鉄 鋼 - みずほ銀行

特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
鉄
鋼
【要約】
■ 世界の鉄鋼需要は中国経済の減退等を背景に勢いを欠いており、日本の内需も落ち込み
が目立つ。世界需要は当面停滞が見込まれるが、国内では消費税の再増税を前にした生産
拡大の影響もあり、2016 年の後半から回復感が強まる見込み。
■ 2020 年に向けては、巨大市場・中国の成長鈍化を背景に世界需要の拡大テンポは鈍化し、
日本の内需は漸減しよう。中国の供給過剰は当面解消せず、輸出市場への鋼材流入継続
によって国際競争は激化しようが、日系高炉各社は高付加価値品中心に一定の競争力を確
保しうる。
■ かかる環境下、高付加価値鋼材中心に海外展開を図る高炉各社の戦略は妥当と判断される
ものの、日系自動車メーカー向け等特定分野への依存度の高まりが潜在的な懸念材料。非
日系自動車サプライチェーンへの食い込み、マルチマテリアル化、グローバルな建材需要の
取り込み等を通じて事業リスクの分散を図ることが望ましい。
【図表3-1】 需給動向と見通し
【実額】
摘要
2014年
2015年
2016年
2020年
(単位)
(実績)
(見込)
(予想)
(予想)
国内需要
粗鋼換算見掛消費量
(百万トン)
72.9
68.3
70.5
68.4
輸出
製品・半製品輸出量
(百万トン)
41.3
41.4
42.8
43.8
輸入
製品・半製品輸入量
(百万トン)
6.7
5.2
4.3
7.7
国内生産
粗鋼生産量
(百万トン)
110.7
106.5
109.0
104.1
グローバル需要
粗鋼換算見掛消費量
(百万トン)
1,662.9
1,626.4
1,657.0
1,823.3
【増減率】
摘要
2014年
2015年
2016年
2015年-2020年
CAGR
(単位)
(実績)
(見込)
(予想)
(予想)
国内需要
粗鋼換算見掛消費量
(前年比、%)
+4.1
▲ 7.1
+3.2
▲ 1.1
輸出
製品・半製品輸出量
(前年比、%)
▲ 2.7
+0.2
+3.2
+1.0
輸入
製品・半製品輸入量
(前年比、%)
+24.4
▲ 22.9
▲ 17.6
+2.2
国内生産
粗鋼生産量
(前年比、%)
+0.1
▲ 3.8
+2.4
▲ 1.0
グローバル需要
粗鋼換算見掛消費量
(前年比、%)
+0.8
▲ 2.2
+1.9
+1.5
(出所)World Steel Association, Steel Statistical Yearbook 他よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年以降の数値はみずほ銀行産業調査部による予測値。以下、特に断りのない限り同じ。
みずほ銀行 産業調査部
28
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
I.
世界の鉄鋼需要~緩やかに拡大も、中国経済の構造転換を背景に伸びは鈍化
① 概観
世界の鉄鋼需要
は勢いを欠く展開
世界の鉄鋼需要は、2015 年に 1,626 百万トン(前年比▲2.2%)程度で着地し
た後、2016 年は 1,657 百万トン(同+1.9%)程度へ小幅に増加するものとみら
れる(【図表 3-2】)。2010 年以降、鉄鋼需要は年率平均+6.1%という高成長を
続けてきたが、2014 年辺りから減速感が漂い始め、足許まで盛り上がりを欠く
状況が続いている。2016 年もその傾向は大きく変わらないとみられ、2 年連続
の需要減少は回避されるものの、回復感はさほど高まっていかないだろう。
中国経済の鈍化
が大きく影響
その背景にあるのは、新興国を起点とする世界経済の成長鈍化である。特に
世界の鉄鋼需要の半分弱を占める中国の景気減速は、それ自身が需要の大
きな下押し圧力となっていることに加え、産業連関を通じてアジアを中心とす
るグローバル経済にも負の影響を広げている。米国や欧州では自動車を中心
に需要は総じて底堅く推移しており、新興国でもインド等では引き続き旺盛な
需要が確認されることから、必ずしも世界需要が弱含み一辺倒という状況では
ないが、当面は最大の市場である中国の景気減速の影響を免れないだろう。
2020 年に向けて
鉄鋼需要は緩や
かな伸びに
2020 年に向けての世界需要は年率+1.5%で緩やかに拡大し、2020 年時点で
1,823 百万トン程度になるとみられる。先進国需要の伸びは総じて緩慢であり、
中国の需要も、ピークアウトこそ今しばらく先とみられるが、再度の成長加速は
期待し難いだろう。東南アジアや南アジア、或いは中東・アフリカ等では高成
長が予想されるものの、いずれの地域も現時点の需要規模は中国の十分の
一前後に過ぎないことから、世界需要の牽引力という点では力強さに欠けよう。
鋼種別の需要は、条鋼類(Long Products)が 2014 年比年率+1.2%、鋼板類
(Flat Products)が同+1.8%の成長を予想する(【図表 3-3、4】)。
【図表3-2】 世界の鉄鋼需要見通し
Unit: million ton, % change
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
World
1,648.9
1,089.5
916.3
765.8
70.9
53.9
75.8
88.1
7.5
203.4
149.5
106.3
53.9
263.1
157.2
39.3
66.7
92.8
54.3
16.1
1,662.9
1,081.8
898.5
740.4
72.9
57.8
79.9
93.1
8.4
220.2
169.6
121.6
50.6
264.5
162.1
39.4
63.0
96.3
56.5
16.4
1,626.4
1,048.4
856.6
704.9
68.3
56.0
83.5
97.9
8.6
211.2
163.6
115.0
47.6
266.1
166.2
41.5
58.4
100.7
58.2
17.5
1,657.0
1,069.6
864.6
709.2
70.5
57.0
89.0
105.3
8.8
212.7
166.9
117.2
45.8
269.5
169.2
43.2
57.1
105.2
60.7
18.3
1,692.4
1,091.6
872.8
716.0
70.1
58.2
94.4
113.4
9.1
217.5
170.3
118.9
47.3
274.2
171.7
45.0
57.6
109.0
62.4
19.2
1,735.9
1,121.9
887.9
728.6
70.9
59.2
100.3
122.5
9.3
221.9
173.2
120.2
48.7
279.2
173.6
46.7
59.0
112.8
64.1
20.1
1,778.8
1,150.4
899.9
740.7
69.5
59.9
106.5
132.5
9.5
226.5
176.7
121.8
49.8
284.5
175.4
48.3
60.8
117.4
66.5
21.1
1,823.3
1,179.2
911.2
752.2
68.4
60.4
113.0
143.3
9.7
232.2
181.2
124.4
51.0
289.0
176.7
50.0
62.4
122.9
69.2
22.3
Asia & Oceania
East Asia
China
Japan
South Korea
South East Asia
South Asia
Oceania
America
North America
United States
South America
Europe & CIS
EU
Other Europe
CIS
M iddle East & Africa
M iddle East
Africa
CAGR
to 2020
1.5
1.4
0.2
0.3
▲ 1.1
0.7
5.9
7.4
2.3
0.9
1.1
0.4
0.1
1.5
1.4
4.0
▲ 0.1
4.1
3.4
5.2
(出所)World Steel Association, Steel Statistical Yearbook 他よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)粗鋼換算見掛消費量ベース
みずほ銀行 産業調査部
29
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
【図表3-3】 世界の条鋼類需要見通し
Unit: million ton, % change
2013
World
Asia & Oceania
East Asia
China
Japan
South Korea
South East Asia
South Asia
Oceania
America
North America
United States
South America
Europe & CIS
EU
Other Europe
CIS
M iddle East & Africa
M iddle East
Africa
822.1
624.7
556.4
496.2
26.3
21.3
29.4
35.5
2.6
61.2
39.8
25.5
21.4
89.4
49.0
15.4
25.0
46.7
26.2
20.5
2014
830.4
627.6
549.5
