パッシブ法を用いた新潟県内における大気汚染物質濃度観測(PDF形式

新潟県保健環境科学研究所年報 第23巻 2008
75
パッシブ法を用いた新潟県内における大気汚染物質濃度観測
Air Pollutant Monitoring in Niigata Prefecture by Using Passive Sampler
高橋雅昭,武直子,大泉毅,家合浩明*
Masaaki Takahashi, Naoko Take, Tsuyoshi Ohizumi, Hiroaki Yagoh
Keywords:パッシブ法,フィルターパック法,アーティファクト,乾性沈着量
1
はじめに
表 1 調査地点及び所在地
新潟県内における大気汚染物質の観測は主に都市部に
おいて行われており,山間地での観測データはほとんど得
られていない.その一方で,大陸からの大気汚染物質の移
流が指摘されており,山間地を含めた県内全域の汚染状況
を把握することは,県内の大気汚染に対する地域内の発生
源と移流の相対的な寄与割合について考察する点におい
て重要である.
ガス状物質の大気濃度測定には,従来,
自動測定機法(AP
法)やフィルターパック法(FP 法)等が主に用いられてき
た.これに対し,パッシブ法(PS 法)は電源を必要としな
い点や装置が安価であるという利点があるため,山間地や
多地点でのモニタリングに近年普及し始めた方法である.
本研究では,PS 法による大気汚染物質濃度測定の新潟県
への適用に関する基礎的検討として,従来法との比較調査
を行い,若干の知見を得たので報告する.
2 方 法
2. 1 試料採取
調査地点及び所在地を表 1 に,調査概要を表 2 に示す.
調査は 2003 年 4 月から 2007 年 3 月まで行ったが,2006 年
4 月に調査地点と項目を一部変更している.PS 法による試
料採取は平野らによるマニュアル 1)に従い,(株)小川商会製
調査地点
三条
笠堀
新潟曽和
津南
六日町
朝日
新潟巻
佐渡関岬
所在地
三条市 三条大気常時監視局
三条市 三条土木事務所笠堀分室
新潟市 保健環境科学研究所
津南町 高冷地農業技術センター
南魚沼市 南魚沼地域振興局
朝日村 森林研究所
新潟市 国設新潟巻酸性雨測定所
佐渡市 国設佐渡関岬酸性雨測定所
サンプラー(OG-SN-S 型)に捕集用ろ紙(OG-SN-10~12
(NO2,NOx,SO2),16 (O3),17 (NH3))を装着して行った.
PS 法の大気濃度算出に用いる気象データのうち,三条と笠
堀の温湿度は(株)テストー社製温湿度計(testo175-H2)で測
定した.新潟巻の気象データは環境省によるモニタリング
結果を,それら以外の地点の温湿度およびその他の項目に
ついては最寄りの気象官署のデータをそれぞれ使用した.
AP 法によるデータは,三条は大気汚染常時監視による観
測結果を,新潟巻は環境省による観測結果を使用した.FP
法による観測は環境省マニュアル 2)に従った.
2. 2 分析
PS 法試料の抽出および測定はマニュアル 1)に従った.抽
出成分の濃度測定には主にイオンクロマトグラフ法(日本
表2 調査の概要
調査地点
調査期間
PS 法
サンプリング頻度
AP 法
FP 法
三条
2003.4~2006.3
NO2, NOx, O3, SO2, NH3
NO2, NOx, O3
NH3
笠堀
2003.4~2007.3
NO2, NOx, O3, SO2, NH3
O3
NH3
新潟曽和
2003.4~2006.3
O3
4 週間
4 週間
(2006 年度は 2 週間)
4 週間
津南
2003.4~2006.3
O3
4 週間
六日町
2003.4~2006.3
O3
4 週間
朝日
2003.4~2006.3
O3
4 週間
新潟巻
2006.4~2007.3
NO2, NOx, O3
2 週間
NO2, NOx, O3
佐渡関岬
2006.4~2007.3
NO2, NOx, O3
2 週間
NO2, NOx, O3
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
* 酸性雨研究センター
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新潟県保健環境科学研究所年報 第23巻 2008
ダイオネクス(株)製の DX-500(陰イオン)と ICS-1500(陽イ
オン))を用いたが,2003~2005 年度の NO2 と NOx は分光
光度法((株)島津製作所製 UV-2400PC)によった.NOx 分
析 で 妨 害 成 分 と な る PTIO ( 2-Phenyl-4,4,5,5tetramethylimidazoline-3-oxide-1-oxyl)はジエチルエーテルで
抽出して除去した.
