信学論(C−Ⅱ),VOl.J79−C−Ⅱ,nO.11,pp.588−594,Nov.
1996.
[3]竹内満,窪野隆能,”AgPd合金接点における開離時アークの金属蒸気に関する
研究,”信学論(C−Ⅱ),VOl.J80−C−Ⅱ,nO.11,pp.370−377,Nov.1997.
[4]T.Takagi
Due
to
Arc
and
for
H.Inoue,’’Distribution
Ag,Cu
and
Pd
of
Arc
Contacts”,IEEE
Duration
and
Material
Year
Trans,CHMT−2,nO.1,pp.
20−24,March1979.
[5]陳専科,沢孝一郎,”材料転移と接触抵抗のアーク継続時間への依存性に関する
研究,”信学論(C−Ⅱ),VOl.J79−C−Ⅱ,nO.7,pp.349−357,June1996.
[6]長谷川誠,沢孝一郎,’’A g接点の接触抵抗特性に及ぼす定常アークの影響,”信
学論(C−Ⅱ),VOl.J73−C−Ⅱ,nO.2,pp.81−90,Feb.1990.
[7]T.Takagi,”Variation of arc duration of electric contacts due to
COntrOllable
atmospheric
condition”,IEEE
Trans.CHMT−8,nO.1,pp.29−
33,March1985.
[8]T.Kubono,”A method of measuring the duration of arc discharge supp−
1ied
Yith
AC
and
DC
poYer
SOurCe,”IEEE
Trans.Instr.and
Meas.,VOl.
26,pP.389−391,Dec.1977.
[9]窪野隆能,生原秀幸,”スイッチングアークの継続時間とエネルギーとの同時
測定装置と一実験例”,信学論(C),VOl.J61−C,nO.8,pp504−509,Aug.1978.
[10]竹内満,窪野隆能,”開離接点のアーク継続時間測定,”信学技法,EMD93−86,
Pp.19−25,Feb.1994.
[11]石田広幸,曽根秀昭,高木相,”Ag−Pd合金接点の開離時アーク継続時間と消耗
・転移量への材料混合比依存性に関する実験,”電学論(A),VOl.110−A,nO.8,
pp.505−514,Aug.1990.
[12]佐藤友彦,石田広幸,曽根秀昭,越後宏,高木相,”コンタクトのアーク現象に
ー 96 −
扮軒抄Y ノノ
及ぼすホルダ放熱の影響に関する実験的検討,”信学論(C),VOl.J69−C,nO.4,
pp.457−462,Apri11986.
[13]石田広幸,曽根秀昭,越後宏,高木相,”pd,Pt接点のアーク継続時間に及ぼす
熱的要因の検討,”電学論(A),VOl.106−A,nO.5,pp.9−15,May1986.
[14]窪野隆能,奥村貴宏,”開離時アークの放電後期における光強度急増現象に関
する実験的検討,”信学論C−Ⅱ,VOl.J75−C−Ⅱ,nO.6,pp253−259,June1992.
[15]佐藤公則,曽根秀昭,長澤庸二,高木相,”分光測定によるAg,Pdおよびその合金
コンタクトのアーク放電の解析,”信学論(C−Ⅱ),VOl.J73−C−Ⅱ,nO.10,pp.596
−603,Oct.1990.
[16]W.F.Meggers,C.H.Corliss,and B.F.Scribner,”Tables of spectra1−
1inesintensities”,N.B.S.Monograph 32 partl,1961.
ー 97 −
第4章 アーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布
の観測
4.1 はじめに
本章では、アーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布観測システム[1]を用
いてP d電極対とA g電極対[1]とAgPd合金電極対[2]における開離時アークを分
光計測して、開離時アークの温度と金属蒸気量の特性を明らかにする。
4.2 実験条件
実験条件は表2−1と同じであり、表3−1のP d電極対とA g電極対とA g P d電
極対の開離時アークを図2−10のアーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布観
測システムで観測する。
4.3 P d電極対での開離時アークの特性
4.3.1実験方法
(1)測定スペクトルの選択
図2−10のようにC C Dカラーカメラの集光レンズの前へ追加フィルタを取り付
けることにより青色と緑色の各領域に1本のP dスペクトルだけを抽出できるよ
うに2スペクトルを選択する。図3−9のP d開離時アークの分光計測結果から測定
対象とするスペクトルは中性原子スペクトルPdI 447nmとPdI 540nmの2スペク
トルとする。この2本のスペクトルは図3−11のボルツマンプロットに載っている
ことから、この2スペクトルの組み合わせは分光2線強度比法に利用できる。追
加フィルタとしてはこれらの2スペクトルを同時に抽出するため、図4−1の分光特
性を示す追加フィルタを用いる。
ー 98 −
0
︵芭sh茎警告〇三ppごOUUu3七ESu巴↑
︵芭□UU−○倉A雲SUUSUA焉tU出
図4−1c cDカラーエリアイメージセンサと追加フィルタの分光特性
(2)感度校正
PdI447nmとPdI540nmスペクトルに対する追加フィルタを装着したC CDカ
ラーカメラからの出力電圧の感度の校正については2.4.1−(5)項の方法で行っ
た。CCDカラーカメラで撮像した時の出力電圧に対する1メッシュ(18.6〟mX
25LLm)当たりの絶対分光感度はPdI447nmスペクトルで0.0234nW/V、PdI540nm
スペクトルで0.1032nW/Vである。
(3)アーク温
出
P d開離時アークが局所的熱平衡状態にあると仮定して、分光2線強度比法を
用いて式(4−1)よりアーク温度を計算する。
5040(En447nn−En540nm)
gnAnm447。m A447。m I,147。.n
)−log(
gnA。m540。m
)−log(
A54Onm
I54。nm
15221
(4−1)
IH7
2.2776+log(−)
Ⅰ540
またアーク温度とスペクトル強度を式(2−8)に代入することで被測定場所のP d
蒸気密度Noを計算でき、さらに金属蒸気量が計算できる。
− 99 −
4.3.2 発光スペクトル強度の分布
通電電流3.3∼5.OAの回路を遮断した時の放電開始からllmsと28msにおけるアー
ク柱軸方向に沿ったスペクトル強度分布を図4」Zに示す。図4−2から陰極近傍で発
光強度が強いことが確認できる。また、遮断電流が大きいほどアーク柱の径は大
きく、スペクトル強度も強くなっている。
︵.ゴ.£﹂首S宕︺占
(b)入=540nm
(a)入=447nm
(A)Atllmsin50Vβ.3Acircuit
法百一〇>Uき﹁
︵よぎON︶
Time(10m釘div)
(a)入=447mm
雫
(b)入=540nm
@)Atllmsin50V/5.OAcircuit
(b)入=弘Onm
(a)入=447nm
(C)At28msin50V/5.OAcircuit
図4−2 アーク柱軸方向に沿った発光スペクトル強度分布(投影像)
(Pd,DC 50V)
ー 100 −
4.3.3 アーク温度について
PdI 447nmとPdI 540nmスペクトルの強度分布から分光2線強度比法を用いて
アーク温度を計算する。
C u開離時アークではアーク柱直径方向の断面における発光強度の投影像がほ
ぼ軸対称形になるので、Abel変換を用いてアーク柱断面内の発光スペクトル強度
分布を測定したが、P d開離時アークでは図4−3に示すように軸対称にならない。
そのため、図4−2の アーク柱軸方向に沿ったアーク柱断面内の発光スペクトル強
度総量の分布からアーク柱軸方向に沿ったアーク柱断面内の平均アーク温度を計
算し図4−4に示す。なお、図中()内の数字は(測定時のアーク長/消滅時のアー
ク長)を示す。
図4−4において、アーク柱軸方向に沿った平均アーク温度の分布は約5700∼6000
Kの範囲であり、アーク長が短いとアーク柱軸方向に沿った温度分布は均一である
が、アーク長が長くなると陰極近傍の温度は陽極近傍の温度より高くなる。また、
遮断電流を変えてもアーク柱軸方向に沿った平均アーク温度の変化は少ない。
図4−3 アーク柱直径方向の断面のPd卜447mmスペクトル
強度の投影像(Pd,DC 50V,5.OA)
− 101 −
巴n︸已乳∈雲U童
図4−4 アーク柱軸方向に沿った平均アーク温度(Pd,DC 50V)
4.3.4 金属蒸気量について
図4−2のアーク柱軸方向に沿った各断面内の測定スペクトル強度総量と図4−4の
平均アーク温度を用いて計算した金属蒸気量を図4−5に示す。図4−5の遮断電流5.
OAの時のアーク長110〟mと270〟mを比較するとアーク長が短い110〟mの金属蒸気
量は多い。この理由は間隙長が短く、溶融ブリッジの破壊時の金属蒸気がまだ存
在しているためと考えられる。また、5.OAのアーク長110〟mと3.3Aの120〟爪を比
較すると遮断電流が大きいほど金属蒸気量は多いことが分かる。
︵.n.帽︶倉召dnbJOdg⊥再も∑
図4−5 アーク柱軸方向に沿った金属蒸気量(Pd,DC 50V)
ー 102 −
..、・“√一㌧.
4.4 A g電極対での開離時アークの特性
4.4.1実験方法
(1)測定スペクトルの選択
A g開離時アークでは図3−10に示すように発光強度の強い中性原子スペクトル
AgI 421nmとAgI 520nmとAgI 547nmスペクトルが存在する。それぞれのスペク
トルの励起エネルギーはAgI421nmが6.72eV,AgI520nmとAgI547nmが6.04eV
である。測定される2本あるいは3本のスペクトルの励起エネルギーに大きな差
があることが必要であるため、AgI520nmとAgI547nmの組み合わせは使えない
ので、AgI 520nmを追加フィルタでカットする。その結果、C C Dカラーエリア
イメージセンサはそれ自身の青色の領域でAgI 421nm、緑色の領域でAgI 547nm
のスペクトルを撮像する。なお、赤色の領域にはA gの強いスペクトルが存在し
ないため、赤色の領域は使用しない。
これらの2つのスペクトルを同時に抽出するため、図4−6のような分光感度特性
を示す追加フィルタを用いる。
なお、文献[3]によると546.55nm付近には547.16nmスペクトル線が存在している
が、追加フィルタによる分離が不可能なため、546.55nmスペクトルは547.16nmス
ペクトルを含んでいる。文献[3]によると、547.155nmと546.55nmスペクトルの励
起エネルギーは両者とも6.04eVであるのでスペクトル強度の時間変化は似ている
はずであり、547.16nmスペクトルの強度は546.55nmスペクトルの強度の10%位なの
で、アーク温度と金属蒸気量の言十算は547.16nmスペクトルの強度を含んだまま行
った。
図4−6 c c Dカラーエリアイメージセンサと追加フィルタの分光特性
− 103 −
(2)感度校塵
AgI421nmとAgI547nmスペクトルに対する追加フィルタを装着したCCDカ
ラーカメラからの出力レベルの校正については2.4.1−(5)項の方法で行う。そ
の結果、CCDカラーカメラが撮像した時の出力電圧に対する1メッシュ(18.6〟
mX25LLm)当たりの絶対分光感度はAgI421nmスペクトルで0.053nY/V、AgI5
47nmスペクトルで0.292州/Vである。
(3)アーク
出
Ag開離時アークが局所的熱平衡状態にあると仮定して、分光2線強度比法を
用いて式(4−2)よりアーク温度を計算する。
5040(En421。n−E。5。7nm)
gnA。m421。m A。21。m I。21。m
)−10g(
トlog(
g。A。m547。m A54,nm I54,。m
−3407
(4−2)
Ⅰ421。m
O.3832+log( )
Ⅰ547。m
また、アーク温度とスペクトル強度を式(2−8)に代入することで被測定場所のA
g蒸気密度を計算でき、さらに金属蒸気量が計算できる。
本節ではAbel変換を用いアーク柱直径方向の断面内における発光スペクトル強
度の空間分布とアーク温度を計算するo Abel変換を用いるときにはアーク柱断面
内における発光強度の投影像が軸対称であることが必要である。しかし、大気中
ではなかなか軸対称にならない[4]0 そのため、今回の実験では、数回の測定で発
光スペクトル強度分布が軸対称形となったアーク柱を解析の対象とした。
4.4.2 発光スペクトルの分布
通電電流2・5∼5・OAの回路を遮断した時の放電開始から39∼41ms間のガス相ア
ークにおけるアーク柱軸方向に沿ったスペクトル強度分布(投影像)を図4−7に示
すo CCDカラーカメラからの出力信号は200ns間隔でサンプリングしてデジタ
ルメモリへ記録する0 すると、1つの開離時アークについて、記録できるアーク
像は1つである。
ー 104 −
F=つ.、トも・どこ LF ..
AgI547nmスペクトルでは陰極近傍の発光強度は強く、陽極近傍の発光強度は
弱い。しかし、AgI421nmスペクトルでは発光強度の強い部分が陰極近傍と陽極
近傍に発生している。この結果については、陽極近傍のAgI421nmスペクトルで
強度の強い部分はCN(0−1)バンドスペクトル[5]∼[7]とAgI421nmスペクトルの
和であると以下に示す理由から推測される。
︵⇒色合su忍ul
l
(A)At39.7msin50Vj2.5Acircuit
︵人草AON︶
︵.コ.£倉su忍ul
臨百一〇>U↑4
‡
「
Ti m e (
10 m s州iv)
巾)A=洪7nm
(aH=421nm
β)At39.Omsin50Vβ・3Acircuit
監百一〇>Uhd
︵之ぎON︶
︵.コ.£倉su望ul
T im e ・
(
10 m s州iv)
仲)入=547mm
(a)1=421nm
(C)At41.Omsin50Vn・OAcircuit
図4−7アーク柱軸方向に沿った発光スペクトル強度分布(投影像)
(Ag,DC 50V)
− 105 −
4.4.3 C Nバンドスペクトルの分離
図2−6にマルチチャネル分光計測システムで測定した AgI421nmスペクトル付
近を拡大したスペクトル強度分布を示した。図2−6から AgI42lnmスペクトル付
近にバンド状のスペクトルが重畳していることが分かる。このバンド状のスペク
トルが2原子分子のCNバンドスペクトルと考えられる。CNバンドスペクトル
には、CN(0−2),CN(0−1),CN(0−0),CN(1−0)があり、それぞれ460.6nn,421・
6nm,388.3nm,359.Onmの付近に存在している[7]。
本分光計測システムへのCNバンドスペクトルの影響を調べるにはCN(0−1)ス
ペクトルのみを測定すべきであるが、AgI421nmスペクトルとの分離が困難なた
め、A gスペクトルが近くにない359.Onm付近に存在するCN(1−0)スペクトルの性
質を調べることにする(図4−8参照)。図2−10に示した追加フィルタと図4−9の追加
フィルタを交換して装着すると、CN(卜0)スペクトルのみがC C Dカメラの青領域
に撮像される。測定結果を図4−10に示す。図4−10からCNバンドスペクトルは陽
極近傍に発生していると考えられる。よって、図4−7の AgI 421nmスペクトルの
陽極近傍の強い発光スペクトル強度はCN(0−1)スペクトルと考えられる。CNバ
ンドスペクトルは主に周囲空気から供給されたCとNの熱化学変化によって出現
するので、図4−10の結果からガス相アークでは周囲空気が陽極近傍へ流入してい
ると推測される。この結果から、ガス相アークでは陽極に厚い酸化被膜が生成さ
れ、陰極に非常に薄い被膜が生成されると推測できる[8]。また、このことから陰
極近傍では、高温のためCN分子が原子に解離しているか、局所的に激しく金属
原子が蒸発しているために大気の流入を抑制するほどの局部圧力になっていると
推測される。
合一
T
CN(
ト
0)
酬
●
訪ヨ
⊂
:
【
勺
U)
1 1
.
1【
J]
l・
.
