48 HIV/AIDSの最近の診断、治療法と課題について HIV / AIDS に関する診断と治療は進んでいるそうですが、どんな時に検査を行うべきか、 どのような治療がなされているのか、また今後の課題について概説してください。(Y生) まず、どんな時に検査を行うかとい グ検査を行っていただきたいと思います。 うことに関しては、平成23年に改定さ 現状では、基本的に一般医療機関で行う検査は れた保険の適応の記載がタイミングを EIA 法によるスクリーニング検査ということに 端的に示しています。 なるかと思います。今回は紙面の関係でスクリー 「間質性肺炎等後天性免疫不全症候群の疾病と ニング検査以降の確認検査のことについての詳細 鑑別が難しい疾病が認められる場合や HIV の感 は省きますが、すべての検査には偽陽性と偽陰性 染に関連しやすい性感染症が認められる場合、既 (ウインドウ期も含め)の問題がありますので、 往がある場合又は疑われる場合で HIV 感染症を スクリーニング検査のみで診断が確定するのでは 疑う場合は、本検査を算定できる。 」医科診療報 ないことに注意してください。検査の詳細につい 酬点数表に関する事項(通知) (平成24年3月5 ては新潟大学医歯学総合病院感染管理部の HP 日保医発0305第1号) (http://www.med.niigata-u.ac.jp/ifc/welcome. 間質性肺炎は、後天性免疫不全症候群(AIDS) html)内に検査のタイミングやその意味、告知 の指標疾患であるニューモシスチス肺炎の画像所 のポイントをまとめたリーフレットを紹介してい 見をさし、さらに AIDS と鑑別を要する疾患とは ます。PDF でダウンロード可能です。 その他の日和見感染症がみられるときという理解 続いて治療の進歩についてですが、1987年に最 で、その場合には HIV の検査を保険適応で行う 初の抗 HIV 薬アジドチミジン(AZT)が誕生し ことができます。つまりそれが検査のタイミング ましたが、ウイルスの耐性化という問題があり、 となります。 長期生存は難しい時代が10年近く続きました。 また、ほぼ90%が性行為によって感染している 1996年以降になって、複数の抗 HIV 薬を組み合 現状からは、B 型肝炎も含めて他の性行為感染症 わせる多剤併用療法(ART)により長期生存が (STI)が認められたり、その既往がある時には 可能となりました。その後現在までに20種類以上 HIV 感染症のリスクがあることを示します。そ の薬剤が国内で承認されています。 の際にも保険で検査が許可されていますので、そ ART は Key Drug として、プロテアーゼ阻害 れも検査のタイミングであるということです。 薬(PI)とインテグラーゼ阻害薬(INSTI)、非 さらに HIV/AIDS の検査については、HIV 感 核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)のいずれか 染早期の急性期においては多くの患者が一般的な 1剤を選択し、Back bone として核酸系逆転写酵 ウイルス感染症としての非特異的な症状(発熱、 素阻害薬(NRTI)を2剤組み合わせるのが基本 関節痛等)を呈するとされています。一般的な感 で、計3剤を内服します。HIV 診療担当医は、 冒様症状と区別がつかず、これらの症状がある患 各薬剤の治療効果や有害事象、併用薬との相性等 者すべてに HIV 感染症の検査をすることは、患 を考慮してレジメンを決定し治療を行います。 者の発生頻度から考えると適応とはならないと考 ART は開発当初、一日の錠剤数が20錠近くにな えますが、症状が強くかつ持続するようなときに る組み合わせもあり、消化器症状を主とした有害 は、不明熱として他のウイルス疾患も含めた除外 事象も多く、患者の生命予後の延長は得られても 診断の中に HIV 感染症を考慮してスクリーニン QOL 向上には多くの課題がありました。 新潟県医師会報 H27.12 № 789 49 現在では有害事象も軽減され、服用錠剤数につ 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、 「Fast track いても合剤の開発により一日一回一錠(Single target 90-90-90」という目標値を示しました。 Tablet Regimen:STR)の時代に入ってきました。 2020年までに地球上で HIV に感染している人の 生命予後に関しても、AIDS を発症する前に治療 90%が感染を自覚し、さらに感染患者の90%が治 開始できれば、ほぼ非 HIV 感染患者と同等の平 療を受け、治療を受けた患者の90%が HIV RNA 均余命が得られるという報告もでてきました。 が検出限界以下にコントロールされることを目標 今後の課題ということに関してですが、ART とするという内容です。それが実現すると、性行 により生命予後は改善しましたが、依然として完 為などで他の人にウイルスが感染することは大幅 治しないという点が大きな課題の一つです。つま に減少させることができます。 り、内服を開始したら生涯内服を継続することが 日本の場合は、 治療を受けている患者の割合や、 必要です。そして、内服の服薬アドヒアランスが 治療を受けている患者の HIV RNA のコントロー 不良な患者の場合、ウイルスが耐性を獲得してし ルについては90%を超えてきているのですが、実 まうという危険があります。また、ワクチンもな 際の感染者は現在の患者数(およそ2万5千人) い状態で、感染の拡大に歯止めがかからず、患者 の倍くらいではないかとか、あるいはもっと多い 数は確実に増加していることも問題です。 と推計する報告もみられており、HIV 感染症の さらに、HIV のコントロールが可能になって 検査がもっと広く行き渡ることが必要と考えられ 長期療養時代に入ったことで見られるようになっ ています。そのため、国もテレビ、ラジオ等での てきた新たな問題としては、いわゆる生活習慣病 啓発コマーシャルを始め、検査普及週間(毎年6 として糖尿病、脂質代謝異常症等通常の加齢に 月第1週) 、世界エイズデー(12月1日)等にあ 伴ってみられる合併疾患をもつ患者も多くなって わせて各種イベントを行うなど対策をすすめてい きています。そして、疾患に対する偏見や誤解が ます。 まだ完全に払拭されていない中で、長期療養施設 以上、HIV 診療の現状ならびに問題点につい 入所が必要になる患者の受け入れ先を捜す必要が て概説いたしました。 あります。一般歯科診療、透析医療についても、 HIV 患者の受け入れについて、さらに進めて行 かなければいけない状況にあります。 ( 新潟大学医歯学総合病院 感染管理部 田邊 嘉也 ) 49 県医事務局年末年始休業のお知らせ 平成27年12月29日(火)から平成28年1月3日(日)までの期間、年末年始休業とさせてい ただきますので、よろしくお願いいたします。 新 潟 県 医 師 会 事 務 局 新潟県医師国民健康保険組合事務局 新潟県医師会報 H27.12 № 789
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