製紙工場から排出される燃焼灰の盛土材としての検討 北海道開発土木研究所 同 王子製紙株式会社苫小牧工場 ○城 戸 優一郎 西 本 聡 別 紙 正 信 1. はじめに 王子製紙苫小牧工場では自社で火力発電をしており、燃料に石炭、ペーパースラッジ(以降 PS と称する)、 RPF(古紙、廃プラスチックを原料とした固形燃料)を使用しているため、燃え殻としてそれぞれ石炭灰、PS 灰、RPF 灰が排出される。これまではこれらの燃焼灰の一部は埋戻し材などに利用されていた。しかし、多 くは廃棄処分されており、処分地の不足や資源のリサイクルの観点から有効利用を図る必要がある。そこで これまで燃焼灰の利用について検討してきた 1)、2)。今回はさらに RPF 灰を加え、盛土材としての検討を行 った。その結果、全ての灰は加水してセメントを混合することにより盛土材として利用できることが確認さ れた。 2.灰の物性 表−1 灰の物性 表−1 に石炭灰、PS 灰、RPF 灰の物 3 性について示した。石炭灰、PS 灰、RPF 灰の土粒子密度は通常の土より低い 3)。 また含水比はほぼ 0%であるために飛散 しやすい。pH は全ての灰が 12 付近を示 し、強アルカリである。灰が周辺環境へ 基 本 物 性 値 悪影響を及ぼさないか土壌環境基準項目 4) を調査した結果、石炭灰はフッ素、ホ ウ素、セレンが、PS 灰はフッ素、RPF 灰はフッ素、セレンが基準値を超過した。 その他の項目は基準値以下であるため表 土 壌 環 境 基 準 土粒子密度 ρs (g/cm ) 含水比 (%) 粒 礫分 2mm∼75mm (%) 度 砂分 75μm∼2mm (%) 特 性 細粒分 75μm以下 (%) 液性限界 LL (%) 塑性限界 PL (%) 地盤材料の工学的分類体系による分類名 pH 強熱減量 (%) 最大乾燥密度 ρdmax (%) 3 最適含水比 Wopt (g/cm ) 基準値 フッ素 (mg/L) 0.8 ホウ素 (mg/L) 1.0 セレン (mg/L) 0.01 六価クロム (mg/L) 0.05 石炭灰 2.167 0 0 9.5 90.5 N.P. N.P. ML 11.9 16 0.956 48.1 PS灰 2.232 0 0 73.5 26.5 N.P. N.P. SF 11.6 3.5 0.670 85.0 RPF灰 2.200 0.4 0 7.8 92.2 N.P. N.P. ML 12 1.2 4.78 0.161 0.014 5.2 0.22 0.005 0.008 3.7 0.24 0.061 0.044 0.966 54.4 −1 には掲載を省略した。 3.盛土材としての検討方法 表−1 より石炭灰、PS 灰、RPF 灰は、土質改良と土壌環 境基準を超過する有害物質の溶出抑制をする必要がある。 そこで水とセメントを添加して盛土材への適用を検討した。 盛土材としての適用条件は「施工性」、「盛土の安定性」、 「土壌環境基準を満足すること」とし、これらを満足する 配合条件(含水比、セメント混合率)を検討した。含水比 は締固め可能な最小値と最大乾燥密度となる含水比、そし 7日養生後の一軸圧縮強さ 2 qu 7 (kN/m ) 700 含水比20% 34% 48% 600 500 石炭灰:水浸養生 400 300 200 100 0 0 2 4 6 8 てその中間値に設定しそれぞれセメント添加量を変化させ セメント混合加率(%) セメント混合率 (%) て検討を行った。「施工性」はコーン指数 qc によって判定 図−1 石炭灰の改良結果 10 2 し、普通ブルドーザで施工可能な値 qc=500kN/m とした 5)。その結果、灰の種類に関わらず水を混合するこ とで判定基準を満たした。次に盛土の安定性を一軸圧縮強さで検討した。一軸圧縮強さの判定基準は 150kN/m2 とし 6)、盛土高 10m、法面勾配 1:1 で安全率が 1.2 の条件である。一軸圧縮強さは施工後に水と接 触することを考慮して、6 日気中 1 日水浸後に求めた。図−1、2、3 それぞれについて試験を行った含水比の 700 めると、石炭灰は 4%以上であった。