通信第3号 - nifty

フェイス
フ ェ イ ス
Face to Faith
い
ま
あ
す
現実をみつめ、希望を紡ごう 「生きる力」を育む「学び」の創造
2010 年 9 月 21 日
府立人研事務局発行
第3号
うち、およそ半分を凝縮した形で実施していただいた。
小中高、教職経験年数ともに幅広い参加があった。
初めに、牛肉料理や身近な牛製品から私たちの生活と
全体会講演
牛の関わりを、次に牛がその形になるまでの過程を考え
た。最後に、食肉センターで働く父親とその子、担任な
保護者と向き合うということ
どが食肉産業への偏見に対してどう関わっていくかをロ
講師:佐谷 力さん(常磐会学園大学)
ールプレイして考えた。テンポある展開、クイズやロー
ルプレイなど参加者の関心や考えを引き出す工夫が随所
常磐会学園大学
に見られ、「重い問題がワークで考えられるのが新鮮」
の佐谷力さんから、
「自分だけの考えでは思いつかない事も話し合いで解決
保護者と向き合う
することが可能だと思った」と好評であった。食や仕事
ということについ
観へのアプローチで示唆と刺激に富んでいる。酪農家に
てお話していただ
育った講師が、FWや聴き取りなどを重ね長年かけて準
きました。
備されてきた教材であり、その思いがよく伝わってき
教員になる前は、
た。
化粧品会社の営業をされていたということで、「話を聴
なお、この教材は、『身近なことから世界と私を考え
くということを勉強してから教員になれてよかった」と
る授業』(開発教育研究会編、明石書店刊)に、食を巡
の話から始まりました。
る社会システムなどへ学習を広げる発展教材も合わせて
ご自身の経験談が多くあり、とてもわかりやすい講演
紹介されている。
でした。保護者との関わり(クレームを言いに来た保護
者に対して)では、まずは聴く、その後、伝えるという
ことで、顔を見て「か」、共感うなずき「き」、くりか
えし「く」、傾聴してから「け」、攻守交替「こ」の「か
きくけこ」がとても印象に残りました。
とてもテンポがよく、あっという間に時間が来て、い
ろんな意味で本当に勉強になった全体会でした。
第1セミナー(教材部会)
いのちの食べ方を問う
~食肉の仕事の現場から~
講師:丸山まり子さん(関西セミナーハウス開発教育研究会)
食の魅力を引き出しながら、食肉産業に関わる人の思
いや命を失う動物の実態から学ぶワークショップ。主と
して小中学生を対象として作成された全8時間の教材の
第2セミナー(ケーススタディ部会)
生徒との関わり・生徒どうしの関わりの中で
~生徒がかわる、教師もかわる~
報告:谷 悠子さん(大手前高校)
麦田伸一さん(松原高校)
1
まず、大手前高
校から「『わたし
のルーツを語る』
HR」の取り組み
が報告された。日
本名で通う韓国籍
生徒の「クラスで
自分のことを話したい」という思いを受け、同じ立場に
ある他の生徒とつなぎ、保護者や在日の同僚にはたらき
かけ、それらの協力も得ながら、LHRの準備が進めら
れた。当該生徒の発表、クラスの反応、学級通信による
シェアなどがリアルに語られ、生徒たちが自分のルーツ
や課題に向き合い学ぶ姿が実感できた。続いて松原高校
から「人権のつどい」を中心とした取り組みの報告がな
された。当初あまり自分と向き合うことに積極的でなか
った被差別の立場にある生徒が、様々な人権学習での学
びや仲間どうしのつながりの中で成長し、2年次の「人
権のつどい」で立場宣言を行ったことをきっかけに、誇
りをもって高校生活を送っていくに至る経緯が詳しく説
明された。報告を受けてのグループ討議では活発な意見
交流が行われ、在日当事者の教員の思いも熱く語られた。
最後に討議を分科会全体でシェアする中で、学校に人権
教育の土壌をつくること、中高連携を進めること、教職
員自身が自己開示すること、受け入れ可能な居場所をつ
くることなどの大切さが確認された。
第4セミナー(情報と人権チーム)
ICT 最前線~いま、ネット上で何が起きているか~
講師:岡田朋之さん(関西大学 総合情報学部教授)
新学習指導要領における高校教科「情報」の見直しに
