教育実践レポート 教科 科・ホーム運 ホーム運営・部活動・相談室の取り組み ・部活動・相談室の取り組み 教師も育ち、生徒も育つ協働的実践 ∼若狭高校学校設定科目﹁基礎研究﹂の取り組み∼ はじめに 若狭高校 渡 邉 久 暢 授業改革・学校改革は一人では実 現しない。同じ職場に共感する複数 の同僚がいれば実現すると思う。授 業を変える、学校を変えるというこ と は、 長 い 道 の り か も 知 れ な い が、 新たな発見があり、やりがいのある チャレンジだと確信している。 中略 新 た な チ ャ レ ン ジ に は 壁 が あ り、 しんどい思いも多い。しかし、生徒 福井大学の森透教授は、本誌第五〇号 ︵ 前 号 ︶ の 巻 頭 文﹁ 高 校 教 育 の こ れ か ら ︱ 授業の改革を軸にした同僚性の構築 にとっても、教師にとっても新しい 人生を築きあげる充実感がある。 を ︱﹂ に お い て、 以 下 の よ う に 述 べ て いる。 41 1年5組 世儀季更さん作 る。 りがい﹂がある、という重要な指摘であ 道のりは ﹁しんどい﹂ ものではあるが、﹁や 授業をより良くしていくには、同僚性 の構築が不可欠であること、そしてその て研究者の方と協働的に考えを深めてい だけでなく、勤務校以外の先生方、そし ていく機会が増えた。勤務校内の先生方 しかし、ここ数年、自分ひとりではな く、何人かの方と共に一つの授業を作っ 経験をあまりしてこなかった。特に若い どう﹁チームで﹂作り上げていったのか、 本稿ではその中の一つとして、若狭高 校の学校設定科目﹁基礎研究﹂の授業を くことが多くなってきたのである。 頃は、ベテランの先生方の授業から学ば 特に二四年度一学期の実践を中心に報告 恥ずかしい話であるが、私自身はこれ まで﹁同僚と一緒に授業を作る﹂という せてもらってはいたものの、 ﹁あの先生に する。 一 学校設定科目 ﹁基礎研究﹂とは 負けたくない﹂との思いが強く、ライバ ルのように同僚を見ていたこともあった。 また、 ﹁授業は芸の一種﹂であり、 ﹁教 員一人ひとりの個性﹂が授業には大きく 関 係 す る か ら、 ﹁他人の授業のやり方に 干渉したくないし、自分の授業のやり方 なるのか、そのヒントをもらいたい﹂と つも﹁自分の授業をどうすればより良く することもあったのだが、その主眼はい いろいろな授業研究会で学ばせていた だいたり、そこで発言させてもらったり る力や問題を解決する力等を身に付ける が受講する科目である。科学的に探究す 普通科の生徒全員︵五クラス・一八一名︶ 課 程 を 編 成 し て い る。﹁ 基 礎 研 究 ﹂ は、 人材を育成することを視野に入れた教育 若 狭 高 校 は 平 成 二 三 年 度 よ りS S H ︵スーパーサイエンスハイスクール︶の いうわがままな考えに基づいていた。森 ことを目的として、一単位を設定してい にも干渉されたくない﹂ とも思っていた。 先生の指摘された﹁同僚性の構築﹂には る。 教 科﹁ 情 報 ﹂ と、 ﹁総合的な学習の 認定を受け、将来の国際的な科学技術系 ほど遠い考えを持っていたと言える。 時間﹂の内容をもふまえたカリキュラム を組織しているのが特徴だと言えよう。 二 四 年 度 一 学 期 は、﹁ 大 飯 原 発 は 再 稼 働すべきか﹂という﹁問い﹂の解決を通 して、以下の目標を設定した。 ★科学技術に対する理解を深める ★根拠にもとづいた自らの考えを主 張する ★探究の手法を理解する アイディアを創出しまとめる手法 ﹁ブレーンストーミング﹂ ﹁KJ ︵ コミュニケーション・プレゼンテ 法﹂﹁構想マップ﹂ ︶ ーションの手法 ﹁ナンバリング﹂﹁ラベリング﹂ ﹁アイコンタクト﹂ 論文作成手法 ﹁ 複 眼 的 思 考 ﹂﹁ 証 ﹁論の構成法﹂ 拠資料の引用﹂ コンピュータ操作法 ﹁ワード﹂﹁パワーポイント﹂ ★協働して﹁問い﹂を解決する 42 1学期 普通科基礎研究 単元の流れ 次 時 月 日 学習課題 学習のねらい ①ブレインストーミングを用いたアイディア の発想法を学ぶ 「自分の出身中学校を1分30 17∼ 