担い手対応高度技術実証事業実績書 普及センター(支所)名: 1 課題名 2 目 長 崎 中晩生かんきつ「せとか」の生産安定のための施肥体系及び結実法の確立 的 せ と か は 品 質 が 高 く ,ポ ス ト マ ー コ ッ ト や 新 た な 施 設 栽 培 用 の 中 晩 柑 と し て 期 待 されている。管内でも新規導入の動きが見られている。 しかし、現地や試験場等の結実状況を見ると当初考えられていた以上に隔年結果 性が強いため、経営への影響が懸念され、産地拡大の支障となっている。 そこでこれまでマーコットの管理に準じて実施されてきた施肥管理や結実法を見 直し、せとかの安定生産に資する。 3 実証圃の条件 1)展示場所 長与町本川内 2)地域の概況 町 の 三 方 を 100 ∼ 450m の 山 に 囲 ま れ 、 中 央 は 盆 地 状 を な し て い る 。 北 部 は 大 村 湾に面し、町を流れる長与川がこれに注いでいる。地質は主として、沖積層、安山 岩 砂 状 土 な ど か ら な り 、 果 樹 の 栽 培 に 適 し て い る 。 年 平 均 気 温 は 16.5 ℃ 、 年 間 平 均 降 水 量 は 1,900mm 、 大 村 湾 の 影 響 を 受 け る た め 寒 暖 の 差 は 比 較 的 少 な く 、 温 暖 な 気象条件である。 近年長崎市のベッドタウンとして住宅地が増加しているが、農業における経営総 耕 地 面 積 561ha の う ち 樹 園 地 は 481ha を 占 め 、 そ の 9 割 が 柑 橘 園 と な っ て い る 。 3)担当農家名 I氏 4)担当農家の経営概況 作目・部門 面積 露地みかん 露地中晩柑 施設中晩柑 施設びわ 梅 水田 270a 13a 17a 8a 2a 30a 備考 極 早 生 55a 、 早 生 10a 、 普 通 205a 4 実施期間 平 成 15 年 4 月 ∼ 平 成 16 年 3 月 5 設計概要 1)供試作物 せとか(高接ぎ年数:5年目、中間台:津の香) 2)供試面積 2 a( 8 a ハ ウ ス 4 棟 の う ち の 1 棟 ) 3)供試区分および処理方法 下表のとおりに試験区を4区設定し、各区2樹を供試した。結実程度は、7月2 4 日 及 び 9 月 1 9 日 に 摘 果 を 行 い 指 定 さ れ た 樹 容 積 あ た り 果 数 に 設 定 し た 。施 肥 は 、 下表のとおりそれぞれ設定された量を農家慣行肥料を使用し実施した。 施 試験区1 基準区 肥 結実程度 12.0 果 / m 3 N 2 8 kg ( 春 7 ㎏ 、夏 6 ㎏ 、初 秋 5 ㎏ 、晩 秋 5 ㎏ 、初 春 5 ㎏ ) 試験区2 多肥区 12.0 果 / m 3 N 3 5 kg ( 春 7 ㎏ 、夏 7 ㎏ 、初 秋 7 ㎏ 、晩 秋 7 ㎏ 、初 春 7 ㎏ ) 試験区3 基準区 9.0 果 / m 3 N 2 8 kg ( 春 7 ㎏ 、夏 6 ㎏ 、初 秋 5 ㎏ 、晩 秋 5 ㎏ 、初 春 5 ㎏ ) 試験区4 基準区 7.0 果 / m 3 N 2 8 kg ( 春 7 ㎏ 、夏 6 ㎏ 、初 秋 5 ㎏ 、晩 秋 5 ㎏ 、初 春 5 ㎏ ) 4)耕種概要 摘 果 、 施 肥 以 外 の 作 業 は 農 家 慣 行 と し た 。( 生 育 状 況 及 び 作 業 は 第 1 表 ∼ 第 3 表 ) 第1表 生育状況 項目 生育状況 樹齢 高接6年目(中間台木 樹勢 弱 着花量 H14年 産 … 2 (5段階評価) H15年 産 … 5 ( 隔年結果性 強 過去の収穫量 H12年 産 … 3,750㎏ /10a H13年 産 … 2,250kg/10a H14年 産 … 2,500kg/10a 津の香) 〃 ) 第2表 月 作業及び生育概況 日 平 成 15年 2月 20日 備考 発芽期 H14年 産 収 穫 日 3月 1日 加温開始 4月 10日 満開期 4月 6日 春肥施用 4月 上 旬 剪定 5月 上 旬 加温停止 6月 13日 夏肥施用 7月 22日 摘果(1回目) 8月 7日 ビニール開放 