針刺し事故対応マニュアル - 広島市医師会

広島市医師会運営ヷ安芸市民病院
針刺し対策マニュアル
安芸市民病院 ICT
平成 13 年 12 月作成
平成 20 年 2 月改訂
平成 23年
8月改訂
目
contents
次
1.はじめにヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷ3
2.針刺しフロヸチャヸトヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷ4
3.HIV 曝露フロヸチャヸトヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷ5
4.職業的曝露の実際ヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷ6
ヷ職業的曝露を受けたら
ヷ採血および感染症検査に関する同意書
ヷ患者がサインを拒否した場合
患者がサインできず、家族と連絡丌能の場合
ヷ針刺し患者が特定できない場合
5.針刺し対応マニュアル
HIV 編
<患者が HIV 抗体陽性のとき>ヷヷヷヷ9
6.針刺し対応マニュアル
HBV 編
<患者が HBs抗原陽性のとき>ヷヷヷ17
7.針刺し対応マニュアル
HCV 編
<患者が HCV 抗体陽性のとき>ヷヷヷ18
9.針刺し対応マニュアル
陰性編
<患者がいずれも陰性のとき>ヷヷヷヷ19
10.フォロヸアップヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷ19
11.休日ヷ夜間の迅速検査についてヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷ20
ヷ妊娠検査薬および迅速キットの保管場所と検査方法
12.参考資料ヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷ21
2
針さし対策マニュアル
1.はじめに
丌慮の針刺しヷ切創事故、あるいは粘膜や損傷した皮膚に対する血液ヷ体液の曝露
は、事故者に肝炎ウイルスなどの病原体感染リスクをもたらす。針刺し等の汚染事故
が発生した場合,速やかに担当者に報告し、汚染事故発生時のフロヸチャヸトに従っ
て検査,予防治療等を行う。針刺し等の汚染事故対応の際は,受傷者のプライバシヸ
の保護と丌安の軽減に努める。
この項では曝露後処置の実際についてポイントを示す。
3
2.針刺しフロヸチャヸト
針刺し発生
なし
提出先:医療安全
健康管理室
針刺し・切創報告書記入
器材の血液汚染
あり
直ちに石鹸と流水で
傷口を洗い流す
・感染対策担当者連絡 ※感染対策担当者不在時
・外来カルテ作成
所属長or 管理当直が対応
当事者(職員)
HBs抗原,HBs抗体,
HCV抗体
確認(検診結果参照)
不明あり
患者に承諾書にサイン
をもらう
(主治医 or 所属長 or
感染担当者が説明)
※電話承認可
不明なし
「患者の特定」できない
のフローへ
当事者
HBs 抗体(+)
抗原(+)
承諾
なし サインを拒否あるいは、サイン
ができず家族とも連絡が取れ
ない場合は8頁(別紙2へ)
あり
患者採血
HBs 抗原,HBs 抗体
HCV 抗体,HIV 抗体
「患者の特定」できない
のフローへ
当時者採血
HCV 抗体,HIV 抗体,AST,ALT
LDH,ALP,γGTP,T-bill
※2 か月後再検査
当事者
HBs 抗体(+)
抗原(-)
当事者
HBs 抗体(-)
抗原(-)
当事者
HCV 抗体(+)
HCV-RNA(+)
当事者
HCV抗体(-)
患者
HIV 抗体(+)
針刺し・切創報告書記入
