可搬式補助動力装置(ネオアシスター)

可搬式補助動力装置(ネオアシスター)
山根
1 株式会社
豊国エンジニアリング
広宣 1
特機営業部
開閉機販売グループ
河川管理施設および農業用施設機械設備等で設置されるゲート設備は扉体・戸当り・開
閉装置・付属設備で構成され、必要なときに確実に開閉ができることが求められる。開閉
装置の動力源としては、電動機・エンジン・人力等があり、ゲートの規模・設置場所およ
び重要度などを考慮し使い分けられている。災害などにより電気等の動力源が失われた場
合、開閉装置に附設するハンドルを人力で回転させ、開閉操作を行わなければならない。人
力による操作は苦渋を強いられると共に、時間を要するため対応に苦慮している現状があ
る。ここでは、人力での開閉操作を補助し、労力の軽減と開閉時間の短縮を目的として開発
した「可搬式補助動力装置(ネオアシスター)」を紹介する。
キーワード:可搬式補助動力装置 ネオアシスター ゲート設備 開閉装置 開閉操作
1.はじめに
2.水門用開閉装置の現状
ゲート設備は、治水・利水のための社会資本設備
水門用開閉装置は表-1 のように分類され、駆動
として国土の保全や国民の財産を守る重要な施設
する動力源は設備の規模や重要度により電動機・エ
である。洪水や津波警報が発令された場合、ゲート
ンジン・人力が使い分けられている。動力源が電動
設備の開閉操作を施設の用途に応じて行っている。
機または、エンジンの場合でも予備動力として人力
3年前に起きた東日本大震災時には閉操作終了
で開閉できる装置が附設され、電動機等の主動力が
後ゲート設備が巨大な津波により被災し、動力源が
故障した場合の予備動力としている。人力による動
機能を失い開操作を行うことが困難となった。その
力源は、円形のハンドル(開閉機手動ハンドル)を
結果、堤内地に浸水した海水などが排水できなくな
回すことで扉体の開閉を行う機構が一般的である。
り復旧作業の遅れや農業用地の塩害などが発生し
人力で扉体を開閉する場合、揚程(昇降又は走行距
た。
離)が大きくなると開閉に要する時間が多くなり苦
このような状況を踏まえ、現地から電源の確保が
渋を強いられているのが現状である。人力で操作す
容易で応急的に扉体の開閉操作ができる可搬式の
る場合、連続して作業できる時間は体力的に 10 分
動力装置を求める声が多く寄せられた。
程度が限界と考えられている。表-2 に電動の開閉
装置を手動で開閉させた際の速さと所要時間を示
表-1 開閉装置の形式
分類
開閉装置の形式
ラック式
スピンドル式
機械式
チェーン式
ワイヤーロープ巻取式
す。
表-2 型式別の手動開閉速度と所要時間
3.ネオアシスターの開発経緯
4.ネオアシスターの特徴、概要、実証結果
前項 1.2.章を踏まえ、災害等で電動機やエンジン
(1)特徴
など主動力が故障し、動力源が確保出来なくなった
① ネオアシスターは駆動部フレームおよび三脚をア
緊急時の応急対策として、容易に動力源が確保でき
ルミ合金製とすることで軽量化を図り、持運びが可
持運びができる動力伝達装置が求められた。
能で複数の設備を1台の装置で順次操作すること
開発にあたっては、災害時の緊急通行車両に着目
し、自動車のバッテリーを動力源として使用するこ
ができる。
② 動力装置の動力源を直流電源(12V)としているこ
とを前提とし開発を行った。
とで、自動車に搭載しているバッテリーを使用する
動力装置は、直流電動機と減速部が一体となった
ことができる。(動力源が容易に確保できる。)
駆動装置に回転ローラを取付け、三脚形の支柱で支
③ 駆動装置は三脚形の支柱で支持し安定性を確保
持する構造とした。被災時には自動車で現場まで行
すると共に、回転ローラの方向を変えることが可能
きバッテリーに接続することで開閉装置の動力と
なため設置が容易である。開閉機手動ハンドルに
して対応できるようにした。また、装置自体の小形
合わせて回転ローラの高さを調節することができる
化を図り、人力で持ち運びができ、1 台で順次数か