487.4
26.6
22.0
35.5
39.4
2.6
64.1
42.9
28.5
21.2
88.8
50.2
15.8
22.8
49.8
26.7
23.1
2015
802.7
599.3
517.3
458.4
24.1
21.2
37.2
41.5
2.7
62.6
43.5
28.5
19.1
88.1
51.1
16.7
20.3
52.7
27.8
24.9
2016
810.3
603.3
515.1
454.7
25.0
21.6
40.2
44.6
2.7
62.5
44.5
29.1
17.9
89.3
52.2
17.4
19.6
55.2
29.1
26.1
2017
2018
824.9
611.6
517.1
455.8
24.7
22.3
43.0
48.0
2.8
64.9
45.9
29.8
18.9
91.3
53.2
18.1
20.0
57.2
29.9
27.3
847.9
628.2
526.4
463.2
25.7
22.8
46.1
52.0
2.8
67.1
47.2
30.1
19.9
93.7
54.0
18.8
20.9
58.9
30.5
28.4
2019
869.4
642.2
532.7
469.6
24.7
23.2
49.4
56.5
2.9
69.6
49.0
31.0
20.6
96.2
54.7
19.4
22.1
61.3
31.7
29.7
2020
892.5
656.6
538.6
475.8
24.0
23.3
52.9
61.4
2.9
73.1
51.7
32.7
21.4
98.3
55.0
20.0
23.3
64.4
33.0
31.4
CAGR
to 2020
1.2
0.8
▲ 0.3
▲ 0.4
▲ 1.7
1.0
6.9
7.7
2.0
2.2
3.1
2.4
0.2
1.7
1.5
4.1
0.3
4.4
3.6
5.2
(出所)World Steel Association, Steel Statistical Yearbook 他よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)熱延条鋼類生産量+条鋼類輸入量-条鋼類輸出量として算出
【図表3-4】 世界の鋼板類需要見通し
Unit: million ton, % change
2013
World
Asia & Oceania
East Asia
China
Japan
South Korea
South East Asia
South Asia
Oceania
America
North America
United States
South America
Europe & CIS
EU
Other Europe
CIS
M iddle East & Africa
M iddle East
Africa
723.8
446.7
364.2
286.2
37.6
32.3
34.8
43.9
3.5
120.0
95.1
71.0
25.0
123.0
87.3
5.3
30.4
34.0
20.6
13.4
2014
736.9
446.3
359.7
275.8
40.0
35.2
36.7
44.9
4.1
130.5
106.5
79.5
24.1
124.9
91.3
5.1
28.6
35.2
22.6
12.5
2015
727.1
440.4
348.8
268.2
37.7
34.2
38.4
48.1
4.2
126.5
103.1
76.0
23.4
124.2
92.0
5.2
27.0
36.0
22.9
13.1
2016
747.2
456.3
358.7
276.3
38.8
34.7
40.5
51.9
4.3
128.0
105.0
77.3
23.0
125.5
93.5
5.4
26.6
37.4
23.7
13.7
2017
764.8
469.1
365.2
282.2
38.7
35.3
42.7
55.9
4.4
129.9
106.7
78.3
23.3
126.9
94.6
5.7
26.6
38.8
24.5
14.4
2018
782.0
481.8
371.0
287.9
38.5
35.7
45.0
60.3
4.5
131.6
108.1
79.0
23.5
128.2
95.5
5.9
26.8
40.4
25.3
15.1
2019
800.1
495.3
377.2
293.9
38.2
36.1
47.4
65.1
4.7
133.2
109.4
79.7
23.8
129.5
96.4
6.1
27.0
42.1
26.2
15.8
2020
818.1
508.8
382.9
299.6
37.8
36.4
50.0
70.2
4.8
134.8
110.6
80.3
24.1
130.7
97.1
6.4
27.2
43.8
27.2
16.6
CAGR
to 2020
1.8
2.2
1.0
1.4
▲ 0.9
0.5
5.3
7.7
2.5
0.5
0.6
0.2
0.0
0.8
1.0
3.9
▲ 0.8
3.7
3.1
4.8
(出所)World Steel Association, Steel Statistical Yearbook 他よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)熱延鋼板類生産量+鋼板類・鋼管類輸入量-鋼板類・鋼管類輸出量として算出
② 日本
わが国の需要は
大幅に落ち込み
足許、わが国の鉄鋼需要は大幅に落ち込んでいる。2014 年秋口から受注が
急速に落ち込んだ建設向けは官公需を中心に冴えない荷動きが続いており、
製造業向けも自動車の国内販売・生産の減少等を映じて受注は落ち込んで
みずほ銀行 産業調査部
30
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
いる(【図表 3-5】)。2015 年の粗鋼換算見掛消費量は 68.3 百万トン(前年比▲
7.1%)程度に留まりそうだ。2016 年に向けては、民間の住宅投資や設備投資
を中心に建設向け鋼材需要の回復が見込まれる他、2017 年 4 月に予定され
る消費増税を前に耐久財を中心とした消費・生産の拡大も想定されることから、
鉄鋼需要は 70.5 百万トン(同+3.2%)程度に回復するだろう。
【図表3-5】 普通鋼鋼材用途別受注量(左:内需計、中央:建設用、右:製造業用)
20
(前年比、%)
20
販売業者向け
15
10
製造業用
15
建設用
10
内需計
5
5
(前年比、%)
(前年比、%)
20
その他用
土木用
建築用
建設用計
その他
船舶用
自動車用
製造業用計
15
10
5
0
(出所)日本鉄鋼連盟「鉄鋼需給統計月報」よりみずほ銀行産業調査部作成
中期的に需要拡
大の絵は描けな
い
中長期的にみると、地域別に跛行性はあるものの、わが国の経済規模は縮小
に転じていくものとみられる(【図表 3-6】)。鉄鋼需要も、人口減少や財政悪化
に伴う固定資本投資の縮小、製造業の生産海外移転等を背景に緩やかな減
少傾向で推移するだろう。当面は東京五輪に向けた投資マインドの高まりや
震災復興関連投資等が下支え要因となろうが、いずれもアドホックな要因に
過ぎず、需要の構造的拡大に向けた絵は描きにくい。2020 年時点の鉄鋼需
要は 68.4 百万トン(2014 年比年率▲1.1%)程度となるだろう。鋼種別には、建
設向けの棒鋼や形鋼を中心に条鋼類需要が 24.0 百万トン(同▲1.7%)程度と
減少幅が大きく、鋼板類需要は同▲0.9%の 37.8 百万トン程度となろう。
【図表3-6】 わが国の地域別潜在成長率
単位:兆円(2005年価格)、%
潜
在
G
R
P
潜
在
成
長
率
北海道・
東北
関東
中部
近畿
中国・
四国
九州・
沖縄
2010年
57.2
215.0
96.8
102.3
44.2
50.2
2020年
54.0
223.2
99.5
103.5
42.3
48.8
2030年
52.4
222.2
98.1
99.2
40.9
48.1
2000年代
0.5
0.9
1.0
0.5
0.6
0.9
2010年代
▲ 0.6
0.4
0.3
0.1
▲ 0.4
▲ 0.3
2020年代
▲ 0.3
▲ 0.0
▲ 0.1
▲ 0.4
▲ 0.3
▲ 0.2
(出所)内閣府「県民経済計算」他よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)将来の潜在 GRP、潜在成長率はみずほ銀行産業調査部による推計値
みずほ銀行 産業調査部
31
2015Q3
2015Q2
2015Q1
2014Q4
2014Q3
2014Q2
2014Q1
2013Q4
2013Q3
2015Q3
2015Q2
2015Q1
2014Q4
2014Q3
2014Q2
2014Q1
2013Q4
2013Q3
2013Q2
2013Q1
2015Q3
2015Q2
2015Q1
2014Q4
2014Q3
-15
2014Q2
-20
2014Q1
-15
2013Q4
-10
2013Q3
-15
2013Q2
-5
2013Q1
-10
-10
2013Q2
0
-5
-5
2013Q1
0
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
③ 中国
中国の鉄鋼市場
は大きな曲がり
角
世界需要の半分弱を占める圧倒的な存在となった中国の鉄鋼市場は、大き