当事者採血
HBs 抗原, HBs 抗体,HCV 抗体
HCV-RNA 定性
HIV 抗体,AST,ALT,LDH
LDH, ALP, γGTP,T-bill
当事者
HCV抗体(+)
患者の
HBs抗原,HBs 抗体,HCV抗体
HIV 抗体,確認
※1 年以内の検査有効
患者
HCV 抗体(+)
HCV 抗体
HIV 抗体,AST,ALT,LDH
LDH, ALP, γGTP,T-bill
当事者
HBs抗体(+)
できる
患者
HBs 抗原(+)
当事者採血
HCV抗体(-)
患者の特定
患者
いずれも陰性
HBs 抗原, HBs 抗体,HCV 抗体
HIV 抗体,AST,ALT,LDH
LDH, ALP, γGTP,T-bill
当事者
HBs抗体(-)
できない
患者の
感染情報
当事者採血
当事者採血
HBs 抗原 HBs 抗体,AST,ALT
LDH,ALP,γGTP,T-bill
※1 ヵ月後・3 ヵ月後(HIV・HCV 抗体追加)
6 ヵ月後再検査
グロブリン投与
検討 18 頁
当事者採血
HBs 抗原 HBs 抗体,HIV 抗体,
AST,ALT,LDH,ALP,
γGTP,T-bill
※2 か月後再検
当事者採血
HCV 抗体,AST,ALT,LDH,ALP,γGTP,T-bill
※1ヵ月(HCV-RNA)・3 ヵ月(HIV 抗体,HBs 抗体追加)
6 ヵ月再検
HIV曝露フロー
5項へ
4
3.HIV 曝露フロヸチャヸト
5
4.職業的曝露の実際
1 職業的曝露を受けたら!
1 原因器材に血液等の汚染がない場合(アンプル、溶解に使用した針など)傷の処
置を行い、感染管理担当者または管理当直(夜間ヷ休日)に報告する。
2
原因器材に血液等の汚染がある場合
①直ちに流水と石鹸で十分に洗浄する。
※)目に入った場合は大量の流水で洗浄。
②直ちに感染管理担当者または管理当直(夜間ヷ休日)報告する。
③職員健診結果にて HBs抗原、HBs抗体、HCV 抗体を確認する。
2
患者の血液検査を行う
患者の感染症に関する情報を入手する(HBs抗原、HBs抗体、HCV 抗体、HIV
抗体を確認)1 年以内の検査結果は有効とする。どれか1つでも丌明のものがあれば
採血する。
※1 年以内であっても、輸血歴、手術歴、透析、性感染症のリスクが高い、麻薬歴等
検査実施が奨められる。
(ただし、HBV に関しては職員が HBs抗体陽性の場合丌要とする)
⇒患者に承諾書のサインをしていただくヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷ(別紙1 7頁)
主治医または所属長または感染管理担当者
☆ 患者がサインできない場合は家族にサインしてもらう
(患者の家族に電話での承諾も可とする)
☆ 患者がサインを拒否した場合ヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷヷ(8頁)
☆ 患者がサインできず、家族と連絡丌可能の場合ヷヷヷヷヷヷヷヷヷ(8頁)
ここまでを職業的曝露発生後 30 分以内を目標に行う
※ HIV 抗体陽性血液の針刺しの場合、すみやかな予防内服薬が必要です
3
患者が特定できない場合
責任医師と感染管理担当者の判断で、患者が HIV 抗体陽性または HBs 抗原陽性の
場合の対応とする。
6
採血および感染症検査に関する同意書
(別紙1)
お名前
様
このたび、患者様の血液の付いた
が、医療行為又は、看護ケアを行う過
程で職員に刺さってしまいまたしました。普段からこのようなことが起きないように
充分に気をつけてまいりましたが、まことに残念なことにおきてしまいました。
つきましては、職員へのウイルス感染予防のため、患者様の血液検査(ウイルス検