秒で紹介しよう」 1 1 4 2 1 3 1 24∼ 「読売新聞と朝日新聞の『大 飯原発再稼働に関する記事』 を評価しよう」 1∼ 「様々な新聞に載せられた『大 飯原発再稼働』に関する意見 を整理し、友達に報告しよう」 1 5 22∼ 「『大飯原発再稼働は是か非か 論文』作成のために、構想を 練ろう」 4 2 29∼ 5 1 12∼ 「『大飯原発再稼働は是か非か 論文』作成のために構想メモ を作成しよう」 19∼ 「『大飯原発再稼働は是か非か 論文』をワードで作成しよう」 6 1 6 7 1 8 1 7 43 「『大飯原発再稼働は是か非か 論文』の説得力を増すために 26∼ データや識者の意見を活用し よう」 9 これまでの学習をふりかえろ う ②ナンバリング・ラベリング・アイコンタク トを用いた話し方を身につける。 (お互いの出身中学を紹介しあうことで、一 緒に学ぶ仲間作りの一助とすることも、副次 的な目標とする) ①発信された情報には、程度の差こそあれ何 かしらの偏りがあることを理解する。 ②メディアリテラシー (情報を分析・識別し、 評価する能力)を身につける。 ③前時までに学んだ技法を用いて、自らの考 えを文章や口頭でクラスメートに伝えるこ とができる。 ブレーンストーミングとKJ法を用いて、多 様な観点から数多くのアイディアを創出し、 そのアイディアを整理する力を身につける。 数多く出たアイディアを元に、構想マップを 作成した上で、論文の核となる「もっとも伝 えたい自分の主張」を選択することができる。 他クラスの生徒が書いた文章がどのような構 成になっているかを参考にして、構想メモを 作成できる。 ①自分の主張に関する根拠を新聞記事等に基 づいて補強しつつ、文章を作成できる。 ②定められた書式に基づいて「ワード」で文 章を作成できる。 他者の論文やふりかえりを評価し、自分自身 の論文やふりかえりを自己評価することによ って、自らの学習の意義を自覚し、今後どう 学んでいくべきかを考えることができる。 学習者の﹁ふりかえり﹂から 二 一学期の学習を終えて、学習者は以下 の よ う な﹁ ふ り か え り ﹂ を 記 し て い る。 まずは学習者Aから。 の本論にも、いくつか新聞記事から ものを引用するということです。僕 新聞記事のような事実を述べている 労 し ま し た。 そ こ で 分 か っ た の は、 えも理解でき、その思いを文にあら きという意見を持ったが反対派の考 良かった。やはり原発を再稼働すべ ていたが、改めて考えを深められて 大飯原発については父親が原発従 事者のためよくよく家庭でも話をし 明確に、相手に伝えたらいいのか苦 の引用がありますが、それによって、 わせてとても面白かった。 学 習 者A は、 複 眼 的 思 考 の 重 要 性 や、 証拠資料の有用性を十分に理解している 者Cの記述である。 しろさについて述べている。さらに学習 げた上で、考えを文章化することのおも コミュニケーション技法の獲得が進路 希望の実現にもつながることを最初に挙 僕の意見が分かりやすく伝わると思 います。それによって、読み手の賛 と言えよう。学習者Bは以下のように記 同が得られるのだと思います。 なく、両方の意見を尊重し、お互い す。 一年普通科 A 僕はこの学習を通して、賛成、反 対両方の意見があるときに、どちら の意見の質を高めあうということを か片方ばかり優先して考えるのでは 学びました。 ナンバリングなどどれも難しかった 一年普通科 B 基礎研究では、話すということを 上 達 で き た と 思 う。 ラ ベ リ ン グ や、 だったけど、少しはましになったと 思いました。僕はそういうのが苦手 ることは難しくて、大切なことだと 今回の議題であった大飯原発の再 稼動についても、ぼくは、始めから いてみると、納得させられるような が、人と話す仕事を目指している自 賛成の意見しか持っていませんでし ことがたくさんありました。それを 思いました。 一年普通科 C この基礎研究の授業で原発のこと について考えて、自分の意見を述べ 参考にすることによって、自分の意 分にとってはとてもありがたかっ た。