全地連「技術フォーラム2014」秋田 【13】 蔦川地区地すべりにおけるすべり面の土質特性 国土防災技術(株) 1. はじめに ○長谷川陽一,須田大祐,山村充 かれており,今回調査対象とした拡大ブロックは斜面長 地すべりの安定解析に用いる土質強度定数を,粘着力 c’=地すべり最大層厚と仮定して逆算法から求めるので 約360m,幅約260m,推定移動層厚40~50m であり,平均 傾斜は10゜と緩い。図-2に調査平面図を示す。 はなく,現地で採取したすべり面試料の土質試験結果を 用いて逆算法から求めることは,より合理的な手法であ り,逆算法の妥当性を検証するうえで大切である。 平成18年度の豪雨によって活動を開始した蔦川地区地 すべりにおいて,地すべり末端部の露頭および地すべり 地内において実施したボーリングのコアから採取したす べり面試料を用いて,各種物理試験,リングせん断試験 およびすべり面せん断試験1)を実施した。本発表ではこれ らの試験結果を示すとともに,安定解析に用いる土質強 度定数を多角的に検討した内容について報告する。 2. 地すべり概要 本地区は青森県十和田市の中心部より西へ約20km の 奥入瀬川支流に位置する。本地区が属する南八甲田火山 群では多数の地すべりおよび崩壊地形が認められ,地す べり地形分布図によれば赤倉岳東側の大規模な山体崩壊 地形は地すべり地形とされている(図-1) 。この山体崩壊 地形内部でも馬蹄状を呈する大規模な滑落地形が多数み られ,山体崩壊による堆積物が全体的にまたはブロック 化して地すべり活動を継続しているものと考えられる。 図-2 調査平面図 3. 採取試料 地すべり末端部は蔦川により浸食を受けているが,こ 調査地 の洗掘箇所の脚部において確認されたすべり面粘土を乱 して採取し,表-1に示す各種物理試験およびリングせん 断試験を実施した。 表-1 実施試験種 赤倉岳 試験種 蔦川 【出典:地すべり地形データベース(独)防災科学技術研究所】 図-1 地すべり地形分布図2) 得られる 物性値等 データの 主な利用法 数量 物理試験 土粒子の 含水比 液性塑性 粒度試験 密度試験 試験 限界試験 ρs wn 粒度分布 WL,WP,IP 力学試験 X線 すべり面 リング 回折試験 せん断試験 せん断試験 粘着力, 鉱物組成 せん断抵抗角 土質・地盤特性検討の基礎資料 1 1 1 1 安定解析 2 3 1 地すべり地内において,乱さないすべり面試料をサン プリングするため BV-25-2’号孔を掘削した(写真-1)。 本地区の地質は,その大半は第四紀の八甲田火砕流堆 すべり面の候補としては地質境界の GL-43.1m 付近が考 積物が軽石凝灰岩として分布する。その一部に熱水変質 えられたが,掘削の影響で乱れてしまっており,すべり 作用を受けた凝灰岩等が認められ,白色または淡緑色~ 面を発見することはできなかった。しかし,本深度近く 暗緑色を呈す粘土化が進行した岩質となっている。変質 では,鏡肌面や擦痕を持つ従属せん断面が数多く確認さ した地層内には鏡肌や擦痕が形成されている部分が多く れており,これらの中から試験可能な3 箇所 認められ,この熱水変質作用は本地区での地すべり発生 (GL-44.35m,GL-45.20m,GL-47.48m)をすべり面の候 の大きな素因となっていると考えられる。 蔦川地区地すべりはいくつかの地すべりブロックに分 補として採取し,すべり面せん断試験および X 線回折試 験を実施した(表-1)。 全地連「技術フォーラム2014」秋田 5. 土質強度定数 本地区のせん断試験結果のφ’は前述のとおり熱水変 質岩の地すべりのφ’としてはやや高めの値となってい る。これは,本地区試料に含まれる粘土鉱物がスメクタ イトの他にカオリン鉱物なども少量含まれていることに よるものと判断される。加えて,リングせん断試験に用 いた試料の粗粒分含有率が既往の事例よりも高くなって いることによりφ’が12.6゜と大きめになったと判断さ れる。また,すべり面せん断試験の GL-47.48m 試料は, 試験後にせん断面の観察を行ったところ,試料のすべり 面位置と試験機のせん断位置を完全に一致させることが 写真-1 BV-25-2’号孔コア写真(GL-40~50m) できていなかった。