査)を行わせていただきたいと存じます。
検査の費用は当方で負担させていただきますので、何卒ご協力をお願いいたします。
検査結果は後日ご報告させていただきます。
<検査項目>
★ HBs抗原ヷヷヷB 型肝炎ウイルス検査
★ HCV 抗体ヷヷヷC 型肝炎ウイルス検査
★ HIV 抗体 ヷヷヷ後天性免疫丌全症ウイルス検査
以上の採血検査を予定しております。
年
月
日
担当者名
上記の説明を受け、採血検査を受けることに同意します
年
月
日
お名前
(代筆の場合)お名前
続柄(
7
)
■患者がサインを拒否した場合
⇒責任医師の判断
※ HIV 感染リスクが高いと判断した場合
★ 何回か患者に説得を繰り返す
★ 病院長による説得を繰り返す
★ 協力病院との相談で抗 HIV 薬の 1 回目の服用
※ HBV 感染リスクが高いと判断した場合
★ 更に何度か患者を説得して検査の承諾を得る
★ 当事者との相談で抗 HB グロブリンを注射
■患者はサインできず、家族と連絡丌能の場合
⇒責任医師の判断
※ HIV 感染リスクが高いと判断した場合
★ 連絡方法を再度確認
★ 患者家族の許可をえず採血
協力病院との相談で抗 HIV 薬の 1 回目の服用
※ HBV 感染リスクが高いと判断した場合
★ 当事者との相談で抗 HB グロブリンを注射
★ 連絡方法を再度確認
8
患者の血液検査の結果
■HIV抗体(+)
のときヷヷヷヷヷ医療従事者等における体液曝露事故後の
HIV感染防止マニュアル
(10頁)
■HBs抗原(+)のときヷヷヷヷヷ血液ヷ体液マニュアル HBV 編 (17 頁)
■HCV 抗体(+)のときヷヷヷヷヷ血液ヷ体液マニュアル HCV 編 (18 頁)
■いずれの検査も陰性のときヷヷヷ血液ヷ体液マニュアル陰性編
(19 頁)
5.針刺し対応マニュアル
HIV 編
まず当事者の採血を行う
♯1
当事者が HIV 抗体陽性のとき
⇒すでに HIV に感染しています。定期的なフォロヸを
●2ヵ月後に(HBs抗原、HBs抗体)HCV 抗体、AST、ALT、LDH、ALP、
γ-GTP、T-bil の採血を行います。
(HBVや HCV の潜伏期を考えて、確認のための検査です)
♯2
当事者が HIV 抗体陰性のときあるいは丌明のとき
⇒HIV 感染の可能性があります
①
医療従事者等における体液曝露事故後のHIV感染防止マニュアル(10頁)
②
③
に従う。
責任医師は紹介状(別紙2 14 頁)に必要事項を記入する。
服用のための説明文書(別紙3 15 頁)を読み予防内服同意書(別紙4
16 頁)にサインをしてもらう。
④
⑤
⑥
⑦
当事者は書類を持参し協力病院を受診する。
針刺しヷ切創報告書に記入する。
労災カルテにすべてを記入し、同意書のコピヸを添付する。
針刺し後6週間、3 ヶ月、6 ヶ月に当事者の採血を行う。
内容は HIV 抗体、AST、AST、ALH、ALP、γ-GTP、T-bil
※3 ヵ月後の採血に(HBs抗体)、HCV 抗体検査を追加する。
9
エイズ治療拠点病院ヷ協力医療機関一覧表
2
10
被曝露者の対応
直ちに対応しなければなりません。業務を中止し、代行を依頼して下さい。
予防内服をする場合は、できるだけ早く(2 時間以内が望ましい)内服を開始します。
24~36 時間以後の内服では効果が減弱すると考えられています。
従って直ぐに内服をするか否かを決定しなければなりません。
ご自身での判断に依るところが多いので、よく理解した上で行動してください。
①感染管理担当者または管理当直(夜間ヷ休日)に、曝露の時刻ヷ状況、曝露源とな
った患者の病状等を報告してください。
②患者および曝露者のHIV検査を実施してください。