しかし、反対派の人の意見を聞 見をよりよくすることができまし ブレーンストーミングの一回目は 少 し し か 意 見 が 出 せ な か っ た け ど、 た。この経験をもっと上達させて活 用させていきたい。 た。 自分の意見をいかに端的に、 また、 44 も八百字も書けるとは思っていなか 慣れるといっぱい出せました。論文 いました。﹂に着目したい。 述べることは難しくて大切なことだと思 元住民としては大切な学習でもある。﹁難 であったことは間違いない。しかし、地 ﹁大飯原発の再稼働﹂という今回の学 習課題は、生徒にとっては難しいテーマ えた。 なかった﹂という人が多いように思 ットを﹁知らなかった﹂、﹁考えてい 放射線を出してしまうというデメリ 原子力発電は事故が起こるまでは 二酸化炭素を出さないというメリッ それと、人を納得させるのも難し いと思いました。新聞の意見を読む しくて大切なこと﹂だからこそ、学習す らないということすらあった。原子 福井に住んでいる人でさえ、原子 力発電がどういう発電方法なのか知 トは知っていたが、事故が起こると と納得できるけど、僕の書いた論文 る意義がある、そう感じてくれたことが ったけど、書くことができたのでよ だと誰も納得しないだろうと思いま わかる記述だと言えよう。 かったです。 した。そういう文章を書けるように なるように頑張っていきたいと思い を通じて、徐々に自信が生まれ、学習意 ている生徒である。しかし、様々な活動 だが、事故が起こると原子力発電 についてよく調べ自分の考えを持つ る人はほとんどいなかったのだ。 力発電について何か考えを持ってい 僕は、反対派の文章を書いたけど 賛成派のほうの文章も書けるだろう 欲も生まれてきたことを述べている。特 人が増えたと思う。きっかけの事故 この学習者Cは、もともと人と話した り、文章を書いたりするのを苦手と感じ なと思いました。賛成派の人の文章 に、コミュニケーションの場面では﹁聞 はよいこととはいえないが、その傾 ました。 を読んでみたいと思いました。 き手﹂が大事になることを体験的に理解 向はいいと思う。 るとすべて原子力が悪いという、そ 事故が起こる前は原子力に興味も 持っていなかったのに、事故が起こ 人がいるが、それはどうかと思う。 体を悪者のような意見を持っている についての意見で、まるで原子力自 だが私はこのことから一つぜひ考 えてほしいことがある。原子力発電 した上で、良い聞き手になることを宣言 している点は、特筆に値する。 話し合うことについては、話すほ うも大切だけど聞くほうも大事なん だなあと思いました。確かに聞き手 最後に学習者Dの記述である。 てよく考えられたと思う。 私は再稼働について自分の意見を 書いていったが、原子力発電につい 一年普通科 D が い い と 喋 り や す い と 思 い ま し た。 そういう聞き手になれるように頑張 っていきたいと思いました。 学習者Cの叙述では、冒頭にある﹁原 発のことについて考えて、自分の意見を 45 意見をもっていたら、こんなことに す べ て の 人 が 原 子 力 に つ い て 考 え、 れはおかしいと私は思う。 そもそも、 た。だから二度とあんな事故を起こ なかったから、事故が起きてしまっ だ。原子力発電所の事故はそれをし 言える。 満足できる成果を上げることができたと 三 授業担当者の構成 ームで﹂行ってきたのか。 そ れ で は、 こ の よ う な﹁ ふ り か え り ﹂ を書くに至るまで、 どのような指導を﹁チ さないように、物事について考えて いこうと私は思う。 はならなかったかもしれない。 原子力発電では放射線が出る。だ から対策はしっかりしなければいけ ない。この二つについて考えるだけ で、事故の被害は少なくできたはず 学習者Dは、原発事故の責任について、 ﹁ 原 子 力 に 対 し て 何 も 意 見 を 持 た ず、 対 平成二四年度一学期は、一年普通科の 担任・副担任 ︵十名︶ ・文理探究科・商業科・ である。 