構造になっている。
所のゲート設備に対応することも想定し、このネオ
④
三脚形支柱は差込方式で開閉機手動ハンドル
アシスターが完成した。(外観と概要図を図-1、2
の位置に合わせ回転ローラの高さを調節する
に示す。
)
ことができる。
回転ローラ
取手
押付レバー
位置決めボルト
制御ボックス
支柱
図-1 ネオアシスター 外観
図-2 ネオアシスター概要図
(2)概要
(3)実証結果
ネオアシスターは丸ハンドルを有する手動開閉
ネオアシスターによる開閉速度は、手動開閉速度
装置や電動式開閉装置で開閉機手動ハンドルを回
(ハンドルを 1 分間に 30 回転)と比較して 1.3~2 倍
転駆動させる装置である。
の速度となる。
(表-4 参照)
電源は 12Vのバッテリー(自動車用)とする。
例えば 30kN 用の開閉機を使用し、揚程を仮に 2
また、発電機から電圧変換して使用することもでき
mとして計算すると手動で開閉した場合には、
る。開閉機のハンドル径φ600 とした場合、1 分間
5715 回転必要となる。時間に換算すると 1 分間に
に 40 回程度回転させることができる。
30 回ハンドルを回す作業を約 95 分間も行わなけ
装置全体の重量は約 35kg である。
ればならない。それに対して、ネオアシスターはセ
操作する際は押付レバーを約 20 度まで傾けるこ
ットすれば楽に開閉を行うことができるので身体
とができ、開閉機手動ハンドルに回転ローラを押付
に与える負担は少ない。開閉機が複数台ある現場に
けやすい構造となっている。
おいては、ネオアシスターを使用することにより作
また、三脚の配置を換えることで足場に段差が有
業効率が非常に上がることが期待できる。実際の現
っても対応できる。要目表を表-3 に示し、図-3 に
場では 50cm 程度、扉体を開けることができれば十
実証試験の状況を示す。
分に排水が可能である。
表-3 ネオアシスター要目表
型式
NA-20
モータ出力
200W
出力軸トルク
20N-m
ローラ回転数
95rpm
電圧
DC12V
電流
24A
定格時間
1h/24A
製品重量
35kg
付属品
電源接続ケーブル 長さ 10m
図-3 工場での実証試験状況
表-4 ネオアシスターとの比較
5.ネオアシスターの操作手順
⑤操作スイッチを押し、回転ローラを押付け開閉操
作を行う。
(1)運転前確認
運転前に以下の項目の確認を行う。
・装置全般および接続ケーブルに変形や損傷がない
こと。
⑥停止させる場合は、ハンドルから回転ローラを離
し操作スイッチを押す。
長時間(30 分以上)連続して使用する場合は、バ
ッテリーを充電状態にして使用する。
・ボルト類が確実に締め付けられていること。
押付レバーの押付力は 30~40N 程度でハンドル
・接続する電源(バッテリーなど)の電圧が12V
操作力(100N)を伝達することができる。
(図-4 参
以上確保されていること。
照)
・開閉操作を行いたい方向の開閉機のハンドル回転
方向を確認すること。
・ネオアシスターの支柱の配置を確認すること。
6.今後の展望
ネオアシスターは、3本の支柱で支えられている。
支柱は開閉機手動ハンドルを押付けやすい位置
災害時等の緊急時に多くの箇所でネオアシスタ
に配置し、位置決めボルトを調節しながら高さを
ーが使用され、少しでも復旧作業のお手伝いができ
合わせる。その際に押付レバーを極力水平になる
るよう、ネオアシスターの必要性や信頼性を推奨し
ようにする。
ていきたい。
・開閉機手動ハンドルの握りは回転した際に危険な
ので取り外す。
また、操作員の高齢化が進む中、今後のニーズに
合わせて更なる小形化や軽量化を図り、より使いや
すくなるよう改善・改良に努めていきたい。
(2)運転・停止操作
①バッテリーとネオアシスターを接続する。
参考文献
②開閉機の前へ設置する。
1)社団法人 ダム・堰施設技術協会:ダム・堰施設
③支柱の高さを調節する。
④開閉を行う方向に合わせ正転・逆転のスイッチを
切換える。
技術基準(案)