2016年 - 野村證券

昭和22年6月1
7日 第三種郵便物認可 平成2
8年1月1日(増刊)
(毎週月曜日発行)野村週報 第3500号
○
2
01
6年
新 春 号
▽
投 資 の 視 点
長期で株式投資比率上昇へ
内外経済展望
日本経済の緩やかな成長を見込む
外国為替市場
日米当局によるドル高・円安牽制はあるか
内外債券市場
参院選後、日銀緩和の出口論に注意
日 本 株 式 市 場 「変化する日本企業」の投資視点と株式展望
○
企
業
統
治
16年は実効性が問われる企業統治
米国株式市場
企業業績拡大で米国株は上昇へ
アジア株式市場
中国悲観論後退の予兆
商
商品市況は低迷脱出を模索へ
品
市
場
「 丙 申 」 縁 起 「ひのえ・さる」
お 知 ら せ
1月4日号は休刊、1月1
1日号から通常通りとなります。
野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号
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決定は、ご自身の判断でなさるようにお願い致します。野村週報のいかなる部分も一切の権利は野村證券に帰属しており、電子的または機械的な方
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第35
00号 野 村 週 報 平成28年1月1日(増刊) 第三種郵便物認可
投資の視点
長期で株式投資比率上昇へ
年前半日本株、年後半米国株に投資魅力
2012年末に安倍政権が誕生して3年が経
過した。この間、アベノミクスは成功裏に
達成されるように思う。こうした見通しの
下、日本株の長期上昇傾向は続き、資産運
用での株式投資比率も上がって行こう。
こうした長期展望の中で2016年の留意点
進展し、為替は1ドル=80円から120円に、
を挙げる。第一に、中国はじめ新興国経済
日経平均株価は9,000円から20,000円台まで
の減速が原油価格安とも連動し、引き続き
上昇を見た。円安と企業統治改革等が奏功
世界株の重石になることだ。第二に、米国
し、企業収益がリーマン・ショック前の水
の利上げが世界株の予想 PER(株価収益
準を更新し、過去最高に達しているからで
率)を多少とも引き下げることだろう。そ
ある。
して、第三に、欧州の難民問題、テロのリ
アベノミクスの成果は数多いが、主なも
スクは ECB(欧州中銀)の金融緩和を後押
のは、①1ドル=120円の円安が定着し、か
しするだろう。第四に、リスクの少ない日
つ、日本の法人実効税率16年度30%割れが
本だが、17年4月の消費再増税という日本
見込まれ、日本の立地競争力が改善、生産
版財政の崖は越える必要があることだ。
や設備投資の国内回帰が始まったこと。
このように考えると、16年夏の参議院選
②円安とビザ発給要件の緩和で海外から
挙までは、好業績を背景に日本株の投資魅
の観光客が急増する一方、高速鉄道、原子
力が高い一方、17年4月の消費再増税が意
力・LNG(液化天然ガス)プラント等のイ
識されるようになる年後半は、日本株に代
ンフラ輸出が軌道に乗り始めること。
わり、新興国経済の調整一巡と原油価格回
③経済が活性化し、雇用が増え、緩やか
ながら賃金上昇が始まる一方、人手不足解
消のため、女性や高齢者の労働参加率が高
まりつつあることだ。
結果、2020年名目 GDP(国内総生産)
600兆円目標は、多少後ろ倒しになろうが、
復を視野に、17年の収益拡大が見込める米
国株の魅力が増してくるだろう。
なお可能性は相当小さいが、17年4月の
消費再増税が延期される場合、16年後半の
日本株見通しが大きく変わる点には触れて
おきたい。
第三種郵便物認可 平成28年1月1日(増刊) 野 村 週 報 第3500号
投資の視点
自動車など輸出株と建設株に注目
さて、16年前半に日本株が買われる場合、
どのセクターが有力か考えてみよう。
それでは、内需株はどうか。15年に欧州
のマイナス金利の中で、債券代替として買
われた側面もあり、予想 PER 等の投資尺度
が割高なのが難であるが、建設株は違うよ
第一に、米国利上げでドル円相場が円安
うに思える。①建築粗利率が建築単価の上
に振れる可能性を考えると、定石通り輸出
昇を受け、今後改善に向かう公算が高く、
株が浮上してくる。特に、自動車株は16年、
②中央リニア新幹線などビッグプロジェク
17年で採算の高い国内生産回帰、輸出台数
トが目白押しで、利益の急拡大が期待され
増が60∼70万台見込まれ、利益成長の確度
るからである。
が高いのが魅力的だ。
また、地球温暖化防止に不可欠な燃費の
JR など鉄道株も引き続き期待できるよ
うに思える。インバウンド需要で潤うほか、
良いハイブリッド車、電気自動車、燃料電
東京オリンピック、パラリンピック前後で
池車で世界をリードする魅力もある。
の品川∼田町再開発等がある。また、リニ
第二に、ボーイング向けの航空機生産が
ア新幹線への期待もあろう。
好調で、インド、マレーシア、米国向けの
企業統治といった点では、ROE(自己資
高速鉄道やインド向け原子力発電プラント
本利益率)重視、増配、自社株買い、持ち
等のインフラ輸出が期待される重機・重電、
合い解消等が引き続き注目されよう。特に、
鉄道車両株も良さそうだ。
持ち合い解消は金融機関の経営効率向上に
インドネシアで中国に高速鉄道商談で逆
は不可欠な視点である。
転された時は失望したが、インドでの商談
米国株ではどうか。ドル高、原油価格安
成功で反転攻勢に転じられたのは大変良
で利益が伸び悩んだ大型優良株、石油株の
かった。
再評価が期待されるほか、連続増配株への
第三に、資源株、具体的には商社株もや
注目も怠れないだろう。
や逆張りだが見逃せないだろう。なぜなら、
最後に、リスクについてだが、やはりテ
イラン制裁解除、イランの原油生産増から、
ロの拡散といった地政学リスクが気になる。
16年春先まで安い原油市況は続こうが、そ
また、ギリシャ問題、イギリスの EU(欧
の後は需給改善を見込み、反転・上昇を探
州連合)離脱問題等も目が離せない。
る動きになると見られるからだ。
(海津 政信)
第35