3 結果と考察
3. 1 PS 法と従来法の比較
図 1 に新潟巻と三条における NH3 を除く成分(項目)の
PS 法とAP 法の月平均濃度を比較した結果を示した.
また,
図 2 に NH3 濃度について三条と笠堀における PS 法と FP
法の比較結果を示した.ここでは,従来法(AP 法と FP 法)
の濃度を基準として PS 法を評価した.各項目の検討結果
を以下に示す.
(1) O3
PS 法は AP 法と比較すると,概ね同程度の測定値であっ
たが,春季に PS 法のほうが高濃度だった.
(2) NO2
PS 法では季節変動が小さかった一方,AP 法では冬季に
明瞭なピークが見られた.両者を比較すると,冬季を除き
同程度の測定値であったが,
冬季は PS 法が AP 法より低濃
度となる傾向が強いことがわかった.
(3) NOx
NOx は NO2 と異なり,PS 法の方が AP 法より高い月が
多かった.特に,夏季にはその傾向が顕著であった.
(4) SO2
PS 法は AP 法と同様の季節変動を示すものの,年間を通
じて PS 法の方が低濃度であった.
(5) NH3
PS 法は FP 法に比して季節変動は小さかった.冬季を除
いて FP 法が PS 法より高いことがわかった.この原因とし
て,ろ紙上に捕集されたエアロゾルがガスと反応してガス
化する現象(アーティファクト)の影響により,FP 法は NH3
ガス濃度を過大評価していることが考えられた.
このように,PS 法と従来法の間に濃度差が認められ,そ
の大きさは項目あるいは季節によって異なった傾向を示
すことが明らかとなった.この濃度差の原因について考察
するため,PS 法における大気濃度の算出方法に関して以下
の検討を行った.ただし,SO2 については濃度が低く,測
定精度が必ずしも十分ではないと考えられたため,詳細な
解析は行わなかった.
3. 2 濃度換算式についての検討
PS 法では,各成分の捕集量から以下のようにして大気濃
度を算出している.
最初に,各成分の捕集量と暴露時間から単位時間あたり
の捕集量を求める.それに,換算係数(α値)を乗じたもの
が大気濃度である.
α値は物質ごとに異なり,マニュアル 1)には気温や湿度
を考慮した場合の式として以下が記されている.
293
α O3 = 46.2 ×10 2 × (
) 1.83
273 + [T]
1
×
(9.94 × log(t)-6.5 3)
α NO = 45.3 ×
-0.046 × [T] + 219.94
-0.439 × [P] × [RH] + 208.16
α NO2 = 77.2 ×
2.003 × [T] + 89.41
0.637 × [P] × [RH] + 131.47
αSO2 = 39.4 × (
293
) 1.83
273 + [T]
αNH3 = 43.8 × (
P = (
293
) 1.83
273 + [T]
2
2P N
)3
PT + PN
RH:相対湿度(%)
T:温度(℃) t:暴露時間(min)
PN:20℃における水蒸気圧(mmHg)
PT:測定時の平均気温における水蒸気圧(mmHg)
上述の計算式を用いて求めた 2005 年度の三条における
NO2 のα値等測定データを例として表 3 に示した.
