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太陽光発電で工場の停電時の電力供給(2)
NEDO がインドネシアで世界初の実証実験に成功
市民エネルギー研究所 井田 均
NEDO 本部での話
インドネシアを訪問する4カ月前の2
010
年7月に、川崎の NEDO 本部で、太陽光発
電による停電時の電源切り替えについて話を
聞いた。エネルギー・環境技術本部の大塚秀
樹氏、国際部の今田俊也氏、総務企画部の萬
木慶子氏が応対してくれ、新エネルギー技術
開発部国際事業調整グループの山田琢寛氏が
話をしてくれた。
なぜ実証実験の場としてインドネシアを選
図:実証システムの設備概要
んだのか。
強い太陽という得難い自然条件があるから
訪れた2010年11月中旬には正常に稼働して
だ。実験場所としたLen Indusyri社は土地を
いた。現地、インドネシアで合った NEDO
持ち、高品質の電力を必要としていることも
のジャカルタ事務所長の大平英二氏は「いろ
選んだ重要な要素だ。
いろな問題を見出し、1つひとつ対策を考え
実証実験の設備は2008年1月に着工、同
るのが実証実験です」と説明していた。 年7月に完成した。
帰国後、このような太陽光発電で停電時の
この地インドネシアでは停電が多い。例え
電源対策をとった例がこれまで世界にあるの
ば2006年には12回、2007年は7回、200
8年
か聞いた。山田氏は、
「現在の所、世界にも
は11回あった。実証実験の期間中も60分1回、
他に例は無いと思います」と回答した。
「世
40分2回の停電があった。このシステムの実
界初」と言う事実がこの事業の価値を倍増し
証実験の場所としては適地だ。日本では大き
たと思う。
な災害でもない限り停電はない。太陽光で停
帰路に Len 社製品の照明灯
電時の電源切り替えの実験を日本では出来な
バンドゥンの Len 社から車で高速道路を
い理由はそこにある。
ジャカルタへ向け帰る。途中、車窓から道路
ところが2010年1月に、高速遮断機が勝
を照らす照明用の明かりが見えた。太陽光パ
手に作動する不必要動作を起こしていること
ネルも付いていた。大平氏が「Len 社の製品
を発見、2月に停止した。4月に記録分析し
に違いない」と言う。写真を撮る。
て原因究明を開始した。
ホテルまで送ってもらう。この日は取材の
この問題の解決に時間がかかったが、私が
成功を祝って1人でインドネシア製のギネス
−14−
ビールで乾杯した。
翌日から帰国まで2日間の余裕があった。
列車でジャカルタから3時間のチルボンに行
く。週末だったため帰路の列車の切符が取れ
ず、帰りはバスにした。ここでも車窓から道
路を照らす照明用の明かりがポールの上に
あった。Len 社の製品だと確信して写真を
撮った。
Len 社の製品は政府の方針に乗り、全国に
普及しているようだった。
チルボンからの帰り道に見た太陽光パネル。
インドネシア各地に普及を実感
Ⅱ インドネシア・ジャランジャラン
初めての列車で日本ファンにあう
につれて行く。地元料理を御馳走してくれた
インドネシアの最初の朝、ジャカルタの安
あと、自宅に招待した。
宿エリアとされるジャラン・ジャクサの1泊
ご婦人と娘さん、息子さんと挨拶。
2200円の中級の宿で目を覚ます。フロント
金属製の小さいワッカを輪型のクサリに絡
で今日は列車で、ジャワ島中北部のスマラン
みつかせるマジックを見せてくれたあと、自
まで行きたい、と言うと、
「あと15分で列車
宅の庭でとれたと言うマンゴーを御馳走して
が出る」とのこと。ホテル前のバイクタク
くれた。
「日本のデパートでは1個数千円す
シーに飛び乗る。ギリギリで着いたガンビル
る」と言うと、
「これはウチの庭でとれたか
駅の出札所でスマランまでの切符を2650円
らタダだけど、インドネシアでは店で買って
で買う。座席指定の上級席だ。ホームで列車
も1個20円くらいさ」
。
を待つ。日本の福岡と長崎に2年間いたとい
しばらく歓談。帰りもスズキ車でホテルま
うスビヤント氏が話しかけてくる。9時半発
で送ってくれた。
の列車は30分遅れ10時に出た
アジアの田舎はだから面白い
夕方の5時ごろスマランに着く。スビヤン
ジャワ島の東北の港、スラバヤから船で3
ト氏は私を予約していたホテルまで送ってく
日かけてカリマンタン島のバリッパパンに着
れるという。
「タクシーと人力車とどっちが
いた。海岸べりの眺めのよいホテルに2泊。
いいか」と聞かれ、人力車を選ぶ。
朝、30円の小型バスで、サマリンダ行きの大
ホテルに着く前、スビヤント氏は「あなた
型バス乗り場へ行く。ちょうど目指すバスが
にスマランを案内したい」と言い、1時間後
発車する所だった。飛び乗る。車中で3時間
にホテルに迎えに来る事を約束した。
の運賃、210円を払う。
中古のスズキ車で迎えに来たスビヤント氏
1時間強走った所でバスは停車。エンジン
は、夜景がきれいだという街を見渡せる地点
の調子が悪いようだ。次に来たバスに乗り変
−15−
えさせられる。バスはそれまで乗っていた乗
