Ⅰ 小学部の取り組み

第Ⅱ部
Ⅰ
学部の取組
小学部の取組
小学部研究について
【目指す姿】
自分の表現方法で表す、伝える、伝え合う姿
1 昨年度の研究から
(1)成果と課題
昨年度、小学部では学部研究会や授業研究会を行い、各学年の目指す姿を以下のように考えた。
また、授業改善を常態化できるように各学年が授業研究会(収束型または拡散型ワークショップ)
を行い、成果や課題を全職員で共有できるようにし、表1のように整理した。
表1 各学年における目指す姿と成果と課題
学年(指導の形態)
目指す姿
成果○と課題●
小学部1、2年 ・やりたいことを考えて、取り組む
○支援の共通理解(教師)
(遊びの指導)
・遊具の共有、物を介したやりとり
○友達を意識した行動、友達同士の自然な関
・対象物や他者に関心をもち働きかける
わり
●興味関心の持続
●好きなことややりたいことの広がり
小学部3、4年 ・やりたいことを伝えて、取り組む
(生活単元学習) ・友達と楽しむ
○ゲームの勝敗への意識
○伝えたい気持ちの芽生え
・カードや表情、身振り、発声等で気持ち ○カードを用いた表現の般化
を表す
●表現方法の広がり
●生活経験の拡充
●友達同士の関わり合い
小学部5、6年 ・活動を理解して、進んで取り組む
(生活単元学習) ・友達と協力する
・相手を意識して伝える、聞く
○友達の輪の広がり
○達成感、満足感、次時への意欲の高まり
●発表の仕方、聞き方
●活動状況の共有、主体的な参加
(2)小学部における目指す姿
このような成果と課題を踏まえ、小学部の目指す姿を図1のようにまとめた。次年度に向けて、
学年の柱となる指導の形態である遊びの指導と生活単元学習の題材や単元の系統性と一貫性を検
討することにした。
基礎的・基本的な知識技能
豊かな体験活動を通して応用
遊びの指導、生活単元学習
国語・算数・自立活動
「自分の表現方法で表す、伝える、伝え合う姿」
図1
小学部の目指す姿の捉え
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2 今年度の取組について
(1)授業づくりの方向性(仮説)
学部研究会を通して、次のように授業づくりの方向性を考えた。
小学部で目指す姿「自分の表現方法で表す・伝える・伝え合う姿」の実現に向けて
各学年における遊びの指導や生活単元学習では…
児童の新しい気付きや驚き、喜びなど心を動かすような
豊かな体験活動の機会を設けた授業づくりが必要。
<仮説>
児童生徒の体験活動が豊かであればあるほど、そこから展開される言語活動は豊かに
なり、小学部の目指す姿に近付けることができるのではないか。
(2)年間指導計画の練り上げ(ベースミーティングの実施)
「小学部で目指す姿」に近付けるために、熊本大学附属特別支援学校の「熊大式授業づくりシ
ステムガイドブック」を参考にしながら、小学部職員が低学年、中学年、高学年の3グループに
分かれ、年間の単元・題材計画を話し合うベースミーティング①を行った。学級担任だけでなく、
国語・算数担当教員からも意見を出し合い、一人一人の児童について必要な力について検討し、
多角的な視点で支援の方向性を考えた。
その後、学級担任間でベースミーティング②を行い、より具体的な生活単元学習や遊びの指導
の年間指導計画の作成に取り組んだ。一人一人の実態を考え、必要な学習活動及び実現可能な年
間指導計画の作成をした。
2学期開始当初には、ベースミーティング③を行い、指導内容の見直し、単元や題材の一貫性
などについて話し合いを行い年間指導計画をさらに練り上げ、後期に向けて支援の確認を行った。
ベースミーティング①(低・中・高学年の3グループ)
単元・題材の年間指導計画(話し合い)
ベースミーティング②(学級担任)
具体的な年間指導計画の作成
ベースミーティング③(低・中・高学年の3グループ)
指導内容、単元や題材の一貫性の見直し