月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10 月
11 月
12 月
1月
2月
3月
表 3 大気濃度への換算の例 (NO2)
換算 PS 法捕集量 PS 法濃度 AP 法濃度
(ppbv)
(ppbv)
係数
(ng/分)
48
0.17
8.0
9.9
52
0.11
6.0
7.9
60
0.13
7.6
8.1
61
0.13
8.1
7.7
64
0.13
8.0
7.0
62
0.14
8.7
7.7
52
0.18
9.1
9.9
43
0.19
8.2
11
35
0.18
6.3
10
35
0.22
7.5
14
37
0.27
9.9
16
39
0.20
8.0
12
上述の例では,AP 法による濃度が高い 1 月から 3 月に
かけて,捕集量も増大しているが,この期間のα値は他の
期間より小さいため,PS 法による濃度は捕集量の増加ほど
大きくなっていない.その結果として,PS 法濃度は春から
秋にかけては AP 法と同程度であるが,冬期間は AP 法に
比較して明らかに低い値を示している.
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70
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60
O3;新潟巻
60
O3;三条
50
50
40
40
30
30
20
20
10
10
0
0
6
16
14
NO2;新潟巻
5
NO2;三条
12
4
10
3
8
2
6
4
1
2月
2月
2
12月
2月
12 月
SO2;三条
1.5
1
0.5
0
4月
10 月
8月
6月
0
4月
濃
1
12月
2
10月
度
3
NOX;三条
図 1 パッシブ法と自動測定機法との比較
10月
(
4
NOX;新潟巻
8月
p
5
8月
p
6
6月
b
7
6月
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
v
0
4月
)
2
0
78
新潟県保健環境科学研究所年報 第23巻 2008
1.5
濃 度 (ppbv)
5
4
NH3;三条
3
2
NH3;笠堀
1
0.5
1
2月
12月
10月
8月
6月
2月
12月
10月
8月
6月
4月
図2
4月
0
0
パッシブ法とフィルターパック法との比較
1)
マニュアル には,α値を上述のように気温や湿度を考
慮して算出する方法に加え,一定値を用いる場合も例示さ
れていることを考えれば,α値は気象条件や観測条件など
を考慮しながら,信頼できる観測値との比較などにより,
その妥当性を検証されるべきものであると考えられる.こ
のことから,ここでは従来法との濃度差を最小にするα値
の算出式について項目別に以下で検討した.
(1) NO2
(式1とする)に加えて,
NO2について前掲のマニュアル式
以下の 3 式について検討を行った.式 2 は旧マニュアルに
掲載されていた式で,α値は温度と湿度に依存している.
式3は全国環境研協議会第4次酸性雨全国調査報告書(2007
年度)3) にある温度依存式である.式 4 は温度に依存する部
分も省いて定数としたものである.
表 4 自動測定機法とパッシブ法の相関(O3)
式1
式2
式3
式4
相関係数
0.84
0.94
0.98
0.98
傾き
0.65
0.94
1.06
0.96
切片
1.39
0.77
-0.18
0.27
(2) NOx
NO についても NO2 と同様,マニュアル式(式 1)以外に 3
つの式について検討した.式 2 は旧マニュアルの式,式 3
は温度依存式,式 4 は定数である.
(式 2)
αNO = 10 4 /(-0.780 ×[P] ×[RH] +
(式 3)
αNO = 56×(
835 - 615 × (273 + [T])/293)
4
(式 2) αNO2 =
10
0.677 ×[P]×[RH] + 2.009 ×[T] + 89.8
(式 3) αNO2 = 57 × (
293
) 1.83
273 + [T]
(式 4) αNO2 = 57
2006 年度の新潟巻における測定値を用いて計算した結
果を図 3(a)-1 と図 3(a)-2 に示す.
式 1 と比較すると,いずれの式も冬季の測定値は AP 法
によるものに近くなった.式 2 では他の式に比べ,夏季に
高めの値になる傾向があった.
