2014年度支部共通事業 日本建築学会設計競技入選作品

2014 年度支部共通事業
日本建築学会設計競技入選作品
「建築のいのち 」
全国審査は、各支部に応募された293 作品のなかから選ばれた支
2 次審査会(9 月 12 日)は、大会会場(神戸大学)において公開で開
部入選 67 作品を対象に行われた。
催された。
1 次審査(8 月 1 日)は、全国入選候補 12 作品のノミネートとタジ
各賞は、ノミネート 12 作品のプレゼンテーションが行われたの
マ奨励賞 9 作品を選考した。
ち、白熱した審査が行われ、決定した。
全国審査部会
審査委員長
審査員
木下庸子[ 工学院大学教授 ]
村上心[ 椙山女学園大学教授 ]
城戸崎和佐[ 京都造形芸術大学教授 ]
渡辺菊眞[ 高知工科大学准教授 ]
小玉祐一郎[ 神戸芸術工科大学教授 ]
植田曉[NPO法人景観ネットワーク代表理事 ]
田所辰之助[ 日本大学教授 ]
全国入選者
年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品
2
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4
最優秀賞
優秀賞
北陸支部 野原麻由
優秀賞/タジマ奨励賞
佳作
九州支部 泊裕太郎
関東支部 松本寛司
関東支部 中村沙樹子ほか1 名
東北支部 金尾正太郎ほか1 名
東海支部 鳥山佑太ほか1 名
関東支部 猪俣馨ほか1 名
四国支部 川村昂大
関東支部 竹之下賞子ほか2 名
九州支部 杉山雄一郎ほか2 名
近畿支部 松下和輝ほか3 名
九州支部 鈴木龍一ほか2 名
関東支部 杣川真美ほか3 名
九州支部 野田佳和ほか3 名
タジマ奨励賞
東北支部 畑中克哉
東北支部 白旗勇太ほか3 名
中国支部 佐藤洋平ほか1 名
中国支部 手銭光明ほか2 名
中国支部 吉田優子ほか3 名
四国支部 髙橋卓ほか2 名
審査総評(審査委員長 木下庸子 )
21 世紀の環境や社会の変化に伴い建築家の存在や建築のつ
くられ方が変わりつつあります。
「 新しい建築を創造する建築
家」という20 世紀には当たり前とされた建築家の存在は、21
世紀となった今、確実に多様化に向かっています。それは20
世紀の右肩あがりの高度成長期に、スクラップ・アンド・ビル
ドに何の抵抗もなく、新たな建築をひたすらつくり続けてき
たわが国に対して、現代の成熟した社会が、今一度本質を見直
すべきだと促しているようにも思えるのです。このような変
動期にあって、次世代の建築を担う若者たちがどのような考
えを持って建築に臨んでいるかを知りたいという気持ちから
「建築のいのち 」と題する、建築のあり方を根本から問いかけ
る課題となりました。
応募案全体を通して見ると、震災復興を踏まえた提案、環境
に対する提案、保存再生をテーマとした提案、街づくりに関す
る提案、あるいは建築家の職能自体を問う提案といったよう
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建築雑誌
JABS | Vol.129 No.1664 | 2014.11
に、
さまざまな視点から建築がとらえられていました。そして、
多くの提案に共通していたことが、それらが永久不変の建築の
提案というよりは、
「 変わり行く建築における現在の姿」を立
脚点としていたのが印象的でした。これは課題の影響でもあ
ると思われる一方で、多様化する現代社会の反映でもあるよ
うに感じています。
学会大会では、午前中のプレゼンテーションに続く午後の
審査会で各作品の学生代表に登壇してもらい、7 人の審査委員
と向き合うかたちで審査が進められました。限られた時間と
限られた広さの会場でしたが、フェイス・トゥー・フェイスの
審議は、審査委員にとってもオーディエンスにとっても有効
であったと思われます。最優秀賞は1 作品とすべきという審査
委員の強い使命のもと、審査終盤まで結果が見えない高いレ
ベルの戦いとなりました。今回の応募者の提案が建築の次な
る展開へのヒントとなることを願っています。
最優秀賞
野原麻由[ 信州大学 ]
「並び家 」とも呼ばれる長野県木曽郡薮原宿の伝統的町並み
を保全、活用する手法の提案。既存家屋の柱梁の軸組構造を残
しながら、一部の壁を取り払って家と家の間にすきまをつく
り出し、近隣の住民が集い語り合える共有スペースを生み出
している。空き家調査や地域コミュニティの実態把握など作
者自身によるフィールド・サーベイをもとにアイデアが組み
立てられていて、最終プレゼンテーションを経て説得力がさ
らに増した。描出された空間の魅力とともに、こうした設計プ
ロセスにも高い評価が集まった。
(田所辰之助)
年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品
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建築雑誌
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優秀賞
杣川真美[ 千葉大学 ] 末次猶輝[ 同 ] 高橋勇人[ 同 ] 宮崎智史[ 同 ]
東京湾岸地域では、運河沿いの巨大再開発が進む。それにつれ
て、昔からあった集落や街の雰囲気が失われてゆく。そのよう
な小さなスケールの魅力を持つ界隈を運河沿いに提案した。
多数の小さな空間の一部は、フロート構造にして、ウオーター
フロントならではの多様な親水環境をつくり出している。フ