始まり、「ツイッター」、「SNS」や「リアル」など、
初めて聞くような事柄等についても、具体例をあげなが
ら幅広くご説明いただいた。また、インターネットの基
本的な説明や、メディアリテラシー育成の重要性、人権、
知的財産権についての話にもおよんだ。そして、トラブ
ルに対する指導例についてもお話しいただいた。その中
で、ケータイ「持ち込み禁止」にも触れ、「学校の人間
関係」のトラブルが「深夜」に「寝室」で起こり問題化
していること。また、フィルターなどの「対処療法」に
は限界があり、「生活習慣病」としての「免疫」をつけ
ることの重要性も指摘された。
トラブル等になった場合、まず大人に相談すること、
そしてそれは学校が担うことであり、学校が軸となって
指導していくことになるであろうこと、しかし、学校現
場のみでの対応の限界と、それにかわる自治体、教育委
員会レベルでの対応の必要性についてもご指摘があった。
第5セミナー(校長部会)
第3セミナー(進路保障部会)
貧困から見えてくる日本社会の姿
いま進路保障に問われていること
講師:生田武志さん(文芸評論家、野宿者ネットワーク代表)
生田さんは大学時代に釜ヶ崎と出会い、卒業後は支援
組織づくりを手伝い、現在、野宿者ネットワーク代表と
して日夜活動しておられる。今、野宿者は全国で2万人
強、女性や若年層も増えており、格差と貧困の拡大のな
か、全国に釜ヶ崎化が広がっているという。今回は、近
年の中高生による野宿者襲撃事件を取りあげ、親と教員
の中にもある排除と偏見が悲劇の背景にあるのでは、と
捉え、そこから小中学生の「子ども夜回り」を始め、効
果を上げている実践を記録DVDも使い紹介された。
日々の活動紹介から、子どもたちの変化やホームレス生
活を送る人たちの仕事・生活・その思いが伝わってきた。
生田さんは、現代の貧困は経済の貧困+関係の貧困と
指摘。格差と貧困問題を人権教育の観点から取り組んで
いくのであれば、避けては通れない課題であると感じた。
講演後のアンケートでは、地域・学校・家庭の結びつき
を大切に生徒との関係を断ち切らないことや、重いテー
マではあるが学校教育の課題として教員研修やワークシ
ョップに取り組みたい等の声が多数寄せられたが、日程
や多忙のゆえか、例年よりも参加が尐なかったのは残念
であった。
報告:中村謙嗣さん(貝塚高校)
三輪真嗣さん(柴島高校)
講師:立川さおりさん(大阪労働協会)
まず、貝塚高校の中村さんより「産社」や「総学」の
中で行われているキャリア教育の内容と就職指導の取り
組みについて、レジメに沿って紹介をしていただいた。
次いで、柴島高校の三輪さんより、採用動向を含む厳し
い企業の実態と、生徒の意識や高校での進路指導・教育
内容との間に大きなギャップがあること、そして社会人
教育が学校ではできていないとの指摘がなされた。最後
に外部人材(キャリアコンサルタント)として府立高校
に関わってこられた立川さんから、H19年度以降の外
部人材活用の流れの説明の後、自身の定時制高校での経
験から個別対応の必要性と有効性を強く感じているとの
報告があった。その後休憩をはさみ、3 名のパネリスト
から出席者の質問シートに対して各々の見解を聞かせて
いただいた。
その中で、生徒のコミュニケーション力を高めるため
には、私たちが個々の生徒と話す機会を多く作り、大人
のモデルとして受け答えをすることを心がけることから
★ 参考著書:『貧困を考えよう』(岩波ジュニア新書)
始めていくしかないのでは、ということを 3 人のパネリ
『ルポ最底辺 不安定就労と野宿』(ちくま新書)
ストが其々の表現で述べられていたのが印象的であった。
2
講師:川口泰司さん(山口県人権啓発センター事務局長)
「人権教育は暗い、というイメージ
を変えたい」という川口さんは、「堅く
全体会パネルトーク
て」「暗くて」「くり返し」になりがちな
従来の人権教育の問題点を指摘、教職
卒業生に聞く~学校・人権・そして今~
員自らが、自らの言葉で語り、生徒た
パネリスト:武
ちと部落問題とがプラスの出会いとな
