Vol.30 No.14 December 2014 - じほう

ファームテクジャパン 第30巻第14号 平成26年12月1日発行(毎月1回1日発行)
Vol.30 No.14 December 2014
製剤技術とGMPの最先端技術情報誌
(Vol.30 No.14)
12CONTENTS
2014
ARTICLES
█ 速報 ICH Q3D
(元素不純物のガイドライン)
の最新動向/四方田千佳子
█ICH Q12
(Lifecycle Management)
:新クオリティガイドラインに向けた
コンセプトペーパーとビジネスプラン/古田土真一
█海外メガ企業に学ぶ研究開発戦略 第1回 臨床試験戦略/残華淳彦
█再生医療の現場における微生物リアルタイム連続モニタリング/望月 清,他
█糖鎖構造とバイオ医薬品
(前編)
/朝井洋明,坂本 泉
█微生物試験法Q&A−現場の困った!に答える誌上セミナー
(第14回)
/中川恭好
█【医療機器ソフトウェア−ソフトウェアライフサイクルプロセス
(第2回)
】
規格理解のための基礎知識編/宇喜多義敬
█【医療機器 薬事業務のトラの穴
(第12回)
】
医薬品医療機器等法施行後の医療機器の薬事業務と法規制
(最終回)
/吉川典子
█【医薬品包装設計へのユーザビリティ工学からのアプローチ
(第6回)
】
女性高齢者を対象とした週1回投与製剤のブリスターカードデザインの評価/大倉典子
13
19
27
49
57
61
63
67
73
79
83
87
93
█製剤研究者が注目する一押しトピック
101
█医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団ニュース(No.86)/津田重城,最上紀美子 105
█FDA優先戦略2014∼2018年:意見公募用ドラフト版について
█交叉汚染防止限度値ADE/PDE設定セミナー印象記/島田好子,長崎健一
█SciX
(The Great SCIentific eXchange)
2014参加報告/深水啓朗
█バイオ医薬品開発におけるシングルユース技術導入事例/松田広記
REPORT
█日薬連品質委員会−第34回医薬品GQP・GMP研究会開催−
█ 製剤機械技術学会 第24回大会開催
█ BioJapan 2014 開催−国際化を見据えた標準化への取り組み−
█ フロイント産業−直打用マンニトール「グラニュトールⓇF」を発売−
Study of GMP
█PQR
(製品品質の照査)
について
(第1回)
/角井一郎
█社会に貢献する無菌医薬品の製造・品質管理の在り方(第1回)/古賀裕香里,齋藤敬則
█PIC/S-GMPガイドラインの展開と企業対応/小山靖人,辻 和宏,平井淳一
█【図解で学ぶPIC/S GMP(製剤)第18回】 品質管理−3/榊原敏之
█PIC/SとCSV
(2)
/荻原健一
製剤技術
●行政ニュース
112
再生医療製品に患者登録制度
発足へ
●News Topics
●New PRODUCTS
◆総目次
◆次号予告
139
142
177
192
■World News Topics 143
ガイダンス関連,GMP関
連,製剤技術関連,原薬関
連,警告書関連
22
23
24
34
◇編集顧問
大矢晴彦 横浜国立大学名誉教授
仲井由宣 千葉大学名誉教授
7
35
41
115
123
授・岐阜薬科大学名誉
教授
◇編集委員
川嶋嘉明 愛 知 学 院 大 学 特 任 教
園部
尚 公立大学法人宮城大学
理事
永井恒司 (財)永井記念薬学国
際交流財団理事長
長江晴男 NPO-QAセンター
█【製剤と粒子設計】
階層構造制御による高分子微粒子の機能化/南 秀人,鈴木登代子 133
代表副理事
Vol.30 No.14
(2014) 5(2659)
PQR
(製品品質の照査)について
第1回
Update on PQR, PartⅠ
独立行政法人医薬品医療機器総合機構
角井一郎
ICHIRO TSUNOI
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency(PMDA)
はじめに
本稿は,製品品質の照査
(Product Quality Review)
(以
下「PQR」という。
)の内外GMP関連規制における位置
づけ,運用動向等について概説するものである。はじめ
に,この発表内容は,客観的事実のほか筆者個人の見解