客と乗り換えた乗客とでちょうど満席となっ
た。
ところがこのバスも20分後にはエンジンが
停止してしまう。困った。3台目のバスに乗
り換えるには満員の乗客は多すぎる。
運転手が車掌に何か大声で叫ぶ。インドネ
シア語だから私には全く分からない。すると
1呼吸置いて乗客の何人かがバスの外に出た。
コタ・バクンの道路に貯まった雨水で遊ぶ子ら
停まったバスから外の空気を吸いに出たのだ
と思った。
特に叱るでもなく眺めている。この子供たち
やがてバスはゆっくりと前進を始めた。運
の水遊びが日常的なものだと言うことを示し
転手がギアをローに入れ、エンジンが回り始
ているようだった。
める。
船と飛行機
ああ、長野県蓼科にある高校の寮、桐蔭寮
スラバヤには飛行機で戻る。船だと3日か
の周辺で若いころよくやった押し掛けだ、と
かり運賃はエコノミーで3100円。これが飛
やっと気付く。うれしくなってしまった。こ
行機だと1時間半で4100円。船のエコノ
れだからアジアの田舎の旅は止められない。
ミーは食事がついて無いので1食100円とし
子供の水遊び
ても3日間9食分900円が必要で合計4000円
さらにバスを乗り継いでコタ・バグンへ行
が飛ぶ。決して快適とは言い難い船に人々は
く。1泊350円の宿の狭い部屋のベッドには
なぜ乗るのだろうか。
毛布も無く、ただ抱き枕が置いてあるだけ。
アラック
昼前に到着。その後ひと雨あった。宿は大河、
スラバヤの中心、グブン駅から南へ30分程
マカハム川のすぐそばにあり、川を渡る渡し
線路沿いにそぞろ歩き。ベンチがあったので
船の基地が目の前。マカハム川には石炭を満
腰かける。
載した大型船が何隻も上流へ向かっていく。
すると英語を話す男が来て、
「どこから来
雨が上がったので集落を散歩しに出る。マ
た」
「何しに来た」
「俺の家に来ないか」
。
ハカム川沿いに下流へ歩く。前方で子供の歓
線路脇の高い塀にかかるハシゴを登って
声が聞こえた。歩み寄って驚いた。先ほどの
“俺の家”に行く。
雨で出来た水たまりで10人程の子供たちが遊
「この地方の名物料理を食え」と出された
んでいた。水深は膝くらいだが、その水に向
料理はうまかったが、彼は食べず私だけが食
かって頭から突っ込んだり、前転したり、全
べる事になり、変な感じがした。
身を濡らしていた。その迫力たるや物凄いも
近所の男たちがミネラルウォーターの容器
のだ。そばには彼ら母親と思しき人もいたが、
に入った液体を回し飲み。ヤシの樹液を2、
−16−
3日寝かして発酵させてつくるアラックだと
知る。昔キリバスで飲んだが、私は発酵が待
てなくて、まだフレッシュジュースがほんの
少しアルコール化しただけのものを飲んでし
まった。
回し飲みに私も参加。大いに酔っぱらって
しまい、帰りはグブン駅まで“俺”のオート
おいしかったマンゴージュース
(左)
とグァバジュースにはグァバ
の1切れも
(上)
バイの後座席に乗せられて戻ったがバランス
を取るのに苦労した。
それにしても平日の真昼間からアラックを
るクサリに細い魚網の1本1本が引っかかっ
回し飲みしているこの男たちは仕事をしてい
ている。犬は外してもらうのが分かっている
るのだろうか。
のか、比較的おとなしくしている。
犬を助ける
数分後、やっと網がクサリから外れた。
バリ島のクタ海岸で浜辺に置いてあった漁
「OK.you can go」
。犬はうれしそうに走って
船に腰かけボーっとしていた。
行った。
首にクサリをつけた犬が辺りを歩き回って
おいしいフルーツジュース
いた。
インドネシアの食べ物はおいしい。最もポ
置いてあった魚網にクサリが絡まる。犬は
ピュラーなものはナシゴレン。日本語で言う
逆方向へ行けば解決すると思って戻るが、そ
と炒めメシだ。これを一番食べた。ナシゴレ
れがますます絡みを激しくさせる。
ンシーフードなどは気に入った。
私は犬が得意ではない。幼稚園児のころ、
果物が豊富で新鮮なのでフルーツジュース
少し大きい少年に「お前の後を犬が追いかけ
もおいしかった。
ているぞ」と言われたのがトラウマになって
ボゴールの植物園の中のカフェ「de
いるのかもしれない。それは単なるウソだっ
daunan」で飲んだ150円のグァバジュースと
たのだが……。
マンゴージュースは正に絶品。私は感動して
その犬は日本でいえば秋田犬くらいの大き
ノートにこんな風に書き残している。
さで、迫力もある。だが魚網に絡まれ情けな
グァバジュース=最高の味。舌の根元に響
さそうにしている犬を見過ごすわけにはいか
き渡る新鮮な快感。甘味とさわやかな酸味と
ない。誰かインドネシア人で犬の窮状に気が
が醸し出す味のハーモニー。
つく人はいないかと思ったが、気付いている
マンゴージュース=濃厚な味。腹の中心か
のは私だけのようだ。
ら上下に貫き通す衝撃。
歩み寄った。
「Don't move」と英語で言っ
なかなか味の感動というものの表現は難し
たがインドネシア語で無いので通じなかった
い。文章力の無さを露呈する結果となったよ
かもしれない。思った通り、1 m 半程もあ
うだ。
−17−
以下略 (おわり)