三条と新潟巻における比較可能な全てのデータについ
てそれぞれの式による測定値と AP 法の結果の間の相関係
数,回帰直線の傾き,切片の値を表 4 に示す.式 1 に比べ
て式 3 及び式 4 の方が相関係数が高く,回帰直線の傾きも
1 に近かった.切片も小さい値であった.全環研の解析 3) に
よると,寒冷地の寒候期にこのような結果になる地点が多
いことがわかっている.この原因は必ずしも明らかではな
いが,降雪の吹き込みによって湿度が高く測定されること
や,AP 法は乾きガスの濃度を測定しているのに対し,PS
法は湿りガスの濃度であることなどが影響している可能
性も考えられる.
(式 4)
293
) 1.83
273 + [T]
αNO = 56
2006年度の新潟巻の測定値を用いて4つの式を比較し,
NOx(NO+NO2)を計算した結果を図 3(b)-1 と図 3(b)-2 に示
す.ここで,NO2 はそれぞれ前項(1)の式 2 から式 4 の値を
用いた.
夏季はいずれの式も AP 法より高い測定値であったが,
式 3 が他より低くなった.一方,冬季は式 1 が他よりも
AP 法に近くなった.
新潟巻と三条のデータについて,それぞれの式で計算し
た場合の相関係数,傾き,切片の値を表 5 に示す.NOx の
場合も式 3 が最も良く一致することがわかった.
表 5 自動測定機法とパッシブ法の相関(NOx)
式1
式2
式3
式4
相関係数
0.88
0.95
0.97
0.97
傾き
0.90
1.2
1.2
1.2
切片
1.4
0.75
-0.043
0.55
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7
79
7
AP法
式4
式3
2月
12月
4月
10月
式3
式4
)
AP法
10月
0
2月
1
0
12月
2
1
8月
3
2
6月
4
3
8月
5
4
4月
(a)-2;NO2
6
(a)-1;NO2
5
6月
6
8
(b)-1;NOX
6
(b)-2;NOX
8
6
p
b
v
10
4
2
2
0
AP法
式1
式2
AP法
式3
2月
12月
10月
8月
6月
4月
2月
12月
10月
8月
6月
4月
0
濃
度
(
p
4
式4
80
(c);O3
60
40
20
AP法
式1
2月
12月
10月
8月
6月
4月
0
式2
式3
図 3 パッシブ法における換算式の違いによる大気濃度の比較(新潟巻)
(3) O3
O3 についてはマニュアル式 (式 1)の他,以下の 2 式につ
いて検討した.式 2 は時間に依存する部分を省いた温度依
存式で,式 3 はその定数部分のみの式である.2006 年度の
新潟巻の測定値を用いて比較した結果を図 3(c)に示す.
(式 2) αO3 = 46.2 × (
293
) 1.83
273 + [T]
(式 3) αO3 = 46.2
三条,新潟巻,笠堀,佐渡関岬の比較可能なデータに対
して,それぞれの式で計算した場合の相関係数,傾き,切
片の値を表 6 に示す.
表 6 自動測定機法とパッシブの相関(O3)
相関係数
傾き
切片
式1
0.55
0.81
13
式2
0.53
0.74
13
式3
0.59
0.71
12
O3 の場合は計算式による違いが NO2 や NOx に比べて小
さい結果となった.春季に見られる測定値のずれは他の要
因によるものと考えられる.
3. 3 PS 法による大気濃度観測結果
上述の検討結果に基づき,従来法との濃度差が最小とな
るα式を用いて計算した PS 法による各地点,各項目の年
80
新潟県保健環境科学研究所年報 第23巻 2008
平均濃度及び月平均濃度の最大値と最小値を表 7 に示し
た.全国環境研協議会北海道・東北支部による 2003~2005
年度調査における平均値 4)も合わせて示した.
津南,笠堀,新潟巻,佐渡関岬局の O3 及び三条局の NO2,
NOx,SO2 で,平均値より高い濃度が観測された.その他
は同程度または低い濃度であった.O3 濃度は NOx 濃度が
低いために O3 が消費されないバックグラウンドの森林地
域で高い傾向が認められており,同様の理由で離島でも高
いことが予想される.その他の成分は三条が他の地点より
高いことがわかった.