ロート構造の水面下に、水生生物の生態系の形成を促す試み
もよい。サブテーマにはさまざまな意味の「ちいさいもの」へ
の配慮が込められている。
(小玉祐一郎)
年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品
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優秀賞
野田佳和[ 崇城大学 ] 江上史恭[ 同 ] 江嶋大輔[ 同 ] 浦川祐一[ 同 ]
閉水域ゆえ、水質の汚染が進む大村湾。そこにつくられる巨大
な水質浄化装置の提案だ。牡蠣殻と竹とにがりでつくったポー
ラスな島を海上に浮かせる。水面下には藻が繁茂して漁礁と
なり、水質浄化機能を発揮し始める仕組みだ。やがて緑に覆わ
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建築雑誌
JABS | Vol.129 No.1664 | 2014.11
れる牡蠣殻礁の島には鍾乳洞のような洞窟や浅瀬もつくられ、
自然保全のモニュメントにもなるだろう。材料を手づくりし、
構造強度を確かめ、施工し、海に浮遊させる実験を行っている
(小玉祐一郎)
ことも特筆すべきことで、評価したい。
優秀賞/タジマ奨励賞
泊裕太郎[ 西日本工業大学 ]
木造家屋の周囲に鉄筋と型枠が組まれた、
うまいとは言い難い
生物や植物が写し取られたものは見たことがある。遺跡や廃墟で
パースになぜか魅かれた。建設中なのか解体中なのか一瞬わから
ない。見ていくと、廃屋の外壁を内型枠にして写し取られた表層
をインテリアとする提案とわかる。アンモナイトの化石のように、
は、空間の片鱗から全体像を感じることができる。しかし、外壁が
転写されてインテリアになった空間は見たことがない。建築のい
のちを未来に継ぐ、素晴らしい発明だと思った。 (城戸崎和佐)
年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品
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佳作
向山佳穂[ 東北大学 ] 金尾正太郎[ 同 ]
最小限の建築を淡々と表現する本応募作品は、敷地と定め
た島全体を建築家の意図によって制御しようとする強い意志
に満ちている。建築物の竣工時の光景を描いたパースは、設計
者の仕組んだプログラムの出発点にすぎない。建築が古びる
過程と植樹され再生する林、そこに集まる生物が一体となり、
その境界が限りなくあいまいになるときこそ、
プロジェクトは
完成する。建築のいのちを滅びの美学と自然の繁茂という時
間表現に結び付けた秀作である。
(植田曉)
建築雑誌
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佳作
猪俣馨[ 東京理科大学 ] 岡武和規[ 同 ]
性が面白い。これは単なる思い付きでなく、ガソリンスタンド
のカタチ、都市のなかで適度な距離をとる配置、さらには車送
迎機能など、多面的な可能性が読み込まれたうえでの機能転
換であることに加え、
それらをバスで廻るという新しい保育の
ガソリンスタンドという、誰もが知りつつも気にとめない
建築への着眼、それが保育園という機能へ転換するという意外
あり方までが提示されている。発見性に富み、かつ具体性を備
(渡辺菊眞)
えた秀作である。
佳作
2
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1
4
竹之下賞子[ 千葉大学 ] 小林尭礼[ 同 ] 齋藤弦[ 同 ]
年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品
「建納家 」という、建築物の終末をマネージメント/コー
ディネートする職種を示し、建築家の職能の拡張可能性を提
示した、意欲的な提案である。つくるプロセスへの関与と同じ
く、壊すプロセスへの関与が環境創造にとって重要であると
いう、
「 建築のいのち 」への回答は、工業化時代の建築行為への
明快な批判であり、未来への希望の呈示である。 (村上心 )
佳作
松下和輝[ 関西大学 ] 奥山裕貴[ 同 ]
HUBOVA TATIANA[ 同 ] 黄亦謙[ 同 ]
実在する街区を取り上げた本応募作品の妙味は、歴史ある
まちなみを建築的スケールによって読むことから発見した魅
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建築雑誌
JABS | Vol.129 No.1664 | 2014.11
力、新しい文脈、保存活用につながる手法を提案した一貫性に
ある。街区のフィジカルな変容を最低限に押え、巧みに読み替
え、従来の生活を維持し、新しいアクティヴィティを受け入れ
る場というこれからのまちの原型を描き出すことに成功した。
古きまちなみと生活からなる建築のいのちを、総じて持続さ
せようとする秀作である。
(植田曉)
佳作
佐藤洋平[ 早稲田大学 ] 川口祥茄[ 広島工業大学 ]
る新たな交通手段を提案している。ミニ機関車は食材を買い
に行く住民たちを助け、小さな駅には広場やマーケット、図書
館、駐輪場などが設けられて、人々の集いの場となる。家々の
はざ間を縫ってレールが走り、街ににぎやかさが戻ってくる
空き家が目立つようになった広島県呉市郊外の斜面住宅地。
この街に、15 インチゲージの機関車を敷設し、斜面地を移動す
佳作
