テープ剥離法によるグラフェン転写の定量化 - 日本大学理工学部電子

テープ剥離法によるグラフェン転写の定量化
Quantification of graphene transcription by tape peeling method
日本大学理工学部 電子情報工学科
山本・岩田研究室、
8052、佐藤祥吾
Department of Electronics & Computer Science,
College of Science & Technology, Nihon University,
B8053, Shogo Satoh
Abstract:The purpose of this experiment is the preparation of material to achieve at room temperature superconductivity.
Therefore, I focus on bilayer graphene films as superconducting materials. In order to prepare large area and few layer
graphene films with transcription to quantify the preparation of graphene films by tape peeling method, I was prepared to
quantify the transcription apparatus graphene by tape peeling method. As a result, I know that tape peeling method can produce
more larger area graphene by increasing "The speed in the horizontal direction to the substrate surface ". And I know that tape
peeling method can produce more larger area and more fewer layer graphene films by "300 times the number of tape peeling".
However, since I was not able to fabricate graphene films of target conditions, I will try to prepare large area and few layer
graphene films by Chemical Vapor Deposition (CVD) method in the future.
1.背景
この実験では室温超伝導の実現を目指している。過去
に Little や Ginzburg はエキシトニックによる室温超伝導
[1]
の可能性を論じている 。室温超伝導を実現する物質と
し て 、 グ ラ フ ァ イ ト 層 間 化 合 物 (Graphite Intercalation
Compounds :GIC)に注目している。
超伝導機構の理論の一つである BCS 理論では、超伝導
転移温度 TC は
TC = Q D exp[-1/λ] ; λ=N(0)V
(1)
で与えられる[1]。ただし、N(0) はフェルミ面での状態密
度である。式(1)より、よりデバイ温度 Q D が高い物質ほ
どのTCが高くなると考えられる。しかし、GICの Q D は
2300Kと非常に高い値であるにも関わらず、過去の実験で
はTCは最高でも11.5Kまでしか得られていない[2][3]。
グラファイト超伝導と同じく炭素系超伝導である、ダ
イヤモンドにボロンをドープしたダイヤモンドボロンド
ープ超伝導の場合、ダイヤモンドの Q D が2000Kと非常に
大きい値にも関わらず実際にはTcは11K程度までしか得
られていない。このTc低下の原因として考えられている
のが、ボロンをドープした際に生じるドープの乱れであ
る。ボロンをドープするとドープ数の異なる結晶が多数
ダイヤモンド中に存在してしまうことが起こる。また、
ドープされているボロンの数は同じでも、結晶中でドー
