和訳 - 日本労働組合総連合会

質の高い雇用と包摂的な成長の創出:
G20 首脳の役割
G20 首脳会合(2014 年 11 月、ブリスベン)に向けた L20 声明
「我々にとって最も緊急に必要なことは、世界的な回復のモメンタムを増大させ、より高水
準の成長とより質の高い雇用を生み出す・・ことである」
(G20 サンクトペテルブルク・サミ
ット首脳宣言)1
要
旨
世界経済は成長の停滞、失業の増大、投資の減少、雇用ギャップの広がり、所得格差の拡
大に直面している。金融市場は不安定で、気候変動と開発をめぐる課題も解決されていない。
中東での紛争や西アフリカでのエボラ出血熱の感染拡大といった危機の深まりは、地理や開
発の度合いにかかわりなく、我々の経済と社会が相互に結びついている現状を最も端的に反
映している。
L20 に結集する世界の労働運動は、G20 首脳に対し、この危機の時代においてこそ指導力
と政治的意思を発揮して、需要を支え、質の高い雇用を創出し、包摂的で持続可能な開発を
確保するための一連の具体的政策を推進するよう求める。
G20 首脳は以下のことを実行すべきである。
・ ブリスベン行動計画において、需要を刺激し、所得水準を引き上げ、雇用を創出するため
の均衡あるポリシー・ミックスに合意する(§1~4)
。
・ 公共インフラへの投資を推進し、5 年間の投資目標を公約する(§4)
。
・ 質の高い雇用を創出し、若者に訓練を提供するという過去の公約の進捗を検証する(§4)。
1
G20 サンクトペテルブルク首脳会合最終宣言(2013 年 9 月)
1
・ 低炭素成長への投資と温室効果ガス排出削減に向けた野心的計画を公約する(§5)
。
・ 公正な課税の確保に向けた動きを加速し、「税源浸食と利益移転(BEPS)行動計画」を実
行し、金融改革と「大きすぎて潰せない」銀行の解消という過去の公約を前進させる(§
6~7)
。
・ 貿易とサプライチェーンがディーセントな雇用の創出と安全な職場の確保に貢献できる
ようにする(§8~9)。
・ 過去の公約を実行し、特に G20 の財務トラックと労働トラック間の調整を強化するととも
に、G20 と国内政策プロセスに労働者の声を反映させて、景気回復への国民の信頼を回復
する(§10)。
均衡あるポリシー・ミックスの正しさ
-
L20 によるモデリングの結果
L20 のシミュレーションは、
「対 GDP の労働分配率を今後 5 年で 1~5%引き上げるととも
に、各国で社会的、物質的インフラへの公共投資を GDP の 1%増やすことを目標にして、協
調のとれたポリシー・ミックスを実行すれば、G20 の成長率を最大 5.84%引き上げるととも
に、賃金主導型の景気回復による強力な内需効果で純輸出と民間投資のマイナス分を補える」
2
ことを示唆している。つまり、2%成長目標を上回り、現行の政策が続けば、2018 年には 6,400
万人に達すると見込まれる G20 の雇用不足を半分に縮小することもできる。
持続可能な成長と良質な雇用のための G20 行動計画
1.
2014 年 2 月、20 カ国(G20)の財務大臣・中央銀行総裁は、G20 全体の GDP を「今後
5 年間で・・・現行の政策により達成される水準よりも 2%以上引き上げる」3ことを公約し
た。だが、それから数カ月の間に、G20 の予測が的外れであることが明確になった。2014 年
のうちに主な国際機関による世界の成長予測は次々に下方修正された。新興国の成長鈍化と
ユーロ圏でのデフレの脅威拡大が雇用と生活水準にとって大きなリスクになっている。多く
の国で緊縮財政と勤労者世帯の収入の低迷が成長のいっそうの足かせになっている。失業率
が高止まりし、あるいは上昇し続ける期間が長ければ長いほど、傷あととして残り、失業が
「構造的」になる恐れが強まる。
2. L20 は斬新なアプローチが必要だと確信している。世界の労働者の賃金をただちに引き
上げる必要がある。公共投資を拡大して成長を刺激する必要があり、また着実かつ長期的な
経済発展のためには雇用増を伴う包摂的な成長にしなければならない。G20 は 2013 年 9 月の
サンクトペテルブルク首脳会合で、そうした戦略の有効性を認めている。同年 7 月のモスク
ワでの G20 雇用労働大臣・財務大臣合同会合は「総需要を支え、格差を是正する労働市場お
2
グリニッジ大学オズレム・オナラン教授による L20 調査研究報告書:
「G20 における賃金主導の景気
回復と公共投資に向けた協調の取れたポリシー・ミックスの事例」(2014 年)
3
https://www.g20.org/australia_2014/finance_ministers_and_central_bank_governors_meeting
2
よび社会的投資政策、具体的には生産性の幅広い向上、対象を定めた社会的保護、全国的な
賃金決定システムとの関連で適切に設定された最低賃金、全国的な団体交渉システムなど、
生産性、賃金、雇用の連動性を高める政策」4を公約した。この会合自体が、政府省庁間の緊
密な政策調整と G20 各国の政策的一貫性が求められていることを示すものである。公約の実
行の遅れは、あらためてそのことを再確認させる。
3.
