2015 年度支部共通事業 日本建築学会設計競技入選作品 『 もう一つのまち、もう一つの建築 』 全国審査は、各支部に応募された281 作品のなかから選ばれた支 2 次審査会(9 月 4 日 )は、大会会場(東海大学 )において公開で開 部入選 63 作品を対象に行われた。 催された。 1 次審査(8 月 4 日 )は、全国入選候補 12 作品のノミネートとタジ 各賞は、ノミネート 12 作品のプレゼンテーションが行われたの マ奨励賞 8 作品を選考した。 ち、白熱した審査が行われ、決定した。 全国審査部会 審査委員長 審査員 石田敏明[ 前橋工科大学教授 ] 岩田三千子[ 摂南大学教授 ] 赤松佳珠子[ シーラカンスアンドアソシエイツ代表取締役/ 竹内徹[ 東京工業大学教授 ] 法政大学准教授 ] 三谷徹[ 千葉大学教授 ] 鰺坂徹[ 鹿児島大学教授 ] 横山天心[ 富山大学講師 ] 全国入選者 年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品 2 0 1 5 最優秀賞 近畿支部 奥野智士ほか2 名 佳作/タジマ奨励賞 近畿支部 片岡諒ほか4 名 優秀賞 東海支部 小野竜也ほか2 名 九州支部 市川雅也ほか2 名 タジマ奨励賞 北陸支部 河口名月ほか3 名 中国支部 上東寿樹ほか3 名 優秀賞/タジマ奨励賞 佳作 近畿支部 中馬啓太ほか2 名 九州支部 武谷創 近畿支部 相見良樹ほか8 名 東海支部 直井美の里ほか1 名 東海支部 村山大騎ほか1 名 中国支部 西村慎哉ほか2 名 関東支部 市川雅也ほか1 名 北陸支部 大村公亮 北陸支部 藤江眞美ほか1 名 関東支部 宮垣知武 審査総評(審査委員長 石田敏明 ) 建築は社会動勢と常にリンクしながら、つくられ続けられ ています。終戦からわずか20 年足らずの1964 年に東京オリ ンピックが開催されました。この時代、わが国は首都圏をはじ め、地方まで劇的に大きな社会の変化を経験しました。首都圏 では首都高速道路や東海道新幹線の開通、幹線道路などの巨 大インフラ整備や代々木屋内競技場など土木・建築の技術を 表現したダイナミックで力強いデザインが特徴でした。急速 な経済発展により地方から都市への人口移動や自然と建造物 とのあり方、車社会の到来や移動時間の短縮などにより、見慣 れた風景が激変した時代であったと言えます。言い換えれば、 価値観の尺度が変わり、それまで大切にされてきたかけがえの ない文化や風景が失われていった時代であったとも言えるで しょう。それから丁度、半世紀が経ち、地球規模で環境の時代 を迎えています。SF のように50 年前にタイムスリップして、 その時代、選択したのとは別の選択をしたならば、現在のよう 50 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 な均質な風景ではない建築的風景ができていたのかを見てみ たいと思い、 「 もう一つのまち・もう一つの建築 」という課題と しました。ですから、今からでもできそうな再開発による新し いまちの姿を求めたわけではありませんでした。 全国審査は支部入選の63 作品を対象として7 名の審査員に よる審査を行いました。概観すると水路や湖水などモチーフ とした水系、植生などの生態系、産業遺産系、生活としての伝 統文化系、まちの形成過程を問うなどのさまざまな視点からの 構想案でした。公開審査では事前に選出された12 作品につい て、それぞれプレゼンテーションが行われた後、個々の作品に ついて審査員との応答を行い、3 回の投票と議論の結果、最優 秀賞 2 点、優秀賞 4 点、佳作 6 点が選出されました。最優秀賞は 1 点か2 点か議論がありましたが、構想力、表現力には差がない と判断し2 点としました。いずれの案もレベルが高い伯仲した 内容であったことを報告します。 最優秀賞 奥野智士[ 関西大学 ] 寺田桃子[ 同 ] 中野圭介[ 同 ] かつて、まちの中心であった井路は、農業の衰退とともに埋 められて道路となり、断片的に残った井路には雨水が溜まる のみとなっていった。水位の変化、生態系、井路と建築との関 係性などを丁寧に拾い上げ、解決策を織り込んだ提案は、時代 の変化に応じて更新していく中にあっても井路のある暮らし が持続できるシステムの提案であり、50 年前に立ち戻るから こそ見えてくる、 もう一つのまちの姿をとらえた魅力的な作品 として、最優秀賞にふさわしいとの高い評価を受けた。 (赤松佳珠子) 年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品 2 0 1 5 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 51 最優秀賞 小野竜也[ 名古屋大学 ] 蒲健太朗[ 同 ] 服部奨馬[ 同 ] 亜炭抗跡がある岐阜県御嵩町は、操業時に掘削された空洞 により、地盤陥没を引き起こす可能性が高い地域である。