田 緑さん(柴
るようにしてほしいと語っていた。1
島高校卒業生)
00円の情報には100円の情報しか
幼尐期、物心
返ってこない。教職員が率先して10
の付くころに
万円の自己を開示する、そのうえで、
部落とのプラ
教室で子どもたちの前に立ち、建前でなく本音で語るこ
スの出会いをした武田緑さんの話を中学時代の担任堺谷
との大切さを強調された。表面的で暗い人権教育は逆効
さんとの対話形式で聞く。
果、やるなら本気で、たとえ最初の出会いがマイナスの
「将来差別があるかもしれないがお前の価値は変わら
ものになろうとも次の再度のプラスの出会いを用意して
ない、いつでも助けるよ。」と母親から言われた武田さ
ほしい、色々なバリエーションの出会い直しを用意して
んは、安心を与えられると人は他と接するとき信頼関係
ほしいし、それは可能であるとの話には勇気づけられた。
を築けると語っていた。小学時代、子ども会で反差別・
現在、見える露骨な差別は減尐してきている。しかし、
仲間づくりに真直ぐ取り組んでいた武田さんは、中学入
利害が絡むとき、人々に余裕がなくなったとき、差別は
学後部落研に自然に参加した。部落出身者としてのアイ
表面化する。昨今、土地問題などで再び部落差別が表面
デンティティ・社会正義に目覚め、生徒会活動にも取り
化していることがそれを示している。差別意識をビーカ
組んだ。広島現地調査で、学校に来れていない子と大き
ーの底に沈んだ泥にたとえた話は印象的だった。
く関わり、大きく変わっていった姿を見て、頑張ること
教職員には差別を見抜く力が求められている。学ぶほ
の素晴らしさを学んだとのこと。ただ、活動を嫌がる子
ど差別は見えてくる、啓発ではなく社会問題としてとら
を追いかける活動の在り方に尐し違和感を抱いていたと
えてほしい、見ようとしなければ見えないものがある、
いう。この点については、堺谷さんが表面にとらわれず、
声をかけることの大切さを指摘してフォローされていた。 川口さんはこう締めくくった。
高校をめざす過程で「自分史」に取り組み、中学時代
第1工房(障がい者教育チーム)
を振り返るとともに、親の思いを聞き(母親よりメッセ
障がいのある生徒のキャリア形成と進路指導
ージをもらい)、考えた体験は大きかった、高校時代は
~実りある進路実現のために~
8割がバスケットであったと武田さんは語るが、部落研
報告:金本花菜子さん(西成高校)
で文化祭において劇を上演するなどの活動を展開、さら
松川利隆さん(富田林支援学校)
に差別落書きについての全校集会で友人たちの積極的な
まず、西成高校の金本さんから今年、4年制大学に進
反応に出会うというポジティブな経験を積んだとのこと。
学した卒業生の入学時の様子から授業や考査、学校行事
大学在学中に NGO ピースボートの主催する地球一周の船旅
での取り組みを説明していただいた。
「3年生になると、
に参加、船上での捕鯨やイラク戦争などについて活発に
『普通にみんな一緒の場所で勉強している』という感じ
同乗者たちと議論を戦わせ、自分で考えることの大切さ
があり、その生徒が教室にいるのが自然なクラスになっ
を学んだと武田さんは語っている。
ていった。」とのコメントもあり、学校全体がその生徒
現在は、大学時代に立ち上げた CORE+で活躍。箕面で
とともに取り組んできたことが伺える。そして、大学進
同和地区中心の街つくり、いろいろな斬新な試みを行っ
ている学校へのフィールドワーク等の活動を行っている。 学に向けての活動もその生徒の熱意とともに、高校側が
試行錯誤を繰り返す中で、その結果に結びついていった
「ハードルがあっても、自分は自分でいい、自分には
様子をわかりやすく説明していただいた。次に、富田林
何かができるという自己肯定感が大切だ。」と武田さん
支援学校の卒業生に対する進路指導と学内でのキャリア
は語った。
教育の取り組みを、松川さんからお話しいただいた。支
全体会講演
援学校の場合、小学部があるので、小学部を巻き込んで
学内あげてのキャリア教育がその生徒の特性に合って、
差別っていったいなんやねん?
