ミトコンドリア及び葉緑体の分裂周期を基盤とした細胞増殖の - 立教大学

※ ホームページ等で公表します。
(様式1)
立教SFR-院生-報告
立教大学学術推進特別重点資金(立教SFR)
大学院生研究
2010年度研究成果報告書
研究科名
立教大学大学院
理学
研究科
生命理学
在籍研究科・専攻・学年
研 究 代 表 者
氏 名
理学研究科・生命理学専攻・2 年
井元
所属・職名
指導教員
自然
研究課題名
研 究 組 織
・
人文
祐太
印
氏 名
理学部・特任教授
自然・人文
・社会の別
専攻
・
黒岩
社会
個人・共同の別
常祥
個人
・
印
共同
名
核 、ミ ト コ ン ド リ ア 及 び 葉 緑 体 の 分 裂 周 期 を 基 盤 と し た 細 胞 増 殖 の ゲ ノ ム
科学的解明
在籍研究科・専攻・学年
氏 名
井元祐太
立教大学・理学研究科
生命理学専攻・前期 2 年
研究期間
2010
年度
研究経費
500
千円
研究の概要(200~300 字で記入、図・グラフ等は使用しないこと。)
細胞は自己の複製と分裂によってのみ増殖する。一般的に複製と分裂のサイクルは細胞
周期と呼ばれ、その構造と機能は細胞核のみを中心に研究が進められてきた。しかし、
真 核 細 胞 は 細 胞 核 の み な ら ず 複 膜 系 オ ル ガ ネ ラ (ミ ト コ ン ド リ ア 、 色 素 体 )と 単 膜 系 オ ル
ガ ネ ラ (小 胞 体 、 ゴ ル ジ 体 、 リ ソ ソ ー ム 、 マ イ ク ロ ボ デ ィ )を も 含 む 。 従 っ て 真 核 細 胞 の
分裂増殖機構を真に理解するには細胞核に加え、オルガネラ分裂周期の理解が必須であ
る 。本 研 究 で は 原 始 紅 藻 C y a n i d i o s c h y z o n m e r o l a e ( シ ゾ ン ) シ ゾ ン の ゲ ノ ム 及 び ポ ス ト ゲ ノ
ム情報を基盤に、単膜系オルガネラの一つであるマイクロボディの分裂増殖機構を制御
す る 遺 伝 子 と し て 新 た に K I F 1 を 同 定 ・ 解 析 し た 。ま た 、マ イ ク ロ ボ デ ィ を 含 む オ ル ガ ネ
ラ 分 画 を 単 離 し n a n o L C -M A L D I T O F - M S を 用 い て 、 マ イ ク ロ ボ デ ィ の 分 裂 を 担 う 新 規 遺
伝子の探索を進めている。
キーワード(研究内容をよく表しているものを3項目以内で記入。)
〔
細胞増殖
〕 〔
オルガネラ分裂周期
〕〔
マイクロボディ
〕
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(様式2-1)
立教SFR-院生-報告
研究成果の概要(図・グラフ等は使用しないこと。)
1. シゾンのポストゲノミクスを基盤としたマイクロボディ増殖機構の解析
マイクロボディは真核細胞が普遍的に持つ単膜系オルガネラの一つであり、複膜系オルガネラ同様に自己の分裂に
より増殖する(Schrader and Yoon. 2007 BioEssays)。複膜系オルガネラは細胞核同様に独自の細胞周期(Kuroiwa et al. 1977
J Cell Biol; Kawano et al. 1979 Cell Struct Funct; Imoto et al. 2010 Protoplasma)と分裂装置によって増殖する(Kuroiwa et al.