9月 11日 秋肥施用 9月 19日 摘果(2回目) 11月 6日 ビニール被覆 11月 17日 晩秋肥施用 平 成 16年 1月 20日 第3表 作業及び生育 2月 25日 剪定程度:弱 台風のため解放 収穫 その他管理 項目 概要 水管理 着色期前 … 5t/5日 着色期以降 … 2t/10日 前年のビニール被覆 年間被覆 夏季剪定 無 防除 マーコットに準ずる 6 調査結果 第4表 果実肥大の推移 試験区 施肥量 7月2日 7月15日 7月29日 8月14日 8月28日 9月16日 10月6日 10月16日 10月30日 縦径 試験区1 基準区 N 28㎏ 34.5 38.7 41.7 45.3 48.1 51.6 54.0 55.5 57.7 (mm) 試験区2 多肥区 N 36㎏ 34.4 38.3 41.5 45.6 48.6 52.1 54.8 56.6 58.3 試験区3 基準区 N 28㎏ 35.4 36.2 42.4 47.0 50.7 54.7 58.3 60.0 62.2 試験区4 基準区 N 28㎏ 36.6 40.8 44.7 49.9 53.1 57.5 60.7 62.3 64.7 横径 試験区1 基準区 N 28㎏ 39.2 43.4 47.6 53.8 58.4 63.2 68.1 71.4 73.0 (mm) 試験区2 多肥区 N 36㎏ 39.0 43.9 48.4 54.6 59.6 66.2 70.4 73.2 76.1 試験区3 基準区 N 28㎏ 37.3 42.0 46.7 53.5 58.7 64.6 70.5 74.1 76.3 試験区4 基準区 N 28㎏ 38.8 44.0 49.4 56.4 61.7 67.8 73.0 75.9 79.0 試験区 11月17日 12月2日 12月17日 1月9日 縦径 試験区1 59.0 59.7 61.1 61.5 (mm) 試験区2 60.1 61.0 62.1 62.7 試験区3 60.8 66.2 67.2 67.7 試験区4 66.7 68.9 70.3 71.0 横径 試験区1 76.4 78.0 79.1 78.9 (mm) 試験区2 80.2 81.2 82.0 82.1 試験区3 80.4 83.1 83.8 83.4 試験区4 83.8 86.3 87.5 88.1 第5表 糖及び酸含量の推移 試験区 8月14日 8月28日 9月16日 10月6日 10月16日 10月30日 11月17日 12月2日 12月17日 1月9日 糖度 試験区1 7.9 8.4 8.9 10.3 10.3 10.9 11.6 12.3 12.8 13.9 試験区2 7.9 8.2 8.7 9.7 10.0 10.9 11.3 12.0 12.2 13.7 試験区3 7.7 8.2 8.2 9.1 9.7 9.6 10.4 11.0 12.0 12.9 試験区4 7.6 7.9 8.0 8.7 9.2 9.5 10.0 10.4 11.1 11.5 酸含量 試験区1 3.50 3.30 3.01 2.59 2.48 1.64 1.91 1.76 1.54 1.26 (g/100ml) 試験区2 3.52 3.12 3.00 2.74 2.46 2.10 1.77 1.74 1.48 1.15 試験区3 3.49 3.25 3.02 2.83 2.51 2.28 1.90 1.60 1.59 1.32 試験区4 3.55 3.12 2.95 2.92 2.45 1.96 1.71 1.65 1.38 1.20 第6表 階級別収量(1樹平均) 樹容積あた り重量 階級別収量及び割合 単収換 1果平均重 算 ∼S M L 2L 3L 4L∼ 計 試験区1 収量(kg) 割合(%) 1.1 3.4 7.5 23.3 15.2 47.2 7.8 24.1 0.7 2.0 0.0 0.0 32.2 100.0 2.34 3,547 192.2 試験区2 収量(kg) 割合(%) 0.5 1.4 2.0 6.1 11.0 33.7 16.1 49.2 2.4 7.2 0.8 2.5 32.7 100.0 2.78 4,205 