周辺環境に配慮(震動対策)した岸壁鋼管杭打設について 唐津港湾事務所 沿岸防災対策室 ◎今村 俊博 ○安田 敏雄 1,はじめに 唐津港(東港地区)においては、平成17年3月の福岡県西方沖地震の教訓を踏まえ、佐賀 県内では初めてとなる、災害時での緊急物資輸送のための「耐震強化岸壁」である岸壁(-9 m)の整備を平成19年度より行っている。岸壁の改良構造は図-1 に示すとおりであるが、通常 の施工ではバイブロハンマによる鋼管杭の打設工法が採用されている。 しかし、周辺住民等から、振動・騒音等に配慮した施工を求められたため、打設工法等の検 討を行い、セメントミルクジェット併用バイブロハンマ工法を採用し施工を行った。 本論文では、工法の選定経緯、試験施工、当該工法の振動・騒音結果及び評価について 報告する。 【改良断面】 【既設断面】 20m 14.1m 1.0% + 3.50 5.5m 1: 1 裏埋雑石 + 1.80 .2 H.W.L+ 2.43 + 1.80 + 1.20 鋼管水平梁 + 1.00 φ900×19 L.W.L+ 0.14 1: 1. ストラットφ1000×20 - 4.00 5 - 9.60 as=15% as=15% -12.00 -13.70 L=19500 鋼管杭 φ1300×22 + 2.43 R.W.L + 1.67 裏埋雑石 5 1. 1: 裏込雑石 L=15500 1. 2 - 3.50 鋼管矢板 φ800×9 1: - 9.00 0.4m 舗装 PCホロー桁 -17.70 図-1 岸壁断面図 2,周辺環境について 岸壁工事現場周辺では図-2 に示すとおり 養殖生け簀、背後には住宅、保育園、学校等 があり、また隣接して定期フェリーが就航して おり、工事から発生する振動、騒音及び濁りや 船舶に対する安全に対して、万全の対策によ り施工することが強く求められた。 岸壁改良工事を実施するにあたっては、こ れらの課題に対応するため低振動、低騒音及 び汚濁防止の施工方法、隣接する定期フェリ ーの航路を確保するための対応について検討 を行った。 11m 11.4m 22m す 海員学校 養殖生け簀 保育園 フェリーターミナル 工事現場 図-2 唐津港(東港地区)周辺環境 3,鋼管杭打設の工法選定経緯 3.1,工法選定条件 図-3 に示すとおり岩盤に杭の打設が 可能な工法で港湾工事に適用可能な 工法は、①打撃工法(油圧ハンマー)② 中掘工法(二軸同軸アースオーガ)③ジ ェットバイブロ工法(JV 工法)の3工法で ある。本工事では振動・騒音等に影響 のある①打撃工法は採用できないため、 ②中掘工法と③ジェットバイブロ工法の 2工法でフェリーの航行に影響がないか 検討を行った。 3.2,フェリー入出港時の影響 中掘工法は杭打船を使用するが、図 -4 に示すとおり杭を建込む前にアース オーガを杭に挿入する必要があるため、 フェリーの入出港時に作業船を退避す 図-3 鋼管杭の打設工法選定フロー る場合は杭を存置しアースオーガのみを 引上げ分離・回避することとなるが、アースオーガを再挿入時に杭体に損傷を与たり、オーガ スクリューに曲がりが生じる恐れがあるため、打設中における中断・回避は不可能である。した がって、中掘工法でフェリー航路を侵すことなく鋼管杭を常時打設できるか図-5 に示すとおり 検討を行ったが、作業船をフェリー航路と平行に配置した場合及び岸壁法線と平行に配置し た場合でも打設出来ない箇所があることが判明したため不採用とした。 なお、ジェットバイブロ工法は起重機船又はクレーン付台船での施工ができ鋼管杭打設中 の中断・回避が可能である。 図-4 オーガスクリュー挿入建込イメージ 図-5 杭打船配置状況(中掘工法) 3.3,施工の確実性 JV 工法は「道路橋示方書・同解説(下部構造編)」によると最終打撃や先端処理を行ったう えでの載荷試験を求めていることから、杭先端部にセメントミルクを注入し先端支持力を満足 させるセメントミルクジェット併用バイブロハンマ工法(以下、CJV 工法)を採用した。しかし、本 工法の実績が少なく施工の不確実性さ及び設計基準が確立されていないことから、支持力確 認等の現地試験を行い適用性の判断を行うこととした。 4,鋼管杭打設の試験施工 4.1,CJV工法の施工管理 今回のセメントミルク噴出方式による標準的な適用範囲は杭径φ500~1,000mm であり、打 設杭径がφ=1,300mm と比較的大口径であり杭の中心まで均一に改良されない恐れがあるこ とから、図-6,7 に示すとおり必要根固め高さ3D(3.9m)区間を管理プログラムに沿ってセメント ミルクを噴射し鋼管杭の打設を行った。