ブリスベン首脳会合の行動計画には、2013 年に公約した「総需要を支え、格差を縮小
する」ための包括的な措置をとり入れるとともに、各国内と G20 の段階で調整をはかり、政
策の一貫性を確保しなければならない。なによりも賃金所得者であり消費者でもある労働者
家庭に、良質な雇用を創出するための断固たる対策がとられるとの確信を与えなければなら
ない。L20 が委託し、メルボルンでの G20 雇用労働大臣・財務大臣合同会合とケアンズでの
財務大臣会合に提出された経済シミュレーションによると、賃金政策と投資政策を適切に組
み合わせれば、通常の政策をとった場合に比べて、2018 年までに G20 各国の成長を最大で
5.84%底上げする可能性がある。
今こそインフラに投資すべき時である。まずは各国政府が財政的余力を活用して公共イン
フラに投資しなければならない。公共投資こそインフラ整備のための効果的な方法であり、
これを制限する財政ルールは変更すべきである。民間資金が必要な場合は、リスク分担、透
明性、説明責任という点で、長期的な投資のための高い基準に従って導入すべきである。
4.
そこで L20 は G20 各国首脳に対し、以下の政策の実行を公約するよう求める。これは
雇用労働大臣会合や財務大臣・中央銀行総裁会議ですでに議論されてきた内容である。
・ グリーンでディーセントな雇用を生み出す低炭素経済への転換を後押しすることで、雇用
創出と潜在的生産力の長期的向上をもたらす公共インフラへの投資を前面に押し出す。
・ 各国の成長、産業、雇用計画に今後 5 年間の投資目標を盛り込み、労働者年金基金を含む
機関投資家による投資を後押しする。具体的には、「機関投資家による長期投資ファイナ
ンスに関する G20・OECD ハイレベル原則」を実行し、企業や投資家による責任ある投資
を投資の流れ全体に普及させることで、金融仲介機関の説明責任と透明性を確保する。
・ 低中所得層の収入を引き上げて格差を縮小し、経済に購買力を注入し、公正で累進的な税
制へ移行する。
・ 労働者の権利と社会的保護システムを強化し、雇用を正規化するとともに、正規雇用が非
正規雇用に変質するのを防ぐ。
・ 非正規雇用や不安定雇用を減らし、包摂的な労働市場を構築する。具体的には、保育施設
や「ケア・エコノミー」への投資などを通じて、女性、若者、少数民族をはじめとする弱
者グループの労働参加率を高める。
・ 世界規模で社会的保護の土台(床)を導入して、すべての人対象の医療・介護体制と基礎
4
http://en.g20russia.ru/news/20130719/781660747.html
3
的な公共サービスを確保する。
・ 若者の雇用を支援するために、L20 と B20 が主張する包括的な若者戦略と、カウンセリン
グ、職業斡旋、良質な職業訓練と実習制度を提供するユース・ギャランティー(若年者保
証制度)とを導入し、質の高い公教育への投資を増やす。
気候変動とグリーン成長に関する G20 のリーダーシップ
5. 死んだ惑星に雇用はない。L20 はブリスベンに集う G20 首脳に対し、低炭素成長を促進
