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メガ帯/ギガ帯アナログ信号を
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克服するオシロスコープ活用術
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02 | Keysight | メガ帯/ギガ帯アナログ信号を克服するオシロスコープ活用術
1.
高速信号評価のためのオシロス
コープの正しい選び方
図 1 をご覧ください。USB2.0 Hi-Speed (伝送レート 480Mbps,
立ち上がり時間 500ps)デバイスから送信されたテストパケット
を,1GHz 帯域および 2.5GHz 帯域という帯域が違う 2 つのオシ
ロスコープで測定した結果です.同じ信号を測定しているにもか
かわらず,測定された波形に違いがあります.結論から言うと,
図 1(a)は間違えた測定波形,図 1(b)は正しい測定波形です.な
ぜこのような違いが見られるのでしょうか.それは,1GHz 帯域
のオシロスコープは USB2.0 Hi-Speed の信号を測定するため
必要な測定系の帯域 1.5GHz を満足していないためです.オシ
ロスコープの帯域不足が原因で信号の高周波成分が欠落し,波
打ったような波形が測定されているのです.ここで重要なことは,
被測定物からは正しく信号が送信されているにもかかわらず,
被測定物から品質の悪い信号が送信されているかのように測定
されている,ということです.言い換えると,測定する信号に見合
った正しいオシロスコープを選択しないと間違えた測定結果が得
られる,ということです.
電気回路や伝送路の評価で最もよく使われる測定器がオシロス
コープです.それだけに,実験室にある使い慣れたオシロスコー
プを何気なく持ってきて使う,というケースも多いのではないでし
ょうか.しかし,上記の例のように,間違えたオシロスコープで測
定した場合には正しい測定結果が得られず,結果として開発効
率が悪くなってしまいます.
本章では,正しく信号を評価する上で重要となる,オシロスコー
プ選択の 4 つのポイント
 帯域
 サンプリングレート
 ノイズ
 プローブ
について解説します.
図 1(a) 1GHz 帯域オシロスコ
ープでの測定結果
図 1(b) 2.5GHz 帯域オシロス
コープでの測定結果
図 2 オシロスコープの周波数帯域の定義
オシロスコープの周波数は入力信号が 3dB 減衰して測定される周波数と定
義されます.入力電圧 1 の信号が電圧約 0.7 と測定される周波数です.
一般的に,信号は,横軸に時間をとった時間領域にて時間波形
として測定する方法と横軸に周波数をとった周波数領域にてス
ペクトルとして測定する方法があります.例えば,時間領域にて
矩形波として表現されるデジタル信号は,周波数領域では基本
波とその奇数倍の高調波を持つスペクトルとして表現されます
(図 3).時間波形とスペクトルはフーリエ変換により数学的に関
係づけられます.デジタル信号だけでなくあらゆる信号は正弦波
の重ねあわせとして表現することができます.
図 3 デジタル信号の時間波形とスペクトラム
時間波形とスペクトラムはフーリエ変換により関係づけられます.
デジタル信号(矩形波)は,基本波とその奇数倍の高調波にスペクトラムが現
われます.
図 2 からわかるように,オシロスコープはローパス・フィルタとし
て働きます.したがって,スペクトルの持つエネルギーの大部分
がオシロスコープの帯域内に入っていない場合には,オシロスコ
ープで測定される信号の時間波形が歪むので注意が必要です
(図 4).
図 1 オシロスコープの帯域が測定に及ぼす影響
USB2.0 Hi-Speed デバイスから送信された Test Packet を 1GHz 帯域および
2.5GHz 帯域のオシロスコープで測定した例.立ち上がり時間 500ps のため
測定系には 1.5GHz 以上が必要ですが,(a)では帯域が 1GHz と不足してい
るため波形が波打っていることがわかります.
1.1 帯域
オシロスコープは電子部品および電気回路の集合体である電子
機器です.したがって,ハードウェアとしての周波数特性を持ち
ます.オシロスコープの周波数帯域は図 2 で示されるように利
得が 3dB 落ちる周波数(オシロスコープへの入力電圧を 1 とし
た場合,電圧が約 0.7 と測定される周波数)と定義されます.