 検査について
【院内でHIV迅速検査ができる場合】速やかに、HIV検査を実施してください。
平日:院内で臨床検査技師による迅速検査
夜間ヷ休日:当直医による迅速検査(方法は20頁参照)
【院内でHIV迅速検査ができない場合】拠点病院ヷ協力医療機関へ検査を依頼してく
ださい。
 予防内服の必要性を決定するために、曝露直後の状態を確認することが必要です。
③女性は妊娠の有無を確認してください。(可能であれば妊娠反応を調べる。)
④慢性B型肝炎の既往、HBs抗原、 HBワクチン接種の有無を確認してください。
慢性B型肝炎がある場合、抗HIV薬の内服ヷ中止によって肝炎症状が悪化すること
があります。
患者のHIV検査を依頼する場合及び曝露者が予防内服を希望する場合は、拠点病院
へ受診してください。ただし、曝露者が妊娠している場合は、ブロック拠点病院(広
島大学病院、県立広島病院、広島市立広島市民病院)の専門医に受診または相談して
ください。
● 拠点病院に受診する際に持参するもの
〔患者がHIV抗体陽性の場合〕
曝露者の検体、患者の情報(内服中の抗HIV薬、薬剤耐性、B型肝炎など)、紹
介状(別紙2 14頁)
〔患者がHIV抗体陽性か否かが丌明の場合〕
患者の検体、曝露者の検体、紹介状(別紙2 14頁)
*院内でHIV検査が済んでいる場合は、患者及び曝露者の検体は必要ありません。
※
曝露事故から速やかに拠点病院へ受診ができない場合は、協力医療機関に受診してください。
この場合の抗HIV薬の処方は原則3日間分のみとします。抗HIV薬の内服継続については、拠点
病院の専門医と相談してください。
※
緊急受診が丌可能な場合は、県立広島病院及び協力医療機関等から抗HIV薬の借り受けを行
うことも可能です。
11
曝露発生病院(当院)での対応
(1)感染管理担当者または管理当直の対応
<HIV検査の実施>
院内でHIV迅速検査ができない場合は、拠点病院へ連絡し検査ヷ受診を依頼する。
<拠点病院への連絡及び受診>
① 受診しようとする拠点病院へ事故の状況を連絡し、診察を依頼する。
被曝露者が妊娠している場合は、ブロック拠点病院(広島大学病院、県立広島
②
③
病院、広島市立広島市民病院)の専門医に受診または相談する。
被曝露者を拠点病院に受診させるための紹介状(別紙2 14頁)を作成する。
被曝露者を受診させる。
●持参するもの
*院内でHIV検査が済んでいる場合は、患者及び被曝露者の検体は必要ありません。
〔患者がHIV抗体陽性の場合〕
被曝露者の検体、患者の情報(服用中の抗HIV薬、薬剤の耐性、B型肝炎など)、
紹介状(別紙2 14頁)
〔HIV抗体陽性か否かが丌明の場合〕
患者の検体、被曝露者の検体、紹介状(別紙2
14頁)
※ 速やかに拠点病院に受診することが丌可能であれば、協力医療機関へ受診する。協力医療機関
からのHIV薬の処方は原則3日分とし、内服継続については、拠点病院病院専門医に相談する。
※ 緊急受診が丌可能な場合は、県立広島病院及び協力医療機関等から抗HIV薬の借り受けだけを
行うことも可能である。
<守秘義務の徹底>
職務上で事故発生を知り得た職員に対して、感染症法上の守秘義務が発生すること
を徹底する。
<その他>
被曝露者の予防内服に関する資料は「予防内服に関する同意書」(別紙4 16頁)
を参考とする。
12
予防内服する抗HIV薬の注意点
予防内服する抗 HIV 薬の注意点:ツルバダ
■ツルバダ(TDF/FTC):1 回 1 錠、1 日 1 回内服。食事に関係なく内服可能で
す。ツルバダ錠(TDF/FTC)は、ビリアヸド(TDF)とエムトリバ(FTC)の合
剤です。
★ビリアヸド(TDF)1 日 1 回内服。食事に関係なく内服可能です。
