南シナ海における中国の活動(2015年12月22日)

南シナ海における中国の活動
2015年12月22日
防衛省
概要
1.中国の南シナ海における進出【p.1-3】
中国が南シナ海に進出してくる歴史的過程を、他の沿岸国との衝突事例とあわせ解説
2.中国による南沙諸島の占拠状況【p.4-19】
中国が占拠する7つの地形の状況について、特に埋立活動に焦点を当てて解説
3.中国の埋立に関する各種指摘【p.20-21】
中国の埋立に関するキーポイント(速さ・規模、「軍事化」)について解説
4.南沙諸島の地形開発による安全保障上の影響【p.22-23】
南沙諸島における港湾・滑走路建設がもたらし得る安全保障上の影響について解説
5.中国を除く南シナ海沿岸国等の状況【p.24-26】
南シナ海沿岸国の戦力・動向や、南シナ海における米国の取組みについて解説
0
1.中国の南シナ海における進出
1-1 中国の南シナ海における進出
● 中国は力の空白を突いて南シナ海全域に進出(50’-70’西沙諸島→80’-南沙諸島)
関連年表
1950年代:
1950年代:
1973年:
1974年:
仏軍撤退
↓
中国、西沙諸島の半分を占拠
(南越も同時期に西沙諸島進出)
↓
在南越米軍撤退
↓
中国、西沙諸島全域支配(南越撃退)
(1975年:南越崩壊(ベトナム戦争))
1980年代半ば:在越ソ連軍縮小
↓
1980年代: 中国、南沙諸島進出
1988年:
中国、南沙諸島6か所占拠
1992年:
1995年:
在比米軍撤退
↓
中国、ミスチーフ礁占拠
2000年代:
中国、南シナ海南部進出
2012年:
中国、スカボロー礁事実上支配
2014年~:
中国、南沙諸島において大規模埋立・イ
ンフラ整備実施
中国の進出
東沙
1950年代
1974年
全域支配
西沙諸島
スカボロー礁
1988年
6か所支配 1995年
↓
2014年~
大規模埋立
ミスチーフ礁
セカンドトーマス礁
南沙諸島
「九段線」
南ルコニア礁
ジェームズ礁
0
※イメージ図
500
1,000km
1
1-2 中国の進出に際しての交戦事例
● 中国がそれまで未占拠の島嶼へ進出した際、1974年及び1988年の2回にわたりベトナ
ムとの間で戦闘が生起
東沙
中国
1974年1月、中国が民兵を乗船させた艦艇部隊 (哨戒艇
等6隻)をそれまで占拠していなかった西沙諸島の西部へ
派遣、南ベトナムのフリゲート等4隻と交戦
中国側の損害
艦艇4隻に損傷
85名が死傷
南ベトナム側の損害
艦艇1隻が沈没、3隻に損傷
100名以上が死傷
各国・地域の構築物の凡例
:中 国
:台 湾
:ベトナム
:フィリピン
:マレーシア
西沙諸島
中国の哨戒艇
ウッディー島
ダンカン島
南ベトナムのフリゲート
ベトナム艦艇
ベトナム
スビ礁
南ベトナム側が撤退し、中国が西沙諸島の全域を占領
フィリピン
南沙諸島
ガベン礁
1988年1月、南沙諸島に基地のなかった中国が艦艇部隊
を派遣しファイアリークロス礁で構築物建設を実施。3月、
ジョンソン南礁において中国フリゲート3隻がベトナム揚陸
艦等3隻と交戦
中国のフリゲート
ヒューズ礁
ファイアリークロス礁
中国側の損害
1名が負傷
越側の損害
艦艇2隻が沈没、1隻に損傷
400名以上が死傷
ミスチーフ礁
クアテロン礁
ジョンソン南礁
「九段線」
ブルネイ
※イメージ図
攻撃を受けるベトナム艦艇
インドネシア
ベトナム側が撤退し、中国がジョンソン南礁を占領
※ 上記2件に関して中国側は、(南)ベトナム側が不当に侵入し挑発してきたためなどと説明
マレーシア
0
500
1,000km
(資料源:中国国防部HP、各種報道 等)
2
1-3 最近の中国の軍・海上法執行機関等による活動の事例
● 近年においても中国の軍・海上法執行機関等が南シナ海沿岸国と衝突する事案が頻発
①2010年6月、ナツナ諸島周辺で、中国漁
ベトナム船に放水
する中国海警船
船を拿捕したインドネシア巡視船に対し、中
国海上法執行船が砲の照準を合わせ威嚇
③2011年6月、バンガード礁周辺で作業中