図 4 オシロスコープの帯域と測定される波形品質
オシロスコープはローパス・フィルタとして働きます.したがって,オシロスコー
プの帯域内に信号のスペクトルの持つパワーの大部分が含まれない場合に
は,信号の高周波成分が除去されるため波形が歪んで測定されます。
03 | Keysight | メガ帯/ギガ帯アナログ信号を克服するオシロスコープ活用術
信号の最大周波数成分は,時間波形の立ち上がり時間から計
算できます(表1).信号のデータレートではなく,立ち上がり時
間に依存することがポイントです.
オシロスコープに必要な帯域は,信号の最大周波数から計算で
きます.オシロスコープの帯域が,表1から計算されるオシロス
コープに必要な帯域よりも狭い場合には,オシロスコープの帯域
不足が原因で測定波形が歪みます.
(a) tr=90ps の信号を 20GSa/s
で測定した正しい測定結果
(b) tr=90ps の信号を 5GSa/s
で測定したためエリアジングを
起こしている例
図 6 エリアジングの発生例
立ち上がり時間 tr=90ps の信号の測定に必要なサンプリングレートは表 1 よ
り約 19.5GSa/s と計算されます.
(a)は 20GSa/s と充分なサンプリングレートで測定しているので正しく測定で
きており,tr=89ps と測定されています.一方,(b)は 5GSa/s とサンプリングレ
ートが足りないためにエリアジングを起こしており,tr=238ps と正しく測定でき
ていません
表 1 信号の最大周波数成分とオシロスコープに必要な帯域お
よびサンプリングレート
信号の立ち上がり時間から信号の最大周波数成分,オシロスコ
ープに必要な帯域,サンプリングレートが計算されます.
なお,オシロスコープの帯域特性により計算式が変わるので注
意が必要です
1.2 サンプリングレート
サンプリングレートは,オシロスコープに実装された AD コンバー
タが 1 秒間にサンプリングできるポイント数を表わします.測定
する信号の最大周波数に対してサンプリングレートが遅すぎる
場合には,信号は実際の周波数よりも低い周波数として測定さ
れます.この現象をエリアジングと呼びます(図 5).エリアジング
が発生すると信号を正しく測定できません(図 6).
エリアジングを回避して正しく信号を測定するためには,ナイキ
ストのサンプリング定理を満足する必要があります.ナイキスト
のサンプリング定理は,測定する信号の最大周波数 f とオシロ
スコープのサンプリングレート Sa との関係を Sa > 2f と規定して
います.
実際にオシロスコープに必要なサンプリングレートは,信号の最
大周波数より計算されるオシロスコープに必要な帯域から計算
できます(表1).
1.3 ノイズ
オシロスコープは,電子部品、電子回路の集合体です.したがっ
て,オシロスコープに電源を投入し動作させるとノイズが発生し
ます.オシロスコープ自身が持つノイズの量は製品ごとに異なり
ます.これは,内部で使われている電子部品,AD コンバータな
どの仕様や回路設計手法が異なっているためです.また,同じ
製品でも電圧軸スケールを変えるとノイズの量が変わります.
オシロスコープ自身が持つノイズは,信号が持つジッタ量を実力
よりも悪く測定する,マスク試験において本来は合格であるはず
の信号が不合格と判定される,など測定に悪影響を及ぼす可能
性があります.
また,オシロスコープの帯域が広くなるとノイズの量が大きくなり
ます.図 7 に示すように,信号の周波数に対して必要以上に広
い帯域のオシロスコープを使うとオシロスコープのノイズが原因
となってマスク試験に不合格となるケースもあります.
ノイズが少ない適切な帯域のオシロスコープを使うことが,正し
い評価を行なうためには極めて重要です.