1998 Int Rev Cytol; Yoshida et al 2009 Curr Biol; 2010 Science)ことが明らかになっている( I m o t o e t a l . 2 0 11 J .
E l e c t . M i c ro . I n s u b m i t t e d ) 。しかし、マイクロボディに関しては一般的なモデル生物では細胞当たりの数が非
常に多く形態的に複雑であるため細胞周期を通じた解析は困難であり、分裂に関する現象は未解決であった。一方、
シゾンは単一で且つ、分裂同調化が可能なマイクロボディを持つ(Miyagishima et al. 1998 Protoplasma; 1999 Planta)ため
解析が容易である。本研究では、真核生物では初めて細胞周期を通して単一のマイクロボディの動態を詳細な蛍光顕
微鏡観察により解析し、その増殖を制御する遺伝子 KIF1 をシゾンのポストゲノミクスを基盤に以下のように同定・
解析することに成功した。
1-1. 細胞周期におけるマイクロボディの動態
光の明暗周期による分裂の同調化と、免疫二重蛍光染色による解析から以下のことが明らかになった。
(1)G1 期ではマイクロボディは細胞質に単一の球状の構造体として存在するが、S 期の開始とともにミトコンドリア
に接着する。(2)G2 期では、マイクロボディはミトコンドリア分裂面に移動する。(3)ミトコンドリア分裂期(M 期前期)
において、マイクロボディはミトコンドリアの分裂直前にミトコンドリア分裂面を取り巻くように、形態的な変化を
伴う。(4)ミトコンドリア分裂直後にマイクロボディは再び球状の構造体に変化する。(5)M 期中期、後期においてミ
トコンドリア分配と共にマイクロボディは分裂し、細胞質分裂期には娘細胞側に完全に分配される。
従って、(3)のミトコンドリア分裂期において、マイクロボディがミトコンドリア分裂面に接着し、形態変化を行う
ことがそれに引き続くミトコンドリアとマイクロボディの分裂に重要であることが示唆された。
1-2. マイクロボディの形態変化時に発現する遺伝子群の同定
2-1.において示された (3)の時期にマイクロボディの形態的変化を担う強く発現する遺伝子が存在するはずである。
(3)の時期においては、MD (Mitochondrial division; ミトコンドリア分裂)-ring とマイクロボディが接着しており
(Miyagishima et al. 1999 planta)、マイクロボディの分裂に関わるミトコンドリア紡錘体が形成される(Imoto et al. 2010
Protoplasma)ことが知られている。そこで MD-ring のプロテオーム(Yoshida et al. 2006 Science; 2009 Curr Biol)に含まれ
る微小管系周辺のタンパク質であるキネシンに注目した。シゾンは KIF1、KIF2、KIF3、KIFi、KIFc の 5 つのキネシ
ンをもち、マイクロアレイデータから KIF1 のみが(3)の時期特異的に転写レベルが上昇していることが示された。
1-3. KIF1 の遺伝子構造解析
分 子 系 統 解 析 か ら KIF1 は 真 核 生 物 に 普 遍 的 に 保 存 さ れ て お り 、紡 錘 体 形 成 や オ ル ガ ネ ラ の
位 置 決 定 に 関 わ る k i n e s i n - 5 の サ ブ フ ァ ミ リ ー に 分 類 さ れ る こ と が 明 ら か に な っ た 。Ta r g e t P と
TMpred に よ る 配 列 の 解 析 か ら 、 KIF1 に は N 末 端 に 90 ア ミ ノ 酸 の ミ ト コ ン ド リ ア 移 行 シ グ ナ
ル 配 列 が 存 在 し (score=0.600)、 そ の 直 後 に は 約 20 ア ミ ノ 酸 か ら な る 膜 貫 通 領 域 が 存 在 す る こ
と が 明 ら か に な っ た (score=538)。 従 っ て KIF1 は ミ ト コ ン ド リ ア の 外 膜 又 は 内 膜 に 局 在 す る こ
とが予測された。
1-4.KIF1 の 局 在 解 析
K I F 1 は S 期 か ら M 期 に か け て 発 現 す る タ ン パ ク 質 で あ り 、 免 疫 蛍 光 染 色 と V IM P C S に
よ る 細 胞 内 局 在 の 解 析 か ら 以 下 の 4 段 階 の K I F 1 の 局 在 が 示 さ れ た 。( 1 ) K I F 1 は S 期 か ら セ
ン ト ロ ソ ー ム 上 に 局 在 を 始 め る 。 (2)G2 期 に お い て 、 KIF1 は ミ ト コ ン ド リ ア 紡 錘 体 に 沿 っ
て セ ン ト ロ ソ ー ム か ら ミ ト コ ン ド リ ア 分 裂 面 に 局 在 が 移 動 す る 。( 3 ) マ イ ク ロ ボ デ ィ の 形 態
的 変 化 及 び ミ ト コ ン ド リ ア の 分 裂 時 に は ミ ト コ ン ド リ ア 分 裂 面 に お い て KIF1 が 細 胞 周 期
を 通 じ て 最 も 高 い シ グ ナ ル 強 度 を 持 つ 。 (4)ミ ト コ ン ド リ ア 分 裂 後 に は 、 KIF1 の 局 在 は セ