~もっとホンネで、主語は「わたし」で~
その生徒自身を成長させていったことが伺えた。今後の
3
障がい者のキャリア形成、進路指導に大いに役立つこと
の方で「『フィリィピンといえば、スラムばかり映して
になるであろう。
いるから私たちはバカにされる。フィリィピンにはとて
第2工房(性差別撤廃教育チーム)
虹を渡って~私たちは、それぞれの性を生きる~
も綺麗な所もたくさんあるのに。』と言われた。」とい
パネリスト:堀川ゆうきさん(府立学校卒業生)
平野広朗さん(堺市立第二工業高校教諭)
橋本秀雄さん(三重大学非常勤講師)
ひびのまことさん(「関西クィア映画祭 2010」代表)
性的マイノリティの生徒たちが自分を損なわずに生き
るために、学校で何ができるのか 4 人のパネリストに本
音で語り合ってもらった。
堀川ゆうきさんはFtMのトランスジェンダーとして、
高校、専門学校とカミングアウトしながら自分らしく生
き、男性として就職し社会で活動するまでの報告をして
くれた。性的マイノリティの映画祭を主催するひびのま
ことさんは、性別という区別は必要なく、男も女もなく
好きになり、スカートをはいていいんだと語った。橋本秀
雄さんは、自らも性分化疾患(インターセックス)をも
ち、同じ病気の子どもたちのサポートを行っている。性
別を2つしか許さない医療への不信感を訴えた。平野広
朗さんは、前に初めてゲイであることをカムアウトして
から 20 年近くたち、好奇の目からしだいに自然に受け入
れられるようになり、自分の周りがだんだんと生きやす
い状況に変わってきたと話した。土肥いつきさんは残念
ながら急病で欠席されたが、メッセージとともに、MtF
のトランスジェンダーとして、性的マイノリティのため
の会を主催する自らの姿を映したドキュメンタリー番組
が届いた。
性別とは、別でもなんでもなく、それぞれの性がある
だけだと納得できた、あっという間の 2 時間半だった。
第3工房(多文化教育)
映像教材「ゴミに暮らす人びと」を通して、
子どもの貧困を考える
講師:藤本伸樹さん(ヒューライツ大阪 研究員)
机をはさんで 3 名ずつ向かい合って座るよう机とイス
が配置された。参加者がそろったところで、受付で渡さ
れた用紙に書かれている番号のグループの机に席替え。
子どもの写真の横に「将来の一番の夢は(
)こ
とです。」と書いたプリントが配布、各自(
)に
入る言葉を考えて書くよう指示があった。皆さん、かな
り悩まれていた様子。1 人ずつ自己紹介を兼ねてプリント
を見せながら自分の考えを述べ合った。
次に「ゴミに暮らす人びと」のスライドを見る。音の
ない映像を 15 分間食い入るように見ていた。感想や疑問
に思うことを用紙下半分に書いた。どの机もペンがスラ
スラと動いていた。後盛んに意見交流。藤本さんは最後
う実話も紹介した。アイスブレイクが功を奏し、始終活
発な雰囲気であった。先生たちの胸にいろいろなものが
残った分科会となった。
第4工房(若手工房)
どんとこい 保護者懇談! 行って来ますわ 家庭訪問
~信頼をキーワードにした家庭連携のあり様を探ろう~
アドバイザー:大島弘和さん(北淀高校)
多くの若手の先生方に、ちらほらと中堅の先生方やベ
テランの先生方が混じって若手工房がスタートしました。
冒頭、「家庭訪問や保護者懇談、未経験の方?」と尋ね
てみると、おおよそ半数の方が手を挙げられる状態でし
た。はじめに小グループに分かれて、「遅刻指導の一環
としての保護者懇談でのトラブル」を題材にロールプレ
イに取り組み、懇談成功に向けての「キー」を話し合っ
ていきました。その後、グループごとに、保護者連携の
経験者はその成功談と失敗談を、未経験者は期待と不安
を披露しあい、それらを材料にして「成功するとはどう
ゆうこと?失敗するとは?その分かれ目は何?」を検討
していきました。真剣、かつ活気ある話し合いを通じて、
「保護者との信頼関係を築けるか否か?」がポイントに
なることを見つけ出していきました。最後に信頼関係構
築に向けてのアドバイスがまとめとして語られました。
第5セミナー(教頭部会)
「人権教育」の原点としての「同和教育」に学ぶ
講師:中野陸夫さん(大阪教育大学名誉教授)
「同和教育の歴史を振り返ると自分自身の節目と重な
ってくる。私の同和教育のスタートは一冊の本、盛田嘉
徳著『新しい同和教育の在り方について』(1950 年)か
らである。京都の崇仁小学校では、伊藤茂光という京都
帝大出身の校長が、1920 年から 45 年までの長きにわたっ
て、貧困のため学校に弁当を持って来られないなど子ど
もの現実から出発した当時一番の教育を実践した。」
「1970 年に『にんげん』ができたが、教員の大量採用の
時で、うまくできるのかどうか戸惑いがあった。教材の
出来も心配で、地元の人の自分がモデルかと思ったとの
発言はとてもうれしかった。」などの長い経験のお話か
ら始め、1965 年の同和対策審議会答申当時の話や、地域
改善対策協議会意見具申(1996 年)での問題点など行政
的な面も含めて、これまでの同和教育を振り返りました。
「就職した 1960 年代、テレビや洗濯機はぜいたく品で、
大学の授業料は 9,000 円、教員の初任給は 13,800 円。今
は、授業料 54 万、初任給 20 万。どちらが貧困なのか。
貧困は相対概念である。」など、現在的な課題にも及び
ました。
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