本計 画では50 年前にさかのぼり、積層する炭坑跡を貫通するよう に大きな杭を設けることで、地盤沈下を防いでいる。さらに、 炭坑の空洞を活用しながら地上まで展開する大きな吹抜け空 年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品 2 0 1 5 52 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 間を設け、その周りを主たる公共の場とし、それらを炭坑路 でリンクさせることで、中山道の町並みを保持した点が評価 された。 (横山天心) 優秀賞 市川雅也[ 立命館大学 ] 松﨑篤洋[ 同 ] 廣田竜介[ 同 ] 福岡博多を題材として、人と水が最高の状態で共存する優 れた提案である。博多の地形を読み込み、原型に抗わない方法 で日常的に建築・都市に雨水を溜め、リング状に都市を潤すオ アシスをつくる。大雨のときに れる雨水はこのリングに溜 められ、人を脅かす存在とはならない。そこには、博多っ子が 憩い、集まり、活気づく様子を思い描くことができる。さらに、 際立った表現力によって、水と共存する心地よい空間が創出 されている。 (岩田三千子) 年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品 2 0 1 5 優秀賞 中馬啓太[ 関西大学 ] 銅田匠馬[ 同 ] 山中晃[ 同 ] 5 ∼ 7 階間の中間層に『立体容積率 』を設定することで、中間 層に外部空間を生み出すシステムの提案は、建物が更新され ていっても変わることのない大きな骨格をこの街に与えてい く。ふとオフィス街を見上げたら、楽しそうなアクティビティ に れる外部空間が広がっていた。50 年前に都市に埋め込ま れた『立体容積率 』という仕掛けがあれば、そんなもう一つの まちの姿が現れていたかもしれない。新しい都市空間のあり 方の可能性を提示してくれた秀作である。 (赤松佳珠子) 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 53 優秀賞/タジマ奨励賞 相見良樹[ 大阪工業大学 ] 廣田貴之[ 同 ] 藤岡宗杜[ 同 ] 磯崎祥吾[ 同 ] 藤井彬人[ 同 ] 足立和人[ 同 ] 中山敦仁[ 同 ] 木原真慧[ 同 ] 相川美波[ 同 ] 神戸新開地は、かつては映画館、演芸場、飲食店が軒を連ね る神戸最大の歓楽街であった。しかし、映画館最盛期を経て、 高度経済成長期の神戸の街の変化と、娯楽の多様化により50 年前ころには市民の足も少しずつ遠のいていた。そのディープ なまち、新開地に古くから根ざしていた演劇の精神にスポッ トを当て、人と人とのつながりを演出し、まちを進化させるこ とを提案している。課題に正面から取り組んだことについて も高く評価された。 (岩田三千子) 年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品 2 0 1 5 優秀賞/タジマ奨励賞 村山大騎[ 愛知工業大学 ] 平井創一朗[ 同 ] 日本の木材需要が衰退せずに栄えていたら、四百年続いた 名古屋の白鳥貯木場が残り、今は汚れた川となってしまった 堀川に、筏師のいる風景があるのではないかという提案はわ かりやすかった。パースの表現力に、審査の過程では多くの票 54 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 が入り、最終的に学部生の作品とわかり、大変驚いた。悔やま れるのは、貯木場近くには、木材を製材する工場が立地するは ずであるが、 それらの建築的提案が見られずランドスケープの 提案に留まってしまった点である。しかし、水空間の提案とし (鰺坂徹) て、力の入った秀作として評価したい。 佳作 市川雅也[ 立命館大学 ] 寺田穂[ 同 ] 魅力的な空間として表現されており、緑と水のプレゼンテー ションが印象に残った作品である。最終的には月島、晴海周辺 が、自然堆積と浄化、温暖化によりマングローブの公園になる 東京にある多数の大学キャンパスを公園化し再配置、それ らをネットワークでつなぐ提案で、高架橋の交通システムも ようだが、現在魅力的な月島のまちなみがなくなるのは残念 であるとともに、50 年前に大学の新増設を規制した工業等制 限法等に立ち返り語ってほしかった。 (鰺坂徹) 佳作 大村公亮[ 信州大学 ] 佳作 藤江眞美[ 愛知工業大学 ] 後藤由子[ 同 ] この提案は、一瞬、加賀の柴山潟を埋め立てなかったらとい う内容に見えてしまうが、 「 リセットするのでなく、今の生活・ 2 0 1 5 年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品 ベビーブームより建設された学校が、現在の少子化の影響 で廃校になり、特に地方都市においてはその再利用方法が定 まらないことが問題となっている。