ントロソーム上に再構成され、M 期中期以降においては細胞核紡錘体上に局在する。
K I F 1 は 微 小 管 重 合 阻 害 剤 で あ る オ リ ザ リ ン に よ り 細 胞 を 処 理 し た 場 合 に お い て も 、ミ ト
コ ン ド リ ア 分 裂 面 に 集 合 し た 。 ま た 、 パ ー コ ー ル 密 度 勾 配 遠 心 法 と 、 N P -4 0 処 理 に よ る ミ
ト コ ン ド リ ア 外 膜 の 単 離 に よ り 、K I F 1 が 微 小 管 画 分 と ミ ト コ ン ド リ ア 外 膜 画 分 の 二 つ に 存
在するこ とを明 らか にした。従って、ミ トコンド リア分 裂期 において は、ミ トコ ンドリア
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(様式2-2)
立教SFR-院生-報告
研究成果の概要 つ づ き
紡 錘 体 と ミ ト コ ン ド リ ア 分 裂 面 の 外 膜 上 の 2 点 に お い て KIF1 が 異 な っ た 機 能 を 持 つ こ と
が示唆された。
1-5.ア ン チ セ ン ス 法 に よ る KIF1 の 機 能 解 析
ア ン チ セ ン ス 法 に よ る KIF1 の 発 現 抑 制 に よ り 以 下 の 2 つ の 阻 害 効 果 が 示 さ れ た 。
( 1 ) マ イ ク ロ ボ デ ィ は M 期 の 間 、 G 1 期 同 様 に 単 一 の 球 状 の 構 造 と し て 存 在 し 、 1 -1 . ( 3 ) で
示された形態変化が阻害された。これらの細胞ではミトコンドリアの分断に中心的な機
能 を 果 た す ダ イ ナ ミ ン C mD n m1 が 正 常 に ミ ト コ ン ド リ ア 分 裂 面 に 局 在 す る に も 関 わ ら
ず、ミトコンドリア分裂は阻害された。従って、ミトコンドリア分裂にはそれに先立つ
マイクロボディの形態変化が必須であると考えられる。
(2)ミ ト コ ン ド リ ア 紡 錘 体 の 形 成 と マ イ ク ロ ボ デ ィ の 分 裂 が 阻 害 さ れ た 。 ミ ト コ ン ド リ ア
紡錘体はオリザリン処理により脱重合すると、マイクロボディの分裂が阻害されること
が 示 さ れ て い る ( I m o t o e t a l . 2 0 1 0 P ro t o p l a s m a ) 。 こ れ は 、 本 研 究 の 結 果 と 一 致 し て お り 、
KIF1 が ミ ト コ ン ド リ ア 紡 錘 体 の 形 成 に 中 心 的 な 機 能 を 果 た す こ と に よ り マ イ ク ロ ボ デ ィ
の分裂に関与すると考えられる。
以 上 の 結 果 か ら KIF1 は 細 胞 周 期 を 通 じ て 以 下 の よ う に マ イ ク ロ ボ デ ィ の 増 殖 を 制 御
していると考えられる。
( 1 ) マ イ ク ロ ボ デ ィ は S -M 期 特 異 的 に ミ ト コ ン ド リ ア に 接 着 す る 。 ( 2 ) M 期 の ミ ト コ ン ド
リ ア 分 裂 期 に お い て 、モ ー タ ー タ ン パ ク 質 K I F 1 が ミ ト コ ン ド リ ア 分 裂 面 の 外 膜 上 で 機 能
し 、 マ イ ク ロ ボ デ ィ が ミ ト コ ン ド リ ア 分 裂 面 を 取 り 巻 く よ う に 形 態 的 に 変 化 す る 。 (3)マ
イ ク ロ ボ デ ィ の 形 態 的 変 化 が C mD n m1 に よ る ミ ト コ ン ド リ ア の 分 断 を 誘 導 し 、 ミ ト コ ン
ド リ ア 分 裂 が 行 わ れ る 。 (4)ミ ト コ ン ド リ ア 分 裂 後 、 マ イ ク ロ ボ デ ィ は 単 一 の 球 状 の 構 造
に 再 構 成 さ れ 、 KIF1 に よ り 形 成 さ れ る ミ ト コ ン ド リ ア 紡 錘 体 に よ り 分 裂 が 行 わ れ る 。
細胞周期全体を通じての単一のマイクロボディとミトコンドリアの分裂過程の解析例
は本研究が初めてであり、本研究は他の研究機関の研究より独創性の高いものであると
言える。特に、M 期におけるマイクロボディとミトコンドリアの相互作用がオルガネラ
の分裂において重要であるという新たな知見は、真核細胞の膜系オルガネラ増殖の理解
の基本になるものであり、当研究科のみならず、国内外の研究者にも大きな影響を与え
ると考えられる。これらの成果は現在論文にまとめ投稿準備中である。
2. nanoLC-MALDI TOF-MS による新規マイクロボディ分裂遺伝子の探索
1.の成果から、分裂期特異的にマイクロボディがミトコンドリアに接着し、形態的変化を行うことがミトコンド
リアとマイクロボディの分裂に重要であることが示された。そこで、パーコール密度勾配遠心法によりフレンチプ
レスで破砕したシゾンを分画した結果、マイクロボディを含む画分が得られた。この画分を取り出し、免疫蛍光染
色によりマイクロボディの形態を解析したところ、マイクロボディは M 期にのみ、ミトコンドリアと接着した状態
で単離された。そこで、この単離された分裂期マイクロボディ・ミトコンドリアの複合体を当研究室の吉田昌樹博