ケーブルを切断したとされ
る中国法執行船(海監)
のベトナム資源探査船を中国艦船が妨害
船との対峙以降、中国海警船舶がプレゼン
スを維持
⑤2013年5月、セカンドトーマス礁周辺に艦
②
船を派遣し、フィリピン軍の哨所(揚陸艦)へ
の補給を妨害
ベトナム
警船舶の護衛を伴いつつオイルリグを展開
し、ベトナム艦船と対峙
⑧2014年8月、中国海警船舶がリード礁で
活動し標識を投下。2011年にもフィリピン船
舶の航行を妨害
⑨2015年4月、スビ礁周辺でフィリピン航空
機に対する強力な光の照射、退去要求など
を行い、フィリピン側が懸念を表明
⑩2015年7月、西沙諸島においてベトナム
漁船が中国船に衝突され沈没。9月にも中
国船と見られる船舶による同様の事案発生
スカボロー礁
⑦
④
⑨
⑧
※ 細い破線は沿岸から200NM/
中間線を示す
フィリピン
リード礁
スビ礁
ガベン礁
⑥2013年10月、南ルコニア礁周辺へ艦船を
⑦2014年5月~7月、トリトン島南方に軍・海
トリトン島
⑩
④2012年のスカボロー礁でのフィリピン艦
派遣。この他、2014年1月、ジェームズ礁周
辺で艦艇が活動
:中 国
:台 湾
:ベトナム
:フィリピン
:マレーシア
中国
②2011年5月、ベトナムの沖合で海上法執
行船舶(海監)がベトナム資源探査船の作
業を妨害し曳航していたケーブルを切断
各国・地域の構築物の凡例
「海洋石油981」
ヒューズ礁
ファイアリークロス礁
クアテロン礁
ミスチーフ礁
⑤
③
セカンドトーマス礁
フィリピン軍の哨所(揚陸艦)
バンガード礁
①
インドネシア
ジョンソン南礁
北ルコニア礁
南ルコニア礁
⑥
ブルネイ
ジェームズ礁
ナツナ諸島
マレーシア
※イメージ図
0
500
1,000km
(資料源:各種報道 等)
3
2.中国による南沙諸島の占拠状況
2-1 中国による南沙諸島の占拠状況(埋立前)
● 中国は南沙諸島において合計7つの礁を事実上支配し、構造物建築
● 領海法制定(92年)や三沙市・三沙警備区設置(12年)等、領有を前提とした国内法の
整備等も併せて推進
スビ礁
各国・地域の構築物の凡例
:中 国
:台 湾
:ベトナム
:フィリピン
:マレーシア
1997年
フィリピン
西沙諸島
中沙諸島(暗礁)
スカボロー礁
※ 細い破線は沿岸から200NM/
中間線を示す
ガベン礁
1990年
「九段線」
ベトナム
ファイアリークロス礁
ヒューズ礁
1988年
1988年
クアテロン礁
1991年
ジョンソン南礁
南沙諸島
1988年
ミスチーフ礁
1995年
ブルネイ
※イメージ図
(資料源:各種報道 等)
マレーシア
0
500
1,000km
4
(2015年12月17日更新)
2-2 中国による南沙諸島の占拠状況(埋立後)
● 中国は、2013年以降、西沙諸島のウッディー島にて滑走路延長工事を実施したほか、
2014年以降、南沙諸島の7箇所において、大規模な埋立及びインフラ整備を実施
各国・地域の構築物の凡例
スビ礁
ウッディー島 ※西沙諸島
:中 国
:台 湾
:ベトナム
:フィリピン
:マレーシア
給油施設建設中
ガベン礁
埋立作業終了
インフラ整備実施中
西沙諸島
2,400m級滑走路
⇒ 延長工事実施
2014年4月16日撮影
出典:IHS Jane’s
※ 細い破線は沿岸から200NM/
中間線を示す
出典:Medium
埋立継続中
3,000m級滑走路建設中との指摘
インフラ整備実施中
フィリピン
ベトナム
ヒューズ礁
ファイアリークロス礁
スカボロー礁
出典:CSIS/AMTI
2015年9月3日撮影
南沙諸島
2015年5月27日撮影
2015年5月27日撮影
出典:Medium
クアテロン礁
2015年5月30日撮影
埋立作業終了、インフラ整備実施中
ジョンソン南礁
出典:CSIS/AMTI
2015年6月10日撮影
2015年9月3日撮影
「九段線」
出典:CSIS/AMTI
マレーシア
3,000m級滑走路建設中(完成との指摘)
エプロン、誘導路、建物、大型港湾等建設中