プされている箇所が違ってしまうことが起こる。このよ
うな数、場所などドープの乱雑さ(ドープの乱れ)がダイヤ
モンドボロンドープ超伝導のTC低下を引き起こしている
と考えられる。そしてグラファイトインターカレート超
伝導でもダイヤモンドボロンドープ超伝導と同様の現象
が起こっていると考えられる。全てのグラファイトの層
間に金属原子が挿入(インターカレート)されず、インター
カレートされている層とされていない層ができてしまう。
このような不均一なインターカレートがTC低下を引き起
こしていると考えられる[4]。
そこでグラファイトの単層シートであるグラフェンを
2層重ねた2層グラフェンに注目している。2層グラフェン
の層間に金属的伝導層を挿入することで歪みや格子の乱
れが抑制されると考えられる。この2層グラフェンを用い
たモデルはGinzburgエキシトニックモデルと一致する。こ
のモデルは、グラフェン層中の電子、正孔とインターカ
レートした金属原子層中の電子との分極エネルギーの受
け渡しによって、クーパー対が形成され超伝導となると
考えられる。
グラフェンの作製法にはテープ剥離法、化学気相成長
(Chemical Vapor Deposition:CVD)法があるが、我々はテ
ープ剥離法に着目した. テープ剥離法とはグラファイト
の剥離性を利用し、テープを用いてバルクグラファイト
の層を剥離させ、グラフェンを作製する方法である。こ
の作製方法では作製できるグラフェンの結晶性は元とな
るバルクグラファイトに依存する。そのため結晶性の高
いグラフェンを容易に作製できるという利点がある。ま
た過去の実験でグラフェン転写にモーターの回転力を利
用して実験を行った結果、モーターの回転力を利用する
ことによってより大面積かつ低層のグラファイトを作製
できることが可能であるという結論に至った。しかし問
題点として任意の点に数μm2以上の大きさのものを作製
することが困難であり、これでは作製した2層グラフェン
間に金属原子をインターカレートした際、その電気特性
を測定することが困難になってしまう。またこれまでの
実験ではグラフェン転写時の各パラメータを定量的に測
定してこなかったため再現性が皆無であった。2層グラフ
ェン間に金属原子をインターカレートし、その電気特性
を評価するためには、数百μm2以上のグラフェンまたは2
層グラフェンを作製する必要がある。
そこで今回は、グラフェン転写のプロセスを定量化す
ることによって再現性を確保し、劈開法のよって大面積
のグラフェンを作製する条件を探索することを目的とす
る。図 1 にテープ剥離法によるグラフェン転写の様子を
示す.テープで剥離したグラファイトは SiO2/Si 基板へと
転写して評価を行うため、基板へのグラファイトを転写
する際には「基板表面に対して垂直方向の力(図 1 の F1)」
「基板表面に対して水平方向の力(図 1 の F2)」
「基板表面
に対して水平方向の速さ(図 1 の v)
」といった 3 つのパラ
メータがある。今回はこの 3 つのパラメータを具体的に
数値化するための転写装置を作製し、それを用いてより
テープ剥離法において大面積かつ低層のグラフェンを作
製できる条件を探索する。今回は作製した転写装置を用
いて、
① テープの剥離回数を固定し転写時のパラメータを変
更して行う実験
② 転写時のパラメータを固定しテープの剥離回数を変
更して行う実験
の 2 つを行う。
劈開法後のテープ
v
F2
F1
SiO2/Si 基板
図1
劈開法におけるグラフェン転写プロセス図
2. 目的
テープ剥離法によって大面積かつ低層のグラフェンを
作製するために、テープから基板へのグラフェン転写時
の各パラメータを定量化し、実験に再現性を持たせる転
写装置を作製する。作製した転写装置を用いて、
① テープの剥離回数を固定し転写時のパラメータを変
更して行う実験
② 転写時のパラメータを固定しテープの剥離回数を変
更して行う実験
の 2 つを行い、テープ剥離法においてより大面積(数百
μm2 以上)で低層(1~2 層)のグラフェンを作製できる条
件を探索する。
3.実験方法・条件
3.1 グラフェン転写装置の作製
「基板表面に対して垂直方向の力 F1」「基板表面に対
