製造業における節電のポテンシャルと効果* 本間聡† 概要 本研究の目的は、包絡分析法(Data Envelopment Analysis; DEA)によって、製造業にお いて経済活動に悪影響をおよぼさずに節電可能な電力量(節電ポテンシャル)を地域別に 評価することである。2008 年度に関して、①化学・化繊・紙パルプ、②鉄鋼・非鉄・窯業土石、 ③機械と製造業全体をそれぞれ独立に計算した。分析の結果、化学・化繊・紙パ産業では 33,179 百万 kWh、鉄鋼・非鉄・窯業土石産業では 33,252 百万 kWh、機械産業では 12,120 百 万 kWh、製造業全体では 124,263 百万 kWh が経済に悪影響をおよぼさずに節電可能という 結果が得られた。製造業全体では、節電率でみれば北海道電力と中国電力の供給区域でそ れぞれ 68.2%と 55.4%と5割を超える節電余地があり、節電可能量でみると中国電力の供 給区域が 28,366 百万kWh ともっとも大きかった。また、節電による二酸化炭素削減効果 は、化学・化繊・紙パ産業では 16,134 千 t-CO2、鉄鋼・非鉄・窯業土石産業では 17,181 千 t-CO2、 機械産業では 5,785 千 t-CO2、製造業全体では 61,250 千 t-CO2 となった。 * 本稿は、科学研究費補助金基盤研究(C) 「東アジアの持続可能な経済発展のための地域レ ベルデータによる環境と貿易の実証分析」 (研究課題番号:22530253)の研究成果の一部で ある。 † 九州産業大学経済学部 〒813-8503 福岡県福岡市東区松香台 2-3-1. Tel: 092(673)5280. E-mail: [email protected] -1- 1.はじめに 2011 年3月 11 日の福島第一原子力発電所事故とそれによって定期点検等で停止中の他 の原発の運転再開の目途も立たないことから、我が国では電力不足が深刻化・慢性化して いる。2012 年 4 月現在、本年 8 月の電力需給の見通しは9電力とも安定供給の目途となる 供給予備率8%を下回っている。とりわけ関西電力は想定最大需要に対して供給力が 16.3%と大幅に不足しており、北海道電力と九州電力もそれぞれ供給力が想定最大需要を 3.1%、3.7%下回っている。電力不足への対応として、再生可能エネルギーの普及促進が重 要であることは当然だが、短期間のうちに原発の穴を埋めることは困難である。現実には 原発の代替は火力発電の稼働率を上げることで対処されているが、火力発電は地球温暖化 の原因となる二酸化炭素や大気汚染の原因となる硫黄酸化物等を排出し、枯渇性資源であ る化石燃料を消費するという問題がある。電力を削減する節電が真っ先に検討されなけれ ばならない。 ところが、省エネルギーに対して、石油危機以来我が国の産業はエネルギー効率の向上 につとめてきたので、我が国の産業は「乾いた雑巾」状態にあって省エネの余地はないと いう通説がある。果たして、日本中の企業、工場で省エネをやりつくされたのであろうか。 企業にとって省エネ型の機械を購入するといった投資は、長期的にはエネルギー・コスト の節約となるので、合理的な企業であれば省エネをやりつくした状態で操業しているはず である。しかし、実際には経済合理的な省エネも種々の要因で実施されない。このような 現象は省エネルギーバリア(energy efficiency barriers)とよばれる(Howarth and Andersson, 1993)1。杉山ほか(2010)はインタビュー調査等をふまえて我が国の工場で省エネルギーバ リアとして以下の7つをあげている2。 1. 高額な初期投資への資金調達 1 energy efficiency barriers は直訳するとエネルギー効率バリアだが、杉山ほか(2010)に従 ってここでは省エネルギーバリアと訳しておくことにする。 2 杉山ほか(2010)、73-76 ページ。 -2- 2. 対策・技術の存在や潜在的な効果・導入方法についての情報や知識の不足 3. 現状把握・対策検討能力の不足 4. エネルギー管理にかかわる人件費や設備更新の機械費用などの隠れた費用 5. 機器に関するメーカー、サブユーザー、エンドユーザー間のインセンティブの不一 致 6. 多種多様な中小企業の需要の多様性 7. 経営者の関心不足 以上のような経済的・非経済的な障害が省エネの推進を阻んでいると考えられる。 