−
tむ
邁 300
cNi㌢ 脚
瑚一
党l 堀一
別7皿
皿 \
l
辱
≠ヽ
400 500 Wavelength(nm)
600
図4−8 A g開離時アークの分光分析(Ag,DC 50V,3.3A)
ー 106
以上の結果から、ガス相アークにおいてCN(0−1)スペクトルは陽極近傍に存在し、
陰極近傍には存在しない。よって、本分光計測システムは陰極近傍のみに有効で
あると考えられる。
︵辟︶ ﹂莞這t召0−︺竃p霊OUUu岩層Su巴↑
︵辞︶口UU−〇台宅︺還宕SU名書心弱
図4−9 CN(1−0)バンドスペクトル測定用追加フィルタの分光特性
lenが1
て二。芸書芸遠義塾
図4−10 A g開離時アークにおけるCN(卜0)バンドスペクトルの測定結果
(Ag,DC 50V,3.3A)
4.4.4 アーク温度と金属蒸気量
図4−7に示した遮断電流3.3Aの時のアーク温度を計算する。測定時のアーク長は
390〟mである。4.4.3節(2)項から、A g開離時アークにおいて測定された陽極近
傍のAgI 421nmスペクトルには CN(0−1)スペクトルが含まれている可能性がある
ー 107 −
ので、陰極から83.7〟m((18.6×4+18.6/2)〟m)以内でのアーク温度を計算する。
発光スペクトル強度の半径方向の分布にAbel変換を施して、アーク柱断面内の温
度分布を計算した結果を図4−11に示す。アーク温度はアーク柱の中心軸で最も高
く、周辺に行くほど低くなる。図4−12にアーク柱中心軸上の温度分布を示す。ま
た、図4−13にアーク柱軸方向に沿ったアーク柱断面内の平均アーク温度を示す。
いずれのアーク温度もアーク柱中心軸上でかつ陰極近傍で最も高く、陰極中心か
ら離れるに従い低くなっている。図4−7において、AgI 547nmスペクトルの発光強
度は陰極近傍で強く、陽極近傍で弱いことから、陰極近傍のアーク温度が高いた
図4−11アーク柱断面内の垂直方向の温度分布(Ag,DC 50V,3.3A)
0
0
0
5
賀事象象雲扁
邑7000
図4−12 陰極近傍におけるアーク柱中心軸上の温度分布
(Ag,DC 50V,3.3A)
− 108 −
Lengthfr1)mGlthode(Llm)
図4−13 陰極近傍におけるアーク柱軸方向に沿った平均アーク温度
(Ag,DC 50V,3.3A)
め、陰極近傍では励起原子が多く、陽極近傍では励起原子数が少ないことが推測
できる。
図4−14にアーク柱断面内の平均アーク温度から計算したアーク柱軸方向に沿っ
た金属蒸気量を示す。陰極近傍では高温のため、アーク柱内の金属蒸気量は少な
いと推測される。
(3鮒〃nl乃(氾〃m)
LengthfromGlthode(〃m)
図4−14 陰極近傍におけるアーク柱軸方向に沿った金属蒸気量
(Ag,DC 50V,3.3A)
ー 109 −
4.5 AgP d合金電極での開離時アークの特性
4.5.1実験方法
図2−10のアーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布観測システムを用い、
追加フィルタを集光レンズの前に取り付けることによりP dスペクトル(PdI44
7nm)とA gスペクトル(AgI547nm)の強度分布を同時抽出する。
C CDカラーエリアイメージセンサの色フィルタの分光特性とPdI447nmとAg
I547nmを同時に抽出するための追加フィルタの分光特性を図4−15に示す。今回の
実験ではCCDカラーカメラの赤色領域にはA gやP dのスペクトルが存在しな
かった。その結果、C CDカラーカメラからはRGB信号に分離されて青領域(青
色出力端子)にPdI447nmスペクトル、緑領域(緑色出力端子)にAgI547nmスペ
クトルの強度に比例した出力電圧が得られる。
なお、PdI447nm付近にはAgI448nmが存在し、AgI547nm付近にはPdI554
nmとPdI555nmが存在するが、図4−15の追加フィルタでは分離が困難なため、測
定結果ではA gとP dの混合比を考慮して発光スペクトル強度の考察をおこなう
ことにする。
また、本研究ではスペクトルの違いによる感度の校正は考慮せず、測定結果は
各スペクトルの相対的な発光強度および発光強度分布(投影像)で示す。
C C Dカラーカメラからの出力信号は1〟S間隔で サンプリングしてデジタル
メモリへ記録する。
図4−15 c cDカラーエリアイメージセンサと追加フィルタの分光特性
− 110 −
4.5.2 発光スペクトルの強度分布
AgPd合金電極の合金組成を変え、アーク柱の長さ約340∼360LLmの時の発光スペ
クトル強度分布を図4−16に示す。ただし、P d開離時アークではアーク継続時間
が短かったため、アーク長が185〟mの時の発光スペクトル強度分布を示す。
また、アーク柱軸方向に沿ったアーク柱断面内のスペクトル強度総量の分布を
Ag/Pd50vt%電極でのAgI547nmとPdI447nmスペクトルの最大発光強度で正規化
して図4−17に示す。
図4−16と図4−17より、いずれの合金電極の場合も最大発光強度の場所は陰極近
傍であることが分かる。アーク柱全体の発光強度は、アーク継続時間が最も長く
なるAg/Pd50Yt%電極で最も強い。また、アーク柱全体のスペクトル強度が強くな
るほど陽極側の発光強度が強くなり、アーク柱軸方向に沿ったスペクトル強度分
布は均一に近くなる。
次に、Ag/Pd30Yt%とAg/Pd50vt%電極の場合の放電後半のアーク柱軸方向に沿っ
たスペクトル強度分布の時間変化を図4−18に示す。いずれの合金電極の場合も測
定時のアーク長が長くなるに従い(図中のTが長い場合)、アーク柱軸方向に沿っ
た各断面における発光スペクトル強度総量は弱くなっている。
Ag/Pd30Yt%電極について、井上ら[9]がC C Dエリアイメージセンサを用い電源
電圧DC 40V、遮断電流3.OA、開離速度9.3mm/Sで電極径1mm¢の場合のアーク柱軸
方向の発光強度分布を測定したところ、発光強度の最大値は放電後半には時間経
過に伴い徐々に弱くなるという結果を得ている。この結果は図4−18の結果と一致
している。
ー 111 −
(20V仙V)
A∫CVOltage
感
(a.u.)
htensity
E
¶再訂qnm 宣−=竺qnヨ
感●u●’
htensity
Q︶A中旬duOま辞atUのms
=怠りnm 宣−=ひもPm
(20V仙V)
Arcvoltage
(a.u.)
Intensity
︵∩︶A的句dひ〇五辞at崇ヨS
︵aこ=食べnヨ
htens和
VOlbge
Ⅴ〟iv)
8︶A何句dさま辞at璧TヨS
.∴・
戦・
訓脱
↓iヨe︵岩mp巨エ
澗別封ヨ亭ミ旦 9︶詔害nヨ胃管−
言・g旦
一′﹂一 ﹁﹁
司︶Pdat−∞●∽ヨS
図千−の ベームこ慧学割卦R養てこ悠甲諸刃Å﹂ 丁字酢掃ゆ#︵簿聖藤︶
︵DC g︵.∽.∽A︶
−−−N −
(A)入=547nmスペクトラム
(B)入=447nmスペクトラム
図4−17 アーク柱直径方向における断面のスペクトル強度総量の
アーク柱軸方向に沿った分布(DC 50V,3.3A)
4.5.3 金属蒸気量
AgPd合金電極の金属蒸気量について考察する。
図3−17より、AgPd開離時アークでは長時間アークの場合、放電後半には合金組
成の違いによるアーク温度の差は少なくA gアークの温度に近いので、発光強度
と金属蒸気量は比例関係になると仮定する。すると、図4−16と図4−18の結果から、
Ag/Pd50Yt%電極では他の合金電極に比べて放電後半においてアーク柱軸方向に沿
った金属蒸気量が増大し、アーク継続時間が長くなる。さらに、図3−18の結果から
− 113 −
︵>叫つきON︶
乱雲○>Uhく
︵
.
コ
.
£
合届uU︺ul
Time(10ms/div)
To血sI光C血
血tens卸(a.u)=1
T.S.Ⅰ=1
(a)入=447nm (b)入=547nm
(A)AdPd30wt%
乱雲○>U壱
′■、
>
● ■■
l■
ぎ
⊂
〉
畑
■」
」
▲ ▲▲L _
1−1 L▲u
■
l
N
)
きつ
Time(10mshiv)
(a)入=447nm (b)入=547nm
(B)AdPd50wt%
図4−18 アーク柱軸方向に沿った発光スペクトル強度分布(投影像)
の時間変化(DC 50V,3.3A)
A g原子の蒸気量の増加によってアーク継続時間は長くなっていると考えられる。
Ag/Pd50Yt%電極のときアーク継続時間が最も長くなる原因は、A g原子の蒸気
量が多いためと考えられるが、Ag/Pd50Yt%電極のときA g原子の蒸気量が最大に
なる理由ついては、本研究結果からは明確にならなかった。
− 114 −
4.6 おわりに
電源電圧DC50V・通電電流3・3A∼5・OAの回路をPd電極対とAg電極対とAg
Pd合金電極対で遮断する際に発生する開離時アークのスペクトル強度をアーク
柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布観測システムを用いて測定し、そのスペ
クトル強度からアーク温度と金属蒸気量を計算した。その結果、次のような知見
を得た。
(1)Pd電極対ではPd原子のスペクトル強度は陰極近傍で強く、陰極から離
れるほど弱くなる。アーク柱軸方向に沿った平均アーク温度の分布はアーク
長が短いと均一であるが、アーク長が長くなると陽極近傍のアーク温度は陰
極近傍より低くなる。また、アーク柱軸方向に沿った平均アーク温度は遮断
電流の大小と無関係である。
(2)Ag電極対ではAg原子のスペクトル強度は陰極近傍で強く、陰極から離
れるほど弱くなる。陰極近傍(∼83.7〟m)のアーク柱断面内の温度分布はア
ーク柱の中心軸付近で高い。そしてアーク柱の中心軸上に沿った温度分布は
陰極近傍で最も高く、陰極から離れるほど低くなる。
放電後期にはCNバンドスペクトルが陽極近傍に存在することから、周囲空
気がアーク柱の陽極近傍に流入することが明らかになった。このことから、
陰極近傍では、高温のためCN分子が解離しているか、大気の流入を抑制す
るほどの蒸気圧になっていると推測される。
(3)Ag/Pd50Yt%電極では、他の合金電極に比べて放電後期にアーク柱軸方向に
沿った金属蒸気量が増大して、他の合金電極よりアーク継続時間が長くなる。
ー 115 −
第4章の参考文献
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ー 116 −
第5章 アーク柱断面内の2スペクトル強度分布の観測
5.1 はじめに
本章では、アーク柱断面内の2スペクトル強度分布観測システム[1]を用いて
P d電極対[2][3][4]とA g電極対[5][6]とAgPd合金電極対[7]における開離時ア
ークを分光計測し、開離時アークの温度と金属蒸気量の特性を明らかにする。
また、アーク継続時間と陰極近傍のアーク温度と金属蒸気量の関係[2][3]や、
接触面形状が陰極近傍のアーク温度や金属蒸気量に与える影響[3][6]についても
明らかにする。
さらに、分光計測システムで測定した結果の妥当性を評価するため、高速度カ
ラービデオを用いて開離時アークを観察する[8]。
5.2 実験条件
実験条件は表2−1と同じであり、表3−1のP d電極対とA g電極対とAgPd合金電
極対の開離時アークのアーク柱断面内のスペクトル強度分布を観測する。
5.3 P d電極対での開離時アークの特性
5.3.1実験方法
測定スペクトルは4.3節のアーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布観測
と同様にPdI447nmとPdI540nmの2スペクトルである。図2−21の計測システム
を用い、集光レンズの前に図4−1と同じ追加フィルタを取り付けた。追加フィルタ
及びC CDカラーリニアイメージセンサからの出力レベルの校正はハロゲンラン
プを光源として分光器より447mmと540nmスペクトルを取り出し、光パワーメータ
による値とC CDカラーリニアイメージセンサからの出力電圧を比較することに
よって校正係数を求めた。その結果、C CDカラーリニアイメージセンサからの
出力電圧の校正係数はPdI540nmスペクトルの電圧を1とした場合にPdI447nm
スペクトルの電圧は0.59倍である。
アーク温度と金属蒸気量は4.3.1節(3)項と同様に計算する。
ー 117 −
5.3.2 アーク継続時間と陰極近傍のアーク温度と金属蒸気量の関係
図3−2と図3−3に示したように、P d開離時アークではアーク継続時間が非常に
ばらつく。アーク継続時間を短縮できれば、開離時アークによる接触面の消耗・
転移や燃焼生成物の接触面への付着を減らし、閉成時アークによる溶着や接触面
変形の対策を実現できる。そこで、P d開離時アークはどのような場合にアーク
継続時間が短くなるのか検討を行った。
そこで、P d開離時アークにおける遮断電流とアーク継続時間に対する陰極近
傍の発光スペクトル強度とアーク温度と金属蒸気の関係について調べる。
(1)発光スペクトル強度
遮断電流5.OAのアーク継続時間が34msの長い場合と22msの短い場合(以下長ア
ーク、短アークと呼ぶ)および遮断電流3.3Aの場合の陰極近傍におけるアーク柱
断面内のPdI 447nmとPdI 540nmスペクトルの強度の空間分布を図5−1に示す。
図5−1から 陰極近傍におけるアーク柱断面内の水平方向の発光スペクトル強度
分布を図5−2に示す。図5−2から発光スペクトル強度分布はアーク柱の中心軸に対
して非軸対称である。また図5−1の結果から 放電中期から後期にはアーク柱の断
面積は広くなる。
図5−1の結果から長アークと短アークにおける測定スペクトル強度の総量(積分
値)およびアーク柱中心部付近の発光スペクトル強度のピーク値の時間変化を、
遮断電流5.OAで発生する長アークのPdI 447nmの最大値で正規化して、図5−3と図
5−4に示す。
図5−3から測定スペクトル強度の総量は放電初期に増加し、その後は時間経過に
伴いわずかに減少する。また、図5−4から発光スペクトル強度のピーク値は放電初
期に強く、時間経過に伴い弱くなっている。
また、遮断電流5.OAの時の長アークでは、短アークや遮断電流3.3Aの時より放
電初期の測定スペクトル強度総量は多く、発光スペクトル強度ピーク値は強い。
− 118 −
(■n●り旬Sua叩Ⅰ
喜卜言‖二二
︵へIh腰︶40.9=〓巴
喜〇三日二q一
調冊誹⋮Pd・烏︰︰い︰.
点⋮p患い㌢■■甘藍萄野■川
︵AOS UQ.Pd︶
(・n・り旬Su胡ul
雲○可S=二q一
喜ト〓=二二
︵へ1ト噌︶40.9=l︵S
軽重嘲覇卓上へくべ翼状QE値盗世へ1ト将士載り一埜由還慧謎.T∽閣
h
EUト言=二二
<M.M=l︵U︶
E三〓ふ=二q一
卜
−119 −
∵
1∴二三●紅白
(●n●り旬Sua1ul
1
(人!町人OZ)
媚印0人〇JV
﹁
︵>叫でbEの︶UE叫↑
︵人草SES︶UE叫ト
∂加−10人⊃叩
.
.
.
1
■
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−
壷
l
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︵A竃bEの︶UE叫↑
(人!R仇OZ)
33円10人〇JV
Lengthfromaxis(FL m)
(A)T=6ms
︵.コ.王宮suU盲l
Lengthhomaxis(FL m)
(B)T=20ms
図5−2 陰極近傍におけるアーク柱断面内の水平方向の発光スペクトル
強度分布(Pd,DC 50V,5.OA,長アーク)
︵.ヨ苧倉su雲u二男U乳s
p巴nS謡EhOS盲nOEd一d一〇↑
20
ユ0
30
Time(ms)
図5−3 陰極近傍におけるアーク柱断面内測定スペクトル強度の
総量の時間変化(Pd,DC 50V,5.OA)
− 120 −
Time(ms)
図5−4 陰極近傍におけるアーク柱断面内の発光スペクトル強度
ピーク値の時間変化(Pd,DC 50V,5.OA)
(2)アーク温度
式(4−1)を用い P d開離時アークのアーク柱断面内の直径方向の温度分布を発
光スペクトル強度の強い範囲である軸から半径400〟mの範囲で計算した。遮断電
流5.OAの時の計算結果を図5−5に示す。アーク温度の直径方向の分布は放電初期か
ら消滅まで均一である。遮断電流5.OAの短アークと遮断電流3.3Aの時も同様であ
った[2]。また、図5−6にアーク柱断面内の発光スペクトル強度のピーク値部分の
温度の時間変化を示す。アーク温度は遮断電流3.3Aと5.OAで遮断電流やアーク継
続時間に依存せず、放電初期から上昇して約6000Kで一定となる。
︵邑巴コ︺巴乳∈莞U童
図5−5 陰極近傍におけるアーク柱断面内の水平方向の
温度分布(Pd,DC 50V,5.OA,長アーク)
− 121 −
︵邑巴コ召乳∈莞Uhd
Time(ms)
図5−6 陰極近傍における発光スペクトル強度ピーク値による
アーク温度の時間変化(Pd,DC 50V)
(3)金属蒸気密度
金属蒸気密度は式(2−8)を用いると P d開離時アークの温度と発光スペクトル
強度から計算できる。そこで、図5−2と図5−5から陰極近傍におけるアーク柱断面
内の金属蒸気密度を計算して図5−7に示す。アーク柱断面内の平均アーク温度と図
5−3から測定スペクトル強度総量に相当する金属蒸気量を計算して図5−8に示す。
また、図5−4と図5−6からアーク柱断面内の発光スペクトル強度ピーク値部分の金
属蒸気密度を計算して図5−9に示す。本研究で測定した発光スペクトル強度は絶対
値でないため、計算で得られる金属蒸気量や密度は遮断電流5.OAで発生する長ア
ークの最大値で正規化した。
図5−8から金属蒸気量は放電初期には多いが中期以降には減少するか、または一
定である。また、図上9から発光スペクトル強度ピーク値部分の金属蒸気密度も放
電初期には高くなるが中期以降には減少するか、あるいは一定である。
放電初期に金属蒸気量が多く、かつ金属蒸気密度が高いときに、アーク継続時
間は長くなる。この場合、放電初期に多量の金属蒸気が励起や電離するのでアー
ク継続時間は長くなると考えられる。そして金属蒸気が高密度かつ多量であるこ
とは、ブリッジ爆発時の金属蒸気量の大小に依存していると考えられる。
− 122 −
1 . L p h ∵ r ■ ‘ ′ . . .