な曲がり角を迎えている。この十数年、「世界の工場」として設備能力の増強と
輸出拡大を推し進め、また、獲得した外貨を活用して社会資本の充実を図る
など、いわゆる「輸出・投資主導型」の成長を謳歌してきた中国だが、高成長
に伴って東南アジア諸国を上回る所得水準が達成されつつある結果、輸出
拠点としての立地競争力が失われつつある(【図表 3-7】)。輸出モメンタムの
鈍化に伴い、将来の成長を見越して行われてきた資本形成にも結果的な過
剰感が生じて投資マインドが委縮するという循環が起こっており、生産設備や
インフラ向け鋼材需要、製造原料としての鋼材需要はいずれも弱含んでいる。
2015 年の鉄鋼需要は前年比▲4.8%の 705 百万トン程度となろう。
【図表3-7】 中国と東南アジア諸国の所得水準
単位:USドル(2005年価格)/人
2004
2014
2020
中国
1,567
3,873
5,568
マレーシア
5,260
7,286
8,758
タイ
2,590
3,379
4,043
インドネシア
1,239
1,876
2,377
フィリピン
1,177
1,660
2,138
ベトナム
653
1,079
1,450
ミャンマー
255
518
791
(出所)IMF, World Economic Outlook, October 2015 他よりみずほ銀行産業調査部作成
資本ストック調整
内需狙いの耐久
の影響で鉄鋼需
財産業向け鋼材
要の回復は緩や
は伸長しやすい
かに
今後の中国の鉄鋼需要については、川下製品の在庫調整圧力が次第に緩
和する中で循環的な実需の回復を期待出来る一方、「内需・消費主導型」へ
と経済構造が次第に転換していく過程で経済に占める鋼材多消費型産業の
ウエイトが低下し、鉄鋼需要に構造的な下押し圧力を加える可能性が高いこ
とに留意すべきである。中国の GDP に占める総固定資本形成の比率は 2005
年時点で 50%強であったものが、2006 年から 5 年連続で二桁成長を記録する
など正に「投資主導」の成長が続いた結果、足許の同比率は 60%強まで高ま
っている。しかしながら、今後は経済成長のドライバーが消費へとシフトし、同
比率は今後 5 年で再び 50%強まで低下するものとみられる(【図表 3-8】)。こ
の間、総固定資本形成の成長率は年率+3%前後に留まることから、鉄鋼需要
の回復テンポは緩やかにならざるを得ない。なお、ポジティブな材料としては、
家計購買力向上を背景とする耐久財需要の拡大等を背景に、今後も自動車
産業等による内需狙いの増産が期待され、製造業向けの鋼材需要は相対的
に伸長しやすいとみられる。但し、6 割強が建設向けという需要構造(【図表
3-9】)を踏まえると、投資需要減速の影響を払拭するのは困難とみられる。
2020 年に向けた成長率は年率+0.3%程度になろう。
みずほ銀行 産業調査部
32
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
【図表3-8】 GDP 及び投資の成長率と GDP に占める投資比率
(前年比、%)
20
(%)
66
総固定資本形成
18
64
GDP
投資比率(右軸)
16
62
46
2018
2015
2010
2020
0
2019
48
2017
2
2016
50
2014
4
2013
52
2012
54
6
2011
8
2009
56
2008
10
2007
58
2006
60
12
2005
14
(CY)
(出所)IMF, World Economic Outlook, October 2015 他よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2014 年以降は IMF による予測値
【図表3-9】 中国の鉄鋼需要構造(見掛消費量に占める比率)
単位:%
産業別
建設
機械 自動車 造船
地域別
鉄道
他
計
華北
東北
華東
中南
西南
西北
計
形鋼
3.9
3.0
0.5
0.1
0.1
0.0
7.6
2.0
0.8
2.3
0.7
0.5
0.2
6.5
棒鋼
27.6
3.5
1.3
0.1
0.5
0.0
33.0
4.1
1.3
11.5
4.6
3.4
2.1
27.0
線材
16.2
0.0
0.2
0.0
0.3
0.0
16.7
3.5
0.4
5.4
2.3
1.6
1.0
14.2
軌条
0.0
0.0
0.0
0.0
0.7
0.0
0.7
0.1
0.1
0.1
0.2
0.0
0.0
0.5
47.7
6.5
2.0
0.2
1.5
0.1
58.0
9.8
2.6
19.3
7.7
5.5
3.4
48.2
中厚板
4.0
1.6
1.3
2.0
0.3
0.7
9.9
1.4
0.4
3.1
1.2
0.2
0.3
6.7
薄板
6.9
8.5
3.8
0.5
0.1
3.0
22.7
10.4
1.9
14.3
7.2
2.0
0.5
36.2
条鋼類
電磁鋼板
0.0
0.5
0.2
0.0
0.0
0.4
1.1
0.1
0.0
0.5
0.3
0.0
0.0
0.9
10.8
10.6
5.3
2.4
0.3
4.2
33.7
11.9
2.3
17.9
8.8
2.2
0.8
43.9
継目無管
0.2
1.4
0.2
0.1
0.0
0.5
2.5
0.8
0.3
0.7
0.2
0.3
0.4
2.6
溶接管
3.7
0.8
0.3
0.1
0.4
0.4
5.7
0.8
0.8
1.3
0.9
1.3
0.2
5.3
3.9
2.2
0.5
0.3
0.4
0.9
8.2
1.5
1.1
2.0
1.2
1.6
0.6
7.9
62.4
19.3
7.9
2.9
2.3
5.2
100.0
23.2
6.0
39.2
17.7
9.3
4.7
100.0
鋼板類
鋼管類
鋼材計
(出所)World Steel Dynamics よりみずほ銀行産業調査部作成
(注 1)2014 年時点の推定値
(注 2)鋼板類の地域別見掛消費量はダブルカウントされているため、当該比率が鋼種別と一致しない
(注 3)華北:北京市・天津市・河北省・山西省・内蒙古自治区、東北:遼寧省・吉林省・黒竜江省、華東:上海市・
江蘇省・浙江省・安徽省・福建省・河西省・山東省、中南:河南省・湖北省・湖南省・広東省・広西チワン族
自治区・海南省、西南:重慶市・四川省・貴州省・雲南省・西蔵自治区、西北:陝西省・甘粛省・青海省・新
疆ウイグル自治区・寧夏回族自治区
④ 東南アジア
国毎に強弱入り
混じりながらも全
体として需要は
増加
東南アジア諸国の鉄鋼需要は、コモディティ価格の下落を背景とするインドネ
シア経済のもたつき等の一方で、タイの自動車生産回復やベトナム、フィリピ
ンを始めとする各国の固定資本形成伸長等が需要拡大を牽引しており、全体
としては増加している。2015 年の鉄鋼需要は前年比+4.5%の 83 百万トン程度
になりそうだ。2016 年に向けては、米国の金融引き締め開始に伴うアジア通
貨安が自動車等の輸出に対してフォローの風となる中、インフラ開発など鋼材
みずほ銀行 産業調査部
33
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
多消費型の産業も拡大傾向を辿るとみられることから、鉄鋼需要は同+6.6%の
89 百万トンと増勢を維持しよう。なお、中国等の海外経済の不確実性が増す
中で米国の金融引き締めが同時進行的に進む場合、投資家のリスク回避姿
勢が先鋭化して東南アジアからの資本流出が進み、財政支出の抑制や通貨
防衛的な金融引締めが生じるリスクシナリオが考えられる。このケースでは、輸
出と内需の両面にブレーキが掛かることで鉄鋼需要の伸びも抑制されることか
ら、当面は東南アジア通貨の動向を注視する必要があろう。
鉄鋼需要は中期
的に着実に拡大
中期的にみると、東南アジアの鉄鋼需要は着実に拡大していくと予想される。
インドネシア、ベトナム、フィリピン、ミャンマー等を中心に、東南アジアでは交
通、電力、港湾、工場団地、都市開発等のインフラ開発プロジェクトが目白押
しであり、総固定資本形成は向こう 5 年間で実質年率+6.3%程度の高成長が
期待されている(【図表 3-10】)。また、【図表 3-11】で所得水準と条鋼類消費量
の関係をみると、東南アジア諸国の一人当たり条鋼類消費量は依然として低
水準にあり、例えば中国との比較においても、所得水準の向上に伴う需要拡
大の余地が十分に残されている様子が窺われる。2020 年に向けては、建設
向け需要の高成長に支えられて条鋼類消費量が年率+6.9%程度の伸びを示
す中で、「チャイナ・プラス・ワン」の進展を受けた製造業向け鋼板類需要も同
+5.3%程度のテンポで拡大するとみられ、2020 年時点の粗鋼換算見掛消費
量は 113 百万トン(年率+5.9%)程度になるだろう。
【図表3-10】 東南アジアの総固定資本形成
700
500
(条鋼類見掛消費量:kg/人)
450
その他
600
【図表3-11】 所得水準と一人当たり条鋼類消費量
(10億USD、2005年価格)
タイ
400
マレーシア
350
インドネシア
2014
2020
300
China
Thailand
Indonesia
Viet Nam
Malaysia
Philippines
Myanmar
400
250
300
200
200
150
2020
2014
2004
'20
100
