既存建築物の暖房期の消費エネルギー管理に関する研究 前原研究室 09513 絹見健太郎 1.研究背景 現在、既存建築物のエネルギー消費量の削減が 重要な課題となっている。学校施設でも省エネル ギー化のために空調機の室温設定や運転時間の 管理など環境負荷を削減する取り組みが行われ ている。これまでに建築学科棟空調機の冷房時の 特性解析と省エネルギー対策の検討を行った。 差[kJ/kg] V:ファン風量[㎥/s] ρ:空気密度=1.2[kg/㎥] E:消費電力[kw] Q₀:定格暖房能力[kw] ただし、待機電力などの運転時以外に発生する 消費電力量を除外した。 2.研究目的 本研究では暖房運転時の性能評価と省エネル ギー対策の評価を行う。実測データに基づき暖房 時の COP(成績係数)を求める。さらに LCEM ツールを用いて暖房時の 2 重サッシ化、温度設定 値制限また、室内機の変更などケース設定を行な い省エネルギー効果等を検討する。 COP[-] 4 3 2 1 0 0 0.5 1 3.LCEM ツール LCEM とは、ライフサイクルエネルギーマネジ メントの略で建築物の消費エネルギーを「ライフ サイクル全体で」管理することである。LCEM ツ ールとは国土交通省が無料配布している LCEM の手法を実現するために開発されたフリーソフ トである。Excel の知識があれば使用することが できる。 図 1 から COP の値が定格 COP3.34 に比べて小 さいことが読み取れる。このことから現在のアト リエの暖房時の空調機の運転効率が良くないこ とがわかる。 4.実測概要 米子高専建築学科棟 2 階に設置されているマル チ型空調システムを対象に解析を行う。1 台の室 外機に対してアトリエに室内機 2 台、教員室に 6 台、コラボレーションゾーンに 1 台の計 9 台の室 内機で構成されている。室外機の吹き出し口(3 か所) ・吸い込み口の温度(3 か所) 、吸い込み口 の相対湿度(1 か所) 、消費電力量の測定を行なっ た。温湿度は 10 分間隔で測定を行なっている。 6.省エネルギー対策の評価 まず、LCEM ツールで計算を行なう上で必要と なる入力数値として室負荷は負荷計算ソフト micropeak による計算値、気象条件は拡張アメダ スのデータを用いた。部分負荷消費電力補正値 (補正値)は実測値と LCEM ツールに組み込ま れている標準値に大きな誤差があり、より正確な 結果を求めるため実測値を使用した。図 2 は補正 値が大きいと消費電力も大きくなることを表す。 負荷率[-] 図1 47 実測値 標準値 1.5 補正値[-] 5.解析概要 本研究では、平成 24 年 12 月 1 日~平成 25 年 3 月 31 日までの実測データを使用した。3 台の室 外機の吹き出し口・吸い込み口の温度、吸い込み 口の相対湿度、消費電力量の測定結果をもとに COP、負荷率の実測値を求めた。負荷率μ、COP (成績係数)は以下の式を用いて算定を行なった。 μ=P/Q₀ COP=P/E P=(hai-hao)×V×ρ+E P:暖房能力[kw] hai-hao:吸い込み・吹き出し比エンタルピー COP と負荷率の関係 1 0.5 0 0 0.2 0.4 0.6 負荷率[-] 図 2 負荷率、補正値の関係 0.8 1 図 3 は電力消費量の実測値と LCEM 計算値を 示している。計算期間は 12 月 1 日~3 月 31 日と し、空調機の土日停止の場合、長期休暇の運転判 定を室内機の吸い込み・吹き出し口の温度差から 考慮した場合を示す。土日停止のみに比べ、長期 休暇を考慮したとき実測値をよく再現している。 3 月は室内機データに 18 日間欠値があり、停止が 確認できない日は運転としているため誤差が大 きい。実測値を LCEM を用いて再現するために は、室内機運転の判定できるデータが必要である ことがわかる。 電力消費量[kWh] 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 case1 cace2 case3 case4 case5 図 5 電力消費量 実測値 計算値(土日停止) 表 1 に示した 5 つのケースを長期休暇を考慮して LCEM を用いて計算した。図 4 を見ると Case2 から室温設定を上げると室負荷が上がること、 Case3 から 1 重窓にするとさらに室負荷が上がる こと、Case4・Case5 から室内機を変更すると未 処理負荷を処理できることがわかる。図 5 から Case3 の消費電力が大きいことがわかる。これは 負荷率の値が 0.25 以上であり補正値が変化し消 費電力量が上がったと推察した。Case4・Case5 は共に 2%程度の消費電力の増加となった。 計算値(長期休暇考慮) 電力消費量[kWh] 2000 1500 1000 500 0 12月 1月 2月 3月 図 3 電力消費量 7.まとめ 今回のシミュレーションから、現在のアトリエ の暖房期の空調機は室負荷を処理しきれていな いことがわかった。既存の室内機と同等のファン 消費電力を持つ暖房能力の高い室内機を取り入 れることで、2%程度の消費電力の増加で未処理負 荷をなくすことができる。室外機吹き出し口、吸 い込み口の温湿度データと室内運転判定と LCEM を用いて、改修時の機種変更の効果を推定 することができる。 表 1 ケース設定 Case1(現アトリエ) Case2 Case3 Case4 Case5 室温設定 22℃ 24℃ 22℃ 22℃ 24℃ 処理負荷 窓 2重窓 2重窓 1重窓 2重窓 2重窓 暖房能力 2.5kW 2.5kW 2.5kW 4.0kW 4.0kW 未処理負荷 参考文献 1)永峯章・高草木明・成實悠樹・吉野大輔 「東洋大学の4箇所のキャンパスにおけるエネルギー 消費量に関する調査研究」 日本建築学会環境系論文集 2010 年7月 2)梛原勝・川瀬貴晴・瀧巌・田原雄一郎 「小規模建築のエネルギー消費および温熱環境に関す る研究」 日本建築学会環境系論文集 2012 年 4 月 室負荷[kWh] 2500 2000 1500 1000 500 0 cace1 cace2 cace3 cace4 cace5 図 4 各ケース室負荷積算 48
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