する投資を呼び込み、野心的で公正な二酸化炭素排出削減計画を公約し、2015 年にパリで開
催される多国間気候変動交渉の成功を確保するよう訴える。具体的には以下を実行すべきで
ある。
・ 野心的で G20 各国に拘束力のある公正な削減計画を公約する。
・ 社会対話を促進することで、研究開発と技術革新を深め、産業転換を推進する。
・ グリーン気候基金に対し、金融取引税(FTT)や炭素税などの公的財源を含めて十分な財
源を投入するとともに、責任ある投資家に長期的な選択肢を提供する手段としてのグリー
ン債の発行を支援する。
・ エネルギー消費型で気候変動に脆弱な産業において、困難に直面する労働者の質の高い雇
用と生活を守るために、産業転換を伴う公正な移行戦略への支持を表明する。
・ 食品とエネルギーの安全保障の観点から実現可能な目標を設定し、持続可能な経済活動を
支持することで、環境保護と経済発展を両立させるグリーン成長モデルに移行する。
・ 温室効果ガス排出の外部コストを価格決定メカニズムに組み込むとともに、貧困家庭と消
費者を守り、意識を高めるための対策も同時に考案すべきである。
課税と金融規制に向けた流れを強める
6. L20 は、多国籍企業の税金逃れを防ぐために G20 が承認した OECD「税源浸食と利益移
転(BEPS)行動計画」を支持する。9 月に公表された BEPS に関する OECD の中間報告は、
計画の効果的な履行という点で期待をもたせるものだった。だが国別報告などの面では懸念
も残る。L20 は課税逃れを防ぐために税務当局間で OECD「金融口座情報に関する自動的情
報交換基準」を実行するとの公約も支持する。いずれの対策も徹底的に実行する必要がある。
L20 は G20 各国政府に以下のことを求める。
・ 多国籍企業による国別納税報告を一般公開することを公約する。現在の BEPS 案では、国
別報告は各国の税務当局だけに提出することになっている。一般への公開または部分的公
4
開は、まったく検討されていない。課税に関する説明責任についてのこうした限定的な方
法では、経済発展に対するグローバル企業の貢献について市民の信頼を再構築することは
できない。
・ BEPS と「金融口座情報の自動的交換基準」の実行への途上国の参加を後押しするために、
具体的な制度的支援を行う。現在の BEPS への途上国の参加は地域における「協議」とい
う形だけであり、まったく不十分である。G20 はその財源と組織的能力を活用し、途上国
の税務当局が BEPS 行動計画と OECD「自動的情報交換基準」の要件を満たせるよう、柔
軟な段階的導入の仕組みなども活用して支援すべきである。
・ シャドーバンキングや私募ファンドへの税務処理について決定する。いまこそ G20 は税と
金融に対する包括的な取り組みを強化し、実行するときである。BEPS 行動計画の中間報
告で、OECD はシャドーバンキング・システム(レポ市場を含む)と私募ファンド(プラ
イベートエクイティとヘッジファンドを含む)に対する税務処理が困難なことを認めてい
る。G20 では、長い間、課税逃れと金融改革に関する行動計画が別々に取り扱われるのが
常だった。
7.