その他インフラ整備実施中
ミスチーフ礁
出典:Medium
埋立作業終了
インフラ整備実施中
大型灯台設置
埋立作業終了
インフラ整備実施中
大型灯台設置
出典:CSIS/AMTI
埋立継続中
3,000m級滑走路建設中との指摘
インフラ整備実施中
※イメージ図
※1 CSIS/AMTI = CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / DigitalGlobe
※2 Medium = Medium / Victor Robert Lee & DigitalGlobe
(資料源:中国国防部HP、各種報道 等)
2015年9月8日撮影
0 インドネシア 500
1,000km
5
2-3 中国の南シナ海における岩礁埋立動向(各礁別)
1. ジョンソン南礁①
2014年2月
2013年2月
出典:フィリピン軍
出典:フィリピン軍
2014年8月
出典:IHS Jane’s
6
1. ジョンソン南礁②
2015年6月10日
約320m
約380m
面積:0.109㎢
出典:CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / DigitalGlobe (写真、面積(2015/7/1))、Google Earth (長さ)
7
2-3 中国の南シナ海における岩礁埋立動向(各礁別)
2. ヒューズ礁①
2015年1月
2013年
既存の施設
既存の施設
出典:各種資料
出典:IHS Jane’s
8
2. ヒューズ礁②
2015年5月27日(構造物:2015年9月3日)
約620m
約230m
機関砲設置の
可能性に関する
指摘
ヘリパッド
庁舎
面積:0.076㎢
出典:Medium / Victor Robert Lee & DigitalGlobe (写真)、CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / DigitalGlobe (面積(2015/7/1))、Google Earth (長さ)
9
2-3 中国の南シナ海における岩礁埋立動向(各礁別)
3. クアテロン礁①
2013年3月
2014年11月
出典: 南海諸島網20140724
既存の施設
出典:各種資料
出典: CSIS Asia Maritime Transparency Initiative /
DigitalGlobe
10
3. クアテロン礁②
2015年5月30日(構造物:2015年8月23日)
面積:0.2311㎢
約650m
建設中受信基地(可能性)のアンテナとの指摘
庁舎
約330m
出典:Medium / Victor Robert Lee & DigitalGlobe (写真)、CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / DigitalGlobe (面積(2015/7/1))、Google Earth (長さ)
11
2-3 中国の南シナ海における岩礁埋立動向(各礁別)
4. ガベン礁①
2014年8月
2014年3月
2015年1月
既存の施設
出典:IHS Jane’s
出典:IHS Jane’s
出典:IHS Jane’s
12
4. ガベン礁②
2015年5月27日(構造物:2015年9月3日)
面積:0.136㎢
約450m
約300m
庁舎
約250m
出典:Medium / Victor Robert Lee & DigitalGlobe (写真)、 CSIS Asia Maritime Transparency Initiative (面積(2015/7/1)、長さ[橙])、Google Earth (長さ[黄])
13
2-3 中国の南シナ海における岩礁埋立動向(各礁別)
5. ファイアリークロス礁①
2014年8月
2015年3月
既存の施設
出典: CSIS Asia Maritime Transparency Initiative /
DigitalGlobe