図 5 サンプリング定理とエリアジング
サンプリング定理を満たさないとき,信号は実際よりも遅い周波
数の信号として測定されてしまいます
(a) 3GHz 帯域を持つオシロで
の測定結果:合格
(b) 12GHz 帯域を持つオシロで
の測定結果:不合格
図 7 オシロスコープのノイズが測定に与える影響
USB2.0 Hi-Speed (480Mbps)の信号を 3GHz と 12GHz のオシロスコープで
測定し,マスク試験を行なった例.全く同じ被測定物を測定しているにもかか
わらず,オシロスコープが持つノイズの違いにより合格/不合格の判定結果が
変わっています.信号が持つ最大周波数よりも必要以上に広い帯域のオシ
ロスコープにより測定すると,オシロスコープ自身が持つノイズの影響でマス
ク試験に不合格となる場合もあるので注意が必要です
04 | Keysight | メガ帯/ギガ帯アナログ信号を克服するオシロスコープ活用術
1.4 プローブ
プローブの性能はオシロスコープの性能と同様に測定精度に大
きな影響を与えます.プローブの性能を表わす代表的な仕様に,
帯域,負荷容量,入力インピーダンスがあります.一番なじみが
ありよく使われるパッシブ・プローブは,入力インピーダンスが大
きいために測定対象に影響を与えにくいというメリットがある反
面,負荷容量が大きく信号の立ち上がりをなまらせやすいため
に高周波信号の測定には不向きです.プローブとしての帯域は
最大でも 500MHz 程度です.それに対して,アクティブ・プロー
ブは,入力インピーダンスがパッシブ・プローブよりも小さい反面,
負荷容量が小さいために信号の立ち上がりに与える影響が少
なく,低電圧差動信号の測定を中心とした高速信号の測定に使
われます.
アクティブ・プローブを使う場合には,付属するアクセサリの使い
方にも注意が必要です.間違った使い方をすると測定系の帯域
が大きく下がり,実際に測定対象を流れる信号とは異なった信
号として測定されるからです.図 8(a)および(b)は,どちらも伝送
レート 1Gbps, 立ち上がり時間 Tr=100ps の信号を測定した結果
です.図 8(a)は 12GHz 帯域のアクティブ・プローブにはんだづ
けプローブヘッドを接続し正しく測定した結果です.図 8(b)はは
んだづけプローブヘッドの先端をリードで延ばして測定した結果
です.リードを延ばした結果,測定される信号の波形が大きく変
わっていることがわかります.プローブヘッド先端からリードを延
ばすことは,測定される信号を歪ませる原因となるため避けるべ
きです.
また,パッシブ・プローブは使い勝手がよいために測定対象によ
らずつい使いたくなりますが,プローブとしての帯域は最大
500MHz 程 度 で す . 実 際 に は , ク ロ ッ ク の 伝 送 レ ー ト が
100MHz-200MHz 程度以上の信号を測定する場合には,アク
ティブ・プローブを使用したほうが好ましいです.図 9 は DDR2
400(伝送レート 400Mbps, クロック周波数 200MHz)の信号を
測定した例です.図 9(a),(b)はどちらも 1GHz 帯域のオシロスコ
ープを使っていますが,図 9(a)は 500MHz 帯域のパッシブ・プロ
ーブ,図 9(b)は 1.5GHz 帯域のアクティブ・プローブで測定して
います.パッシブ・プローブを使った場合には ISI(シンボル間干
渉)が発生し正しく測定できていないことがわかります.
(a)13GHz 帯域のはんだづけプ
ローブヘッドを正しく使用して測
定した波形
(b)13GHz 帯域のブラウザプロ
ーブヘッドの先端をめっき線で
延長して測定した波形
図 8 プローブの使い方により変わる測定波形
伝送レート 1Gbps, 立ち上がり時間 100ps の方形波をプローブの使
い方を変えて測定した結果です.正しい使い方で測定した波形(a)と
めっき線で先端を延長する間違えた使い方で測定した波形(b)では
全く形状が違うことがわかります.特に高速信号の測定ではプロー
ブ付属の標準アクセサリ以外のものを使い先端を延長することは絶
対にしてはいけません
(a) 1GHz オシロスコープと
500MHz パッシブ・プローブとの
組合せで測定した波形
(b) 1GHz オシロスコープと
1.5GHz パッシブ・プローブと
の組合せで測定した波形
図 9 パッシブ・プローブとアクティブ・プローブによる測定波形の違
い
DDR2 400 (伝送レート 400Mbps) の信号をパッシブ・プローブと
アクティブ・プローブで測定した場合の測定波形の違い.数百
MHz を超える信号の測定にパッシブ・プローブを使うと波形測定を
正しく行なえない場合があるので注意が必要です
2
アイパターンによる信号品質の評
価
信号が伝送路を伝搬すると,伝送路の品質や周辺環境の影響
を受けて信号品質が劣化する場合があります.特に,立ち上が
り時間が早く高速な信号になるほどその影響を受けやすくなりま
す.例えば,信号の周波数に対して伝送路の帯域が不足してい
る場合には信号がなまる,伝送路の終端が正しく行なわれてい
ない場合には不要反射が信号に重畳する,ノイズが多い環境下
では信号のジッタが大きくなる,といったことがあげられます.結
果として,送信機から送信された 0/1 の情報が正しく受信機で
受信されずにビットエラーを起こし,通信が正しく行なえなくなる
場合があります.したがって,信号品質の評価は設計おいて重
要なプロセスになります.本章では,信号品質評価でよく使われ
るアイパターンについて解説します.