を含むものであり,PMDAとしての見解及び立場をお
示ししたものではないこと,PMDAはこの発表の内容
及び正確性についてエンドースしないことをお断りさせ
ていただく。
1. 我 が 国 のGMP規 制 に お け るPQR
の取り扱い
第3章第4.2(1)バリデーションの目的
(略)この目的を達成するために,医薬品開発,日常的な工程確
認及び製品品質の照査を含む製品ライフサイクルを通じて集積
した知識や情報を活用すること。また,医薬品開発あるいは技
術の確立が当該製造所以外で行われた場合には,必要な技術移
転を実施すること。
第3章第4.2(5)エ.再バリデーション
(略)実施の必要性,実施時期及び実施項目は,製造頻度,製品
品質の照査の結果等を考慮して決定する。なお,無菌性保証に
係わるバリデーションのように,製品品質への影響が大きいこ
とから定期的に実施することが求められる場合には,製品品質
の照査の結果にかかわらず定期的に再バリデーションを実施す
ること。
図1 改正後GMP施行通知のPQR関連規定(抜粋)
1のようなPQR関連の規定が加わった。
GMP5-10(製品品質の照査)製品品質の照査は,なぜ必要なのか。
(答)バリデートされた工程であっても,製造実績を積み上げる
に従って,より製品品質を向上させるために改善すべき事項が
見出される場合があり,例えば次のような場合が考えられる。
1.原料物性の変化等により製造条件等を変更することが望ま
しい場合(略)
2.異常・逸脱の傾向又は好ましくない傾向等が認められた場
合(略)
2013年末に発出されたGMP事例集(2013年版)2)には,
図2 GMP事例集(2013年版)の関連規定(抜粋)
2013年8月30日付けのGMP施行通知改正通知1)により,
PQRの実施がGMP要件の1つとして明示された。この
改正通知によって,2005年3月のGMP施行通知には図
「PQRはなぜ必要なのか。
」という問とそれに対する簡
単な説明(図2)が例示とともに新たに加えられている。
ことによって見えてくるトレンドその他の変化・予兆を
PQRとは,個々の事象,データその他の情報に関して
察知し,要改善点をしっかりと特定し,工程の一貫性・
は何らかの照査,確認,承認等がなされ,必要に応じ原
規格等の妥当性を確保していくことを求めているものな
因究明調査,水平展開及びCAPAがなされているはずで
のではないかと筆者は考えている。
あるが,それだけでは見えてこないものがあり,個々の
情報を一定期間集積し,過去のものとも合わせ俯瞰する
Vol.30 No.14
(2014) ₇(2661)
PQR(製品品質の照査)について 第1回
パート1 1.4 輸出専用製品も含めた,全ての許可医薬品の
定期的又は随時の通常品質照査は,既存の工程の一貫性,出発
原料及び最終製品の両方に対する現行規格の適切性を検証する
目的で,いかなる傾向があった場合も着目し,製品及び工程の
改善について把握する為に実施しなければならない。そのよう
な照査は,前回の照査結果を考慮した上で,少なくとも以下を
含めて通常毎年一回実施し文書に記録すること。
① 製品に使用される包材,出発原料,資材の照査
② 重要な工程管理及び最終製品の品質管理の結果の照査
③ 確立された規格に対し不適合であった全バッチの照査及び
それらの調査
④ 重大な逸脱・不適合,関連調査及びCAPA有効性について
の照査
⑤ 工程又は分析方法に対し実施した全ての変更の照査
⑥ 提出/承認/拒絶された販売承認事項変更の照査
⑦ 安定性モニタリング結果及び好ましくない傾向についての
照査
⑧ 品質に関連する返品,苦情及び回収並びに原因究明調査に
ついての照査
⑨ 工程又は装置に対して実施された是正措置の適切性につい
ての照査
⑩ 新規承認/一変申請に関し,市販後コミットメントについ
ての照査
⑪ 関連する装置及びユーティリティーの適格性評価状況,例
えば空調,水,高圧ガス
⑫ 第7章に定義した契約に関する取決が更新されていること
を確実にするための照査
図3 PIC/SGMPガイドパートⅠ1.4(抜粋)
「①原料・資材」が明示されていないほか,以下の項目が明示さ
れていない。
製品非特異的(モジュール的)要素
⑪ 装置・ユーティリティー適格性
コンプライアンス的要素
⑥ 承認事項変更等
⑩ 市販後コミットメント
システム的要素
⑫ 委託先管理