出典: CSIS Asia Maritime Transparency Initiative /
DigitalGlobe
14
5. ファイアリークロス礁②
2015年9月20日
滑走路標識(完成)
ヘリパッド標識
護岸工事(進行中)
滑走路:約3,000m
約3,750m
エプロン
新たな建造物
新たな建造物
約200-300m
誘導路
大型港湾
面積:2.74㎢
工事(進行中)
出典:IHS Jane’s(写真)、 CSIS Asia Maritime Transparency Initiative(面積(2015/7/1)、長さ[橙])、Google Earth (長さ[黄])
15
2-3 中国の南シナ海における岩礁埋立動向(各礁別)
6. スビ礁①
2015年1月
既存の施設
2015年4月
既存の施設
(早期警戒レーダー)
出典:IHS Jane’s
出典: Medium / Victor Robert Lee & DigitalGlobe
16
6. スビ礁②
2015年9月3日
面積:3.95㎢
滑走路基礎工事
60m
約5,500m
浚渫船の活動
滑走路基礎工事
ブルドーザーによる整地作業
(滑走路基礎工事の準備)
約3,000m
浚渫船の活動
※3,000m級滑走路建設中の可能性
水路拡張工事
出典:Medium / Victor Robert Lee & DigitalGlobe (左・左上写真)、CSIS Asia Maritime Transparency Initiative (写真、面積(2015/7/1)) 、Google Earth (長さ) 17
2-3 中国の南シナ海における岩礁埋立動向(各礁別)
7. ミスチーフ礁①
2012年1月
2015年4月
既存の施設
出典: CSIS Asia Maritime Transparency Initiative /
DigitalGlobe
出典: Medium / Victor Robert Lee & DigitalGlobe
18
7. ミスチーフ礁②
2015年9月8日
※3,000m級滑走路建設中の可能性
インフラ工事
約6,000m
約9,000m
施設建設
浚渫船の活動
面積:5.58㎢
出典:CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / DigitalGlobe (写真、面積(2015/7/1))、Google Earth (長さ)
19
3.中国の埋立に関する各種指摘
3-1 中国の埋立の速さ・規模に関する指摘
● 中国は、南沙諸島において、急速かつ大規模な埋立活動を強行
米国防省「中国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(2015年版、5月8日公表)
「中国は2014年末時点で約500エーカー(=約2km2)を埋め立てた。最終的
な状況は不明確であるが、港湾、情報・監視システム、後方支援及び滑走
路が含まれるであろう」と記述。
※ 公表時、米国防省当局者が、埋立面積が約8km2となったと指摘
すなわち、4ヶ月程度で面積が約4倍に
米国防省「アジア太平洋海洋安全保障戦略」(2015年8月公表)
「中国は2015年6月時点で2,900エーカー(=約11.7km2)以上を埋め立てた。
これは他の係争国が40年間で埋め立てた総面積の17倍を20か月で行った
ことになり、南沙諸島での埋立地の約95%に相当する」と記述。
20
3-2 埋立地の「軍事化」等に関する指摘
● 中国による南沙諸島の埋立地の「軍事化」については、国際社会の懸念の中、中国自
身「軍事化の意図はない」としつつ「軍事施設を置いている」とも発言する等、各種指摘
が存在
2015年3月31日
米太平洋艦隊司令官は中国の埋立を「砂の万里の長城」と表現して懸念表明
2015年4月9日
中国外交部報道官は「拡張後の機能は必要な軍事上の要求を満たす」と発言
2015年4月21日
比参謀総長は中国の埋立につき軍事目的の可能性があり緊張を招き得ると指摘
