福の神 大集合!

はっ せん
李鉄拐/漢鍾離/呂洞賓/藍采和/韓湘子/何仙姑/張果老/曹国舅を
八仙
一般的な組み合わせとする、道教の仙人を代表する8人。「八福神」と
呼ぶこともあります。唐代の詩人、杜甫は、同時代の名だたる酒豪8人
(賀知章/汝陽郡王李 /李適之/崔宗之/蘇晋/李白/張旭/焦遂)を八仙
になぞらえて、「飲中八仙歌」を作りました。どちらの八仙も画題とし
て好まれました。
30 飲中八仙図巻
林探叔(1719∼?)筆
紙本着色 巻子装
縦 29.3 横 532.1cm
江戸時代
黒田資料
ふく
かみ
え び
福の神 大集合!
会期:2014年12月2日(火)∼ 2015年2月1日(日)
会場:古美術企画展示室
31 張果老・花鳥図 三幅対
狩野探幽(1602-1674)筆
絹本墨画淡彩 掛幅装
縦107.3 横47.1 cm
江戸時代
黒田資料
32 大江山酒天童子絵巻
紙本着色 巻子装
縦33.5 横238.4cm
江戸時代
太田コレクション
33 鍾馗図
佐野龍雪(生没年不詳)筆
紙本墨画 掛幅装
縦30.8 横40.2cm
江戸時代
黒田資料
34 福女鬼女図
仙厓義梵(1750-1837)筆
紙本墨画 掛幅装
縦28.0 横36.4 cm
江戸時代
太田コレクション
35 島物耳付茶入 銘「福神」
陶器/高さ7.3 胴径7.3cm
タイ 16-17世紀
黒田資料
1 蛭子神図 三幅対のうち
狩野安信(1614-1685)筆
絹本着色 掛幅装
縦104.7 横42.0cm
江戸時代
太田コレクション
2 恵比寿図
斎藤秋圃(1769-1861)画
仙厓義梵(1750-1837)賛
紙本着色 掛幅装
縦37.8 横45.7 cm
江戸時代
三宅コレクション
だいこくてん
もとはヒンドゥー教の破壊神、マハーカーラ。マハー
大黒天
は「偉大な」、カーラは「暗黒」の意味。つまり「大黒」とは、
中国仏教においてそのまま漢字に訳されたもの。日本では神仏
おお くにぬしのかみ
習合によって日本固有の神である大国主神と結びつけられたこ
とで、破壊神としてではなく、財福や豊穣をつかさどる神とし
て長く親しまれ、米俵に乗り、袋を背負い、小 を手にする独
特の姿となりました。
福は内、鬼は外
どれだけ福の神にお願いしても、そう簡単に幸福はおとずれません。
招福の妨げとなるあらゆる事柄を象徴する存在が「鬼」です。鬼を退治
することの難しさは、福を招くことの難しさでもあり、鬼を恐れれば恐
れるほど、幸福というものの有り難さを真に実感することになります。
「桃太郎」の鬼ヶ島の鬼とならんで有名な鬼が、京都・丹波の大江山
しゅてん どう じ
に住んでいたという酒天童子です。この鬼を、源頼光をはじめとする猛
とぎ
者たちが退治に行くお伽話を描いたのが出品32の作品です。子どもの
姿をかりて人々をさらっては食べていたこの鬼が、やがて正体を現しま
がいせん
す。激闘の末に酒天童子を討ち取った頼光一行が、都に凱旋する場面で
締めくくられています。
このように悪の象徴として描かれることの多い鬼ですが、その極悪非
道な側面が転じて、魔除けあるいは招福につながる利益をもたらすとさ
しょうき
れる鬼もいます。その代表格が鍾馗。唐代の玄宗皇帝が病床でみた夢に
現れた話は有名です。このとき鍾馗は宮廷内の小鬼を食べ、自分が先帝
への恩に報いるために現れたことを玄宗に告げました。目覚めると玄宗
の病は治っており、感じ入った玄宗は鍾馗の姿を絵師に描かせた、とい
います。官人の衣装で、長い髭をはやし、剣をもつその姿は、鍾馗の姿