んなことでも真剣に考えて、自分の意見 策を怠ってきた私たちが悪かった﹂ ﹁ど そう、原子力が悪いのではないの だ。原子力に対して何も意見も持た 情 報 処 理 科 の 副 担 任︵ 二 名 ︶ 、S S H 研 この﹁基礎研究﹂は普通科全員が受講 する科目である。つまり、大学に進む生 担当者の教科専門は音楽・保健体育・ 数学が一名ずつ。英語︵二名︶ 理科︵四名︶ を持ち、みんなで話し合えば、結果的に 今の日本は、賛成意見と反対意見 のどちらの意見もぶつけあって、話 徒も、卒業後に社会に出る生徒も、文系 数学・社会︵五名︶国語︵二名︶である。 ず、対策を怠ってきた私たちが悪か し 合 っ て い る。 そ の 状 態 で い い の の生徒も理系の生徒も全員学ぶのだ。科 究部員︵二名︶の合計十六名がその授業 だ。みんなの意見を合わせて、みん 学技術に対して興味を持ち、理解しよう 良い意見ができるのだ﹂と述べている。 なが納得できる意見を出せればいい とした上で、自分の意見を持つ。さらに ったのだ。 のだ。そうして町や県や国がよくな は、その意見を他者と交流し、社会をよ も、この科目では可能だと言えよう。 りよくしようとする態度を育てること ない状態。フレッシュではあるが、不安 も含む︶と、新採用も五名おり、チーム 教科専門も偏ることなく、年齢も幅広 いチーム編成。ただ、転任者︵稿者自身 四十代︵四 年齢構成は五十代︵一名︶、 名︶三十代︵二名︶、二十代︵七名︶。 を担当した。 っていくのだ。 以上、四名の学習者の記述を引用した。 この学習者以外の﹁ふりかえり﹂を見て う。 ど ん な こ と で も 真 剣 に 考 え て、 そしてこのことは、決して原子力 発電所だけの話ではない、と私は思 自分の意見を持ち、みんなで話し合 も、一学期の授業については、おおむね も多かった。 の約一/三が若狭高校をよくわかってい えば、結果的に良い意見ができるの 46 四 授業作りのプロセス 学び合う態度を育成する。クラス ものの見方を学び、伝え合う力や ターしたり、科学的なものの見方を培っ そのプロセスにおいて様々な技法をマス め提示された一つの﹁問い﹂を解決する。 のである。 の枠は解かず、全クラス同じ内容 分で選択した分野に分かれ、一学 折しも、大飯原発の再稼働問題につい て世論が二分されていたということもあ たり、協働して学ぶことの意義を理解し 始 ま っ た。 前 年 度 の 取 り 組 み を 精 査 し、 期 に 学 ん だ こ と を 活 か し な が ら、 り、﹁ 大 飯 原 発 は 再 稼 働 す べ き か ﹂ と い たりする。このようなデザインを考えた 今年はどのように授業を行っていくのか 問いを生み出し、その解決を図り、 う問いを設定。この問いの解決のプロセ 二学期以降は学習者それぞれが自 のグランドデザインを描く。特に重視し 探究していく。探究の成果をポス スを単元の学習活動としてデザインする を学んでいく。 た の は、﹁ 学 習 者 は 一 年 後 に、 ど う な っ ターと論文にして発表する。クラ こととした。 授業作りは、まず学年主任の中村和浩 教諭と副主任である稿者の協働作業から ていてほしいのか﹂という点である。 スの枠を解き、同じ分野に興味の 一つの技法をマスターさせていくという 次はいよいよ一学期の単元デザインで ある。ここでは、題材を毎回変えて一つ は三名の教員によるティームティーチン た。毎時間の授業は、各クラス二名また 一 学 期 の 授 業 は、 担 当 十 六 名 の う ち、 SSH 研究部二名を除く十四名で運営し 五 毎時間の授業デザイン 方法︵たとえば、一時間目は、携帯電話 グで行う。授業の主担当は、そのクラス した。 このような大まかなプロセスをデザイン ある者同士が集まり、学び合う。 科学に対する興味関心を持つ 科学的なものの見方をする 自ら﹁問い﹂を生み、解決する 考えを口頭や文章にて論理的かつ を学校に持ち込むときのメリットデメリ の副担任とした。毎時間の授業内容は下 分かりやすく発表する 右のような学習者像を一年後の姿とし て描いた上で、どのようなプロセスをデ ットをブレーンストーミングさせる。