00号 野 村 週 報 平成28年1月1日(増刊) 第三種郵便物認可
内外経済展望
日本経済の緩やかな成長を見込む
新興国景気が上向くと予想
力な景気刺激策を継続すると見込まれるこ
とから、その効果が注目される。
16年の世界経済の成長率は、全体として
一方で、中国に次いでアジア地域で存在
15年をやや上回ると見込む。15年に通貨安
感が大きいインドやインドネシアでは、成
や資源安などが引き金になって悪化を余儀
長率が上向こう。ラテン・アメリカなど、
なくされた新興国景気が上向きに転じる一
アジア以外の新興国では、通貨安傾向が続
方、先進国景気は米国経済の堅調の下で比
くかどうかが景気を左右しよう。米国の利
較的高い成長率を維持すると見込む。
上げの頻度が高まれば、通貨安によって金
米国の実質 GDP(国内総生産)成長率は、
15年の2.5%から16年には2.2%へと低下す
融市場が動揺するリスクが出る点には注意
が必要である。
世界経済の実質GDP成長率
る見通しである。ただし、成長率が、1%
(単位:%)
台後半とみられる潜在成長率をなお上回る
2014年
2015年
2016年
ことで、労働市場のタイト化は進む。民間
世界全体
3.4
3.1
3.2
米国
2.4
2.5
2.2
ユーロ圏
0.9
1.5
1.4
一方、ユーロ圏経済については、原油安
日本
0.0
0.6
1.2
の恩恵もあり、景気の堅調を予想する。た
英国
2.9
2.4
2.5
豪州
2.7
2.3
2.4
消費と住宅需要の堅調が引き続き米国経済
を支えると見込む。
だし、ギリシア問題の再燃や、欧州統合の
中国
7.3
6.8
5.8
既存の枠組みに対する懐疑論の広がるリス
インド
7.1
7.3
7.8
クには注意が必要である。欧州中央銀行は
韓国
3.3
2.5
2.5
緩和的な金融政策を続けると見込む。
ASEAN5
4.3
4.1
4.2
ラテンアメリカ
0.9
−0.2
0.4
EEMEA
1.6
−0.1
1.2
中国経済については、不動産投資が5%
程度減少することで、景気に大きな減速圧
力が及び、成長率が6%を割る可能性が高
まる。ただし、政府は財政・金融両面で強
(注)1. EEMEA:欧州新興国・中東・アフリカ。ASEAN5:インドネシア、
タイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール。
2. 世界のGDP(購買力平価ベース)に占める各国の割合に基づいて加
重平均した。
3. 2015年12月15日現在。
(出所)野村
第三種郵便物認可 平成28年1月1日(増刊) 野 村 週 報 第3500号
内外経済展望
日本経済は着実な回復軌道に
トロニクス関連輸出をサポートし、全体と
して緩やかに増加すると見込んでいる。
15年7∼9月期に前期比プラス成長を回
16年度の消費者物価上昇率は、原油価格
復した日本経済は、10∼12月期以降、前期
下落の影響が今後剥落することから、生鮮
比年率1%を超える成長を続け、その後、
食品を除くベースで0.9%に高まると予想
17年4月に予定される消費税率の引き上げ
している。ただし、日本銀行の目指す2%
前 の 駆 け 込 み 需 要 に よ り、成 長 率 は 同
インフレのハードルは高いことから、4月
+2%以上に加速すると予想する。
に追加緩和が実施されると予想している。
所得環境や消費者信頼感の着実な改善に
日本経済が直面するリスクとしては、中
支えられ、民間消費は緩やかな伸びとなろ
国景気の減速が引き続き最重要であるとみ
う。これまで食料品価格のやや大幅な上昇
ている。米国の利上げペースによっては、
や、新製品の投入といった「事実上の値上
新興国の景気減速リスクが高まろう。
げ」が消費者のマインドの重石となってい
(木下 智夫)
日本経済の短期予測表
た。しかし、円安の影響が一巡するなか、
(前年度比、%)
食料品インフレのこれ以上の上昇は考えに
15年度
(予)
くい。これに所得環境の改善が加わり、民
16年度
(予)
17年度
(予)
実質国内総生産(GDP)
1.1
1.5
−0.2
民間最終消費支出
0.3
1.7
−1.2
民間住宅投資
1.8
3.0
−6.1
加し、人手不足感が深まる中で、生産性向
民間企業設備投資
1.6
3.7
0.9
上のための設備投資がこれまで以上に顕在
政府消費
1.3
1.0
0.5
化するとみている。法人実効税率が16年度
公的固定資本形成
−0.4
−1.7
−3.2
に更に引き下げられることも、設備投資の
財貨・サービス輸出
1.5
3.5
2.9
財貨・サービス輸入
1.1
5.3
0.3
鉱工業生産
−0.6
2.7
−1.1
消費者物価
0.4
1.0
2.1
除く生鮮食品
0.1
0.9
2.0
同(消費増税の影響除く)
0.1
0.9
1.0
18.7
19.9
21.4
間消費は着実に増加すると予想する。
一方で、企業部門の経常利益が着実に増
促進につながろう。その意味で、16年の日
本経済は、所得から投資への好循環の入り
口に立つことになろう。
輸出については、中国景気の減速による
影響は避けにくいとみられるものの、先進
国での耐久財消費の好調が自動車やエレク
経常収支(兆円)
(出所)内閣府、日本銀行および野村
第35
00号 野 村 週 報 平成28年1月1日(増刊) 第三種郵便物認可
外国為替市場
日米当局によるドル高・円安牽制はあるか
「黒田ライン」の虚実
れば、実質実効ベースでは「黒田ライン」
に届かない計算である。さらに、ドル独歩
まず、日本サイドの状況を検証しよう。
高を想定した場合、135円までの上昇余地
目先の最大の関心事は、
「黒田ライン」が
すら残っていよう。まずは1ドル=125円
実在するか否かである。黒田日銀総裁が15
を超えた時点で麻生財務大臣のコメントが
年6月10日の答弁で、1ドル=125円への
注目点だが、「これは円安ではなくドル高
円安進行を受け、「ここから更に実質実効
だ」という趣旨の発言になる公算が大きい。
為替レートが円安に振れるということは、
その時点で、市場は日本政府の円安許容力
普通に考えればありそうにない」と語り、
を意識し始めるだろう。