図5 PIC/SGMPガイドパートⅡにおけるPQRの規定
(2.6)
の特徴
のPQRの規定と異なる点をまとめると図5のようにな
ると考えられる。原薬GMP規制であることによるもの
かどうかは不明であるが,
「①原料・資材」が明示され
ておらず,また「⑪装置・ユーティリティー適格性」と
いった製品に非特異的な要素に係る事項,
「⑥承認事項
変更等」や「⑩市販後コミットメント」といった,トレ
ンディングを行うべき要素がおおよそ見当たらないコン
プライアンス的要素に係る事項,そして,委託先管理と
いったシステム的要素に係る事項が明示されていない。
改正前のGMP施行通知に入っていた「工程管理の定
期照査」が,Q7ガイドラインを意識して盛り込まれて
いたものであるとすれば,製剤の製造において「工程管
理の定期照査」を行ってきたという製造所があった場合
には,ここに掲げた要素を実施する必要がないか改めて
① 原料・資材
② 工程管理・規格試験
③ 不適合バッチ
④ 逸脱・CAPA
⑤ 変更
⑥ 承認事項変更等
⑦ 安定性モニタリング
⑧ 返品・品質情報・回収
⑨ 従前PQR対応
⑩ 市販後コミットメント
⑪ 装置・ユーティリティー適格性
⑫ 委託先管理
見直しを行っていただいたほうがよいかと思われる。
3.欧米のGMP規制におけるPQRの
規定
改 正GMP施 行 通 知 に お け るPQR実 施 の 明 示 化 は,
PICS参加に向けた一連の取組の一環としてなされた対
応であったが,この規制自体は世界的に見て何も目新し
図4 PIC/SGMPガイドパートⅠ1.4の「12項目」
2.PIC/S GMPガ イ ド に お け る
PQRの規定
いものではない。特に欧米と取引のある製造所の中には,
かなり以前から取り組んでいるところも少なくないと思
われる。しかしながら,PIC/S GMPガイドのPQRの規
定は,欧米の規制と微妙に異なる点がある。今後,我が
国においてPIC/S GMPガイドを参照しつつGMP規制の
それでは,PQRでは具体的に何を照査すればよいの
運用がなされていく中で,欧米の規制との差を認識して
であろうか。PIC/S GMPガイドのパートⅠは,
「少なく
おくことは有用なものと思われる。
とも」と冒頭断った上で,製剤の製造に係るPQRの対
まずEU-GMPと比較してみよう。PIC/S GMPガイド
象となる事項として,図3のような12項目を明示してい
とEU-GMPで,PQRの 規 定 の 内 容 は ほ ぼ 同 じ で あ る。
る。以下本稿においては,当該12項目について図4のと
いささか細かいが,異なる点は図6のようにまとめられ
おり簡略化して参照することとする。
る。EU-GMPは,
「①原料・資材」の照査の項で,原薬
PIC/S GMPガイドのパートⅡ,すなわち原薬GMP規
サプライチェーンのトレーサビリティについて照査対象
制のパートの2.6にもPQRの規定があり,事実上ICH Q7
とすることを明示している。また,EU-GMPは,医薬
ガイドラインの2.5と同じ内容となっている。パートⅠ
品品質システムの下で,CAPA又は再バリデーションの
₈(2662)
Vol.30 No.14(2014)
速報
ICH Q3D(元素不純物のガイドライン)の
最新動向
New Trend in ICH Q3D Guideline
国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員,医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団
四方田千佳子
CHIKAKO YOMOTA
National Institute of Health Sciences, Pharmaceutical and Medical Device Regulatory Science Society of Japan
はじめに
医薬品における金属不純物に関するガイドラインの作
成を目的とし,2010年よりQ3Dとして新たなトピックス
が開始された。タリンを皮切りに,2014年のミネアポリ
ス ま で 8 回 の 対 面 会 合 を 経 て,2014年10月22日 に
MHLWはポスタルサインオフを行った(図1)
。ICHの
専門家作業部会
(EWG)
はサインオフをもって解散するが,
Q3Dでは,各極間で差のないICHガイドラインの取り込