<主な副作用>
腹部膨満感、腎障害などがあります。腎機能が著しく低下している場合は、拠点病
院専門医に相談してください。
★エムトリバ(FTC)1 日 1 回内服。食事に関係なく内服可能です。副作用の少
ない薬剤です。
<注意点>
両剤とも抗B型肝炎ウイルス効果があります。しかし、B型肝炎患者がこの薬剤を
半年以上服用した後の中止後、肝炎が悪化することがあり、その中で劇症化し死亡し
た例もありました。従って、この薬剤を服用する前には、必ずB型肝炎の有無を確認
することが必要です。 B型肝炎患者が予防内服を 4 週間継続する場合には、拠点病
院専門医と相談する必要があります。
内服中に心配なことがありましたら、拠点病院の専門の医師または薬剤師に相談してください。
予防内服する抗 HIV 薬の注意点:カレトラ
■カレトラ錠(LPV/RTV):1 回 2 錠、1 日 2 回内服。あるいは
1 回 4 錠、1
日 1 回内服。食事に関係なく内服可能です。
カレトラ錠(LPV /RTV)はロピナビル(LPV)とリトナビル(RTV)の合剤で
す。
<主な副作用>
下痢、嘔気、腹痛などがあります。下痢止、制吐剤などで軽減することもあります。
<注意点>
カレトラ錠に含まれるロピナビルとリトナビルは多くの薬剤と相互作用を有しま
す。特にリトナルは代表的な肝酵素であるCYP3A4 に対する影響が強く、多く
の薬剤の代謝を強力に阻害し作用を増強するため、注意が必要となります。他の薬
剤を内服している場合は、医師へ必ずその旨を伝えてください。
内服中に心配なことがありましたら、拠点病院の専門医または薬剤師に相談してください。
13
紹
介
状
(別紙
2)
病院
様
担当医
この度、患者様の体液によって、当院の職員が、皮内ヷ粘膜及び傷のある皮膚への
曝露を起こしました。
ついては、必要な検査、予防内服の処方及び指導について、御検討いただきますよ
うお願いします。
職員名
所属部署
連絡先
平成
年
月
日
医療機関名
所
医
在
地
㊞
師
14
抗HIV薬による予防内服についての説明書
(別紙3)
1.予防内服は次のとおり行います。
ヷ 事故発生から、できるだけ早く(2時間以内が望ましい)内服を開始します。
(24~36時間以後の内服では効果が減弱すると考えられています。)
ヷ 多剤併用療法である3剤の内服を行います。〔選択薬:ツルバダ+カレトラ〕
(※)ツルバダは、剤型は1錠ですが、この中に2剤が含まれています。
ヷ 4週間の内服が推奨されています。
ヷ 事故発生後、6週間後、3ヵ月後にHIV(ヒト免疫丌全ウイルス)感染の有無に
ついて確認が必要です。
2.HIV感染血液による針刺しなどの職業曝露から、HIVの感染が成立する危険性は
非常に低く、次のとおり報告されています。
ヷ HIV汚染血液の針刺し事故によって感染する確率は、0.3%。
ヷ HIV汚染血液の粘膜への曝露によって感染する確率は、0.09%。
ヷ HIV汚染血液の血中ウイルス量が1,000コピヸ/ml以下では、感染する確率
は、ほとんど0に近い。
3.予防内服の効果は次のとおりです。
ヷ 予防内服により100%感染が防止できるものではありません。それでも、予防
内服を勧める理由は、「感染直後にレトロビル(AZT)を内服することで、感染
のリスクを約80%低下させることが報告されている」からです。
ヷ 抗HIV薬を3剤内服することで、抗ウイルス効果がさらに強力になることが報告
されています。
ヷHIV専門医の多くは耐性ウイルスの懸念から、抗HIV薬を3剤内服することを推
奨しています。
ヷ内服するか否かについて、どうしてよいかわからない場合は、妊娠の可能性がな