して水平方向の力 F2」
「基板表面に対して水平方向の速
さ v」を定量化するために、次のような 2 つの転写装置
を作製した。
3.1.1 ばねを用いた転写装置
「基板表面に対して垂直方向の力 F1」を定量化するため
に「ばねを用いた転写装置」を作製した。図 2 に転写装
置の画像を示す。この装置は 80mm 四方,厚さ 10mm の木
板の四隅に長さ 120mm,幅 20mm,厚さ 2mm の L 字の鉄板
を固定し、木版の間に長さ 120mm,ばね定数 2.36N/cm の
ばねを挟み込んだものである。この装置のばねの縮みか
ら「基板表面に対して垂直方向の力 F1」を設定した。
図 3 ホイールを用いた転写装置
3.2 テープの剥離回数を固定し転写時のパラメータ
を変更して行う実験
3.2.1 基板洗浄
SiO2/Si 基板をアセトン 5min、アセトン 15min、エタノ
ール 5min、で超音波洗浄した。その後、窒素ガスブロア
ーで基板表面に付着したエタノールの乾燥を行った。
3.2.2 グラファイトのテープ剥離
テープ(3M スコッチテープ)の粘着面にグラファイト
片をつけた後、テープの付け剥がしを任意の回数行い、
グラファイトを剥離させた。
この実験ではテープの剥離回数を 50 回とした。
3.2.3 上記転写装置と用いたグラフェン転写
上記の「ばねを用いた転写装置」
「ホイールを用いた転
写装置」を組み合わせて転写を行った。図 4 に動作の様
子を示す。
① 「ばねを用いた転写装置」の基板台に基板と劈開法
で作製したテープを取り付けた
② 「ホイールを用いた転写装置」のホイールにモータ
ーを接続し、モーターによってホイールを回転させ
た
③ 回転しているホイールへ、基板とテープごと「ばね
を用いた転写装置」を押し付けた
X
F1
X’
図 2 ばねを用いた転写装置
3.1.2 ホイールを用いた転写装置
「基板表面に対して水平方向の力 F2」
「基板表面に対し
て水平方向の速さ v」を定量化するために「ホイールを用
いた転写装置」を作製した。図 3 に転写装置の画像を示
す。この装置は長さ 185mm,幅 15mm,厚さ 1mm,直径 6mm
の穴があいた鉄板に内径 3mm のベアリングを固定し、そ
こへ直径 3mm のシャフトを挿入し、シャフトの先に直径
120mm,厚さ 12mm の円盤状の木版を取り付けたものであ
る。この装置のホイールにモーターを取り付け、モータ
ーによってホイールを回転させた。その際のモーターの
トルク、回転数、ホイールの径から「基板表面に対して
水平方向の力 F2」
「基板表面に対して水平方向の速さ v」
を設定した。
図 4 グラフェン転写装置の動作の様子
図 5 に各パラメータの転写装置による設定の仕方を示
す。ばねを用いた転写装置のばねの縮みから「基板表面
に対して垂直方向の力 F1」を設定し、ホイールを用いた
転写装置のモーターのトルク、回転数、ホイールの径か
ら「基板表面に対して水平方向の力 F2」
「基板表面に対し
て水平方向の速さ v」を設定した。
クという三つのピークが突出する[5][6]。
4.2
Δx
原子間力顕微鏡( Atomic Force Microscope; AFM )
転写装置で作製した試料の層数を測定するために、
AFM(SII 社 SPA400,SPI3800M)による試料の厚さ測定を行
った。AFM でグラフェンの厚さを測定すると約 1nm、2
層グラフェンの厚さを測定すると約 1.8~2nm となる。
5.結果
5.1 テープの剥離回数を固定し転写時のパラメータ
を変更して行う実験
図 7 に条件 a で作製した試料の光学顕微鏡像と AFM の
測定結果を示す。図 7 より、試料の面積は 6.2μm2 である
ことがわかった。また、作製した試料の厚さが 7.2~10.8nm
であることがわかった。
図 5 グラフェン転写装置による各パラメータの設定
図 6 に今回の実験条件を示す。条件 a,b,c,d の四通りで
実験を行った。条件 a は F2 が 1.4[N]で v が 0.12[m/s]、条
件 b は F2 が 4.1[N]で v が 0.36[m/s]、条件 c は F2 が 0.2[N]