100
'20
50
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
0
(CY)
(出所)IMF, World Economic Outlook, October 2015 より
みずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年以降は IMF による予測値
'04
0
0
'04 '20
'04
'04
'04
2,000
'20
2004
'14
(所得水準:USD(2005年価格)/人)
'20
4,000
6,000
8,000
(出所)World Steel Association, Steel Statistical Yearbook 他より
みずほ銀行産業調査部作成
⑤ 米国
足許の需要は資
源開発の低迷等
を背景に減少
米国経済は年初に寒波の影響で一時的な減速を余儀なくされたものの、以
降は堅調に推移している。建設業や自動車、電子・電気機器等の主要な鋼
材需要産業についても総じて生産活動は活発であるが、油価の大幅下落を
みずほ銀行 産業調査部
34
10,000
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
背景にシェールオイル等の鉱業部門については例外的に厳しい状況となっ
ている(【図表 3-12】)。米国における石油・ガス開発用の鋼材需要は全体の 1
割程度を占めるとみられるが、採掘関連投資が停滞する中で鋼管類を中心に
需要は大幅に落ち込んでいる。2015 年の鉄鋼需要は年初の寒波による荷動
きの停滞や鉱業向け需要の落ち込みに影響され、前年比▲3.3%の 115 百万
トン程度で着地するものとみられる。
今後は景気拡大
を受けて鉄鋼需
要も増加
今後については、リーマンショック以来の異例の金融緩和政策がようやく出口
に辿り着くなど、景気全般が回復基調を維持するとみられることから、鉄鋼需
要についても増加していくだろう。2016 年の粗鋼換算見掛消費量は 117 百万
トン(前年比+1.9%)程度に回復し、以降は 2020 年に向けて年率+0.4%程度
で緩やかに増加していくと予想される。
【図表3-12】 米国の産業別 GDP 推移
(2012Q1=100)
130
120
110
100
90
80
鉱業
建設業
耐久財製造業
2012Q1
2012Q2
2012Q3
2012Q4
2013Q1
2013Q2
2013Q3
2013Q4
2014Q1
2014Q2
2014Q3
2014Q4
2015Q1
2015Q2
70
(出所)U.S. Bureau of Economic Analysis よりみずほ銀行産業調査部作成
⑥ 欧州
足許の需要は底
堅く推移
2015 年夏場のギリシャ支援継続問題を何とかクリアし、欧州経済は底堅い展
開となっている。原油価格の下落や金融緩和が内需を押し上げており、ドイツ
の自動車生産台数が 2015 年 1~10 月累計で前年比+3%となるなど、鋼材の
需要産業も総じて堅調に推移している。2015 年の EU 域内の鉄鋼需要は 166
百万トン(前年比+1.1%)程度を見込む。
危機後の調整を
経て鉄鋼需要は
巡航速度の成長
に
今後の欧州の鉄鋼需要は、緩やかながらも拡大基調で推移するだろう。主要
国の総固定資本形成は、ソブリン危機の当事国となったイタリアを除き、概ね
危機前の巡航速度での成長経路に復しており、成熟経済に相応しい緩慢な
テンポながらも増加基調で推移するものと予想される(【図表 3-13】)。また、製
造業の生産活動については、各国とも危機前の水準を回復するには至らない
とみられるが、緩やかに増加するだろう(【図表 3-14】)。かかる需要産業の動
向を反映して鉄鋼需要は年率+1.4%程度で伸長し、2020 年時点では 177 百
万トン規模になることが見込まれる。
みずほ銀行 産業調査部
35
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
【図表3-13】 欧州主要国の総固定資本形成
【図表3-14】 欧州主要国の製造業 GDP
(2004年=100)
(2004年=100)
140
115
110
ドイツ
イタリア
フランス
英国
ドイツ
イタリア
フランス
英国
130
120
105
110
100
100
95
90
90
80
2020
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2019
(CY)
60
2006
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
(出所)IMF, World Economic Outlook, October 2015 より
みずほ銀行産業調査部作成
(注)2015 年以降は IMF による予測
70
2005
(CY)
80
2004
85
(出所)IMF, World Economic Outlook, October 2015 より
みずほ銀行産業調査部作成
II. 世界の鉄鋼生産~中国の需給ギャップ拡大が東南アジア等の生産に悪影響
① 概観
生産の停滞感は
次第に和らぎ、緩
やかに回復
需要減少を背景に生産活動も世界的に停滞している。2015 年の粗鋼生産量
は 1,654 百万トン(前年比▲1.0%)程度となろう。2016 年入り後も、当面、生産
の停滞感は払拭され難いものの、先進諸国での在庫調整進展や東南アジア、
南アジアを中心とした新興諸国の経済成長に伴う需要の持ち直しを受けて次
第に増産基調へ復していくと予想され、同年の粗鋼生産量は 1,683 百万トン
(同+1.7%)に持ち直すだろう。中期的には需要見合いで生産量も拡大し、
2020 年には 1,842 百万トン程度の生産規模になろう(【図表 3-15】)。
【図表3-15】 世界の粗鋼生産量見通し
Unit: million ton, % change
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
World
1,649.5
1,128.4
1,020.9
822.0
110.6
66.1
18.2
82.4
5.6
164.8
119.0
86.9
45.8
313.4
166.4
38.6
108.4
42.9
27.0
16.0
1,670.1
1,145.2
1,028.1
822.7
110.7
71.5
20.5
89.8
5.5
166.2
121.2
88.2
45.0
313.8
169.3
38.4
106.1
45.0
30.0
15.0
1,653.9
1,127.9
1,001.6
804.3
106.5
68.5
21.0
96.7
7.3
166.5
128.1
92.3
38.4
313.3
175.0
46.2
92.1
46.2
28.0
18.2
1,682.6
1,145.0
1,011.5
807.7
109.0
71.9
22.1
103.9
6.2
170.7
134.5
98.3
36.2
318.5
179.1
52.9
86.5
48.4
30.2
18.2
1,712.7
1,165.5
1,023.8
818.4
108.1
74.0
23.5
110.9
6.1
174.0
137.8
100.5
36.2
321.1
183.0
55.8
82.3
52.1
33.7
18.5
1,757.3
1,196.9
1,041.3
834.4
107.4
76.0
25.2
121.5
7.5
179.4
140.6
101.5
38.8
325.9
185.7
59.5
80.7
55.1
36.2
18.8
1,800.0
1,225.0
1,058.0
852.9
103.9
77.6
26.9
130.6
8.4
184.2
144.2
103.7
40.0
332.9
187.6
65.0
80.4
57.8
38.2
19.6
1,841.7
1,253.4
1,072.9
868.0
104.1
77.1
28.1
143.9
7.3
190.6
148.0
106.2
42.7
335.7
191.0
66.5
78.1
61.9
41.6
20.3
Asia & Oceania
East Asia
China
Japan
South Korea
South East Asia
South Asia
Oceania
America
North America
United States
South America
Europe & CIS
EU
Other Europe
CIS
M iddle East & Africa
M iddle East
Africa
CAGR
to 2020
1.6
1.5
0.7
0.9
▲ 1.0
1.3
5.4
8.2
5.0
2.3
3.4
3.1
▲ 0.9
1.1
2.0
9.6
▲ 5.0
5.5
5.6
5.2
(出所)World Steel Association, Steel Statistical Yearbook 他よりみずほ銀行産業調査部作成
みずほ銀行 産業調査部
36
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
【図表3-16】 世界の熱延条鋼類生産量見通し
Unit: million ton, % change
2013
World
Asia & Oceania