図5−7 陰極近傍におけるアーク柱断面内の金属蒸気密度の分布
(Pd,DC 50V,5.OA,長アーク)
︵・n・王宮召雪bJOdg⊥再芯∑
10
20
30
Time(ms)
図5−8 陰極近傍における金属蒸気量の時間変化(Pd,DC 50V)
︵・n.£倉su名JOdg⊥男心∑
0.5
20
ユ0
30
Time(ms)
図5−9 陰極近傍におけるアーク柱断面内の発光スペクトル強度
ピーク値による金属蒸気密度の時間変化(Pd,DC 50V)
ー 123 −
5・3・3 陰極近傍と陽極近傍におけるアーク温度と金属蒸気量の比較
スペクトル
陰極近傍と陽極近傍におけるアーク柱断面内のスペクトル強度分布を測定した
結果を図5−10に示す0 また、図5−11に測定スペクトル強度総量の時間変化を示す。
陰極近傍と陽極近傍のスペクトル強度のピーク値は放電の初期に大きく、時間経
過に伴い弱くなっている0 そして、図5−11より陰極近傍の測定スペクトル強度の
総量は陽極近傍より多く、この結果は図4−2のアーク柱軸方向に沿った発光スペク
トル強度分布の結果と一致していた。
喜巨忘∈志臨
︵・ゴ.£倉su雲ul
︵.コ.王宮suU盲l
到∪工] J
Time(5mshv)
「囁撃二二二
()1447 (bH540
(a)え=447m (b‖=540nm
(A)陰極近傍
(B)陽極近傍
図5−10陰極と陽極近傍におけるアーク柱断面内の
発光スペクトル強度分布(Pd,DC50V,5.OA)
− 124 −
︵.n.£倉su雲亡二巴︺U乳s
p巴コS内心∈−OS盲コOEdl雲○↑
10
20
30
Time(ms)
図5−11陰極と陽極近傍におけるアーク柱断面内測定スペクトル
強度の総量の時間変化(Pd,DC 50V,5.OA)
(2)アーク温度
陰極近傍のアーク柱断面内の直径方向の温度分布は図5−5に示してあるので、陽
極近傍におけるスペクトル強度の強い範囲で計算した温度分布を図5−12に示す。
陽極近傍も陰極近傍と同様にアーク柱の中心部と周辺部の温度差に極端な差はな
い。図5−13に陰極近傍と陽極近傍のスペクトル強度ピーク値部分のアーク温度の
時間変化を示す。陰極近傍と陽極近傍とも、アーク温度は放電初期に上昇して約
6000Kとなり、陰極近傍では消滅まで一定となるが、陽極近傍ではガス相アーク
になると低下する。
︵邑 巴コ一巴乱EUJUJd
−800 −400 0 400
Lengthhomaxis(FLm)
図5−12陽極近傍におけるアーク柱断面内の水平方向の
温度分布(Pd,DC 50V,5.OA)
− 125 −
︵A⋮ぎON︶島屋OAU童
山
l
l
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M etal lic一gaSeOu!
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血.山 山山山
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「『 川
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l l l l l I
l l l l l l l l
︵邑巴n葛﹂鼠∈霊U童
Time(ms)
図5−13 陰極と陽極近傍における発光スペクトル強度ピーク値部分の
アーク温度の時間変化(Pd,DC 50V,5.OA)
(3)金属蒸気量
図5−11からアーク柱断面内の平均アーク温度を計算し、さらにPdI 447nmの測
定スペクトル強度総量に相当する金属蒸気量を計算して図5−14に示す。また、図
5−13と図5−10からアーク柱断面内のスペクトル強度ピーク値部分の金属蒸気密度
を計算して図5−15に示す。
これらの図では、測定したスペクトル強度は絶対値でないため、計算で得られ
る金属蒸気量は陰極近傍、金属蒸気密度は陽極近傍の最大値で正規化してある。
図5−14から陰極近傍の金属蒸気量は放電初期に増加して、その後、アーク消滅
まで減少する。陽極近傍の金属蒸気量は放電初期に増加して、その後、低下して
一定となる。また、図5−15から陰極と陽極近傍とも、アーク柱断面内のスペクト
ル強度ピーク値部分の金属蒸気密度は放電初期には高くなるが、その後、減少し
てガス相アークには一定となる。そして、ガス相アークの陰極近傍の金属蒸気量
は陽極近傍のそれより多く、金属蒸気密度は高い。
ー 126 −
︵A叫ぎON︶島屋OAU童 ︵.n.色合芸当bJOdg⊥男心∑
‥胤 山
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l
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l l ■ l
l l ■ l
l l l l
l l l l
1 1
Time(5ms/div)
10
20
Time(ms)
図5−14 陰極と陽極近傍における金属蒸気量の時間変化
(Pd,DC 50V,5.OA)
︵.n.色合S已名旨dg⊥男心∑
Time(ms)
図5−15 陰極と陽極近傍におけるスペクトル強度ピーク値による
金属蒸気密度の時間変化(Pd,DC 50V,5.OA)
ー 127 −
5.3.4 接触面形状が陰極近傍のアーク温度と金属蒸気量に与える影響
開離時アークの研究において接触面形状が金属蒸気の分布や放出電子の分布に
及ぼす影響を調べることは実験結果を評価・検討したり、接点の形状を決定する
うえで重要である。
接触面形状を明記した開離時アークの挙動の研究として、糸山ら[9]は接触面形
状が平坦な陰極と球面の陽極の組み合わせで、金,銀,銅電極では陰極輝点が陰極
表面上を移動することを高速度カメラによって確認し、アーク痕からも陰極輝点
の移動を確認している。井上ら[10]はA g開離時アークをC C Dリニアイメージ
センサで2方向から観測して、陰極輝点の移動は球面電極対では少ないが、平坦
電極対では大きいことを指摘している。
糸山ら、井上らが指摘する「陰極輝点の移動と接触面形状の関係」を検証する
こと、接点の接触面形状が金属蒸気の分布や放出電子の分布に及ぼす影響を検討
することは極めて重要である。
本節では、接触面形状の曲率半径の違うP d電極対について陰極近傍における
開離時アークの特定波長のスペクトル強度分布を測定することによって、陰極輝
点の移動の実態を明らかにする。さらに、接触面形状と放電回数がアーク温度お
よび陰極表面から放出される金属蒸気量に与える影響について考察する。
□‖
今回の実験では、図5−16に示すような接触面形状が平坦と曲率半径が1mmと2
mm(以後、l mm r.C.と2 mm r.C.と略す)を評価する。
」云吐」
(A)Flat (B)1rrm
(C)2mm
CurVature
mdius
図5−16 電極の接触面形状
− 128 −
Curyature
mdus
(1)スペクトル強度
接触面の損傷は開離回数(放電回数)の増加とともにひどくなるので、開離回数
によってスペクトル強度分布も変化する。そこで、2回目と12回目と100回目の開
離時アークにおけるスペクトル強度分布を比較する。
陰極近傍のアーク柱断面内のスペクトル強度の空間分布を図5−17に示す。図3−
2で示したようにP d開離時アークの継続時間のばらつきは大きいが、図5−17に示
す6つの開離時アークの継続時間はいずれも比較的長い場合である。なお、測定
はPdI 447nmとPdI 540nmの2つのスペクトルを同時に測定しているが、2つの
スペクトル強度の空間分布の特徴は似ているため、図5−17にはPdI 447nmスペク
トルの結果のみを示す。
平担電極では、図5−17−(A)に示すように、スペクトル強度のピーク値は低く、
スペクトル分布の面積は球面電極のそれより広く、その空間分布は放電開始から
消弧まで非軸対称である。これらの特徴は放電回数に関係ない。
球面電極では、スペクトル強度は放電初期に強く、時間経過に伴い弱くなる。
図5−17−(B)に示すように、lmm r.C.電極の場合、2回目の開離時アークでは、特
に放電初期のスペクトル強度のピーク値は強く、存在面積は狭い。そして、スペ
クトル強度の分布は放電初期から消滅まで軸対称形である。しかし、12回目の開
離時アークでは、スペクトル強度の分布は放電初期から消滅まで非軸対称形であ
る。また、図5−17−(C)に示すように、2mm r.C.電極の場合、2回目と12回目と1
00回目の開離時アークともスペクトル強度のピーク値は同じくらいであり、分布
は放電初期から消滅まで非軸対称形である。
以上の結果から、P d電極では、接触面形状がlmm r.C.であると放電回数によ
って発光スペクトル強度の分布は著しく変わるが、2mm r.C.と平坦であると放電
回数の影響は少ないことが分かる。
図2−21に示すC C DカラーリニアイメージセンサNo.1(垂直方向の上下移動)と
No.2(水平方向の左右移動)それぞれで測定したスペクトル強度のピーク値部分の
陰極表面上の位置を図5−18に示す。平坦電極上の陰極輝点の移動距離は球面電極
の移動距離より大きいことが分かる。
− 129 −
Arcvoltage
(20V仙Y)
首suU盲Ⅰ
Time(10m釘div)
Time(10m如鮎V)
顎璽§慕温
T=14ms
T=10ms
舞構
T=30ms
T=20ms
顎駐謬
T=36ms
(a)12tharcing
(A)Flat
T=42ms
T=30ms
(a)2ndarcing (b)12tharCing
田)lmmradius
心CVOlbge
含lSU莞u−
Time(10m寸dY)
Time(10ms佃iv)
Time(10m釘div)
−1550じ壷遠Il、⊆転
T=14ms
T=14ms
T=14ms
一 挙芦一 ̄ ̄− _
T=30ms
T=42ms
(a)2ndarcing
T=34ms
(b)12tharcing
T=32ms
(C)100tharcing
(C)2mmradius
図5−17Pd開離時アークにおける接触面形状と陰極近傍の発光スペクトル
強度分布の関係(Pd,DC50V,5.OA)
− 130 −
︵∈ミ︶日劇ヨSqや巳一日tりdOdO遍SOd
40
20
Time(ms)
︵∈ミ︶巴屈しヨSU葛竜一UdOdO焉SOd
仏)垂直方向
(b氏)
40
20
60
Time(ms)
田)水平方向
図5−18 PdI 447nmの陰極表面上の移動距離
(2)アーク温度と金属蒸気量
図5−17から各接触面形状におけるP d開離時アークの陰極近傍のPdI 447nmス
ペクトル強度総量の時間変化を図5−19に示す。いずれのスペクトル強度も放電初
期に極めて強く、時間経過に伴い弱くなる。
PdI 447nmとPdI 540nmスペクトルの強度から分光2線強度比法を用いアーク
柱断面内の発光スペクトル強度ピーク値部分のアーク温度を計算する。さらにア
ーク柱断面内の平均アーク温度と測定スペクトル強度総量から金属蒸気量を計算
する。計算結果を図5−20と図5−21に示す。
アーク温度は接触面形状や放電回数に関係なく放電開始時に上昇して、中期以
降5750K∼6000Kで一定となる。金属蒸気量は接触面形状や放電回数に関係なく放
電初期に増加して、時間経過に伴い少なくなる傾向がある。そして、アーク継続
時間が長いほど放電初期の金属蒸気量が多い。
一 131 −
Time(ms)
図5−19 陰極近傍におけるアーク柱断面内PdI447nm測定スペクトル強度
の総量の時間変化(Pd,DC 50V,5.OA)
Time(ms)
図5−20陰極近傍における発光スペクトル強度ピーク値における
アーク温度の時間変化(Pd,DC 50V,5.OA)
(3)接触面の観察
12回目の開離時アークのスペクトル強度分布を測定した後、試料電極を等速電
極開離装置から取り外し、実体顕微鏡で接触面を観察する。さらに、別の電極対
− 132 −
5
0.
︵・ヨ︶倉召ヨbJOdgI男心∑
匡m臣r野−r噌す卜=給F FEr√ ≡
0
20
40
Time(ms)
図5−21陰極近傍における金属蒸気量の時間変化
(Pd,DC 50V,5.OA)
によって2回と100回の開離時アークにさらされた各接触面を観察する。接触面の
観測結果を図5−22に示す。
図5−22に示すように、いずれの電極とも陰極の接触面は白濁金属に覆われてい
る。平坦電極では陰極の接触面の全面が白濁金属で覆われているが[11][12]、l
mm r.C.電極と2mm r.C.電極の白濁面積は2回目の開離時アークで最も狭く、12
回目、100回目では大きくなり同じくらいの面積である。同様に、図5−17に示す測
定スペクトル強度の存在面積も平坦電極では、12回目の開離時アークで接触面の
ほぼ全面を占めているが、lmm r.C.電極と2mm r.C.電極では、2回目では狭く1
2回目と100回目では広くなり同じくらいの広さである。アーク痕の面積の大小と
接触面形状の関係は測定スペクトル強度の存在面積の大小と接触面形状の関係と
同じである。
図5−17−(B)に示すように、Imm r.C.電極において2回目の開離時アpクでは12
回目の開離時アークより測定スペクトル強度の存在面積が小さい原因について考
察する。図5−17−(B)で測定時刻6msの図から分かるように、2回目の開離時アー
クでは陰極点が接触面の先端に停滞するので、接触面の先端を消耗させる。この
消耗によって、接触面の先端が平坦になる。そして、陰極輝点の2ms期間中の移
動距離が大きくなるか、金属蒸気の放出面積が広くなり、測定スペクトル強度の
存在面積が広くなると考えられる。
− 133 −
一子▲一一チ転
Cathode Apode
(a)After12tharclng
Cathode Apode
(a)A氏er2ndarclng
(A)Flatsurface
∴・て
二・・・・・・.一二
Cathode 阜node
(a)A氏er2ndarclng
′二.∴二
、十●一 言
Cathode Anpde
(C)A氏erlOOtharclng
Cathode Anode
(C)Surfhceof2mmradius
(b)A氏er12tharcing
(B)Surfaceoflmmradius
図5−22放電後の電極表面の観察(Pd,DC50V,5.OA)
5・3・5 高速度カラービデオによる開離時アーク像の撮影
電源電圧DC50V、通電電流5・OAの回路をPd電極対で遮断した時の開離時アーク
の観測結果を図5−23に示す。
Pd電極ではアーク継続時間が短いので、測定できるアーク長が短いため、A
g開離時アークのように陰極輝点と暗いアーク柱部分との区別はできなかった。
陰極輝点の移動距離は遮断電流に関係なく[3]、5・4・4節で説明するAg開離時
アークより長かった。
複数の陰極輝点が発生している時もあった。複数の陰極輝点の発生に関しては
露光時間100〟Sの間に陰極輝点が接触面を高速で移動したためであるとも考えら
れ、どちらであるかは本実験では明確にできなかった。
ー 134 −
l
Cn
∽
ト一一▲
」
(Pd,DC50V,5.OA)
図5−23露光時間100〃Sの時のPd開離時アークの観測結果
1
11 −
1
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蓼
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事
.
