「Java & .NET 技術で構築した PDP 第 4 ライン IT システム」 - パイオニア

特集
情報処理
「Java & .NET 技術で構築した PDP 第 4 ライン IT システム」
The Information Technology System for the Number Four PDP line based on Java & .NET technology
河 野 滋,大 塚 雅 之,志 村 友 紀
Shigeru Kono, Masayuki Otsuka,
Yuki
Shimura
野 々 口 徹,澤 登 達 也,平 井 良 和
Toru
要
旨
Nonoguchi,
Tatsuya Sawanobori, Yoshikazu
Hirai
今回,新たに建築された P D P 新プラントにおいて,最新の J a v a & . N E T 技
術で構築した P D P 第 4 ライン I T システムの設計,導入を行った。これにより,パネル
生産プロセスの可視化,品質情報トレーサビリティの確立を実現した。
Summary
W e designed and implemented a new Information Technology System based on con-
temporary Java .NET technology for the Number Four line in our new PDP plant. Therefore, we have
achieved the visualization of the panel production process and the traceability of quality information.
キ ー ワ ー ド : J a v a ,J 2 E E ,. N E T ,サーバーサイド,統合データベース
1 . まえがき
キーとした情報検索)
現在,量産が開始されている P D P 第 4 ライン
を情報システムの基本コンセプトとし,「 P D P 第
は,年間 3 0 万枚のパネル生産を可能とするライ
4 ライン I T システム」 として設計から導入まで
ンとして,その設計,生産導入が行われてきた。
を行ってきた。
その実行計画の中では,「 I T ライン( 装置・ 材
本稿では上述したコンセプトを実現するため
料・ 生産物流・ 仕掛・ 品質) 」 としてのさらなる情
に今回新たに導入した「 J a v a & . N E T 技術で構
報システムの進化が,ライン構築の K e y ポイン
築したサーバサイド・ アーキテクチャー」 を中心
トとしてあげられている。
に P D P 第 4 ライン I T システムの概要を述べる。
今回,我々は第 3 ラインまでの情報システム
2. システム全体像
を見直し,
・ ユビキタス・ ユーザ・ インターフェースによ
P D P 第 4 ライン I T システムは,ライン監視シ
る情報の可視化( インターネット基盤技術
ステム・ 工程管理システム・ 計測情報照会システ
によるどこでも情報アクセス)
ム・ P H S 障害通知システムの 4 サブシステムを中
・ パネル品質情報トレーサビリティの確立
心に構成されている。第 3 ラインまでは,サブ
( データベースの統合およびパネル N o . を
システム別にシステム開発が行われたこともあ
- 55 -
PIONEER R&D Vol.15 No.1
り,データが複数のデータベースに蓄積されて
3 . サーバサイド・ システムの採用
いた。今回,コンセプトであるパネル単位での
本 I T システムで採用したサーバサイド・ シ
トレーサビリティを確立するためにデータベー
ステムを説明する前にこれまでの情報システ
スを統合し,情報を一元化した。図 1 にシステ
ムの推移について述べる。
まず,図 2 にメインフレーム・ システムを示
ムの全体像を示す。
データベースの統合により,各サブシステム
す。これらは情報システムの初期から採用さ
が統合データベースを中心としたアプリケー
れたアーキテクチャーであり,主に企業の基
ションとなり,相互アクセスが容易となり,各
幹システムで現在も利用されている。
サブシステム間での情報の一致が確立された。
利点としては,アプリケーションおよび
図 1 で,情報の流れを説明するとまず,生産
データのすべてがメインフレーム側に配置さ
装置,検査装置から送られてくる情報は 2 つの
れているためバージョンアップなどの管理が
情報( それぞれデータフォーマットを定めた) に