災害に耐えるコアを中心とした住宅群は、
プランの書き込み
が美しい。特に復興時に、コアを中心に生活空間が四方に広が
り、隣家から手を伸ばすように拡張された生活空間との間に外
部環境が生まれ、
それが共有の庭としても機能しそうなところ
は、集まって住むことの可能性を感じさせる。しかし、現実の
災害は容赦がない。たとえRC 造でも、低層階の開口部を破壊
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年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品
手銭光明[ 近畿大学 ] 青戸貞治[ 同 ]
板東孝太郎[ 同 ]
様子が活き活きと描かれている。
場所と人の営みに対する暖か
な眼差しがこの作品の魅力をつくり出し、共感につながった。
(田所辰之助)
して屋内に濁流が入り込む。個々の敷地内で、家族の単位で、
いのちを守っていくにはもう限界がきているのかもしれない、
と思う。
(城戸崎和佐)
佳作
吉田優子[ 九州大学 ] 李春炫[ 同 ] 土井彰人[ 同 ] 根谷拓志[ 同 ] High Rise+Open Space という、ル・コルビュジエ型の近
代建築遺産である、広島市営基町アパートの建替え計画であ
る。住みながらの工事と仮設足場の利用により、ゆったりとし
た居住環境の変更とコミュニティの継続を担保するという、
実現可能性を感じさせる優れた提案である。基町アパートの
保存価値まで踏み込んだ「建築のいのち 」への提言が含まれれ
ば、なお提案の魅力が増したかもしれない。
(村上心 )
建築雑誌
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佳作
案。対象は、JA の拠点集荷施設。コメの二期作が行われる高知
県の設定である。年に2 回の収穫に合わせて、季節ごとに変わ
髙橋卓[ 東京理科大学 ] 辻佳奈子[ 同 ]
関根卓哉[ 同 ]
る空間の用途とアクティビティをプログラム化し、
それに応じ
人間が衣替えをするように、建築も季節に合わせてモードを
変換させるという古典的なアイデアを展開したユニークな提
加するボランティアや体験希望のゲストも設定され、人はゆっ
たりとした季節の変化も楽しむことができる。(小玉祐一郎)
て自然に、熱や光や風の流れが制御される仕組みだ。農事に参
タジマ奨励賞
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1
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畑中克哉[ 京都建築大学校 ] 年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品
3.11 以後、海岸部に住むことが禁じられた島が舞台。人のラ
イフサイクルと、森と海と生物たちのライフサイクルを重ね
合わせ、そこに変化を続ける「建築 」が挿入されている。具体的
にはひとつの線形木材で構成された住居、舟、それが水没した
のちの魚礁へと変化を続ける。ライフサイクルのなかでカタ
チが変化し廻り続けることがこの作品の「いのち 」であろう。
3.11 以前の人や風景との関係をも取り込んだサイクルもあれ
ばなおよかったであろう。
(渡辺菊眞 )
タジマ奨励賞
白旗勇太[ 日本大学 ] 宍倉百合奈[ 同 ]
上田将人[ 同 ] 岡田遼[ 同 ]
コンテナを建築ユニットへ転化することに新しさはない。
しかし、ここでは既存コンテナの機能転換ではなく、建築ユ
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建築雑誌
JABS | Vol.129 No.1664 | 2014.11
ニットとして長寿命かつ汎用性あるコンテナを新たに構築し
ている。このユニットを組み合わせた災害復旧時の仮設住宅
案から、仮設終了後の常設建築への三つの転換案まで、コンテ
ナが時を重ねながら、
さまざまな空間転換をなしとげることが
丁寧に描かれている。ユニットとその組み合わせ、それが重ね
る時間までを表現した良作である。
(渡辺菊眞)
タジマ奨励賞
松本寛司[ 前橋工科大学 ]
かわからない 」行為にある、として、私的空間であった空家の
世界遺産となった富岡製糸場を訪れる人々のためのアクセ
ス空間整備の提案である。
「 建築のいのち 」とは、
「 解体か建築
一部を共有化する操作を加えて、
パサージュと広場のリズミカ
ルな関係を想起させる、魅力的に広がる路地空間と小広場を
(村上心)
提言している。
タジマ奨励賞
中村沙樹子[ 日本女子大学 ] 後藤あづさ[ 同 ]
年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品
「建築のいのちとは建築が余白を持つことだ 」として、暗渠
となった川の上に立地する商店街に、人々が立ち止まり会話
2
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1
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を愉しむ空間を提案している。手法として、商店の屋根を張り
出し、屋根の下に生じる「中間領域 」が余白であるとする主張
は、瑞々しい迫力に溢れている。地下を流れる川を感じさせる
「余白 」が加われば、
さらに説得力を増したであろう。
(村上心)
タジマ奨励賞