学校が計画された時点に 立ち戻り、グランドを中心に敷地周辺に蛇行する動線空間が、 他の施設と外部空間を取り込みながら周辺部へと溶け込むよ うな魅力的な建ち方を提示した点は評価されたが、現在でも 同様な状況をつくり出せることが、本課題の提案としては物 足りなさを感じてしまう。 (横山天心) 状況を整え、あったであろう姿を想像する 」と記されていると おり、50 年前に必要とされた水田は確保しながら、もう一つ の「水辺の干拓 」のあり方を提示している。ヨシを使った葦輪 による浄化や、現状の問題点からフィードバックした「外堀干 拓 」は、サステナブルでよく考え抜かれたアイデアである。 「失 われた音風景の復活 」という一行を読むと、まるで描かれた水 面が波打ち始め、 その光景が浮かびあがるようなプレゼンテー ション力も評価したい。 (鰺坂徹) 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 55 佳作 宮垣知武[ 慶應義塾大学 ] 建築計画が人間の利便的都市生活のためだけのものではない ということである。東北の曲り家、白川郷の合掌造り、その形 態美は、他生物との共存がもたらす美である。さらに本案は、 修景緑化に堕してきた都市緑地の構造も問い直す可能性を秘 養蜂が建築を変え、都市構造をも変える。そんな期待をさせ る美しいプロジェクトである。近代建築が忘れたもの、それは めていた。審査委員にさまざまな期待を抱かせた作品である。 (三谷徹) 佳作/タジマ奨励賞 片岡諒[ 摂南大学 ] 長野公輔[ 同 ] 藤原俊也[ 同 ] 妹尾さくら[ 同 ] 岡田大洋[ 同 ] 年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品 2 0 1 5 われわれは過去のどこか一点で、何か大きなひとつの間違い を犯したのではない、小さな見過ごしの蓄積が歴史を変えてし まう、そう本案は主張する。傾斜地集落を対象とする数多くの 案が、空間形式や景観要素に着目するのに対し、本案は、住人 の人的関係の維持が空間デザインであるとしている。問題は、 建築の制度や様式にあるのではなく、世界に対する価値観にあ る、 そのような示唆が高く評価された作品である。 (三谷徹) 佳作/タジマ奨励賞 河口名月[ 愛知工業大学 ] 大島泉奈[ 同 ] 鈴木来未[ 同 ] 沖野琴音[ 同 ] 河口の手前で北西に大きく曲がる富山県氷見市の湊川は、 陸運の発達による水運の衰退と大雨の時の氾濫対策として、そ の主流はそのまま、北東に延長するように護岸工事が行われ た。この提案は、50 年前にさかのぼり、湊川を水運の経路とし て保存し、かつ漁船の作業小屋と市民の交流スペースを湊川に 浮かして設けることで、山間部と海岸部との結び付きをより 一層強化するとともに変化に富んだ魅力ある水際の景観をつ くり出している点が評価された。 (横山天心 ) 56 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 タジマ奨励賞 上東寿樹[ 広島工業大学 ] 赤岸一成[ 同 ] 林聖人[ 同 ] 平田祐太郎[ 同 ] 広島県呉市堺川周辺にかつて活況を呈していた屋台を呼び 戻し、駅南側に移動してしまったにぎわいを蔵元通りに取り 戻そうという提案である。現在、公園化している川辺に、仮設 屋台を収納する屋台蔵やイベントを行える大屋根を配し、季 節と時間帯に応じた「にぎわいのたね 」を演出する試みは、建 築作品としての目新しさはあまりないものの、温かいスケッ チの表現と共に情緒のあるやすらぎを感じられる作品となっ (竹内徹) ている。 タジマ奨励賞 武谷創[ 九州大学 ] 2 0 1 5 年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品 衰退しつつある地方都市の商店街アーケード上に小学校を 建設したら、という野心的な試みである。もっとも商店街の上 に小学校がある必然性や、商店街との相互作用が十分に説明 されているとは言い難い。しかし、空き地になってしまった広 場をギャラリー化し、これを見下ろす渡り廊下をつくったり、 図書館を共有したり、畑をつくったりと建築的な見せ所が多 く、商店街が学校に置き変わっていくプロセスの提案ととら (竹内徹) えると面白い作品である。 タジマ奨励賞 直井美の里[ 愛知工業大学 ] 三井崇司[ 同 ] 本計画は、建設されたものの開通することがなく名古屋市 内 3 区にまたがり残された未成線高架上を緑化し、緑道に沿っ た水場や畑を配するとともに、高架下を風の通るデッキとし て利用することで地域の施設として生まれ変わらせたら、とい う提案である。