最新号[PDF:956KB] - 千葉銀行

平成26年11月号
インフルエンザの流行時期が近づいて参りました。日本では行き交
う人々のマスク姿が目立ち始める頃ではないでしょうか。イギリス
では、一般的にマスクをする習慣がありません。日本人としては、
自身だけでなく周りの人々にも感染症予防のためにマスクをしても
らいたいところですが、顔の大半が隠れてしまうマスクは、テロや
犯罪に敏感な当地ではむしろ人々に不安を抱かせてしまうようです。
さて、今回の EU インサイトでは、以下のテーマについてレポートいたします。
欧州の民族・独立問題
千葉銀行ロンドン支店
○ 欧州の民族・独立問題
1.独立問題に揺れた 2014 年の欧州
2014 年も残すところあと 1 ヶ月余りとなりました。欧州では世界から
注目を浴びる独立問題が 2 件も起きた、慌しい 1 年となりました。ひと
つは 2 月に始まったウクライナからの分離独立を図るクリミア・東部地
域、そしてもうひとつは、9 月に住民投票が実施されたスコットランドで
す。前者は、ロシアによるクリミア編入をきっかけに、ウクライナ国内
で親ロシア、反ロシア派の対立が深まり東部地域を含めた独立問題へと
発展したものですが、これを契機に EU 諸国へのロシアからの石油供給が
停止し、欧州全体の経済停滞を長引かせる一因ともなっています。後者
は、住民投票では独立反対派が勝利しましたが、イギリス政府がスコッ
トランド議会に対して大幅な権限委譲を行う可能性が高まるなど、尾を
引きそうな問題を抱えたまま年を越すこととなりそうです。
欧州ではこれまでにも、領土・民族にかかる独立問題が数多く発生し
てきました。近年ではボスニア・ヘルツェゴビナやコソボ等、旧ユーゴ
スラビアの分裂に繋がった血生臭い独立紛争が記憶に新しいことと思い
ます。
今回の EU インサイトでは、欧州で今年起きた独立騒動と、今後想定さ
れる独立の動きについて触れたいと思います。
1.ウクライナ
(クリミア、ドネツク等)
2.イギリス
(スコットランド)
2
3.スペイン
(カタルーニャ、バスク)
1
4.バルカン半島
(コソボ、アルバニア等)
5
5.ベルギー
3
(フランドル)
4
図1.今回の EU インサイトで触れる領土問題を抱える国・地域
1
2.ウクライナ・クリミア問題
(1)対立の布石があったウクライナ世論
ウクライナの国土面積は約 60 万 k ㎡で、日本の約 1.6 倍、ヨーロッパで
もフランスやスペインを凌ぐ広さを誇ります。加えて、土地が肥沃なこと
から農業が盛んであり、社会の授業で「ヨーロッパの穀倉地帯」と習った
ことを覚えている方もいるのではないでしょうか。
ウクライナは冷戦時代、旧ソヴィエト連邦の一部でしたが、1991 年に独
立しました。もともとその広い国土のために、経済的・民族的背景は多様
でしたが、図 2 のように、「比較的西側諸国との結びつきが強く、親欧米
派が多い地域」、
「旧ソ連の主要部分を引き継いだロシアの影響が強く、親
ロシア派が多い地域」に分かれています。お互いの勢力はほぼ均衡してい
るため、国政選挙の際はその対立構造がはっきりとしたものとなります。
とりわけ大統領選では、開票を巡って不正疑惑が毎回生じており、特に
2004 年から 2005 年にかけて行われた大統領選挙時の「オレンジ革命」は、
世界的にメディアの注目を集めました。これは、親ロシア派であったヤヌ
コビッチ氏と、親欧米派であったユシチェンコ氏の決選投票となり、一度
はヤヌコビッチ氏の勝利が宣言されましたが、投票の際に不正があったと
して再投票が行われ、最終的にユシチェンコ氏が当選したというものです
(再投票のときはヤヌコビッチ氏側から不正が指摘されましたが、これは
裁判所から棄却されました)。次の 2010 年大統領選挙では、ヤヌコビッチ
氏が当選し、政権は親ロシア派へ移行しました。次回は 2015 年に行われ
る予定でしたが、今年 2 月に任期途中でヤヌコビッチ氏が失脚し、この時
からウクライナの混乱が顕在化し、世界に注目されることとなりました。
ベラルーシ
ポーランド
ロシア
親欧米派が
チェコ
キエフ
多い地域
親ロシア派が
多い地域
スロバキア
モルドバ
ルーマニア
クリミア半島
図2.ウクライナ地図
2
(2)クリミアのロシア編入、そして他地域への伝播
今回、ウクライナから独立し、ロシアの影響下へ入るという形で注目を
集めたクリミア半島ですが、もともとは旧ソ連(現在のロシア)の領土
でした。それが 1954 年にウクライナに移され、1991 年の独立の際にもウ
クライナの一部として認識されました。歴史的な背景から、クリミアに
はロシア系住民が多く、ウクライナからの独立・ロシア編入の可否を問
う住民投票の際にも、賛成派が多数を占める結果となりました。そして
この投票結果は、親ロシア派が多い東部の各都市にも波及し、ドネツク
州やルガンスク州では市役所を占拠するなど武力衝突が多発するに至っ
ています。親ロシア派、親欧米派の対立は一向に解消せず、ウクライナ
は国家分裂の危機を迎えています。なお、背後ではロシアが彼らを扇動