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1■
一
法官−OAUJd
︵A巧さ01︶
&glOAUhd
5.3.6 考 察
(1)スペクトル強度分布
図5−1,図5−10,図5−17から判断すると、P d開離時アークの陰極近傍のアーク柱
断面内のスペクトル強度分布は放電継続中は非軸対称であり、放電後期になると
発光する分布面積は広くなる。この現象については以下の原因が考えられる。
(1)陰極表面からの金属蒸気や電子放出の場所が広範囲になる。
(2)複数の陰極点が発生する。
(3)陰極点が高速で接触面上を移動している。
しかしながら、図5−23の高速度カラービデオによる測定結果に、複数の陰極輝
点が発生している時があった。そして、複数の陰極輝点の発生については露光時
間100〟Sの間に陰極輝点が接触面を高速で移動していることも考えられる。よっ
て、(2)(3)が原因と考えられる。
B.E.Djakovら[13]は真空アークにおける陰極点分裂の研究を行い、あるアーク
電流値以上になると陰極点分裂を起こすと述べている。そこで、P d電極の陰極
点分裂電流を計算すると約30Aになった。また、窪野[14]は陰極点通過最大アーク
電流を計算して、P d電極の場合陰極点が200A以上で分裂すると述べている。
よって、P d開離時アークにおいて遮断電流5.OA以下で陰極点が複数に分裂す
ることはないため、(3)が原因と考えられる。そして、本実験でのC C Dの走査時
間の設定が2msと長いため、スペクトル強度分布は2msの蓄積となり非軸対称形
になっていると考えられる。
(2)アーク温 度
本研究で開発した3種類の分光計測システムでP d開離時アークを測定した結
果の整合性を確認するため アーク長100∼120〟mの陰極近傍の平均アーク温度を
まとめると衰5−1のようになる。測定時期と陰極近傍の観測場所を考慮するといず
れも妥当な温度となった。
P d開離時アークの温度に関しては他者の論文が見あたらないのでその値の妥
当性を直接論ずることはできないが、特徴としては以下のことがいえる。
1)陰極近傍の発光スペクトル強度ピーク部分のアーク温度は遮断電流に依存せ
ず放電開始時から上昇して、約6000Kに達し、消滅まで一定である。
− 136 −
表 5−1平均アーク温度の測定結果
測
定
シ
ス
テ
ム
陰
極
近
傍
の
平
均
ア
ー
ク
温
度
マ ル チ チ ャネ ル
3 .3 A 5 7 4 0 K (10 0 〟m /2 2 0 〟 m )
分光計 測 システ ム
5 .O A 6 0 2 9 K (10 0 〟m /3 2 0 〟m )
アー ク柱 軸 方 向 に沿 った
3 .3 A 5 7 2 7 K (1 20 〟 m /13 0 〟 m )
2 ス ペ ク トル 強 度 分 布
5 .O A 5 6 8 9 K (1 1 0 〟 m /29 0 〟 m )
〝
5 9 3 1K (2 7 0 〟 m /3 4 0 〟 m )
アー ク柱 断 面 内 の
3 .3A 6 0 8 3 K (12 0 〟m /2 10 〟m )
2 ス ペ ク トル 強 度 分 布
5 .O A 6 1 5 0 K (10 0 〟 m /2 3 0 〟m )
/
/
6 0 3 4 K (1 20 〟 m /3 3 0 〟 m )
(陰 極 近 傍 )
観 測 システ ム
(陰 極 か ら 3 7 .2 〟 m )
観測 システム
(陰 極 か ら 4 0 〟 m 以 内 )
*()内の数字は(測定時のアーク長/消滅時のアーク長)を表す
2)アーク温度は電極の接触面形状や放電回数の影響を受けない。
3)陰極近傍のアーク温度は陽極近傍より高い。
3)については、図5−13からアーク柱が長くなりガス相アークになると、周囲
気体がアーク柱に流入して、アーク柱全体の温度は低下するはずであるが、陰極
近傍にはアーク放電を維持するための電離領域があるため温度は低下しなかった
と考えられる。
(3)金属蒸気量
P d開離時アークの金属蒸気量の特徴をまとめると以下のようになる0
図5−8と図5−14と図5−21から判断すると、開離時アークは溶融ブリッジの爆発で
できた金属蒸気の中で点弧し、その蒸気と陽極から発生する蒸気が混合して、蒸
気量が増加したと考えられる。このことはメタリック相アークを意味している0
放電後期のガス相アークではアーク柱が長くなり、金属蒸気の存在場所(アー
ク柱体積)が拡大したため、観測場所の蒸気密度が減少すると考えられる0 そし
て、図5−14と図5−15から判断すると陰極近傍の金属蒸気量と金属蒸気密度が陽極
近傍より高い。よって、陽極近傍では金属蒸気密度が低いので、周囲気体の陽極
近傍への流入が多い。そのため、図5−13に示すように陽極近傍のアーク温度が低
下すると推測される。
− 137 −
放電後期にアーク電流が小さくなり、開離時アークが消滅するが、その時図5−8,
図5−14,図5−21に示すように陰極近傍の金属蒸気量は消滅まで減少し、図5−14に
示すように陽極近傍の金属蒸気量は消滅まで一定である。すなわち、アーク消滅
は陰極からの金属蒸気量に依存していると推測される。
図5−8と図5−21から判断すると、アーク継続時間の長短は放電初期に電極間の金
属蒸気量が多いときに長くなると考えられる。また、放電初期に金属蒸気量が多
いのは溶融ブリ ッジの爆発とその後の電極の蒸発によるものと推測される。
次にアーク継続時間と放電開始から消滅までの金属蒸気総量N。Va.(a.u.)の関
係について検討する。
図5−8と図5−21から陰極近傍の金属蒸気量の総量(積分値)を計算し、最大値で正
規化してアーク継続時間T(ms)との関係を図5−24に示す。図5−24より陰極近傍の
金属蒸気総量が多いほどアーク継続時間は長くなる。
図5−24よりn次回帰式で分析すると陰極近傍の金属蒸気総量とアーク継続時間
の関係は、
N。,a.=30.2×Tl・7
(5−1)
となる。
5
仇
︵.コ.£嘲査収腫嘩備
0
0
20
40
アーク継続時間(ms)
図5−24 陰極近傍の金属蒸気総量とアーク継続時間の関係
(Pd,DC 50V,5.OA)
ー 138 −
5.4 A g電極対での開離時アークの特性
5.4.1実験方法
測定スペクトルは4.4節 のアーク柱軸方向に沿ったスペクトル強度分布観測
と同様にAgI421nmとAgI547nmである。図2−21の計測システムを用い、集光レ
ンズの前に図4−6と同じ追加フィルタを取り付ける。C CDカラーリニアイメージ
センサからの出力電圧の校正係数はAgI547nmスペクトルの電圧を1とした場合
にAgI 421nmスペクトルの電圧は0.59倍である。
アーク温度と金属蒸気量は4.4.1節(3)項と同様に計算する。
5・4.2 遮断電流と陰極近傍のアーク温度と金属蒸気量の関係
(1)発光スぺクト担
電源電圧DC50V一定にて遮断電流を2.5∼5.OAとした時の 陰極近傍の発光スペ
クトル強度の空間分布を図5−25に示す。また、図5−26にアーク柱断面内の直径方
向のスペクトル強度分布、図5−27にアーク柱断面内の測定スペクトル強度総量の
時間変化、図5−28に発光スペクトル強度ピーク値の時間変化を示す。発光スペク
トル強度の時間変化はAgI547nmの最大値で正規化して示す。また、図にはメタ
リック相アークからガス相アークへの移行時を矢印で示す。
遮断電流3.3Aの発光スペクトル強度の分布は図5−25と図5−26で示すように放電
初期と中期では非軸対称形であり、放電後期では軸対称形である。それに対して、
遮断電流5.OAでは放電開始から消滅まで軸対称形に成っているが、2.5Aでは放電
開始から消滅まで非軸対称となっている。
図5−27と図5−28に示すように陰極近傍のアーク柱断面内の測定スペクトル強度
総量と発光スペクトル強度ピーク値はメタリック相からガス相への移行時まで増
大する。AgI 547nmスペクトルは移行後一時低下するがまた大きくなり、AgI 4
21nmスペクトルは移行後時間経過につれていずれも小さくなる。
ー 139 −
︵A巧さON︶
&百一〇AU養
T m nSl
l
Time(10mskliv)
一一∴∴二lE:∃
∴・ざ三IlEヨ
(a)入=4写lnm(b)入=547nm
(A)Ⅰ=2.5A
含芯已U小月
︵
.
n
.
d
︶
∵デーり岳.さき− ̄ ̄三二一一
ニーtE:ヨ
(a)入=421nm(b)入=547nm
(B)Ⅰ=3.3A
(a)入=421nm(b)入=547nm
(C)Ⅰ=5.OA
図5−25陰極近傍におけるアーク柱断面内の発光スペクトル強度分布
(Ag,DC50V)
− 140 −
Radius(〃m)
(A)T=4ms
(Upper)5002望adi。!(盈9500(Lewer)
(B)T=50ms
図5−26 陰極近傍におけるアーク柱断面内の発光スペクトル強度分布
(Ag,DC 50V,3.3A)
Metallic−gaSeOuStranSition
10 20 30 40 50
Time(ms)
図5−27陰極近傍におけるアーク柱断面内測定スペクトル強度の総量
の時間変化(Ag,DC 50V,3.3A)
ー 141 −
10 20 30 40 50
Time(ms)
図5−28陰極近傍における発光スペクトル強度ピーク値部分の時間変化
(Ag,DC 50V,3.3A)
(2)アーク温度
遮断電流3・3Aの時の陰極近傍のアーク柱断面内の温度分布を図5−29に示す。ま
た、遮断電流2・5A∼5.OAの時の陰極近傍のアーク柱断面内の測定スペクトル強度
総量から計算した平均アーク温度の時間変化を図5−30に、アーク柱断面内の発光
スペクトル強度ピーク値部分のアーク温度の時間変化を図5−31に示す。図5−31で
は、メタリック相アークの時の最大値、移行時、ガス相アークの時の最大値、ア
ーク消滅時のアーク温度について遮断電流3.3Aの時には測定サンプルn=10個、2.
5Aと5・OAの時にはn=5個のバラツキを示す。なお、放電前半ではスペクトル強度が
弱く、アーク温度が高温のため、図2−33で示したように、アーク温度の誤差が大
きい可能性がある。また、4.4.3節で述べたようにAgI421nm付近にはCNバ
ンドスペクトルが存在して、CNバンドスペクトルは陽極近傍に存在するので陰
極近傍では問題ないはずであるが、放電前半ではAgI421nmの強度が小さいので
CNバンドスペクトルの存在がアーク温度の精度に影響している可能性がある。
そこで、放電前半のアーク温度については破線で示す。
− 142 −
図5−29 陰極近傍におけるアーク柱断面内の水平方向の温度分布
(Ag,DC 50V,3.3A)
︵出の01×︶む当召乳∈むご童
l
図5−30 陰極近傍におけるアーク柱断面内測定スペクトル強度の総量による
平均アーク温度の時間変化(Ag,DC 50V)
ー 143 −
㌢占
ヽ
、ヽ
0
70t茸一∫.
0
一−▲▼
1︵出cOI × ︶ 賀 事 象 旨 票 扁
仁
l
20 40
Time(ms)
(A)Ⅰ=2.5A
1︵出cOIX︶賀召乱EU盲亘
20 40
Tinie(ms)
(C)Ⅰ=5.OA
図5−31陰極近傍における発光スペクトル強度ピーク値によるアーク温度の
時間変化(Ag,DC50V)
− 144 −
図5−29よりアーク柱断面内の温度分布についてはA g開離時アークではC u開
離時アークと同じように放電初期には中心部と周辺部の温度勾配は大きいが、放
電後期には小さくなる[15]。
図5−30より平均アーク温度は放電開始から高くなるが、その後低下する。そし
て、放電後半には遮断電流による温度の差は少ない。
図5−31より発光スペクトル強度ピーク値を示す空間のアーク温度は放電開始直
後から上昇するが、放電形態がメタリック相からガス相へ移行する期間で低下す
る。そして、ガス相アーク移行後、温度は再び上昇し、その後、徐々に低くなる。
図5−31において放電開始から48ms後のガス相アークのアーク温度は、5.OAでは
8700K、3.3Aでは6300K、2.5Aでは5500Kであり、遮断電流が大きいほどアーク温度
は高くなる。また、アーク消滅時のスペクトル強度ピーク値部分のアーク温度も
遮断電流5.OAの時5900±600K、3.3Aの時5600±800K、2.5Aの時5300±500Kであり、
遮断電流が大きいほどアーク温度は高くなる。
(3)金属蒸気量
陰極近傍のアーク柱断面内の金属蒸気密度の分布を図5−32に示す。放電初期に
は、アーク柱中心軸付近の温度が高く、電離や励起が激しいため、アーク柱中心
軸付近の金属蒸気密度は低い。放電後期には、アーク柱中心軸付近の温度は低く
なり、アーク柱断面内の金属蒸気密度の分布は均一になる。
Measunngtlme
l
/10ms
ノ一
∫ ′ I I ○ ′
0.0・
000
0.
︵・コ.丘倉S宕ph亀戸⊥月旦冨
32ms
か一
′一一イ
0.0(氾1
タ
一400 −200 0 200 400
Lengthfromaxis(Llm)
図5−32 陰極近傍におけるアーク柱断面内の金属蒸気密度の分布
(Ag,DC 50V,3.3A)
− 145 −
陰極近傍アーク柱断面内の測定スペクトル強度総量に相当する金属蒸気量の時
間変化を図5−33に、発光スペクトル強度ピーク値部分の金属蒸気密度を図5−34に
示す。放電初期と中期にはアーク温度が高いため、電離や励起が激しく、金属蒸
気密度は低い。放電後期には、アーク温度は下がり、金属蒸気量は増加する。ま
た、放電後期には遮断電流が大きいほど金属蒸気密度は高い。なお、5.OAの金属
蒸気密度で正規化したため、放電前期には金属蒸気がないように見えるが、図5−
39に示すように少量ではあるが存在している。
︵・3︶合で選一b宣旨三扁羞
▼0
20
40
Time(ms)
図5−33 陰極近傍における金属蒸気量の時間変化(Ag,DC 50V)
︵.n.£倉su名昌邑gt月旦言
図5−34 陰極近傍におけるアーク柱断面内の発光スペクトル強度
ピーク値部分の金属蒸気密度の時間変化(Ag,DC 50V)
ー 146 −
5.4.3 接触面形状が陰極近傍のアーク温度と金属蒸気量に与える影響
P d電極の場合と同様に、接触面形状が平坦と曲率半径1mmと2mm(図5−16参
照)の時の開離時アークの特性を評価する。
(1)スペクトル強度
開離回数2あるいは3回目と12回目と100回目の開離時アークにおける 陰極近
傍のアーク柱断面内のAgI547nmスペクトル強度の空間分布を図5−35に示す。
図5−35から各接触面形状におけるアーク柱断面内のAgI 547nmスペクトル強度
の総量の時間変化を図5−36に示す。いずれのスペクトル強度も放電初期から徐々
に強くなり、放電後期には一定となる。
図5−35−(A)に示すように、平面電極のスペクトル強度のピーク値は球面電極の
それより低く、スペクトル分布の面積は広く、その空間分布は放電開始から消滅
まで非軸対称である。これらの特徴は平坦電極のP d開離時アークのスペクトル
強度分布(図5−17参照)に似ている。
図5−35のスペクトル強度分布から、突き合わせ電極対の中心軸とスペクトル強
度ピーク値部分とのずれを移動距離として図5−37に示す。P d開離時アーク同様
に平坦電極上の陰極輝点の移動距離は球面電極の移動距離より大きいことが分か
る。この実験結果から、平坦電極では陰極点の高速ランダム運動により、スペク
トル強度分布が非軸対称になり、測定スペクトルの分布面積が広く、その発光強
度も弱くなると考えられる。
一万、球面電極では陰極点が電界の強い頂上付近に固定される。その結果、球
面電極でのスペクトル強度分布は軸対称となると考えられる。
また、球面電極の場合、放電初期のスペクトル強度の分布面積は放電回数が多
いほど広くなる。そして、放電中期以降、放電回数に関係なくスペクトル強度の
分布は軸対称形であり、その分布面積は同じ広さである。原因については、図5−
35−(B)の6msと(C)の8msの図から分かるように、P d開離時アークと同様に2ある
いは3回目の開離時アークでは陰極点が接触面の先端に存在するので接触面の先
端が消耗して平坦になる。そして、12回目の開離時アークでは2ms期間中に陰極点