次 他者と協力して学ぶ ザインするのか。二人で検討した結果、 図のような流れで作っていった。 マップを作る⋮など︶はとらなかった。 一学期の授業全体を通して、あらかじ まず、学年主任と副主任で授業の原案 を 作 成。 授 業 の 主 担 当 で あ る 副 担 任 が、 の時間は、学校週五日制についての構想 一学期は、探究の手法や科学的な 47 間に行った。 週一時間あるホームルーム︵LH︶の時 原案を検討し、修正を行う。会議は、毎 当クラスの授業プラン作りを進めるとい 副担任・担任の個性を活かした自分の担 展開されるが、担当者はクラスの個性と、 した大まかなプランにもとづいて授業は このように授業者チームは、協働して単 で、授業の相互参観もスムーズにできた。 などと各クラスが異なる時間だったの 時間は五組が月曜七限、九組が水曜三限 げるいろいろな手立てを学び合う。授業 その時間のゴールは共通であるが、そ のプロセスは柔軟にすることで、クラス 書は、原発関連の新聞記事をスキャンし 協働したのは授業者チームだけではな い。本校図書学習センターの見越洋子司 元を練り上げていったのである。 うことだ。 ごとに担当者が授業のあり方について協 修正された内容は、校内ネットワーク の掲示板に掲載される。SSH教育課程 バイスをすることもある。授業の副担当 検討ワーキンググループが、それにアド である担任はそれらの内容を確認し、自 働する姿も見られた。 た上で、名称をつけたPDFファイルへ 分のクラスではどう運営するか、主担当 の副担任と打ち合わせし、授業を行う。 と変換してくださった。特に一学期の間 は大飯原発関連の記事が膨大な量になっ ここで重視したのは、あらかじめ設定 た の で あ る が、P D F へ 変 換 し た 上 で、 働意識が生まれる。毎週の授業案検討で 五 ク ラ ス の 学 習 者 に 対 す る 授 業 を、 十四人で担当するのだから、必然的に協 を深めるための大きな助けとなった。 い記事にアクセスすることができ、思考 そのおかげで、学習者自身が直接読みた 六 協働して単元を練り上げる は、いろいろなアイディアが出され、ク 生 徒 用 サ ー バ ー に 蓄 積 し て い た だ い た。 ラスごとの個性溢れる実践も生まれてい SSH 教育研究過程ワーキングループ の堀田公恵実習助手には、授業で用いる った。 から、配付する資料やワークシートも毎 になった。教科書が無い科目であること 各種資料やワークシートの印刷をお世話 経験も、年齢も、教科も全くバラバラ な教員集団が、育てたい生徒像を共有し なりの無理をお願いしたが、快く引き受 は直前に決まることも多かったため、か 時間膨大であり、しかもその授業プラン た上で、次の授業をどうするかについて 知恵を絞り合う。 さ ら に、 お 互 い が 授 業 を 参 観 し 合 い、 学習者の学びの実態や、各教師が繰り広 48 このように授業担当者だけでなく、校 内の多くの方に﹁チームの一員﹂として、 けいただいているということになろう。 は、藤島高校の多くの先生方からもお助 単元デザインが作られているということ スト。このテキストにもとづいて本校の 上げられていったのである。 な﹁チームによる協働﹂によって、練り が、本校﹁基礎研究﹂の単元はこのよう 校 外 の 方 を も﹁ チ ー ム ﹂ と 呼 ぶ に は、 あまりにもおこがましいかもしれない 年間の実践研究を経て完成したこのテキ 授業に関わっていただいたことが、単元 けて下さった。 作りにおいて極めて有効に作用したと言 多くお力添えをいただいた。福井大学の えよう。 協働して下さったのは、本校の教員だ けではない。稿者が平成二三年度までの 八田幸恵准教授には、特に後期のテーマ 二四年度のSSH研究報告書作成にあ たり、何人かの﹁チームメート﹂に、本 協働して下さったのは、教員だけでは ない。大学にお勤めの研究者の方々にも 三年間勤務していた藤島高校の先生方に 学習の単元作りについてお世話になっ 年度の取り組みをふりかえってもらっ 人教諭は以下のように記す。 