みを実施するためにはトレーニングマテリアルの作成が
必須であることから,IWGを結成し,2015年3月末ま
ICH Q3Dガイドラインの開始からサインオフまで
2010. 6
2010.11
2011. 6
2011.11
2012. 6
2012.11
タリン会議でEWG議論開始
福岡会議
シンシナティ会議(プレステップ2-1文書で関係者の意見聴取)
セビリア会議
福岡会議
サンディエゴ会議(プレステップ2-2文書で関係者の意見聴取)
直前の電話会議でMetal を,Elemental へ変更
2013. 6
ブリュッセル会議 (7回目)
ガイドライン全体の見直し
6月6日にサインオフし,ステップ2へ
日本 10月4日~11月29日まで意見募集
2013. 2~5 毎週電話会議でパブコメ対応を議論
2014. 5 ミネアポリス会議 (8回目)
PDE値の修正,元素のクラス分け修正,リスクアセスメント部分の
記載修正後,ステップ4案ほぼ完成
その後:既存薬に関する取り扱いを明記,大容量注射剤の取り扱いを修正し,
10月末にポスタルサインオフ
電話会議でトレーニングマテリアルの準備を開始するとともに,IWGの設立要
望
図1 ICHQ3Dガイドラインの経緯
でにトレーニングマテリアルを作成,その後各極共通の
資料を用いる研修会を行うことが予定されている。本稿
かし,金属によっては,微量であっても重篤な有害事象
では,速報として,最終サインオフ文書における,パブ
を引き起こすことが知られており,より厳しい規制が必
リックコメントを求めたステップ2文書からの変更点に
要な場合には不十分であった。他方,誘導結合プラズマ
ついて概説する。なお,ガイドラインは現在翻訳中のた
発光分光分析法(ICPAES)や誘導結合プラズマ質量分析
め,本稿の用語が最終文書とは異なる場合があることを
法(ICPMS)などの高感度機器分析法の発達により,医
ご了解いただきたい。
薬品の承認申請時にはより厳しい個別の金属規格を設定
する方向にあった。2008年2月に,EMAの金属触媒と
1.元素不純物ガイドライン
スタートからサインオフまで
金属試薬の規格限度値に関するガイドラインが出され,
次いで2008年にはアメリカ薬局方
(USP)
から,医薬品中
の個別金属の規格設定と個別金属試験法の作成提案がな
医薬品中の元素不純物の規制は,長らく重金属試験法
され
(US Pharmacopoeial Forum
(Vol.43
(5)
p.1345
(2008)
)
,
に依存してきており,限度値は検出感度が低いことから,
2009年のUSPによる元素不純物のワークショップ開催時
Pbとして総量5,10または20ppmを設定してきた。し
には,薬局方の国際調和案件として取り上げることが提
Vol.30 No.14
(2014) 13(2667)
速報
ICH Q3D(元素不純物のガイドライン)の最新動向
案された。しかし,局方関係者の間で,医薬品の規制に
関わるためICHの場での議論が適当であろうと判断し,
2010年6月のタリン会議において,ICHのトピックスと
して取り上げられた。2011年6月シンシナティ会議でプ
レステップ2の文書を作成して,ICH関係者のコメント
を求めて改訂し,多くの意見が寄せられたため,再度
2012年11月サンディエゴ会議で2度目のプレステップ2
文書をICH関係者に回覧し,意見を求めた。当初,Q3D
ガイドラインの名称はMetal impuritiesとなっていたが,
サ ン デ ィ エ ゴ 会 議 の 直 前 の 電 話 会 議 でElemental
impuritiesへの変更が提案され,了承された。
ミネアポリス会合における動き
ミネアポリス会合における動き
・PDE値が,USPの新たな提案値と異なっていた点などを調整し,
・PDE値が,USPの新たな提案値と異なっていた点などを調整し,
多くの元素で値が変更された。その結果元素のクラス分け,
多くの元素で値が変更された。その結果元素のクラス分け,
製剤ごとのアセスメントの必要性も変更された。
製剤ごとのアセスメントの必要性も変更された。
Mo: クラス2A から クラス3 へ
Mo: クラス2A から クラス3 へ
Se: クラス2A から クラス2Bへ
Se: クラス3
クラス2Aから
から
クラス2Bへ
Ni:
クラス2Aへ
Ni: クラス3
・元素の分類の変更