容易である。
集約している。
また,欠点としては,メインフレームのハー
一つは主に装置の稼動情報であり,これらは
ドコストが高い,文字ベースの画面表示で,マ
P L C からのリアルタイム情報収集に適した C C -
ウスなどを用いてのグラフィカル・ ユーザ・ イ
L I N K ネットワーク経由で統合データベースに
ンターフェースの実現が難しい。専用の端末
集められる。二つ目は主にパネル N o にリンク
( パソコン) を必要とするなどがある。
した計測情報( 検査データ,レシピ,材料情報
次に 1 9 8 0 年頃から採用され始めたクライア
など) であり,これらは Ethernet − LAN 経由で
ント / サーバ・ システムを図 3 に示す。これら
同じく統合データベースに集められる。
は,主にデータはデータベースに蓄積し,アプ
図 1
PIONEER R&D Vol.15 No.1
システム全体像
- 56 -
リケーションはパソコン側で実行するタイプで
合,プログラムをすべてのクライアント( パソコ
あり,パソコンのアプリケーション特有のマウ
ン) に再インストールする必要がある,パソコン
スを用いた,カラーグラフィックスを利用した
の C P U および O S のバージョンによっては動作が
G U I ( グラフィカル・ ユーザ・ インターフェース)
遅い,または動作しないなどが発生し,システ
を実現した。
ム管理が難しいなどがある。
欠点としては,プログラムの変更があった場
図 2
そこで,上記,双方の利点を活かす形でのシ
メインフレーム・ システム( 1 9 5 0 年代∼)
(情報システムの推移)
図 3
クライアント / サーバ・ システム( 1 9 8 0 年代∼)
(情報システムの推移)
- 57 -
PIONEER R&D Vol.15 No.1
ス テ ム 構 成 と し て , 図 4 の サ ー バ サ イ ド ・ シス
システムのタイプで作られており,工程管理系
テムが 2 0 0 0 年頃提案され,徐々に利用される
の サ ブ シ ス テ ム が 図 1 の メ イ ン フ レ ー ム ・ シス
ようになってきている ( 1 ) 。
テム( パソコンを専用端末として利用) タイプを
これらは別名,3 階層システムと呼ばれ,
採用してきた。
データはデータベース・ サーバに蓄積され,ア
そこで,我々は今回の基本コンセプトであ
プリケーションはアプリケーション・ サーバに
る,「 ユビキタス・ ユーザ・ インターフェースによ
置かれる。かつインターネット基盤技術を利用
る情報の可視化」 を実現するには,図 3 のサーバ
することによりパソコンであれ,携帯であれ,
サイド・ システムが最適と考え,システムの基本
インターネットが見られる環境であれば端末と
アーキテクチャーとして全面的に採用した。
して利用可能となる。また,当社のようにすで
これにより,これまでサブシステムごとに別
にインターネット網が社内に整備されている場
の端末,別のアプリケーションで利用していた
合はそれらのインフラをそのまま変更なく,コ
ものを一つの端末,一つのメインメニューから
ストをかけずに利用できる。
利用可能となった( これまでは,工程管理シス
また,すべてのアプリケーションがメイン
テムは A 端末,ライン監視システムは B 端末と
サーバの中で動作するわけではないため,本シ
機能ごとに複数の端末を利用する必要があっ
ステムのように複数のサブシステムが存在する
た) 。さらに本システムでは P H S 端末から各装
場合にも比較的安価なアプリケーションサーバ
置情報にアクセスすることも可能となった。
を増やすことにより負荷の分散が可能となり,
セキュリティ面では,ユーザ I D ,パスワード
メインサーバをかつてのメインフレームクラス
管理をしているのは当然として,製造管理者,
ではなく,比較的安価なミニコンクラスでシス
オペレータ,技術,システム管理者にユーザを
テム構築が可能となる。
階層化し,オペレータにはシステムへの最低限
これまで,P D P のシステムでは,装置管理系
のアクセス権を,管理者には経理処理などの許
サブシステムが図 2 のクライアント / サーバ・
可を与える仕組みを組み込んでいる。また,イ
図 4
サーバサイド・ システム( 2 0 0 0 年代∼)
(情報システム構成の推移)
PIONEER R&D Vol.15 No.1
- 58 -
ンターネット技術を採用しているが,社内のイ
・ パネル生産実績( 入庫,振替,廃棄) 情報を
