第 16 回近畿臨床産業医学フォーラム 基調講演 COPD-現状と治療- -現状と治療- 岩﨑 吉伸 先生 京都府立医科大学医学研究科 呼吸器内科 教授 COPD 対策は、国際的な優先課題 型、2)直径 2mm 程度の細気管支壁の肥厚、 1990 年の世界 10 大死因の第 6 位であっ 分泌物滞留など気道炎症が主となる非気腫 た COPD が、2004 年には第 4 位、そして 2020 型がある。気流閉塞は、気腫型、非気腫型ま 年には第 3 位まで順位を上げると予測される。 たは両者が混合して生じている。 COPD に関する 2 つの大規模疫学調査、 *1 COPD の診断は、喫煙歴があり、スパイロメ (中南米 5 カ国)と BOLD トリーの気管支拡張薬投与後の 1 秒率 study (南米を除く 4 大陸 12 カ国)の結果か (FEV1/FVC)70%未満が基準となり、他の気 ら、世界各国の COPD 有病率は 10%とされる。 流閉塞疾患を鑑別し除外する。フローボリュー WHO は、がん、循環器疾患、糖尿病、COPD ム曲線は障害の程度によって特徴あるパター など生活習慣関連疾患 Non-Communicable ンを示す。 PLATINO study *2 Disease(非感染性疾患 NCD)が世界の死因 喘息との鑑別に難渋することがある。COPD の 60%、10 年後には 77%を占める国際的な は中高年発症、喫煙が要因、気道炎症に好 優先課題と表明し、国連のサミット会議は世 中球、CD8+Tリンパ球とマクロファージが関与、 界規模で NCD に取り組むと宣言した。 症状は進行性、労作性で、気流閉塞の可逆性 一方、国内では 2013 年の COPD 死亡者数 は軽度、気道過敏性は通常みられない。一方、 が 16,000 人を超え、10 大死因の第 9 位、男 喘息は全年齢層に発症、アレルギーや幼少 性死因の第 8 位となった。COPD の患者数は 時の感染が要因、気道炎症に好酸球、CD4+T 大規模疫学調査 NICE study * 3 に基づいて リンパ球が関与、症状に日内変動があり、発 500 万人以上と推定されているが、治療中の 作性で、気流閉塞の可逆性と気道過敏性を特 患者数はわずか 22.3 万人(厚生労働省統計 徴とする。両者の特徴を有することもあり、オ 2005 年)で、“氷山の一角”に例えられる。 ーバーラップ症候群 Asthma-COPD Overlap 国としては健康日本 21(第 2 次)に NCD の一 Syndrome(ACOS)と称している。 次予防、重症化予防対策を重要施策として位 置づけ「主な生活習慣病の発症予防と重症化 適切な管理で予後の改善を期待 予防の徹底に関する目標」として国民の COPD 管理は、禁煙、インフルエンザワクチ 「COPD の認知度」を現状の 25%から平成 34 ン接種と全身併存症の管理、呼吸リハビリテ 年度までに 80%まで引き上げる目標を掲げ、 ーションが行われる。薬物治療は、気管支拡 学会、メディア等を介した啓発活動を展開して 張薬を中心に吸入薬が使用される。軽症例に *4 いる 。 は、必要に応じて短時間作用性 ß 2 刺激薬 Short-Acting Beta Agonist(SABA)の使用か スパイロメトリーが鑑別診断に役立つ COPD はタバコが主因の肺の炎症性疾患で、 ら開始する。症状が持続するときは長時間作 用性 ß 2 刺激薬 Long-Acting Beta Agonist 通常は進行性の労作時の呼吸困難や慢性の ( LABA ) 、 長 時 間 作 用 性 抗 コ リ ン 薬 咳、痰を特徴とするが、症状が乏しいこともあ Long-Acting Muscarinic Antagonist(LAMA) る。病型は 1)細気管支終末部の肺胞壁が破 を使用、または併用する。LAMA と LABA の配 壊され、肺胞の弾性収縮力が消失する気腫 合薬は 1 秒量の変化量や息切れの改善が 各々単独よりも優れる。中等症以上の、気流 返す患者群が明らかに存在し、最も信頼でき 閉塞があり増悪を繰り返す患者には吸入用ス る増悪予測因子は呼吸機能ではなく、増悪既 テロイド、または同薬と LABA の配合薬を使用 往歴であることが判明している。 する。ワクチン接種、吸入ステロイド、長時間 作用性気管支拡張薬(LAMA、LABA)には増 呼吸リハビリテーションの取り組み 悪を予防する効果もある。増悪時は治療薬の 当大学は、教育と運動療法を組み合わせた 変更または追加が必要で、経口ステロイド、抗 2 週間の入院プログラムを 2008 年から開始し 菌剤が投与される。呼吸不全の患者には酸 た。カンファレンスを通じて、主治医、病棟スタ 素療法を行う。LAMA や吸入用ステロイドと ッフリハビリテーション部のスタッフとの情報共 LABA の配合薬は、閉塞性障害の進行、死亡 有をはかり、退院後の患者の看護、介護提供 率の抑制の可能性がある。 者、診療所の医師を含めた医療スタッフに円 滑に医療が継続されるように地域連携室が橋 渡し役となって患者を中心とした医療体制を 全身併存症・肺合併症、禁煙と増悪が課題 全身併存症には骨格筋の障害、骨粗しょう 構築している。2011 年からは呼吸教室を月 1 症、栄養障害、心・血管疾患、抑うつなどが、 回開催している。患者が自己記入式の質問票 肺合併症には肺高血圧症、肺炎、気胸、肺が Lung んなどがある。COPD 患者は COPD のない患 (LINQ)を使って自己管理に必要な情報(病気 者に比べ、高血圧、虚血性心疾患、心不全の の理解、薬、禁煙など自己管理の 6 下位尺度 有病率が高い。全身性の炎症にサイトカイン 16 項目により構成)を確認するとともに、講義 が関与し、その指標として末梢血中の高感度 内容の改善にも活かしている。今後は、それ CRP などが測定される。 ぞれの疾患や重症度に応じた複数の入院プ COPD 患者の喫煙継続による肺機能の影 *5 響を長期観察した Lung Health studyⅠ Information Needs Questionnaire ログラムの開発を進めたいと考えている。 で は、1 秒量が喫煙継続群は年に 60ml減少し、 *1 : Menezes AM, et al. Lancet 2005 Nov 26; 366: 禁煙継続群は 27mlの減少、断続禁煙群は前 1875-81. 2 群の中間値であった。同じ長期観察研究に *2:Toelle B et al. Med J Aust 2013. ; 198 (3): 144-148. て、禁煙プログラム介入群では、非介入群に *3:Fukuchi Y et al. Respirology 2004 Nov; 9(4): 458-65. 比べ 14.5 年生存期間が長いことが確認され *4:21 世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本 た。 21(第 2 次) また、増悪の有無が QOL や予後の指標と なることが明らかにされている。COPD を 3 年 間観察した Eclipse study *6 では、増悪を繰り *5:Anthonisen NR et al. Am J Resp Crit CareMed 2002 Aug 1; 166(3): 333-9. *6:Vestbo J et al. Eur Respir J 2008; 31(4): 869-873.
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