撤去困難な高度成長期の負の遺産を公園化し、 前向きに生かそうというアイデアは意義深く、 「 なぜ実際にや らないのか 」と思わせるリアリティが高評価を得た作品と言 えよう。 (竹内徹) 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 57 タジマ奨励賞 2 0 1 5 西村慎哉[ 広島工業大学 ] 阪口雄大[ 同 ] 岡田直果[ 同 ] という提案である。改修された建物に対する具体的なプログラ 高齢化が進み、空き家が増えることで失われていく広島市西 区草津の伝統的な街並みを保存するために、住手のいなくなっ を取り払いデッキで一体化させていくことで、空間が一体化さ れていく様子が上手に表現された作品である。 (竹内徹) た住宅をオープン化・公共化し、伝統とにぎわいを取り戻そう ムの提案にはやや物足りなさを感じるが、各住戸の低層部の壁 年度支部共通事業日本建築学会設計競技入選作品 支部入選 北海道支部 庄野航平[ 早稲田大学 ] 近畿支部 中川寛之[ 神戸大学 ] 北海道支部 塚越竜也[ 室蘭工業大学 ]、桂田啓祐[ 同 ]、王ハンユ 中国支部 宮田真[ 広島大学 ]、關和也[ 同 ]、黒木香那[ 同 ] [ 同 ]、櫻井太貴[ 同 ]、竹内香澄[ 同 ] 中国支部 伊藤千智[ 東北工業大学 ] 関東支部 竹村涼[ 千葉大学 ]、村田早矢斗[ 同 ]、渕野駿[ 同 ] 中国支部 吉永沙織[ 日本女子大学 ]、高藤万葉[ 同 ]、 関東支部 吉村亮毅[ 東北大学 ]、塩田佑太郎[ 同 ] 中国支部 岩本彩花[ 山口大学 ]、石橋凪砂[ 同 ]、山内康平[ 同 ] 関東支部 金子眞央[ 千葉大学 ]、榎本恭子[ 同 ]、久野未理[ 同 ] 四国支部 宮川馨平[ 高知工科大学 ] 関東支部 冲中翼[ 早稲田大学 ]、佐々木健[ 同 ]、新庄沙紀[ 同 ] 四国支部 三輪幸佑[ 高知工科大学 ] 関東支部 辻佳菜子[ 東京理科大学 ]、中村美香[ 同 ]、坂田達郎 四国支部 大道直紀[ 高知工科大学 ] 九州支部 百田直美[ 有明工業高等専門学校 ] 九州支部 坂本明文[ 佐賀大学 ]、安武佑馬[ 同 ] 九州支部 髙須八千代[ 鹿児島大学 ] 九州支部 長崎春奈[ 九州大学 ]、高橋昂平[ 同 ]、下村帆美[ 同 ]、 [同] 関東支部 進藤英明[ 東京理科大学 ]、山岸隆[ 同 ]、五十嵐大輝 [ 同 ]、本山真一朗[ 同 ] 関東支部 小幡泰章[ 芝浦工業大学 ]、伊藤信舞[ 同 ] 関東支部 齋藤直紀[ 東京理科大学 ] 関東支部 小 田 将 司[ 東 京 理 科 大 学 ]、仲 尾 梓[ 同 ]、濵 本 清 佳 [同] 北村晃一[ 同 ] 九州支部 [同] 佐々木 翔 多[ 熊 本 大 学 ]、持 留 将 志[ 同 ]、清 家 知 充 [同] 関東支部 古田博一[ 日本大学 ]、久保京介[ 同 ] 九州支部 仲浩慶[ 佐賀大学 ]、日髙祐太朗[ 同 ] 東海支部 山本雄一[ 豊田工業高等専門学校 ] 九州支部 荒牧優希[ 佐賀大学 ] 東海支部 廣澤克典[ 名古屋工業大学 ] 九州支部 内田大資[ 佐賀大学 ] 東海支部 小林洵也[ 名古屋工業大学 ] 九州支部 本幸世[ 熊本大学 ]、有光史弥[ 同 ]、林原孝樹[ 同 ] 東海支部 永井翔大[ 名古屋大学 ]、平松祐大[ 同 ] 九州支部 髙橋秀和[ 熊本大学 ]、坂田純一[ 同 ]、佐藤瑞記[ 同 ] 東海支部 小笠原聡志[ 豊橋技術科学大学 ]、臼井寛弥[ 同 ] 九州支部 江上史恭[ 崇城大学 ]、太田康介[ 同 ]、船津明[ 同 ]、 北陸支部 井上修[ 千葉大学 ] 北陸支部 古川茉莉子[ 金沢工業大学 ]、鎌田真輔[ 同 ] 近畿支部 竹川康平[ 神戸大学 ]、森下孝平[ 同 ] 近畿支部 弘田竜一[ 大阪工業大学 ]、中西裕子[ 同 ]、足立和人 [ 同 ]、木原真慧[ 同 ]、藤岡宗杜[ 同 ]、 58 山本秀人[ 広島工業大学 ]、田中奈生耶[ 同 ]、佐藤宏美 東北支部 近畿支部 廣田竜介[ 立命館大学 ] 近畿支部 山口昇[ 京都工芸繊維大学 ] 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 徐浩然[ 同 ]、金泰宇[ 同 ] 九州支部 中野雄貴[ 九州大学 ]、伊藤杏里[ 同 ]、谷口和広[ 同 ]、 前野眞平[ 同 ]、 九州支部 金子美奈[ 熊本大学 ]、宮元薫平[ 同 ] 九州支部 加藤壮馬[ 熊本大学 ]、吉海雄大[ 同 ] 九州支部 林孝之[ 九州大学 ]、森隆太[ 同 ]、石本一貴[ 同 ]、遠 藤由貴[ 同 ] 2015 年度日本建築学会技術部門設計競技 『自然光を積極的に利用したサステナブル建築の「 かたち 」』 主催 環境工学委員会 主旨 ある特定の設計要素に着目して建築設計を進めていけば、しばし らです。