で v が 44[m/s]、条件 d は F2 が 0.49[N]で v が 130[m/s]と
した。また今回は条件 a,b,c,d ともに F1 を 1.1[N]と設定し
た。
(a)
(b)
(0.36, 4.1)
(v, F )
(c)
2
図 7 条件 a の実験結果
(a)光学顕微鏡像 (b)AFM 像 (c)ラインプロファイル
(0.12, 1.4)
(44, 0.16)
(130, 0.49)
図 8 に条件 b で作製した試料の光学顕微鏡像と AFM の
測定結果を示す。図 8 より、試料の面積は 20μm2 である
ことがわかった。また、作製した試料の厚さが
4.09~13.3nm であることがわかった。
図 6 3.2実験条件
3.3 転写時のパラメータを固定しテープの剥離回数
を変更して行う実験
3.3.1 基板洗浄
3.2.1と同様に基板洗浄を行った。
3.3.2 グラファイトのテープ剥離
3.2.2と同様にテープを用いてグラファイトを剥離
させた。剥離回数は条件 e で 150 回、条件 f で 300 回、
条件 g で 450 回とした。
(a)
(b)
3.3.3 上記転写装置と用いたグラフェン転写
3.2.3と同様に基板へのグラフェン転写を行った。各
パラメータは3.2.3の条件 d の設定(F1:1.1[N],
F2:0.49[N], v:130[m/s])でグラフェン転写を行った。
4.評価方法・条件
4.1 ラマン分光装置
転写装置で作製した試料の分析を行うために、光の散
乱現象に基づく分光法であるラマン分光法を利用したラ
マン分光装置(カイザー社製 Holo Lab 5000R)による試料
のピーク測定を行った。グラファイト、グラフェンをラ
マン分光装置により測定すると、1350 cm-1 付近に D ピー
ク、1580 cm-1 付近に G ピーク、2800 cm-1 付近に 2D ピー
図 8 条件 b の実験結果
(a)光学顕微鏡像 (b)AFM 像 (c)ラインプロファイル
図 9 に条件 c で作製した試料の光学顕微鏡像と AFM の
測定結果を示す。図 9 より、試料の面積は 69μm2 である
ことがわかった。また、作製した試料の厚さが
6.68~19.6nm であることがわかった。
図 12 に条件 a~d で作製したグラファイトの、面積-
層数の平均のグラフを示す。図 12 より、条件 a,b,c,d の順
番に作製できたグラファイトの面積が大きくなったこと
がわかった。また、どの条件でも作製できたグラファイ
トの層数の平均値は 8~14 層程度であることがわかった。
(a)
(b)
図 9 条件 c の実験結果
(a)光学顕微鏡像 (b)AFM 像 (c)ラインプロファイル
図 10 に条件 d で作製した試料の光学顕微鏡像と AFM
の測定結果を示す。図 10 より、試料の面積は 87μm2 であ
ることがわかった。また、作製した試料の厚さが
4.56~16.0nm であることがわかった。
また、この条件では転写の際に基板の一部が破損した。
(a)
図 12 条件 a~d 面積-層数の平均値
5.2 転写時のパラメータを固定しテープの剥離回数
を変更して行う実験
図 13 に条件 e で作製した試料の光学顕微鏡像と AFM
の測定結果を示す。図 14 より、試料の面積は 83μm2 であ
ることがわかった。また、作製した試料の厚さが
3.74~18.5nm であることがわかった。
(b)
(a)
(b)
図 10 条件 d の実験結果
(a)光学顕微鏡像 (b)AFM 像 (c)ラインプロファイル
図 11 に条件 a~d で作製した試料のラマンスペクトル
の測定結果を示す。黒線が条件 a、赤線が条件 b、青線が
条件 c、紫線が条件 d である。図 11 より、今回作製した
試料のラマンスペクトルはどれも 1580cm-1 付近と
2700cm-1 付近にピークが見られることがわかった。この
ことより、今回作製した試料はどれもグラファイトであ
ることがわかった。
図 13 条件 e の実験結果
(a)光学顕微鏡像 (b)AFM 像 (c)ラインプロファイル
図 14 に条件 f で作製した試料の光学顕微鏡像と AFM
の測定結果を示す。図 15 より、試料の面積は 92μm2 であ