PS 灰は含水比により目標 強度を得ることができるセメント混合率が異なっており、含水 比 20%では 5%、含水比 40%では 4%、含水比 60%では 0.4%で あった。RPF 灰は無添加で目標強度を得ることが出来た。 次に目標強度を満足したセメント混合率で溶出試験を行い、 7日養生後の一軸圧縮強さ 2 qu 7 (kN/m ) 範囲で一軸圧縮強さ 150kN/m2 以上となるセメント混合率を求 土壌環境基準を満足するか確認した。溶出試験は締固め後 7 日 含水比20% 40% 60% 600 500 400 300 200 100 0 0 養生した供試体について行った。セメント固化した石炭灰の溶 基準を満たすことを確認している。 以上の結果より盛土として適用可能な水、セメントの配合条 件は次のようになった。石炭灰は含水比 20%で、セメント混合 率 5%以上とする。PS 灰は含水比を 60%としてセメントを 1% 混 合 す る 。 RPF 灰 に つ い て は 含 水 比 20~40%となるようにする。以上の結果 から全ての灰について盛土材として適用 が可能であることを確認できた。 4.あとがき 今回の検討により、石炭灰、PS 灰、 RPF 灰が盛土材として適用できること が確認された。しかし、有害物質が長期 間溶出抑制されるかどうか不明なため調 査する必要がある。 〈参考文献〉 1) 城戸優一郎, 西本聡, 別紙正信:燃焼 灰の土木材料としての適用,第 48 回北海 道開発局技術研究発表会, 2005 2) 城戸優一郎, 西本聡, 佐藤厚子,別紙 正信:石炭灰, PS 灰の土木材料としての 検討,第 40 回地 盤 工 学 会 研 究 発 表 会 , 2005 7日養生後の一軸圧縮強さ 2 qu 7 (kN/m ) ているが含水比 30、40%についても溶出試験を行い、土壌環境 6 8 10 PS 灰の改良結果 700 −3 より、含水比 60%とし、セメント混合後に締固めて養生す できた。表−4 では含水比 20%についての溶出試験結果を示し 4 図−2 が減少し、含水比 20%で土壌環境基準を満たした。PS 灰は表 水を混合し締固めて養生することでフッ素とセレンが溶出抑制 2 セメント混合率(%) 出試験結果である表−2 から、含水比が低いとセレンの溶出量 るとフッ素を溶出抑制できた。表−4 より RPF 灰もセメントと PS灰:水浸養生 含水比20% 30% 40% 600 500 400 300 200 100 RPF灰:水浸養生 0 0 1 2 3 セメント混合率(%) 図−3 RPF 灰の改良結果 表−2 石炭灰の有害物質溶出量 (mg/L) 灰 改良灰 0 セメント混合率(%) 5 0 20 34 含水比(%) フッ素 0.8 1.2 <0.01 <0.01 ホウ素 1.0 4.78 0.22 0.22 セレン 0.01 0.161 0.008 0.01 六価クロム 0.05 0.014 0.012 0.007 48 <0.01 0.16 0.011 0.007 PS 灰の有害物質溶出量 (mg/L) 灰 改良灰 0 1 2 5 セメント混合率(%) 0 含水比(%) 60 フッ素 0.8 5.2 <0.01 <0.01 <0.01 ホウ素 1.0 0.22 0.07 0.07 0.06 セレン 0.01 0.005 <0.001 <0.001 <0.001 六価クロム 0.05 0.008 0.003 0.009 0.004 表−3 表−4 RPF 灰の有害物質溶出量 (mg/L) 灰 改良灰 セメント混合率(%) 0 1 2 5 含水比(%) 0 20 フッ素 0.8 3.7 0.7 0.65 0.75 ホウ素 1.0 0.24 0.35 0.35 0.26 セレン 0.01 0.061 <0.001 <0.001 <0.001 六価クロム 0.05 0.044 0.011 0.007 0.009 3) 地盤工学会:土質試験,2000 4) 環境庁:土壌の汚染に係わる環境基準について,1991 5) 日本道路協会:道路土工−土質調査指針, 1990 6) 北海道開発局土木試験所土質研究室:北海道における不良土対策マニュアル(案), 1985
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