3. 4 PS 法データを用いた乾性沈着量の推計
ガス状成分について,2005 年度の三条における PS 法,
FP 法及びAP 法による観測濃度と気象データを乾性沈着推
計ファイル 5)Ver.3-1 に入力して求めた乾性沈着速度を掛け
合わせて乾性沈着量を推計した.推計に必要な気象データ
のうち,気温と湿度は同地点での温湿度データロガーによ
(風
る観測値,
それ以外は気象庁月報 6) に収集されたデータ
速は三条アメダス,日射量と雲量は新潟気象台)をそれぞ
れ使用した.また,積雪の有無は長岡のデータから積雪の
深さを読み,1cm 以上の積雪のある場合は地表面が積雪で
あると見なした.AP 法のデータは PS 法と同じ時間の平均
値を用いた.NH3 は FP 法による濃度を用いた.PS 法にお
ける NO2 及び NOx の換算式はいずれも温度依存式(式 3)を
用いた.結果を表 8 に示す.
表 8 乾性沈着量の推計結果 (単位: mg/m2)
観測方法
O3
NO
NO2
NH3
PS 法
4199
1.9
247
103
従来法
4904
(AP 法)
1.3
(AP 法)
253
(AP 法)
210
(FP 法)
PS 法による O3 の乾性沈着量は,従来法に比較して O3
はやや低いが両法共に酸性雨研究センターによる 2004 年
度の県内陸域における O3 の年沈着量 4566mg/m2 と大きな
差はなかった 7).NO2 は冬季に濃度差が大きかったが,年
沈着量では両法間に大きな差は無かった.NO は PS 法の方
がやや乾性沈着量が大きかった.これに対し,NH3 ではア
ーティファクトの影響によって FP 法から推計された沈着
量は過大評価されている可能性が考えられた.アンモニア
化合物の乾性沈着量については,全国環境研協議会による
第 4 次酸性雨全国調査の報告書(2007 年度)3) に PS 法と FP
法を組み合わせて算出する方法が示されている.すなわ
ち,NH3 ガス濃度は PS 法の観測値をそのまま用い,粒子
状 NH4+濃度は FP 法による全アンモニウム化合物濃度(粒
子状 NH4+濃度と NH3 ガス濃度の和)から PS 法による NH3
ガス濃度を差し引いた値とする.つまり,FP 法によるアー
ティファクトを予め想定して,FP 法と PS 法を組み合わせ
表 7 パッシブ法による大気濃度観測結果
項目
O3
NO2
NOx
SO2
NH3
地点/年度
2003
2004
2005
新潟曽和
津南
六日町
朝日
三条
笠堀
新潟巻
佐渡関岬
三条
笠堀
新潟巻
佐渡関岬
三条
笠堀
新潟巻
佐渡関岬
三条
笠堀
三条
笠堀
33
38
27
26
31
45
35
41
28
25
33
45
33
39
25
24
32
42
12
1.6
11
1.6
10
1.7
17
4.1
14
3.5
13
3.4
0.46
0.46
1.1
0.21
0.32
0.20
1.2
0.21
0.30
0.19
1.2
0.26
2006
44
45
47
1.7
3.9
0.55
3.1
5.0
1.3
(単位:ppbv)
最大
最小
49
58
52
42
56
75
63
60
17
6.3
6.3
0.75
25
23
7.8
1.9
0.84
0.84
1.6
0.45
18
23
12
12
15
23
31
30
6.7
0.16
2.7
0.42
8.0
1.4
3.5
0.79
ND
ND
0.57
ND
北海道・東北支部平均値
(2003~2005 年度)
31
6.8
10
1.0 (秋田茨島除く)
新潟県保健環境科学研究所年報 第23巻 2008
ることにより,ガス状および粒子状アンモニウム化合物の
濃度をより正確に評価しようとする方法である.この方法
により求めたアンモニウム化合物の乾性沈着量を表 9 に示
した.
