法律相談シリーズ VOL.257

VOL.257
ANSWER
協会顧問弁護士 坂元 和夫
協会顧問弁護士 尾藤 廣喜
協会顧問弁護士 山﨑 浩一
相談シリーズ
質問
先日、私のアパートに入居していた高齢のAさんが亡くなりました。Aさ
んには身寄りがなく、保証人もおりません。未払家賃の回収や室内の物の処
分に頭を悩ませています。どうしたら良いのでしょうか?
回答
「独居高齢者の死去と家財等の処理」
1 室内の物品を処分してもよいのか
2 相続財産管理人の選任申立てと、清算手続き
賃借人が死亡して未払い家賃がある場合、通
本件の家主は、相続人
(賃借人)
の債権者です
常は、相続人に対して請求を行うことになるで
から、
「利害関係人」
(952条)
にあたり、家庭裁
しょう。しかし、相続人全員が相続放棄を行っ
判所に対して相続財産管理人の選任を請求する
た場合や、本件のように相続人がいるのかどう
ことができます。管理人が選任されるとその旨
かがはっきりしない場合には
「相続人のあるこ
が官報に公告され、2ヶ月以内に相続人が現れ
とが明らかでない場合」
(民法951条)
にあたるた
ない場合には、清算手続きが開始されます。
め、相続財産は法人となります。この場合は、
清算が開始されると、管理人は2ヶ月以上の
以下のように利害関係人が申立てを行い、家庭
期間を定めて、債権者等に債権の申出をするよ
裁判所が相続財産の管理人を選任した上で、所
う公告します。この期間が経過すると、
債権者、
定の手続きにより、財産の管理・清算を行うこ
すなわち家主等に対する弁済が行なわれます。
とになります。したがって、家主といえどもA
室内の物品については、競売を行うか、管理人
さんの家の中にある現金を家賃に充てたり、物
が家庭裁判所から権限外行為の許可
(953条、28
品を処分したりすることは許されません。
条参照)を得て任意売却を行い、弁済の原資と
します。実務上、着古した衣類や古雑誌等、明
る限り存続し、死亡した時に終了するという賃
らかに交換価値のないものは、管理人により適
貸借契約をいいます。また、期間付死亡時終了
宜破棄されます。なお、賃借権は相続の対象と
建物賃貸借契約とは、終身建物賃貸借契約に加
なりますから、賃貸借契約はAの死亡によって
えて,借地借家法に定める建物定期借家契約を
も終了せず、相続財産法人との間で継続します。
締結したものをいい、賃借人の死亡もしくは一
清算手続き開始後に合意解除しておきましょう。
定の期間の満了により終了する賃貸借契約をい
清算手続きはこの後も進行し、6ヶ月以上の
います。これまでは、賃借人の死亡時に終了す
期間を定めて最後の公告が行われた上で、相続
る旨の特約を結んでも
「賃借人に不利なもの」
人の不存在が確定します。
(借地借家法30条)
として、無効とされてきまし
なお、申立てにあたっては、管理人の報酬や
たが、高齢者居住法の要件を満たすことで、死
官報への掲載料などの諸費用
(合計30∼40万円
亡時終了特約が認められることになりました。
ほど)の予納が必要です。費用は清算手続きの
高齢者居住法が定める要件のうち主なもの
中で返還されますが、被相続人に財産がない場
は、①建物についてバリアフリーなど一定の基
合は申立人の負担となるので注意が必要です。
準を満たすこと、②都道府県知事等の認可を得
賃料債権が時効にかかる場合など、急を要す
ること、③契約を公正証書等の書面によって行
る場合には、「遅滞のため損害を受けるおそれ
うことです。バリアフリー化など、家屋の改修
がある」(民訴法35条)
ものといえ、相続財産法
には費用がかかりますが、整備費用の補助制度
人を被告とする訴訟を提起し、特別代理人の選
や、税制上の優遇措置があることから、家主の
任を求めることが可能です。手続が簡便な上、
メリットも大きいでしょう。
費用や期間の面で有利になる場合もありますか
なお、賃借人の死亡時には建物内に残置物が
ら、一考の余地があるでしょう。
あることが想定されますから、引取人を定めた
上で、一定の期間内に引取りがなされない時は
3 高齢者の居住の安定確保に関する法律
処分する旨の特約を定めておくと、明け渡しを
このように、通常の賃貸借契約では、身寄り
スムーズに行うことが可能です。
のない賃借人が死亡した際に様々な問題が生じ
家賃債務保証とは、財団法人高齢者住宅財団
る可能性があります。そこで最近では、借地借
による高齢者世帯等に対する家賃債務保証制度
家法の特例法である
「高齢者の居住の安定確保
をいいます。2年ごとに月額家賃の35%
(2年
に関する法律」(以下、
「高齢者居住法」としま
分の家賃の1.5%相当)を負担することで、6ヶ
す)に基づいて、終身建物賃貸借契約や、期間
月分の家賃に相当する金額が保証されます。賃
付死亡時終了建物賃貸借契約を締結し、併せて
貸人、賃借人いずれにとっても有利な制度であ
家賃債務保証制度を利用する例が増えています。
り、今後の利用が期待されています。
終身建物賃貸借契約とは、賃借人が生きてい