の典型となっています。
す
日本神話に登場する「蛭子神」に起源するとされる、
恵比寿
七福神の中では唯一の日本固有の神様です。七福神に取り込ま
れる前から、大黒天とともに二福神として信仰されることもあ
りました。釣り竿と鯛を持っているのが特徴で、「商売繁盛」、
り やく
「五穀豊穣」のご利益があるとされます。
出品 19 三福神図 英一蝶(1652-1724)筆
しわす
一年をじっくりふりかえる余裕もなく師走を過ごし、年末年始のわず
かな休暇も公私の諸事が気になって、新年の抱負を決める間もなく御用
始め。機械文明がどれだけ発達したところで、浮世に生きる私たちの心
身の忙しさは変わりません。日々の営みにつきまとう苦しみや悩みも減
るどころか、むしろ増えているような気さえします。
福をもたらすとされる神々の存在は、そんな私たちをいつも優しく包
んで下さいます。たとえ信心はなくとも、その優しさや有り難さに、私
たちは感謝し、そして何かを祈ります。私は「苦しい時の神頼み」ばか
りですが、そうして畏れながら掌を合わせる時、福岡市美術館の収蔵庫
に鎮座する神々のお姿が心に浮かび、自然と希望が湧いてくるのです。
古美術作品に表現されたその神々のお姿を、多くの方々にご覧いただ
きたく、この展覧会を企画しました。皆様にとって、新年も素晴らしい
一年でありますように。 (学芸員 後藤 恒)
七福神 降臨!
しち ふくじん
まずは日本の福の神を代表する七福神にご降臨いただきましょう。七
福神は、日本固有の神(恵比寿)、インド由来の神(大黒天/弁財天/
毘沙門天)、中国由来の神(布袋/福禄寿/寿老人)で構成されています。
古来、大陸文化を柔軟に採り入れてきた日本において、外来の神々をた
くみに組み合わせ、室町時代から江戸時代にかけて確立、定着した神々
です。
福岡市美術館
解説
第222号
古美術
3 大黒天図 三幅対のうち
狩野安信(1614-1685)筆
絹本着色 掛幅装
縦104.7 横42.0cm
江戸時代
太田コレクション
べんざいてん
弁財天
もとはヒンドゥー教の女神、サラスヴァティー。バラ
モン教の聖典では、川を神格化した豊穣の女神として登場し、
のちに創造神ブラフマー(梵天)の妻となりました。仏教に
「弁才天」として取り入れられ、主に学問、知識、音楽の神と
して崇められました。日本では中世以降、次第に財宝神へと変
容。「才」の字は「財」をあてることが一般的になり、弁財天
をサポートする十五童子とともに表現されることもあります。
4 弁財天十五童子図
紙本着色 掛幅装
縦67.5 横35.3cm
江戸時代
東光院仏教美術資料
5 【特別出品】 弁財天像
蝋人形/幅150.0cm
現代
個人蔵
出品5は、弁財天を造形した「蝋人形」の珍品です。先頃閉
館した嬉野観光秘宝館の旧蔵品。七福神の紅一点である弁財天
は、その華やかなお姿が見所でもあるのですが、あいにく当館
にはその魅力を充分に絵画化あるいは造形化した所蔵品があり
ません。そこで今回特別に、
このお像にご光来いただきました。
華やかさを超越したリアルな艶めかしさに、さぞ驚かれたこと
と思います。蝋人形の素材は、蜂蜜の巣を原料とする「蜜蝋」
に様々な薬品を加えたもので、人間の肌に近い質感を出します。
また体毛には人毛、眼球と歯には医療用の義眼、義歯を用いる
など、ひたすらにリアリティ追求した細工が施されています。
び しゃもんてん
甲冑を身に付け、厳めしい表情をたたえた、七福神
毘沙門天
の中では異色の神様です。前身はヒンドゥー教の財宝神、クベー
