TOS-OR の臨床応用及び期待される効果 120127 はじめに

TOS-OR の臨床応用及び期待される効果
120127
はじめに
リアルタイムで生体の活動や反応をモニターする手段は、脳波、心電図、血圧、パルスオ
キシメータによる動脈血酸素飽和度、及び近赤外線モニターなどがあります。
これらの内、脳波は低体温や、麻酔が深くなるとフラットになってしまい、心電図は心停
止でフラットになり、血流が途絶えれば、血圧やパルスオキシメータは測定が出来なくな
ってしまいます。
生死に関わらず情報が得られるのは近赤外線モニターのみと言っても過言ではありません。
近赤外線モニターはそこに血液があれば、酸素飽和度やヘモグロビンの量に関する情報を
無侵襲、リアルタイム、連続的に得ることが出来ます。
したがって、今後もっと多くの臨床に応用されるものと期待されています。
近赤外線モニターの臨床応用例
TOSORは主に以下の分野で使用されています。
麻酔科、心臓外科、血管外科、胸部外科、小児科、脳神経外科、精神神経内科、脳ドック、
救命救急センター、集中治療室、NICU、リハビリテーション、健康科学、スポーツ医
学等で使用され、その使用目的は、a)患者の脳保護や早期回復を目的とした積極的な血
液の循環管理や末梢血液循環の治療効果の評価と術後管理、b)投薬や処置の効果評価や
治療方針の決定、c)脳や末梢の血液循環状態の検査や負荷試験及び安全確認、等に使用
されています。
積極的な循環状態管理を行うことにより治療期間の短縮効果も有ると言われています。
以下、分野別にその概略を説明します。
1)麻酔管理分野
脳保護を目的とする脳血液循環の管理:
体位変換、頚部捻転圧迫、脳環流圧低下等による周術期脳障害の防止
全身麻酔下では交感神経反射が抑制され頭低位によって脳内の血液量は有意に増加し
ます。麻酔中は脳血流の自動調節能が崩れますので麻酔導入直前のrSO2の値とHb
Iの値を基準とすることにより、麻酔開始から覚醒までの換気、血圧管理等、脳血流
を安全に正しく維持管理する事が出来ます。
静脈麻酔薬と吸入麻酔薬では、薬品により脳血流に対する影響が異なります、麻酔導
入後、酸素飽和度が漸減して低酸素状態に近づくことがありますが、rSO2、HbI
を監視し、薬剤、CO2、血圧、心拍、や換気の条件を制御することにより、酸素需給
のバランスを正しく維持できます。
オフポンプ CABG 時や CEA 時に患者の生理機能管理不適切で血圧の乱れを引き起こ
したり、過換気、換気不足、低血圧等で長時間低酸素状態になると術後後遺症を残す
恐れがありこれらが防止出来ます。
2)心臓血管外科分野の手術
脳保護や術後合併症の予防を目的とする脳血液循環の管理:
脳内血流の管理と監視、PCPS(経皮的心肺補助法の循環状態管理)の管理。
心臓手術後、頭(脳機能)に後遺症がでる例が約1割に上るとも言われています。
適応症例は胸部大動脈置換、弓部置換、胸部下行大動脈置換、上行大動脈置換、冠動
脈バイパス、血管再建術、僧帽弁置換、大動脈弁置換、三尖弁置換、循環停止を伴う
胸部大動脈人工血管置換術中の低環流による術後脳機能障害の防止、体外循環復温時
の環流不足による脳障害防止、脳分離体外環流中の周術期における脳神経合併症の危
険発見と予防、人工血管置換術における再建分枝のグラフトの屈曲が原因の術後脳合
併症の防止(手術で再建に成功しても縫合途中等で屈曲してしまい血流不足になり障
害となる)等の適用例があります。
(脳血液循環が術中、正常に行われている確認のた
めにモニターを行います。)
開心術では人工心肺を使用しますが、このケースではカニュレーションや、離脱する
ときに問題が発生します。
ポンプ中でも“脳には血液が行っているはず”でも実際は(送血管が曲がったり押さ
えられたりして)血液が不足している(低環流)場合が起き得ます。
このような場合にポンプ側、麻酔医、外科医がrSO2、HbIの情報からこれらの
異常を判断して事故無く安全に対処することが可能になります。手術終了後の止血作
業中でも血管が折れ曲がり脳に血液が行かなくなった事例もありますので要注意です。
手術中に血栓などが血液に乗って飛び脳血管に詰まるような場合、完全ではありませ
んが,前額部にTOSORのセンサーを位置してrSO2とHbIをモニターして低潅
流や突然の脳血流の変化が監視可能ですから直ちに適切な対処がとれます。