しかしながら、光は可視光と同時に熱負荷をもたらすこと ば建築の新しい「かたち」を産み出すことができると言われます。注 から、安易に自然光を取り入れることは、逆にエネルギー消費を増 目すべき設計要素はさまざま考えられ、環境要素も注目すべき設計 やしかねません。サステナブル建築を実現するためには、多面的な 要素のひとつですが、国際連合で宣言された「2015 年光および光技 評価が欠かせないことになります。 術の国際年」 ( IYL2015 )に呼応する意味も込めて、ここでは自然光 自然光を積極的に利用した建築には、町家のように坪庭を有効に の積極的な利用を取り上げます。自然光を積極的に利用しようと一 活用した住宅、ハイサイドライトや反射ルーバーを活用したオフィ から設計を進めると、建物の方位、開口のとり方、光をとり入れる仕 ス、天窓や頂側窓を積極的に利用した図書館や体育館、幕の拡散光 組みなどによって、自然光がもたらす光環境が大きく変化すること によって外光をとり入れた競技場などが考えられ、建物の規模や用 に気付き、建築そのものの「かたち」を再検討しなければならないこ 途によって、自然光の利用の仕方にはさまざまなバリエーションが とに気付くことでしょう。 ありえます。設計者のアイデアの幅を広げるため、これらの設定は 自然光を積極的に利用することはまた、サステナブル建築につな 自由とします。この設計競技が、新たな建築のあり方を考えていく がると考えられます。電灯照明に依存する時間帯を減らすことがで きっかけとなれば幸いです。 き、一日当たり、一年当たりの電力消費量を減らすことができるか 2 0 1 5 募集内容 ブル建築の「かたち 」が明記されていること。特に、自然光の利用 年度日本建築学会技術部門設計競技 ①基本的コンセプト、考慮した自然光を積極的に利用したサステナ ②自然光以外の温熱環境や電力消費量などの環境要素に関しても考 慮されていること。 が、新たなデザインにどのようにつながっているのかが明確に記 ③建物種別や想定条件は、応募者が自由に設定してよい。 載されていること。 ④すでに実在している建物でも、想定した建物でもよい。 審査員(敬称略、五十音順) 委員長 羽山広文(北海道大学) 幹事 加藤未佳(金沢工業大学) 委員 岩田三千子(摂南大学) 中村芳樹(東京工業大学 ) 金田充弘(東京藝術大学) 藤本壮介(藤本壮介建築設計事務所 ) 重村珠穂(アルゴリズムデザインラボ) 山梨知彦(日建設計 ) 田辺新一(早稲田大学) 選考経過報告 (1)第一次審査 (2)第二次審査 全応募は46 作品であり、第一次審査を7 月 16 日に行った。審査員が 第二次審査は建築学会大会(関東 )2 日目、9 月 5 日(土 )午前 10 時 応募内容の①∼④の項目ついて全作品の評価を行ったうえで、各自 25 分から13 時 00 分にかけて公開で行った。出席者は発表者も含め 5 作品を選び1 ∼ 5 点の総合評価を行った。その結果、8 作品を入選 約 60 名、審査員は1 名の欠席を除き8 名で行った。第一次審査で選 候補として選定した。 ばれた8 作品について、くじ引きにて順序を決めたうえで、応募者に よる7 分間のプレゼンテーションを行い、その後 4 分間の質疑応答 を実施した。全体質疑・講評の後、別室にて審査員の協議により順位 を決定した。 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 59 総評 第 17 回となった今回の技術部門設計競技は、国際連合で宣言され を思い出させてくれる巧みな提案であった。 た「2015 年光および光技術の国際年」 ( IYL2015 )に呼応する意味 特に、既存の建物の減築を行うことで、路地にできる「ひだまり」 も込め、 「 自然光の積極的な利用」を取り上げ、自然光を積極的に利 を創出し、その特長をスタディした作品が目を引いた。自らを犠牲 用し、さらに温熱環境や電力消費量などの環境要素も考慮したサス にして公共に資する共用空間創造の着想は、少子高齢化時代のひと テナブル建築を実現する「かたち」の提案を広く本会会員に問うた つのテーゼにもなりうると感じた。実現には多くの課題を解決しな ものである。 ければならないが、サステナブル建築の奥深さと将来性を知ること 応募された作品は、①応募者が対象の条件を設定したもの、②応 になった。 募者の設計による既築あるいは計画中のもの、③具体的な適応対象 一方、緻密なシミュレーションを元に、合理的な計画を実現させ を明確にせず構成材などの技術的要素を提案したもの、④屋外空間 た提案も多く見られた。単なる人工照明のエネルギー消費量削減だ へ適用したものなど、幅広い分野にまたがっていた。