しているのではないかとして、欧米諸国がロシアに経済制裁を加える根
拠となっています。
3.スコットランドの独立投票
(1)「イギリス」とは
続いて世界中の注目を集めたのが、9 月 18 日に実施されたスコットラ
ンドの独立投票でした。実はこの投票、2 年前から実施することが決まっ
ていたのですが、本投票の注目度が高まったのは、9 月初旬に実施された
世論調査がきっかけでした。それまでは独立反対派の支持が賛成派を上
回っていたのですが、この時の世論調査で初めて反対派が賛成派を上回
り、スコットランド独立が急に現実味をおびて認識されることとなりま
した。なお、この報道を機にイギリスという国の成り立ちについて、新
聞報道等で改めて知った方も多かったと思います。
外務省ホームページによると、イギリスの正式名称は「グレートブリ
テン及び北アイルランド連合王国」であり、ロンドンのあるグレートブ
リテン島にある 3 つの国(イングランド、スコットランド及びウェール
ズ)と、アイルランド共和国の北部に位置する「北アイルランド」の 4
国から成り立っています。ちなみに、スコットランドの首都はエジンバ
ラ、ウェールズの首都はカーディフ、北アイルランドの首都はベルファ
ストです。当店が所在地を構えるロンドンはイングランドの首都であり、
連合王国イギリスの首都としても機能しています。
3
スコットランド
スコットランド
北アイルランド
エジンバラ
北アイルランド
グレートブリテン
及び北アイルランド
ロンドン
連合王国
ウェールズ
イングランド
ウェールズ
イングランド
図3.イギリス地図と国旗
(2)スコットランド独立投票の経緯
独立の是非を問う住民投票にスコットランドが至った要因は、主に 2
つあると言われています。1 つは歴史的背景、そしてもう1つは経済的背
景です。
スコットランドの地に人類が足を踏み入れたのは紀元前 5000 年ごろ
と言われていますが、現在のスコットランド人の祖先とみなされている
ケルト人が移住してきたのは、紀元前 800 年ごろというのが現在の有力
な説となっております。その後長きに渡り、複数の民族による領土争い
がありましたが、スコットランド全土が国として統一されるのは 11 世紀
になってからです。時の国王、マルコム 3 世は勢いに乗って南部イング
ランドへの侵略を試みますが、ノルマンディ公率いるイングランド軍に
ことごとく惨敗しました。このときに、イングランドよりブルース家、
スチュアート家等、複数の貴族を迎え入れることによって、独立国の面
目を保ちました。その後もスコットランドとイングランドの間には主権
を巡る紛争が続きましたが、正式に一つの国として定義されたのが、1707
年の連合法(Act of Union)です。形上は対等の合併だったものの、議
会や王宮はイングランドに置かれることとなり、スコットランドにとっ
て見れば、イングランドに従属したような形です。
上記のような歴史的背景に加え、1980 年代にサッチャー首相が推し進
めた政策により、スコットランドの産業が大きく衰退する一方で、ロン
ドンを中心とするイングランドの産業が栄えたため、スコットランドに
4
はイングランドに不当に利益を搾取されている、という感情があります。
この不満をなだめるために 1998 年、イギリス政府はスコットランドに対
し議会の設置を認め、その他にも様々な権限委譲を進めました。しかし
それでもスコットランドの不満は収まらず、2011 年のスコットランド議
会選挙では、独立を公約に掲げるスコットランド国民党が第 1 党を獲得、
党首のサモンド氏は 2012 年にイギリスのキャメロン首相と会談し、2 年
後の住民投票の実施に合意しました。これが、9 月に実施された住民投票
に繋がりました。
(3)投票結果・その後の動き
独立賛成派は、独立によって北海油田の経済的利益を独占でき、イギ
リス政府の言いなりになることから開放されると主張しておりました。
一方で、通貨ポンドを維持できるのか、EU に加盟できるのか等、独立反
対派の現実的な指摘もありました。投票は独立反対が 55%、賛成が 45%
という結果となりましたが、独立機運の盛り上がりで、スコットランド
はイギリス政府から大幅な自治権の移譲を受ける予定であり、実質的な
勝利だと伝える向きもあります。また今回の移譲により、ウェールズ、
北アイルランドに対しても自治権の移譲を進めるべきとの声があがって
おり、イギリス政府としても悩ましい事態となっています。今後政府が
どのような交渉を行っていくのかが、注目されるでしょう。
4.スペインが抱える独立問題
(1)スコットランド独立投票実施を受けて機運高まるスペイン自治州の独
立運動
11 月 9 日、スペイン北東部のカタルーニャ自治州がスペイン中央政府
から独立することを問う実質的な住民投票が実施されました。開票結果
は賛成多数でしたが、スペイン政府は住民投票を違法としているため、
実際に独立が承認されるわけではありません。いずれにせよ、この地域