「125円で口先介入に出てきた」との誤解
2015年3月から4月にかけては、政府・
につながっている。しかし、黒田総裁は翌
日銀関係者の間で「円安デメリット」の議
週の定例会見で「名目のドル円相場につい
論が盛り上がった。しかし現在は当時と3
ての予想ではない」と市場の解釈を否定し、
つの点で状況が異なる。第一に、統一地方
「為替はファンダメンタルズを反映するこ
選を控えていたのに対し、現在は16年7月
とが重要」と強調した。
まで選挙の予定はない。政府が世論動向に
黒田総裁の真意をくみ取れば、1ドル=
神経質になるのはまだ先だ。第二に、食料
125円で再度の「口先介入」が出てくる公算
品価格の上昇が一服している。円安による
は低い。まず最近のドル円の上昇は、米金
物価上昇のデメリットは、輸入企業・家計
利上昇に伴う「ドル全面高」の色彩が強い。
ともに影響しづらい。第三に、政府による
実効ベースの円レートは、6月の円安水準
黒田総裁への牽制もなさそうである。CPI
に比べ、約6%円高方向に戻っている。低
(消費者物価)が低下傾向にある中、15年
下基調にあるユーロ、新興国通貨に対する
4月には再度の追加緩和があってもおかし
「円高」が、対ドルでの円安を凌駕してい
くない情勢だった。現在は、追加緩和姿勢
るためである。
が明らかに後退しており、政府・日銀の
したがって、1ドル=130円への円安であ
「対立」も表面化しにくい。
第三種郵便物認可 平成28年1月1日(増刊) 野 村 週 報 第3500号
外国為替市場
中止するのが先決である。そのような事態
「強いドル政策」の復活
は米国景気がよほど悪化しない限り想定し
次に、米国サイドはどうか。「大統領選
にくい。
を控え、米政府のドル高・円安許容度は落
もちろん、政治家の発言に一時的に市場
ちている」との推論が広がっている。しか
が反応する可能性は排除できない。特に、
しこれは根拠に乏しい議論である。米国の
次期大統領の最有力候補であるヒラリー・
経済政策は、伝統的に雇用の最大化を重視
クリントン氏の発言には要注意である。同
している。現状、ドル高の継続でも雇用の
氏は TPP(環太平洋経済連携協定)に明確
拡大が両立しており、政府が「ドル高けん
に反対するなど、貿易政策で保護的な姿勢
制」に動く可能性はきわめて低い。
が目立っている。実際の政策的意図を伴っ
1995年から99年にかけて当時のルービン
ていないとしても、選挙戦略の一環として
財務長官が「強いドル政策」を堅持できた
「ドル高は容認しない」との発言が飛び出
理由を思い出すべきである。当時、ドル高
すリスクには警戒しておきたい。
でも失業率が下がり続けたことが、ドル高
ドル円にまつわる「政治リスク」につい
許容力の源泉だった。現在の状況は当時と
ては、誤解が多い。筆者は、米国の利上げ
似ている。そもそも、政策金利を引き上げ
継続が明確になる中で、1ドル=130円を
る国の政府が通貨高けん制、というのも筋
早期に超えるような場面があっても、日米
が通らない。もし米国当局がドル高を本当
当局から実質的な牽制はなく、「容認され
に止めたいのであれば、FRB が利上げを
る」と予想している。
(池田 雄之輔)
ドル円相場と実効円相場
(ドル円)
128
(実効円相場)
94
126
ドル円相場(左軸)
実効円相場(日銀算出:右軸)
124
96
98
122
100
120
102
118
104
116
106
114
108
112
110
1/1
2/1
3/1
4/1
5/1
6/1
7/1
8/1
9/1
(注)実効円相場は、6月5日(ドル円の高値日)を100とした。(出所)ブルームバーグ、野村
10/1
11/1
12/1
(2015年)
110
第35
00号 野 村 週 報 平成28年1月1日(増刊) 第三種郵便物認可
内外債券市場
参院選後、日銀緩和の出口論に注意
小さくなっていること、一部の国で金融引
信用サイクル後期の債券運用
き締めに転じていることが理由だ。伸び代
長期、かつグローバルな視点で俯瞰する
の欠如は失業率低下、最終的にインフレ加
と、実体経済の景気サイクルが10年で一巡
速として現れ、金融政策の自由度を奪う。
するのに対し、金融市場の(信用)サイク
また人材不足を背景に賃金は多少なりとも
ルは3∼4年で一巡し、その節目では象徴
上がり易くなり、その分企業は雇用ペース
的な市場発の「ショック」が訪れ、信用サ
を落とす代わりに、生産性を上げることに
イクルが次のステージへと進む。このパ
よって収益拡大を狙うため、企業の買収・
ターンが、80年代以降では、3度に渡って
合併が急増している。賃金インフレの加速
繰り返されている。
はインフレ期待上昇を通じ、また生産性上
2015年夏に起きた「中国ショック」は、
昇は、政策金利が到達する中立水準の上方
信用サイクルのステージを中期から後期へ
シフトを通じ、いずれも金利上昇に寄与す
とシフトさせた。最終的には資産バブルの
る。
崩壊と信用危機の発生により景気は後退局
②は中国ショック後、エネルギー関連で
面へ向かうと思われるが、それまでの2∼
信用収縮が進んでいる。代わりにファンダ
3年間、サイクル後期の運用環境の特徴は、
メンタルズに優れた市場に資金が集中し、
以下の三つの通りである。
バブル化が進む。今回は米国企業周りの株、
① 金融市場でのリターンは総じて前期・
社債であろう。不動産がこれからキャッチ
アップしてくる可能性もある。中国自身は
中期と比べ落ちる。
② 金融市場のショックをきっかけに、一
構造改革と経済成長両立のため、独自の信
部市場には投資資金が回らなくなる。
用拡張路線を取る。中国の李克強首相は、
③ 金融緩和から引き締めへと移行する節
今後の5年間に亘り、約1兆ドルの海外投
目に当たり、国債市場が急落に見舞わ
資計画を打ち上げており、80年代の日本マ
れる。
ネーと同様、中国マネーがグローバルに信
しろ
①は景気拡大期が続き、経済の伸び代が
用を供給することになりそうだ。
第三種郵便物認可 平成28年1月1日(増刊) 野 村 週 報 第3500号
内外債券市場
日銀緩和の副作用が政治問題化
債で若干のマイナス利回りも厭わない。
日銀はインフレが2%に達しなくとも、