士(現筑波大学生命環境科学研究科)の協力のもと、nanoLC-MALDI TOF-MS によってプロテオミクスを行い、新規
マイクロボディ分裂遺伝子の探索を進めた。
プロテオーム解析で得られたスコアの高い上位 100 の遺伝子の中には、
3 つの N 末端側にマイクロボディの移行シグナルである PTS1 を持つ遺伝子と、8 つの保存性の高い機能未知の遺伝
子、そして KIF1 と系統的に近い位置に存在するキネシン KIFi が得られた。さらに候補遺伝子を絞り込むために、
マイクロボディ・ミトコンドリア複合体の膜に局在するタンパク質に注目した。一般的に酵母や哺乳動物等、他の
真核細胞においては、マイクロボディの膜タンパク質である PEX11 や hFis1 がマイクロボディの増殖に関与するこ
とが知られている(Schrader et al 1998 J Biol Chem; Koch et al 2005 Mol Biol Cell)。しかしこれらのタンパク質は明確に
マイクロボディの分裂面には局在せず、またシゾンにおいてはゲノム中に保存されていない(Misumi et al 2008 J
Plant Res)。1-4.の結果では単離したマイクロボディ・ミトコンドリア複合体を NP-40 で処理することにより、KIF1
を含むオルガネラの膜画分が得られた。現在この画分のプロテオミクスを進めており、解析によって真核生物に普
遍的なマイクロボディの分裂に中心的な機能を果たすタンパク質の同定が期待される。
※
この(様式2)に記入の成果の公表を見合わせる必要がある場合は、その理由及び差し控え期間等
を記入した調書(A4縦型横書き1枚・自由様式)を添付すること。
(様式3)
立教SFR-院生-報告
研究発表(研究によって得られた研究経過・成果を発表した①~④について、該当するものを記入してください。該当するものが多い場
合は主要なものを抜粋してください。
)
①雑誌論文(著者名、論文標題、雑誌名、巻号、発行年、ページ)
②図書(著者名、出版社、書名、発行年、総ページ数)
③シンポジウム・公開講演会等の開催(会名、開催日、開催場所)
④その他(学会発表、研究報告書の印刷等)
①学術雑誌に発表した論文
(査読あり)
1 ) I mo t o Y , F u j i w a r a T, Yo s h i d a Y, K u r o i w a H , M a r u y a m a S , K u r o i w a T.
D i v i s i o n o f c e l l n u c l e i , m i t o c h o n d r i a , p l a s t i d s , a n d m i c r o b o d i e s me d i a t e d b y m i t o t i c
s p i n d l e p o l e s i n t h e p r i m i t i v e r e d a l g a C y a n i d i o s c h y z o n m e r o l a e . P ro t o p l a s m a , 2 4 1 ,
( 2 0 1 0 ) , 6 3 -7 4 .
2 ) Yo s h i d a Y, Ku r o i w a H , M i s u m i O , Yo s h i d a M , O h n u ma M , F u j i w a r a T, Ya g i s a w a F,
H i r o o k a S , I m o t o Y , M a t s u s h i t a K, K a w a n o S & K u r o i w a T.
C h l o r o p l a s t s d i v i d e b y c o n t r a c t i o n o f a b u n d l e o f n a n o f i l a me n t s c o n s i s t i n g o f p o l y g l u c a n .
Science 329 (5994), (2010), 949-953.
3) Imoto Y, Yagisawa F, Yoshida Y, Kuroiwa H and Kuroiwa T.
Cytological aspect of cell cycle and organelle dividing cycle. J. Electron Microscopy .
(2011). In submitted.
②図書
なし
③シンポジウム・公開講演会等の開催
なし
④その他
学会発表
○井元 祐太, 大沼 みお, 吉田 昌樹, 吉田 大和, 藤原 崇之, 黒岩 晴子, 黒岩 常祥
「細胞核、ミトコンドリア及び葉緑体の 3 分裂周期を基盤とした、ミトコンドリア紡錘
体の発見とその機能解析」
日 本 植 物 形 態 学 会 第 22 回 大 会 2010 年 9 月 8 日
○井元 祐太, 大沼 みお, 吉田 昌樹, 吉田 大和, 藤原 崇之, 黒岩 晴子, 黒岩 常祥
「 細 胞 核 、 ミ ト コ ン ド リ ア 及 び 葉 緑 体 の 3分 裂 周 期 を 基 盤 と し た 、 ミ ト コ ン ド リ ア 紡 錘 体
の発見とその機能解析」
日 本 植 物 学 会 第 74 回 大 会 2010 年 9 月 10 日