図2
ベースミーティングの流れ
写真1
ベースミーティングの様子
(3)目指す姿に向けた授業づくりの4つのキーワード
研究授業、学部研究会を通して、小学部で目指す姿に近付けるための支援を次の4つに絞り、
授業づくりを行った。
①学習テーマや目的意識を共有できる工夫
例えば調理の活動(図3)では、個々の児童が自分の食べる物を調理しているだけでは、単な
る「調理をして食べる」という活動だけで終わってしまう。この調理した物を「身近な人におも
てなしをしよう」や「食べてもらって、アンケートをもらおう」、「カフェをオープンしよう」
などといった目的意識の共有が工夫されると、課題解決にむけた児童同士の関わりや他者との関
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わりが生まれると考えた。
②児童同士をつなぐもの(教材教具)の工夫
男の子と女の子の牛乳と計量カップをやりとりする場面を示した(図3)。先に道具を使って
いる人を待ったり、一緒に使うなど協力して使ったりするなどの関わりの場面を設定するために
は、児童同士をつなぐ物、つまり教材教具の工夫が大切であると考えた。
③活動場面の工夫
児童同士の関わりの場面を円滑にするためには、活動場面の工夫が必要だと考えた。そのため
には、お互いの様子が見えるように配置図を工夫したり、児童の活動の動線が混乱しないように
教材教具の置き場所を考えたりするようにした。
④補助的手段、情報機器の活用
小学部の児童には発語による関わりが難しい児童も在籍している。そのような児童が、授業の
中で他の児童と関わりをもてるように、必要に応じてビックマックや VOCA、タブレット端末
などの補助的手段や情報機器を使うことを取り入れるようにした。
次、貸して。
いいよ。
いいよ。
教材・教具
活動場面
の工夫
補助的手段・
情報機器
図3
4つのキーワードの捉え
(4)小学部全職員による模擬授業の実施
全校授業研究会を実施する学年について、授業者以外の職員が児童役に扮して模擬授業を行っ
た(写真2、写真3)。そのため、授業者以外の職員も他学年の児童の行動や様子を普段から観
察するようになり、授業づくりを小学部全職員で行うことができると考えた。
模擬授業では、授業者以外の小学部職員から「児童が応援する席は、斜めにした方が見やすい
のではないか?」や「児童には得点板の情報量が多いので、シンプルにしてみてはどうか?」な
どの意見があった。また、教育センター指導主事にも参加していただき、助言をいただきながら、
多角的な視点で授業づくりを行うようにした。
写真2
写真3
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小学部1、2年
題材名
目標
キーワード
遊びの指導
ミドリッコ・サーカス!
・自分の好きな遊具を見つけ、繰り返し揺れたり跳んだりして遊ぶ。
・友達の様子を見たり、友達の真似をしたりして同じコーナーで遊ぶ。
・サーカスをイメージして衣装を着たり、遊具を工夫して使ったりしながら遊ぶ。
・学習テーマや目的意識を共有できる工夫
・活動場面(配置、コーナー)の工夫
1 授業づくりの実際
(1) 体験や実物を基にした遊びの展開
めがねをかけて、仮装を楽
しみ、事前にサーカス気分
を満喫した。
校外学習で本物のサーカスを
鑑賞した。
実際に見た「早着替え」の
場面を、「へんしんフラフ
ープ」を作って再現した。
児童の変容
・仮装や写真で「サーカス」について触れた後、全員で本物のサーカスを見に行った。実際
に見たり聞いたりすることで、
「サーカス」のイメージが出来上がり、「ブランコ」など印
象的な場面を口にしたり、写真を指差したり注目したりする様子が見られた。
・遊びの中に、実際のサーカスで行っていた「早着替え」「ジャグリング」「大きな風船」な
どを提示した。