これにより,他の2 試料と比べてや や大きめの φ’となったと判断される。 4. 試験結果 よって,試験精度が他試料よりも良かった GL-44.35m (1)物理試験結果 試料および GL-45.20m 試料の試験結果を用いて,総合回 地すべり末端部で採取したすべり面粘土の物理試験結 帰計算を行った(図-3)。これより,地すべり安定解析に 果を表-2に示す。細粒分含有率は52%となった。地盤工学 用いる土質強度定数のうち,せん断抵抗角φ’については 3) 会によると ,本地区が属する熱水変質岩の代表的なすべ 9.0゜を採用することとし,粘着力 c’については逆算法 り面粘土の細粒分含有率は90%程度となっており,本地区 の結果より,28.6kPa を採用することとした。 試料はこれに比べて細粒分含有率が大幅に少ない。 表-2 末端部すべり面粘土の物理試験結果 粒度分布(%) 土粒子 自然 の密度 含水比 礫分 砂分 シルト分 ρs g/㎤ % 2-75 mm 0.075-2 mm 0.005-0.075 mm 2.687 28.3 8 40 26 粘土分 液性 限界 コンシステンシー 塑性 塑性 液性 限界 指数 指数 0.005 WL(%) WP(%) mm未満 26 16.9 75.7 IP IL 58.8 0.2 X 線回折試験の結果を表-3に示す。末端部すべり面粘 土と BV-25-2’号孔 GL-45.20m 試料には膨潤性粘土鉱物 のスメクタイトが含まれていた。スメクタイトを高純度 に含む粘土の残留せん断抵抗角φr’は5゜を下回るとい われている4)。その他,緑泥石やカオリン鉱物も少量検出 図-3 総合回帰計算結果 謝辞 された。 本発表で示したデータは林野庁東北森林管理局三八上 表-3 X 線回折試験結果 試料名 採取場所 すべり面粘土 BV-25-2' 末端部 GL-45.20m スメクタイト ++ ++ X線回折試験 含有鉱物 緑泥石スメクタイト カオリン鉱物 混合層鉱物 (+) + + 北森林管理署の平成25年度蔦川地区地すべり調査業務報 石英 苦灰石 +++ +++ + 含有量の目安:+++多量,++中量,+少量,(+)微量 (2)力学試験結果 して感謝申し上げます。 《引用・参考文献》 1) 眞弓孝之ほか:すべり面せん断試験によるすべり面の 力学試験結果を表-4に示す。地すべり末端部のすべり 面粘土を用いたリングせん断試験ではφ’が12.6゜とな った。BV-25-2’号孔の3試料で実施したすべり面せん断 試験ではφ’が8.7~12.7゜となった。長谷川らによると 本地区が属する熱水変質岩の試験事例はφ’=5.7~7.8゜ 5) (平均6.1゜)となっており ,本地区の試験結果はこれよ りも少し大きな値となった。 せん断強度評価,日本地すべり学会誌,Vol.40,No.4, pp.15~24,2003. 2)防災科学技術研究所:地すべり地形データベース,URL; http://lsweb1.ess.bosai.go.jp/index.html 3)地盤工学会編:入門シリーズ32斜面の安定・変形解析 入門-基礎から実例まで-,pp.94~97,2014. 4)山崎孝成ほか:高純度粘土鉱物のリングせん断特性~ 表-4 力学試験結果 すべり面粘土との対比~,地すべり,Vol.37,No.2, 残留強度 試料名 採取場所 c' (kPa) φ' (゜) 試験種 すべり面粘土 末端部 GL-44.35m GL-45.20m GL-47.48m 9.9 16.5 15.3 10.1 12.6 8.7 9.3 12.7 リングせん断試験 BV-25-2' 告書から引用した。ご協力頂いた関係各位に,ここに記 pp.30~39,2000. 5)長谷川陽一ほか:すべり面のせん断抵抗角の最新の地 すべり面せん断試験 質別統計,第50回日本地すべり学会研究発表会講演集, 日本地すべり学会,pp.214~215,2011.
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