ントラネット内でのアクセスのみが可能なシス
経理システムへ通知
テムであり,外部からの進入は出来ない。ま
・ パネル良品率のリアルタイム表示およびパ
た,例えお気に入りなどに利用画面をセットし
ていて直接任意のページへ飛ぼうとしても,各
ネル実績集計をグラフ化表示
を実現している。システムの構成を図 5 に示す。
サブシステム利用ごとにユーザ I D , パスワード
工程管理システムはサーバサイド・ システム
を入力しない限り,任意の画面へ飛ぶことは一
実現にあたり,Java 技術を利用している。Java
切出来ない仕組みとなっている。
技術( J 2 E E ) はサーバサイド・ システムでの実績
が多くあり,今回の統合データベース・ サーバ
4. 各サブシステムの概要
である AS/400(IBM 社製)との親和性もあるため
次に各サブシステムの概要を述べる。
に本 I T システムに採用した ( 2 ) 。
4.1
工程管理システム
また,具体的な利用ツールとして,工程管理
工程管理システムは,パネルの進捗管理を行
う。主な機能として,
では,I B M 社製のアプリケーションサーバ
W e b S p h e r e を,ライン監視システムでは,装置
・ リアルタイムな工程進捗状況を,工程別,
ロット別,パネル N o . 別に検索
レームワークとして横河電機社製の V D S をそれ
・ 装置からの判定情報通知によるパネル状態
( O K ,不良,保留) 管理の自動化
図 5
状況のリアルタイム・ グラフィック表示用フ
ぞれ採用したが,ともに J a v a 技術を基盤にし
ており,オープンシステムである J a v a システ
工程管理システム
- 59 -
PIONEER R&D Vol.15 No.1
ムは,別企業,別アプリケーション間でも問題
4.3
なく稼動する。
計測情報照会システムは主に収集した計測情
4.2
ライン監視システム
計測情報照会システム
報( 検査データ,レシピ,材料情報など) を簡単
ライン監視システムは装置状態を管理する。
に検索し,装置別トレンド情報をグラフ化す
る。また日毎,ロット別生産実績表の作成など
主な機能として,
・ 工程単位での各装置のリアルタイムな稼動
を行う。
システムの構成を図 7 に示す。検索,グラフ
状態をグラフィカル表示
・ 装置グラフィック上での装置トラブル検知
化した情報は,エクセルファイルとしてユーザ
のパソコンへダウンロードすることが出来る。
およびトラブル履歴の表示
・ パネル投入計画設定および投入制御
これらのデータはエクセルを利用してユーザに
・ 装置レベルでのパネル仕掛り状況の把握
より自由にカスタマイズが可能となる。この機
・ 装置の稼動履歴管理
能を実現するために本サブシステムはマイクロ
がある,システムの構成を図 6 に示す。図 6 に
ソフト社の . N E T 技術を採用している。. N E T 技
示すように装置の状況をリアルタイムにグラ
術はこのようにエクセルファイルなどのグラフ
フィカルに表示する。これらのユーザインター
化などのリッチクライアント機能には最適であ
フェイスをサーバサイド・ システムで構築でき
り,かつサーバサイド・ システム構築も可能で
たので,第 3 ラインまでは特定の端末でしか表
あるため本サブシステムで採用した。
示出来なかった装置状況を事務所の各担当者の
4.4
パソコン上で見ることが可能となった。
P H S 警報障害通知システムは装置異常,警報
図 6
PIONEER R&D Vol.15 No.1
P H S 警報障害通知システム
ライン監視装置の構成
- 60 -
図 7
計測情報照会システム
を担当者へ通知するシステムであり,該当担当
今回,J a v a
&
. N E T 技術を用いたサーバー
者が不在の場合は,上位担当者への通知へとエ
サイド・ アーキテクチャーにより,今回の情報
スカレーションを行う。通知後の現場での装置
シ ス テ ム の 基 本 コ ン セ プ ト で あ る ,「 ユ ビ キ タ
メンテ時にメンテ開始,メンテ終了を P H S から
ス・ ユーザ・ インターフェースによる情報の可視
行うことにより装置稼動履歴としての分析が可
化」 ,「 パネル品質情報トレーサビリティの確立」
能となる。
を実現できた。
以上が本システムの主機能である。
これらの技術は,セキュリティ上の許可があ
ればイントラネット上の,どこからでも利用が
5. まとめ
可能なため,本システムは,山梨工場だけでな