2015年5月31日
第14回シャングリラ会合(アジア安全保障会議)において、孫建国(ソン・ケンコク)中
国人民解放軍副総参謀長が、南シナ海における埋立は海上捜索・救助、防災・
減災といった目的のほか、「必要な軍事防衛上のニーズ」を満たすものである旨
発言
2015年9月25日
米中首脳会談を実施。米中個別に出された成果文書の中で、オバマ大統領は、
中国の南シナ海開発・軍事化に重大な懸念を表明。他方、習主席は、「南シナ海
の島嶼は古代から中国の領土、領土主権を守る権利がある、軍事化の意図はな
い」と反論
⇒ しかし、同年10月14日、中国外交部報道官は、 「軍事化」について否定しつつも、「中国側は、
いくらかの必要な、限定的かつ純粋に防衛的な性質の軍事施設を置いている」と発言
(資料源:各種報道 等)
21
4.南沙諸島の地形開発による
安全保障上の影響
4-1 南沙諸島の港湾建設が及ぼし得る影響
● 南沙諸島の港湾建設は南シナ海沿岸国及びシーレーンへの影響大との論調あり
・ 一定規模以上の港湾を建設し、海軍艦艇、海警船
等の展開、補給、メンテナンスを行う能力を確保
・ 南シナ海全域に艦艇・海警船を常態的に配備・展
開することが可能に
西沙諸島
ウッディー島
フィリピン ・ 南シナ海中南部における警戒監視能力や作戦遂
行能力が大幅に向上する可能性
中沙諸島
(暗礁)
南沙諸島
・ 特に南シナ海沿岸国への影響大及びシーレーン
への影響大との論調あり
スビ礁
ガベン礁
ベトナム
「九段線」
【例】ファイアリークロス礁
ミスチーフ礁
ファイアリークロス礁
クアテロン礁
ヒューズ礁
ジョンソン南礁
2015年9月3日撮影
出典:CSIS/AMTI
大型港湾
ブルネイ
シーレーン マレーシア
0
※イメージ図
500
1,000km
※ CSIS/AMTI = CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / DigitalGlobe
22
4-2 南沙諸島の滑走路建設が及ぼし得る影響
● ファイアリークロス礁、スビ礁(可能性)、ミスチーフ礁(可能性)での滑走路建設は、南
シナ海における中国航空戦力のプレゼンス増大をもたらすとの論調あり
・ ファイアリークロス礁に滑走路を建設
1500km
2000km
・ 中国は戦闘機・爆撃機・UAV等、様々な航空戦力
の前方展開・補給等が可能に
台湾
Su-27/30
南シナ海
「九段線」
UAV ベトナム
フィリピン
スビ礁
ミスチーフ礁
H-6
200km 1800km
ファイアリークロス礁
マレーシア
南沙諸島
マラッカ海峡
(約1,400km)
・ スビ礁やミスチーフ礁のような大きな地形でも大
規模埋立を実施しており、 それぞれ滑走路の建
設に係る指摘あり
インドネシア
スンダ海峡
(約1,800km)
ロンボク海峡
(約2,000km)
・ その結果、一般論として、以下のことが派生的に
起こり得るとの論調あり:
① 南シナ海全域に及ぶ戦力投射能力の向上(特
に、南シナ海中南部における警戒監視能力や
作戦遂行能力の大幅な向上);
② 南シナ海における中国の航空優勢の強化;
③ 米軍プレゼンス及びその介入に対する中国の
「接近阻止/領域拒否(A2/AD)能力」の向上;
④ さらに、将来的な「南シナ海防空識別区
(ADIZ)」設定の可能性
※イメージ図
・ 実際に建設された場合、中国航空戦力のプレゼ
23
ンスはさらに増大との論調あり
5.中国を除く南シナ海沿岸国等の状況
5-1 中国とフィリピン、ベトナム、マレーシアの海上・航空戦力比較
● 主な南シナ海沿岸国であるフィリピン、ベトナム、マレーシアも軍事力強化に努めている
が、中国との質的・量的な戦力差は歴然
3,000
China
※沿岸警備隊等の
航空機を含まず
作戦機
(機)
(㌧)
2,616
※沿岸警備隊等の
艦船を含まず
艦艇
147.0
140
2,500
120
Philippines
2,000
1,500
総トン数
8 71