「触ってみたい」と手を伸ばしたり、手に取って動きを真似したりする姿が
見られ、ごっこ遊びや見立て遊びにもつながった。
(2)教師や友達との自然なやりとりを引き出す活動の設定
暗くて狭い空間、
「ミラーボ
ールテント」でサーカス小
屋を再現。
中をのぞく様子。
「空中ブランコ」を再現し
て「ロープブランコ」を設
置。友達や教師とハイタッ
チして遊ぶ姿。
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「へんしんフラフープ」で
衣装を着て鏡で確認できる
ようにした。「見てみて!」
と周りにアピールする姿。
児童の変容
・小さいテントを設置し、中でライトを当てて光遊びを楽しんだ。中が見えないため、気に
なって覗くことで友達が遊ぶ様子を目にしたり、狭い空間のため、友達と触れ合ったりラ
イトを貸し借りしたりする姿が見られ、自然なやりとりが生まれた。
・ブランコは動きが大きく、体を動かして遊ぶことを好む児童にとって関心が高かった。自
分で揺れを楽しむだけでなく、友達が揺れる様子を近くで見て楽しんだり、教師や友達と
ハイタッチをしたりする様子が見られた。遊びの後半には、友達を後ろから押してあげた
り、順番を待って乗ったりするなど、人と一緒に遊ぶ楽しさを感じている様子も見られた。
・
「へんしんフラフープ」では、着替え終わった後に鏡を見て仮装した姿を楽しんだ。着替え
ているときにハンドベルやタンブリンを鳴らしたところ、周囲の注目が集まり、
「かっこい
いね」
「似合うよ」と声をかけてもらうことが増えた。満足感が高まり、生き生きと遊ぶ様
子が見られた。また、友達が着替えるときにフラフープを持ってあげたりベルを鳴らして
みんなに知らせたりする様子が見られ、見たり・見られたりする関係を十分に楽しんだ。
(3)誰でも楽しめる遊具の設定、友達と同じ場で遊ぶ場の設定の工夫
心地良い揺れを感じな
がら、安心して遊び場で
笑顔を見せる姿
大好きな「高い場所」から
教師と一緒に飛び降りて遊
ぶ姿
「大きな風船」を見つけ、自
然にマットの上に集まる児童
児童の変容
・児童の興味関心や発達段階に応じた遊具を話し合い、各コーナーを設置した。初めての場所
やにぎやかな雰囲気が苦手なFさんが、数個ボールを下に敷いたセラピーマットでの「ゆら
ゆらコーナー」で遊ぶことで、体の力を抜いて活動に取り組むことができた。
・集団から離れて過ごすことが多い児童数名が、
「高い場所」やマットが好きなことから、滑り
台と階段を中央に設置した。上から見下ろすことで友達が遊ぶ様子を見ることができ、他の
遊びに少しずつ関心が向いた。また、いろいろな方向から上ったり下りたりして遊ぶ友達と
自然に触れ合ったり、教師に誘われて跳んだり滑ったりするなど遊び方が広がった。
・
「大きな風船」を提示すると、大きさや動きから高い関心が集まった。マットの上に風船を持
って行くと、自然に風船を追いかけてみんなが集まり、思い思いの姿勢で触ったり見たりし
て風船と触れ合った。風船を介して、児童同士がつながり関わり合うことができた。
2 まとめ
・記録を基に遊びの様子を振り返り、その都度遊具やコーナー設定を見直した。児童が遊
ぶ様子を全員で共通理解することで、課題や支援方法を教師間で確認できた。
・前半は教師と一緒に一人一人がじっくりと遊ぶ場面を多く設定した。十分に遊んだこと
で、後半は友達同士でやりとりする場面が多くなり、教師は見守る・支援することが多
くなった。更に関わりを活発にするために、ベースミーティングをより充実させて、ど
んな場面でどんな友達同士の関わりができるのかを的確に予想し、支援を考えて授業作
りすることが必要である。
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小学部3年 生活単元学習
単 元 名 どきどくわくわく!ゲームをしよう!