③は、既に米国では13年に発生した。欧
16年中に緩和度合いを落とすことを検討す
州でも15年に発生し、その後に欧州中央銀
ると見ている。日銀は追加緩和せずとも、
行による追加緩和が実施され、一部取り戻
償還増見合いで国債を9兆円買い増す。一
している。日本では、まだ発生していない。
方公的年金の運用シフトは一巡し、銀行は
グローバルに金融引き締めの国と緩和継
更に国債から海外投融資へのシフトを迫ら
続の国が共存するため、どちらが主導権を
れる。日銀は為替ヘッジコスト上昇や短期
握るかによって、債券価格が上下に振れ易
金利マイナス化自体はある程度、甘受して
くなる。その力量バランスを変えるのが原
いるが、その結果、銀行や生保、個人まで
油価格だ。エネルギー産業で信用収縮が発
が為替やクレジットリスクへ傾斜すること
生していることからも、供給削減はハイ
を懸念している。
ペースで進むと見込まれ、16年中に価格底
特に、政治は円安に対し警戒を強めつつ
入れが見えてくるだろう。これはリーマ
ある。①アベノミクス「第2ステージ」は、
ン・ショック後に住宅産業に起きた現象と
企業から家計に重点をシフトしている、②
同じだ。
企業のビジネスモデルが輸出から海外投資
日本の債券市場では、日銀の金融緩和に
に代わり、過度な円安は、日本企業の購買
より、運用対象として魅力ある債券はほと
力を落とすだけでなく、海外に日本の有力
んど見当たらない。それでも、日銀買入に
企業・技術が買われていく、ためだ。
より債券相場は「安定∼じり高」との見方
が大勢である。
中国が大規模な海外投資構想を打ち出し
ているだけに、円安の政治リスクは高まっ
加えて、最近では、日銀緩和策の副作用
ている。安倍首相は「第2ステージ」の発
として、日本から海外での投融資に資金を
表に際し、
「既にデフレではない」との認識
シフトする規模が余りに大きくなり、為替
を示し、2%インフレに拘らない姿勢を明
ヘッジをする際に支払うプレミアム(ベー
確にしている。参院選後に「デフレ脱却宣
シス・コスト)が拡大する。それを狙って
言」が正式に打ち出され、それを機に日銀
海外投資家がドルを円に換え、円資金を日
緩和の出口論が政治主導で始まるリスクに
本の短中期債に置き、保管コストとして国
注意しなければならない。
(松沢 中)
第35
00号 野 村 週 報 平成28年1月1日(増刊) 第三種郵便物認可
日本株式市場
「変化する日本企業」の投資視点と株式展望
16年度の日本企業は「増益」が基本感
相当数の投資家が夏場まで「日本株は
れは16年も継続する。公的年金は、リバラ
ンスという観点では、引き続き買い主体に
もなりえるだろう。
オーバーウェート」と言及していたが、9
ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の運用高
月以降は「オーバーウェート」の意見を聞
度化も本格化するのはこれからである。ゆ
く機会は少なくなった。夏場以降、確かに
うちょ銀行は中期経営計画の中で、向こう
景況感は世界的に悪化した。だが、7∼9
3年間でサテライトポートフォリオ(信用
月期決算を織り込んでも、15年度下期は
リスクや市場リスクをテイクすることで、
ラッセル野村大型株(除く金融)ベースで、
より高い収益の実現を図る運用)残高を14
前年同期比13.1%経常増益予想である。
兆円拡大するという計画を公表している。
16年度についても、減益の不安感は根強
仮に足元で議論されている、ゆうちょ銀行
いようだ。「低成長率時代」の中、「牽引役
の預入限度額引き上げが実現すれば、その
もっと
不在」という指摘は尤もな部分もある。そ
れでも16年の世界実質 GDP(国内総生産)
部分の運用も視野に入ってこよう。
また、過去の経験から、補正予算を機に
成長率予想は+3.2%であり、減収を余儀な
景気指標、株価のモメンタム(勢い)は改
くされるような水準かという点については、
善しやすい。そして、16年の日本株にとっ
冷静な判断が必要である。
て、
「夏場の参院選」というのは一つの重要
固定費もまだ抑制されている。若干でも
イベントである。アベノミクス以降の「選
「増収」が期待できるのであれば、「増益」
挙と日本株」の関係を見ると、結果的に選
が基本感になるであろう。過去の経験から
挙に向けて株価が上昇傾向にあったことが
は「国内自動車生産台数」と「鉱工業生産」
わかる。
「現政権の株価への関心の高さ」は
の連動性は高く、16年度上期に向けて、鉱
相応に浸透している評価である。
工業生産の上ぶれに期待したい。
日本株の需給環境は引き続き良好である。
日本銀行による ETF(上場投資信託)買入
以上を背景に、16年の日本株は「参院選
前まで上昇、その後反落するものの年末回
復」という展開を想定している。
第三種郵便物認可 平成28年1月1日(増刊) 野 村 週 報 第3500号
日本株式市場
「変化する日本企業」の投資視点
モメンタム減速」を見込む状況である。
また、内需株のバリュエーションは対国
東証業種33分類では、15年の騰落率上位
内で見ても、対海外で見ても、いずれにせ
5業種は小売業、医薬品、その他製品、食
よ割高感が否めない。更に、00年以降で見
料品、建設業、騰落率下位5業種は海運業、
ると、ある年の騰落率が上位5位以内で
鉄鋼、鉱業、証券・商品先物取引業、倉庫・
あった業種が、翌年も上位5位に入るケー
運輸関連業であった。端的には、内需安定
スは僅か9%に過ぎない。上記を背景に、
株が選好され、市況関連、新興国関連が敬
「内需安定株を推奨するのは得策ではな
遠された1年であった。
い」と考える。
15年の内需安定株の活躍は、まさに驚異
16年に関しては、相対的に外需系製造業
的であった。依然として人気は高く、資金
に重きを置く投資戦略を採用する。16年に
フローの観点からも低ボラティリティ(変
向けては、
「国内生産回帰」と「民間設備投
動性)に対する投資ニーズを耳にする機会
資」にアップサイドポテンシャルがある点
は少なくない。16年を展望すると、足元の
に注目したい。追加的な円安進行によって、
低調な国内景気から、16年前半に向けた賃
製造業の株価が上方シフトする可能性も意