なお、セメントミルク注入時には、隣接する養殖生け簀 への濁りの影響を低減するため汚濁防止膜の展張を行い、鋼管杭内部よりオーバーフローす ると想定される濁水及びセメントミルクはサンドポンプを用いて強制的に排水し沈殿槽にて処 理した。 なお、試験杭は、先端処理方法の確認のため、ずれ止め鉄筋(D-13)を 6 本配置した本杭 (φ1,300,t=22mm,L=18m)に先端根固め部のみにセメントミルクを注入した杭(試験杭①)と周 面摩擦力により、どの程度支持力が増大するかを確認するため先端根固め部の他に杭周面 にもセメントミルクを注入した杭の(試験杭②)の合計2本とした。 図-6 CJV 工法の施工手順 図-7 セメントミルクの管理プログラム 4.2,衝撃載荷試験解析結果 鋼管杭打設後 4 週間養生し先端根固め部の強度確認を行った後、図-8 に示すとおり衝撃 載荷試験を行い必要な極限支持力(牽引時 3,671kN×安全率 2.5=9,178kN 以上)が確保さ れているか確認を行った。なお、図-9 に示すとおり試験杭にセンサ(加速度計・ひずみ計)を 2 個 1 組で軸対象に取り付け衝撃載荷試験計測システムにて解析した。衝撃載荷試験の解析 結果を表-1 に示す。本試験において確認できた静的抵抗力は①10,140kN、②9,900kN であ り、それぞれ確認支持力を満足するものであった。(> 確認支持力 9,178kN → OK) 試験杭No. 周面抵抗力(a) 先端抵抗力(b) 静的抵抗力(c)=(a)+(b) 確認支持力(d) 判定 図-8 衝撃載荷試験状況 図-9 計測システム図 ① 9,611 529 10,140 9,178 ○ 単位:[kN] ② 9,765 105 9,900 9,178 ○ 表-1 衝撃載荷試験解析結果 5,当該工法の振動・騒音結果 CJV工法による施工中の現地測定結果は、図-10 に示すとおり工事現場の敷地境界での 振動値は平均測定値で 45db と振動規制値 75db の6割、騒音値は平均測定値で 65db と騒音 規制値 85db の8割程度に抑えることができた。 また、養殖生け簀と工事場所の間で測定した水中騒音(音圧)については、表-2 に示すと おりフェリー入出港時と同等の値であり、魚類の反応としては表-3 に示すとおり「魚にようやく 聴こえる最小知覚レベル」にまで抑えることができた。 図-10 敷地境界での振動・騒音測定結果 表-2 水中での振動・騒音測定結果 音圧レベル 聴覚閾値 誘致レベル 威嚇レベル 損傷レベル (致死レベル) 摘要 魚にようやく聴こえる最小知覚レベル。感度の良い魚種で60~80db、一般 的な海産魚で90~110db 魚にとって快適な音の強さ。興味のある音であれば音源へ寄ってくる音圧 レベル。一般的には110~130db 魚が驚いて深みに潜るか、音源から遠ざかる反応を示すレベル。一般的 には140~160db 魚の内蔵やうきぶくろの破裂などの損傷するレベル。水中穿孔発破(海底 に穴を掘って火薬で爆発される)の場合の損傷レベルは220db以上 表-3 各種音圧レベルと魚類の反応 ※引用:社団法人日本水産資源保護協会 水中音の魚類に及ぼす影響 水産研究業書47より作成 6,まとめ 本試験施工により CJV 工法は、以下のことを確認することができた。 ①鋼管杭打設にあたってはトラブルなく施工できた。 ②比較的大口径(φ=1,300mm)であるが適切な施工管理を行うことで支持力を発揮できた。 ③周辺環境に配慮した振動・騒音対策を実施できた。 なお、唐津港岸壁工事の鋼管杭打設にあたっては試験施工を行い CJV 工法にて振動・騒 音を抑えるなど、地域住民や船舶関係者の理解を得てきたところであるが、今後の事業を円 滑に遂行するためには、丁寧な工事説明を行い実施にあたっては留意事項を確実に履行し ていくことである。また、振動・騒音対策に限らず、工事現場に隣接する養殖生け簀に影響を 与えないよう濁り対策を確実に履行すること、全作業員に環境対策の必要性に対する認識を 周知徹底させ、地域住民の清掃活動など、住民とのコミュニケーションや地域貢献を積極的に 図り、地域住民との良好な関係を保つことも重要である。
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