目
標 ・ゲームの活動に期待感をもち、工夫して取り組んだり、ルールを守って活動し
たりする。
・ゲームの活動を通して、友達と関わり合ったり、自分の気持ちを伝え合ったり
する。
キーワード ・児童同士をつなぐもの(教材教具)の工夫
・補助的手段や情報機器の活用
・活動場面の工夫
1 授業づくりの実際と児童の変容
(1)教材教具の工夫
①活動への注目を高めるような装飾、音、感触などのあるゲームのアイテム
《ボウリング》
・ペットボトルのピンが倒れ
る音は児童好み。ピンは鈴
入りで、さらに盛り上げて。
《射的》
・打ったときに、ゴムの振動
が“パシッ”と手に響く射
的。的が倒れる音も楽しい。
《お魚キャッチ》
・カラーポリの煙突から風
と一緒にお魚が吹き出す。
目、耳、肌で楽しんで。
②友達との関わりを引き出す、ゲームの用具やアイテム
・ゲームで使う衝立は友達と
協力して運ぶと運びやすい
大きさ。
「一緒に持とう?」
・早く次のゲームをする
ために、誘い合って使
った用具を片付ける。
・友達の点数が知りたくて、側
に集まって応援。「この魚を
釣るといいよ」「がんばれ!」
児童の変容
・自分たちでゲームのアイテムを作ることで、期待感をもって活動に臨むことができた。児
童が好む音や感触を意識して取り入れたところ、その音や感触をきっかけにゲームへの関
心を高めたり、気持ちを切り替えたりできるようになった。始めは自立活動的な視点から
考えた教材であったが、どの児童にとっても魅力的なゲームのアイテムとなった。
・初めは準備や後片付けなどに個々で取り組もうとしがちであったが、「いっしょ」などと
キーワードとして提示したり、好ましい関わりを即時的に称揚したりすることで、次第に
関わり合う姿が多く見られるようになった。「○○係」などと役割を固定せずに取り組ん
だことで、児童自身の気付きや自発的な関わり合いを多く引き出すことができた。
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(2)活動へのきっかけ作りとしてのビッグマックや、発表を補助する「気持ちカード」
(2)活動へのきっかけ作りとしてのビッグマックや、発表を補助する「気持ちカード」、活動
を視覚的に振り返る映像(iPad)の活用
《ビッグマック》
《気持ちカード》
《活動をiPadで振り返る》
・この音をきっかけに、友達
が声を合わせて応援する。
・発表の際に、気持ちを表 ・友達の頑張りや良い表情を視
す言葉の参考として活用。
覚的に振り返られる映像。
児童の変容
・ビッグマックの音声をきっかけに友達が自分を応援してくれることで、活動への意欲が高
まった。応援する児童にとっても、友達に気持ちを寄せ、注目するよいきっかけとなった。
・「気持ちカード」を使うことで、自分の気持ちを視覚的に振り返り、進んで発表しようと
した。「負けて悔しかったので、次は勝ちたい」など、表現の深まりも見られた。
・活動の振り返りにiPadを用いることで、
「○○さん、笑っているね」
「楽しかったんだ」
など、活動時には気付かなかったことに気付いて、友達と共感し合うことができた。
(2)互いの活動が見合えるような場の設定
《模擬授業》
《動線を整理した配置図》
・職員が児童役になって検証。 ・模擬授業を受けて作成し
た配置図。
《友達を注目できる配置へ改善》
・友達への注目がアップ。一人
一人の動きも良くなった。
児童の変容
・模擬授業を行うことで、児童が動きやすく、かつ友達に注目しやすい配置の仕方について
複数の目で検討することができた。活動場所を視覚的に分かりやすくシートで区切って示
し、その中の動線を整理したことで活動へ集中が高まり、活動場面から離れやすい児童の
離席も目立たなくなった。また、友達をよく見て応援しようという意識も高まり、活動自
体の盛り上がりにも結びついた。
2 まとめ
・自立活動的な視点から教材や環境を整えたことが、結果として全体的な「分かりやすさ」と
なり、期待感の向上や友達への注目へと結びついた。繰り返し活動することで、児童同士が
進んで関わり合い、ゲームを展開する姿が多く見られるようになった。友達に対して自分の
気持ちを発信して受け止めてもらうという経験を重ねたことでやりとりへの自信を高め、日
常場面の自発的なやりとりが増えた児童もいた。
