全地連「技術フォーラム2014」秋田 【76】 海上構造物下の粘性土の強度増加事例 基礎地盤コンサルタンツ ○金丸 功希 同 上 白井 康夫 同 上 小海 尚文 同 上 田中 淳 験による粘着力は c=9~17kN/m2,簡易 CU 試験によるも 1. はじめに 建設後45年を経過した防波堤の改修が計画され,建設 のは c=25~52kN/m2を示す。砂分を多く含むことから一 時の調査資料が無いことから,調査・土質試験が計画さ 軸圧縮試験による強度は小さいことが想定され,地盤定 れた。工期が限られているため,掘削に時間がかかるコ 数は簡易 CU 試験結果から設定されている。 ンクリートやマウンド(巨礫)を避けた素地地盤位置で調 (3)安定計算結果 査が実施された。しかし,その結果から設定された地盤 文献1)に示された方法を用いて現況防波堤の形状で円 定数を用いた安定解析では安全率が小さく,高額な対策 弧すべり計算を実施すると,現況安全率 Fs=0.80と安全 工が必要となる結果であった。これは,防波堤直下の粘 率1を下回ってしまう。(図-3)これは,既存調査が現況の 性土層の強度増加が考慮されていないためと考えたが, 防波堤から離れた位置のため,防波堤の荷重による粘性 一般的な強度増加率を用いた想定強度を用いるには,防 土層の圧密強度増加が考慮されていないことが原因と考 波堤の資料が残っていないことから,構造を予想する必 えられるが,前記のリスクを回避するため防波堤の上か 要があるため,リスクが高いと判断し,防波堤上からの らボーリングを行い,粘性土層の強度を確認することと 調査を実施した。 した。 2. 素地地盤箇所での調査結果 表-1 安定計算に使用した地盤定数 (1)地層分布 当該地には表層より砂質土層 Acs(層厚2m),軟弱な粘 性土層 Ac1~Ac2(層厚8m),Ag(薄い基底礫層)を挟んで近 隣の基盤岩である頁岩が分布する(図-1参照)。 13m 19m 港内側 港外側 防波堤改修計画 Acs 8m 単位体積重量 粘着力 記号 γt c 内部摩擦角 φ (kN/m2) 999 (°) 防波堤 (kN/m3) 22.6 マウンド 20 0 40 Acs 16 14.5 38 As1 18 - 32 As2 16 - 28 Ac1 17.5 (zは海底面からの深度) Ac2 19 31 - Ag 19 - 35 Sh 23 514 21 c=5.5z 0 - Ac1 N 値=0 Ac2 N 値=0 港内側 港外側 Ag 頁岩 図-1 地質横断図 (2)軟弱粘性土層(Ac1,Ac2)の土質特性 粘性土層の土質特性は,図-2に示したように Fc=60% 前後であり,砂分を多く含む粘性土である。一軸圧縮試 土粒子の密度 ρs(g/cm3) 2.5 2.7 2.9 -10 細粒分含有率 Fc(%) 0 20 40 60 80 100 自然含水比 Wn(%) 0 20 40 60 80 100 粘着力 c(kN/m2) 0 20 40 圧密による強度増加? 60 図-3 現況での安定計算結果 c=5.5z (zは海底面 からの深度) 標高 (TP m) -12 3. 現況堤防上からの追加調査結果 (1)地層分布および物理特性 -14 表層の Acs 層は構造物による圧縮が明確であるが,粘 性土層の層厚は素地地盤と同程度であり,圧密沈下は明 -16 c=31kN/m2 確ではない。しかし,図-5に示す粒径加積曲線から素地 地盤と同一の地層であると判断できるにも関わらず,N -18 図-2 深度分布図 ×一軸圧縮試験 △簡易 CU 試験 値は素地地盤で N 値=0であったのに対し,防波堤直下 全地連「技術フォーラム2014」秋田 では,N 値=2と大きくなっていることから,圧密によっ ど強度が大きい。Ac1層下部と Ac2層の粘着力は素地地 て強度増加していると想定される。 盤と防波堤直下でほぼ一致することから,Ac1層上部ほ ど圧密の影響が大きく強度増加していることが分かる。 