ラ。仏教に取り入れられ、仏法を守護する役割をになう四天王
の一角、多聞天となります。武装しているのはそのためです。
毘沙門天とは多聞天の別名で、四天王としてではなく、独立し
た尊像として信仰される場合の尊名です。このような由来から、
財運、勝運、厄除けといった様々なご利益が願われてきました。
6 毘沙門天像
山崎朝雲(1867-1954)作
石膏/総高62.0cm
現代
ほ てい
布袋
中国の唐時代末期頃に実在したとされる僧侶。
太鼓腹で、
大きな袋を背負う円満な姿が特徴。富貴と繁栄をつかさどる神
として水墨画の題材として好まれ、絵に描かれることの多い尊
格ですが、中国ではそれを弥勒仏の化身とする信仰が広まりま
した。その信仰は日本では普及しませんでしたが、黄檗宗の寺
院では、布袋の姿をした弥勒仏を見ることができます。
7 布袋図(重要文化財)
足利義持(1584-1645)筆
紙本墨画 掛幅装
縦31.1 幅56.1cm
室町時代
松永コレクション
8 布袋図
円山応挙(1733-1795)筆
紙本墨画 掛幅装
縦105.2 横26.5cm
江戸時代 天明6年(1786)
太田コレクション
ふくろくじゅ
福禄寿
もとは道教の星神信仰における三星
(
「福星」
・
「禄星」
・
「寿星」)をそれぞれ神格化した三神が、一体化した神様です。
「福」は幸福、「禄」は財産、「寿」は長寿を意味し、道教が説
く三徳に該当するものです。
じゅろうじん
寿老人
その名の通り、長寿を象徴する神様。もとは道教の三
星のひとつ「寿星」の化身とされたことで、福禄寿と同一の神
ともされます。描かれた姿が福禄寿と見分けがつかないものが
多いのは、そのためです。
9 旭福禄寿・松鶴・梅鶴図 三幅対
土佐光貞(1738-1806)筆
絹本着色 掛幅装
縦121.3 横36.1 cm(中幅)
江戸時代
太田コレクション
10 寿老図(重要美術品)
雪舟(1420-1506)筆
紙本墨画 掛幅装
縦107.7 横43.6cm
室町時代
黒田資料
11 寿老人図 三幅対のうち
狩野探幽(1602-1674)筆
絹本墨画淡彩 掛幅装
縦150.4 横64.0cm
江戸時代
黒田資料
七福神 躍動!
七福神への親しみを全面に押し出した作品を紹介します。禅
の思想をユーモア一杯に表現した博多・聖福寺の禅僧、仙厓和尚の作品
を中心に、笑い、踊る、微笑ましい七福神のお姿をご覧下さい。
12 恵比寿図
仙厓義梵(1750-1837)筆
紙本墨画 掛幅装
縦 29.2 横 18.0cm
江戸時代
石村コレクション
13 大黒天図
仙厓義梵(1750-1837)筆
紙本墨画 掛幅装
縦 31.3 横 21.9cm
江戸時代
石村コレクション
14 大黒天像
仙厓義梵(1750-1837)作
塑造/高さ14.4cm
江戸時代 文政2年(1819)
森山コレクション
15 指月布袋図
仙厓義梵(1750-1837)筆
紙本墨画 掛幅装
縦85.7 横27.3cm
江戸時代
石村コレクション
16 あくび布袋図
仙厓義梵(1750-1837)筆
紙本墨画 掛幅装
縦40.9 横53.0cm
江戸時代
石村コレクション
17 布袋見闘鶏図(重要美術品)
宮本武蔵(1386-1428)筆
紙本墨画 掛幅装
縦71.2 横32.8cm
江戸時代
松永コレクション
18 寿老人図
仙厓義梵(1750-1837)筆
紙本墨画 掛幅装
縦87.9 横27.2cm
江戸時代
石村コレクション
19 三福神図
英一蝶(1652-1724)筆