・ゲームのアイテムに関しては、どの児童も自身の力で操作できるなど、より主体的な取り組
みを引き出す工夫が必要であった。また、情報機器については、児童同士の注目を高めたり
やりとりを引き出したりする効果が期待できるため、児童の個々の実態に応じたよりよい活
用の仕方について考えていきたい。
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小学部4年
単 元 名
目
標
キーワード
生活単元学習
みんなでつくろう
・活動に興味関心や見通しをもち、友達と協力して活動に取り組む。
・友達と活動に取り組みながら、身近な教師や友達と関わる経験を増やす。
・補助的手段、情報機器の活用
・児童同士をつなぐもの(教材教具)の工夫
1 授業づくりの実際
(1)パソコンを操作しながら、調理を進行できる工夫
VOCA を使って「○○くん、やって」と
ビックマックを押して手順を知らせる役割
友達に依頼
児童の変容
自立活動の指導内容と関連させながら、ビックマックを押すと次の調理手順がパソコンの画面上
に映るようにしたり、VOCA を使って友達の名前を呼び出したりすることができるようにした。本
学級は、発語による関わりが難しい児童が多いため、教師対児童という関係が中心だったが、各児
童が補助的手段を使えるようになったことで、児童同士が関わり合いながら活動する機会が増えた。
(2)自分で気付いて、調理器具を準備できるような動線の工夫
児童の変容
パソコンの画面に必要な調理器具のイラストが映し出され、自分でイラストを確認しながら調理
器具置き場に行けるように動線をシンプルにした(写真矢印)。どの調理器具を運んでくるか忘れた場
合でも、振り返れば画面を見て確認することができるため、自分で気付いて調理器具を準備するこ
とができた。
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(3)友達と協力しないといけない状況づくり
児童の変容
材料等をかき混ぜる時に、3名の児童が一人ずつ交代で行えるように役割を設定して活動量
を保障したが、児童間の関わりや協力する機会が少なくなった。そこで、
「一人でできる状況」
から「友達と協力しないとできない状況」になるように教材教具の提示を工夫した。例えば大
きめのボールを用意することによって、左手でうまくボールを押さえることが難しい友達に対
して、さりげなくボールを押さえてあげるなどの児童の姿が見られた。
(4)学習テーマを意識できることをねらいとした校外学習の実施
児童の変容
「みんなでつくろう」の単元では、単にお菓子を作るだけでなく、身近な人におもてなしを
し、感謝することをねらいとしている。校外学習において、専門店でワッフル作りを体験した
り、店長さんからお客さんをもてなす大切さを教えてもらったりすることで、本単元に向かう
気持ちを共有することができた。
2 まとめ
・これまで、教師との関わりが多い学級集団だったが、パソコンや VOCA を使うことで友達同士
の関わりを増やしながら学習活動に向かうことができた。しかし、機器の使い方については
まだ練習や工夫が必要な段階である。今後も、日常生活も含めて機器の活用を支援していき
たい。
・児童一人一人の言語活動が異なるため、部分的に教師が介入し、児童の気持ちや表現を分か
りやすく伝え直す場面も多かった。児童同士の関わりを促す、教師の支援のあり方について、
次年度以降検討していきたい。
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小学部5年
単 元 名
目
標
キーワード
生活単元学習の指導
ゴーゴーワッフルカフェを開こう
・調理や販売などの活動を通して、自分の役割に取り組んだり、友達と協力したりする。
・より学習テーマに迫るための単元構成の工夫
1 授業づくりの実際
(1)小単元①「材料を買ってワッフルを作ってみよう」(買い物と調理の体験)
〈買い物〉
〈調理〉
近隣のスーパーを利用。イラストと
文字で書かれたメモを手がかりに、材
料を購入した。
役割を分担したり、一人で全ての工
程を行ったりし、調理の手順を確実に
身につけた。
児童の変容
・買い物と調理を繰り返し行ったことで「買った物で作る」、「作るために買い物に行く」といった
