資料4−2 主要諸国の法制度調査結果概要(参考資料) 1. 権利譲渡時の問題 (1)ドイツ(無条件保護) ドイツ特許法 15 条 3 項には「権利の譲渡またはライセンスの供与は従前第 三者に与えられていたライセンスに影響を与えない。」と規定されており、譲 受人がライセンス契約の存在について認識していたか否かにかかわらず、ラ イセンシーは保護される。ライセンスの保護のためには登録等も不要である。 ライセンシーと譲受人との関係では、ライセンシーは許諾された権利につ いてライセンス契約の範囲で行使し続けることができるという抗弁権を取得 すると解されており、譲受人はライセンス契約に従って発明などの実施を行 っているライセンシーに対して実施の禁止を求めることは許されない。 (2)アメリカ(無条件保護) 米国法では、特許権等のライセンス契約は口頭によるものであっても、格 別の対抗要件なくとも譲受人に対抗することができる。すなわち、譲受人が 特許権等のライセンス契約の存在を認識しているか否か、ライセンシーがラ イセンス契約を登録しているか否かに関わりなく、譲受人は特許権者によっ て予め許諾されたライセンスの制約のある特許権を譲り受けることが判例上 認められている。譲受人は、ライセンス契約の存否については、自らのリス クで、自らが調査しなければならない1。 ライセンス契約の対象たる知的財産権の譲渡は、当然にライセンス契約の 譲渡を伴うものではなく、ライセンス契約は引き続きライセンシーの権利と 義務の範囲を規律する。ライセンサーは、譲受人に対して特許権を譲渡した 後も、ライセンス契約によって拘束され続け、ライセンス契約に基づくライ センシーに対する特定履行義務についても、かかる義務が譲渡可能であり、 ライセンシーがその譲渡に同意し、譲受人が当該義務を引き受けない限り、 義務を負担し続けなければならない。 (3)イングランド(譲受人の認識を基準として保護) イングランド法では特許権の譲受人がライセンス契約の存在を認識してい る場合には、ライセンシーは当該譲受人に対して実施権を対抗できるのが原 則である。このことは、当該ライセンス契約が書面にされておらず、口頭又 1 Keystone Type Foundry v. Fastpress Co., 272 F. 242, 245 (2d Cir. 1921) 1 は黙示のものであっても同様である。譲受人がライセンス契約の存在を認識 していない場合には、譲受人はライセンスの負担のない権利を取得するが、 当該ライセンスについて登録がなされている場合には譲受人の認識があるも のとみなされる。 譲受人がライセンス契約の全ての内容を知らない場合であっても、契約が 存在するという事実を知っている限り、ライセンシーは契約の如何なる内容 についても譲受人に対して主張することができる。 (4)フランス(譲受人の認識を基準として保護) フランス法では、特許権等のライセンスについては、国家工業所有権庁に 保管する国家特許登録簿に登録しなければ、第三者との関係で有効とはなら ない。ただし、譲受人にライセンス契約の存在について認識がある場合には、 ライセンシーは譲受人等にライセンスを対抗できることとされている。 知的財産法第 613 条の 8 は、特許から得られる権利の譲渡は「移転の日前 に第三者が取得した権利に影響を与えることはないものとする」としており、 ライセンシーは、譲受人に対し、ライセンス期間及びライセンス料を含むラ イセンス契約の全条項を遵守するように主張できると考えられている。 その意味で、譲受人は譲渡人のライセンサーとしての契約上の地位を引き 継ぎ、譲渡人と同様の権利義務を有すると考えられている。 なお、ライセンス契約は書面によって締結しなければ無効となる。 2. 破産手続き上の問題 (1)ドイツ(解除可能) ドイツ倒産法 103 条によれば、管財人等は双方未履行の契約を終了させるこ とができる。ライセンサーの倒産の場合、ライセンス契約については契約期 間満了までは完全な履行がないものとされており、管財人等はライセンス契 約を解除することができる。 管財人はライセンスに供している知的財産権を譲渡することは可能であり、 その場合には特許法 15 条 3 項の保護がライセンシーに及ぶ。 (2)アメリカ(禁止権の不行使が認められる。 ) アメリカ倒産法においては、ライセンサーの倒産時には、管財人はライセ ンス契約の履行又は拒絶を選択でき、管財人がライセンス契約の履行を拒絶 し、且つライセンシーがこれに同意しない場合、ライセンサーの義務のうち、 禁止権の不行使という不作為義務については契約期間の範囲内において存続 するが、それに付随する特定履行義務は消滅し、一方ライセンシーは引き続 2 き実施料支払い義務を負う。 管財人は当該知的財産権を譲渡することは可能であり、その場合には通常 の譲渡時と同様の結論となる。 (3)イングランド(放棄できるが、放棄時も保護。譲渡時も保護) 管財人は義務負担付き財産を放棄する権限を有しており、ライセンス契約 付知的財産権は、その契約条件次第では義務負担付財産ともなり得るので、 これを放棄できる場合がある。 管財人が義務負担付財産を放棄した場合であっても、ライセンシーはライ センスの対象である知的財産の使用を引き続き使用することができる。すな わち、ライセンス契約付知的財産権が放棄されると、企業はライセンスに関 するあらゆる負担と責任から解放されるが、ライセンシーの権利と義務は依 然として有効とされる。また、ライセンス契約付知的財産権が放棄された場 合に、ライセンシーが当該知的財産権を取得することを裁判所に対して申し 立てることも可能である。 管財人は当該知的財産権を譲渡することは可能であり、その場合には通常 の譲渡時と同様の結論となる。 (4)フランス(解除は可能だが、譲渡時は保護) ライセンサーの倒産時には、管財人は、事業を継続させるためにライセン サーの経営を監督・補佐し(商法 621 条の 26∼同条の 28)、ライセンス契約 を含む既存の契約を履行又は解除することができる2。しかし、フランスの倒 産法は管財人が何を解除して何を存続させるべきかについては指針を示して いない。 管財人が契約の継続を選択した場合、ライセンサーおよびライセンシーは 契約に拘束され履行義務を負う。管財人が契約の継続を選択しない場合、ラ イセンスは終了し、ライセンシーとしてはライセンサーに対して契約終了に 基づく損害賠償を請求することになる。 管財人が契約の解除をせずに当該知的財産権を譲渡した場合には、通常の 譲渡時と同じくライセンシーは譲受人に対して実施権を主張することができ る。 2 Supreme Court, Commercial Chamber, December 8, 1987: D. 88, II, 52, obs Derrida 3
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