鳥山佑太[ 愛知工業大学 ] 出向壮[ 同 ]
愛知県一色町の養鰻場が舞台。近年の漁獲量の減少に伴
い閉鎖する養鰻場の幾つかを、水質浄化装置を兼ねるガピオ
ン土壌付きの植物園とする案である。河川、養鰻場、周辺風
景といった広がりのなかで、廃棄された養鰻場を水質改善の
ための装置へ転換し、それが色とりどりに咲き乱れる植物園
(温室 )を兼ねる。ガラス張りの家型空間という、養鰻場と温
室のカタチの類縁性を素直に活用した、説得力ある美しい案
である。
(渡辺菊眞)
建築雑誌
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タジマ奨励賞
川村昂大[ 高知工科大学 ]
きるものがあることなどが他の地域の掩体壕とは異なる特徴
である。川村さんはこの7 基を丁寧に観察し、それぞれに適切
な機能を与え、7 基のネットワークによる公園施設を提案し
た。さらに緑化された屋根を付加することで、ランドスケープ
高知県南国市に残る旧帝国海軍高知飛行場の掩体壕は、7 基
がほぼ完全なかたちで残り、全国最大規模のもの、通り抜けで
と一体化するとともに、老朽化した掩体壕の屋根の補強と補
修を行い、新たな風景を生み出している。
(城戸崎和佐)
タジマ奨励賞
2
0
1
4
年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品
杉山雄一郎[ 熊本大学 ] 佐々木翔多[ 同 ]
高尾亜利沙[ 同 ]
熊本市のアーケード街地下に設けられた広大な「暗闇の
シェルター 」に、人々は手に灯りを携えて訪れる。そこでは、本
を読んだり、家族で楽しんだり、友人と過ごしたり、思い思い
にこの空間を利用することができる。暗闇に白い発光体が浮
かぶプレゼンテーションは詩情に れ、極めて魅力的だ。光に
よって構造化され、顕在化していく空間。
「 建築のいのち 」をこ
うした空間生成の瞬間に見いだし、表現として巧みに示して
みせたところにこの作品の秀逸さがある。
(田所辰之助)
タジマ奨励賞
鈴木龍一[ 熊本大学 ] 宮本薫平[ 同 ]
吉海雄大[ 同 ]
建築物を包む部品が廃棄されずにまち中に行き渡り、さまざま
な場を形成しながら新たに利用されるという提案である。こ
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建築雑誌
JABS | Vol.129 No.1664 | 2014.11
の応募作品が示唆するのは、地域の循環のシステムを構築す
る大切さであり、すべての市民による認識であり、
「 もったい
ない 」というわが国が誇るべき心のありようである。固定した
建築に着目するのではなく、取り外された部品に着目し、解体
とともに小さな建築のいのちが誕生し、軽やかに永らえてい
く理想を描いた佳作と言えよう。
(植田曉)
支部入選
北海道支部 * 荘司大幾[ 室蘭工業大学 ]、戸田啓太[ 同 ]、本間大貴
中国支部
[同]
東北支部
* 佐藤孝祐[ 北海道科学大学 ]、長沢麻未[ 北海道大学 ]
* 井料康宏[ 山口大学 ]、三ツ廣紗弥香[ 同 ]、外谷和征
* 遠藤健太[ 宮城大学 ]、藤井藍[ 同 ]、中木亨[ 同 ]、千
[同]
葉和樹[ 同 ]、庄司智之[ 同 ]、後藤沙紀[ 同 ]、大槻優
* 牧佑育[ 近畿大学 ]、藤田敦[ 同 ]、島崎真輔[ 同 ]、奥
花[ 同 ]
村雄[ 同 ]、木尾高朗[ 同 ]
* 萩原千尋[ 秋田県立大学 ]、高橋萌[ 同 ]
関東支部
東海支部
* 宮田真[ 広島大学 ]、黒木香那[ 同 ]
* 齋藤範明[ 千葉大学 ]、岸毅明[ 同 ]
* 地曳弘太[ 日本大学 ]、佐々木皓平[ 同 ]、長良介[ 同 ]
* 塩沢瑠璃子[ 日本女子大学 ]、鈴木多珠奈[ 同 ]
四国支部
* 川端俊輝[ 横国立大学 ]
九州支部
* 市川幸平[ 高知工科大学 ]
* 青木美音[ 九州大学 ]、野口雄太[ 同 ]、前田清貴[ 同 ]
* 市川瑠美[ 千葉大学 ]、平井開汰朗[ 同 ]、藤田由紀
* 西山雄大[ 九州大学 ]、徳永孝平[ 同 ]
[同]
* 寺田友里[ 九州大学 ]、玉田圭吾[ 同 ]、龍澤知佳[ 同 ]
* 小泉恵子[ 神奈川大学 ]、伊藤夏美[ 同 ]、野田雄大
* 深澤尚仁[ 九州大学 ]、藤原和也[ 同 ]、相馬貴文[ 同 ]
[同]
* 鷹取太洋[ 佐賀大学 ]、副田和哉[ 同 ]
* 清水優里[ 豊橋技術科学大学 ]、長谷川有里[ 同 ]、鈴
* 原田良平[ 佐賀大学 ]
木美沙[ 同 ]
* 岩見滉一[ 豊橋技術科学大学 ]、近藤望[ 同 ]
* 荒木和泉[ 熊本大学 ]、合屋友理[ 同 ]、栫愛梨[ 同 ]
* 山田康助[ 熊本大学 ]、岡勇志[ 同 ]、菊池悠伽[ 同 ]
* 山本智慧[ 名古屋工業大学 ]、廣澤克典[ 同 ]
* 有 谷 友 孝[ 熊 本 大 学 ]、河 野 志 保[ 同 ]、宮 崎 友 季
* 足立太一[ 名古屋大学 ]
[ 同 ]、張悦[ 同 ]
* 佐々木歩貴[ 豊橋技術科学大学 ]、冨田恭平[ 同 ]、臼
* 松尾悌弘[ 熊本大学 ]、堀端光[ 同 ]、向吉愛[ 同 ]
山愛弓[ 同 ]、黒川泰正[ 同 ]
* 谷尭洋[ 東京理科大学 ]、小田将司[ 同 ]、五十嵐大輝
2
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1
4
* 内田大資[ 佐賀大学 ]
年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品