から クラス2Aへ
・元素の分類の変更
GMP上の管理が必要とされる元素の属していたクラス4はクラス分け
GMP上の管理が必要とされる元素の属していたクラス4はクラス分け
せず,単にその他の考慮すべき元素で,EWGで検討された元素が,
一例として記載が残された。
せず,単にその他の考慮すべき元素で,EWGで検討された元素が,
一例として記載が残された。
・大容量注射剤の規制の検討:その他の輸液類等は通常の注射剤と
同じ取り扱いとする文章が残されたが,一方で新記載の提案があり,
・大容量注射剤の規制の検討:その他の輸液類等は通常の注射剤と
USPの組成物ごとの分析法も1つの選択肢であることが確認され,
同じ取り扱いとする文章が残されたが,一方で新記載の提案があり,
今後取り込み方法をさらに検討することとなった。
USPの組成物ごとの分析法も1つの選択肢であることが確認され,
・多くのコメントへの説明がガイドラインだけでは十分でないと判断され,
今後取り込み方法をさらに検討することとなった。
共通の理解のためにはトレーニングマテリアルの作成が不可欠である
・多くのコメントへの説明がガイドラインだけでは十分でないと判断され,
ことを確認。
共通の理解のためにはトレーニングマテリアルの作成が不可欠である
ことを確認。
図3 ミネアポリスにおける主な変更点
ブリュッセル会議でステップ2文書のサインオフに伴
い,厚生労働省のホームページ上でパブリックコメント
を求めた。わが国における主なパブリックコメントを
図2に示す。これらのコメントのうち,微量成分の取り
2.Q3D最終文書における
ステップ2からの変更点
扱いはガイドラインに反映されていないが,その他の事
項は最終文書に取り込まれた。微量成分の取り扱いに関
(1)
最終文書の構成
しては,リスクアセスメント部分に何らかの考察とコメ
最終文書の構成を図4に示す。文書の構成は大きく変
ントは必要であることが示唆された。なお,ステップ2
わってはいないが,PDE値と濃度限度値の換算は評価
文書の翻訳に際しては金属不純物としていたが,パブリッ
および管理から独立した項目となったほか,若干の変更
クコメント等にもあり,最終文書では元素不純物とする
があった。
こととした。
8回目の対面会合である2014年5月のミネアポリス会
議で最終的な調整が行われ,データ見直しによる大幅な
PDE値の修正,元素のクラス分け修正が行われた。リ
スクアセスメント部分の記載をわかりやすく修文すると
ともに,ガイドライン本体のみでの説明では不十分であ
るため,最終的にトレーニングマテリアルの必要性が確
認された
(図3)
。
パブリックコメントから抜粋
・PDE値が高い場合にも,参考とすべき他のガイドラインを具体的に示して欲し
い。
・先進治療医薬品(ATMP)が適用範囲外かどうかを述ベるべきである。
・他の投与経路でどのようにガイドラインの原則を適用するかについて,
ガイダンスが必要。
・短期間の使用においてPDE値を超えた場合のサブファクターアプローチの例を
示して欲しい。
1.はじめに
2.ガイドラインの適用範囲
3.元素不純物の安全性評価
4.元素の分類
5.元素不純物のリスク評価と管理
6.元素不純物の管理
7.PDE 値から濃度限度値への換算
8.スペシエーションその他
9.分析方法
10.ライフサイクルマネジメント
用語
付録1: 曝露限度値の設定方法
付録2: 元素不純物のPDE値
付録3: 個別の安全性評価
付録4: 事例を用いた解説-PDE値を濃度換算する計算方法
解説事例-元素不純物の評価
図4 Q3D元素不純物のガイドラインの構成
(2)
元素不純物のクラス分け
・製剤中の配合割合が0.1%以下となる添加物については,金属不純物を特定
する必要はないか?(配合量をゼロとして計算することになっている)
元素不純物のクラス分けでは大きな変更が行われた。
・評価により,金属不純物の量が管理閾値未満であると判断された場合には,そ
れ以上の管理は必要とされないが,対象とする金属不純物の量が将来にわ
たって一貫性があり,予測可能であることを確認するために,定期的な検証
試験を実施することも可能である(意味不明瞭であるため削除)。
ていた金属が入れ替わり,Seは天然に存在する可能性
・英語版の“Herbal products”の定義は,活性物質として植物性原薬のみを含む
医薬品(最終製品)と理解してよいでしょうか?