活動のつながりが定着した。買い物では、必要な物の売り場が分かり、支払いや袋詰めを児童同
士で協力しながらスムーズに行うようになった。調理では、タイマーや写真等の見本を使いたい
と提案したり、役割分担をして効率的に作るために工夫をしたりする姿が見られた。
・調理は好むものの、関わることが苦手な児童は、少しずつ試食をしてもらう人を増やすことで、
「自分が作ったものを誰かに食べてもらいたい」という気持ちが芽生えてきた。
(2)小単元②「ワッフル屋さんに行ってみよう!」(地域資源を活用)
〈プロからの指導〉
材料や作り方、接客態度のポイント等
をプロから教えてもらい、
“本物体験”を
したことで、もっとおいしいワッフルを
作りたいという意欲が高まった。
〈本物を試食〉
食事に偏りの
ある児童でも、本
物を作る工程を
体験することで、
安心して調理や
試食を行うこと
ができた。また、
徐々に食事への
関心や意欲が高
まった。
児童の変容
・地域のワッフル屋さんに出かけ、いろいろな体験を通して、新しい知識や正確な調理手順を身に
付けた。本物への憧れとそれを自分たちで実現したいという気持ちが高まり、
「校内でお店を開き
お客をもてなしたい」と話すようになった。開店準備として、先生や友達を招待し、ワッフルや
屋さんになる気持ちをもっておもてなしをする練習を行った。
・校外学習後の調理から、本物体験を生かして材料や道具を揃えたり、調理や盛りつけをしたりす
るなど、自信をもって友達をリードしながら活動するようになった。
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(3)小単元③「開店準備をしよう~グッズ作り~」(校内資源を活用し活動内容を発展)
〈染め物〉
〈ミシンがけ〉
自分たちで前庭の花壇
に咲く花を摘み取り、布を
染色した。工程や色の変化
を楽しみながら行った。
染めた布を使い、ワッフルカ
フェで身につけるお揃いのエプ
ロンとランチョンマットを縫製
した。集中して取り組んだ。
〈看板作り〉
おすすめメ
ニューを手書
きで紹介。ネ
ーミングや文
章を考えなが
ら書いた。
〈エプロン試着〉
初めて自
分で作った
エプロンを
試着し、ウエ
イトレスや
調理係の準
備が整った。
〈ランチョンマットと模擬メニューの制作〉
テーブルに
敷くランチョ
ンマット、店内
に装飾する紙
粘土のワッフ
ルを制作した。
児童の変容
・校内の物や人を活用して、開店にまつわるグッズ作りを行った。図工で取り組んだ染め物をきっ
かけに、様々な活動に展開させ(染め物、ミシン、工作など)
、学校生活自体が「ワッフルカフェ
開店」というテーマをもって過ごすことで、目的意識や期待感が高まった。
(4)小単元④「ゴーゴーワッフルカフェ オープン」
(校内の人、家族を招待する。
)
〈保護者がお客さん〉
〈調理係〉
〈ウエイトレス〉
PTA授業参観では、母親
が来ることを楽しみにして生
き生きと接客をした。
材料を混ぜる係、焼いて盛
りつける係等、児童同士で自
然に関わりながら役割を分担
し、ウエイトレスに渡した。
ワッフル
ができあ
がるまで
の間、手
際よくコ
ーヒーを
入れた。
児童の変容
・人と話すことが苦手な児童であったが、親しい職員や友達の招待を繰り返すことで自信をも
って接待することができるようになった。
「次は○○さんを招待したい」という思いが強くな
るにつれて、ウエイトレスになりきって役割を務めたり、教師を介さずに友達に注文を依頼
し確認してから受け取ったり、適切な言葉遣いで接客したりする等の自主性が見られた。
2 まとめ
本物体験を生かし、
「ワッフルカフェ」を開店することを目標として単元内容を構成したり、授
業内容を工夫したりしたことで、個々の関心や集中を高めることができた。また、単元内容を発
展させながら継続したことで、課題に合った活動を設定できた。
今後は、生活場面に即した場面や、技術面も習得できるような活動を設定したい。意思をやり
とりするためのコミュニケーションツールも活用したい。
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小学部6年
単元名
目
標
キーワード
生活単元学習
小6にじいろドリームコンサートをひらこう!
