2020 - (財)地球環境戦略研究機関

COP21の成果:
パリ協定の概要と今後の課題
田村 堅太郎
気候変動とエネルギー領域 エリアリーダー
関西研究センター 副所長
地球環境戦略研究機関(IGES)
IGES COP21 速報セミナー
2015年12月25日(金)
COP21の成果:概要
• パリ協定と関連COP決定の採択
 パリ協定=国際条約(法的拘束力あり)
 個別の約束については拘束力があ
る場合とない場合
 COP決定=法的拘束力なし
 パリ協定の実施に向けた細則
 2020年までの対策強化(小圷発表)
パリ協定
緩和
• 化石燃料脱却に向けたシグナル
 野心的な長期目標
 短期的な政治サイクルに左右されず、継
続的な対策強化(5年毎)
適応
透明性
損失と
被害
能力構築
技術
資金
等
• 全員参加型の包括的枠組み
 各国の能力に応じた貢献
 先進国の率先的行動を求めるも、先進
国・途上国の二分法は希薄化
長期目標
関連COP決定
約束草案
緩和
資金
透明性
能力構築
適応
技術
2020年まで
の対策強化
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パリ協定の位置づけ
2005 ・・・ 2007
2008
2009
2010
2011 2012
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)(1992年採択)
・・・ COP13
COP14 COP15
COP16
コペンハー カンクン
ゲン合意
合意
バリ
行動
計画
COP17 COP18
2013 ・・・
2015 ・・・ 2020
COP19 COP20 COP21 ・・・
ダーバン ドーハ・
合意 ゲートウェイ
枠組条約の下での長期的協力行動に関する
特別作業部会(条約作業部会:AWG-LCA)
AWG-LCA成果の実施
2020年までの削減数値目標・行動、
資金支援 、適応、資金、技術、能力
構築
京都議定書(1997年採択)
CMP1 CMP3
CMP4
CMP5
CMP6
CMP7
CMP8
・・・
第一約束期間
第二約束期間
(2008〜2012)
(2013〜2020)
パリ協定(2015年採択)
強化された行動のためのダーバン・パリ
プラットフォーム作業部会
協定
(ADP)
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パリ協定における長期目標
• 三つの長期目標
 地球の気温上昇を産業革命前に比べ「2℃よりも十分
低く」抑え、さらには「1.5℃未満に抑えるための努力
を追求する」
 気候変動の悪影響に対する適応能力及び耐性の強
化、温室効果ガス (GHG) 低排出発展の促進
 低GHG排出(低炭素)で気候耐性のある発展と整合
性のある資金フローの確立
• 「1.5℃未満に抑えるための努力」=想定より強い表現
 小島嶼国の危機感
 「野心連合」の結成(小島嶼国・アフリカ・EU主導、米国、ブ
ラジル等を含む)
• 資金フローの重要性の確認
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1861~1880年と比較した気温偏差
気温目標が意味するもの
CO2の累積総排出量とそれに対する気温の応答はほぼ比例関係
=「出せば出すほど上がる」
=「一定の気温上昇に抑えるために排出できる総量が決まる」
=「総排出量の管理が重要」=カーボン・バジェット
790 GtC
66%の確率で2℃目標を達成するために許容
される総排出量は790 GtC
2011年までに排出されたCO2の総量は
515GtC
今後、排出可能な総量は275 GtC
1850年から人為起源により排出されたCO2の累積総量(GtC)
5
5
IPCC第5次評価報告書における2℃抑制と1.5℃抑制
• 2℃抑制の道筋はあるが多くの困難
IPCC
シナリオ群
ネガティブエミッション技術の普及を前提とし
ないシナリオ(56)の全ては2010年前後の世
界の排出量の頭打ち(ピークアウト)を想定
2℃目標と整合性のあるシナリオ群(400シ
ナリオ)うち大半(344))はネガティブエミッ
ション技術の大規模な普及を前提
• 1.5℃抑制の可能性が「どちらかと言えば高い」(50%以上)シナリ
オの研究は非常に限定的
→IPCCに対し特別報告書(1.5℃上昇の影響及び排出パス)の作成要請
6
7
7
緩和(排出削減・吸収源拡大): (1)
• 長期目標(気温目標(2℃/1.5℃)と今世紀後半に人為的な
GHG排出量と吸収量の均衡を達成)
• 継続的、段階的な国別目標引き上げメカニズム
• 各国は長期的な低GHG排出発展戦略の策定・提出
重要な3点セット=脱化石燃料に向けた、市場への長期的シグナル
パリ協定の内容
• 原則、全ての国が「自らが定める貢献」(国別目標)を準備、提出、維
持、及び目標達成に向けた国内措置の追求が義務付けられる
→「実施」「達成」に法的義務なし(米国、一部途上国へ配慮)
• 国別目標は5年毎に提出することが義務付けられる
• 各国の取り組みは段階的に強化。
• 提出された国別目標は登録簿(レジストリ)に記載
→国別目標の更新に批准手続き必要なし。より容易に。
• 先進国は総量削減目標を定め、途上国も将来的に同様の目標を持
つことが奨励
• 各国は随時、目標の引き上げを行うことができる
2020
2018
2025年
目標の国
(米国等)
2030目標
の提出
2030年
目標の国
(日本等)
2030目標の
提出・更新
(update)
全体の削減量評価・
進捗確認
促進的
対話
(2018)
すべての
締約国
気温目標を念頭にした
長期低GHG 排出
発展戦略
2020年までに策定・提出
2025
2030
2035
次期目標
の提出
次期目標
の提出
次期目標
の提出
次期目標
の提出
次期目標
の提出
次期目標
の提出
グローバル・
ストックテイク
(2023)
グローバル・
ストックテイク
(2028)
グローバル・
ストックテイク
(2033)
緩和 (3)
• 約束草案は160(187カ国)。2℃目
標には届かない。
• 段階的な対策強化メカニズムが機
能するか?