上げの可能性、更には、17年4月の消費税
識しておく必要があるだろう。
率引き上げ前の駆け込み需要へとつながっ
「変化する日本企業」は、16年も重要な
ていこう。14年末とほぼ同様の投資環境が
投資視点となろう。「経営の変化の兆しが
展望できるだろう。
感じられる企業」だけでなく、
「もっと変
ただ、1年前との比較感で決定的に異な
わるべき企業」にも注目したい。投資家と
るのは「業績の方向感」と「バリュエー
のコミュニケーション、例えば企業側の情
ション(価値評価)」であろう。1年前のボ
報発信姿勢にも変化が求められよう。そも
トムアップ予想では、15年度に向けて「加
そも反対論も多かった「社外取締役導入」
工が好業績継続、非製造業(除く金融)が
についても、政府の強力な推進によって、
モメンタム改善、素材が増益転換」が展望
大幅な前進を遂げた。要は「やる気」の問
されていた。これに対して、足元では、16
題である。漸減傾向にとどまっている決算
年度に向けて「加工が好業績継続、素材が
説明会開催の動きも、一気に変わる可能性
モメンタム改善、非製造業(除く金融)が
を秘めていよう。
(松浦 寿雄)
第35
00号 野 村 週 報 平成28年1月1日(増刊) 第三種郵便物認可
企業統治
16年は実効性が問われる企業統治
16年は企業統治の「効果測定」期
レートガバナンス・コードのフォローアッ
プ会議(以下、「フォローアップ会議」)が
安倍政権下で進められている成長戦略の
15年9月より始まった。ここでは、2つの
重要な柱としてコーポレートガバナンス
コードの定着状況の確認や上場企業の企業
(企業統治)が取り上げられた。そして、
統治を更に向上させるために、取締役会の
JPX 日 経 イ ン デ ッ ク ス400の 算 出 の 開 始
機能や政策保有の株式(いわゆる「持ち合
(2014年)
、機関投資家の行動規範であるス
い」)等のテーマを決め、議論が行われてい
チュワードシップ・コード(14年)
、上場企
る。
業の行動規範であるコーポレートガバナン
また、金融庁金融審議会の「ディスク
ス・コードの作成、適用(15年)など、数々
ロージャーワーキング・グループ」が同年
の施策が打ち出された。それに伴い、社外
11月に始まった。ここでは、企業が投資家
取締役を選任する企業の増加や配当や自社
に対して必要な情報を効率的かつ効果的に
株買いといった利益還元政策を積極化する
提供するため、会社法、金融商品取引法、
企業の増加など、日本企業の「変化」を示
証券取引所上場規則それぞれが定める情報
す証拠が見られ、株式市場で注目された。
開示ルールの見直し、統合的な開示のあり
2016年については、こうした一連の企業
方について検討している。16年3月までに
統治改革の実効性をいかに高めることがで
結論を得る予定である。
きるかという、いわば効果測定の時期と位
更に、経済産業省では同年11月より「株
置付けられる。15年6月に公表された「『日
主総会プロセスの電子化促進等に関する研
本再興戦略』改訂2015」では、企業統治関
究会」が始まった。ここでは、企業が適切
連の特段新しい施策は見られなかったもの
な株主総会開催日や議決権行使の基準日の
の、ここでの提言に基づき、以下の3つの
設定を行うことや、招集通知の関連書類や
会議体や研究会が設けられた。
議決権行使の電子化等などについて議論さ
まず、金融庁と東京証券取引所の共催で、
「スチュワードシップ・コード及びコーポ
れている。こちらも16年3月までに結論を
得る予定となっている。
第三種郵便物認可 平成28年1月1日(増刊) 野 村 週 報 第3500号
企業統治
特に「株式持ち合い解消」の進捗に注目
ては、16年以降も政策保有株式の削減が重
要な関心事であることが改めて示されたと
こうした、企業統治改革の「効果測定」
いえるであろう。ただし、株式の持ち合い
をみる上で、16年はいわゆる「株式持ち合
解消は既にかなり進捗し、野村で算出して
い解消」の進捗に注目したい。
いる「株式持ち合い比率」は14年度末時点
15年6月より適用が始まったコーポレー
で過去最低まで低下している。
トガバナンス・コードでは、企業は、①政
このため、売却される株式の総量は90年
策保有株式に関する方針の開示、②主要な
代後半から2000年代前半に比して小規模に
政策保有株式に関し、保有の合理性に関す
なるであろう。また、持ち合い解消で放出
る説明、③政策保有株式に関する議決権行
される株式についても、自己株式の取得で
使基準の策定と開示、が求められている。
吸収する企業が増えると見込まれる。株式
政策保有株式の保有理由は、「取引関係
需給の面からも、株式持ち合い解消の与え
の維持、向上」が多いが、企業価値の向上
る悪影響は限定的と考える。
に結び付くことが明確に説明されていると
むしろ、政策保有株式の圧縮により個人
は言い難い印象がある。こうした点につい
投資家や機関投資家の株式保有割合が高ま
ては、今後、企業と投資家との対話が進む
ることは、日本の企業統治の質的な向上の
中で議論の主題となるであろう。
継続を示す証拠として、株式市場からは好
「フォローアップ会議」の第3回会合で
感されると考える。
持ち合い解消は緩やかに進行
は政策保有株式を議題として取り上げた。
そこでは、
「金融機関、事業法人とも政策保
有株式は圧縮すべきであり、また、その方
向で進んでいる」と発言が多く聞かれた。
(西山 賢吾)
(%)
22
広義持ち合い比率
持ち合い比率
20
18
16.1%
16
14
実際に、既に、3メガバンクは取得原価
ベースで現行の保有株式の30%程度を3∼
5年で削減するという目標を公表しており、
事業法人でも保有株式の削減目標を示す事
例も増えてきた。
「フォローアップ会議」での議論におい
15.0%
12
10.8%
10
8
2005
9.9%
2007
2009
2011
(年度)
2013
2015E
2017E
(注)1. 持ち合い比率は、上場会社(ただし、上場保険会社を除く)
が保有する他の上場会社株(時価ベース)の、市場全体の時価総
額に対する比率(ただし、子会社、関連会社株式を除く)。15年
