2015 年 1 月 ジャパン・ビジネス・サービス ニュース・レター 最前線、アセアン市場と日本企業の動向 オーストラリアの隣国で形成されており密接な関係のあるアセアン諸国。オーストラリ アの日本企業においても、シンガポールの地域統括会社へレポーティングをする企業が 増えてきてます。また、本社の海外事業の管理体制をアジア・オセアニアという括りで行 っている日本企業が目立っています。以下、日本企業と関係が深いアセアン地域におけ る日本企業の動向に焦点を当ててみたいと思います。 アセアン市場 1 菊井隆正 (Takamasa Kikui) EY シドニー パートナー ジャパン・ビジネス・サービス アジア ・パシフィック 兼 オセアニアリーダー アセアンは、10カ国 から形成されており、その様子はさまざまです。シンガポールは人 口がわずか540万人という小国ではありますが、1人当たりのGDP(名目)は5万5,000 米ドルと、日本を上回っています。インドネシアは2億4,795万人という世界第4位の人口 を擁しています。また、将来の製造拠点として魅力的なミャンマー(ヤンゴン)や カンボジ ア(プノンペン)といった都市圏でも、一般工の年間労働賃金はわずか600~900米ドル です。アセアンは、人口、経済規模、さらに宗教文化の面から見ても、さまざまな性格を 持った経済圏であるといえます。 このアセアン経済圏は、中国の経済規模と比べると名目GDPはまだ4分の1程度、人 口は中国の約半分の6億1,000万人ですが、メリルリンチの調査によると2012年には「ア セアン5」、すなわちインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5カ国に おける海外直接投資額の合計は1, 284億米ドルで、中国を初めて上回りました。このよ うな経済規模の拡大は統計数値に表れています。 アジア・パシフィックおよびオセア ニア地域日系企業担当部門代 表。常に監査、会計、税務から投 資まで広範囲にわたる最新情報 を提供することで、オセアニアで活 躍する日系企業に貢献できるよう 努めている。 1 シンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシア、タイ、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、ラ オスから形成されている。 日本の海外直接投資 このように活発に経済規模を拡張しているアセア ンですが、まずは統計上から日本の投資を見てみ ます。図1は日本の中国とアセアン5プラスベトナム へのアウトバウンドのM&A件数の比較、図2は中国 とアセアン5への海外直接投資の統計です。日本の 中国への投資が横ばいもしくは、下降気味であるの に対して、特に2010年を機に日本のアセアンへの 投資が加速しています。(図2の2012年のアセアン の減額はタイが前年度より90%以上下落したもの により、これは2011年10月に起こった洪水の影響と 見られます) 2010 2011 2012 2013 中国、香港、 台湾 ASEAN 5 プラス ベトナム 62 75 63 49 45 81 74 95 図1 出典:JETRO日本の国・地域別対外直接投資 30,000 20,000 10,000 0 中国 ASEAN5 Unit 100万ドル 図2 出 典 : 日 本 の ア ウ ト バ ウ ン ドM&A件 数 - レ プ コ 2010-2013 中国の伸び率が上がらない理由として、中国の成 長率が鈍化し人件費の上昇などにより、日本の投 資がアジアにシフトしているというのが一般的な見 方です。また、日中の領土問題という政治的な関係 も影響しているのではないでしょうか。 このように、 直接投資がアセアンにシフトしている中、日本企業 はどのように動いているのでしょうか。実際に市場 の最前線に立っている方々に意見を伺うと、そこに は加速して成長するアセアン市場において、諸外国 との競争に勝つためのビジネス・モデルを探求し、 その糸口を見つけだそうとしている様子が感じ取れ ます。 日本企業の動向 従来からアジア地域統括会社として、香港と並び 名前が挙がるシンガポールですが、ここに来て再び 脚光を浴びています。さらにマレーシアやタイを統 最前線、アセアン市場と日本企業の動向 括会社の拠点に置く企業も見受けられます。アセア ン市場の中では日本企業進出の成熟度が高いタイ においては、日本企業のM&Aブームが起きていま す。一方、エマージング・マーケットとして関心が高 まるミャンマー。ここ数年日本の製造業進出ラッシュ が続く一方、毎年10~30%の労働賃金が上昇し輸 送インフラが追いついていけないインドネシア。その 他に、アジア製造拠点の分散化を図るために、日 本企業の進出が再び注目を浴びているベトナム、フ ィリピンも日本企業進出の地域です。 こういった中、アセアンの多くの国では、成長を 持続するために電力、輸送インフラなど、早急なイ ンフラ整備が 不可避です。また、天然資源の権益 確保、さらに物流から販売・消費までの生活物資に おいて、活発なM&Aが展開されています。 地場企業、外国企業との競合からビジネスを獲 得していくためには、現地での強いネットワークを確 立し、かつ、迅速な意思決定が要求されています。 プロジェクトの入札や企業買収に際しては、対外交 渉と同時に社内での根回し交渉が必要ですが、本 社を説得するには時間を要します。「現場では、目 の前で起こっている状況を肌では感じるが、日本の 本社にはその声がそのまま届かない」と言ったこと をよく聞きます。これは現場と意思決定をする場所 に距離があるために生じるのかもしれません。この ような状況を踏まえると、事業内容にもよりますが、 アセアン市場での競争優位を確保しビジネスを加 速するためには、実質的な統括機能の再構築が1 つの鍵となります。 アジアの激変する環境に対応するために、「統括」 という枠組みの中に、営業部門、事業部門の取り組 みが試みられています。従来は、税務上のメリット を享受するために、利益還元の流れと経理の報告 を統括会社経由で、営業部門、事業部門の管理は 現地子会社と直接本社が行う体制が比較的多く見 られました。ところが、最近では本社から役員クラス を派遣し、現場を肌で感じながら広範な決定権を地 域内でもつという体制が、一部の業界で始まってい ます。 また、こういった事業展開を支えるためにも、ガバ ナンスの強化の動きが出始めています。地域内で の内部統制をはじめ、システムの統一化、人事、法 務、税務などの管理・監督を統括会社がおこなう企 業も見受けられます。 日本企業は以前からアセアンへの投資を活発に 行 っ て き ま し た 。 長 い 関 係 を 築 い て き たODA (Official Development Assistances)の歴史に対 し、昨今のアジア諸国では短期的利益に重きが置 かれ、日本からの海外直接投資は以前ほど重宝さ れなくなってきたように思えます。 しかし、市場では日本企業を歓迎する風土は今なお健在です。その理由と して、アセアンへの投資が急上昇している中国の例が挙げられます。中国 投資が浸透している諸国においては、中国投資への過度の依存に対する 不安から、中国と友好な関係を保ちつつも、日本からの投資を増やしバラ ンスを取りたいという期待感があります。一方で、ヨーロッパ、アメリカ、中 国、さらには韓国からの参入に対し、日本企業は従来の投資のパラダイ ム・シフトを余儀なくされる場合もあるでしょう。その流れをいち早く肌で感じ、 市場に合うモデル作りができる企業が、5~6年後のアセアンのリーダーシ ップをとるのではないでしょうか。アセアン市場の基盤が整ってからの行動 では遅い、まさに今がその時だと思います。 