我々は,これらの I T システムを各生産
く静岡工場の関係部門での利用が行われてい
フェーズごとに順次導入を行ってきた。特にラ
る。今後の情報システムはグローバル生産を前
イン立ち上げ時に必要な計測情報については,
提としたシステムを構築していく必要があり,
テスト生産開始前までにシステムを準備し,プ
本システム構築で得られた技術,ノウハウを今
ロセスエンジニアに対して情報提供を行ってき
後も利用していきたいと考える。
た。これにより,今回の P D P 第 4 ラインの早期
6 . 謝辞
立ち上げに貢献できたと考える。
また,第 4 ライン量産開始までに,量産に必
今回の情報システムの設計にあたり,第 3 ラ
要な主機能はすべて稼動しており,実際に本
イン立ち上げ時にも関わらず,全面的に協力し
I T システムを前提とした P D P 生産,日々の装置
ていただいた静岡工場の情報システムメン
改善,プロセス改善業務が行われている。
バー,とりわけ現在,東北パイオニアにおられ
- 61 -
PIONEER R&D Vol.15 No.1
る伊藤氏( 旧姓,牧氏) にはシステム検討時に毎
大 塚
雅 之 ( おおつか
まさゆき)
所属: D P C 経営管理部
週のように打合せに参加し,意見をいただき,
入社年月: 1 9 8 1 年 4 月 H E C 所沢入社
感謝します。
主 な 経 歴 :1 9 9 1 年 1 1 月 よ り P V C に て デ ィ ス
ク管理業務に従事。その後,P D P 管理業務
参
考
文
献
を経て
2 0 0 3 年 4 月より D P C にて P D P 第 4 ライン情
( 1 ) 米持幸寿: 「 かんたんサーバーサイド
J a v a 」 ,翔泳社
報システム開発業務に従事
志 村
( 2 ) インターネットフォーラム : 「 J a v a を紐
友 紀 ( しむら ゆ う き )
所属: D P C 経営管理部情報システム二課
解くための重点キーワード」 @ I T )
入社年月: 1 9 8 7 年 4 月
主な経歴: パイオニアビデオにて,光ディス
商標に関して
ク情報システムの開発業務に従事。甲府地
区のネットワークインフラ業務を担当。
“J a v a ”およびすべての J a v a 関連の商標およ
びロゴは S u n
2 0 0 3 年 4 月より D P C にて P D P 第 4 ライン情
M i c r o s y s t e m s , I n c . の米国お
よびその他の国における商標または登録商
報システム開発業務に従事
野 々 口
標です。
徹 ( ののぐち と お る )
所属: D P C パネル生産技術部
“. N E T ”およびすべての . N E T 関連の商標およ
びロゴは M i c r o s o f t
入社年月: 1 9 8 3 年 4 月
C o r p o r a t i o n の米国お
主な業務: 光ディスク生産技術業務に従事。
よびその他の国における商標または登録商
標です。
1 9 9 9 年 2 月よりパネル生産技術に従事。
澤 登
“W e b S p h e r e ” の 商 標 お よ び ロ ゴ は I B M C o r -
達 也 ( さわのぼり た つ や )
所属: D P C パネル生産技術部
p o r a t i o n の米国およびその他の国におけ
入社年月: 1 9 9 0 年 4 月
る商標または登録商標です。
主な業務: 光ディスク生産技術業務に従事。
“V D S ”の商標およびロゴは横河電機株式会
社の商標または登録商標です。
2 0 0 3 年 5 月よりパネル生産技術に従事
平 井
良 和 ( ひらい
よしかず)
所属: D P C パネル生産技術部
筆 者
入社年月: 1 9 9 1 年 4 月
主な業務: 光ディスク生産技術業務に従事。
河 野
滋 ( こうの
しげる)
2 0 0 2 年 1 1 月よりパネル生産技術に従事
所属: D P C ( パイオニアディスプレイプロダク
ツ) 経営管理部
入社年月: 1 9 8 1 年 4 月 入社
主な経歴: 技術研究所にて磁気ヘッドの研究
開発を担当。1 9 8 4 年 4 月,パイオニアビデ
オにてレーザディスク開発業務に従事,そ
の後,L D , C D , D V D ディスク生産ネットワー
クシステム開発業務を経て 2 0 0 3 年 4 月よ
り D P C にて P D P 第 4 ライン情報システム開
発業務に従事
PIONEER R&D Vol.15 No.1
- 62 -