艦船隻数
100
Vietnam
60
40
500
20
97
71
26
Malaysia
ベトナム
中 国
871隻、147.0万t
艦
潜水艦
船
133隻、4.3万t
キロ級(3,100t)×2※4
ユーゴ級(100t)×2
ソブレメンヌイ級(6,500t)×4
ルーヤンⅡ級(5,700t)×4※2 等
※4:15年7月までにさらに2隻を追加配備
ゲパルト級(1,600t)×2
ペチャ級(1,000t)×5
BPS500級(400t)×1
※2:14年までにさらに2隻が就役した見込み
2,616機(内第4世代機731機)
作
戦
機
戦闘機
哨戒機等
(固定翼)
海兵隊等
5.8
※4:15年7月までに
さらに2隻を追
加配備
1 33
1 21
4.5
4.3
マレーシア
な し
レキウ級(1,900t)×2
カツリ級(1,500t)×2 等
ハミルトン級 (2,700t)×2
キャノン級(1,400t)×1
オーク級(1,100t)×2 等
71機(内第4世代機36機)
26機
し※6
J-10×294
Su-27/J-11×340
Su-30×97 等
Su-30MK2×23
Su-27×11
MiG-21×33 等
Mig-29×10
Su-30MKM×18
F/A-18×8 等
な
KJ-2000(早期警戒管制機)×4
Y-8(早期警戒機)×10 等
な し
な し
F-27×1
N-22SL×1 等
約10,000人(海軍陸戦隊)
394隻以上(中国海警)
1,500t以上×33※3
沿岸警備隊艦船等 1,500t以下×57 等
※3:世界最大級となる1
万t級の巡視船建造
を推進
約27,000人
37隻以上(沿岸警備隊)
3隻(漁業監視局)
※5:1隻が試験待ち、
1,500t以上×2※5
さらに2隻が建造
1,500t以下×4+
中
哨戒機×3 等
な し
0
121隻、4.5万t
スコルペン級(1,800t)× 2
97機(内第4世代機34機)
200
フィリピン
208隻、5.8万t
※1:14年までにさ
シャン級(6,100t)×2※1
らに1隻が就
ユアン級(2,900t)×12
※1:14年までにさら
役した見込み
キロ級(3,100t)×12 等 に1隻が就役した見
込み
駆逐艦
/フリゲート等
400
208
0
0
800
600
80
1,000
(隻)
1,000
※6:攻撃機OV-10ブロンコ×10を
保有。14年、韓国製FA-50
戦闘機12機を購入済(17年
までに導入予定)
約8,300人
189隻(マレーシア海上法執行庁)
58隻(沿岸警備隊)
132隻(海上警察)
1,500t以下×5
1,500t以上×2
海難救助ヘリ×3 等
哨戒機×2
海難救助ヘリ×3 等 (資料源:Military Balance 2015、Jane’s Fighting Ships 2014-2015
等)
24
5-2 フィリピン、ベトナム、マレーシア等による開発動向
● 中国以外(越、比、馬、台)は80-90年代にかけて滑走路を建設(600-1,200m)
● 各国・地域とも施設の維持・整備を実施、ベトナムは、近年、埋立実施の指摘あり
ベトナム
各国・地域の構築物の凡例
:中 国
:台 湾
:ベトナム
:フィリピン
:マレーシア
※ 細い破線は沿岸から200NM/
中間線を示す
2011年8月30日撮影
西沙諸島
2011年に滑走路改修計画が表
明されたが未着工の模様
1,200m級滑走路
フィリピン
ティトゥ島(比)
約173m
イツアバ島(台)
1,200m級滑走路
約423m
2010年1月3日撮影
2015年2月19日撮影
出典:CSIS/AMTI
サンド礁(越)
飛行場の拡大
2011年8月と2015年2月に撮影さ
れた写真から、約2.1万平方メート
ルを埋め立てたことが判明
港湾工事
⇒2015年12月完成
2015年10月5日撮影
出典:IHS Jane’s
ウエストロンドン礁(越)
2015年10月、高さ12.7mの灯台が完成