井寛弥[ 同 ]、加藤悠貴[ 同 ]
* 大野洋輔[ 豊橋技術科学大学 ]、小笠原聡志[ 同 ]、中
北陸支部
* 平 原 聖 元[ 広 島 大 学 ]、前 田 凌 児[ 同 ]、天 野 真 登
[ 同 ]、奥田美香子[ 同 ]
* 隅 友 輔[ 鹿 児 島 大 学 ]、野 元 麗 生[ 同 ]、和 田 千 弘
[ 同 ]、中原宏達[ 同 ]、岡田帆奈[ 同 ]
* 板部奈津希[ 東海大学 ]
[ 同 ]、小林好輔[ 同 ]
* は代表者
* 南勇次[ 信州大学 ]、高橋拓生[ 同 ]
近畿支部
* 橋本阿季[ 神戸大学 ]、花岡航[ 同 ]、安田諭史[ 同 ]、
曾慧文[ 同 ]
* 坂 本 晃 啓[ 和 歌 山 大 学 ]、関 恭 平[ 同 ]、田 中 克 佳
[ 同 ]、平 田 隆 行[ 同 ]、山 本 満 里 奈[ 同 ]、杉 山 徹
[ 同 ]、竹中匠[ 同 ]
* 塗師木伸介[ 関西大学 ]、草田将平[ 同 ]、川辺隼[ 同 ]
* 赤尾良治[ 大阪工業大学 ]、高橋亘[ 同 ]、中西裕子
[ 同 ]、川並栄[ 同 ]
* 中川寛之[ 神戸大学 ]、加藤実悠[ 同 ]、劉志超[ 同 ]
* 酒井理恵[ 立命館大学 ]、山本裕之[ 同 ]、大藪陽[ 同 ]
* 高橋隼奨[ 大阪工業大学 ]、加藤圭介[ 同 ]、山田広大
[同]
* 袋井咲[ 神戸大学 ]、中村未明[ 同 ]、李厚君[ 同 ]
* 中原大貴[ 大阪工業大学 ]、山田航平[ 同 ]
建築雑誌
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2014 年度日本建築学会技術部門設計競技入選作品
「自然物の優れた力学的特性を取り入れた新たな構造デザイン 」
主催 構造委員会
主旨
社会が経済的合理性を求めると、建築物の構造も経済原理に基づ
に対しても高い再生回復能力を有している。これらは今、建築物に
く画一的な形態に陥りがちである。これはある意味で、目的関数を
求められている新たな機能(例えば、地球環境への貢献や災害時の
絞った最適化とも言えるが、建築物が本来持つべき多様性が損なわ
回復能力等 )の、実現に生かせるものと考えられる。
れているとも言える。建築物の形態や様態は多様であり、それらを
本設計競技では、上述したような自然の優れた特性を取り入れた
限定的合理性のみで定量化しデザインするだけでは不十分である。
新たな建築構造のデザインを求める。構造設計の自由度の向上とと
自然(草木や野生動物など )は多様な機能的要求に応じて、巧みな
もに、美観、施工性等も配慮し、建物に新たな付加価値を付けるデザ
構造デザインを行っている。自然は、高い構造的合理性を保持しな
インを期待する。
がら周辺環境と調和して適切な形態を選択するばかりでなく、損傷
募集内容
①基本的コンセプト、考慮した「自然の優れた力学的特性 」、構造デ
ザインの新規性、が明記されていること。特に、
「 自然の優れた力
年度日本建築学会技術部門設計競技入選作品
2
0
1
4
②デ ザ イ ン さ れ た 建 物 の 構 造 的 合 理 性 の 検 証 が、示 さ れ て い
ること。
学的特性 」が、新たな構造デザインにどのようにつながっている
③建物種別や想定条件は、応募者が自由に設定してよい。
のかが明確に記載されていること。
④すでに実在している建物でも、想定した建物でもよい。
審査員(敬称略、五十音順)
委員長
元結正次郎(東京工業大学/応用力学運営委員会主査 )
委員
伊藤拓海(東京理科大学)
高田豊文(滋賀県立大学 )
新宮清志(日本大学)
竹脇 出(京都大学 )
末岡利之(日建設計)
中村尚弘(竹中工務店 )
高田毅士(東京大学)
緑川光正(北海道大学/構造委員会委員長 )
選考経過報告
(1)第一次審査
(2)第二次審査
全応募は24 作品であった。一次審査会に先立ち、審査員 8 名によ
第二次審査は7 月 8 日に行った。審査員は、1 名の欠席を除く8 名
る事前審査
(各自採点)を行った。事前審査では、各審査員は、
「 考慮
であった。第一次審査から選ばれた8 作品について、応募者による7
した自然の優れた力学的特性と、
その構造デザインとのつながり」な
分のプレゼンテーションと8 分の質疑応答によるヒアリング審査を
ど六つの評価項目に従って基礎評価を行い、その基礎評価を踏まえ
実施した。特に、本設計競技のポイントである、
「 考慮した自然の優
て第二次審査に残したい5 作品に、1 位には5 点、2 位には4 点の順に
れた力学的特性 」と構造デザインとのつながりと、これらへの新た
5 位まで評点を付した。集計の結果、合計 15 点以上が3 作品、7 ∼ 14
な創意・工夫について明確に説明するよう伝え、質疑もこの点が中
点が6 作品、6 点以下が15 作品となった。
心となった。これを受けて議論した後、最優秀作品と優秀作品を選
一次審査会は6 月 10 日に行い、審査員 6 名の出席のもと、上記の集
定するため、各審査員が3 作品を選び、優れたものから3、2、1 点の評
計結果を踏まえて、全 24 作品について1 件ずつ講評を行い、第二次
点を投じた。公平を期すため、発表作品と近い立場の審査員は投票
審査に残すべき入選候補作品について議論した。審査の結果、第二次
から外れることとした。その結果、最も高い12 点を得た1 作品を最
審査の対象として8 作品を選出した。
優秀賞に決定した。次に、4 ∼ 7 点の間に6 作品が集中したが、慎重
に審議のうえ、評点順位に基づく上位 3 作品を優秀賞とし、そのほか