表 9 アンモニウム化合物の乾性沈着量 (単位: mg/m2)
NH4+
NH3+NH4+
NH3
乾性沈着量
210
12
222
FP 法単独
FP 法と PS 法の
202)
123
1031)
組み合わせ
1) PS 法の NH3 から計算
2) FP 法の NH3+NH4+から PS 法の NH3 を差し引いた値を
NH4+として計算
この結果によると,FP 法と PS 法を組み合わせて求めた
乾性沈着量はFP 法のみを用いた場合の半分程度であった.
これは,粒子とガスの沈着速度の差が主な要因である.三
条における 2005 年度の通年の平均沈着速度は,粒子は
0.026 cm/s でガスは0.42 cm/s であり,
10 倍以上の差がある.
アーティファクトによってガス濃度を過大評価すること
は乾性沈着量の算出において大きな誤差要因となりうる.
この点から,アンモニウム化合物の乾性沈着量の推計には
PS 法によるガス濃度測定が有効である.
4 まとめ
2
)
2003 年 4 月から 2007 年 3 月まで,新潟県内の 8 地点で
PS 法によるガス濃度調査を行い,一部の地点で従来法(AP
法および FP 法)との比較を行った.この結果,以下のこ
とがわかった.
(1) PS 法は従来法と概ね同様な季節変動を示したが,一部
PS 法で測定した濃度には以下の傾向が見られた.
1) O3 は春季に AP 法よりやや高い.
2) NO2 は冬季に AP 法より低い.
3) NOx は夏季に AP 法より高い.
4) NH3 は冬季以外,FP 法より低い.
81
(2) NO2 と NOx では PS 法における大気濃度への換算式を
気温のみに依存する式とした場合に AP 法との相関性が
向上した.O3 では換算式による違いは見られなかった.
(3) PS 法で観測した O3 濃度は,山間地の津南や笠堀,佐
渡関岬のような離島で他の地域より高かった.このこと
から,O3 による汚染状況を把握するためには PS 法によ
る観測が有用であると考えられた.それ以外の成分につ
いては,山間地や離島では低濃度であった.
(4) 各成分濃度の季節変動は,O3 は冬季から春季にかけて,
NO2 と NOx は冬季に,NH3 は夏季に高濃度となることが
わかった.
(5) アンモニウム化合物の乾性沈着量の推計には、PS 法と
FP 法の組み合わせが有効であると考えられた.
本報告は第 47,48 回大気環境学会年会での発表に加筆
したものである.
参考文献
1) 平野耕一郎,斉藤勝美:(訂正)短期暴露型拡散サンプラ
ーを用いた環境大気中の NO2,NOx,SO2,O3 及び NH3
濃度の測定方法(2002) .
2) EANET:Technical Document for Filter Pack Method in East
Asia,(2003).
3) 全国環境研協議会:第 4 次酸性雨全国調査報告書(平成
17 年度),全国環境研会誌,32,59(2007).
4) 全国環境研協議会北海道・東北支部酸性雨調査研究専門
部会:北海道・東北におけるガス状酸性化成分等の濃度
分布調査 3 年間のまとめ,平成 20 年 3 月.
5) 野口 泉,
松田 和秀:乾性沈着量推計ファイル
(Ver. 3.0)
の開発,第 47 回大気環境学会講演要旨集,(2006).
(http://www.hokkaido-ies.go.jp/seisakuka/acid_rain/kanseichi
nchaku/kanseichinchaku.htm)
6) 気象庁:気象庁月報,2003 年 4 月-2004 年 3 月.
7) (財)日本環境衛生センター酸性雨研究センター:平
成 17 年度新潟県委託酸化性物質沈着量地域特性解析調
査委託事業報告書,平成 18 年 3 月.