一次審査では、 けでなく、刻一刻と移り変わる照度・輝度分布や色温度の変化を楽 可能な限り幅広い分野から入選候補作品を選出した。 しむ空間として巧みに実現した提案は、自然光を活用したサステナ 自然光は、場所・季節・時刻により変化する。また、雲や湿気によっ ブル建築実現のお手本ともなっている。 てもその量が異なる。それが自然の摂理である。今回応募された作 今回の設計競技は、自然光を生活空間に利用するに当たって、既 品を見てみると、シミュレーションにより侵入する太陽光が空間内 存の概念にとらわれないアイデアを求めたものである。これに応 の位置と時刻で変化する様子を克明に把握し、それに適したライフ え積極的な提案を多数いただいたことに対し、応募者各位に心より スタイルを提案しているのが多かった。また、温度や湿度で変化す 敬意を表すとともに、建築の技術部門の発展に寄与することと思っ る植物の自然の機能を活用し、日射量と換気量を変化させる試みに ている。 (審査委員長 羽山広文 ) も感心させられた。あたかも人間は自然の一部として存在すること 年度日本建築学会技術部門設計競技 2 0 1 5 提案名 最優秀賞 ひだまりの差出人 提案者 伊原さくら [ 早稲田大学 ] ・永野仁志 [同] ・牟田神遼平 [同] ・濱島啓彰 [同] ・若山麻衣 [同] 優秀賞 大きなタープの下で 飯山千里 [ 飯山千里建築設計事務所 ] ─空とつながる 「かたち」─ 白夜の家 池川隼人 [ 早稲田大学 ] ・万木景太 [同] 反復する切妻屋根のオフィス 内藤誠人 [ フリーランス] ─空間と光を調整する逆さ切妻天井─ 佳作 時間と寄り添う暮らし 佐藤広章 [ 早稲田大学 ] ・木村由佳 [同] ・高橋蓮 [同] ・西川友英 [同] アルヴァ・アアルト住宅 3 作品の分析を通して Dancing Leaves ひかりで呼吸する建築のかたち 及 川直哉 [清水建設] ・細 川 良 太 [同] ・油 野 球 子 [同] ・大 泉 修 [同] ・多井慶史 [同] ・伊藤靖 [同] ・生駒和也 [同] ・笹部和代 [同] BUBBLE LIGHT WINDOWS 日読みのカーテン 奥野幹 [ ムーフラットデザイン] 前川朋子 [ 早 稲田大 学 ] ・飯 嶋 美 希 [同] ・渋 谷 彩 音 [同] ・松田萌 [同] 60 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 最優秀賞 ひだまりの差出人 伊原さくら[ 早稲田大学 ] 永野仁志[ 同 ] 牟田神遼平[ 同 ] 濱島啓彰[ 同 ] 若山麻衣[ 同 ] 日本には木造住宅密集地が多く残る。それらの地域では火 作品が自然環境を享受するのは、 その対象となる建築すなわち 災や震災に対してどのように対策すればよいか検討されてい るが、ほとんどは負の要素を取り除こうとするものである。本 作品は住宅密集地における気持ちのよい「ひだまり」に注目し て、事例を採取するとともに、その改善に役立てることができ ないかを検討したものである。ひだまりを実現するために環境 シミュレーションを用い、数値的に配置や住宅形状の最適化を 計画しようとしている。自然光と風が環境要素として取り上げ られている。場合によっては住宅の減築も行われている。他の 自分だけであるのに対して、周囲の敷地や建築、人々に「ひだ まり」のよさを分かち合おうと差し出すという発想が高く評 価された。この考え方は、日本的な環境建築の持つ原点ではな いかと考えられる。今後、火災危険性などの検討と錬成させれ ば、新たな対策の手法にもなる可能性がある。一次審査では決 して高得点を得た作品ではなかったが、公開審査において、真 摯に説明を行い、質疑応答をする姿勢が良かった。図面中の母 親に宛てた手紙に関しては賛否両論があった。 (田辺新一) 年度日本建築学会技術部門設計競技 2 0 1 5 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 61 優秀賞 大きなタープの下で ─空とつながる「かたち 」─ 飯山千里[ 飯山千里建築設計事務所 ] 近くに川が流れる、緑と空に囲まれた閑静な住宅地に、この 住宅がある。大きなタープのような屋根は、古代の催事建築を 思い起こさせるようなインパクトのある形である。しかし、そ の形の必然性は、施主である60 代夫婦の「明るい室内にした い」 「 健康寿命を延ばし 」 「 エアコンに頼らないサステナブルな 家」といった要望に応えるためであった。屋根裏の厚い空気層 は、冬には屋根が温まると暖気が床下へと運ばれ室内に吹き 出す仕組み。井戸水を散水するスプリンクラーが屋根上にあ り、夏には気化熱で家を冷やす。スプリンクラーの水や雨水は 樋に集まり、やがてレンガのガーゴイルから滝のごとく流れ 落ちる。太陽光パネルと太陽熱温水器などの機械的な設備は、 屋根に隠されて周囲からの目線には入らない。