2.1 アイパターンとマスク試験
信号品質を評価するために最もよく使われる方法がアイパター
ンの描画です.アイパターンとは,図 10 に示すように,クロック
のタイミングにあわせて 1 ビットずつアナログ波形を切り出して
重ね描きした波形のことです.多ビットの信号品質が視覚的に
容易に確認できることが特長です.描かれた波形が目玉のよう
に開いていることからアイパターンと呼ばれます.電圧軸方向,
時間軸方向へアイが十分に開いていると,信号品質が良くビット
エラーを起こしにくいといえます.
USB2.0, Ethernet, PCI Express, HDMI など多くの規格では,信
号品質を評価する基準としてマスク・テンプレートが定められて
います.マスク・テンプレートに信号が抵触したら不合格(信号品
質が悪い),抵触しなかったら合格(信号品質が良い)と判定さ
れます(図 10).この試験は,マスク・テンプレートへの信号の抵
触の有無により判定するためマスク試験といいます.なお,マス
ク試験を行なうために使われる信号(テストパターン,試験信号)
は,多くの場合規格により定められています.
05 | Keysight | メガ帯/ギガ帯アナログ信号を克服するオシロスコープ活用術
3
差動伝送路設計と評価でおさえ
るべき基礎知識
オシロスコープでアイパターンを描いたとき,品質の良い信号が
伝送されている場合には「目玉」が大きく開いたアイパターンとな
ります.反対に,品質の悪い信号が伝送されている場合には「目
玉」がつぶれたアイパターンとなります.
図 12(a),(b)は,USB2.0 Hi-Speed(伝送レート 480Mbps, 立ち
上がり時間 500ps)デバイスから出力されたテストパケットのア
イパターンです.被測定物が同じですが,伝送路の終端条件が
違うためにこのような違いが現われています.
図 10 アイパターンとマスク試験
クロックのタイミングにあわせて 1 ビットずつアナログ波形を切り
出して重ね合わせた波形がアイパターンです.マスク試験では,
(この図では黒で描かれた)マスク・テンプレートに信号が抵触し
なければ波形品質が良いために合格,抵触したら波形品質が悪
いために不合格と判定します.こちらは PCI Express Gen 1
(2.5Gbps)の Transition Bit のアイパターンでマスク試験には合
格していることがわかります
2.2 クロック基準によるアイパターンの描画
アイパターンを描画する場合には,クロックを基準としてラッチし
たデータを 1 ビットずつ切り出して重ね描きをすることが重要で
す.特に,エンベデッド・クロックと呼ばれるクロックの情報をデー
タ に 重 畳 さ せ て 通 信 を 行 な う 方 式 が 採 用 さ れ て い る PCI
Express や Ethernet など多くの高速シリアル通信では,データ
からクロックの情報を正しく抽出し,抽出されたクロックを基準と
してデータをラッチしてアイパターンを描画することが重要になり
ます.また,LVDS など,クロックとデータが並走していても,クロ
ックを逓倍したタイミングでデータをラッチすることが定められて
いる通信では,逓倍されたクロックを基準としてデータをラッチし
てアイパターンを描画することが重要になります.
データに対して単純にエッジトリガをかけ,重ね描きをするとアイ
パターンのような波形が描画されますが,厳密にはこれは正し
いアイパターンとはいえないので注意が必要です.
図 11 は伝送レート 350Mbps の LVDS 信号のアイパターンです.
図 11(a)は 50MHz のクロックを 7 逓倍したタイミングでデータを
ラッチして描いた正しいアイパターン,(b)はデータに対して単純
にエッジトリガをかけ描画した正しくないアイパターンです.トータ
ルジッタの測定でも使われることのある,信号の立ち上がりと立
ち下がりが交差するクロスポイントの幅が両者で違うことがわか
ります.同じ信号を測定しているにもかかわらずこのような違い
が現われることから,正しい手法でアイパターンを描画すること
の重要性がわかります.