二 三 年 度 新 採 用 と し て 本 校 に 赴 任 し、 今年は一年生の担任を務めている仲保彰 七 単元づくりをふりかえって は、多くのことを助けていただいた。 た。 ﹁研究とは﹂ ﹁問いの立て方﹂ ﹁探究 ︵ 現 在、 八 田 氏 と、 藤 島 高 校 青 木 教 諭 を の サ イ ク ル ﹂﹁ 輪 読 会 の あ り 方 ﹂ な ど に き、授業に関するアドバイスもいただい 中心とする平成二四年度藤島高校SSH 藤島高校第一学年主任の冨田美奈恵教 諭 に は、 藤 島 高 校 一 年 生 が﹁ 研 究 基 礎 ﹂ た。本校﹁基礎研究﹂のカリキュラムは 企画会議のメンバー、そして稿者は、探 た。ここではその一部を紹介する。 このテキストと、それにもとづいた授業 究的学習におけるテキスト﹃高校生のた つ い て の ア ド バ イ ス を 授 け て 下 さ っ た。 づくりのノウハウを大いに参考にさせて めの研究入門 ︱ 探究のサイクルを楽し にて使用中のテキストをお送りいただ いただいている。 藤田裕、青木建一郎、片川浩一、金崎肇、 ーダーシップの下、清川亨、冨田美奈恵、 からは、後期の分野別研究におけるテー SSH 運営指導委員である有識者の皆様 もちろん、竹田敏一福井大学附属国際 原子力工学研究所長をはじめとする本校 た の で、 ﹁何をしていいかわからな 各教員に任されていた部分が多かっ うに授業を進めていくかについては 業として取り扱っていくか、どのよ SSH の基礎研究に携わって二年 目になる。昨年はどのようことを授 冨澤宏二、の先生方︵いずれも平成二三 マ設定のあり方などについて、多数の具 い﹂という状況であった。 む ︱﹄作りについて共同研究中である︶ 年度藤島高校在籍︶と稿者が分担して執 体的なアドバイスをいただいている。 この藤島高校﹁研究基礎﹂のテキスト は、SSH研究部長の斉川清一教諭のリ 筆したものである。平成二一年度から三 49 ドバックする。チームで単元を作ること 活かし、その成果をまたチームにフィー 本年は学年会やSSH事務局に道 筋を立てていただいたので、かなり 私もしっかり教材研究をしなけれ ば生徒たちをゴールへ導けないの で、大変ではあるが新鮮である。 SSH の副産物ではあるが、生徒も は、お互いの授業を良くすることについ ても、極めて有効であることがわかる。 できることがSSHの教育活動の良 教員も同じ目線で一緒に学ぶことが 冬井教諭は、後期のテーマ別講座の単 元 で は、﹁ 日 本 の エ ネ ル ギ ー 政 策 ﹂ を 担 いところの一つなのかもしれない。 章ごとに生徒に割り当て、生徒は自 に、私が選んだ2冊の参考文献を各 初めに、日本のエネルギー政策に ついての基本的な知識を得るため 感 じ て い る こ と が わ か る。﹁ 生 徒 も 教 員 ぶこと﹂の楽しさを﹁学習者も授業者も﹂ は、﹁ 生 徒 も 教 員 も 同 じ 目 線 で 一 緒 に 学 動していることが多い﹂という指摘から と記している。生徒たちの様子について、 分が担当する章を要約し、みんなの も学び合う﹂冬井教諭の授業はきっと充 実したものであるに違いない。 ﹁普段の授業よりもむしろ生き生きと活 前で発表する活動を行った。 かえり﹂では、 当している。この講座についての﹁ふり やりやすくなったように感じる。 仲保教諭の﹁ふりかえり﹂からは、チ ームで単元を作り上げる際のポイント が、﹁ 方 針 や、 方 法 の 共 有 化 ﹂ に あ る こ とがわかる。 ﹁育てたい生徒像﹂をチームで共有し、 そ れ に 向 け た 具 体 的 な 方 法 を チ ー ム で、 練り上げていく。このプロセスが重要で あると言えよう。 ﹁それぞれの先生が好きなようにやっ て下さい﹂というやり方ではなく、教科 も 経 験 も 異 な る 個 性 溢 れ る メ ン バ ー が、 そして、生徒それぞれにテーマを 設定させ、似たようなテーマを設定 一つの授業について検討することの楽し さを味わいながら、協働して単元を練り 生徒の変化については、同じく一年担 任の高橋慧教諭も指摘する。 