の4 作品を佳作とした。
62
建築雑誌
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総評
本課題は、自然物が有する優れた力学的特性のうちいかなる特性
的存在の建築における可能性について自問自答する作品がなかった
を抽出し、これを建築構造にいかに取り込むかを問うものである。悠
のは残念であった。とはいえ、この問題は荒唐無稽のようでもあり、
久の歴史の流れのなかで自然界においては、極めて長い期間を経た
解答があるとは現時点では思えないのも事実である。自然が今後も
結果として、あるものは不幸にして何らかの不合理のために淘汰さ
われわれの師であり続けることは間違いないようである。
れ、不合理を消化した自然物だけがわれわれの眼前に存在する。こ
自然の優れた力学的特性を取り入れるという課題に対して、
「ヒ
のようなことは自然界のみならず建築構造においても同様であり、
ト」を題材とするのが複数点あった。ヒトは進化論的に言えば進化
時代や地域に適合しない建築構造システムはおのずと淘汰されてき
の頂点に立つ存在であり、最も洗練された自然物であるということ
たと考えられる。例えば、トラス構造はさまざまな形態が当初は提
を意識したためであろうか。ただし、
ヒトが常に優れた存在ではない
案・創生されたが、力学的および経済的合理性のなかで、現在では少
ことは言うまでもない。自然界においては、生物は自然環境に応じ
数の形式のみが淘汰されずに実際の構造に用いられているに過ぎな
て進化してきており、少なくとも水中における覇者はヒトではない。
い。建築様式などが別の地域に伝搬されるときも、単純なコピーと
したがって、ヒトのいかなる点を取り上げるかが論点となる。一方、
して建設されるのではなく、それぞれの地域の環境などに合わせて
ヒト以外の動物としては絶滅した恐竜を取り上げている作品もあっ
カスタマイズされ、時には独自の進化を見せる場合すらある。一方
た。絶滅した種に新たな建築構造の新規性を見いだそうとする姿勢
で、淘汰されるためには長い時間が必要であり、現在の構造システ
に、審査員も自然の偉大さを過小評価していたことに気付かされた。
ムが勝ち残ったものと判断するのは早計であり、後世にまで受け継
二次審査に進んだ応募作品の多くが着目した特性は、自然物が有
がれていくかどうかは現時点だけをみて判断することはできない。
する静的ではなく動的な特性であった。ここでいう動的とは、動力
少なくとも自然物は長い歴史のなかで現在を構築してきたのであ
学というだけではなく変化をも含む。これらの根底にあるコンセプ
る。このような観点から古今東西を問わず、人々は自然を師として
トはスクラップ・アンド・ビルドからの脱却であろう。環境問題を考
崇めてきた。イギリスのロマン派詩人ウィリアム・ワーズワースに
えた場合に、建築こそ環境を破壊する首謀者であるかのような発言
よる「Come forth into the light of things, Let nature be your
がなされるときがある。このような発言にはかなりの偏見も含まれ
てはいると思う一方で、これを真摯に受け止め、安易なスクラップ・
アンド・ビルドや開発を繰り返してはならないことは言うまでもな
ためて学び取り、今後の新たな展開を模索することは常に重要であ
い。環境あるいは状況の変化に適応して変化する能力を題材とした
ると考える。今回の課題で期待していた特性のひとつとして、自然
応募作品は、このような課題に対する挑戦として評価に値する。自
物が有する回復能力あるいは治癒能力が挙げられるが、これを建築
然物の適応能力をいかに建築構造に取り入れ表現するかは、今後も
構造に積極的に取り入れることに挑戦した応募作品は少なかった。
大きな課題であろう。
力学的特性という言葉から、自己再生能力を有する建築という観点
最後に、本設計競技に多くの方々から積極的な提案をいただいた
を消去したためもあろうが、植物の高い再生能力をもたらす幹細胞
ことに心から敬意を表する。
提案名
最優秀賞
Tyrano Structure
年度日本建築学会技術部門設計競技入選作品
teacher.」の言葉は特に有名である。急激な進歩を成してきた建築
構造においても今一度ここで、自然物の優れた力学的特性からあら
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(元結正次郎 )
提案者
望月英二[ 竹中工務店 ]
・鈴 木 庸介[ 同 ]
・水島靖典[ 同 ]
・車創太
[同]
優秀賞
樹幹の建築
石山達士[ 竹中工務店 ]
・平林聖尊[ 同 ]
・千賀英樹[ 同 ]
・石田高義
[同]
・南谷知輝[ 同 ]
・鶴ケ野翔平[ 同 ]
躯体可変
─変化を受け入れる HUMANOID STRUCTURE ─
佐々木 聡[ 清 水 建 設 ]
・竹 内 信 一 郎[ 同 ]
・安 達 一 喜[ 同 ]
・南 部 紘
[同]
・佐藤彰[ 同 ]
・稲葉秀星[ 同 ]
・稲垣啓輔[ 同 ]
・吉田伊織[ 同 ]
・
水口朝博[ 同 ]
・西野安香[ 同 ]
継時的変化に追従する構造システム
松土智史[ 大成建設 ]
・上田恭平[ 同 ]
・阿部祐一[ 慶應義塾大学 ]
─変形する外皮による大きな壁─
佳作
人がヒトの中に住まう
石井歩[ 北海道大学 ]
・経沢一平[ 同 ]
・永岡灯[ 同 ]
TWISTrong
浜田英明[ 法政大学 ]
・川久保俊[ 同 ]
・中出慧[ 同 ]