絹本淡彩 掛幅装
縦32.7 横 51.7cm
江戸時代
黒田資料
姿なき神々
や
お よろず
八百万の神は、本来その姿は形に表わせない存在でした。そうした神々
の畏るべき存在を、風景や事物を描くことによって象徴的に表現するこ
とも行われてきました。 日本一の山 富士山を神とした富士信仰。旭
日に象徴される神。蒙古襲来を駆逐した「神風」。神が宿るとされる門松。
姿なき神々、その存在を連想させる作品を取り上げます。
20 富士図
狩野探幽(1602-1674)筆
紙本墨画 掛幅装
縦36.2 横65.1cm
江戸時代
太田コレクション
21 日の出・松・竹図 三幅対
狩野常信(1636-1713)/
狩野周信(1660-1728)筆
絹本墨画 掛幅装
縦123.2 横55.3cm
江戸時代 宝永7年(1710)
黒田資料
22 蒙古襲来図
仙厓義梵(1750-1837)筆
紙本墨画 掛幅装
縦86.5 横25.0cm
江戸時代
23 門松図
仙厓義梵(1750-1837)筆
紙本墨画 掛幅装
縦95.8 横27.8cm
江戸時代
石村コレクション
24 宝の入船図
仙厓義梵(1750-1837)筆
紙本墨画 掛幅装
縦79.3 横51.5cm
江戸時代
石村コレクション
福の神 いろいろ
福の神は、もちろん七福神だけではありません。日本固有の神様、中
国の神仙思想の神様や伝説上の仙人など、時代を重ねて福の神としての
信仰を集めた、色々な神様をご紹介します。
おりひめ
ひこぼし
織姫と彦星
天帝から7月7日(七夕)にのみ
うことを許された織姫
じょくじょ
けんぎゅう
と彦星の伝説は、中国の「織女・牽牛」の神話に起源します。その名の
はた お
通り、牽牛は牛を引いて畑をたがやし、織女は機織りを司ることから、
豊作や技芸上達が願われ、やがて色々な願いが込められるようになりま
した。願い事を書いた短冊を飾る今の風習は江戸時代に始まったもの。
25 七夕図
仙厓義梵(1750-1837)筆
紙本墨画 掛幅装
縦119.8 横57.6cm
江戸時代
石村コレクション
ぶんしょうせい
文昌星
文昌星とは北斗星の前にある6星のことで、
それが人格化、神格
化されて道教の神となり、
文芸や学業の神として日本にも伝わりました。
26 文昌星図
狩野洞春(1747-1797)筆
絹本着色 掛幅装
縦112.8 横49.8cm
江戸時代
黒田資料
さる た ひこおおかみ
猿田彦神は日本固有の神で、道教由来の庚申信仰と習合す
猿田彦大神
るなどして、様々な形で民間に広がりました。早良区藤崎にある猿田彦
神社で
「庚申」
の日に売られる猿のお面は厄除け(「災いをサル」
)と招福を
もたらすものとして、玄関口に飾られているのをよく見かけます。
27 猿田彦大神図
伝・仙厓義梵(1750-1837)筆
紙本墨画淡彩 掛幅装
縦93.5 横30.5cm
江戸時代
三宅コレクション
きんこうせんにん
道教の説話集『列仙全伝』によれば、琴高は中国古代の仙人
琴高仙人
で、琴の名人でした。ある時、龍の子を捕まえるといって川に潜り、約
束の日に鯉に乗って水中より現れたといいます。その吉祥的な様子を絵
に描くことは日本でも好まれ、工芸品の意匠にも用いられています。
28 琴高仙人・日月図 三幅対
狩野永徳〈高信〉(1740-1794)筆
絹本着色 掛幅装
縦102.6 横41.1cm
(中幅)
江戸時代
黒田資料
29 色絵琴高仙人赤玉文鉢
有田焼
高さ8.8 口径22.8cm
江戸時代(17世紀末∼18世紀初期)
森山コレクション