(a)クロックを 7 逓倍したタイミング (b) 単純に信号にエッジトリガを
でデータをラッチして描画した正
かけ重ね描きした正確ではない
しいアイパターン
アイパターン
図 11 クロック基準でのデータのラッチが重要なアイパターンの描画
アイパターンはクロック基準でデータをラッチしての描画が鉄則です.
350Mbps の LVDS 信号のアイパターンを描画した例です.同じ信号を測定し
ているにもかかわらずクロスポイント幅に違いが現われることから,正しい手
法でアイパターンを描画することの重要性がわかります
(a) 伝送路を差動 90Ωで終端
(b) 伝送路を差動 90Ω で終端しな
した場合
かった場合
図 12 終端条件の違いによる伝送信号の違い
USB2.0 Hi-Speed (480Mbps) デバイスから送信されたテストパケットを測定
した例です.USB2.0 の伝送路は差動インピーダンス 90Ωと規定されていま
す.(a)は伝送路を 90Ωで正しく終端した場合,(b)は伝送路を 90Ωで終端し
なかった場合に伝送路を伝搬する信号の波形です.正しく終端が行なわれな
いと信号は正しく伝送されないことがわかります
図 13(a),(b)は,LVDS 信号(伝送レート 140Mbps)のアイパター
ンです.被測定物は同じですが,伝送路の持つ帯域が違うため
にこのような違いが現われています.
(a) ケーブル長 2.0m の USB ケー
(b) ケーブル長 5.5m の USB ケー
ブルで Tx と Rx を接続した場合
ブルで Tx と Rx を接続した場合
図 13 伝送路の帯域の違いによる伝送信号の違い
伝送レート 140Mbps の LVDS 信号を測定した例です.LVDS の送信モジュー
ル(Tx)と受信モジュール(Rx)を USB ケーブルで接続し,受信端で測定した信
号です.ケーブル長の違いにより伝送路の帯域の違いを作り出しています.
伝送路の帯域の違いにより,伝送路を伝搬する信号の波形に違いが生じま
す.
上記の 2 つの例では,伝送路の設計条件が違うために信号品
質に差が出ています.このため,アイパターンに差が見られるの
です.
本章では,差動伝送路の設計で注意すべき 4 つのポイント
 インピーダンス整合と反射
 伝送路の帯域
 伝送路間でのクロストーク
 信号内スキュー
について解説します.
06 | Keysight | メガ帯/ギガ帯アナログ信号を克服するオシロスコープ活用術
3.1 インピーダンス整合と反射
伝送路は,伝送路の特性インピーダンスで終端しないと信号を
正しく伝送できません.これは,シングルエンド伝送でも差動伝
送でも同じです.なお,差動伝送路の特性インピーダンスは差動
インピーダンスと呼ばれます.したがって,差動伝送路は差動イ
ンピーダンスで終端する,という表現のほうが一般的です.
3.1.1 インピーダンスと特性インピーダンス
インピーダンスはある周波数における部品や回路の交流電流
(AC)の流れを妨げる量として定義されます(1).インピーダンスは
周波数特性を持ち,部品や等価回路モデルにより周波数特性
は変わります(2)(図 14).それに対して,特性インピーダンスは,
伝送路の特性を表わす重要な定数(3)であり,ケーブルや基板な
どの伝送路を信号が伝搬する際の電圧と電流の比として定義さ
れます.特性インピーダンスは,MHz 程度まで周波数が高くな
ると,周波数によらず一定となることがポイントです(図 15).50
Ωのケーブル,差動 100Ωの伝送路,と呼ぶときの 50Ω,差動
100Ωがそれぞれ特性インピーダンス,差動インピーダンスにな
ります.
伝送路が特性インピーダンスまたは差動インピーダンス Z0 で終
端されていない場合に終端部分で信号が反射をする割合は反
射係数Γで定義されます.反射係数Γは特性インピーダンス Z0
と終端抵抗 Z により以下の式(1)で表わされます(図 17).

Vr Z  Z 0

V Z  Z0
ここで,V は終端抵抗に入射した信号の電圧,Vr は終端抵抗で
反射した信号の電圧を示します.