の動く面積が広くなるので測定スペクトル強度の分布面積も増加すると考えられ
る。
− 147 −
lH
l
t l ;
重
工 lI
l
血cvo他ge
(20Ⅵ也V)
心cvo厄ge
(20V/血V)
」√「Ili】l
Time(10mddv)
Time(10m釘血Ⅴ)
T=12ms
T=30ms
T=48ms
(a)12tharcing
(A)Flat
T=52ms
T=30ms
T=52ms
(a)3rdarcing (b)12tharcing
(B)1mmradius
Tirne(10m〟div)
T=12ms
T=12ms
T=30ms
T=50ms
(a)2ndarcing
T=50ms
m)12tharcing
T=12ms
T=30ms
T=50ms
(C)100tharcing
(C)2mmradius
図5−35Ag開離時アークにおける接触面形状と陰極近傍の
発光スペクトル強度分布の関係(Ag,DC50V,3.3A)
− 148 −
Time(ms)
図5−36陰極近傍におけるAgI547nm測定スペクトル強度総量
の時間変化
JP(Upper)
4 2
00
mat
2mmradius lmmradius
ヽ
lb
ヽ
00
一
日日‖巨岩
一 ′ − ′ ∼ d
02004
一
一
︶り眉コSU葛と誠一む已〇百〇で叫SOd
至 論
600
(bwer)
︵∈豆︶巴個ヨSU琶蓮。亡。宕焉S。d
(砧ght)
40
20
Time(ms)
(刃垂直方向
図5−37AgI547nmの陰極表面上の移動距離(放電回数12回目)
ー 149 −
(2)アーク温度と金属蒸気量
接触面形状が陰極近傍のアーク温度および金属蒸気量に与える影響について検
討する。
測定したスペクトル強度ピーク値より計算したアーク温度を図5−38に示す。さ
らに、アーク柱断面内の測定スペクトル強度の総量から計算したアーク柱内の金
属蒸気量を図5−38に示す。
図5−30から図5−34までと同様に図5−38のアーク温度と図5−39の金属蒸気量では
放電前半の計算値は参考データとして破線で示すことにする。破線部分の絶対値
は不正確かもしれないが、接触面形状の違いによるアーク温度と金属蒸気量の相
対的な比較は行えると考え、検討を行う。
図5−38に示すように、いずれの電極も陰極近傍のアーク温度は放電開始時に高
温となり、その後、徐々に低下する。図5−39に示すように、いずれの電極も金属
蒸気量は放電開始時には溶融ブリッジの爆発の影響により多量であるが、放電前
半には少なくなり、放電後半には時間経過に伴い増加する。
図5−38より、放電後半における接触面形状のアーク温度への影響は小さい。そ
して、図5−39より、放電後半の陰極近傍の金属蒸気量が多いほどアーク継続時間
は長くなる。
20000
00
50
1
00
100
︵邑巴コ︺巴鼠∈忍U壱
lmmradius
2mmradius
20
40
Time(ms)
図5−38 陰極近傍における発光スペクトル強度ピーク値部分のアーク温度
の時間変化(Ag,DC 50V,3.3A,放電回数12回目)
ー 150 −
l0
0
・・
5
︵.コ.ヱ倉芸当bJOdgtdも∑
20
40
60
Time(ms)
図5−39 陰極近傍における金属蒸気量の時間変化
(Ag,DC 50V,3.3A,放電回数12回目)
(3)電極表面の観察
12回あるいは100回の開離時アークにさらされた各接触面の観測結果を図5−40に
示す。
平坦電極の陰極の接触面上に黒色のアーク痕が広く分布している。
球面電極の陰極では接触面形状に関係なく接触面の中央にクレータが形成され、
クレータの周囲には黒色物が付着している。陽極の表面では接触面形状に関係な
く溶融した金属が細かく島状に分布して、表面全面が黒色化している。陰極のク
レータの面積はlmm r.C.と2mm r.C.電極とも12回目そして100回目でも同じく ら
いの大きさである。
− 151 −
∴∴∴縞、●、
Cathode
Anode
(A)Flatsurface(After12tharcing)
Cathode
Anode
(B)Surfhceoflmmradius(After12tharcing)
Cathode
Anode
Cathode
Anode
(b)A氏erlOOtharcing
(C)Surfhceof2mmradius
図5−40 放電後の電極表面の観察(Ag,DC50V,3.3A)
− 152 _
5.4.4 高速度カラービデオによる開離時アーク像の撮影
電源電圧DC 50V、通電電流3.3Aの回路をA g電極で遮断した時のバックライト
を点灯した場合と消灯した場合の開離時アークの観測結果を図5−41に示す。
図5−41−(A)に示すように、バックライトを点灯すると電極間隙が時間とともに
拡大し、アーク像も長くなることが分かる。
図5−41−(B)に示すようにバックライトを消灯すると陰極近傍に強く輝いた領域
が観測される。この部分を陰極輝点とみなす。陰極輝点の部分は 波長547nmのス
ペクトルを放射しているので、約6.04eV以上のエネルギー[16ユを持つ電子と金属
蒸発原子の衝突による励起や電離が激しく起こっている場所と考えられる。
図5−41から陰極輝点は間隙長が約180〟m以下においては間隙全体に広がり、間
隙長が約180〟m以上になると陰極近傍に分布することが分かる。陰極輝点と陽極
面間を輝度の弱いアーク柱とみなすと、アーク長が約180〟m以上に伸びると、輝
度の弱いアーク柱が陰極輝点と陽極の間に伸びると考えられる。図5−41は図4−7の
アーク柱軸方向に沿ったAgI547nmスペクトルの強度分布に一致している。
− 153 −
Lr
eJ
l
︵B︶WithOutback−ight
︵ms︶
(10Wdiv)
↓iヨe︵−Oms\diく︶
Tiヨe︵;ヨS\diく︶
図∽・巴 Ag遜常蕃烏IY寧常襲香油 ︵Ag一DC gく一㌢uA︶
∽C
Arcvoltage
5.4.5 考 察
Ag開離時アークを測定して得られた結果について、P d開離時アークの測定
結果と比較しながら考察する。
スペクトル
度
図5−40に示すように、平坦電極の場合、陰極電極に生成される黒色のアーク痕
の面積は非常に広い。1mm r.C.電極と2mm r.C.電極の場合12回目、100回目では
アーク痕の面積は同じくらいの大きさである。同様に図5−35の陰極近傍の測定ス
ペクトルの存在面積は平坦電極の場合非常に広い。lmm r.C.電極と2mm r.C.電
極の場合、放電後期では測定スペクトルの存在面積は同じくらいの大きさである。
よって、アーク痕の面積の大小と接触面形状の関係は測定スペクトルの存在面積
の大小と接触面形状の関係と同じである。この傾向はP d開離時アークの場合に
もあった。
スペクトル強度分布の存在面積とアーク痕の関係については 第6章の6.2節
で再度検討する。
(2)ア__∵ク温度
本研究で開発した3種類の分光計測システムでA g開離時アークを測定した結
果の整合性を確認するため アーク長390∼400〟mの陰極近傍の平均アーク温度を
まとめると表5−2のようになる。測定時期と陰極近傍の観測場所を考慮するといず
れも妥当な温度となった。
A g開離時アークの温度に関する過去の研究結果を表1−1に示した。A g開離時
アークの温度に関する参考文献は少ないが、糸山[17]はAgCdO電極で電源電圧 DC
42∼72V、遮断電流1.5∼8Aにおいてアーク温度は電源電圧と遮断電流およびCdOの
重量%の変化に対して有意差は無く、アーク柱全体の平均アーク温度は4900±20
0Kであると報告している。また、C.Brecherら[18]はAgCdO電極でAC電源、電流10
0A、ギャップ長4mm一定において アーク温度は5400Kであると報告している。青
山ら[19]はコンデンサの放電による半波整流のピーク値l kAにてアーク発生直後
アーク柱中心部の温度が10700Xという実験結果を得た。表卜1において、糸山[17],
相田[20],C.Brecherら[18]は時間変化を考慮せず平均温度を求め、青山ら[19],
C.Brecherら[18]は大電流アーク放電である。アーク温度の妥当性についてはA g
− 155 −
表 5−2 平均アーク温度の測定結果
測
定
シ
ス
テ
ム
マ ル チ チ ャネ ル
分光計 測 システム
陰
極
近
傍
の
平
均
ア
ー
ク
温
度
3 .3A 5 2 9 4 K (4 0 0 〟 m /5 0=
0〟m)
5 .OA 5 7 7 5 Ⅹ (4 0 0 〟 m /7 0 0・
〟m )
(陰 極 近 傍 )
アー ク柱 軸 方 向 に 沿 った
3 .3 A
5 46 3 K (3 9 0 〟 m /5 5 0 〟 m )
2 ス ペ ク トル 強 度 分 布
観 測 システム
(陰 極 か ら 3 7 .2 〟 m )
参 考 :陰 極 か ら 8 3 .7 〟 m ま で の 平 均 温 度
ア ー ク柱 断 面 内 の
2 .5A 5 6 0 8 K (4 0 0 〟 m /4 2 0 〟 m )
2 ス ペ ク トル 強 度 分 布
3 .3A 5 5 2 4 Ⅹ (4 0 0 〟 m /5 2 0 〟 m )
観 測 シス テ ム
5 .OA 5 4 4 5 K (4 0 0 〟 m /6 6 0 〟 m )
3 .3 A 4 8 9 0 K (3 9 0 〟 m /5 5 0 〟 m )
(陰 極 か ら 4 0 〟 m 以 内 )
*()内の数字は(測定時のアーク長/消滅時のアーク長)を表す
電極における同一の実験条件で同一のアーク柱の部分を測定した結果がないので
直接比較することは困難である。そこで、参考文献の個々のデータと比較検討す
る。
文献[17][20]のアーク温度と比較して図4−12,図4−13および図5−30,図5−31,図5
−38のアーク温度は高くなった。原因としては筆者の測定が陰極近傍かつ空間的な
最大アーク温度を測定していることによると考えられる。
表1−1に示したアーク温度の値から推測すると、糸山[17]や相田[20]は発光スペ
クトル強度の強いガス相アークの温度を測定していると判断できる。そこで図4−7
の遮断電流3.3Aにおけるアーク長390〟mの時のアーク柱軸方向に沿った発光スペ
クトル強度の陰極近傍(陰極から83.7〟mまで)の測定スペクトル強度総量から平
均アーク温度を計算すると4890Kであり、遮断電流と間隙長および陰極近傍である
ことを考慮すれば、本研究で得られたアーク温度は妥当な結果であると思われる。
図5−30,図5−31,図5−38に示すように開離時アークの陰極近傍のアーク温度は放
電開始時に高温となり、その後徐々に低下する。放電初期と中期の温度が非常に
高温となり、この値は過去の文献[18]∼[20]の値と比べ非常に大きい。しかし、
カーボン電極でアーク電流200Aにて陰極点温度4000Xの場合に電極表面から50〟m
離れた所のアーク温度が20000K∼25000Kに達するという報告もある[21]。今回の
計測では電極近傍40〟m以下のアーク柱内断面内の平均温度やアーク柱中心軸上
の温度を測定しているため数万Kに達している可能性がある。
− 156 −
一方、図2−33−(C)で示したように、放電初期には発光スペクトル強度は弱く、
高温であるためアーク温度の測定誤差が大きい可能性がある。あるいは、4.4・
3節で述べたように陽極近傍のCNスペクトル[22]がAgI421nmの測定に影響を
及ぼすため本研究では陰極近傍のみを測定対象としているが、極短間隙の場合、
CNスペクトルが陰極近傍でもアーク温度の誤差要因となっている可能性もある。
また、放電初期と中期では分光2線強度比法が適用できないかもしれない。つま
り放電開始時であるため電極材料あるいは大気の影響により熱的平衡が成り立っ
ていない領域の可能性も考えられる。
もしメタリック相アーク時の温度が正しいとすると、いずれの測定結果におい
ても移行時の一時的な温度低下が発生している。原因としては、メタリック相ア
ークの温度は上昇するが、移行時に周囲気体がアーク柱へ入り込むことにより冷
却されたと考えられる。
A g開離時アークの温度分布に関して参考文献は見つからなかったが、図4−12,
図4−13からアーク柱軸方向に沿った分布は陰極に近いほど高温であり、図4−11,
図5−29からアーク柱断面内の温度分布は、放電初期には中心部と周辺部の温度勾
配は大きいが、放電後期には小さくなり、Cu開離時アークの測定結果と同じよ
うな傾向である[15]。
(3)金属蒸気量
図5−33と図5−39に示すようにAg開離時アークの金属蒸気量は放電初期と中期
に少なく、時間経過に伴い増加する。そして、アーク継続時間が長いほど放電後
期の金属蒸気量が多くなる傾向を示している。
図5−38と図5−39より、球面電極では2種類の曲率半径におけるアーク温度と金
属蒸気量の差は少ない。球面電極ではクレータができ、陰極点の移動範囲が制約
されるので、蒸発量への電極形状(曲率半径の違い)の影響は小さいと考えられる0
ー 157 −
5.5 AgP d合金電極での開離時アークの特性
5.5.1実験方法
本研究ではAgPd合金電極でのA gスペクトルとP dスペクトル強度分布を同時
測定するため、AgPd合金開離時アークのアーク柱軸方向に沿った発光スペクトル
強度分布の観測に使用した図4−15の追加フィルタを用いてPdI447nmとAgI547
nmの2スペクトルを抽出する。その結果、C C Dカラーリニアイメージセンサの
青色の領域にPdI447nm,緑色の領域にAgI547nmの強度に比例した出力電圧が得
られる。しかしながら、PdI447nm付近にはAgI448nmが存在し、AgI547nm付
近にはPdI540nmとPdI554nmとPdI555nmが存在[16][23]して図4−15の追加フィ
ルタでは分離できない。そこで、P d開離時アークのアーク柱軸方向に沿った発
光スペクトル強度分布の観測に使用した 図4−1の追加フィルタを用いれば青色の
領域ではPdI447nmとAgI448nmが含まれるが、緑色の領域ではAgI547nmがカ
ットできるのでPdI540nmスペクトルのみの分布が測定できる。なお、本実験で
は各スペクトルの強度分布の時間変化を検討するため、スペクトルの違いによる
測定装置の感度の校正は行っていない。
5.5.2 実験結果
(1)発光スぺクト辿
長時間アークの陰極近傍におけるアーク柱断面内の発光スペクトル強度の空間
分布を図5−42と図5−43に示す。なお、図5−42は図4−15、図5−43は図4−1の分光特性
の追加フィルタを用いて測定したときである。
A g開離時アークのA gスペクトルの強度分布は、図5−42−(A)で示すAgI547n
mのように放電後期から消滅まで発光強度は強く、アーク柱断面内の発光強度分布
は陰極の一部に集中して軸対称形になる[1][5][6]。 P d開離時アークのP dス
ペクトルの強度分布は、図5−43−(B)に示すPdI540nmのように放電中期から消滅
まで発光強度が弱く、断面積が広く、非軸対称形になる[2]∼[4]。
図5−42において、アーク継続時間が最も長いAg/Pd50Yt%電極では他のAgPd合金
電極に較べてAgI547nm(PdI540nm,PdI−554nm,PdI−555nnを含む)の発光強度が
最も強い。そしてAg/Pd50Yt%とAg/Pd70Yt%電極のAgI547nmとPdI447nm(AgI
448nmを含む)のスペクトル強度の分布は放電初期には断面積は広く、非軸対称で
あるが、後期には断面積は細くなり、Ag開離時アークのAgスペクトルの特徴
− 158 −
である軸対称形となる。
図5−43においてもAg/Pd70Yt%電極のP dスペクトルの強度分布は放電初期には
P d開離時アークと同様に非軸対称形で断面積は広いが、放電後期にはA g開離
時アークのA gスペクトルの特徴である陰極の一部分に集中して軸対称形となっ
ている。
︵
去
ミ
r
O
N
︶
島屋○>Uhd
︵
.
コ
.
ヱ
Time(10m扉div)
鵬
∵
+
監百一〇>U
(a)Ag1−448rm (b)Ag1−547nm
(A)Ag
′ ̄ヽ
>
︵
.
