砂漠の中の街ドバイ旅行記

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砂漠の中の街ドバイ旅行記
厚生連柏崎総合医療センター 植
木
匡
この夏、久しぶりに海外に行くことができた。
人口130万人のうち2割のアラビア人が富を持ち、
別の国に行く予定であったが、飛行機のキャンセ
インドとパキスタン人が8割弱、あとは東アジア
ル待ちが取れないと約1か月前に連絡がきて右往
人なのだそうだ。
住宅周辺に芝や木があるのだが、
左往の結果ドバイになった。平成15年の外科研修
全てにホースが敷き詰められ散水しなければ枯れ
医が学生時代にドバイを訪れたと聞き覚えていた
てしまう。水は、大型造水プラントで海洋深層水
ところに、自動車 SUV による砂漠ツアーが最近
の淡水化を24時間行って賄っているとのことで、
人気であるとテレビで見て決定した。
造水が止まれば砂漠の中の廃墟になってしまうと
情報収集すると、8月の平均気温は最高40度・
思うと恐ろしい限りである。造水能力は物凄く、
最低30度で湿度も高いとのこと、旅行前日の予報
最新のホテルやショッピングモールには2階建て
では最高気温45度と未体験ゾーンである。
その上、
くらいの水槽を持つ水族館や人工スキー場まであ
イスラム教の国であるので、酒を飲んではいけな
り、砂漠の中なのに「水を大事に使いましょう。」
い、豚肉を食べてはいけない、肌をあらわにして
などと言う標語とは無縁である。水道水が飲水可
はいけない、とのことである。暑いのに、T シャ
能でタダであるところがヨーロッパなどと異なり
ツと半ズボン姿でソーセージを頬張りながら冷え
嬉しい。
たビールをその辺で飲むなどとは犯罪もののよう
2日目は、遠目の市内観光を予約し、オースト
だ。さらに、空港送迎以外の現地係員は英語対応
ラリアと中国人と伴に15名程でのバス移動であっ
のみと聞かされ言葉もままならないみたいだ。暑
た。自称ドイツ訛りの英語を話す60歳くらいのイ
さ、食事、日本語は諦めるにしても、酒を飲まず
ンド人が添乗員で、ゆっくり繰り返し話すので何
に数日間も耐えられるのだろうかとアル中さなが
とか理解できた。クーラーの効いたバスか建物の
らな不安が膨らんだ。ネット検索をすると、市内
中のみの移動であり快適である。地元の人々も外
で酒は売っていないが、ラマダンの時期(今年は
は暑くて歩けたものではないそうだ。観光の目玉
6月18日から7月17日)以外であれば空港の入国
ゲート直前の DFS で酒を買って持ち込みホテル
で飲めるらしいのである。これで一安心と思った
が、朝の3時半にドバイ空港に着くのに店が開い
ているのか不安になり、成田空港の出国審査を越
し て か ら オ ー ル ド パ ー を 買 っ た。 結 果 的 に は
DFS は 開 い て お り 無 駄 な 荷 物 運 び と な っ て し
まった。
未明に到着のため、バスに日本人5人乗車し、
ホテルのチェックインまで市内観光である。案内
人のパキスタン人は日本語を話すので少しはほっ
とした。彼によると、
ドバイには砂と油しかなく、
新潟県医師会報 H27.12 № 789
写真1 バージュ・カリファより
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写真2 砂漠の風景
写真3 砂漠に沈む夕日と車
は、ヤシの木に模した人工島パームビーチと高さ
海や雲への反射がなく柏崎海岸の方が感動的で
828メートルの世界一高いビル、バージュ・カリ
ある(写真3)
。
ファである。人工島にベッカムが別荘を既に持っ
最終日は自力で市内観光と夜中の帰国である。
ているとのことであるが、島のほとんどがまだ工
観光と言っても、三菱重工が作ったメトロと呼ぶ
事現場のようである。バージュ・カリファからの
無人電車を利用したショッピングモールめぐり
展望は街造りゲームのようであった(写真1)
。
で、駅から各モールまではクーラーが効いた歩道
3日目は、期待の砂漠ツアーでオーストラリア
でつながっているため暑くはない。夏のドバイの
人3名と一緒に SUV に乗り込んだ。若そうな運
街めぐりは、建物と乗り物の中の移動がほとんど
転手がいろいろ説明するが、オーストラリア人が
で、SF 映画の宇宙都市に居るようなものである。
前に座わり理解すると返事をするので、会話のテ
今のドバイは、次々に高層ビルが出来、新幹線
ンポが早くポイント以外は良くわからない。典型
が伸び、島々がトンネルや橋でつながる日本の高
的昭和日本人の私達はニコニコしてわかった振り
度成長時代を再現しているような勢いにあふれる
をしているので、添乗員からしてみればたちが悪
街であった。特に、日本ではお目にかかれない砂
い。医者がいろいろ説明したのにちっともわかっ
漠が旅行先としてお薦めできる。ちなみに、酒が
ていないパターンである。肉眼で見る砂漠の景色
飲みにくい街でも生きていける事を知って、私の
は感動的であるが、砂の起伏があるため地平線が
今後の人生に大きな自信を与えてくれた。
見えず草原ほど広く感じない(写真2)
。夕日は、
(柏崎市刈羽郡医師会報 平成27年10月号より)
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