G20 で合意された金融改革の進捗はあまりに遅く、また不十分である。金融改革は、投資
家を短期の投機的行動から忍耐強く、生産的で長期の設備投資戦略に向かわせるものでなけ
ればならない。健全化および監督ルールの強化など、一定の重要な規制改革は導入されたが、
シャドーバンキングや「大きすぎて潰せない」(TBTF)銀行のシステミックリスクへの対策
は、金融安定理事会(FSB)でいまだに「作業進行中」の状態にある。銀行の規模が大きく
なるほど、その負債と、それがもたらすコスト節減効果に対する「暗黙の」公的保証も大き
くなる。先ごろの G20 財務大臣会合で、最終的な TBTF 対策案を合意する前にもう一度銀行
業界との「協議」を行うことが決定されたが、ここから明らかなように作業がさらに遅れる
ことは避けられそうにない。一方で、金融市場では相変わらず投機的な行動が蔓延しており、
アルゼンチンの政府債務の再編成のなかでもそれは見られた。L20 は G20 の各国政府に対し、
FSB の行動計画を加速させ、より意欲的なものにするために、以下に取り組むよう求める。
・ FSB、IMF、OECD に対し、リテール銀行業務を高リスク取引と投資銀行業務から隔絶す
るための国際的に足並みをそろえた対策を含め、TBTF グループの監視および構造的改革
の取り組みをいっそう強化するよう指示する。
・ 税と金融に対する包括的アプローチの主張に従って、上場証券や店頭取引のデリバティブ
まで対象にした FTT を支持するとともに、債務再編プロセスを含めた投機的取引を抑制し、
資金を経済活動と持続可能な開発に注入するための追加的対策を導入する。
貿易とサプライチェーンをディーセントな雇用創出と安全な職場の確保に役立てる
8. G20 および各国政府は、多国間貿易協定あるいは地域貿易協定(RTAs)や世界的・地域
5
的な開発協力が、国際労働基準や、公共サービスへの普遍的アクセスおよび各国レベルでの
社会対話の保証を含む持続可能で包摂的な開発目標と原則に一致するようにしなければなら
ない。L20 は G20 に以下のことを求める。
・ 法的保証、監視手続き、奴隷労働やインフォーマル労働、その他の形態の強制労働・不安
定労働をサプライチェーンから根絶する。
・ グローバル・サプライチェーンにいる労働者の最低限の生活賃金と保護を導入する。
・ ブリスベンの首脳宣言に「安全な職場に関する宣言」を付け加え、ILO のディーセントワ
ーク・アジェンダに基づいてサプライチェーン内部で生命を守り、社会的、経済的水準を
引き上げるための一連の政策を盛り込む。
・ 国際的に合意された基準に基づき地域貿易協定および二国間貿易協定において、労働者の
権利と職場の安全確保を法的に強制できるように保証する。
・ G20 の行動において、途上国に対する政策的余地を残すとともに、ポスト 2015 年開発枠
組みおよび他の国際的な開発協力での G20 自身の役割を見直す。
・ 公的な説明責任、正当性、透明性を欠いた「投資家対国家の紛争解決」(ISDS)手続を廃
止し、投資家の責任ある投資の保護と国家・市民・労働者の権利のバランスを見直す。
・ OECD「多国籍企業行動指針」
、および国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の実行に
関連して、各国連絡窓口の役割を強化する。
・ 非財務情報の開示を義務化することにより、途上国での持続可能な開発と人権に関連した
多国籍企業の説明責任を強化する。
9.
G20 首脳会合は、西アフリカでのエボラ出血熱の感染拡大が前例のない数の犠牲者をもた
らし、現場での積極的支援や資金援助を含め、ただちに国際的な連帯行動と各国の共同の政
策対応が求められている状況下で開催される。この出来事で各国の経済と社会が深く結びつ
いていることが浮き彫りになった。公衆衛生と経済開発を確保できなければ、どこでもこう
した事態が起きる危険性がある。またエボラ出血熱の感染阻止の最前線に立つ医療労働者に
犠牲者が出ていることは、彼らが直面するリスクの大きさを示すものであり、ただちに十分
な保護体制、装備、安全基準、および我々の全面的支援が求められている。
公約を実行し調整を強化する
10.
需要を拡大し、格差を縮小し、質の高い雇用を創出するための政策パッケージは、働
く人々の支持を得て、危機に疲弊した社会が強く求める信頼を回復させるだろう。G20 の公
約を前進させ、継続させるためには、政府省庁間の政策調整を強化し、G20 各国の政策に一
貫性をもたせる必要がある。具体的には以下のことが求められる。
6
・ 既存の政策を並べただけの「行動計画」から脱却し、国内および国際段階で実行可能な調
整された行動と新しい具体的公約に向けて前進する。そういった意味で、G20 宣言でなさ
れた公約の内容が各国の具体的な政策変更に反映されるべきである。
・ G20 雇用タスクフォースを G20 作業部会に転換し、これに財務トラックとの合同作業を明
確に義務づけ、国際機関や社会的パートナーの支援も得て調整された政策パッケージを策
定する。
・ 2015 年の雇用労働大臣・財務大臣合同会合を通じて政策的一貫性を確立する。
・ 閣僚会合と首脳会合のいずれにおいても社会的パートナーとの協議の場を設けるととも
に、国内での実行手続と対話に労働組合を参加させることで労働者の声を反映させる。
以上
7