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2014 年 9 月
ジャパン・ビジネス・サービス
ニュース・レター
新しい収益認識基準 - IFRS 第 15 号
いよいよ収益認識基準が変更されます。国際会計基準審議会(IASB)および米国財
務会計基準審議会(FASB)(以下、両審議会)は、IFRSおよびUSGAAPにおける収益
認識に関する新たな基準を公表しました。ここでは新しい収益基準について解説します。
知っておくべき重要ポイント
1.IASBとFASBは、共同で策定した収益認識基準、IFRS第15号「顧客との契約から生じ
る収益」を公表した。当該基準により、IFRSおよびUSGAAPにおける収益認識に関す
る現行の規定はすべて置き換えられる。
2.IFRS第15号は、収益を生じさせるすべての契約に適用され、一部の非金融資産の売
却(たとえば、有形固定資産の処分)に関する認識及び測定モデルも定めている。
荒川尚子
EY ブリスベン
シニア・マネジャー
ジャパン・ビジネス・サービス
豪州勅許公認会計士・米国公認
会計士。日本・米国・豪州の上場
企業への監査業務を専門とし、会
計基準比較アドバイス(米国と国
際基準)、内部統制実用化におい
ての経験が豊富。
3.IFRSでは、当基準は2017年1月1日以後開始する事業年度から適用されるが、早期
適用も認められる。4.早期に準備を始めることが、新基準への円滑な移行の鍵となる。
概要
IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」は、複数のコメント募集文書の公表、多
数のラウンド・テーブル、その他のディスカッション・フォーラム、そして両審議会が行った
広範囲にわたる審議を経て、10年以上の歳月をかけて開発されたものです。オーストラ
リアは今後諸手続きを経てIFRS第15号(AASB第15号)を豪州会計基準として採用しま
す。
IFRS第15号の基本原則は、収益は、約束した財またはサービスの顧客への移転を表
すように、また当該財またはサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価を反映し
た金額で認識するというものです。
適用範囲
IFRS第15号では、5つのステップから構成される収益認識モデルが定められており、
取引形態や業種に関係なく、(リース契約など一部の例外を除き)すべての顧客との契
約から生じる収益に適用されます。また、IFRS第15号の規定は、企業の通常の活動か
ら生じるアウトプットに該当しない、一部の非金融資産の売却(たとえば、有形固定資産
や無形資産の売却)から生じる利得および損失の認識と測定にも適用されます。
さらに当基準では、収益の区分ごとの開示、履行義務に関する情報、契約資産及び契
約負債残高の期中における変動、さらに主要な判断や見積りなど、より多くの開示が要
求されている点、注意が必要です。
発効日
IFRS第15号は、2017年1月1日以後開始する事業年度から適用されます。ただし
USGAAPに準拠して報告を行っている上場企業は、2016年12月15日より後に開始す
る事業年度から適用されます。早期適用については、IFRSでは容認されていますが、
USGAAPに従って報告している上場企業に対しては認められていません。
企業は、完全遡及適用アプローチ(Full retrospective approach)または修正遡及適
用アプローチ(Modified retrospective approach)のいずれかにより新基準への移行を
行うことになります。修正遡及適用アプローチの下では、初めて当基準を適用する年度
の期首から、その時点で存在する契約に対して同基準を適用することが認められます。
このアプローチを採用した場合、初めて当基準を適用する年度について、現行のIFRS
に基づく収益に関する情報も追加で開示している限り、比較年度の修正再表示は要求
されません。両アプローチの主な概要を以下の表にまとめました。
適用日以降の
新規契約
完全遡及適用アプローチ
(遷移救済を除く)
どの提示期間適用す
る?
すべての表示期間
どの契約に適用す
る?
すべての提示期間中に存
在していたであろうすべて
の契約に新基準を契約開
始から適用
適用(会計変更)による表
適用影響はどのように
示期間前累積影響額は過
財務諸表に認識され
年度利益剰余金の期首残
る?
高に反映される
適用時に特別な開示
は要求される?
 更なる開示要件
 IAS第8会計方針の下で
要求される事項
 いくつかの免除は有る
修正遡及適用アプローチ
初めて当基準を適用する年度の
み
 適用日以降の新規契約
 既存契約に関しては新基準が契
約開始以来適用されていたかの
ように
適用(会計変更)による累積影響額
は、直近表示期間の利益剰余金の
期首残高に反映される
初めて当基準を適用する年度につ
いて、現行のIFRSに基づく収益に
関する情報も追加で開示(実質的
に適用年度中に会計記録の二組
が必要)
5つのステップから構成されるモデル
IFRS第15号の基本原則は、5つのステップから構成されるモデルにより適用されま
す(表「IFRS第15号モデルの概要」参照)。契約条件およびすべての関連する事実や
状況を検討するにあたり、判断が求められます。当基準に定められる規定は、類似の
特徴を有する契約に対し、また、類似の状況において首尾一貫して適用されなければ
なりません。
IFRS第15号モデルの概要
基本原則
収益は、約束した財又はサービスの顧客への移転を表すように、また当
該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価を反映した金
額で認識する
ステップ1
顧客との契約を特定する
ステップ2
契約における独立した履行義務を識別する
ステップ3
取引価格を決定する
ステップ4
取引価格を独立した履行義務に配分する
ステップ5
企業が履行義務を充足した時点で(又は充足するに応じて)収益を認識す
る
契約コストおよび、その他の適用ガイダンス
5つのステップから構成される収益認識モデルに加え、IFRS第15号には、契約を獲得
するための増分コストと契約の履行に直接関連するコストの会計処理も定められていま
す。これらのコストは、回収が見込まれる場合には資産計上され、事後的に償却および
減損テストが行われます。 IFRS第15号には、ライセンス、製品保証、返品権、本人か
代理人かの検討、追加の財又はサービスに対する選択権、(商品券の未使用などの)
顧客の権利不行使といった一般的な事項に同基準を適用する際の適用ガイダンスが示
されています。
最後に
IFRS第15号は現行のIFRSから大きく変更されています。より詳細な適用ガイダンス
が提供されているものの、見積りが幅広く用いられることもあり、当基準の規定を適用す
るに際し、より多くの判断が求められています。企業によっては、収益認識に大きな変更
が生じる可能性があるため、新基準の適用による影響について直ちに社内で検討を開
始の上、専門家に相談することが重要になるでしょう。
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