具体的には
• 2020年までに、促進的対話を踏
まえ、2030年目標の強化を打ち
出せるか?
• 2025年までに、グローバル・ス
トックテークを踏まえ、次期国別
目標の強化を打ち出せるか?
• 自発的な国別目標の引き上げを
行う国は現れるか?
真価を問われるのはこれから
UNEP Gap Report 2015
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適応
• 適応のグローバル目標の設定
 持続可能な発展の達成
 気温目標の下での適応能力の確保
• 地方、準国家、国家、地域、国際レベルすべてで直面するグ
ローバルな挑戦としての認識
• すべての締約国にとっての適応の重要性、協力の必要性
• 適応情報の提出と定期的更新
各国の対策強化が期待される
パリ協定の内容
COP決定による具体的な取り組み
• 適応のグローバル目標
• 適応委員会らによる作業
• 適応の重要性、協力の
 適応努力の認識方法の開発
 適応関連の国際制度の見直し
必要性
• 適応支援の継続
(2017年)
• 適応情報の提出と定期的 更新
 適応ニーズ評価の方法論の検討
• 地域センター・ネットワークの設立
• 緑の気候基金による適応支援強化
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「損失と被害」
• 気候変動の悪影響に、適応しきれずに発生してしまう「損失
と被害」を独立した問題として認識し、この問題に対応する
ための国際的仕組みを整えていく
国連気候変動枠組条約、京都議定書では対応されていな
かった「損失と被害」を国際条約の中で規定。ただし、具体
的な対応策については今後検討されることに。
• 適応とは独立した条項としてパリ協定に盛り込まれた
 範囲を規定。非経済的損失等、これまでのCOP決定よりも拡大
 法的責任、補償への言及なし。
• ワルシャワ国際メカニズムの継続(新たなメカニズムは設置せず)
 保険などリスク移転に関するクリアリングハウスを設置
 強制退去(displacement)に関するタスクフォースを設立
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資金
• 先進国の途上国への資金提供を行う義務があらためて規
定される一方、その他の国に対しては提供を奨励
• 具体的な数値目標はパリ協定に含まれず、COP決定で規定
「共通だが差異ある責任及び各国の能力」原則の原理主
義的解釈から離れる(参考:市場経済移行国5か国、途上国7か国が
既に緑の気候基金への拠出表明)
パリ協定の内容
• 先進国の資金提供及びその隔年報告が義務。先進国は、資金動
員を率先して行い、その動員規模は継続的に引き上げられる
• その他の国に対しても資金提供及び隔年報告を奨励
COP決定の内容
• 年間1,000億ドル動員目標を2020年以降も2025年まで継続。
• 2025年までに年間1,000億ドル以上の新たな全体目標を設定
• 報告内容、及び動員された資金の計上方法の検討開始
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技術
• パリ協定で技術革新の重要性を明記し、COP決定では技術メ
カニズムによる研究開発(R&D)や普及への支援強化を決定
枠組条約や京都議定書の下、これまで不十分であった技術
協力の促進につながることが期待。技術革新支援と既存技
術の普及支援の間のバランスや具体的な取り組みについて
は今後の検討課題
パリ協定の内容
• 技術メカニズム(技術執行委員会+気候技術センター・ネット
ワーク)に対し包括的なガイダンスを与える技術フレームワー
クを設立
• 技術革新の促進・実現が長期的な気候対策、及び経済成長・
持続可能な発展に対して決定的に重要であると明記
COP決定の内容
• 技術ニーズ評価の実施・更新とその評価結果の案件化を促進
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行動と支援の透明性
• 透明性の向上に向け、先進国・途上国に対し共通なルールに基づく、
強化された枠組み(情報の定期的報告とレビュー)が設立され、その
実施にあたっては、異なる能力を考慮した柔軟性を与えることに。柔
軟性の具体的あり方は今後交渉へ。
パリ協定
• 強化された枠組み(共通のモダリティ、手続き、ガイダンス)
 各国は排出インベントリや国別目標の進捗状況を定期的報告(法的義務)
 各国は適応に関する情報も定期的に報告(義務ではない)
 先進国は提供した支援に関する情報(法的義務)、先進国以外で支援を
行った国も情報提供を奨励(義務ではない)