私自身もゴールがはっきり見えな い活動を続けているが、生徒たちの 今年度の基礎研究では、生徒たち に探究活動の基礎を定着させること した生徒でグループを作り、グルー たとえば、同じく昨年新採用で今年一 年 担 任 の 冬 井 晃 徳 教 諭 は、﹁ 研 究 基 礎 ﹂ 様子を見ていると、普段の授業より が中心でした。生徒たちは、前半の 上げていくことの方が、おもしろく、ま の単元で用いた﹁KJ 法﹂を世界史の授 もむしろ生き生きと活動しているこ 資料の読み取りや論文制作、後半の プ研究を行っている。 業において取り入れ、 公開授業を行った。 とが多い。 た得るものも多いのではないだろうか。 チームの中で学んだことを教科専門にも 50 テーマ別研究を通し、自分の疑問に つ い て、 ﹁ よ く 調 べ、 資 料 を 比 較・ 検討し、自分なりの結論をだす﹂と いう探究活動の一連の過程を経験し ました。 この経験を経て、生徒たちは授業 や家庭学習においても探究心を持ち ながら取り組めるように変わってき たのではないかと感じています。 に報告してきた。ここで今回の協働的実 本 稿 で は、 学 校 設 定 科 目﹁ 基 礎 研 究 ﹂ の協働的実践について特に一学期を中心 冒頭に引用した森教授のご指摘は、ま さに正鵠を射たものであると言えよう。 ていきたい。 実践のあり方について今後も研究を深め 教師も育ち、生徒も育つ、そんな協働的 つ教師集団が協働して、学び合いながら 本実践は若狭高校にて行ったものであ るが、この実践のベースは、藤島高校平 九 おわりに 単 元 を 作 る こ と は、 楽 し い 営 み で あ る。 異なる教科を担当し、異なる経験を持 践のポイントを確認する。 ★育てたい学習者像を明確化し、全 体で共有する てるか、全体で共有 どんな単元で、どんな学習者を育 協働する組織づくり 副担任、担任を中心に学校全体で で練り上げる 生方と実践してきた。さらにその後二年 の授業案を毎週作り、当時の学年団の先 斉 川 教 諭 に 導 か れ た 上 で、﹁ 研 究 基 礎 ﹂ 高校に赴任した。SSH研究部長である 基礎﹂にある。稿者はこの二一年に藤島 成二一年度一年生の学校設定科目﹁研究 諭が実感していることがわかる。協働的 トップダウンではなく、ボトムア 間︵平成二二∼二三年度︶はSSH企画 ★特定の人に負担をかぶせず、全体 実践を展開したことによる、ひとつの成 ップで、みんなで練り上げていく 委員として、カリキュラムやテキスト作 今回の実践によって、学習者の中に探 究心が芽生え始めていることを、高橋教 果と考える。 究者の方々とも協働 高校の先生方、並びに生徒の皆さんに深 を教えていただいたおかげである。藤島 本実践が一定の成果を収めることがで きたのも、藤島高校で同僚性構築の基本 りの勉強もさせていただいた。 校内だけでなく、校外の教員や研 八 協働的実践のポイント ★無理せず、楽しい雰囲気を作る 生徒と一緒に、教師自身も学んで とりあえずやってみよう! の道のりは﹁しんどい﹂ものではあるが、 いく楽しさを! ﹁同僚性 授業をより良くしていくには、 の構築﹂が不可欠であること、そしてそ 生徒にとっても、教師にとっても新しい 人生を築きあげる﹁充実感﹂があること。 51 く感謝したい。 最後に、本校で協働して実践に取り組 んでくださった﹁チームメイト﹂の皆さ ん に も 感 謝 の 意 を 表 し た い。 私 自 身 も、 この実践を通して、大きく成長させてい ただいた。 ﹁とりあえずやってみよう﹂とチャレ ンジしていくチームメイトに助けられな がら、生徒とともに、今後も実践を積み 重ねていきたい。 読者の皆様から、本実践に対してご批 正いただければ幸いである。 [email protected] 渡邉のメールアドレス WEB http://www.mitene.or.jp/~kkanabe/ 52
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