─ねじって強くする─
PineCone
三村卓矢[ 日本大学 ]
・野田りさ[ 同 ]
・川岸梅和[ 同 ]
─環境に適応して変化する複合的構造デザイン─
波を包み込む根
渡部真彰[ 新潟大学 ]
・岩佐明彦[ 同 ]
・佐藤博迪[ 同 ]
建築雑誌
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最優秀賞
Tyrano Structure
望月英二[ 竹中工務店 ] 鈴木庸介[ 同 ] 水島靖典[ 同 ] 車創太[ 同 ]
本案は、考慮した自然の優れた力学特性としてティラノサ
ウルスを取り上げたところに意外性があり、これをロッキング
構造として建築構造に展開している点に興味を惹かれた。ティ
ラノサウルスは、前傾させた胴体と巨大な尾を水平に保って
バランスさせ、重心を2 本の脚の上部に位置させることで安定
した高速の移動を可能にしているという。上部構造を支持す
る樹形状の柱は、走るティラノサウルスの2 本脚を上下逆さま
にした機構である。ロッキング構造の地震時応答は、上部構造
が浮き上がった状態と着座状態で異なる振動系になるため、
年度日本建築学会技術部門設計競技入選作品
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浮上りと着座を繰り返すたびに異なる二つの振動系の過渡応
答が交互に生じる強非線形現象であり、共振あるいは共振に
近い状態が生じにくい特徴がある。
本案はこの特徴を巧みに利用した構造であり、構造的合理
性とともに構造デザインの新規性も有している。さらに、脚の
靱帯を模した機構を付加して過大外乱による崩壊を防ぐこと
で構造全体に冗長性を持たせていることも加点理由となった。
多くの審査員から高い評価を受けた最優秀賞にふさわしい提
案である。
(緑川光正)
優秀賞
樹幹の建築
石山達士[ 竹中工務店 ] 平林聖尊[ 同 ] 千賀英樹[ 同 ] 石田高義[ 同 ] 南谷知輝[ 同 ] 鶴ケ野翔平[ 同 ]
本案は、樹幹内部の成長速度の違いによって心材部または
辺材部において圧縮あるいは引張応力がそれぞれ発生してい
ることに着目し、これを建築構造に応用することで力学的合理
性が得られることを提案したものである。具体的には、建物中
央部に圧縮力を、外皮部分に引張力を負担する構造要素を配
置したうえで、外皮の構造要素に初期張力を導入することに
よって当該構造要素の圧縮力発生を抑制しようとするもので
ある。その結果として、スレンダーな部材でファサードを形成
することが可能となるとしている。それぞれに対して、実現可
能であると思わせる説明がなされている。
樹幹を題材とした発想や論理的展開は評価されるが、これを
具象化したときの有り様が既存の建物を彷彿させる点、および
水平力作用時に外皮部分に圧縮力が作用したときの冗長性に
ついての見解がなかった点が残念であった。 (元結正次郎)
年度日本建築学会技術部門設計競技入選作品
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優秀賞
躯体可変─変化を受け入れる HUMANOID STRUCTURE ─
佐々木聡[ 清水建設 ] 竹内信一郎[ 同 ] 安達一喜[ 同 ] 南部紘[ 同 ] 佐藤彰[ 同 ] 稲葉秀星[ 同 ] 稲垣啓輔[ 同 ] 吉田伊織[ 同 ] 水口朝博[ 同 ] 西野安香[ 同 ]
本案は、
「 ヒト 」の体の心棒であるフレキシブルな関節を有
する「背骨 」と「肋骨 」、それを取り巻き補助する「筋肉 」の機
能を用いて、変化する空間構成の要求に対し、建物自体が可変
して対応するという提案である。可変した空間構成に対して、
主に「背骨」が静的に安定した形状に変化することで、構造的
にも、合理性のある構造を提供するというしっかりしたコン
セプトを持ち、また支持材の「背骨 「
」 肋骨 」はユニット化され
た部材として、その細部にまで及ぶ検討がなされており、高い
評価を受けた作品である。
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地震や風荷重の水平外乱に対しては安定感に欠けるという
印象が拭えず、
さらなる構造的合理性を有した可変形態の提示
がなかったのが残念であった。しかしながら、建物外周に張り
巡らした「筋肉 」なるテンション材と、建物基部に配置したア
クチュエーターによって制御するというもので、まさに動物
としての人の体のシステムを現代の技術を駆使して忠実に再
現しうると思わせる計画であった。優秀賞にふさわしい提案
である。
(末岡利之)
優秀賞
継時的変化に追従する構造システム─変形する外皮による大きな壁─
松土智史[ 大成建設 ] 上田恭平[ 同 ] 阿部祐一[ 慶應義塾大学 ]
本案は、
「 自然の優れた力学的特性 」を「外部環境の変化に対
する適応能力」ととらえ、外力の変化に適応して自己の形態が
自律的に変形する構造システムを提案したものである。具体
的には、負のポアソン比を持つフレームと、重なり枚数によっ
て剛性が変化する板構造を併用させることにより、部材配置
の粗密が鉛直荷重の状態に応じて自律的に変化する外皮構造
システムを提案している。
「 負のポアソン比 」という特異な性
質を持つシステムを、建築構造に積極的に取り入れようとす
る挑戦的姿勢には好感が持てる。
ただし、
この構造システムが変動の少ない鉛直荷重に対して
のみ適用され、
より変動の大きな水平荷重は在来のコア構造に