港内側 (4)強度増加率を用いた Ac1層の想定強度 港外側 三軸 CU 試験により,Ac1層の強度増加率 m を求めた。 強度増加率は m=0.258と,一般的なシルトと同程度であ 約90㎝沈下 る。強度増加率による Ac1層の粘着力を以下より求めた。 c=c0+m・ΔP・U ここに,c0:初期の粘着力 (1) m:強度増加率=0.258 ΔP:防波堤,マウンドの荷重 U:圧密度=100%(建造後45年経過) Ac1’N 値=2 計算の結果,防波堤直下の Ac1層の粘着力 c は47~48 kN/m2となり(図-6の□),三軸 UU 試験結果よりもやや大 図-4 地質横断図(追加調査後) 100 通過質量百分率 (%) 90 きい値となる。その理由として,計算に用いたΔP の精 Ac1 全部 80 度が低いこと,初期の粘着力 c0自体にばらつきがあるこ 70 とが挙げられる。 60 (5)安定計算結果 50 地盤定数を見直して,安定計算をした結果,最小安全 40 率は Fs=1.13となった。また,現況で最小円弧となった 30 20 素地 10 防波堤下 0 0.001 0.01 粘土 シルト 0.005 0.1 粒径 (mm) 砂 0.075 1 位置で比較すると,安全率は0.80から1.16となっており, 現況防波堤の安全率が確保される。したがって,見直し 100 10 礫 後の地盤定数は妥当であると判断した。(図-7) 2.0 図-5 粒径加積曲線 港内側 (2)圧密沈下の確認 文献2)に示された式を用いて圧密沈下の有無を確認し 港外側 強度増加を 考慮した範囲 た。Acs 層は砂質土層のため弾性計算で,Ac1層は素地地 盤で行った圧密試験結果をもとに沈下量を計算した。 その結果,Acs 層の沈下量は40cm,Ac1層は48cm であ り,合計すると約90cm 沈下が生じる。Ac1層の上端が港 内側のボーリングとほぼ同様とした場合,計算値は実測 沈下量とおおむね一致しており,現況防波堤の荷重によ り圧密沈下が生じていることが確認できた。(図-4) (3)粘性土 Ac1の強度増加 これまでの検討により, 0 粘着力 c(kN/m2) 20 40 図-7 強度増加を考慮した安定計算結果 60 Ac1層は圧密により強度が増 本検討で得られた事項を以下にまとめる。 c=37kN/m2 (TP-12m以浅) 加していることが考えられ た。そこで,素地地盤で行っ c=31kN/m2 (TP-12m以深) 堤直下で実施した三軸 UU 試 験結果(○)では Ac1層上部ほ (TP m) 値よりも小さかった。 のような調査しにくい箇所であっても,調査によって強 -16 結果(×),簡易 CU 試験結果 する傾向がみられるが,防波 圧密による強度増加は,強度増加率から計算される は,安全性を過大評価する場合があるため,構造物直下 度を確認することが重要と考える。 素地地盤の一軸圧縮試験 (△)は深度方向に強度が増加 ② 以上から,今回のように強度増加率から推定した強度 -14 標高 に粘着力の比較を示す。 建設後45年を経過した防波堤の直下の粘性土は圧密 しており,沈下量はほぼ想定通りであった。 粘着力と防波堤直下で行っ 着力の比較を行った。図-6 ① -12 た強度試験結果から求めた た三軸 UU 試験から求めた粘 4. まとめ -10 c=29kN/m2 -18 ×一軸圧縮試験 素地地盤 △簡易CU試験 □強度増加率より ○三軸UU試験 …防波堤下 -20 図-6 粘着力 c の比較 《引用・参考文献》 1) (社)全国漁港漁場協会:漁港・漁場の施設の設計の手 引き,pp.241~242,2003. 2) (社)日本港湾協会:港湾施設の技術上の基準・同解説, pp.654~658,2007.7.
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