・自分の役割や活動内容が分かり、進んで活動に取り組んだり、観客が喜ぶ姿を意
識してコンサートの企画・準備・練習をしたりする。
・自分の意見を相手に伝えたり、友達の意見を受け入れたりしながら互いに協力し
合い、コンサートをつくり上げる経験を通して、仲間との一体感を高める。
・児童同士をつなぐもの(教材教具)の工夫
1 授業づくりの実際
(1)プレゼント係(コンサート来演者へのプレゼント:コースター作り)
①四方に飾りを縫い付ける。
②布と布を張り合わせる。
③四辺を縫う。完成!
児童の変容
・流れ作業にしたことで、自分の担当活動が終わると隣の児童
に「どうぞ」と言って渡すといった自然なやりとりが見られ
るようになった。隣の児童が自分の活動に夢中になっている
ときにはすぐに話しかけずに見守り、一段落したところで話
しかける姿も少しずつ増えてきた。
(2)宣伝係(コンサートのチケット、ポスター、招待状等の作成)
キーワードにもとづいた
教師の手立て
タブレット端末を用いてチケ
ットを作成
画像挿入を提案し、撮影
作成したチケット
児童の変容
・児童 A は、昨年度も同じ宣伝係を担当しており、活動に自信や見通しをもって取り組むことがで
きた。また、
「○○さんは字を書くことが得意だから字を書く活動をお願いしよう」などと、同じ
係の友だちの得意な活動に気付いて依頼したり、チケットやポスターのデザインを積極的に考え
てアイディアをたくさん提案したりするようになった。
・興味関心の高いタブレット端末を用いたことで、使い方をお互いに教え合う姿が見られるように
なってきた。
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(3)道具係(コンサートで使用する小道具作り)
・グルーピングの工夫
・活動の終わり(出来上がり)
を視覚 的に分かりやす く
提示
作り方を教えながら一緒に
取り組んでいる様子
児童の変容
・普段の生活の中で、関わりの多い児童同士を一緒のグループにした。前時に欠席して小道具
の作り方が分からない友だちに「こうやるんだよ」と言葉を掛けながら、必要に応じて手を
とりながら教える姿が見られた。
・活動の終わりが分かるようなボード(フック付き)を用意したところ、1つ完成するごとに
一緒になってフックにつるして喜び合ったり、出来上がりまで残りあといくつかを数えたり
するようになった。
(4)看板係(アイロンビーズを用いた虹の看板作り)
・看板係を担当する児童2人が得意とする
活動を取り入れた。
一緒に活動している様子
児童の変容
・友だちへの関心は比較的薄い児童2名だが、アイロンビーズという好きな活動を介し、「く
ださい」と言ったり、相手の「ください」を受けてビーズを渡したりして、自然なやりとり
をする姿が見られるようになった。
・離席をすることなく、他の児童と同じ場で活動に夢中になって取り組むことができた。
2 まとめ
・昨年度に引き続いた単元であったことで、それぞれの児童が活動の見通しやコンサートへの
期待感をもって楽しみながら取り組むことができた。
・アイディアを出したり、自ら進んで他の係の活動を手伝ったりする姿が見られた。
・9人の仲間が一丸となりコンサートに向けて活動を共有しながら準備や練習に取り組むこと
ができた。
・終了時刻の示し方について、時刻になった際に係のリーダーが他の児童に伝えたり、音楽を
流したりして、全員が活動終了と分かるよう工夫したい。
・個人目標は、一人一人さらに具体的に考えて、全体目標や単元目標の達成に向けて段階的に
設定していく。