図2 わが国のステップ2文書へのパブリックコメントの例
14(2668)
Vol.30 No.14(2014)
図5に示すように,ステップ2文書でクラス2Aとされ
が低いとされてクラス2Aからクラス2Bへ移動し,Moは
PDE値が低くなったためにクラス3へ移動,代わりに
Niがクラス2Aへ移動した。
ICH Q12
(Lifecycle Management):
新クオリティガイドラインに向けた
コンセプトペーパーとビジネスプラン
Q12(Lifecycle Management)
:
Concept Paper and Business Plan for New Quality Guideline
アステラス・アムジェン・バイオファーマ株式会社/CMC&サプライチェーン企画部
古田土真一
SHINICHI KODATO
Amgen Astellas BioPharma K. K. / Operations
しも効率的な運用に至っていないということである。
はじめに
この事実は,Q-カルテットの意図に反することであり,
ライフサイクル全般という本来の趣旨にも反することに
ICH Q12(Technical and Regulatory Considerations
なる。そのことから,ライフサイクルマネジメントにつ
for Pharmaceutical Product Lifecycle)の「コンセプト
いてのより技術的かつ規制的な留意事項を示すことは,
ペーパー」と「ビジネスプラン」が,本年9月9日の
企業,規制当局さらには患者に対して継続的な品質保証
ICHSteeringCommitteeで承認され,この10月にICH公
と製品供給という恩恵を与えることになるであろうと考
式ウェブサイト1)に掲載された(
「コンセプトペーパー」
えられた。
と「ビジネスプラン」の最終文書自体は同年7月28日付
となっている)
。 本 掲 載 に つ い て は,10月13日 付 の
2.解決すべき課題
EuropeanComplianceAcademy/GMPNewsでも取り上
げられている2)。本稿ではICH Qシリーズとして近い将
Q12ガイドラインはQ10ガイドライン
(医薬品品質シス
来ガイドラインとして発出されることになるQ12ガイド
テ ム に 関 す る ガ イ ド ラ イ ン(Pharmaceutical Quality
ラインの概要について紹介する。
System:PQS)
)
と密接に連動している。Q12ガイドライ
ンは,PQSにおける変更マネジメントの一環としての市
1.現状分析と問題点
販後変更を見据え,企業側での継続的改善,規制当局で
の審査・査察に対して,以下のような効率的な評価を可
ICHQシリーズのうちQ8,Q9,Q10,Q11のいわゆる
能にすると思われる。
Q-カルテットが出そろったことで「ライフサイクル全
・審査資料について
般にわたるサイエンスベース・リスクベースによるアプ
▶“regulatorycommitments”を明確化すること
ローチ」は周知されたと思われた。一方で,現実の運用
⇒継続的改善を促進する市販後変更を可能にし,革
においては,これらガイドラインのフォーカスが製品上
新的な技術の採用を後押しすることにつながる。
市までの開発段階に向けられ,市販後においては期待し
▶審査資料における評価ならびに査察に必要な詳細と
ていた“operational flexibility”が必ずしも発揮されて
いないということがわかってきた。具体的には,サイエ
ンスベース・リスクベースによるアプローチが,市販後
情報の適正レベルを明確に提示すること
⇒より現実的な市販後変更マネジメントシステムの
構築につながる。
変更におけるCMC変更申請資料の作成・審査等に有効
・PQSについて
活用されておらず,企業・規制当局の両者にとって必ず
▶調和されたリスクベースによる変更マネジメントシ
Vol.30 No.14
(2014) 19(2673)
ICH Q12(Lifecycle Management):
新クオリティガイドラインに向けたコンセプトペーパーとビジネスプラン
ステムの基準を構築すること
の両者に対し,製品ライフサイクルを通じてのより透
⇒変更による品質への影響を効果的に評価できるよ
うになる。