234.2 試験区3 収量(kg) 割合(%) 0.4 1.4 0.4 1.4 2.6 10.2 15.8 63.0 5.6 22.2 0.5 1.8 25.0 100.0 2.41 3,640 257.7 試験区4 収量(kg) 割合(%) 0.0 0.0 0.0 0.0 0.9 3.4 6.9 26.0 12.3 46.8 6.3 23.8 26.3 100.0 2.24 3,396 310.0 (kg/立方㍍) (kg/10a) (㎏) ※階級はネーブル階級 ※単収換算は110本/10a(1本あたり樹容積13.75立方㍍)で計算 7 結果及び考察 1)果実肥大 試 験 区 4 が 横 径 88.1mm と 最 も 大 き く 、 次 い で 試 験 区 3 、 試 験 区 2 、 試 験 区 1 の 順 で あ っ た ( 第 4 表 )。 全 て の 試 験 区 で 1 1 月 下 旬 以 降 肥 大 が 停 止 し た 。 着果量が少ないほど肥大が良い傾向にあり、施肥量の影響は小さかった。 2)果実内容 糖 度 に つ い て は 試 験 区 1 が 13.9 度 と 最 も 高 く 、 次 い で 試 験 区 2 、 試 験 区 3 、 試 験 区 4 の 順 で あ っ た ( 第 5 表 )。 試 験 区 4 に つ い て は 12 度 に 達 し な か っ た 。 ま た 全 て の 試験区で収穫直前の1月上旬まで上昇した。 酸含量については試験区ごとの明確な差は認められず、全ての区で収穫直前の1月 上旬まで減少した。 樹 容 積 あ た り 果 数 が 9.0 果 以 上 ま で は 品 質 に 問 題 な い が 、 7.0 果 に な る と 劣 り 、 施 肥 量の影響は小さかった。 3)収穫調査 階級ごと収穫量はネーブル階級で調査した。 a.収量 樹 容 積 あ た り 収 量 は 、試 験 区 2 が 最 も 大 き く 2.78kg 、そ の 他 の 区 は 大 き な 差 は な く 、 約 2.3 ∼ 2.4 ㎏ 前 後 で ( 第 6 表 )、 着 果 量 に よ る 大 き な 差 は 認 め ら れ な か っ た 。 な お 、 1 樹 あ た り 樹 容 積 を 13.75 ㎥( 縦 2.7m× 横 2.8m× 高 さ 2.6m) と し 、 こ れ を 10a あ た り 収 量 に 換 算( 110 本 /10a )す る と 、試 験 区 2 で は 約 4.2t 、そ の 他 の 区 で は 約 3.4 ∼ 3.6t になる。 b.階級別割合 試験区1及び試験区2ではL以下の小玉果の割合が高く、試験区3では2L果の割 合が高かった。試験区4では3L果の割合が高かった。 ま た 、 施 肥 量 の 影 響 は 小 さ か っ た 。( 第 6 表 )。 c.1果平均重 試 験 区 別 1 果 平 均 重 は 、 試 験 区 4 が 最 も 大 き く 310g 、 次 い で 試 験 区 3 258g 、 試 験 区 2 234g 、 試 験 区 1 192g で あ っ た ( 第 6 表 )。 8 残された課題 今 年 度 の 成 績 か ら は 、 果 実 肥 大 、 品 質 と も に 良 い の は 樹 容 積 あ た り 果 数 が 9.0 果 、 収穫量は多肥区が多いと推測される。 中晩かんの市場価格は階級に大きく左右されるため、高単価を実現するにはある程 度 の 大 玉 生 産 が 必 要 と な る 。 し か し 、 着 果 量 が 少 な す ぎ る と 品 質 が 劣 り 、「 せ と か 」 の評価を下げることが懸念される。このため、階級ごとの市場価格を考慮に入れた上 で、経済面からの適正着果量の検討が必要と考えられる。 ま た 、「 せ と か 」 は 着 果 負 担 が 大 き す ぎ る と 隔 年 結 果 す る 傾 向 に あ る た め 、 今 年 産 と来年産の着果量の比較等、次年度も引き続き検討が必要である。
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