全地連「技術フォーラム2014」秋田 【58】 丘陵地域における地下水環境影響調査の例-河川工事- 1. はじめに 新協地水(株) ○石幡 和也 新協地水(株) 原 勝重 (1) 井戸水位と河川水位および河川距離の関係 河川改修工事により生じる地下水環境の変化と工事の 井戸水位と河川水位の関係では,流出河川の形態であ 因果関係を把握するため,河川工事前~工事後の期間に る井戸水位>河川水位の井戸や井戸水位≒河川水位の箇 わたり,周辺で利用される井戸を対象に地下水影響調査 所も見られる。また,計画される床掘り深度は,概ねの井 を平成21年度より行っている。 戸で井戸底深度より深く,渇水が懸念された。 調査地は,阿武隈山地西縁の花崗岩類からなる丘陵地 また,過年度において本調査地域より下流側の井戸で 内を流れる河川沿いの地域である。河川沿いには花崗岩 生じた地下水低下事例では,井戸と河川との距離が15m 類を起源とする二次堆積物(土砂)が分布し,河川の伏流水 程度,井戸水位と河川水位が同レベルで,工事中~工事後 および丘陵斜面から供給される地下水が賦存する。 についても井戸水位≒河川水位の状態であったことか 当該地域は,丘陵に挟まれた狭隘な地域で,井戸水位低 下への対策は,井戸補償が主体となるため,影響評価は, 井戸水利用に支障をきたすか否かが基準となる。 ら,このような井戸は,渇水影響の生じる可能性が高い。 (2) 水質試験結果 水素イオン濃度 河川水 このため,調査結果から判断される丘陵地域の地下水 は,pH=6.4~6.7の 特性と,井戸水の利用形態(使用水量等)と工事による水 範囲である。電気伝 位低下の関係から判断した影響程度の評価事例について 導度は,EC=12.8~ (ms/m) 報告する。 32.5(mS/m) と 広 範 2. 調査対象井戸と影響評価の流れ 囲である。図-1に示 (1) 調査対象井戸 す井戸~河川距離 EC 本地下水調査の対象井戸は,井戸利用状況,水位,地下 と EC および pH の関 水供給源等により影響程度を「A~D」(A が最も影響を受 係では,川側ほど EC 河川水 けやすい)に区分し,毎月~3ヶ月に1回程度の頻度で調査 図-1 河川距離と EC,pH および pH 値が高い傾向にあり,河川水の EC,pH 値に近似 を行っている。中でも工事区間に近接し,井戸水の依存 する。 度の特に高い7井戸に対しては,評価を「A+」とし,自記 (3) 地下水供給源について 水位計による観測(1回/30min)を行っている。 (2) 影響評価の流れ 資料調査,現地調査および井戸水位,水質状況より,各 井戸の主な地下水の供給源について調査を行った。 影響程度を「A+」と予測した7井戸に対しては,いず 背面流域が大きい箇所や背後に谷地形を背負う井戸 れも渇水の可能性があるが,近隣工事が完了,または工 は,潜在的な供給量が多く,背後の流域が狭く河川水に近 事中の井戸の水位の観測結果から,実際の影響程度に い水質をもつ井戸水は,供給量は河川水に依存するもの 違いが見られた。 と想定される。 本事例では,井戸近隣で工事未着手であった段階で, (4) 工事前の評価 「A+」と評価した井戸の諸元(3章)と工事着手後の区間 以上の調査結果から前述した影響程度「A+」の井戸は, で生じた影響程度の差を受けて実施した影響程度の評 河川水位と同レベルの井戸水位,近似した水質,河川に近 価(4章)について述べる。 い等の特徴をもつため,渇水の危険性が高いと評価した。 3. 工事前の調査結果と評価 4. 各工事段階での調査結果 表-1に「A+」と評価した井戸の調査結果一覧を示す。 