East Asia
China
Japan
South Korea
South East Asia
South Asia
Oceania
America
North America
United States
South America
Europe & CIS
EU
Other Europe
CIS
M iddle East & Africa
M iddle East
Africa
826.8
635.0
579.2
518.0
30.5
20.1
19.0
35.0
1.9
53.4
35.4
23.2
21.4
112.2
59.0
24.5
28.6
26.2
15.6
10.7
2014
837.6
645.8
586.0
523.9
30.7
20.3
20.2
37.9
1.7
53.4
35.8
24.2
21.2
111.3
58.7
24.3
28.3
27.2
15.7
11.5
2015
813.9
617.9
554.7
497.3
27.1
19.6
20.8
40.6
1.8
54.0
38.2
25.1
19.1
113.7
62.0
27.7
23.9
28.3
15.7
12.6
2016
824.1
620.3
553.5
494.5
28.0
20.1
21.3
43.7
1.9
55.0
39.8
26.3
17.9
118.4
63.6
32.2
22.7
30.4
17.3
13.1
2017
840.5
628.1
556.6
496.8
27.7
21.1
22.3
47.3
1.9
57.7
42.0
27.6
18.9
122.0
65.8
34.4
21.8
32.6
18.9
13.7
2018
865.6
644.8
567.7
505.9
28.8
21.8
23.7
51.6
1.8
60.3
43.3
27.6
19.9
126.0
66.9
36.6
22.5
34.4
20.1
14.3
2019
888.9
657.9
575.2
514.2
27.7
22.2
24.5
56.4
1.8
62.8
45.2
28.5
20.6
131.8
67.7
39.6
24.4
36.4
21.4
15.0
2020
913.8
671.3
582.5
522.1
26.9
22.4
25.2
61.8
1.9
66.9
47.9
30.2
21.4
136.4
69.6
40.8
26.0
39.1
23.2
15.9
CAGR
to 2020
1.5
0.6
▲ 0.1
▲ 0.1
▲ 2.2
1.7
3.7
8.5
1.7
3.8
5.0
3.8
0.2
3.5
2.9
9.0
▲ 1.4
6.3
6.7
5.6
(出所)World Steel Association, Steel Statistical Yearbook 他よりみずほ銀行産業調査部作成
【図表3-17】 世界の熱延鋼板類生産量見通し
Unit: million ton, % change
2013
World
Asia & Oceania
East Asia
China
Japan
South Korea
South East Asia
South Asia
Oceania
America
North America
United States
South America
Europe & CIS
EU
Other Europe
CIS
M iddle East & Africa
M iddle East
Africa
726.3
485.5
434.3
311.6
64.6
44.5
6.5
42.1
2.5
98.3
79.1
62.4
19.2
129.8
92.4
0.0
37.4
12.8
8.3
4.6
2014
740.6
496.4
445.7
317.4
65.4
48.6
7.3
41.0
2.4
100.1
82.3
63.9
17.9
131.6
94.4
0.0
37.3
12.5
8.3
4.2
2015
738.1
496.0
439.2
312.7
65.0
46.7
7.7
44.9
4.2
98.7
84.0
65.0
14.7
129.3
97.4
0.0
31.9
14.2
9.5
4.7
2016
759.9
514.2
454.0
323.5
66.3
49.4
8.7
48.3
3.2
103.0
89.2
70.1
13.8
129.0
99.1
0.0
30.0
13.7
9.3
4.4
2017
773.4
526.3
463.2
331.9
65.8
50.5
9.3
50.9
2.9
103.9
90.6
71.3
13.3
128.7
100.3
0.0
28.4
14.5
10.1
4.3
2018
790.8
541.3
470.9
339.9
64.2
51.7
10.1
56.2
4.1
105.9
92.0
72.4
13.9
128.4
101.6
0.0
26.8
15.2
11.0
4.2
2019
805.7
555.1
478.9
348.5
62.2
52.9
11.6
59.7
4.9
107.5
93.2
73.4
14.3
127.2
102.7
0.0
24.5
16.0
12.0
4.0
2020
822.2
570.6
487.6
356.8
63.2
52.2
12.7
66.3
4.0
109.3
94.3
74.2
15.0
125.4
103.8
0.0
21.6
16.8
13.0
3.8
CAGR
to 2020
1.8
2.4
1.5
2.0
▲ 0.6
1.2
9.7
8.4
8.8
1.5
2.3
2.5
▲ 2.9
▲ 0.8
1.6
0.0
▲ 8.7
5.0
7.8
▲ 1.7
(出所)World Steel Association, Steel Statistical Yearbook 他よりみずほ銀行産業調査部作成
② 日本
2015 年の粗鋼生
産は 107 百万トン
ン程度へ減少
わが国の鉄鋼生産は大幅な減少を余儀なくされている。内需が落ち込んでい
る他、中国製鋼材が輸出市場に安価・大量に流入し東南アジア向けを中心に
輸出も伸び悩むなど、実需が冴えないことが主因である。加えて、2015 年の
春先まで国内メーカーに需要の先行きを楽観視する向きがあり、各社の減産
みずほ銀行 産業調査部
37
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
入りのタイミングが遅れたことも、結果的に足許の在庫調整圧力を高めている。
2015 年の粗鋼生産量は前年比▲3.8%の 107 百万トン程度となろう。
当座の生産動向を占う上では在庫調整の終了時期の見極めがポイントになる。
在庫調整の終了
は 2016 年前半
鉄鋼業は典型的な在庫調整局面の中にあり、2015 年 4~6 月期に出荷が前
年比プラスに転じ改善期待が高まったものの、同 7~9 月期に出荷が再び前
年割れしたことで在庫循環が逆回転している状況だ(【図表 3-18】)。出荷在庫
バランス(出荷の前年比-在庫の前年比)がマイナスに転じてからプラスに復
するまでの期間を在庫調整期間と捉えると、1980 年以降の調整期間は平均し
て約 5 四半期(2 四半期でのプラス転を除くと約 6 四半期)となっている(【図表
3-19】)。今回の調整局面をみると、出荷在庫バランスは 2015 年 1~3 月期に
水面下に沈み、以来 3 四半期続けてマイナスとなっている。過去と比較してマ
イナス幅が特別に大きい等の事情は観察されないことから、在庫調整は向こう
半年以内には終了すると考えられる。鉄鋼業の場合、出荷在庫バランスに対
する生産(前年比)の遅行性は大きくないことから、ほぼ同じタイミングで生産
活動も増産基調に復していくと考えられる(【図表 3-20】)。消費税の再増税を
前にした需要増も見込まれ、2016 年を通じた粗鋼生産量は前年比+2.4%の
109 百万トン程度に回復するだろう。
【図表3-18】 鉄鋼業の在庫循環図
20
【図表3-19】 在庫調整期間
調整期間 回数
15
2015年7~9
月期
在
庫
(
前
年
比▲ 20
、
%
)
0
▲ 10
0
▲5
10
20
▲ 10
▲ 15
1986 Q4 1988 Q2 1990 Q1
2四半期
5回
5四半期
4回
6四半期
5回
7四半期
2回
1984 Q4 2012 Q4
9四半期
1回
1990 Q3
10
5
(内訳)
2003 Q3 2007 Q4
1982 Q2 1995 Q3 2008 Q4
【図表3-20】
出荷在庫バランスと生産の時差相関
1.0
0.8
0.6
2011 Q2
1980 Q3 1993 Q1 1997 Q4
0.4
2000 Q4 2005 Q2
0.2
0.0
-0.2
▲ 20
平均調整期間:4.8四半期
-0.4
出荷(前年比、%)
(出所)経済産業省「鉱工業指数」より
みずほ銀行産業調査部作成
中期的に粗鋼生
産量は緩やかに
減少
-3
(出所)経済産業省「鉱工業指数」よりみずほ
銀行産業調査部作成
(注)調整期間:出荷在庫バランス(出荷の前
年比-在庫の前年比)がマイナスに転じ
てからプラスに転じるまでに要した期間
-2
-1
0
+1
+2
わが国鉄鋼生産の中期展望としては、粗鋼生産量は減少傾向で推移し、
2020 年時点で 104 百万トン(年率▲1.0%)程度と予想する。年率▲1.1%での
減少を見込む鉄鋼内需に比べると、生産の減少幅は僅かに緩和されるだろう。