3)小児心臓手術(先天性心臓奇形、肺動脈奇形等)や新生児、未熟児の ECMO(体外肺
補助循環)中の脳血液循環管理。
脳保護や術後合併症の予防を目的とする脳血液循環、補助循環の管理:
新生児ではわずかの体位変換や頚部捻転で血流に障害が発生する可能性があります。
TOSORの新生児用のセンサー(20N)は柔らかく、小さい頭でもうまく固定出
来ますので、未熟児や、新生児、乳児までの手術中や病棟でも長期安定してモニター
できます。
頭と下肢を同時に監視することも出来、使用する近赤外線のエネルギーも微少なので
長期にわたるモニターが可能です。
4)脳神経外科の手術
脳保護や術後合併症の予防を目的とする脳血液循環の管理:
内頸動脈内膜剥離術、腫瘍摘出術、血管内血栓溶解術、中枢神経手術、各種バイパス
等では術前術後の脳血流を監視する必要があります。TOSORはセンサーの面積の
関係で術野そのものの血流情報を得ることは困難ですが、内頸動脈内膜剥離術では患
部と同側の前額部にセンサーを位置して側副血行路の有無の判定、術後の血流改善、
過環流をモニターすることが可能です。
また術後の、充血、Hyper perfusion、脳浮腫の予防、血管攣縮、監視にも有効です。
一般的に、臨床では以下のように使用されています。
*内頚動脈遮断後 rSO2が 5 分以上低下したままの場合はシャントを入れ、一時低下す
るが数分後に戻って来る傾向にあれば耐性ありと判断します。
* オクルージョンテストの遮断時の相対変化率が10%以上あれば虚血状態と判断
する。(シャントの使用を検討する)
* 脳血管反応性の評価は CO2負荷、過呼吸負荷により HbI の変化を見る。
* 術後過潅流(ハイパーパーフュージョン)は rSO2やオキシヘモグロビンの増加が認められる。
* 血腫の存在(遅発性脳出血などでは HbI が大きい値を示す)の有無の確認
* 急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法時の開通確認
* 脳虚血の判断はコントロールの rSO2の変化率で10%以上は低下と考える。
5)その他の外科手術
センサーを目的の血管の支配領域におきモニターすることにより末梢循環動態が評価
可能です。
* 重傷虚血肢術中下肢虚血モニターとして、排腹筋や足底で術前、術中、術後のモニ
ターを行い血管再建術前後の末梢循環動態の確認、管理評価が可能です。
* 術後遮断解除により回復を認めない場合には速やかにそれに応じた処置をとる。
* 大腿部でrSO2の低下やデオキシヘモグロビンの増加による静脈鬱滞が起これば
深部静脈血栓症を疑う。
* 甲状腺右葉切除術、歯科領域での静脈結紮、等首周りの手術中の脳内酸素飽和度測
定による脳循環の管理に有効です。
6)救命救急センター
来院時の脳酸素状態の評価や緊急手術中、術後の脳血流管理、評価等:
心肺蘇生中の脳末梢血流酸素化の評価、重傷頭部外傷処置後の脳末梢循環管理、くも
膜下出血処置後の血管攣縮の予防管理、脳梗塞処置後の脳末梢循環管理、心筋梗塞処
置後の脳末梢循環管理など脳蘇生や脳保護を目的とした末梢血液循環モニターや管理
等に使用可能です。
7)集中治療室での脳血流の長期連続モニター
投薬や処置後の血液循環状態の監視評価、線溶療法中のモニター:
心臓外科、脳神経外科の術後管理、低体温療法、頭部外傷、重傷脳損傷、術後脳障害
の防止のため、連続モニターを行い、充血、鬱血、血管攣縮や低酸素状態の防止発見
等に使用します。特に脳低体温療法の場合3週間程度の連続モニターが必要になり、
他社のものでは光による低温やけどが起きるおそれがあるので、長くても数日間しか
連続モニターできません。TOSでは問題なく3週間の長期モニターが可能です。
8)脳神経外科外来、脳ドック等検査分野での脳血流のテスト、評価等
脳血流の検査により手術適応や循環状態及び末梢循環状態の影響などの評価:
バルーン閉塞試験、内頸動脈一時遮断試験、起立テスト、過呼吸テスト等による血管
反応性、頸動脈狭窄等の脳循環異常の発見評価が可能です。
外頚動脈分枝を用手圧迫により EC 血流を一時遮断して EC からの血流依存性の評価。
アンギオ室でのバルーンマタステスト、CEA(頸動脈内膜剥離術)術前の脳末梢血流
の評価や術式の選定。酸素飽和度が低下すればその血管領域にテストの影響があった