コ
首suU盲Ⅰ
さ
く〉
(a)PdI−447nm(AgI一現8mm)O))PdI−540nm
(A)Agqd70wt%
(a)PdI−447n血(b)AgL547mm(PdI−540rm,
(Ag1−448mm) PdI−554nm,PdI−555nm)
(B)Agげd50wt%’
 ̄一意二=÷_こ当
(a)PdIr447nm (b)PdI−540nm
(a)P肌47nm(b)儲怒(認諾認
(AgI−448nm)
(B)Pd
(C)Ag仲d70wt%
図5−42 陰極近傍におけるアーク柱断面
内のPdI 447nmとAgI 547nm
スペクトル強度分布
図5−43 陰極近傍におけるアーク柱断面
内のPdI 447nmとPdI 540nm
スペクトル強度分布
(DC 50V,3.3A)
(DC 50V,3.3A)
ー 159 −
(2)金属蒸気の分布
図5−43の(A)−(a)と(B)−(b)のスペクトル強度分布から、AgPd合金電極ではA g
の含有に伴いP d原子の蒸気は電極の一部分に集中して軸対称形となる。その結
果、A g原子の蒸気の性質が強く現れていると考えられる。
5.5.3 考 察
AgPd合金電極のアーク継続時間がA g原子の蒸気量に依存している理由に関し
て考察する。
青山ら[24]はAgW合金電極において、仕事関数が小さく融点の低いA gにアーク
が集中し、A gの含有量の少ない合金電極はどアークの集中が激しく、かつA g
粒子の熱容量が小さいのでA gの蒸発が多くなるという推定を行っている。
AgPd合金電極では、表5−3に示すようにP dよりA gは仕事関数が小さく融点が
低いので、図5−42や図5−43で示したように、放電後期にはP d原子の蒸気がA g
原子の蒸気に集中していると考えられる。これらの結果は青山らの推定を実証し
ている。
その原因としては、A g原子の蒸気により蒸発場所(陰極点)が陰極表面の一ヶ
所に集中することが考えられる。そして、蒸発場所が陰極表面の1ヶ所に集中す
ることによって、陰極表面は加熱されて陰極点におけるA g原子の蒸気密度が高
くなり、電子との衝突による衝突電離や熱電離の量が多くなる。すると、陰極面
に達するイオンの量が増加するため陰極面がより強く加熱され、さらに陰極から
の電子放出量と金属蒸気量が増加して、アーク継続時間が長くなると考えられる。
表5−3 A g,P dの物理定数
川 cm)
融 点 (K ) 沸 点 (K ) 仕 事 関 数 (e V ) 熱 伝 導 率 川 /m ・K ) 体 積 抵 抗 率 (
Ag
12 3 5
2457
4 .2 6
Pd
18 2 7
3 4 40
5 .12
ー 160 −
420
7 0 .6
1.6 2
10 .8
また、長時間アークの継続時間はA g原子の蒸気量に依存していると述べたが、
電極の合金の組成比に関係なくA g原子が蒸発することに疑問が残る。中桶ら[2
5]は、C uにZ nを含有させたアークの分光像写真によりCuとZ nの蒸気密度
を求め、蒸気エンハンスメント(低沸点元素のアーク中の相対金属蒸気密度と電
極中の相対金属原子数密度との比)を測定すると、C u電極に混入するZ nの蒸
気エンハンスメントが100倍以上にもなることを指摘している。そして、そのメカ
ニズムとして陰極点の周辺に小さい溶融領域が形成され、低沸点のZ nの蒸気が
組成比率以上に余分に発生するとしている。
中桶らの考え方を用いるとAgPd合金電極の場合、表5−2から各原子の沸点はA g
原子が2457Kであり、P d原子が3440Kで有り、沸点の低いAg原子の蒸気が多量
に発生する。そして、Ag原子が多量に発生すると長時間アークになる。一万、
本研究では放電を繰り返し行っているため、電極からのAg原子の蒸気量が不足
すると短時間アークになると推測される。
Ag/Pd50Yt%電極で金属蒸気量が最大となり、アpク継続時間が最も長くなる理
由については電極形状による熱的要因が考えられる[26]∼[28]が、詳細について
は今後の研究に委ねることにする。
t 161 −
5.7 おわりに
電源電圧DC50V,通電電流2.5∼5.OAの回路をP d電極対とA g電極対とAgPd合金
電極対で遮断する際に発生する開離時アークの発光スペクトル強度をアーク柱断
面内の2スペクトル強度分布観測システムを用いて測定し、そのスペクトル強度
からアーク温度と金属蒸気量を計算した。その結果、次のような知見を得た。
P d開離時アークでは;
(1)陰極近傍と陽極近傍ともにアーク柱断面内のスペクトル強度分布は非軸対
称であり、放電後期にはスペクトルの分布面積は広くなる。これらの原因と
して、陰極点が高速で接触面上を移動していることが考えられる。
(2)陰極近傍におけるスペクトル強度ピーク値部分のアーク温度は放電初期に
約6000Kに達し、その後、アーク消滅まで一定である。陽極近傍のアーク温度
は放電初期に約6000Kに達し、放電後期には周囲気体がアーク柱の陽極近傍へ
流入するため温度が徐々に低下する。また、陰極近傍のアーク温度は遮断電
流やアーク継続時間に依存しない。
(3)陰極近傍と陽極近傍とも放電初期には金属蒸気量は急激に増加し、アーク
柱の伸展と共に低下する。そして、陽極近傍の金属蒸気量はアーク消滅まで
一定であり、陰極近傍のそれはアーク消滅まで低下し続ける。また、放電中
期以降の陰極近傍の金属蒸気量は陽極近傍のそれよりも多く、金属蒸気密度
も高い。
これらの結果から、アーク消滅は陰極近傍の金属蒸気量に依存していると
考えられる。
金属蒸気の時間変化から判断すると、放電初期に電極間の金属蒸気量が多
く、金属蒸気密度が高いときに、アーク継続時間は長くなると考えられる。
また、アーク継続時間が長いほど放電開始から消滅までの陰極近傍の金属蒸
気総量も多いことが明らかになった。
(4)アーク柱断面内のスペクトル強度分布は接触面形状および放電回数によっ
て著しく変わった。しかしながら、陰極近傍のアーク温度は接触面形状や放
電回数の影響を受けていなかった。そして、金属蒸気量は接触面形状および
放電回数の影響を受けるが、放電初期の金属蒸気量が多いほど、アーク継続
時間が長かった。
− 162 −
A g開離時アークでは;
(1)測定スペクトル強度総量から計算した陰極近傍の平均アーク温度は放電後
期には遮断電流による温度の差は少ない。
陰極近傍のアーク柱断面内の温度分布は放電後期には均一になり、発光ス
ペクトル強度ピーク値部分のアーク温度は時間経過に伴い低くなり、遮断電
流が大きいほどアーク消滅時のアーク温度は高くなる。
(2)放電後期の陰極近傍の金属蒸気量が多いほど、アーク継続時間は長くなる。
(3)接触面形状がアーク柱断面内のスペクトル強度の分布に与える影響は、球
面電極では、放電初期には非軸対称であり、放電回数が多いほどスペクトル
の分布面積は広くなるが、放電後期には放電回数に関係なく軸対称形であり、
スペクトルの分布面積の変動が少ない。平坦電極では、放電回数に関係なく
放電初期から消滅まで非軸対称形であり、球面電極の場合よりスペクトルの
分布面積が広い。
また、放電後期において接触面形状が陰極近傍のアーク温度に与える影響
は小さい。
A g P d合金開離時アークでは;
(1)長時間アークにおける陰極近傍のアーク柱断面内のA gとP dスペクトル
の強度分布は、いずれの合金電極においても放電初期にはP d開離時アーク
の特徴である分布面積が広く、非軸対称であるが、放電後期にはA g開離時
アークの特徴である軸対称形となる。放電後期には陰極点は陰極表面の一ヶ
所に集中していると推測される。
(2)P d電極対の蒸気量は放電初期に多く、その後減少するが、A g電極対お
よびAgPd合金電極対のP d原子とA g原子の蒸気量は放電中期に増加し、放
電後期には一定となる傾向を示す。
AgPd合金電極対では、アーク継続時間は放電後期のA g原子の蒸気量の増
加により長くなり、放電後期にはA g開離時アークの性質が強く現れている
と考えられる。
− 163 −
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一 166 −
第6章 計測結果の検討
6.1 はじめに
本研究で得られた開離時アークの分光計測結果を用いて、開離時アークによる
接点表面の損傷や金属蒸気量の比較や陰極の消耗量の検討を行なう。また、接触
面形状が接点表面の損傷に与える影響についても検討を行う。
6.2 接点表面の損傷
(1)P d電極とA g電極の比較
球面電極対における接点表面の損傷(アーク痕)と陰極近傍のアーク柱断面内の
スペクトル強度分布の関係について考える。
図5−22と図5−40に示したように、P d電極の接点表面の損傷の面積はA g電極
のそれより広い。そして、図5−1と図5−25で示したように、P d開離時アークの陰
極近傍のスペクトル強度分布はA g開離時アークのそれと較べて非軸対称であり、
放電後期にスペクトルの分布面積が極端に広くなる。そして、次の6.3節の金属
蒸気量で示すように、P d電極はA g電極より放電後半の単位時間当たりの蒸発
量が少ない。
以上の結果から、アーク放電を維持するためには陰極からの電子の放出や金属
蒸気の供給が必要なため、P d電極では、電界の強い、電極面の溶融や蒸発しや
すい所を求めて、陰極点は微小な突起を飛び飛びに激しく移動していると考えら
れる。そして、C C Dリニアイメージセンサの露光時間2ms中にP d開離時アー
クの陰極点はランダム移動するため、スペクトル強度の強い部分の軌跡によって
強度分布は非軸対称となり、分布面積は広くなると考えられる。
一方、A g電極では図5−40に示したように、数回の放電で陰極に円形のクレー
タが形成され、陰極点が電界の強いクレータの縁あるいは縁付近を高速で移動す
る。よって、A g電極ではスペクトル強度分布は軸対称形となり、陰極点の移動
範囲が狭いので、接点表面の損傷の面積とスペクトルの分布面積はA g電極の万
がP d電極より狭いと考えられる。
− 167 −
(2)接触面形状の影響
接触面形状と接触面表面の損傷と陰極近傍におけるアーク柱断面内のスペクト
ル強度分布の関係について考える。
球面電極では、P d電極とA g電極の接触面表面の損傷と陰極近傍におけるア
ーク柱断面内のスペクトル強度分布は前述のような関係にある。
一万、平坦電極では、P d電極とA g電極とも図5−17や図5−35で示したように
電界の強い、電極面の溶融や蒸発しやすい所を求めて陰極点が微小な突起を飛び
飛びに激しく移動し、陰極点の移動距離が長くなるため、スペクトル強度の分布
は非軸対称で、存在面積は広くなり、アーク痕が接触面全体にできると考えられ
る。
6.3 p d電極とAg電極の金属蒸気量の比較
(1)アーク柱内の金属蒸気量
アーク柱断面内の2スペクトル強度分布観測システムを用いて測定したP d電
極とA g電極の陰極近傍の金属蒸気量の時間変化は遮断電流5.OAのP d電極とA
g電極のときのそれぞれの最大金属蒸気量(図5−8の8msと図5−33の54ms)で正規化
されているので、両方の金属蒸気量をそのまま比較することはできない。そこで、
言十測システムの出力電圧の校正を行う際基準としたPdI540nmとAgI547nnスペ
クトル強度の出力電圧を測定で用いた図2−21のC C Dカラーリニアイメージセン
サの分光感度と追加フィルタの透過率を比較することにより、校正する。そして、
式(2−8)のgA値とスを考慮して P d電極とA g電極の陰極近傍における金属蒸
気量(金属中性原子の数)の比較を行う。
その結果、遮断電流5.OAの時のP d電極とA g電極の陰極近傍のアーク柱内の
金属蒸気量の最大値を比較すると、A g原子の最大蒸気量(図5−33の最大値)はP
d原子の最大蒸気量(図5−8の最大値)の約4.4倍になる。
また、図5−8と図5−33の遮断電流5.OAと3.3Aの場合の1回の開離時アークにおけ
る放電後半の陰極近傍のアーク柱内の金属蒸気総量(図中の面積)を求めると、表
6−1に示すようにA g電極の陰極近傍の金属蒸気総量はP d電極のそれの約4.6
倍になる。 放電後半を比較した理由は2.6節(1)項で述べたようにA g開離時
ー 168 −
アークの放電初期ではスペクトル強度が弱く、アーク温度が高温であるため、ア
ーク温度と金属蒸気量は多大の誤差を含んでいる可能性があるため、誤差の少な
い放電後半について評価を行った。
(2)陰極の蒸発量
陰極の蒸発量について検討を行う。
陰極を蒸発した金属蒸気の一部は電子と衝突して陽イオンと電子になる。表6−1
に示したように本研究からアーク柱内に存在する金属蒸気量が明らかになったの
で、アーク柱内の粒子の組成が分かれば、おおよその陰極の蒸発量を知ることが
できる。アーク柱内の粒子の組成は熱平衡を仮定してSahaの式から計算できる。
しかしながら、計算する際に必要なアーク柱内の蒸気混入率と蒸気圧は明らかに
なっていないため、ここでは蒸気混入率10%,蒸気圧1気圧と仮定して考えてみる。
P dアークのアーク柱内の粒子組成については、アーク温度3000Kから7000Xの
範囲で計算した(付録1参照)。A gアークのアーク柱内の粒子組成については、
C u蒸気がアーク柱内へ混入した場合の1500Kから30000Kの範囲で計算した作田
ら[1]のアーク柱内の粒子組成の計算結果を使用する。
1回の開離時アークにおける放電後半の陰極の蒸発総量を表6−1に示す。放電後
期の陰極の蒸発総量はA g電極の場合がP d電極の場合の約4.2倍になる。
次に、表6−1の陰極近傍の金属蒸気総量と陰極の蒸発量では、電極材料によって
アーク継続時間が違っているため、両者の値を放電回数5000回とアーク継続時間
で割ることにより単位時間当たりの金属蒸気量を計算する。そして、表6−1の陰極
近傍の金属蒸気総量は原子数であるため原子量(Pd=106.4,Ag=107・9)を考慮して
重量に換算し、さらにP d電極の遮断電流5.OAの陰極近傍の金属蒸気量で正規化
した。計算結果を表6−2に示す。Ag電極の放電後半の単位時間当たりの陰極近傍
の金属蒸気量と陰極の蒸発量ともP d電極のそれらの約2倍になる。
− 169 −
表6−1放電後半の陰極近傍の金属蒸気総量と陰極の蒸発総量(中性原子の数)
遮断
P d
A
g
両
電流
陰 極近傍 の
5 .O A
者
の
比
(A g /P d )
1 (3 4 m s )
4 .6 0 (6 6 m s )
4 .6 0
金 属蒸 気総量
4 .6
[個 (
a.
U.
)]
陰 極の
3 .3 A
0 .4 0 (2 2 m s )
1.8 6 (5 2 m s )
4 .6 5
5 .O A
1.2 3 (3 4 m s )
4 .7 4 (6 6 m s )
3 .8 0
蒸発総 量
4 .2
[個 (
a.
u )]
3 .3 A
0 .4 3 (2 2 m s )
1.9 2 (5 2 m s )
4 .4 7
* Pd電極の遮断電流5.OAの陰極近傍の金属蒸気総量で正規化
*()内の数字はアーク継続時間
表6−2 放電後半の単位時間(ms)当たりの陰極近傍の金属蒸気量
と陰極の蒸発量
遮 断
P d
A
g
両
電流
陰極近傍 の
5 .0
者
の
比
(A g /P d )
1 (3 4 m s )
2 .3 7 (6 6 m s )
2 .3 7
金属蒸 気量
2 .2
[重 量 (
a.
u.
)
/m s ]
陰 極の蒸 発量
3 .3 A
0 .6 2 (2 2 m s )
1.2 2 (5 2 m s )
1 .9 6
5 .O A
1 .2 3 (3 4 m s )
2 .4 4 (6 6m s )
1.9 8
3 .3 A
0 .6 6 (2 2 m s )
1 .2 6 (5 2m s )
1 .9
[重 量 (
a.
U.
)
/m s ]
1 .9 1
* Pd電極の遮断電流5.OAの陰極近傍の金属蒸気総量で正規化
*()内の数字はアーク継続時間
(3)考 察
表6−1と表6−2の実験結果について検討する。
窪野[2][3]は定常真空アークについてP d電極とA g電極の陰極から蒸発する
金属蒸気量を理論的に計算する式を算出しているので、この式を用いてアーク柱
内の金属蒸気量を計算して、表6−1と表6−2の実験結果と比較する。
陰極降下電圧Vcをパラメータとして、アーク電流Ia(A)の関数として陰極表面で
ー 170 −
の陰極点の大きさと温度を算出すると[2]、単位時間当たりの陰極点からの蒸発量
W eva(g/S)は次の近似式[3]で表される。
(1)P d電極
1)V。=10V,2<Ia<150Aの時
logW eva=−4.95+1.68logIa−0.220(logIa)2
(6−1)
2)V。=20V,2<Ia<150Aの時
logW−eVa=−4.72+1.53logIa−0.203(logIa)2
(6−2)
(2)A g電極
1)V。=10V,3<Ia<400Aの時
W−。Va=−3.14×10 4+2.17×10 4Ia−1.74×10 7Ia2 (6−3)
2)V。=20V,3<Ia<400Aの時
W。Va=−2.44×10 5+2.31×10 ̄4Ia−2.21×10 ̄7182 (6−4)
これらの式を用いて、図5−8と図5疇33の開離時アークについて陰極からの蒸発量
(金属中性原子の数)の計算を行なう。陰極降下電圧V。はアーク電流によって変化
し、その値は明確でないため10Vと20Vについて計算した。なお、上記の式ではア
ーク電流の範囲が示されていて、本研究の実験におけるアーク電流はその範囲外
であるが、計算ではそのままそれぞれの式を適用する。計算結果を図6−1に示す。
また、図6−1の結果にアーク柱内の粒子の組成(蒸気混入率10%,蒸気圧1気圧と
仮定)を考慮して計算したアーク柱内に存在する金属蒸気量を図6−2に示す。
また、図6−2から計算したアーク柱内の金属蒸気総量を表6−3に示す。A gアー
クのアーク柱内の金属蒸気総量はP dアークの金属蒸気総量の約4.3倍となり、
表6−1と同様に A g電極の金属蒸気総量がP d電極の金属蒸気総量より多くなっ
た。またこの値は実験値の4.6倍に近い値であった。
放電後半において、アーク柱内のA g原子の金属蒸気総量がP d電極の金属蒸
気総量より多い理由については、A g電極の沸点(1235K)がP d電極の沸点(1827
K)より低いので、A g電極の方がP d電極より陰極が蒸発しやすいためと考えら
れる。
他の要因として、6.2節(1)項で述べたように、P d電極では陰極点が接触面
上の広い範囲を高速移動するが、A g電極では陰極点が接触面上のクレータの縁
− 171 −
あるいは縁付近を移動するため、移動範囲が狭い。よって、A g電極では放電時
間の経過に伴う電極の温度上昇がP d電極のそれより大きいため、A g電極の蒸
発総量が多くなると考えられる。
8 6
2
4 2
8 4
0. 0.
︵Sも701×︶咄車壁弾痕制
炒耕湘南≠詳︵ニ0−凸面\S︶
.6.