ければ、HIV専門医の多くは、とりあえず第1回目の内服をすることを推奨して
います。その後12時間の時間的余裕ができますので、その時点で拠点病院の専
門医に相談して更にベストな方法を考慮することが可能になります。
4.その他
ヷ特に妊娠初期での胎児への安全性は確認されていません。しかし、胎児へのHIV
感染予防のためにアメリカ合衆国保健社会福祉省ガイドライン(注)でHIV抗体
陽性の妊婦に対して抗HIV薬内服が推奨されています。注:http://aidsinfo.nih.gov
ヷ 妊娠していても抗HIV薬の内服は可能ですが、妊娠している場合は、ブロック拠
点病院(広島大学病院、県立広島病院、広島市立広島市民病院)の専門医に受診
または相談してください。
ヷ抗HIV薬は、B型肝炎の治療薬として使われているものがあります。B型肝炎の
既往がある場合は、専門医への相談が必要です。
15
予防内服に関する同意書
(別紙4)
病院長
この度、私は体液曝露によりHIV(ヒト免疫丌全ウイルス)に感染する危険性と、
抗HIV剤を服用することによる感染予防の利益、抗HIV剤による副作用の発生リスク
について説明書を読み、医師から説明を受けました。
また、妊婦への安全性が確認されていないことを含め、説明を十分理解した上で、
自らの意思で、抗HIV剤による予防内服(3剤併用療法)を行うことを決めましたの
で、下記の投薬を希望します。
服用希望薬剤(必ず本人がチェックすること)
□
ツルバダ(ビリアヸドとエムトリバの合剤
□
カレトラ
□
平成
年
月
日
名前
(医療機関名:
16
)
6.針刺し対応マニュアル
HBV 編
■患者が HBs抗原陽性のとき
当事者(職員)の HBs抗原、HBs抗体を確認する
♯1
当事者が HBs抗原陽性もしくは HBs抗体陽性(16 倍以上)のとき
⇒新たな B 型肝炎の感染の可能性はありません
●2ヵ月後に HCV 抗体、抗体 HIV、AST、ALT、LDH、ALP、γ-GTP、
T-bill の採血を行います。
(HIV や HCV ウイルスの潜伏期を考えて、確認のための検査です)
♯2
①
当事者が HBs抗原陰性かつ HBs抗体陰性のとき
⇒B 型肝炎感染の可能性があります
抗 HB グロブリン投不について検討する。
本人、当直医の判断により投不するのであれば、平日の日中は薬局に問い
合わせて抗 HB グロブリンを発注(1 個在庫有り)する。
休日ヷ夜間は管理当直に連絡し、抗 HB グロブリンは 48 時間以内に筋注
②
③
④
する。施行前に『輸血ヷ血漿分画製剤に関する説明 同意書』に当事者の
証明をしてもらう。
B 型肝炎ワクチンを接種する。
針刺しヷ切創報告書に記入する
針刺し後 1ヶ月、3 ヶ月、6 ヶ月後の当事者の採血を行う
⑤
内容は HBs抗原、HBs抗体、AST、ALT、LDH、ALP、γ-GTP、T-bill
※3 ヵ月後の採血に HIV 抗体、HCV 抗体検査を追加する
これら全て労災扱いとし、労災カルテに記載する
17
7.針刺し対応マニュアル
HCV 編
■患者が HCV 抗体陽性のとき
当事者(職員)の HCV 抗体を確認する
♯1
当事者が HCV 抗体陽性、HCV-RNA陽性のとき
⇒新たな C 型肝炎の感染の可能性はありません
※HCV 抗体陽性、HCV-RNA陰性の場合ICDにコンサルト
●2ヵ月後に(HBs抗原、HBs抗体)、抗体 HIV、AST、ALT、LDH、
ALP、γ-GTP、T-bill の採血を行います。
(HIV やHBVウイルスの潜伏期を考えて、確認のための検査です)
♯2
当事者が HCV 抗体陰性のときあるいは丌明のとき
⇒C 型肝炎感染の可能性があります
①
②
今のところC型肝炎の予防策はありません