式(1)より,伝送路が特性インピーダンス Z0 で終端されている場
合には反射係数Γ=0 となり,反射が起こらないことがわかりま
す.伝送路が特性インピーダンス Z0 で終端されている場合には
反射が起こらないため,インピーダンス整合がとれている,とい
います.
(a) 差動 100Ω伝送路を終端せず
オープンにした場合
図 14 インピーダンスと周波数特性
インピーダンスは周波数により変化します.等価回路モデルによりインピーダ
ンスの周波数特性は変わります
(1)
(b) 差動 100Ω伝送路を 100Ωで正
しく終端した場合
図 16 終端抵抗の違いによる伝送信号の違い
差動インピーダンス 100Ωの伝送路を伝搬する伝送レート 350Mbps の
LVDS 信号.
伝送路を差動インピーダンス 100Ωで正しく終端しないと波形が変わることが
わかります.この例では,信号の振幅および波形の形状が大きく変わってい
ます.
一方,インピーダンス整合がとれていない場合には終端部分で
信号が反射します.反射の割合は,図 17 より終端抵抗が特性
インピーダンス Z0 からずれるほど大きくなることがわかります.
信号の反射は,伝送路の特性インピーダンスが不連続となる部
分でも起こります.この場合の反射係数 Γは,伝送路の終端部
分での信号の反射係数Γと同様に式(1)で表わされます.
図 15 特性インピーダンス
特性インピーダンスは,周波数が高くなると,周波数や伝送路の長さによらず
一定値となる
3.1.2 インピーダンス整合と反射
図 16 は,差動インピーダンス 100Ωの伝送路を伝搬する,伝送
レート 350Mbps の LVDS 信号を測定した例です.伝送路を差動
インピーダンス 100Ωで正しく終端した場合とそうでない場合で
波形が大きく変化していることがわかります.
伝送路を,特性インピーダンスまたは差動インピーダンス Z0 で
終端しなかった場合には,終端部分で反射が起こります.この
反射波が信号に重畳し,信号を歪ませます.図 16(a)では信号
の立ち上がりの部分が階段状になっていますが,これは伝送路
が正しく終端されていない場合に見られる特徴的な現象のひと
つです.
図 17 反射係数
反射係数は終端部分(または特性インピーダンスの不連続点)での信号の反
射の割合を示します.特性インピーダンスと負荷抵抗との差が大きいほど信
号の反射が大きくなることがわかります
07 | Keysight | メガ帯/ギガ帯アナログ信号を克服するオシロスコープ活用術
3.1.3 TDR による特性インピーダンス分布の測定
3.2 伝送路の帯域
伝送路の特性インピーダンスの分布は TDR (Time Domain
Reflectometry)により測定することができます.TDR は,図 18
に示すように,伝送路に対してステップパルスを送信し,その反
射波から伝送路の特性インピーダンスの分布を測定します.伝
送路の特性インピーダンスの分布を測定した例を図 19 に示し
ます.測定した伝送路の特性インピーダンスは 50Ωですが,一
部分に特性インピーダンスが 25Ω,75Ωとなる領域が設けられ
ています.TDR により,それぞれ 25Ω,75Ωの部分が明確に識
別できていることがわかります.
なお,TDR と被測定物となる伝送路はケーブルやプローブによ
り接続されことが一般的です.TDR により測定を行なう場合には,
校正(TDR 校正)によりこれらのケーブルやプローブなどの測定
系の電気的な影響を取り除いて測定することが重要です.
信号の最高周波数成分に対して伝送路の帯域が不十分である
と,伝送路がローパス・フィルタとして働き,信号の高周波成分
が正しく伝搬されません.その結果,信号の立ち上がりや立ち下
がりなまる,信号の振幅が十分に出ない状態でハイレベルとロ
ーレベルを遷移する,などの現象が起こります(図 20).伝送路
の帯域不足は,ISI(シンボル間干渉)と呼ばれるジッタの発生原
因となるので注意が必要です(図 21).