11
︵鳥で.OlX︶嘲車壁鮮堆朝
20 40 60
0 20−. 40 60
アーク継続時間(ms)
アーク継続時間(ms)
(A)P dアーク
(B)Agアーク
図6−1陰極から蒸発する金属原子量の時間変化
(真空アーク,遮断電流:5.OA)
80・
8 6 4
20・
2
4
︵鳥寸.OlX︶嘲車壁鮮樵朝
砂灘湖南≠詳︵ニ0−血薗玄
1 ・6 1 ・
︵Sも701×︶嘲車壁輝堆朝
0 20 40 60
20 40 60
アーク継続時間(ms)
アーク継続時間(ms)
(B)Agアーク
(A)P dアーク
図6−2 アーク柱内の金属蒸気量の時間変化
(真空アーク,遮断電流:5.OA)
− 172 −
80
表6−3 アーク柱内の金属蒸気総量の計算結果(遮断電流:5.OA)
陰 極 降 下 電 圧 Vc
P d
10 V
1 .8 0 × 1 0  ̄
 ̄6 g /回
A
g
5 .0 5 × 1 0  ̄6 g /阿
両 者 の 比 (平 均 A g /平 均 P d )
2 .8
(1 .0 × 1 0 1 6 個 /
個 ) (2 .8 × 1 0 1 6 個 /回 )
4 .3
20V
2 .6 4 × 1 0  ̄
 ̄
 ̄6 g /回
1 5 .2 9 × 1 0  ̄
 ̄6 g /回
5 .8
(1 .5 × 1 0 1 6 個 /回 ) (8 .5 × 1 0 1 6 個 ′
個 )
6.4 陰極の消耗量
陰極の消耗量についてアーク継続時間と金属蒸気量の観点から検討を行う。接
点の消耗・転移量は、
(1)接点の接触部分で発生するジュール熱による溶融ブリ ッジの爆発・破壊
(2)アーク放電による接点材料の蒸発
などで決まる。
溶融ブリ ッジの影響については、文献[4]よりP d電極の無放電時におけるブリ
ッジ転移量は実験式として
4.1×10 ̄ ̄13Ib2[cm3/回] (6−1)
で与えられている。この式より、通電電流5.OAの時の転移量は1.08×1010[cm3/
回](1.30×10 ̄ ̄9[g/回])となる。この値は図6−2の陰極からの蒸発量と比較すると
わずかである。また、文献[5]の図15よりA g電極のブリ ッジ転移量はP d電極の
それの1/10程度である。以上の結果から、ここでの検討では溶融ブリ ッジの消耗
・転移による影響は無視する。
電極の消耗・転移量は電子天秤(METTLER:AM50)を用いて重量で測定する。電子
天秤の最小表示は0.1mgである。放電回数は電子天秤で測定可能な重量が得られる
5000回とする。実験条件は表2−1と同じであり、負荷としてセラミック抵抗体10∼
50日を用い遮断電流1.0∼5.OAの範囲で測定する。
P d電極対とA g電極対で5000回遮断した時の消耗・転移量およびアーク継続
時間の関係を図6−3に示す。図6−3に示すように遮断電流が大きいほどアーク継続
時間は長くなり、消耗・転移量は多くなる。
P d電極とA g電極の遮断電流5.OAと3.3Aの時の消耗・転移量と平均アーク継
− 173 −
続時間の測定結果をまとめ表6−4に示す。また、表6−4の陰極の消耗・転移量ではア
ーク継続時間が違っているため、両者の値を放電回数5000回とアーク継続時間で
割ることにより単位時間当たりの金属蒸気量を計算して表6−5に示す。
5
︵sE︶ uO召しコpU壱
2
︵叫∈︶美占
0
巾)消耗・転移量
m)消耗・転移量
(A)Pd電極
(B)Ag電極
図6−3 電極の消耗・転移量(DC 50V,5000回)
陰極の消耗量について考える。
陰極から蒸発した金属原子は陰極から放出された電子によって電離し、残りは
金属蒸気として存在している。そして、電離によって生成された陽イオンの一部
は陰極へ衝突する。そして、その陽イオンの一部は陰極内部から電子を取り出し、
中和して大部分陰極へ付着すると仮定する。すると、陰極の消耗量は陰極からの
− 174 −
蒸発総量と陰極近傍のアーク柱内の金属蒸気総量の間にあるとみなすことができ
る。
表6−2より、放電後半の単位時間当たりの陰極の蒸発量はA g電極ではP d電極
の約1.9倍である。しかし、単位時間当たりの陰極の消耗量はA g電極ではP d電
極の約0.17倍であり、P d電極の消耗量の方がA g電極のそれより多い。この結
果から、P d電極の陰極材料は放電によって金属粒子の形で多量に飛ばされてい
ると考えられる[6][7]。そこで、図6−4において5000回の開離時アークにさらされ
た電極の接触面の観察結果を図6−5に示す。P d電極では陽極に多量の金属粒子の
付着が確認できる。
また、表6−4に示すように、P d電極とA g電極の陰極の消耗量は同じ位である
が、陽極への転移量はA g電極の方がP d電極より多い。原因として、P d電極
では陰極点の電極面上での移動範囲が大きいため、多量の金属蒸気や金属粒子が
周囲へ飛散していると考えられる。
表6−4 消耗・転移量と平均アーク継続時間
電
極
P d
遮 断電流
測定項 目
5 .O A
消 耗 ・転 移 量
平 均 ア ー ク継 続 時 間
3 .3 A
消 耗 ・転 移 量
A g
陰極
陽極
陰極
陽極
−2 .0 7 m g
+0 .7 0 m g
−2 .3 0 m g
+1.9 3 m g
1 3 .2 m s
−0 .9 3 m g
平 均 ア ー ク継 続 時 間
7 2 .8 m s
+0 .4 7 m g
−0 .9 7 m g
7 .3 m s
+0 .5 7m g
5 5 .9 m s
* 放電回数:5000回
表6−5 単位時間(ms)当たりの陰極の消耗量
遮 断
P d
A
g
電 流
陰 極 の 消 耗 量
5 .O A
両
者
の
比
(A g /P d )
3 1 .4
(1 3 .2 m s )
6 .3
(7 2 .8 m s )
0 .2 0
[n g /m s ]
0 .1 7
3 .3 A
2 5 .5
( 7 .3 m s )
3 .5
(5 5 .9 m s )
0 .1 4
*()内の数字はアーク継続時間
ー 175 −
− 9Al −
(Vg●£:軍を畑葦)
苦学遠視ひ些鞘事等叫宕う卓二!4−∠軸掘出α回000g卜9囲
到蟄Bv(江)
動きpd(Ⅴ)
6.5 おわりに
本研究で得られた開離時アークの分光計測結果を用いて、開離時アークによる
金属蒸気量や接点表面の損傷や陰極の消耗量の検討を行った。その結果、以下の
ような知見を得た。
(1)本研究で得られた放電後半の単位時間当たりの陰極近傍の金属蒸気量につ
いてはA g電極はP d電極の約2.2倍であり、放電後半の単位時間当たりの陰
極の蒸発量についてはA g電極はP d電極の約1.9倍であり、いづれもA g電
極の方がP d電極より多かった。
(2)陰極近傍の金属蒸気量と陰極の蒸発量はA g電極の方がP d電極より多い
のに、A g電極の単位時間当たりの陰極の消耗量はP d電極のそれの約0.17
倍であることから、P d電極の陰極は金属粒子の形で多量に飛ばされている
と考えられる。また、陰極点の電極面上での移動範囲が大きいため、周囲へ
の飛散も多いと考えられる。
(3)A g電極の陰極からの蒸発総量がP d電極のそれより多い理由として、A
g電極の沸点がP d電極の沸点より低いことが考えられる。また、他の要因
として、P d電極ではアーク放電を維持するために陰極点が広範囲に移動す
る。そのため、電極の温度上昇は少ない。一万、A g電極では接触面が蒸発
しやすいので、陰極に円形のクレータが容易に形成され、陰極点が電界の強
いクレータの縁あるいは縁付近の狭い範囲を高速で移動するため、放電時間
の経過に伴い電極の温度が上昇する。その結果、A g電極はP d電極より、
蒸発総量が多く、アーク継続時間が長くなる考えられる。
(4)Agの球面電極ではクレータができ易く、陰極点の移動範囲が制約される
のでアーク痕の面積は小さく、スペクトルの強度分布は軸対称形で分布面積
は小さい。一方、P d電極と、A gの平坦電極では陰極点の移動範囲が広く
激しく移動するため、アーク痕の面積は広くなり、スペクトルの強度分布は
非軸対称で分布面積は広くなると考えられる。
− 177 −
第6章の参考文献
[1]作田忠裕,鬼頭幸生,宮地巌,”銅蒸気混入による高温空気中の電子密度の増加
,”電学論A,VOl.98,nO.48,pp.209−214,April1978・
[2]窪野隆能,”定常真空アーク放電におけるアーク足の半径と陰極材料の蒸発速
度,”電学論,VOl.97,nO.8,pp.41−48,Aug.1977.
[3]K.Takayoshi,”The
cious
metal
evaporation
electrodesin
vacuum
rate
from
a
single
cathode
spot
on
pre ̄
arcs,”J.Appl.Phys.,VOl.50,nO.12,pp.
7958−7964,Dec.1979.
[4]R.Ⅰ.B.Cooper andJ.Riddlestone,”The variation Yith current andindu−
ctance
of
metal
transfer
betYeen
COntaCtS
Of
palladium
and
silver,’’
Proc.Inst.Elect.Engrs.part C,105,7,p.212,1985.
[5]窪野隆能,鈴木純司,”ブリッジ寸法と転移量に関する理論的考察,”信学論,
vol.J63−C,nO.10,p.671,Oct.1980.
[6]陳専科,沢孝一郎,”材料転移と接触抵抗のアーク継続時間への依存性に関する
研究,”信学論(C−Ⅱ),VOl.J79−C−Ⅱ,nO.7,pp.349−357,July1996.
[7]土屋金弥,”電気接点技術,”総合電子出版社,pp.94,1982.
ー 178 −
第7章 結 論
本研究では、小中電力用リレーやスイッチの電気接点間に発生する開離時アー
クの性質を調べるため、時間的、空間的に変動しているアーク柱内の温度および
金属蒸気量の測定が可能な以下の特徴を有する3種類の分光計測システムを開発
した。
(1)ヱ_ルチチャネル分光計測システち
1)複数のスペクトル強度の同時観測が可能(周波数範囲;380∼900nm)
2)スペクトル強度の時間変化の測定が可能
(走査時間5ms/scan(最短2ms/scan),最大70ns)
3)アーク温度と金属蒸気密度の算定が可能
(2)アーク柱軸方向に沿った2スペクトル強度分布観測システム
1)分光器を使用せずC CDカラーカメラと追加フィルタを用いた簡単なシス
テム
2)C C Dカラーエリアイメージセンサと追加フィルタの組み合わせによりア
ーク柱の軸方向に沿った2スペクトル強度の同時観測が可能
3)A b el変換によりスペクトル強度の空間分布測定が可能
4)スペクトル強度の時間変化の測定が可能(走査時間;16.7ms/scan)
5)アーク温度と金属蒸気密度の算定が可能
(3)アーク柱断面内の2スペクトル強度分布観測システム
1)分光器を使用せずC C Dカラーリニアイメージセンサと追加フィルタを用
いた簡単なシステム
2)C C Dカラーリニアイメージセンサと追加フィルタの組み合わせによりア
ーク柱断面内の2スペクトル強度の同時観測が可能
3)再構成法によりスペクトル強度の空間分布の測定が可能
4)スペクトル強度の時間変化の測定が可能(走査時間;2ms/scan,最大60ms)
5)アーク温度と金属蒸気密度の算定が可能
第2章ではそれらの分光計測システムの説明を行い、銅電極を遮断した際の開
離時アークの測定結果を示すことによって、その有効性を実験的に実証した。
− 179 −
第3章から第6章では電気接点の研究に用いられる代表的な接点材料であるパ
ラジウム(Pd)電極対と銀(Ag)電極対およびAgPd合金電極対に発生する開離時アー
クの発光スペクトル強度分布とアーク温度と金属蒸気量の言十側に3種類の分光計
測システムを応用し、いくつかの新しい実験結果を示した。
本研究の結果は以下のように総括できる。
(1)P d開離時アークについて
電源電圧DC50V、通電電流3.3∼5.OAの回路をP d電極対で遮断した際に発生す
る開離時アークについて、以下の知見を得た。
1)陰極近傍と陽極近傍のアーク柱断面内のスペクトル強度空間分布は放電開始
から消滅まで非軸対称であり、放電中期から消滅までアーク柱の断面積が拡大
した。原因としては、陰極点が高速で電極面上を移動することが考えられる。
2)陰極近傍の平均アーク温度は遮断電流に関係なく5750∼6100Kとなった。
陰極近傍のアーク柱断面内のスペクトル強度の最も強い場所のアーク温度は
放電の初期に約6000ほで達し、その後消滅まで一定のままとなるが、陽極近傍
では放電の初期に約6000Kまで達し、放電の中期以降、その温度は低下した。ま
た、アーク温度の遮断電流への依存性は少ないことを明らかにした。
3)陰極近傍と陽極近傍とも、放電開始時にアーク柱内の金属蒸気量および金属
蒸気密度は急激に増加し、その後、それらは陰極近傍では消滅まで低下し続け、
陽極近傍では低下して消滅まで一定のままである。さらに、陰極近傍の金属蒸
気量と金属蒸気密度は陽極近傍のそれらよりも多く、高いことを明らかにした。
これらの結果から、放電中期以降では金属蒸気は陰極から主に蒸発して、陽
極からの蒸発は少ないことが証明された。また、アーク消滅は陰極からの金属
蒸気量に依存していると考えられる。
4)放電初期に電極間の金属蒸気量が多く、金属蒸気密度が高いときに、アーク
継続時間は長くなった。
また、アーク継続時間が長いほど、放電開始から消滅までの陰極近傍の金属
蒸気量も多いことも明らかになった。
5)アーク柱断面内のスペクトル強度分布は接触面形状および放電回数によって
著しく変わった。しかしながら、アーク温度は接触面形状や放電回数の影響を
受けないことが明らかになった。
− 180 −
(2)A g開離時アークについて
電源電圧DC 50V,通電電流2.5∼5.OAの回路をA g電極対で遮断した際に発生す
る開離時アークについて、以下の知見を得た。
1)マルチチャネル分光計測システムによる測定では、放電中期には遮断電流が
高いほどアーク温度も高くなる傾向があった。アーク消滅時の平均アーク温度
は5050∼5300Xであり、遮断電流への依存性は少ないことを明らかにした。
2)アーク柱軸方向に沿ったA g原子の発光スペクトル強度は陰極近傍で強く、
陰極から離れるほど弱かった。陰極近傍(∼83.7〟m)のアーク柱断面内の温度
はアーク柱の中心軸付近で高く、アーク柱の中心軸上の温度は陰極近傍で最も
高く陰極から離れるほど低くなった。また、本研究からCNバンドスペクトル
が陽極近傍に存在して、ガス相アークでは周囲空気がアーク柱の陽極近傍に入
り込むことが明らかになった。このことから、陰極近傍はC N基が解離してい
るか、大気の流入を抑制するほどの蒸気圧になっていると推測される。
3)陰極近傍のアーク柱直径方向断面内の温度分布は開離時アークの伸長に伴い
均一になった。アーク柱断面内の平均アーク温度は放電後期には遮断電流に依
存しなかった。また、アーク柱断面内のスペクトル強度の最も強い場所のアー
ク温度は放電初期に高温で時間経過に伴い低くなり、アーク消滅時には遮断電
流が高いほど、そのアーク温度は高くなることが明らかになった。
4)放電後期の陰極近傍のアーク柱内の金属蒸気量が多いほど、すなわち陰極か
ら蒸発する蒸気量が多いほどアーク継続時間が長くなる傾向を示した。
(3)A g P d合金開離時アークについて
電源電圧DC 50V,通電電流3.3Aの回路をAgPd合金電極対で遮断した際に発生す
る長時間アークについて、以下の知見を得た。
1)AgPd合金電極の開離時アークの温度は放電初期には高温であるが、放電後期
には低下し、合金組成による差は少なく、A g開離時アークの温度に近いこと
が明らかになった。
2)Ag/Pd50Yt%電極では、放電後期に金属蒸気量がアーク柱軸方向に沿って全体
的に増大して、他の合金電極よりアーク継続時間が長くなることが明らかにな
った。
− 181 −
3)いずれの合金電極においても、陰極近傍のアーク柱断面内のA gとP dスペ
クトルの強度分布は、放電初期にはP d開離時アークの特徴である分布面積が
広く、非軸対称であるが、放電後期にはA g開離時アークの特徴である軸対称
形となる。放電後期には陰極点は陰極表面の一ヶ所に集中していると推測され
る。
4)AgPd合金電極では、アーク継続時間は放電後期のA g原子の蒸気量の増加に
より長くなり、放電後期にはA g開離時アークの性質が強く現れていると考え
られる。
これらの分光言十測結果から、以下の有効な予測を得た。
(1)A g電極対はP d電極対より単位時間あたりの金属蒸気量が多く、蒸発総
量も多くなる。実験結果から、A g電極対の放電後半の単位時間当たりの陰極
近傍の金属蒸気量と陰極の蒸発量はP d電極対のそれの約2倍である。
A g電極対の蒸発量がP d電極対のそれより多い理由としては、A g電極の
沸点がP d電極の沸点より低いためと考えられる。他の要因として、アーク痕
とスペクトル強度分布の関係から、P d電極ではアーク放電を維持するために
陰極点が微小な突起を飛び飛びに激しく移動する。すると、陰極点の温度上昇
は少なく、金属蒸気量も少ない。一方、A g電極では接触面が蒸発しやすいの
で、陰極に円形のクレータが容易に形成され、陰極点が電界の強いクレータの
縁あるいは縁付近を移動する。すると、放電時間の経過に伴い電極の温度は上
昇し、蒸発量は多くなると推測される。
(2)P d電極対とA g電極対の陰極の消耗量は同じ位であることから、P d電
極の陰極は金属粒子の形で多量に飛ばされている。また、P d電極では陰極点
が接触面上を広い範囲に移動するため、周囲への飛散も大きいと推測される。
(3)P d電極対と、A gの平坦電極対のアーク柱断面内のスペクトル強度分布
は放電回数に関係なく非軸対称形であり、球面電極の場合より存在面積が広か
った。P d電極対と、A gの平坦電極対ではアーク放電を維持するのに陰極点
が微小な突起を飛び飛びに激しく移動するため、スペクトル強度分布は非軸対
称であり、分布面積が広くなると考えられる。
A gの球面電極対のスペクトル強度分布は放電前期には非軸対称であり、放
一 182 −
電回数が多いほどスペクトルの分布面積は広くなるが、放電後期には放電回数
や曲率半径に関係なく軸対称形でスペクトルの分布面積の変動が少なかった。
A g電極では陰極に円形のクレータが容易に形成され、陰極点が電界の強いク
レータの縁あるいは縁付近を移動するのでスペクトル強度分布は軸対称形であ
り、分布面積が小いと考えられる。
以上、本研究ではリレーやスイッチに使われている電気接点間に発生する開離
時アークの計測のための3種類の分光計測システムについて述べ、その有効性を
示した。そして、その応用としてパラジウム電極対、銀電極対、銀パラジウム合
金電極対に発生する開離時アークの分光計測を行い、開離時アークの性質として
多くの学術的知見を得た。
また、本分光計測の手法はリレーやスイッチの開離時アークだけでなく光源、
溶接、溶射あるいは静電気や大電流アークやプラズマや天文学の分野においての
応用も期待できると考えている。
本研究に残された課題として、
(1)A g開離時アークにおける放電初期・中期のアーク温度と金属蒸気量の検
証。
(2)本研究にて、AgPd合金電極のアーク継続時間は合金の組成に依存して、Ag
/Pd50Yt%電極ではA g原子の蒸気量が最も多くなるため、アーク継続時間
が最も長くなることが明らかになったが、なぜAg/Pd50vt%電極でA g原子
の蒸気量が最も多くなるのかの理由。
などが挙げられる。
また、本研究をさらに発展させる課題として、
(1)新しい接点材料の開発