明性のある効率的な手法におけるCMC変更のマネジ
メントを可能とし,実質的かつ信頼のおける安定供給
▶知識管理システムの継続的運用の必要性を明確化す
ること
となること
②リスクベースによる規制当局監視とリソース(審査・
⇒製品ライフサイクルにわたる製品・プロセスの情
報を継続的に保証することにつながる。
査察)
の最適化を促進すること
③単純化かつ調和されたアプローチにより企業での申請
・市販後変更マネジメントのプランとプロトコールについて
資料のメンテナンス・アップデートをアシストすること
▶市販後変更マネジメントプランのコンセプトを規制
④将来可能性のある変更を踏まえ,申請資料の中に規制
当局へ事前提示すること
当局へのコミットメントの重要な要素として管理戦略
⇒申請ならびに評価を明確化し,わかりやすくする
ことにつながる。
の活用を強調すること
⑤予測的変更マネジメントをツールとして促進すること
▶市販後変更マネジメントプロトコールの基準を構築
すること
⑥欠品や品質不良を低減しうる戦略的マネジメントを行
うことで供給に対する信頼性を向上すること
⇒
(少なくとも)
ICH諸国では採用されることになる。
▶より進んだ製品開発ならびに管理戦略のアプローチ
(Quality by Design:QbD)
を推進すること
⇒市販後変更マネジメントプランのためのサイエン
スベース・リスクベースの基礎固めにつながる。
⑦品質変動を低減し製造効率を向上させるような製造工
程および管理戦略の継続的な向上をサポートすること
( た と え ば,Post-Approval Change Management
(PACM)plans, PACM protocols/comparability
protocols, application form)
⑧製造効率が向上すること
3.背景
⑨
(技術)革新(PATなども含まれる)と市販後マネジメ
ントシステムの導入を促進すること
2003年においてのICH/Quality Visionは以下のとおり
⑩製品ライフサイクルに基づくプロセスバリデーション
の実行をサポートすること
であった。
「Develop a harmonised pharmaceutical quality
⑪管 理 戦 略 ラ イ フ サ イ ク ル( た と え ば,model
system applicable across the life cycle of the product
maintenance, analytical life cycle)
を可能にすること
emphasizing an integrated approach to quality risk
要約すれば,以下のようなことかと思われる。製薬業
management and science.
界は市販後変更に際して,サイエンスベース・リスクベー
スによる予測的な戦略的手法が必要になるであろうが,
[拙訳]
「品質リスクマネジメントとサイエンスによる統合的
その分だけ,より柔軟かつ効果的・効率的な審査・査察
アプローチを重視した製品ライフサイクルにわたって適
を享受しうる。
用しうる調和された医薬品品質システムを発展させること」
このQuality Visionに基づいてQ-カルテットが発出・
5.適用範囲
施行されたものの,その運用は開発段階に集中し,市販
後においては不十分であるという事実があることから,
既存の化学医薬品,バイオテクノロジー応用医薬品,
市販後にフォーカスした,本来の製品ライフサイクルを
生物起源由来医薬品に適用される。ジェネリック医薬品
満たすガイドラインの必要性が浮上してきた。
についての適用については各規制当局の判断とされてい
る。
4.Q12ガイドラインの期待するところ
6.担当者
(Expert Working Group)
Q12ガイドラインの作成・施行は,企業・規制当局・
患者への恩恵として以下のような事項が想定される。
従来のガイドライン作成と同様に3極の企業と規制当
①変更マネジメントを調和することで,企業・規制当局
局(EU, EFPIA, FDA, PhRMA, MHLW, JPMA, Health
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Vol.30 No.14(2014)