と、評価します。
9)神経内科、精神科、外来での脳血流の検査
鬱病、血管狭窄による血流低下具合や投薬の効果の評価:
外来時にTOSで head down manoeuver 等の検査を行い、患者のrSO2、HbIの
値により現在の容態や投薬、処置の評価が可能です。
鬱病の患者は前額部の血流が低下していると言われています。
精神内科外来での脳高次機能の検査にも使用されています。
*使われる前頭葉部分の血流が増加するので投薬や処置前後の測定で評価可能です。
症状改善と脳血流増加によるrSO2の増加で、投薬治療効果の評価が可能です。
10)
血管外科外来での検査
歩行障害が間歇破行か脊髄性かのスクリーニング、末梢血液循環状態の評価、手術前
後の評価、容態の程度、手術適応か否かの評価が可能です:
両足の脹ら脛にセンサーを付けトレッドミルや歩行負荷を掛けて痛みを訴えた時点の
rSO2を測定すれば破行なら酸素飽和度が大きく低下しているが、脊髄性では骨で神
経を圧迫して痛むのでrSO2は下がらず区別が可能です。
下肢血行再建術前後の状態を負荷停止後のリカバリータイムを測定して評価します。
術前より、術後のリカバリータイムが早くなってrSO2の低下の程度が減少していれ
ば血流が改善されたと評価出来ます。
11)リハビリテーション分野
温熱療法、各種療法による運動能力や骨格筋の血流改善等の評価:
局所筋肉組織の酸素飽和度測定により負荷による筋肉疲労や代謝能が評価出来ます。
運動機能の変化は筋肉の血流の変化と相関があり血流の改善はrSO2の上昇で評
価可能であり、血液量の増加はHbIの値で評価します。
センサーは防水構造になっていますので、入浴中の部位でもモニター出来ます。
*チィルトテーブルを使用した起立テストでオートレギュレーションの機能確認を
行いその結果から術後の起床やリハビリテーション開始が可能か否かの判断を行う。
脳血流と運動機能回復の関係等についての研究も行われています。
期待される臨床効果
1)手術中や集中治療室でのモニターを行っている際に、酸素飽和度が低い値で推移する
場合があります。
原因はオートレギュレーション機能の低下、血液希釈で酸素運搬能力が低下、CO2の
低下による過換気状態で血管床の収縮、一部の薬剤によって生ずると思われる動静脈
シャント、早すぎる復温による血管拡張の減弱で脳潅流の抑制等が挙げられます。
これらの原因を放置することなく積極的に介入改善することにより、術後脳神経機能
障害やその他の合併症の発生防止、治療効果の把握によって期間の短縮、リハビリや
機能回復訓練の開始時期の判断、等により結果的に入院日数の削減など、大きな効果
が期待できます。
2)積極的な介入について
モニターによりrSO2の低下が確認された場合に従来は監視を行うのみで、特に何か
を行う介入は行われていませんでした。
最近の研究でrSO2が 60%以下 60 分,55%以下が 20 分以上持続した症例で、脳梗塞や
一過性のイベント発生率が、それ以下の場合よりも優位に増加することが分かってき
ました。そこで、これらrSO2が低下した状態をただモニターするのではなく、積極
的に介入改善することにより、術後の各種の症状が改善でき、結果として入院期間が
短縮される、と期待されて居ります。
3)rSO2(酸素飽和度)が低下した場合に有効な方法
rSO2が低下する原因は、生体の酸素需要に対して酸素の供給が少ない状態です。
1.血圧が低ければ上げて(100mHg)環流圧を安定的に維持する。(70mHg)
2.人口心肺の流量を増加させる。(2.5l/min)
3.炭酸ガス圧が低ければ正常値の範囲まで上げる。(32mHg)
4.低体温から復温する速度を少しゆっくり行う。
5.血液希釈が大きければ(6g/dl 以下)、輸血や除水する。
6.脳を保護するため頭を冷やし代謝を抑制する。
4)注意すべきこと
TOSOR は酸素飽和度と同時にヘモグロビンインデックス HbI が測定出来ます。
HbI はセンサー直下の血管床の血液量(ヘモグロビンの数)に相関した数値です。
モニター中に HbI が急激に増加した場合は以下の状況が起こっている可能性がありま
すので、注意が必要です。
1.人口心肺の脱血カニューレの位置がずれて脱血がうまく行かずモニター部位で血
液が鬱滞している。
2.ヘッドダウンや頚部の捻転により静脈灌流が阻害されている。
以上。