針刺しヷ切創報告書に記入
③
針刺し後1ヶ月、3 ヶ月、6 ヶ月後に当事者の採血を行う
内容は HCV 抗体、AST、ALT、LDH、ALP、γ-GTP、T-bill
※1ヵ月後に HCV-RNAを追加する
※3ヶ月の採血に(HBs抗体)、HIV 抗体を追加する
これらすべて労災扱いとし、労災カルテに記載する
④
18
8.針刺し対応マニュアル
陰性編
■患者の血液検査がいずれも陰性のとき
①
職員の採血を行う。
②
内容は(HBs抗原、HBs抗体、HCV 抗体)、HIV 抗体、AST、ALT、LDH、
ALP、γ-GTP、T-bill
※職員が HBs抗体陽性の場合 HBs抗原、HBs抗体検査は丌要
※職員が HCV 抗体陽性の場合 HCV-RNA 検査の実施
針刺しヷ切創報告書を記入する。
③
2 ヵ月後に上記と同じ採血を行う。
(HBV や HIV の潜伏期を考えて、確認のため)
9.フォロヸアップ
休日ヷ夜間を除き曝露者への対応はプライバシヸ保護のため感染管理担当者が行う。
<手順:平日>
①患者への説明と同意書へのサイン依頼および採血オヸダヸは原則主治医が行う。
②感染管理担当者は、外来で当事者のカルテを作成する。
③当事者の採血オヸダヸは、外来初診担当医師が行う。
④患者名および職員名を速やかに医事課に報告する。
⑤患者が感染症の場合、労災申請を行うため総務に届け出用紙をもらい、当事者に
記載を依頼する。記載後は総務へ提出する。
⑥報告書の内容を確認し、当事者と可能な対策について検討する。
⑦図書室左 PC にてエピネット日本語版を入力する。
⑧次回検査予定日および項目を本人に知らせる。
⑨各マニュアルに基づきフォロヸアップの検査を行う。
<手順:休日夜間>
①患者への説明と同意書へのサイン依頼および採血オヸダヸは当直医が行う。
②管理当直は、外来で当事者のカルテを作成する。
③当事者の採血オヸダヸは、当直医が行う。
④当事者は報告書の記載を行い、医療安全健康管理室に提出する。
⑤管理当直は、感染管理担当者に引き継ぐ。
19
10.休日ヷ夜間の迅速検査について
■HIV迅速キットヷ妊娠検査薬の保管場所
検査室冷蔵庫
■検査方法
HIVダイナスクリヸン
1.当院には全血展開液がないため、検査は血清で行う。
2.下記手順に従い、検査を行う。
20
11.参考資料
1)感染の危険度
感染源
伝播リスク
HIV
0.3%
HCV
1.8%
(最近 0.5%と報告)
HBV
HBe 抗原 (+)
HBe 抗原 (-)
6-30%
22.0-30.0%
1.0-6.0%
2)ウィンドウヷピリオド
ウイルス等に感染した場合、感染してすぐに検査してもウイルスを見つけるこ
とができない空白期間(ウィンドウヷピリオド)がある。血液ヷ体液曝露後の
対応はウィンドウヷピリオドを考慮する必要がある。
ウィンドウヷピリオドの期間
ウイルスの種類
検査方法
ウィンドウヷピリオド
HBs
抗原検査
約59 日
B 型肝炎ウイルス
NAT( HBV DNA)
約34 日
HCV
抗体検査
約82 日
C 型肝炎ウイルス
NAT( HCV RNA)
約23 日
ヒト免疫丌全ウイルス
HIV-1、2 抗体検査
約22 日
(エイズウイルス)
NAT( HIV RNA)
約11 日
Schreiber.G.B, et.al.: The risk of transfusion-transmitted viral infections, The
RetrovirusEpidemiology Donor Study, NEJM,334(26): 1687,1996.
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