背景としては、高炉メーカーが鋼板類を中心とした下工程の海外展開を加速
する中、国内製鉄所を熱延鋼帯等の中間製品の供給拠点として位置付ける
傾向が徐々に強まっていること、特殊鋼等のユーザーニーズオリエンテッドの
鋼種については需要をある程度囲い込んでいるため、需要家の海外移転に
よる内需減少を輸出増加でカバーしやすいこと、等が挙げられる。
みずほ銀行 産業調査部
38
+3
(出所)経済産業省「鉱工業指数」よりみずほ
銀行産業調査部作成
(注)出荷在庫バランスを基準に出荷(前年
比)とのピアソン時差相関を計測。(計
測期間:1980Q1-2014Q2)
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
鋼板類の生産動向についてみると、国内生産の内需充足率は 170%前後と高
鋼板類は輸出比
率の高まりで生
産量を維持
水準にある。内需縮小の中、高張力鋼板や電磁鋼板等の高付加価値ゾーン
を中心に各社は今後も生産余力を輸出に振り向ける動きを進めるとみられる
が、輸出市場における中韓勢との競争激化等もあり、熱延鋼板類の生産量は
2020 年時点で 63.2 百万トン(年率▲0.6%)と 2014 年から小幅に減少するもの
と予想される(【図表 3-21】)。
他方、条鋼類については内需の減少(年率▲1.7%)をやや上回るテンポで生
条鋼類は内需減
や輸入材との競
合で生産は縮小
産が縮小し、2020 年時点の生産量は 26.9 百万トン(年率▲2.2%)程度となろ
う。普通鋼電炉メーカーの生産する棒鋼や形鋼等は基本的に地産地消の鋼
材であり、国内生産量は概ね内需見合いでの推移を辿ろうが、東南アジア向
け輸出市場で中国材に弾き出された韓国材等が行き場を失って日本市場に
流入する動きは中期的に持続するとみられ、条鋼類生産の内需充足率は低
下傾向を辿るだろう。尤も、建設向けの鋼種については国内の特殊な流通構
造が実質的な非関税障壁を形成しており、輸入材の流入テンポは限定される
こと、特殊鋼棒線や軌条等の高付加価値条鋼については鋼板類と同様に輸
出比率が高まっていくこと、等から、条鋼類全体でみれば需給構造の変化は
限界的であろう。
【図表3-21】 わが国鉄鋼生産の内需充足率
180
(%)
170
160
150
140
130
120
110
粗鋼生産量/粗鋼換算見掛消費量
熱延条鋼類生産量/条鋼類見掛消費量
熱延鋼板類生産量/鋼板類見掛消費量
90
(CY)
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
80
2020
100
(出所)World Steel Association, Steel Statistical yearbook 他よりみずほ銀行産業調査部作成
③ 海外
中国には 300 ~
400 百万トンの過
剰能力が存在
海外の鉄鋼生産で最大の注目は中国の動向だ。足許、中国における設備稼
働率は 70%台前半まで落ち込んでおり、生産量に対する過剰生産能力は
300 百万トン(対内需では 400 百万トン)という規模である(【図表 3-22】)。また、
【図表 3-23】に示す通り、稼働率低下と軌を一にして上場鉄鋼メーカーの収益
力も低下しており、2015 年 7~9 月期には、トップメーカーである宝山鋼鉄も最
終赤字に転落した。相対的に競争力に劣る非上場メーカーを含めると、足許
では殆どのメーカーが赤字操業を余儀なくされている模様である。
鉄鋼各社は減産
に踏み切れない
掛かる中、減価償却費や人件費等の固定費負担の軽減を図ろうと中国各社
は稼働率維持に躍起であり、内需の減少に直面しても容易に減産には踏み
みずほ銀行 産業調査部
39
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
切れないでいる。その結果、中国においては、余剰鋼材が国内ばかりか海外
市場にも溢れ出して国際鋼材市況の軟化を招き、それがメタルスプレッドの縮
小を通じて各社の収益性を一層低下させるという負のフィードバックループが
生成されている。
このループが断ち切れるかどうかは、過剰供給能力の削減という構造問題に
数年での過剰能
力の削減は困難
どの程度の速度と深度でメスが入るかに依存する問題といえるが、向こう数年
での問題解消は困難と考えられる。稼働率が平均 70%強、自己資本比率が
上場メーカー平均で 30%強というマクロ的な観測を基にすると、競争力が相対
的に劣る企業は稼働率も自己資本比率もより平均値よりは低いと想定されるこ
とから、設備の減損処理は繰越欠損の発生や債務超過転落等など企業の存
立基盤を脅かす経営判断を伴うものになりやすく、各社毎のボトムアップ的な
取り組みは一朝一夕には進まないだろう。一方、中国の場合、主要鉄鋼メー
カーが国有であることから、政府トップダウンでの能力削減を期待する声が強
く、国務院も毎年のように能力削減方針を掲げているが、これまでのところ、さ
ほど実効性を伴っているとは言えない。その背景としては、一つには、設備過
剰は雇用や債務の過剰と表裏一体であり、失業率の上昇や金融機関の経営
リスクへの波及といった政策の外部不経済に留意して慎重に事を運ぶ必要が
あろうことを指摘出来る。或いは、一口に国有企業と言っても国務院の国有資
産監督管理委員会(国資委)直轄の鉄鋼メーカーは鞍鋼、宝鋼、武鋼の 3 社
に限られており、首鋼は北京市国資委、河北鋼鉄は河北省国資委、山鋼は
山東省国資委、というように、経営の実権を国務院ではなく地方政府が握って
いる場合も多い。融資平台など地方毎に複雑なステイクホルダーリレーション
が存在することを考慮すると、必ずしも中央政府の意向が遍く行き亘るもので
はなく、「笛吹けども踊らず」という結果になるという側面もある。
以上を考慮すると、中国では構造的な過剰供給構造が容易には解消せず、
生産の伸びは内
需の伸び を上回
る
中期的にも各社の操業維持優先主義の影響を受けざるを得ないと判断される
ことから、2020 年に向けての粗鋼生産は年率 +0.9%と内需の伸び(年率
+0.2%)を幾分上回る形で推移するものとみられる。
【図表3-22】 中国の余剰能力と稼働率
余剰能力(左軸)
【図表3-23】 中国上場メーカーの財務指標
稼働率(右軸)
(%)
350 (百万トン)
9
85
(%)
(%)
8
300
50
売上高当期利益率(左軸)
自己資本比率(右軸)
45
7
80
250
6
75
200
40
5
35
150
4
70
3
100
30
2
65
25
50
1
(出所)World Steel Association、World Steel Dynamics 他より
みずほ銀行産業調査部作成
(注)粗鋼ベース
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
20
2007
(CY)
2006
0
2005
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
60
2004
0
(FY)
(出所)各社決算よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)宝山鋼鉄、河北鋼鉄、武漢鋼鉄他上場 14 社ベース
みずほ銀行 産業調査部
40
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
東南アジアの生
産は需要をやや
下回る伸び率に
中国市場における需給ギャップの拡大は世界各地の鉄鋼生産に影響を及ぼ
すと考えられるが、中でも中国からみた最大の輸出市場である東南アジアに
おいては、域内生産に下押し圧力を加える要因となるだろう。上述の通り、
2020 年に向けた東南アジアの鉄鋼需要は年率+5.9%程度の高成長が見込ま
れるが、粗鋼生産の伸びは同+5.4%程度と需要の伸びをやや下回るとみられ
る。下工程の生産については、条鋼類が同+3.7%(域内需要は同+6.9%)、鋼
板類が同+9.7%(同+5.3%)を見込む。東南アジアの需給構造をみると、条鋼
類は棒鋼など低付加価値品を中心に自給化が進んでおり(【図表 3-24】)、形
鋼についても、クラカタウ・オオサカ・スチール(インドネシア)の設立など自給
化に向けた投資も進んでいる。しかし、クロム添加棒鋼等中国材の流入が当
面続くとみられることから、域内生産は需要に比べて伸び悩むだろう。他方、
鋼板類については、自動車向けを中心に日本等から熱延鋼帯等の中間材を
輸入し、冷延やメッキといった需要家に近い後工程を域内で行うという生産の
分業構造を反映し、熱延鋼板より冷延鋼板の方が域内生産の需要充足率が
高くなっている。鋼板類については、クラカタウ・ポスコ(インドネシア)に続きフ
ォルモサ・ハティン(ベトナム)の高炉一貫工場の立ち上がりが見込まれるなど、
次第に供給体制が整ってくる。日本や韓国、そして中国が鋼板類の輸出余力
を一段と高める中、技術力や品質面で見劣りする域内鋼材が狙い通りに輸入
代替を果せるかは些か不透明な部分は残るが、全体としては生産量が需要
の伸びを上回ってくるだろう。
【図表3-24】 東南アジアの鋼種別生産の需要充足率
25
(百万トン)
見掛消費(左軸)
域内生産(左軸)
需要充足率(右軸)
(%)
80
70
20
60
50
15
40
10
30
20
5
10
0
0
棒鋼
形鋼
熱延鋼板
冷延鋼板