(2)アーク柱内の電子およびイオンの分布および密度の測定
などが挙げられる。
− 183 −
謝 辞
研究を進行するにあたり終始御指導下さいました静岡大学工学部窪野隆能教
授に深く感謝致します。
本論文をまとめるにあたって、数々のご教示とご指導を賜わりました静岡大学
工学部染谷太郎教授、神藤正士教授、中西洋一郎教授、松本隆宇助教授に厚くお
礼を申し上げます。
多大なるご迷惑をおかけしながらも、面倒をみて下さいました名古屋市工業研
究所加藤輝政所長、電子情報部加藤久雄部長、電子情報部制御技術研究室濱
田幸弘室長、資源環境部製品技術研究室三宅卓志室長、元所長今井敦夫氏、元
所長寺田仁計氏、元所長林盛彦氏、故元電子部部長服部肇氏、元機械部部長
鈴木聡氏、元電子部機電技術課長藤本淳二氏、元電子部電子技術課長森永重
代記氏に深く感謝致します。
また、研究上の有益な助言をいただきました静岡大学中桶悟光先生、名城大学
谷口正成先生、松下電工㈱青山洋一博士、故静岡大学名誉教授宇野正美先生なら
びに電子情報通信学会機構デバイス研究会、継電器研究会の皆様に、お礼申し上
げます。
妻・潔美、息子・創、智也、健太の励ましにあらためて感謝します0
− 184 −
付 録
付録1.アーク柱内粒子組成の計算
(1)P dアーク
P dアークの粒子組成について計算する。アーク温度は3000Kから7000Kの範囲
について、アpク柱内の構成粒子としてP d(PdI),P d←(PdI),N2,N,N+,
02,0,0+, NO,NO+,電子(e)について考える。
2価の陽イオンを考慮しなかったのは、7000K以下ではそれらの粒子の密度は無
視できる値になるからである。熱平衡を仮定した時、成立する反応式および条件
式を示す[1][2]。
(7c mNk T)3/2
n N2
e x p(−EN2/k T)
(1)
h3
(冗m。k T)3/2
e
h3
n(12
(2冗m。k T)3/2
n N n e
2 z
h3
n N
e
x
p(−EN+/k
T)
e
x
p(−Eo+/k
T)
N+
e x p(−ENO/k T)
n NO†n e
(4)
Z N Z o
h3
n NO
(3)
Z o
(27lmN。kT)3/2
n N n O
T)
2 Z。+
h3
n(1
p(一Eo2/k
Z N
(2冗m。k T)3/2
n o n e
(2)
x
Z o2
(5)
Z NO
(2万m。k T)3/2
2 z
NO+
e x p(−ENOL/kT) (6)
h3
n NO
n p d n e
Z NO
(2万m。k T)3/2
2 z
pd十
e
n p d
h:−
x
p(−Epd’/k
T) (7)
Z p d
2n N2+n N。+nN。十+n N+n N◆ 78
(8)
2 n o2+n NO+n NO,+n。+n。十 2 2
nN2+n。2+nN。+nN。++nN+n。+np.+nN++n。++n。。++n c=P/k T (9)
n e=nN++n。++nN。++n r,。
(10)
n pd+n pd+
=Xp。(11)
nN2+no2+nNO+nNO++nN+n。+nN++n。十+n。。+n.訂
− 185 −
く変数〉
n.;粒子密度(m3) ne;電子密度(m3)
P;全圧力(atm) T;温度(K)
Ⅹ。。;蒸気混入率
Zi;内部状態和(文献[3]より計算)
く定数〉
電離電圧と解離電圧 EN2= 9.76eV,Eo2= 5・08eV,EN()= 6・48eV
EN+=14.53eV,Eo←=13.61eV,ENO†=9・5eV,Epd十=8・34eV
電子の質量 me=9.109×1031kg, NOの質量 mNO=4・98×1031kg
窒素の質量 mN=2.33×1031kg, 酸素の質量 mo=2.65×1031kg
ボルツマンの定数 k=1.380×10 23J/k(1.602×1019J/eV)
ブランクの定数 h=6.626×10 34J・S
(1)∼(7)式はSahaの式である。
(8)式は大気中の窒素と酸素の混合比を示す。
(9)式は気体の状態方程式を示す。ここでPは全圧力である。
(10)式は電気的中性の条件式である。
(11)式はアーク柱内へのP d蒸気の混入率Xl}dを定義したものである。
P d蒸気,全圧力P,アーク温度Tを仮定すればこれらの方程式より、各粒子
の密度を求めることができる。計算は Maple V Release3(サイバーネットシス
テム㈱)を用いて行った。付図卜1にP=latm(1.013×105N/m2),P d蒸気を10
%含む場合(Ⅹ。。=0.1)の各粒子の密度と温度の関係を示す。また、付図1−2にア
ーク柱内へのP d蒸気混入によるアーク柱内の粒子組成の変化を示す。本研究の
アーク柱への蒸気混入率を計算するとおおよそ1.2%であることから、計算は蒸気
混入率0.1∼10%の範囲で行った。付図1−2より、(Pd+Pd→)/Pd=l・06∼l・61倍であ
り、アーク柱への蒸気混入による(PdとPd+)の組成への影響は少ないとみなした。
(2)A gアーク
Agアークのアーク柱内の粒子組成については、作田ら[1]がCu蒸気のアーク
柱内へ混入した場合の アーク柱内の粒子組成を1500Kから30000Kの範囲で計算し
ている。また、青山ら[2]がA g蒸気のアーク柱内へ混入した場合の粒子組成をア
ーク温度9500Kから20000Kの範囲で計算している。C uとA gの電離電圧は7・72eV
ー 186 −
と7・58eVであり、両者は近く、作田らのCuアークと青山らのAgアークの粒子
組成の計算結果を比較するとほぼ近い値であった。そこで、Agアークの粒子組
成については作田らのCuアークの粒子組成の計算結果を使用する。
3000
5000
70(X)
アーク温度T(K)
付図卜l P dアークにおけるアーク柱内
の粒子組成(Xpd=0.1,P=1atm)
付図1−2 P d蒸気混入による
アーク柱内の粒子組成
の変化
(P=latm,アーク温度6000K)
付録の参考文献
[1]作田忠裕,鬼頭幸生,宮地巌,”銅蒸気混入による高温空気中の電子密度の増加
,”電学論A,VOl.98,nO.48,pp.209−214,Apri11978.
[2]高山晋治,青山洋一,岡田健彦,”分光分析による熱分解ガスのアーク冷却効果
の解析,”信学技報,EMC90−48,pp.1−8,Dec.1990.
[3]中野義美,”プラズマ工学例題演習,”コロナ社,pp.120−122,1975.
− 187 −
研究業績
Ⅰ.学会論文誌投稿論文
(A)フルペーパー
[1]M.Takeuchi and T.Kubono,”A system of measuring spatial distribution
of
spectroscopicintensityin
a
cross
section
of
Ag
arc
column,”IEI
CE Trans.Electronics,VOl.E77−C,nO.10,pp.1634−1639,Oct.1994.
[2]M.Takeuchi and T.Kubono,”Experimental on the radiated magnetic field
caused
by
a
breaking
arc,”IEICE
Trans・Communications,VOl・E79−B・
no.4,Pp.503−508,April1996.
[3]竹内満,窪野隆能,,,マルチチャネル分光計測システム(MSMS)とその接点開離
時アークの温度測定への応用,”電子情報通信学会論文誌(C−Ⅱ),VOl・J79−C
−Ⅱ,nO.9,Pp.483−489,Sep.1996.
(米国Scripta Technica.Inc.発行の”Electronics and Communicationsin
Japan Part Ⅱ:Electronics”に英訳掲載)
[4]竹内満,窪野隆能,”AgPd合金接点における開離時アークのアーク継続時間と
発光スペクトルの関係,”電子情報通信学会論文誌(C−Ⅱ),VOl.J79−C−Ⅱ,
no.11,pp.588−594,Nov.1996.
[5]竹内満,窪野隆能,”AgPd合金接点における開離時アークの金属蒸気に関する
研究,”電子情報通信学会論文誌(C−Ⅱ),VOl.J80−C−Ⅱ,nO.11,pp.370−377,
Nov.1997.
(米国Scripta Technica.Inc.発行の”Electronics and Communicationsin
Japan Part Ⅱ:Electronics”に英訳掲載)
[6]M.Takeuchi and T.Kubono,”Influence of the shape of contact surface
on the spatial distribution of spectralintensity of breaking arcs
in
Palladium
contacts,”IEICE
Trans.Electronics,VOl.E81−C,nO.3,pp.
384−391,.March1998.
[7]M.Takeuchi and T.Kubono,”The spatial distributions of spectralinte−
nsity and temperaturein the cross section of an arc column betYeen
separating
Pd
contacts,”IEEE
Trans.on
Component,Packaging,and
Manufacturing Technology−Part A,VOl.21,nO.1,pp.68−75,March1998.
[8]M.Takeuchi and T.Kubono,”Temperature and metal−VapOr near COntaCtS
in
Pd
breaking
arcs
by
spectroscopic
measurement,”IEICE
Trans.Ele−
ctronics,VOl.E8卜C,nO.7,pp.1143−1150,July1998.
[9]M.Takeuchi and T.Kubono,”Observation of the breaking arc betYeen
silver
contacts
using
a
high
speed
color
− 188 −
video,”IEICE
Trans.Elect−
ronics,VOl.82−C,nO.1,pp.33−40,Janu.1999.
[10]M.Takeuchi and T.Kubono,”Influence of the shape of contact surface
On the spatial distribution of spectralintensity of Pd breaking arc,
”IEICE
Trans.Electronics,VOl.82−C,nO.1,pp.41−48,Janu.1999.
[11]M.Takeuchi and T.Kubono,”A spectroscopic system to measure the
temperature
distribution
of
Ag
breaking
arc
using
CCD
color
camera,”
IEEE Trans.OnInstrumentation and Measurement,VOl.48,nO.3,pp.678−
683,June1999.
(B)研究速報
[l]竹内満,窪野隆能,”AgPd合金接点アークのアーク柱軸方向の発光スペクトル
強度分布,”電子情報通信学会(C−Ⅱ・研究速報),VOl.J80−C−II,nO.9,pp.
312−316,Sep.1997.
Ⅱ.国際会議発表論文
[1]M.Takeuchi and T.Kubono,”A measurement system for spatial distribut−
ions of tvo optical spectrumsin a cross section of Ag sYitching arc
COlumn,”proc.Inter.Conf.Electrical
Contact,Nagoya,ICEC’94,pp.
763−770,July1994.
[2]M.Takeuchi and T.Kubono,”The spatial distribution of temperaturein
a
cross
section
of
arc
column
nearby
cathode
contacts,” proc.4lst
IEEE Holm Conference on Electrical Contact,Montreal,pp.210−218,Oct.
1995.
[3]M.Takeuchi and T.Kubono,”The spatial distributions of spectralinte−
nsitiy and temperaturein the cross section bf an arc column betYeen
Separating
Pd
contacts,”proc.42ndIEEE
Holm
Conference
on
Electr−
ical Contact,Chicago,Pp.229−237,Sep.1996.
[4]M.Takeuchi and T.Kubono,”spectroscopic measurement by a simple equ卜
pment
and
temperature
profiles
of
breaking
arc
near
Pd
cathode,”proc.
1996Int・Conf.on Plasma Physics,Nagoya,1996.
[5]M・Takeuchi and T.Kubono,”spectroscopic measurement for copper break−
ing
arc
by
using
a
CCD
color
camera
and
an
additional
filter,”proc.
Inter・Conf・Electrical Contacts,Nagoya,ICECT,99,pp.147−156,July
1999.
− 189 −
Ⅲ.学会研究会発表
(A)電子情報通信学会・機構デバイス研究会
[1]竹内満,窪野隆能,”スイッチングアーク発光スペクトルの空間分布に関する
研究,”信学技報,EMD92−17,pp・7−13,June1992・
[2]竹内満,窪野隆能,”スイッチングアークからの電磁誘導ノイズと発光スペク
トルに関する研究,”信学技報,EMD92−78,pp・19−24・Nov・1992・
[3]芸宝覧讐買讐笠を嘉法器忘器言震憲浣禁モ讐芸豊
技報,EMD92−97,pp.13−18,Jan・1993・
[4]竹内満,窪野隆能,”スイッチングアーク発光スペクトルの空間分布に関する
研究(その3)−CNバンドスペクトルの挙動測定一了’信学技報・EMD93−3・pp・
[5]芸宝琵琶票讐≡≡遠:㌫憲£7㍍£芸芸歪芸言三笠誓霊霊芸豊讐手芸
学技報,EMD93−58,pp.29−34,Oct・1993・
[6]竹内満,窪野隆能,”マルチチャンネル分光計測システムを使ったスイッチン
グアpクの温度測定,”信学技報,EMD93−18,pp・25−30,June1993・
[7]竹内満,窪野隆能,”開離接点のアーク継続時間測定,”信学技報,EMD93−86・
pp.19−25,Feb.1994.
[8]竹内満,窪野隆能,”スイッチングアークからの電磁誘導ノイズと発光スペク
トルに関する研究(その2)一Ag接点開離時の電磁誘導ノイズの周波数分析と
発光スペクトルの時間変化−,”信学技報・EMD93−99・pP・15−20・March1994・
[9]竹内満,窪野隆能,”分光測定法によるAgPd接点での開離時アークの温度測定,
”信学技報,EMD94−26,pp.27−32,July1994・
[10]竹内満,窪野隆能,”スイッチングアーク発光スペクトルの空間分布に関する
研究(その5トAg接点アークにおける発光スペクトル強度の軸方向分布測定
,”信学技報,EMD94−47,pp.7−12,Nov・1994・
[11]竹内満,窪野隆能,”スイッチングアーク発光スペクトルの空間分布に関する
研究(その6)−Pd接点アークにおける発光スペクトル強度分布の測定一・”信
学技報,EMD95−68,pp.7−12,Jan.1996・
[12]竹内満,窪野隆能,”AgPd合金接点での開離時アークの2波長発光スペクトル
測定,”信学技報,EMD94−75,pp.27−32,Feb・1995・
[13]竹内満,窪野隆能,”スイッチングアーク発光スペクトルの空間分布に関する
研究(その7)−Pd接点におけるアーク温度の測定一・”信学技報・EMD96−71・
− 190 −
pp.7−12,Nov.1996.
[14]竹内満,窪野隆能,”スイッチングアーク発光スペクトルの空間分布に関する
研究(その8)−Cu,Ag,Pd接点における接触面形状と発光スペクトル強度分布
の関係−,”信学技報,EMD96−96,pp.1−6,Feb.1997.
[15]竹内満,窪野隆能,”高速度ビデオによる開離時アークの観測,”信学技報,
EMD97−97,pp.67−72,Feb.1998.
[16]竹内満,窪野隆能,”C CDカラーカメラと追加フィルタを使った銅開離時ア
ークの分光測定,”信学技報,EMD98−89,pp.19−26,Feb.1994.
(B)電子情報通信学会・全国大会
[1]竹内満,窪野隆能,”pdスイッチングアークにおける発光スペクトルの空間分布
測定,”信学’93春大C−379,March1994.
[2]竹内満,窪野隆能,”Ag接点開離時アークに電源電圧と閉成時回路電流が与える
影響に関する一実験,”信学’97春大,SC5−8,March1997.
[3]竹内満,窪野隆能,”高速度ビデオによるA g開離時アークの陰極輝点の観測,
”信学’98春大,nO.,Harch1998.
(C)電気関係学会東海支部での口頭発表
[1]竹内満,”凹面ホログラフィ ックグレイティングを使った高速分光計測システ
ム,”平元東海連大No.562,Oct.1989.
[2]竹内満,”C CDリニアイメージセンサにおける残像特性の測定,”平2東海連
大,nO.580,Oct.1990.
[3]竹内満,窪野隆能,”スイッチングアークにおけるスペクトルの空間分布測定,
”平3東海連大,nO.28,Nov.1991.
[4]竹内満,窪野隆能,”Ag電極開離時アーク発光スペクトルの2波長空間分布同
時測定,”平4東海連大,nO.77,Oct.1992.
[5]竹内満,窪野隆能,’’Agスイッチングアークにおけるアーク温度の空間分布測
定,”平6東海連大,nO.64,Oct.1994.
[6]竹内満,窪野隆能,’’pd接点アークの温度測定,”平7東海連大,nO・12,Sep.
1995.
− 191 −
[7]竹内満,窪野隆能,”cuプレイキングアークの温度測定,”平8東海連大・nO・9・
[8]竹内満,窪野隆能,”pd開離時アークにおける電極近傍のアーク温度と金属蒸
気量測定,”平9東海連大,nO.65,Sep・1997・
[9]竹内満,窪野隆能,”高速度カラービデオと追加フィルタによるAg開離時アー
クの観測,”平10東海連大,nO.1,Sep・1998・
[10]竹内満,窪野隆能,”高速度カラービデオによるPd開離時アークの陰極輝点
の観測,”平日東海連大,nO.56,Sep.1999・
Ⅳ.その他の研究会発表
(A)継電器研究会
[1]竹内満,窪野隆能,”cCDリニアイメージセンサの残像特性と一部分を利用し
た走査時間の短縮化,”428−3,Aug.1992・
[2]竹内満,窪野隆能,”低速開離接点でのアーク継続時間測定・”440−1・Aug・1993・
一 192 一