 支援を取った国はその情報(義務ではない)
• 提供された情報は技術専門家レビュー・多国間検討の対象
• 実施上の柔軟性(報告の範囲・頻度・詳細度、レビューの範囲)の付与
COP決定
• 地球環境ファシリティ(GEF)の下、「透明性キャパビル構想」の開始
• 共通のモダリティ、手続き、ガイダンスの検討をパリ協定特別作業部会
に対し要請
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グローバル・ストックテイク
• パリ協定の進捗状況を確認するプロセス。
• 国ごとではなく世界全体での削減努力の十分性、適応行動、支援状
況(資金、技術、キャパビル)をチェック。
• 2023年以降、5年毎。
• その結果は、各国の国別目標の更新、強化の際の参考情報となる。
実施・遵守促進メカニズム
• パリ協定の実施・遵守を促進するためのもので、懲罰的な措置を伴う
ものではない
• 委員会の設置。運営細則は第1回パリ協定締約国会議で採択される
べく、検討を開始
透明性を高めることで実施、遵守を促進するというアプローチ
発効要件
• 世界総排出量の55%以上の排出量を占める55カ国以上の締約国が
この協定を締結した日の後30日目の日に効力を生じる。
差異化
交渉における最大の対立点
• 全ての国が参加する枠組みの下で削減目標や資金支援などに
関し、各国の義務にどのような違いを設定するのか?
 インド、ベネズエラなど一部の途上国:先進国と途上国という二分論に基
づく差異化を主張
 先進国:二分論から脱却し、それぞれの国が自国の状況を反映した形で
貢献を申し出る形で義務を果たすべき
中間地点への歩み寄り
二分論に基づく差異化の希薄化
• 先進国がリーダーシップを発揮することを前提に途上国も含め
たすべての国が能力応分の義務を果たすことに
 緩和:先進国が総量削減目標を定め、途上国も将来的に同様の目標を持
つことが奨励されるという違いは残るが、法的同等性は確保。
 資金:先進国の提供義務を明記しつつ、途上国の自主的な資金提供も認
める。
 透明性:共通の枠組み、異なる能力を考慮した柔軟性を認める。
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今後の課題
• 交渉上の積み残し課題
 ほぼ全ての項目に関し、実施ルールや指針の作成
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国別目標、その付随情報に関する更なる指針
国別目標登録簿に関するモダリティ・手続き
国別目標のアカウンティングに関する指針
協調的アプローチのアカウンティング指針
緩和・持続可能な開発メカニズムのモダリティ
適応努力の認識方法
適応関連の国際制度の見直し
適応ニーズの評価方法
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資金情報に含めるべく内容の特定
適応基金の取り扱い
動員資金のアカウンティング
技術フレームワークの検討
透明性システムの共通指針
グローバル・ストックテイクで活用する情報源の特定
実施・遵守促進委員会のモダリティ・手続き
 パリ協定特別作業部会や補助機関等により検討し、第1回パリ
協定締約国会議での採択を目指す
• 国別目標の引き上げメカニズムが機能するか?
 促進的対話の成果を活かし、2020年までにより踏み込んだ
2030年目標を打ち出せるか?
• 実効性ある途上国支援の確立
 2020年以降の資金動員目標
 資金の透明性向上(出して、受け取り手)
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日本の課題
• 2020年に向けた国内準備の加速
 5年毎の目標提出に向けた国内体制の整備
 2030年目標の見直し機会
 ボトムアップ式に「何ができるか」ではなく、バックキャスト的に「何
が必要か」という視点
 気温目標(2℃/1.5℃)を念頭に、長期低排出発展戦略の策定・提出
 第4次環境基本計画の2050年80%削減(閣議決定)
 ●年○%削減達成ではなく、累積排出量を如何に減らすかが重要
今から経済システム・社会インフラ全体を低炭素なものへ
転換させ始めることが重要
• パリ協定=市場への長期的シグナルの発信
 国内政策措置により、民間企業が中長期にわたる低炭素事業
に安心して投資できるような環境整備
 炭素価格付けの必要性(自主的取り組みで十分か?)
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ご清聴ありがとうございます
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