伝送路の帯域が十分かどうか確認するひとつの方法として,
TDR の TDT(Time Domain Transmission)測定モードによる評価
方法があります.具体的には,TDR から伝送路に対して実際の
信号の立ち上がり時間 trin のステップパルスを入力し,伝送路を
伝搬後のステップパルスの立ち上がり時間 trout を測定します(図
22).trin と trout の差がなければ伝送路の帯域は十分にあると判
断できます.それに対して,trin よりも trout のほうが顕著に遅い立
ち上がり時間と測定されれば伝送路の帯域は不足していると判
断できます.この方法では,伝送路に入力するステップパルスの
立ち上がり時間が可変である TDR を用いることがポイントです.
図 18 TDR による特性インピーダンス分布の原理
TDR では,ステップパルスを伝送路に対して送信し,その反射波から特性イ
ンピーダンス分布を測定します
(a)伝送路の帯域が充分な場合の 140Mbps LVDS 信号の波
(b) 伝送路の帯域が不十分な場合の 140Mbps LVDS 信号の波形
図 20 伝送路の帯域の違いによる伝送信号の違い
伝送路の帯域が足りないと,(b)のようにアイパターンがつぶれた形状として
測定されることがあります.波形を詳細に観測すると,信号の立ち上がりがな
まったり,信号の立ち上がり(立ち下がり)の振幅が充分に出ていないことが
わかります.
図 19 TDR による伝送路の特性インピーダンス分布の測定例
伝送路に入力したステップパルスは,特性インピーダンスの不連続部分で反
射をします。この反射波より,不連続部分のおおよその位置と特性インピーダ
ンスの大きさが測定されます。
図 21 ジッタの分類
伝送路の帯域不足は ISI(シンボル間干渉)と呼ばれるジッタの発生原因とな
ります
08 | Keysight | メガ帯/ギガ帯アナログ信号を克服するオシロスコープ活用術
3.4 信号内スキュー
差動伝送路では,差動ペアを構成する 2 つの伝送路長を等しく
配線する等長配線を行なうことが基本です.差動ペアの 2 つの
伝送路長が異なる場合,信号内スキューがあるといいます.信
号内スキューがあると,差動信号を正しく伝送できない可能性が
あるばかりでなくコモンモード・ノイズを放射する原因ともなるの
で注意が必要です.図 25 は USB2.0 Hi-Speed(480Mbps)の信
号を例に,信号内スキューがあると差動信号の波形が変化する
ことを示しています.
図 22 TDT 測定による伝送路の帯域評価方法
伝送路に対して実際に伝送する信号と同じ立ち上がり時間 trin を持つステッ
プパルスを入力し伝送路伝搬後の立ち上がり時間 trout との比較から伝送
路の帯域が充分か判断します
3.3 伝送路間でのクロストーク
基板の小型化に伴う実装密度の高密度化により,伝送路間で
の電磁干渉や外来ノイズが信号の伝搬に与える影響が従来よ
りも顕著になっています.特に,高速伝送路の設計においてはこ
れらの問題にきちんと対策を打つ必要があります.
差動伝送路のように近い距離にある 2 本の伝送路間では,クロ
ストークが伝送波形を歪ませるひとつの要因となります.クロス
トークとは,近い距離にあり結合している 2 本の伝送路の一方
に流れた信号が,他方の伝送路に信号を誘導することをいいま
す.クロストークには近端クロストークと遠端クロストークがあり
ます(図 23).
(a) D+と D-にスキューがな
(b) D+と D-に 500ps のスキュー
い場合
がある場合
図 25 信号内スキューが差動伝送波形に与える影響
USB2.0 Hi-Speed (480Mbps)での測定例.差動ペアを構成する D+と D-に
信号内スキューがある場合,差動伝送波形が変化していることがわかります
4.
高速差動信号の評価とデバック
の実際
本章では,マスク試験に不合格となった場合のオシロスコープを
活 用 し た デ バ ッ ク の 進 め 方 に つ い て , 実 際 に LVDS 信 号
(350Mbps)の評価を題材として解説します.
(1) アイパターンの描画
図 23 クロストークの測定例
クロストークには近端クロストークと遠端クロストークがあります
図 24 は,差動伝送路が周辺にある制御信号からクロストーク
の影響を受けている様子を示しています.制御信号のオン・オフ
切換えのタイミングで差動信号にグリッチが重畳していることが
わかります.