負担させている点や、荷重レベルの大きな部分には部材が移
動して密に配置されるが、部材の総量は増加しないために想
定される荷重に対して許容応力度以下になるかは保証されな
い点など、やや消化不良あるいは検討不足の部分も見られ、審
査員の高評価は得られなかった。しかし、全体としては本会技
術部門設計競技の優秀賞にふさわしい秀作である。
(高田豊文)
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佳作
人がヒトの中に住まう
石井歩[ 北海道大学 ] 経沢一平[ 同 ] 永岡灯[ 同 ]
提案名は、人間が認識している自分自身の存在を「人 」、自分
自身でありながら未知なことも多い内部構造やメカニズムの
総体を「ヒト」として対比させ、後者から学んだ構造デザイン
作品であることを表している。具体的には、自然の力学特性と
して、
「 ヒトは最も重要な部位である頭部を、足元からの振動
から守るため背骨を持っている 」ことに着目し、頭部を居住空
間とし、背骨を変形に対して適応力の高い多層免震構造に置
換し、さらにヒトの腕ふりに対応する制振装置を付した構造を
提案している。
審査員からは、
「 頭部を振動から守るのは主に足腰ではない
か」
「 建物がトップヘビーで、足元の構造が厳しいのではない
か」等の指摘もあった。しかし、自然から学ぶものと、構造デザ
インのつながりがわかりやすく、全体としてうまくまとめら
れている点が評価され、佳作となった。
(中村尚弘 )
年度日本建築学会技術部門設計競技入選作品
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佳作
TWISTrong ─ねじって強くする─
浜田英明[ 法政大学 ] 川久保俊[ 同 ] 中出慧[ 同 ]
従来の建築構造デザインにおいては、ねじり現象はできるだ
け排除され、製作が容易であることが求められる。しかし、本
案では、形態としての「ねじれ 」を積極的に取り入れた「ねじ
れ組柱 」を提案している。提案の背後には、単純で応力状態も
明快なものをよしとする従来の構造設計基本原理ではなく、
自然物の成立・成長原理に基づいていると思われる。結果とし
て、自然に倣えば複雑な形態のなかに力学的合理性が高い解
が存在しうることを示唆しており、本設計技術競技の主題に
つながってくる。提案のねじれ組柱は座屈耐力の向上が実現で
きるほか、引張り、曲げやせん断特性なども従来部材にはない
特長的な性質を有するものと期待でき、さらなる興味が湧く。
本案で提案されているねじれ組柱は、極めて簡単な直線部
材から成り立ち実現の可能性が高く、さらに複雑な部材概念に
拡張できそうで極めて魅力的である。作品では、植物園を有す
るオフィスビルに適用しているが、空間の軽快さは表現され
ているものの、もっと大胆な空間実現への挑戦がほしかったと
(高田毅士 )
ころである。
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佳作
PineCone
─環境に適応して変化する複合的構造デザイン─
三村卓矢[ 日本大学 ] 野田りさ[ 同 ] 川岸梅和[ 同 ]
本案は、
「 松ぼっくり 」の優れた特性を構造デザインに取り
入れたオリジナリティに溢れた力作である。松ぼっくりは種
子を雨から守るため、部屋の役割を果たす鱗片を閉じ、乾燥す
ると再び開く特性を持っている。この特性は一般にはあまり
知られていない。状況に応じて機能や形態を自由に変えるこ
とが可能な松ぼっくりの特性を活かして、時間の流れのなか
で人・活動・空間の相互浸透関係を形成し、水害・津波等の災害
時には身を守るシェルターの役割を果たすデザインとしてい
る。また、災害発生後も避難活動・交流活動を支援するコミュ
ニティ空間を提供している。つくり出される八角形の平面か
らなる空間は、かさを支える片持ち梁をベースとし、すべての
部屋を閉じた場合に十分な強度を兼ね備えたシェル構造に変
化・融合することで、新たな複合的構造デザインを生み出す可
能性を秘めている。津波などの災害時への建築計画的・構造的
な側面からの現実的な対応や、可動性の検討など、今後のさら
なる展開・発展が期待される。
(竹脇出 )
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佳作
波を包み込む根
渡部真彰[ 新潟大学 ] 岩佐明彦[ 同 ] 佐藤博迪[ 同 ]
本案は、マングローブの密集した間を波が通過する際、多数
の小さな渦が発生し、波のエネルギーが消耗される消波メカ
ニズムをヒントに構想された。また、マングローブの根には、
板根、膝根、支柱根などがあるが、これらの根の特徴を構造物
の柱に活かして、消波システムを構築しようとするものであ
る。すなわち、マングローブの根の部分の消波メカニズムに着
目して、低層の消波堤を提案したものである。
自然のマングローブの有する消波メカニズムに着目したと
ても面白い発想に基づく提案で、デッキの高さより低い波高の
津波の場合には、かなりの効果が考えられる。しかし、波高の
高い津波が襲来した場合には、①対処(デッキと地盤の間にい
る人々の避難など )が困難であろうし、②越流した波により逆
に町の被害が増大しないか、③多層化は困難であること、など
の問題点がある。以上から、結果的にあまり高い評価に至らな
かったと考えられる。
(新宮清志 )
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