室外から続く 天井の曲面は、高窓を通して自然光をとり入れ、反射光を家の 奥まで届ける。季節や時間によって変化する明るさと、空気の 流れに応じて、人は快適な場所・空間に移動する。古代建築を 思い起こさせる屋根は、自然光と共に暮らす古代人のような 生活を、現代の家に再現したのかもしれない。まだ庭の樹木は 育っていないが、やがてこの家が林の中にたたずむ「かたち」 となることを期待している。 (岩田三千子) 年度日本建築学会技術部門設計競技 2 0 1 5 [ 撮影:鳥村鋼一 ] 62 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 優秀賞 白夜の家 池川隼人[ 早稲田大学 ] 万木景太[ 同 ] 白夜をテーマにして、その特有な自然現象がもたらす光環境 のシミュレーションから形態を生成しようとした提案である。 地軸が23.4 度傾いていることで、北極や南極では夏期にな ると太陽が終日沈まない「白夜 」と呼ばれる現象が起こること はよく知られている。この終日太陽が沈むことない環境の中 で、窓の形状、建物全体の形状、そしてプランニングを工夫す ることで、人間の生活リズムに合わせた明るさや暗さをつく り出そうという試みである。 最初期に着想されたドーム型の形状の3 次元モデルをコン の形状の中にもたらす光環境をシミュレーションし、イメージ との差を修正するために形状を楕円形に変更していくプロセ スは、マニュアル操作の形状への反映が介在してはいるもの の、きちんとしたフィードバックループが見て取れ、コンピュ テーショナルなデザイン手法の正当な適用が実現されている。 残念なのは、最終的に紡ぎ出された形状が、ともすれば初期 段階でコンピュテーショナルな手法が介在する以前の段階で 想像されたものを大きく超えるものではなく、予定調和の域 を超えられなかったことであろうか。 (山梨知彦) ピュータのなかのバーチャルな空間の中に構築し、白夜がそ 年度日本建築学会技術部門設計競技 2 0 1 5 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 63 優秀賞 反復する切妻屋根のオフィス 内藤誠人[ フリーランス ] ─空間と光を調整する逆さ切妻天井─ 本案は、金融機関であるがゆえに自由な側窓の設置が適わ ない制約を逆手に取り、切妻屋根のデザインを用いて、大変美 しいトップライトを導入した作品である。手法は奇を衒うで もなく、華美でもなく、極めてシンプルであるが、室内にとり 込まれる昼光が、切妻屋根を模した天井に張られた膜によっ て、変動を受け入れながらも、柔らかく穏やかに空間を満たす 様が目を引く。直射日光による高輝度部を室内に生じさせな い工夫が、低照度でも明るいという印象を生み出している点 も興味深い。偶発的に生じたかに思える昼光による光の偏在 も、シミュレーションによる検討から室の用途と連動させ、開 放的な印象であるべき場所と閉鎖的な機能を求められる場所 の配置に反映させている点も評価できる。 この美しい空間の印象を導く要因のひとつに、天井に人工 照明の存在を感じない点が挙げられる。天井膜でその姿を隠 し、面で光を空間に与えたことで、明るさ感の向上に寄与する とともに、日中と夜間の光の分布の連続性を保っている。 実設計であるが故の制約のなかで、光に真摯に向き合う姿 勢を随所に感じ、今後の昼光設計にひとつの解を提示しうる ものと思われる。優秀賞にふさわしい秀作である。 (加藤未佳) 年度日本建築学会技術部門設計競技 2 0 1 5 [ 撮影:上田宏 ] 64 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 佳作 時間と寄り添う暮らし アルヴァ・アアルト住宅 3 作品の分析を通して 佐藤広章[ 早稲田大学 ] 木村由佳[ 同 ] 高橋蓮[ 同 ] 西川友英[ 同 ] 本案は、自然光を利用した既存の美しい建築のエッセンスを 抽出し、新たな空間づくりに取り入れようとする、光と人と建 築の「かたち」の関係性に真摯に取り組んでいた作品である。 抽出したエッセンスから自然光を利用した空間構成を考え、 シミュレーションを行い、結果値を読み取り、空間構成を修正 し、さらにまたシミュレーションを行う、という手順をフィー ドバックし続けて、 「 かたち 」を模索するという非常にハード ルの高い挑戦であり、好感が持てる。 もとから「かたち 」が出来上がっていたり、華やかな外装シ ステムや美しいCG イメージで終わらず、自然光と「かたち 」 の模索に正面から挑戦した実直な作品である。 用途や敷地が具体的なため、現実的な問題が多く見え、エッ センスの抽出や形状に落とし込むという個々の手順のクオリ ティやアウトプットは至らないと感じた。手順を深く掘り下 げれば、想像を超えた「かたち 」を発見できた可能性がある。