度以降の持ち合い比率、広義持ち合い比率は野村予想。2. 広義持
ち合い比率は、持ち合い比率に保険会社の保有比率を加えたもの。
(出所)大株主データ(東洋経済新報社)、各社有価証券報告書、
及び株式分布状況調査(全国4証券取引所)より野村作成
第35
00号 野 村 週 報 平成28年1月1日(増刊) 第三種郵便物認可
米国株式市場
企業業績拡大で米国株は上昇へ
内需主導での米国景気拡大が続こう
米国の実質 GDP(国内総生産)成長率に
ついて野村では、15年の前年比+2.5%に対
野村では政策金利の誘導目標は16年には
徐々に引き上げられ、17年に入ってから
FRB のバランスシートの縮小が始まると
予想する。
し、16年は同+2.2%と予想する。世界経済
米国経済のリスクとして、一つは FRB の
の減速は懸念されるものの、個人消費と住
バランスシート縮小に起因する金融市場の
宅市場という内需がけん引する形で堅調な
混乱が挙げられる。だが、FRB は金融政策
成長を予想する。
の正常化に向けて行動していることから、
次に、金融政策について見てみる。FRB
景気悪化が懸念される状況となればバラン
(米連邦準備制度理事会)は15年12月15∼
スシート縮小をやめ、政策金利を引き下げ
16日開催の FOMC(米連邦公開市場委員
る等の対応をとると考えられる。
会)において、政策金利の引き上げに踏み
リスクのもう一つは、海外経済の更なる
切った。今回の政策金利引き上げは金融政
減速が挙げられる。ただし、個人消費と住
策の正常化が主眼で、景気過熱を懸念して
宅市場の拡大という内需主導での経済成長
ではない。このため、今後の政策金利引き
が継続するのであれば、米景気の腰折れの
上げペースは過去と比べて緩やかと野村で
可能性は低いと判断する。
はみている。このため、長期金利は大幅に
は上昇しないと予想する。
ここで、米企業の業績動向について見て
みる。12月11日時点のトムソン・ロイター
利上げ開始後の金融政策の次の論点は、
社の集計では、S&P500指数構成企業の平
FRB が QE(量的緩和)で取得した国債な
均一株当り利益は、14年の118.78ドル(前
どの売却、すなわちバランスシートの縮小
年比+8.3%)に対し、15年は117.55ドル
のタイミングである。野村では、FRB は政
(同−1.0%)と予想されている。
策金利の誘導目標が1.00%に達する辺りか
米企業の業績が鈍化する要因は、大幅な
らバランスシートの縮小を開始すると予想
ドル高の進行と、原油など商品価格下落の
している。
影響が挙げられる。
第三種郵便物認可 平成28年1月1日(増刊) 野 村 週 報 第3500号
米国株式市場
米国株の投資アイディア
米国は利上げに踏み切ったものの、日欧
など他の地域では緩和的な金融政策が続い
注目したい。
投資アイディアの二つ目は、住宅市場の
拡大の恩恵を受ける、ホームセンター最大
手のホーム・デポである。
ている。このため、16年もドル高傾向は続
投資アイディアの三つ目は、長期にわた
くと予想される。また、原油価格について
り配当を増やし続けている大型優良企業へ
も一段の下落リスクは残る。ただし、15年
の投資である。S&P500指数構成銘柄の中
にみられたほどの急激なドル高進行や原油
から過去25年以上、一株当たり配当金を増
価格下落とはならないとみられることから、
やし続けている(特別配当等を除く)企業
前年比という点からは、16年は両要因とも
を選び、算出される「S&P500配当貴族指
15年ほどには企業収益の足を引っ張らない
数」という株価指数がある。
と予想される。
前述のトムソン・ロイター社の集計では、
同指数に採用され、かつ米国を代表する
優良企業30社で構成されるダウ指数の構成
S&P500指数構成企業の一株当り利益は、
銘柄でもある企業は、エクソン・モービル、
16年127.94ドル
(前年比+8.8%)
、
17年143.95
シェブロン、3M、マクドナルド、プロク
ドル(同+12.5%)と、増益基調に復する
ター・アンド・ギャンブル、コカ・コーラ、
と予想されている。技術力やブランド力を
ウォルマート・ストアーズ、ジョンソン・
駆使した新商品・サービスの投入などによ
エンド・ジョンソンの8社である。これら
る業容拡大が予想されていると推察される。
企業が候補に挙がる。
米国株式市場は、16年以降の米企業の業
上記企業群は97年のアジア通貨危機や98
績拡大を織り込むようになれば、再び上昇
年のロシア危機、2000年代初頭の IT(情報
基調となると考える。
技術)バブル崩壊、08年以降の世界的な金
以上を踏まえた投資アイディアの一つ目
融危機等、数々の経済的なショックを経験
は、個人消費関連銘柄である。高いブラン
しながらも、着実に配当を増やし続けてき
ド力を備え、スポーツ関連商品メーカーと
た実績を持つ企業群である。仮に相場が調
して売上高世界最大のナイキや、放送事業
整した場合のこれら企業群の押し目買いは、
を主力に、映画やテーマパークなどを展開
有効な投資アイディアと考える。
するウォルト・ディズニー・カンパニーに
(村山 誠)
第35
00号 野 村 週 報 平成28年1月1日(増刊) 第三種郵便物認可
アジア株式市場
中国悲観論後退の予兆
アジアに優しい米国の利上げ
当時、両国とも多額のドル建て、変動金
利の対外債務を抱えていたため、FRB の利
12月15∼16日に開催の FOMC
(米連邦公
上げにより、通貨下落とあいまって利払い
開市場委員会)は08年12月より続いた事実
費が膨らみ、自国通貨で換算した債務残高
上のゼロ金利政策に終止符を打ち、政策金
も膨張した。また、自国通貨を買い支える
利の FF(フェデラル・ファンド)レート
充分な外貨準備もなかった。
の誘導目標を0.25∼0.50%へ0.25%ポイン
ト引き上げることを決定した。
その後、97年のアジア通貨危機を経て、
新興国は外貨準備の積み増しに奔走した。
ドッツと呼ばれる FOMC のメンバーに
新興国が輸入する際の支払い能力と考えら
よる FF レートの見通し(中央値)は16年
れる外貨準備の残高については、一般的に
末で1.25∼1.50%、17年末で2.25∼2.50%と、