表-1 調査結果一覧(「A+」評価井戸) (1) 自記水位計による観測結果 図-2に近隣工事が開始~完了した井戸,図-3に近隣工 事が現在未着手井戸の自記水位計観測結果を示す。 井戸番号5を除く井戸で,豊水期に水位上昇,渇水期に 水位低下の傾向があるため,不圧地下水と判断した。井戸 番号5は,概ね水位が一定であるため,被圧地下水と判断 した。降水との関係では,河川に近い井戸ほど降水後の周 期的な変動幅が小さい傾向にある。 また,工事が開始~完了した工区の近隣井戸では,井戸 番号1,3で工事の影響(水位低下)が顕著に現れている。 pH 全地連「技術フォーラム2014」秋田 (4) 影響評価結果 工事開始 (井戸1) 工事開始 (井戸3) 表-2に水位観測記録から読み取った水位・水量を示し, 図-5に影響比一覧を示す。 工事開始 (井戸4) 工事後 (井戸4) ⅰ)影響比による評価結果 影響比により,どの井戸がどの程度影響を受けるかが 定量的に把握出来る。影響比は,1に近いほど使用量と貯 図-2 井戸水位変動状況 (工事中~工事後) 水量が同程度で,影響比が1より大きいほど使用量に対し て,貯水量に余裕があるということを表す。一方,この値 が0を下回れば,井戸内に貯水はなく枯渇する。 影響比算出の結果,工事中は井戸3,4以外の井戸で影響 比0を下回り,枯渇する可能性が予測される。また,工事後 の影響比では,いずれ井戸も貯水量に一定の回復がみら れるが,井戸1および6で水量不足が予測される。 図-3 井戸水位変動状況 (工事前) (2) 影響程度の違いについて ⅱ)評価結果と実測値の比較 表-2および図-5には,実際に工事が開始,または工事の 工事前の影響程度として,「A+」と評価した井戸番号 完了した工区付近にある井戸で観測された実測値(井戸 1,3,4は,工事の開始に伴う実際の水位の変動および井戸 水位,水量,影響比)も示している。いずれの井戸について 利用への支障でそれぞれ差が生じた。井戸1では,水不足 も実測値は,予測値より影響の低い値で,差異がみられる が生じ,井戸3,4は水位が低下しているものの不足は生じ が,予測される影響程度は,井戸番号1は,渇水ではなく水 ていない。そこで自記水位計観測記録から利用実態を読 量不足,井戸番号3,4は,使用量を満足する予測で実際に み取った結果,井戸1は,1日の利用水量が多く,井戸3およ 不足は生じていないため,概ね一致する。 び4は利用水量が少ない実態が明らかとなった。このこと 工事の影響による井戸水位低下量(基本水位と工事中 から,影響程度の評価は各井戸の井戸水利用量で細区分 水位の差)は,河川が井戸に近いほど低下量が多い傾向が する必要があると判断した。 みられる。また,そのような距離との関係では,前述した (3) 影響程度の細区分 (影響比) ように降水後の水位変動量も河川に近い井戸ほど変動量 影響程度の細区分は,工事前~工事後の各段階におけ が少ない傾向が見られた。 る井戸水量と生活に使用する水量の比を影響比として算 表-2 各水位および水量一覧 出し,その大小により評価を行う。 影響比の定義および算出に必要な水量を図-4に示す。 ※井戸5は,地下水利用が自然流下によるものであるため使用量は不明。 図-5 影響比 (工事前~工事後の変化) 5. おわりに 本調査で試みた影響比による井戸水位低下予測は,利 用水量,水位低下時の貯水量等の限られた調査項目を基 にしたものであるが,概略的なリスク予測のための指標 を定量化できたと評価される。今後は,距離と水位低下量 および降水後の井戸水位変動量の関係などの各因子の相 図-4 影響比の定義 関性を明らかにし,影響評価の精度向上に努めたい。
© Copyright 2024 ExpyDoc