2015年12月、3,000t級の艦船が停泊可能な深水埠頭が完成
2010年1月と2015年4月に撮影され
た写真から、約6.5万平方メートル埋
め立てたことが判明
約162m
スプラトリー島(越)
南沙諸島
2015年4月30日撮影
※イメージ図
(資料源:各種報道 等)
1,400m級滑走路
ブルネイ
約494m
出典:CSIS/AMTI
スワロー礁(馬)
600m級滑走路
「九段線」
マレーシア
2003年に滑走路延長工事を実施
(1,000m級→1,400m級)
0
500
1,000km
※CSIS/AMTI = CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / DigitalGlobe
25
5-3 米国等の南シナ海における取組み
中国軍及び海警の
● 港湾や飛行場の建設、南シナ海への艦艇
や航空機の常続的な展開による警戒監視
能力や作戦遂行能力の向上
● 米軍の介入に対するA2/AD能力の向上
米越関係
(主要な軍事基地)
○ 13年12月、ケリー米
国務長官が海上安全
保障分野で、1,800万ド
ルの支援を表明 (巡視
船4隻の購入)
○ 14年10月、米国が、
海洋安全保障に関す
る防衛物資の対越(殺
傷)武器禁輸の一部解
除を発表
○ 15年11月、米国が、
今後2年間で約4,000万
ドルの支援を表明
✈
✈
スービック湾
西沙諸島
スカボロー礁
15年10月、米海軍がスビ礁の
12海里以内を航行し、「航行の
自由作戦」を実施したとされる
カムラン湾
スビ礁
セカンド
トーマス礁
✈
✈
クラーク
フィリピン
パラワン島
✈
南沙
諸島
南ルコニア礁
マレーシア
米比関係
:海軍基地等
ベトナム
バターワース
✈
:航空基地、
⇒米国は中国に対し国際的な規範の遵守を求めるとともに、中国
の南シナ海における一方的かつ強圧的な行動を批判
:中国が構築物を建築している礁
:中国艦船による妨害活動が指摘される礁
豪空軍が拠点
として使用
✈ ✈
✈
米国の懸念要素
● 海上交通路の航行の自由の阻害
● 米軍の活動に対する制約
● 地域全体の安全保障環境の悪化
ジェームズ礁
オイスター湾
(建設中)
✈
ラブアン
ビントゥル(基地建設を計画)
※イメージ図
○13年12月、海洋安全保障や対テロ能力強化のため、4,000万ドルの支援を表明
○14年4月、米比防衛協力強化協定に調印(※現在、比最高裁が合憲性審理中)
⇒米軍の比軍基地へのローテーション配備が可能に
⇒両国間の合同演習拡大を通じた、比軍の能力向上を企図
○15年11月、オバマ大統領が7,900万ドルの支援、巡視船1隻及び調査船1隻の
供与を表明
南シナ海周辺国との関係の強化
● 装備品の供与や共同演習の実施等の協力関係の強化、及びそ
れによる周辺国の対処能力の向上を追求。以下の国等に対し、
今後2年間で計2億5,900万ドルの支援を表明(15年11月)。
・フィリピン:同盟国としての従来からの安保協力の更なる強化・拡
大を推進。(装備協力、沿岸警備の能力構築、共同演習を含む)
・ベトナム:これまで希薄であった防衛協力関係を装備品の供与を
含め漸進的に拡大
・インドネシア:沿岸警備、ISRの能力構築等の協力を拡大
・マレーシア:港湾警備、共同訓練等の協力を拡大
米軍のプレゼンスの拡大
● 海軍艦艇の寄港の増加、ISR活動の強化、種々の共同訓練
の実施、部隊の展開の強化(空母などの艦艇や航空機)等に
より米軍のプレゼンスを拡大
・ 海洋における状況認識の強化を南シナ海における喫緊の課
題として、米軍自らも積極的なISR活動を実施
⇒日本、豪州等の同盟国の役割に期待(豪は既にバターワー
ス(馬)を拠点に南シナ海周辺での活動を実施)
・ シンガポールへの沿岸域戦闘艦(LCS)の展開(13年4月~)、
哨戒機P-8の展開(15年12月)
● 過度な海洋権益主張に対抗するため、「航行の自由作戦」を
実施
・ 「米国は国際法が許容するいかなる場所でも航行・上空飛
行・作戦行動を継続する」(オバマ大統領(15年9月)等)
26」