輸入の3カ月分以上の保有が必要と言われ
ゼロ金利解除以降の利上げは緩やかなペー
ている。
スを想定している。今後の米国の金融政策
現在、アジアなどの新興国では、97年の
については、野村は緩やかな利上げのペー
アジア通貨危機や、04年に米国が利上げを
スを予想している。
開始した時よりも、保有する外貨準備高の
かつて、米国の利上げ局面では、新興国
水準は高くなっている。また、民間企業も
の通貨危機が発生している。FRB(米連邦
含めて、新興国が発行する債券の年限は長
準備制度理事会)は94年2月に利上げを開
期化しており、いわゆる足の速い償還まで
始したが、同年にメキシコは通貨危機に見
1年未満の短期の対外債務の比率は抑制さ
舞われた。
れ、償還時のリスクが分散されていると言
その後、FRB は99年6月に利上げ局面へ
える。
移行したが、金融引き締め局面が終了し、
総じてアジア各国の「ストレス耐性」は
利下げ局面に入った01年12月にアルゼンチ
高まっており、かつ米国の利上げペースが
ンはモラトリアム(対外債務支払いの一時
「優しい」ものであれば、今後、強い通貨
停止)を宣言した。
下落圧力は受けないと考えられる。
第三種郵便物認可 平成28年1月1日(増刊) 野 村 週 報 第3500号
アジア株式市場
中国悲観論後退の予兆
現状、中国経済の減速と、それを主因と
した商品価格下落ストーリーが根強い。
野村でも中国経済の減速を想定している。
15年の実質 GDP(国内総生産)成長率は
6.8%と予想しているが、16年は5.8%、17年
は5.6%と見込んでいる。
しかし、減速はするものの、成長の中身
けられ、世界の鋼材価格を下押ししている。
しかし、生産調整は徐々にではあるが進み
つつある。銅やニッケルなどでも協調減産
に乗り出したと報道される一方、資源、金
属の国有企業の合併も模索されている。海
運会社の大型合併も発表されている。
加えて、マクロ経済も安定化の兆しが見
えてきた。11月の鉱工業生産は前年同月比
+6.2%と10月の同+5.6%から持ち直した。
が変化しつつある。賃金水準の上昇や都市
中でも乗用車の生産は同+8.4%と増加に
化の進展に伴う中間層の拡大を背景に、第
転じた。1∼11月の固定資産投資は前年同
3次産業が堅調に拡大しており、中国経済
期比+10.2%と1∼10月の伸び率と同じで
のサービス化の進展がみられる。GDP に占
あった。水道が同+23.3%、公共施設が同
める第3次産業のシェアは13年に46.9%、
+20.5%とインフラ関連投資は加速した。
14年は48.1%となっていたが、15年1∼9
財政政策の効果が顕在化しつつある。
月期には51.4%に達している。
現状、16年の主なアジア市場の EPS(一
中国経済が減速する中でも、小売売上高
株当たり利益)の前年比伸び率のコンセン
に象徴されるように、消費は堅調に推移し
サス予想は、上海 A(中国)+10.0%、深
ている。特に、Eコマース(電子商取引)
セン A(中国)+30.4%、香港+8.8%、イ
の成長が目立っており、15年1∼10月期は
ンド+19.4%、インドネシア+10.2%、シン
前年同期比+34.6%と高い伸びを示し、E
ガポール+5.0%、タイ+12.1%、となって
コマースの小売売上高に占める割合は10%
いる(12月9日時点のトムソン・ロイター
となっている。
調べ)。
一方、確かに供給サイドの川上部門では
中国経済が「投資から消費へ」と政策転
デフレ圧力が続いている。中国ではこの10
換する中で、軟着陸の可能性が高まり、中
年間で鋼材生産量は3倍近くに伸び、世界
国悲観論が後退することを前提に、アジア
生産量の過半を占めるに至ったが、国内の
株を見直すことが16年のテーマと考えら
需要減速に伴う過剰生産分が輸出に振り向
れる。
(佐々木 文之)
第35
00号 野 村 週 報 平成28年1月1日(増刊) 第三種郵便物認可
商品市場
商品市況は低迷脱出を模索へ
軟調地合いが続いた商品市況
2015年のコモディティ市場を振り返ると、
非鉄金属市況を押し下げる主な要因となっ
た。中国は多くの非鉄金属の世界最大の消
費国であり、中国景気の減速が、需要の伸
主要な品目で、価格の下落や市況の低位安
びを抑える主因になると考えられ、各市況
定が続いた。原油市場では、OPEC(石油
が軟化した。
輸出国機構)加盟各国が高水準での原油生
穀物市場では、主要穀物が豊作となった
産を続けた他、イランの核開発に関する国
2014年に市況が大きく下落した後、更に市
際協議が合意に至り、イランが原油を増産
況が大きく下落することは避けられた。
する公算が大きくなった。一方、米国の
2015年は、各市況が低位で安定する展開と
シェール・オイルの生産量は、減少し始め
なった。2015年も世界各地の穀物生産地域
たものの、当初、市場で予想されていたの
で、概ね良好な天候が続き、豊作となって、
に比べて、ゆっくりとした減産に留まった。
各市況が抑えられた。一方で、米国の穀物
このため、原油の供給過剰感が強まり、
生産コストに各市況が近づき、市況が支え
WTI(米国軽質原油)期近物先物価格は、
られる状況となった。
12月に1バレル当り30ドル台へ下落して推
移している。
このように、要因は品目によって異なっ
たが、主要なコモディティ市況は2015年中、
金市場では、中東情勢の混乱が深まった
概ね軟調な推移となった。2016年は、これ
り、中国の景気不安が強まったりする局面
まで各品目の市況を抑えてきた要因に変化
で、安全資産として金に対する需要が高ま
が生じて、各市況が2015年と異なる動きへ
り、金市況が支えられることがあった。し
向かうかが、注目される。原油の供給過剰
かし、2015年を通してみると、米国の利上
状態が続くのか、金市況に対する米国の金
げに向けて金価格は下落し、12月には1ト
融政策の影響が変化するのか、非鉄金属市
ロイオンス当たり1000ドルへ近づく展開と
場で、中国の景気減速が意識され続けるの
なった。
か、主要穀物の豊作が続くのか、等が注視
非鉄金属市場では、中国景気の減速が、
されよう。
第三種郵便物認可 平成28年1月1日(増刊) 野 村 週 報 第3500号