・振り返り場面では、個人の感想発表にとどまらずに、係としての取り組みや成果、次時への
目標を発表できるよう、繰り返し活動を重ねていく。
・見る場面、聞く場面をより意図的に設定し、話を聞く態度・姿勢の定着を図る。
21
小学部のまとめ
1 成果(○)と課題(●)
小学部職員にアンケートを行い、次のように今年度の小学部研究の成果と課題を整理した。
(1)ベースミーティングについて
○年間指導計画を一から作り上げるには労力が必要だが、たくさんの先生方から複数の目で
児童の実態や支援方法を確認できたことは、目指す姿を意識した授業づくりにもとても役に
立った。
○年度当初に話し合ったので、単元の目標、指導内容の具現化や個々と集団の支援方法などを
明確に捉えることができた。単元のスタートもスムーズに実施できた。
●年度末評価の時期にもう一度実施できると、次年度への引き継ぎとなると思った。
●一人で生活単元学習の授業を行ってきたが、もっと他学年の先生とミーティングする機会を
設けた方が、支援方法や授業構成など工夫できたのではないかと感じた。
(担任1名の学年)
(2)授業づくりの4つのキーワードについて
①学習テーマや目的意識を共有できる工夫
○カフェをオープンする単元を行ったが、実際にワッフル屋に校外学習に行ったことで児童同
士がイメージをもちやすくなった。カフェと関連した学習として、必要な道具(ランチョン
マットやエプロンなど)の製作も意欲的であった。
○サーカスをテーマに遊びの指導の授業を行った。実際のサーカスを見に行ったことで、学習
テーマを児童同士で共有しながら遊ぶことができた。個々の遊びにはならず、共通のテーマ
のもと自然に関わりながら遊ぶ姿が見られた。
○調理活動に沿った写真や手順表を全体に掲示したことで、お互いの活動内容を共有する児童
同士の関わりが見られた。
②児童同士をつなぐもの(教材教具)の工夫
○制作の過程を役割分担したことで、道具の貸し借りの場面が増えた。全員で作品を完成させ
ることで達成感を共有することができた。
○児童の実態や興味関心から、「体を動かす遊び」を中心に設定し、教材教具を設置した。そ
のため、児童同士が自然につながる場面が多く見られた。
③活動場面の工夫
○対面式で調理を行うことで、友達が活動のモデルとなる場面を設定できた。お互いに見合っ
たり、教えたりするなどの関わりの場面が見られた。
○児童が、お互いの様子を見ることができるように遊具を設定した。遊びの中で、自然に関わ
ったり、他の遊具に誘ってみたりする姿が見られた。また、指導案では配置図を工夫して提
示した。
④補助的手段、情報機器の活用
○ VOCA を使うことで、役割を分担したり、活動を依頼したりすることができるようになっ
た。
○ビックマックをパソコンにつなぐことで、児童がパワーポイントで手順を進行することがで
きた。自立活動のスイッチ教材を押す学習とリンクさせて指導を行うことができた。
●補助的手段などの支援も必要と考えているが、児童の行動や表情を読み取って、気持ちを代
弁するような教師の仲立ちが必要だと感じた。
(3)模擬授業について
○ほとんどの職員が初めての経験となった。特に授業者にとっては、準備物の過不足や教師間
の役割分担を流れに沿って確認することができた。
○教師が車いすに乗って児童役をしたことで、普段どのような目線で授業を受けているのか理
解できた。児童の動線を考えながら、教材の配置を職員で気軽に意見交換ができた。
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