ることがわかった。また、作製した試料の厚さが
6.48~20.45nm であることがわかった
(a)
図 11 条件 a~d ラマンスペクトル
(b)
図 14 条件 f の実験結果
(a)光学顕微鏡像 (b)AFM 像 (c)ラインプロファイル
図 15 に条件 g で作製した試料の光学顕微鏡像と AFM
の測定結果を示す。図 15 より、試料の面積は 31μm2 であ
ることがわかった。また、作製した試料の厚さが
4.12~9.36nm であることがわかった。
図 17 条件 e~g 面積-層数の平均値
(a)
(b)
図 15 条件 g の実験結果
(a)光学顕微鏡像 (b)AFM 像 (c)ラインプロファイル
図 16 に条件 e~g で作製した試料のラマンスペクトル
の測定結果を示す。黒線が条件 e、赤線が条件 f、青線が
条件 g である。図 16 より図 11 と同様作製した試料のラ
マンスペクトルはどれも 1580cm-1 付近と 2700cm-1 付近に
ピークが見られることがわかった。このことより、今回
作製した試料はどれもグラファイトであることがわかっ
た。
図 16 条件 e~g ラマンスペクトル
図 17 に条件 e~g で作製したグラファイトの、面積-
層数の平均のグラフを示す。図 17 より、条件 e,f では作
製できたグラファイトが 80~90μm2 程度であるのに対し、
条件 g になると 30μm2 程度へと小さくなることがわかっ
た。また、作製できたグラファイトの層数の平均値は条
件 e,f,g の順に少なくなることがわかった。
6.考察
6.1 テープの剥離回数を固定し転写時のパラメータ
を変更して行う実験
図 12 より、条件 a と条件 b を比較すると条件 b のほう
が 15μm2 ほど大面積のグラファイトが作製できた。図 7
より、条件 b のほうが条件 a より「基板表面に対して水
平方向の力 F2」
「基板表面に対して水平方向の速さ v」が
3 倍の条件である。これより、F2 と v を大きくすること
によって作製できるグラファイトの面積が大きくなるこ
とがわかる。同様に条件 c と条件 d を比較した際にも同
じ傾向が見られる。
また図 12 より、条件 b と条件 c を比較すると条件 c の
ほうが 50μm2 ほど大面積のグラファイトが作製できた。
図 7 より、条件 c のほうが条件 b より F2 が 1/25 で、v が
125 倍の条件である。これより、F2 を小さくしても v を
大きくすることによって作製できるグラファイトは大き
くなるということがわかる。
今回の実験では目標とする数百 μm2 に到達する低層グ
ラファイトを作製できるまでには至らなかった。また、
今回の実験で最も大面積のグラファイトを作製できた条
件 d での v 以上で転写を行うと基板が破損し転写が行え
なかった。しかし今回の実験結果より、劈開法によって
大面積のグラファイトを作製するための条件は、転写時
の「基板表面に対して水平方向の速さ v」を大きくするこ
とであると考える。
図 12 より、どの条件でも作製できたグラファイトの層
数の平均値は 8~14 層程度である。これより F2 と v を変
化させても作製できるグラファイトの層数に大きな変化
が見られないことがわかる。よって低層のグラフェンを
作製するためには F2 と v 以外のパラメータを変更して実
験を行わなければならないと考える。
6.2 転写時のパラメータを固定しテープの剥離回数
を変更して行う実験
図 17 より、作製できるグラファイトの層数の平均値は
条件 e,f,g の順に少なくなっていった。またテープの剥離
回数は条件 e,f,g の順に 150 回ずつ多い。これより、テー
プの剥離回数を多くすることによって作製できるグラフ
ァイトのより低層になる。これは、元となるバルクグラ
ファイトをより多く剥離することによって、より低層の
状態でのグラファイトで転写を行えるからであると考え
る。しかし今回の条件では厚さが 2.0nm 以下の試料、す
なわちグラフェン,2 層グラフェンの作製はできなかった。
また図 17 より、作製できるグラファイトの面積は条件
e,f では大差なかったが、条件 g では 1/3 程度にまで小さ