(出所)South East Asia Iron and Steel Institute, 2015 Steel Statistical Yearbook よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2014 年のインドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ベトナムの合算値
米州や欧州の生
産は内需見合い
その他、米州や欧州の鉄鋼生産は、概ね域内需要の動きに沿った形で推移
するものとみられる。CIS については、平炉での粗鋼生産が大宗を占める中、
中東やトルコ等での供給力の拡大に伴って相対的な競争力の低下が予想さ
れることから、鉄鋼生産は徐々に勢いを失っていくものとみられる。
みずほ銀行 産業調査部
41
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
III. 世界の鉄鋼貿易~国際競争が激化する中、日本は一定の輸出競争力を維持
近年、鉄鋼需要の世界的拡大の中にあって、鉄鋼貿易総量は概ね 400 百万
貿易量の拡大で
国際競争激化
トン程度で横這いを続け、需要量に対する貿易総量の比率は低下してきた
(【図表 3-25】)。背景には、リーマンショック後に生じた経済ボーダーレス化の
巻き戻しというマクロ的側面と共に、中国の国内需給バランスが概ね保たれ、
鋼材の大規模な流入・流出を伴わずに成長を遂げてきたという要因も大きい。
しかし足許では、同国の鉄鋼需要に急ブレーキが掛かったことで世界の鉄鋼
貿易構造に明らかな変化が生じている。中国から大量に溢れ出る安価な鋼材
は、アジアを中心に米州、欧州、中東・アフリカに至るまであらゆる地域に輸出
され、各地で激しい国際競争が行われている。今後、鉄鋼貿易総量は年率
+3%程度で拡大を続けるだろう。2020 年には 500 百万トン程度に達し、需要
量に対する貿易総量の比率も高まっていく見通しである。
【図表3-25】 世界の鉄鋼貿易総量と総需要に対する比率
600
輸入量(左軸)
(百万トン)
輸入量/需要量(右軸)
(%)
40
38
500
36
34
400
32
300
30
28
200
26
24
100
22
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
20
2004
0
(CY)
(出所)World Steel Association, Steel Statistical Yearbook 他よりみずほ銀行産業調査部作成
【図表3-26】 世界の鉄鋼製品・半製品輸出量
Unit: million ton, % change
World
Asia & Oceania
East Asia
China
Japan
South Korea
South East Asia
South Asia
Oceania
America
North America
United States
South America
Europe & CIS
EU
Other Europe
CIS
M iddle East & Africa
M iddle East
Africa
2013
407.5
162.8
144.7
61.5
42.5
28.9
5.9
10.1
1.1
33.5
24.1
12.5
9.4
206.7
134.6
20.4
51.7
4.5
2.0
2.5
2014
452.7
199.6
178.4
92.9
41.3
31.9
8.7
10.5
1.0
34.9
23.8
12.0
11.1
213.4
140.3
19.3
53.8
4.9
1.9
2.9
2015
470.3
217.5
194.9
107.9
41.4
33.2
8.6
11.8
1.1
33.1
23.0
11.2
10.1
215.2
138.9
23.3
53.0
4.6
1.6
3.0
2016
479.5
225.1
201.0
110.9
42.8
35.0
9.9
12.5
0.6
35.2
24.9
13.2
10.4
214.6
137.7
25.4
51.5
4.6
1.8
2.7
2017
491.4
233.3
206.7
114.9
42.9
36.6
12.0
13.0
0.4
36.2
25.7
13.7
10.6
216.1
139.0
26.5
50.6
5.7
2.9
2.8
2018
505.9
243.3
212.2
118.7
42.8
38.3
14.2
14.8
1.0
37.9
26.4
13.9
11.5
218.2
140.2
27.7
50.2
6.6
3.7
2.9
2019
520.1
253.0
218.2
123.2
42.5
40.2
16.5
15.7
1.3
39.4
27.2
14.3
12.2
220.6
141.7
29.1
49.8
7.0
4.2
2.9
2020
537.5
265.0
225.8
128.6
43.8
41.3
18.8
18.2
0.8
41.6
28.0
14.7
13.6
223.4
144.9
29.8
48.7
7.5
4.6
2.9
CAGR
to 2020
2.9
4.8
4.0
5.6
1.0
4.4
13.7
9.7
▲ 3.3
3.0
2.7
3.5
3.5
0.8
0.5
7.5
▲ 1.7
7.6
15.6
▲ 0.1
(出所)World Steel Association, Steel Statistical Yearbook 他よりみずほ銀行産業調査部作成
みずほ銀行 産業調査部
42
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
【図表3-27】 世界の鉄鋼製品・半製品輸入量
Unit: million ton, % change
2013
World
2014
396.7
125.4
50.3
14.8
5.4
19.0
57.4
12.5
2.7
64.5
50.2
29.8
14.3
158.9
122.9
19.5
16.5
47.9
27.2
20.7
Asia & Oceania
East Asia
China
Japan
South Korea
South East Asia
South Asia
Oceania
America
North America
United States
South America
Europe & CIS
EU
Other Europe
CIS
M iddle East & Africa
M iddle East
Africa
2015
438.0
139.2
56.7
14.9
6.7
22.4
60.7
15.3
3.5
79.7
64.7
41.4
15.1
167.5
132.4
19.0
16.0
51.6
28.8
22.7
2016
435.6
139.0
53.1
14.9
5.2
21.1
64.8
15.0
3.0
79.0
61.7
39.0
17.2
159.5
123.0
18.3
18.3
58.0
34.0
24.0
2017
439.9
142.3
51.3
14.3
4.3
20.8
68.5
15.8
3.6
78.0
59.9
36.8
18.1
157.6
121.4
17.6
18.5
62.1
35.2
26.9
2018
456.0
151.2
53.1
14.5
5.0
21.5
73.4
17.5
3.9
80.2
60.8
37.1
19.4
158.5
121.6
17.5
19.5
66.1
36.8
29.3
2019
469.3
158.3
54.9
14.2
6.2
22.3
78.6
18.1
3.3
81.0
60.9
36.8
20.1
159.1
121.8
17.2
20.1
70.9
38.9
31.9
2020
485.9
167.5
57.9
14.3
7.7
23.3
83.3
19.8
3.1
83.1
61.9
37.0
21.3
160.3
123.0
16.6
20.6
75.0
39.9
35.1
504.8
177.6
61.2
15.3
7.7
25.3
88.9
20.4
3.6
85.0
63.0
37.2
22.0
162.5
124.3
17.0
21.2
79.7
41.2
38.6
CAGR
to 2020
2.4
4.1
1.3
0.5
2.2
2.1
6.6
4.9
0.6
1.1
▲ 0.4
▲ 1.7
6.6
▲ 0.5
▲ 1.1
▲ 1.9
4.8
7.5
6.1
9.2
(出所)World Steel Association, Steel Statistical Yearbook 他よりみずほ銀行産業調査部作成
2014 年のわが国の鉄鋼貿易量は、輸出が約 41 百万トン、輸入が約 7 百万ト
わが国の鋼材は
品質勝負が可能
な鋼種で 輸出競
争力を確保
ンと大幅な輸出超過となっている(【図表 3-27】)。鋼種別輸出は条鋼類が 5 百
万トン程度、鋼板・鋼管類が 28 百万トン程度で、地域別には東南アジア向け
が 4 割弱を占める。わが国の特徴である高級鋼材主体の輸出構造は、中国材
等との国際競争において価格ではなく品質で勝負出来る余地があるという点
で優位性を確保しやすく、今後も相応の輸出競争力が維持されよう。但し、建
設向け等コモディティ性が高く価格勝負の鋼種では勝ち目に乏しい。故に、
全体として輸出量は拡大するものの、そのテンポは緩やかなものとなろう。