の住民が現在の行政に不満を持っていることが、改めて浮き彫りとなっ
た格好です。
カタルーニャ自治州はバルセロナを首都とする、人口 750 万人(スペ
イン全体の 16%)、州 GDP は 2,000 億ユーロ(同 20%)の国内有数のビ
ジネスエリアです。カタルーニャ自治州が不満を抱く理由は、税収に見
合った自治権が得られていないことです。
またもう一つ、スペイン国内で独立を唱えている州があります。それ
は、フランスとの国境ピレネー山脈に位置するバスク自治州です。近年
では、バスク自治州の独立運動はカタルーニャ自治州ほど盛んではあり
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ませんが、かつてはスペイン中央政府からの独立を実力行使で勝ち取る
ため、武装集団「バスク祖国と自由(ETA)」が活発に活動していた時期
もありました。
バスク自治州
フランス
ポルトガル
カタルーニャ自治州
マドリード
図4.スペイン地図
(2)民族意識とサッカー
欧州ではサッカー人気が非常に高いですが、スペインも例外ではあり
ません。そしてスペインの場合、カタルーニャやバスクの民族意識の強
さはサッカーの試合を通しても感じることができます。マドリード(=
中央政府)を本拠とするレアル・マドリードと、カタルーニャを代表す
る FC バルセロナの試合「エル・クラシコ」は、サッカーの試合を超えた
意味合いを持っています。特に、バルセロナサポーターの意識が高まる
FC バルセロナの本拠地「カンプ・ノウ」で開催される試合では、観客席
に「CATALONIA IS NOT SPAIN(カタルーニャはスペインではない)」と言
う過激な垂れ幕が掲げられ、試合開始から 17 分 14 秒(=1714 年、カタル
ーニャがスペイン政府に降伏した年)には、サポーターが独立を支持す
る歌を歌い始めます。
また、同じくスペインを代表するクラブの一つに、アスレチック・ビ
ルバオがあります。バスク自治州ビルバオに本拠地を置くこのチームも
スペインリーグ上位に食い込む強豪ですが、現在選手はバスク人(バス
ク及びその周辺州の出身者)のみで構成されています。他の欧州各国の
強豪クラブ(この点については FC バルセロナも同様)が世界中から選手
を集めているのとは対照的です。これも、バスク人としてのアイデンテ
ィティーをサッカーに求めた結果といえるでしょう。
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5.その他の欧州民族問題
その他、冒頭でも触れたバルカン半島周辺では、アルバニア系住民に
よる独立運動が続いています。ギリシャの北部と国境を接するアルバニ
アの住民が、マケドニアやセルビア等の周辺国に住むアルバニア系住民
と一致団結して「大アルバニア圏」の立国を理想として掲げて活動して
いますが、反対する隣国との争いが絶えません。また、日本ではあまり
報道されておりませんが、ベルギーでも北部のオランダ語圏と南部のフ
ランス語圏で争いは続いています。こちらは武力衝突には至っていませ
んが、2010 年、連立政権樹立を巡って北部と南部の対立が続き、541 日
間政権が空白になるという事態にも発展しました。首都ブリュッセルに
EU 本部を抱え、欧州の中心ともいえるベルギーですら、独立問題で頭を
抱えているのです。
6.終わりに
独立問題を抱える国々は、「他国の独立を支持すれば、自国の独立支持
派を刺激しかねない」として、他国の独立問題には非常に敏感です。例
えばスペインは、日本が承認しているコソボの独立について承認してお
らず、スコットランドが独立した際に「EU 加盟を目指す」と宣言したと
きも、賛成には消極的でした(EU 加盟は既存加盟国の全会一致が原則で
あるため、1 カ国でも反対すると、加盟はできません)。
近年、欧州では EU 加盟国や通貨ユーロ導入国の増加により、一段の統
合が進んでいる一方で、各国レベルでは自国の分裂危機に直面している
国も少なくありません。再び欧州経済・金融の停滞が叫ばれる昨今です
が、こうした民族対立は長い歴史の中で常に根深い問題として横たわっ
ており、今後の欧州を俯瞰していく上で注目していくべき事象の一つで
しょう。
以
上
【参照ウェブサイト】
外務省ホームページ
http://www.mofa.go.jp
カタルーニャ州政府投資促進局
http://www.invest-in-catalonia.com/
BBC ホームページ
http://www.bbc.co.uk/
※ ここに掲載されているデータや資料は、情報提供のみを目的としたもので、投資勧誘等を目
的としたものではありません。投資等の最終決定は、ご自身の判断でなされるようお願いい
たしま す 。
また、弊行は、かかる情報の正確性や妥当性については、責任を負うものではありません。
※ 本レポートに関するお問合わせは、市場営業部海外支店統括グループまでご連絡下さい。
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