Japan Business Services (JBS) Oceania Contacts EY Japan Business Services Contacts National Sydney Melbourne Brisbane Perth 菊井隆正 Takamasa Kikui Partner JBS Asia-Pacific / Oceania Leader +61 2 9248 5986 [email protected] 篠崎純也 Junya Shinozaki Director JBS NSW Leader +61 2 9248 5739 [email protected] 加藤雅子 Masako Kato JBS Representative +61 3 9655 2766 [email protected] 荒川尚子 Shoko Arakawa JBS Representative Senior Manager, Assurance +61 7 3011 3189 [email protected] 井上恵章 Shigeaki Inoue JBS Representative Director, Tax +61 8 9217 1296 [email protected] 最前線、アセアン市場と日本企業の動向 National Sydney Adelaide Brisbane Perth 鈴木大介 Daisuke Suzuki JBS Representative Transaction Advisory Services +61 2 9276 9083 [email protected] カーンズ裕子 Yuko Kearns Director, Tax +61 2 9248 5518 [email protected] 川井真由美 Mayumi Kawai JBS Representative +61 8 8417 1974 [email protected] 渡辺登二 Toni Watanabe JBS Representative Tax +61 7 3011 3526 [email protected] 諸貫 健太郎 Kentaro Moronuki JBS Representative Manager, Assurance +61 8 9429 2222 [email protected] EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory About EY EY is a global leader in assurance, tax, transaction and advisory services. The insights and quality services we deliver help build trust and confidence in the capital markets and in economies the world over. We develop outstanding leaders who team to deliver on our promises to all of our stakeholders. In so doing, we play a critical role in building a better working world for our people, for our clients and for our communities. EY refers to the global organization, and may refer to one or more, of the member firms of Ernst & Young Global Limited, each of which is a separate legal entity. Ernst & Young Global Limited, a UK company limited by guarantee, does not provide services to clients. For more information about our organization, please visit ey.com. About EY’s Tax services Your business will prosper as you build it on strong foundations and grow it in a sustainable way. At EY, we believe that managing your tax obligations responsibly and proactively can make a critical difference. Our global teams of talented people bring you technical knowledge, business experience and consistency, all built on our unwavering commitment to quality service — wherever you are and whatever tax services you need. We create highly networked teams who can advise on planning, compliance and reporting and help you maintain constructive tax authority relationships — wherever you operate. Our technical networks across the globe can work with you to reduce inefficiencies, mitigate risk and improve opportunity. Our 32,000 tax professionals, in more than 140 countries, are committed to giving you the quality, consistency and customization you need to support your tax function For more information, please visit www.ey.com/au. © 2015 Ernst & Young, Australia. All Rights Reserved. AU00002163 Visit our new Japan Business Services website ey.com/au/en/JapanBusinessServices 最前線、アセアン市場と日本企業の動向 This communication provides general information which is current as at the time of production. The information contained in this communication does not constitute advice and should not be relied on as such. Professional advice should be sought prior to any action being taken in reliance on any of the information. Ernst & Young disclaims all responsibility and liability (including, without limitation, for any direct or indirect or consequential costs, loss or damage or loss of profits) arising from anything done or omitted to be done by any party in reliance, whether wholly or partially, on any of the information. Any party that relies on the information does so at its own risk.
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