2020 年時点の輸出量は 44 万トン程度、輸入量は 8 百万トン程度を見込む。
2020 年に向けて、中国の輸出量は年率+5.6%程度で増加する見込みである。
中国材が東南ア
ジアに押し寄せる
輸入量は同+0.5%程度に留まり、純輸出は+35 百万トンの約 113 百万トンに拡
大しよう。その主たる仕向け先は東南アジアである。東南アジアでは市場伸長
に合わせて貿易量も拡大するとみられるが、輸入量は年率+6.7%程度の増加
が予想され、現地プレーヤーと中国材の競争は激しさを増すだろう。
【図表3-28】 アジアの鉄鋼貿易量(左:中国、中央:日本、右:東南アジア)
(百万トン)
輸入
輸出
40
純輸出
120
60
100
50
80
40
60
30
-20
40
20
-40
20
10
0
0
-20
-10
輸出
純輸出
0
-60
-80
2020
(CY)
2019
2020
2019
2018
2017
2016
2015
-100
2014
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
(CY)
輸入
20
-20
-40
(百万トン)
2018
純輸出
2017
輸出
2016
70
輸入
2015
(百万トン)
2014
140
(CY)
(出所)World Steel Association, Steel Statistical Yearbook 他よりみずほ銀行産業調査部作成
みずほ銀行 産業調査部
43
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
IV. 日本企業のプレゼンスの方向性
中期的なグローバルな需給動向を踏まえ、日本企業のプレゼンスの方向性を
●●●●●
わが国各社の粗
鋼能力は拡大が
見込めず、上工
程のプレゼンス
は低下
考えよう。まず、上工程に関しては、わが国鉄鋼各社の場合、海外で自前の
高炉や電炉を殆ど保有しておらず、 高炉については Usiminas や JSW といっ
た海外メーカーにマイノリティ・ステイクを有するに留まる。2020 年を展望して
も、JFE スチールがベトナムでの自前の高炉建設を断念するなど、海外での
粗鋼生産能力が大きく拡大する状況にはない。国内でも、新日鐵住金の君津
第 3 高炉休止(2015 年度)や小倉第 2 高炉休止(2018 年度)、神戸製鋼所の
神戸第 3 高炉休止(2017 年度)など、中長期的な内需縮退を見据えて各社と
も能力削減を進めている。よって、海外での大型高炉設備買収等が発生しな
い限り、わが国各社の粗鋼能力が拡大する可能性は低い。他方、海外の競
合企業は、宝鋼(湛江製鉄所)、ポスコ(クラカタウ・ポスコ)等アジアの有力メ
ーカーが能力増強を進めている他、【図表 3-29】に示すように、インドで約 100
百万トン、中東・アフリカで約 80 百万トンの設備投資が計画されるなど世界的
には粗鋼能力の拡大が見込まれている。よって、上工程における日系各社の
プレゼンスは相対的に低下していくものと考えられる。
下工程については、日系各社は高付加価値の鋼種を中心に「市場を取る」た
当面は総合力で
の優位性を確保
も、長期的にはニ
ッチプレーヤー化
の可能性
めの投資に積極的である。新日鐵住金は向こう 3 カ年で海外事業に 3,000 億
円を投資し、海外拠点の出荷量を+20%拡大させる計画である。JFE スチール
も、自動車、エネルギー、インフラ・建材を重点 3 分野としてアジア中心に投資
を拡大させる方針だ。目下、規模だけでなく収益性や技術力等を含めた広い
意味でのプレゼンスにおいて日系メーカーはトップを争う地位にあり、2020 年
に向けてもその立場に極端な揺らぎは起こるまい。尤も、日系が狙うハイエン
ド・ゾーンは世界需要全体からみるとニッチ市場であり、量的なプレゼンス向
上には多くを期待できない。また、宝鋼やポスコに加えてアルセロール・ミッタ
ル等の欧州勢が成長市場であるアジアで下工程の展開を推進する等、競合
各社も日系の金城湯池を突き崩そうと投資意欲を高めている。加えて、より長
期的には、中国における産業再編の進展で超巨大メーカーが誕生するといっ
た可能性も視野に入って来るため、日系高炉各社が「総合メーカーとしてのグ
ローバルプレゼンス」を保てるかどうかは些か微妙であり、「小粒でもキラリと光
るニッチプレーヤー」のような位置付けに埋没していく可能性も拭えない。
【図表3-29】 各国・地域の設備投資計画
120
(百万トン)
上工程
下工程
100
80
60
40
20
0
中国
インド
他アジア
米州
欧州・CIS
中東・アフリカ
(出所)Metal Bulletin Research, Steelmaking Capacity & Capex Study, July 2015 よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)公表されている投資計画の MBR による積み上げ値
みずほ銀行 産業調査部
44
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉
(鉄鋼)
V. 産業動向を踏まえた日本企業の戦略と留意すべきリスクシナリオ
日系高炉各社の
戦略は基本的に
正しいが、事業リ
スク分散の面で
課題
近年、高炉各社は、国内の生産能力を内需見合いで適正化させながら、下
工程、取り分け高付加価値の鋼種を中心に積極的な海外展開を図るという概
ね共通した戦略を採用している。上述してきたようなグローバルな鉄鋼需給動
向を踏まえると、その方向性は基本的に正しいと思われる。但し、一段の安定
成長を果たす上で更に考慮に入れるべき戦略オプションもあるだろう。得意分
野への「選択と集中」によって相対的に勝ち組ポジションを得てきた日系の高
炉各社は、その裏返しとして、日系自動車メーカー向けなど特定分野への依
存度が高まっており、事業リスクの分散が効きにくい収益構造になっている点
が潜在的な懸念材料として存在している。ここでは、事業リスクの分散を図り
つつ成長にも資する考え方として 3 点述べたい。
日系自動車メー
カー依存からの
脱 却 が 求め ら れ
る
1 点目は、非日系の自動車メーカーへの鋼材供給戦略の高度化である。日系
高炉各社の海外事業は日系自動車メーカーへの依存度が高いため、どうして
も業績が他力本願的になりやすい。日系自動車メーカーの競争力が構造的
に低下するようなシナリオが実現した場合に共倒れとなるリスクを回避する意
味でも、収益源の分散が必要だろう。これまで築いてきた高い技術力を生かし
やすい需要分野として、欧州系や米国系の自動車サプライチェーンへの一層
の食い込みに期待したい。欧米系の自動車サプライチェーンは、OEM によっ
て系列化されている日系のそれとは構造が大きく異なることもあり、従来の延
長線上の鋼種構成やマーケティング方法では参入が難しい市場ではあるが、
チャレンジを続けることが必要だ。
素材間 競争 から
素材間協調へ
2 点目は、軽量化などユーザーニーズの高度化への対応である。自動車の車
体アルミ化に象徴されるように、日系各社の志向する高付加価値戦略は、そ
れを先鋭化するほど非鉄金属や樹脂、或いは CFRP 等の新素材との競合に
直面する。昨今、環境規制強化等を背景にユーザーの素材選択に対する眼
は厳しさを増しており、合わせて、素材開発・加工に関するテクノロジーの進
化を受けて非鉄素材メーカー側の供給力や技術開発力も高まる方向にある。
掛かる環境変化の下では、「鉄を極める」ことで素材間競争に勝ち抜くという
従来の発想だけではユーザーニーズに対応できず、得意分野で市場を奪わ
れるリスクがある。高炉各社には、素材間協調による新素材開発の推進や、更
に踏み込んで、他素材メーカーとの業務・資本提携等によるマルチマテリアル
サプライヤーへの転換なども、長い目でみると視野に入れるべきだろう。
ボリュームゾーン
の建材市場にど
う向き合うのか
3 点目は、ボリュームゾーンであり、成長も見込まれるアジア等新興国での建
設向け鋼材供給体制の構築である。当面、アジアでの鉄鋼需給の引き締まり
は期待できず、また「価値より価格」という日系の優位性を発揮しにくい分野で
あることから、どうしても戦略的重要性は劣後しやすい。しかし、世界需要の 6
割超が建設用途とされる中、グローバルな総合鉄鋼メーカーの旗印を掲げ続
けるならば、その巨大な需要とどう対峙するのか、その為にどのような供給体
制を構築するのかは、中長期的に検討せねばならない課題といえよう。
(素材チーム 兼 総括・海外チーム 草場 洋方)
[email protected]
みずほ銀行 産業調査部
45
/53
2015 No.5
平成 27 年 12 月 25 日発行
©2015 株式会社みずほ銀行
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確性・確実性を保証するものではありません。本資料のご利用に際しては、貴社ご自身の判断にてなされま
すよう、また必要な場合は、弁護士、会計士、税理士等にご相談のうえお取扱い下さいますようお願い申し上
げます。
本資料の一部または全部を、①複写、写真複写、あるいはその他如何なる手段において複製すること、②弊
行の書面による許可なくして再配布することを禁じます。
編集/発行 みずほ銀行産業調査部
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