図 24 差動伝送路に対するクロストークの例
制御信号のオン・オフの切換えがクロストークにより差動信号にグリッチを重
畳させていることがわかります
LVDS 信号のアイパターンを描画しマスク試験を行ないます(図
26).信号がマスクテンプレートに抵触して不合格となっているこ
とがわかります.従来は,マスク試験に不合格となったことはわ
かりましたが,どのように波形品質が悪くなりテンプレートに抵触
しているかまでは確認できませんでした.最新のオシロスコープ
(Keysight DSO/DSA90000A シリーズ オシロスコープ)では,マ
スク・テンプレートに抵触した波形を時系列で確認できる機能が
搭載されているため,抵触した波形より得られる情報をもとにし
てデバックの方針が立てやすくなります.
図 26 LVDS 信号のアイパターンとマスク試験
LVDS 信号(350Mbps) のアイパターンを描画すると,波形がマスク・テンプレ
ートに抵触して不合格となっていることがわかります.最新のオシロスコープ
では,不合格となった場合にどのように信号の波形品質が劣化してマスク・テ
ンプレートに抵触したかを確認できる機能が搭載されたものもあります
09 | Keysight | メガ帯/ギガ帯アナログ信号を克服するオシロスコープ活用術
(2) マスク・テンプレートへ抵触した波形品質の
確認
(4) ジッタ値をトリガ条件にした不具合原因の
推定
マスク・テンプレートへ抵触した波形品質の確認を時系列で行な
います(図 27).長い時間スケールでマスク・テンプレートへの周
期的な抵触,また短い時間スケールでマスク・テンプレートへの
抵触時の波形品質の確認を行ない,波形品質が劣化した原因
を考察します.本事例では,ジッタによるタイミングのずれがマス
ク・テンプレートへ波形が抵触する原因として推定できます.一
般的には,パターン依存性,伝送路の帯域不足による信号のな
まり,インピーダンス不整合による反射波が原因の ISI など波形
から推定できる原因はたくさんあります.
ジッタ・トレンドからマスク・テンプレートへ抵触する際のジッタの
大きさがわかるので,最新のオシロスコープに搭載されている,
ジッタ値をトリガ条件とする機能を活用して不具合原因の推定を
行ないます(図 29).ジッタ値が大きくなるときに必ず変化をして
いる信号があれば,その信号がジッタを大きくしている原因とし
て推定できます.
(a) 長い時間スケールで、マスク
テンプレートへの抵触ポイントが
周期的に現れているかなど確認
(b) 短い時間スケールで、マスク
テンプレートに対する波形の抵触
の仕方を確認
図 27 マスク・テンプレートに抵触した波形の確認と不具合原因の推定
図 26 でマスク試験に不合格となった LVDS 信号(350Mbps)に対して,マス
ク・テンプレートに抵触した信号の波形品質を時間をさかのぼってひとつずつ
確認し,不合格となった原因を考察しています.ジッタによりタイミングがずれ
て波形がマスク・テンプレートに抵触しているようです
(3) ジッタ・トレンドの活用
ジッタの時間的な変動を示すジッタ・トレンドを表示してみました.
すると,ジッタ値が大きくなった時に,波形がマスク・テンプレート
に抵触していることがわかりました(図 28).
図 28 ジッタ・トレンドを活用したジッタ源の推定
ジッタトレンドを同時に表示すると,ジッタ値が大きくなった時に波形がマスク・
テンプレートへ抵触していることがわかりました
図 29 ジッタ値をトリガ条件にした不具合原因の推定
最新のオシロスコープに搭載されているジッタ値に対してトリガ条件を設定す
る機能を活用して不具合原因を推定します.トリガ条件に設定したジッタ値が
大きくなるタイミングに同期して変化する信号があれば,その信号がジッタを
大きくしている原因として推定されます
参考文献
(1) インピーダンス測定ハンドブック,キ
ーサイト・テクノロジー合同会社,
p.1-1,p/n 5950-3000JA,2003 年
11 月
(2) インピーダンス測定ハンドブック,キ
ーサイト・テクノロジー合同会社,
p.5-32,p/n 5950-3000JA,2003
年 11 月
(3) 電気回路 – 三相・過渡現象・線路
-,喜安善市・斎藤伸自著,朝倉書
店,pp.163-180,1977 年 8 月
キーサイト・テクノロジー合同会社
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©Keysight Technologies. 2014
Published in Japan, December 08,2014
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