商品市場
原油市況等に底離れの可能性
る公算が大きい。ドルも強含みと見られ、
金価格が更に上昇傾向を強めるとは考えに
原油市場では、2016年上半期に、イラン
くい。また、世界的に物価が安定している
が原油を増産し始めることが見込まれ、原
中で、実際に米国が再利上げに向かうと、
油の供給過剰感が強まると見られる。した
再び金価格は利上げを織り込む動きとなろ
がって、引き続きこの間は、原油価格の上
う。金価格は米国の金融政策動向の影響を
値は重い状態が続くと想定される。ただし、
受け続け、1000ドルから1200ドルの間での
イランの増産は、市場において、既に相当
変動を続けると考えられる。
程度、織り込まれてきていると見られる。
非鉄金属市況は、中国景気の減速が続く
イランの増産が決まったとしても、更なる
中では、抑えられる傾向が続きやすいと見
大幅な価格下落は生じ難いと考えられよう。
られる。ただし、大手精錬メーカーが減産
逆にイランの増産が決まると、市場の織り
を表明している銅については、減産が顕著
込みは一巡し、市況に底入れ感が生じる可
に進むと、市況に上昇圧力がかかる可能性
能性があろう。
がある。また、ニッケルについても、イン
イラン増産後は、更に原油の供給が増え
ドネシアがニッケル鉱石の輸出を禁止して
る要因が見当たらない。供給量が安定しよ
おり、鉱石不足から減産傾向となると、市
う。一方、世界景気が弱いながらも拡大し
況が上昇する可能性が考えられる。
続けると、原油の需要も緩やかな増加が続
穀物市場では、予想が困難であるが、天
くと見込まれる。2016年下半期に、原油の
候が注目される。穀物生産地で良好な天候
供給過剰幅が徐々に縮小し、原油価格に上
が続くと豊作が見込まれ、市況の低位安定
昇圧力がかかろう。WTI(米国軽質油)が
が続こう。しかし、エルニーニョ(気象現
50ドル程度へ向かう可能性があろう。
象)で、天候不順になると、生産が悪化し、
金価格は2016年に入っても、新たに価格
市況が上昇しかねず、注意を要する。
を動かす要因が出てくるとは考え難い。そ
以上のように2016年は、品目によって、
うした中で、米国の利上げ後、市場の利上
市況に底離れ傾向が生じる可能性があろう。
げ織り込みが終了し、市場が落ち着くと、
依然として様々な不透明性はあるが、これ
金価格は1200ドル近辺へ戻る可能性はある。
までの市場要因に変化が生じるかどうかが、
しかし、米国では再度、利上げが実施され
注目される。
(大越 龍文)
第35
00号 野 村 週 報 平成28年1月1日(増刊) 第三種郵便物認可
「丙 申」 縁 起
平成28年、
「丙申(ひのえ・さる)」
申(さる)の字義は神という意味で字音はシ
ン、時刻は午後3時から5時、方位は西南西、
月は旧暦の7月。五穀豊穣をもたらす立秋に始
まり、処暑を中気として白露に至るまでの月で、
陰気が次第に発動し、陽気が次第に衰退する時。
我が国で猿は山王日吉大社のお使い、猿の皮
は魔除けで、「猿真似」と蔑視される一方で、
「三猿」
「意馬心猿」の諺を通じて人間を戒め
る存在。
最後の衝撃的な場面が有名な映画の
「猿
の惑星」でも、猿が人間の弱さを暴く存在であ
る点が興味深い。
◇
さて、吉例の「丙申」縁起談。
丙申で目を引くのは慶長元年
(1596)。明の和
平使節楊邦亨が持参した冊書にあった「日本国
王に封ずる 」という属国扱いの内容を豊臣秀吉
が不満として和平を破棄し 、翌年の朝鮮再出兵
につながった年だった。
二めぐり前の甲午は明治29年(1896)
。2月に
朝鮮国王がロシア公使館に移り、新政府がロシ
ア公使館内に置かれ、京城の日本勢力が一掃さ
れた。その後の交渉の結果、6月に山県・ロバ
ノフ協定が調印され、議定書で朝鮮財政の共同
援助や軍隊創設などが取り決められた。両年と
もに、隣国との関係が悪化した年だった。
前回は昭和31年(1956)
。5月に米国がビキニ
で初の水爆投下実験を行い、6月にエジプトの
大統領になったナセル大統領がスエズ運河の国
有化を宣言してスエズ動乱が起こり、11月には
ソ連軍がハンガリー全土を制圧した。
日本では7月に発表された経済白書の「もは
や戦後ではない」が話題になり、10月に「日ソ
共同宣言」が調印され、12月の国連総会で日本
の国連加盟が承認されて、国際連盟脱退後23年
で日本は再び国際政治の一員として復帰した。
社会に目を転じると、1月にエルヴィス・プ
レスリーの「ハートブレイク・ホテル」が発売
されてロックン・ロールが大流行。街に「ここ
に幸あり」や「ケ・セラ・セラ」が流れた。
そして、芥川賞を受賞した石原慎太郎の「太
陽の季節」が「文藝春秋」3月号で発表される
と数日で売り切れ。「太陽の季節」と弟の石原
裕次郎が出演した「狂った果実」が映画で大
ヒットして、太陽族ブームが起こり、4月には
NHK「チロリン村とくるみの木」が放送開始さ
れた。
スポーツでは1月のコルチナ冬季五輪で猪谷
千春がスキー回転で日本初の銀メダルを獲得し、
プロ野球では5月に甲子園で初ナイターが行わ
れ、10月の日本シリーズで三原西鉄が水原巨人
を破って初の日本一になった。
戦後11年を経て復興が明確になり、日本に豊
かな社会を目指す活力が出てきた一方、米国と
ソ連の東西対立が激化し、世界は冷戦に向かい
始めた年だったと言えようか。
◇
中国の古典は、
「丙」は「万皆成リテ明ラカ
ナルサマ」
、「陰気初メテ起リ陽気将ニ欠ケント
ス」、また「申」は「伸」で、
「陰気ノ伸ビル意」
と説き、どちらの字義も陽気から陰気への転換
期で一致する。
1991年にソ連が解体されて四半世紀。EU と
ユーロの誕生で平和を謳歌してきた欧州ではギ
リシャや難民流入の問題が深刻化し、サイバー
攻撃や南シナ海問題などで中国と米国の対立が
激化するなど、世界の混迷は深まりつつある。
しかし、このような時だからこそ、日本は長
期的な視野でアベノミクスという構造改革を継
続し、申の字にあやかり、神の加護によって、
稔り多く、経済も政治も伸長する吉年にしなけ
ればならないと考えるが、如何。
(山城屋)
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