技 術設計コンペということもあり、実直に挑戦した地道な作品 にも光を当てたいと思い選出した。地道な手順を通じて、環境 に配慮した想像以上の美しい建物の「かたち 」にたどり着けれ ばどれだけ面白いかと、その姿勢を評価した。 (重村珠穂 ) 年度日本建築学会技術部門設計競技 2 0 1 5 佳作 Dancing Leaves ひかりで呼吸する建築のかたち 及川直哉[ 清水建設 ] 細川良太[ 同 ] 油野球子[ 同 ] 大泉修[ 同 ] 多井慶史[ 同 ] 伊藤靖[ 同 ] 生駒和也[ 同 ] 笹部和代[ 同 ] 本案は、 「 松かさ」が環境条件によって形態変化することに 着想を得た提案で、発表会のプレゼンのなかでモックアップを 使った実演を行い、会場を大いに沸かせた意欲作である。乾燥 収縮率の異なる二つの木材を圧着し、光と水という環境要素に よって反り返る“ バイウッド ”を開発し、それをアウターとイ ンナーの2 層構成とすることで、環境の変化に応じて自然光と 風の流れを制御するアイデアは明快だ。しかし、それを実現す ることの難しさは誰にも容易に想像がつき、実演でバイウッド があっという間に反り返っていく姿に驚きの声があがった。 自然界で長い時間を通して進化してきた仕組みには、 「意 匠」「 、 構造」「 、設備」といった人間が勝手に定義した分野の境 界は存在しない。空間・環境・構造などを有機的に融合した新し い建築が、実作でも増えてくることを予感させる提案であった。 バイウッドによる内外の緩やかなセパレーションが、薄い ファサードによって隔てられる現代的な建築の範疇に収まっ ているのが少し残念に思えた。よい着想は一発勝負ではなく、 しつこく改良を重ねて、本当に新しい建築のかたちを探し当 ててほしい。 (金田充弘 ) 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11 65 佳作 BUBBLE LIGHT WINDOWS 奥野幹[ ムーフラットデザイン ] 自然の光を利用した建築の形といわれると、多くの人が同 じような発想をする傾向があり、正直なところ、ほとんどの提 案は型にはまった発想が多かった。しかし本提案は、提案者が いうような光環境が本当に実現するのかという疑問も含めて、 議論を誘発する提案であった。時刻、季節、天候によって止ま ることなく変化する自然光を生かすには、まずは頭で考えるよ り、いろいろな思いつきに過ぎないようなアイデアを実際につ くってみて、光や、光によって照らされたものの見え方が、ど のように展開するのかをじっくり観察するのがよい。しかし、 その観察で見つけたアイデアを実際の光環境に展開するには、 光の知識に基づいた吟味が必要となる。おそらくビー玉から 連想したであろう本提案は、アイデアを論理的に吟味して展開 する過程が不足していた。例えばガラス玉は、球体の内部が均 一の屈折率であることによって意外な光を生み出すが、提案 のものでは、球体に入った光は、球面内部の鏡に反射したうえ で小さな開口を通して室内に導入されていて、これでは質の悪 い積分球と同じで、ビー玉を見たときの意外な光の効果はほと んど発生しないように思われた。残念である。 (中村芳樹 ) 年度日本建築学会技術部門設計競技 2 0 1 5 佳作 日読みのカーテン 前川朋子[ 早稲田大学 ] 飯嶋美希[ 同 ] 渋谷彩音[ 同 ] 松田萌[ 同 ] ほかの多くの案が光と環境を「制御する」ためのさまざまな 建築的工夫に満ち れていたなかで、 この案のポジテヴィブな 「受け身」の姿勢が際立っていた。その場所に起こっているこ とを、受け入れ、寄り添い、楽しむこと。そのために建築にでき ることは、場所に固有の光環境や温度環境のかすかな揺らぎ を少しだけ増幅し、私たちの日々の生活に居場所の多様性を 生み出すことである。日差しのかすかな変化や空気の流れ方、 何歩か歩いて離れただけで変化する室温を感じ取り、 その移ろ いを慈しみ、自然との無言のコミュニケーションそのものが生 活の豊かさとなるような場所をつくり出す。そこには、住み手 の創造的な受け身の姿勢が提案されている。自分の思いどおり の場所をつくってその自分の思いどおりという「狭い」世界の 中で過ごすのではなく、世界の多様性や変化や意外性に驚き、 そこに新しい楽しさや豊かさを見つけ出していくという住み 方は、機能主義を脱した私たちの、これからの時代の住み方の 価値観になっていくにちがいない。そのとき、建築はただ消え ていってしまうのではないはずだ。その新しい価値観を体現す るような、どんな新しい建築が生まれてくるのか、その先を創 (藤本壮介) 造させてくれる提案だった。 66 建築雑誌 JABS | Vol.130 No.1677 | 2015.11
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