くなった。これは剥離のし過ぎで転写前のグラファイト
が細かなグラファイト片ばかりになってしまったこと、
また転写前のグラファイトが低層になりすぎたことによ
って転写時にグラファイトがちぎれてしまったことが原
因であると考える。
以上より、面積が 100μm2 未満でかつ層数が 10 層程度
のグラファイトしか作製できなかったが、劈開法によっ
て大面積かつ低層のグラファイトを作製する最適条件と
しては、
「テープの剥離回数を 300 回」とし、「基板表面
に対して水平方向の速さ v」をできるだけ大きくすること
であると考える。
7.課題と解決方法
今回の実験では、テープ剥離法によるグラフェン作製
においてより大面積かつ低層なグラフェンを作製する条
件の探索を行った。しかし作製できたグラフェンは
100μm2 未満でかつ層数が 10 層程度のものであり、目標
とする面積数百 μm2 以上、層数 1~2 層のグラフェンには
遠く及ばなかった。
そのため現在はテープ剥離法以外のグラフェン作製方
法である CVD 法に着目している。CVD 法とは反応管内
で加熱した基板物質上に原料ガスを供給し、基板表面あ
るいは気相での化学反応により基板全体に膜を堆積する
方法である。近年、Cu または Ni 薄膜上にて数 cm2 の低
層グラフェンの成長に成功したという報告がなされてい
る[7][8]。そこで今後は CVD 法を用いて金属薄膜上に数 cm2
のグラフェン,2 層グラフェンを成長させることを目標と
する。
8.まとめ
室温超伝導を実現する物質として 2 層グラフェンに着
目した。2 層グラフェンの層間に金属原子をインターカ
レートすることにより、グラファイト超伝導での乱れを
抑制し、Tc の室温付近までの上昇し室温超伝導に至ると
考える。このモデルを実現するために、基板上に数百 μm2
以上の大面積グラフェン、ニ層グラフェンの作製が必要
であると考えた。そこで劈開法によるグラフェン作製時
の転写のプロセスに着目した。転写時の各パラメータを
定量化することによって劈開法によってより大面積かつ
低層なグラフェンを作製できる条件の探索が行えると考
え、そのためまずは各パラメータを定量化する転写装置
を作製し、それを用いてテープ剥離法によって大面積か
つ低層なグラフェンを作製できる条件の探索を行った。
作製した転写装置を用いて転写時の「基板表面に対し
て水平方向の力 F2「
」基板表面に対して水平方向の速さ v」
を変更した際のグラフェン作製実験を行った。その結果、
目標とする数百 μm2 以上には到達できず、またグラフェ
ン、ニ層グラフェンのような低層グラフェンを作製する
ことができなかったが、転写時の「基板表面に対して水
平方向の速さ v」を大きくすることによって作製できるグ
ラファイトが大きくなることがわかった。
次に転写時の各パラメータを固定し、バルクグラファ
イトのテープ剥離回数を変更した際のグラフェン転写実
験を行った。その結果、こちらでも目標とする数百 μm2
以上のグラフェン、2 層グラフェンの作製はできなかっ
たが、大面積かつ低層のグラファイトを作製するには剥
離回数を 300 回にすることが最適であるとわかった。
今後は CVD 法を用いて Cu や Ni などの金属薄膜上に
数 cm2 のグラフェン、2 層グラフェンを成長させること
を目指す。
9.参考文献
[1] 辻川・津田・青木・永野, “超伝導の科学”, 共立出版,
1974
[2]加藤,成田,鈴木,“グラファイトおよびグラファイト
層間化合物 ”,日本大学生産工学部研究報告 A, 2,39,2006
[3]遠藤,飯島,“ナノカーボンハンドブック”,エヌ・テ
ィー・エス,2007
[4]”パリティ”, MARUZEN, 05(2008)6-12
[5] A.C. Ferrari, Solid State Communications, 143(2007)47-57
[6]篠原,斎藤,“カーボンナノチューブの基礎と応用”,
培風館,2004
[7] Xuesong Lia, Science Magazine, 324 (2009) 1312-1314
[8] Keun Soo Kim, Nature, 457(2009)706-710