実際、 製造業のエネルギー消費原単位は 20 年ほど横ばいを示しており、1990 年度の 55.5 から 2009 年度の 60.0 とむしろ近年は微増している3。歌川(2011)で指摘されるように、個別機器 のエネルギー効率は向上しても、普及が不十分なので省エネ効果を発揮していないと考え られる。歌川(2011)は設備更新時に省エネ型の機器・建物・自動車を採用することによ って我が国の最終エネルギー消費は 2020 年(2030 年)に最大 22%(同 36%)削減が可能 であることを示している。 エネルギー効率の改善を分析するためのアプローチには、上述の歌川(2011)のような 工学的なシミュレーションだけでなく、国や地域をエネルギーやその他の生産要素を投入 して生産物を産出する生産プロセスととらえてその効率性を分析する経済学的なアプロー チもある。中でも包絡分析法(Data Envelopment Analysis; DEA)はエネルギー効率の評価 に広く適用されてきた。DEA は Charnes et al (1978)によって考案されたノンパラメトリッ クな効率性評価手法であり、政府、企業、病院など様々な事業体の効率性を評価する手法 として、幅広い分野で応用されてきた。DEA によるエネルギー効率評価の研究として、日 本に関する Honma and Hu (2008)、中国に関する Hu and Wang (2006)、APEC 諸国に関する Hu and Kao (2007)、OECD 諸国に関する Zhou and Ang (2008)、米国の製造業に関する 3 経済産業省『エネルギー白書 2011』、84 ページ -3- Mukherjee (2008)、トルコと EU 諸国とを比較した Sözen and Alp (2009)などがあげられる。 本研究の目的は、包絡分析法(Data Envelopment Analysis; DEA)によって、製造業にお いて経済活動に悪影響をおよぼさずに節電可能な電力量(節電ポテンシャル)を評価する ことである。上であげた先行研究では DEA によってエネルギー効率を評価して、国、地 域、あるいは産業の間で比較することが分析の目的とされる。けれども、本稿の関心は効 率性そのものではなく、効率性を計算した結果得られる節電ポテンシャルを提示すること である。節電は、電力不足という喫緊の問題を解決すると同時に、発電時に発生する、地 球温暖化の原因となる二酸化炭素の削減にもつながる。そこで、本稿では節電によって削 減可能な二酸化炭素排出量も示す。 本稿の構成は以下の通りである。第 2 節では効率性を評価するモデルと節電ポテンシャ ルについて説明する。第 3 節では、効率性、節電ポテンシャル、節電可能率を示して、電 力会社の供給区域別に節電の余地と削減可能な二酸化炭素排出量を示す。第 4 節はまとめ である。データの出所と利用は付録で説明される。 2.モデル 本稿で、節電可能な電力量を評価するためのモデルを説明しよう。本稿では DEA の一 種である Slacks-Based Measure (SBM) モデルを用いる4。一般に、生産活動では投入は少な ければ少ないほど望ましく、産出は多ければ多いほど望ましいといえよう。DEA によって 生産活動の効率性を評価するアプローチには、各投入量(各生産量)の比例的な縮小(拡 大)にもとづいて効率値を算出する軸的モデル(radial model)と、投入の余剰と産出の不 足を最小化する非軸的モデル(non-radial model)がある5。多くの DEA の応用研究では、 分析対象となる企業、地域、国等の効率性を評価することが主たる目的といえる。しかし、 4 5 SBM モデルについてくわしくは Cooper et al (2006)を参照。 投入の余剰や産出の不足はスラック(slack)とよばれる。 -4- 本稿の関心は各地域の効率値そのものよりも効率的な生産を行った場合に節約可能な電力 消費量であることから、投入の余剰を直接効率性の計算に用いる非軸的モデルである SBM モデルを用いる。 いま h の地域が、k 種類の投入要素で、m 種類の生産物を生産しているとしよう。地域 i の投入ベクトルを xi = ( x1i ,L xki , ) 、産出ベクトルを y i = ( y1i , L , y mi ) で表わせば、全地域 の投入は、k×h の行列 X で、産出は、m×h の行列 Y で表示することができる。地域間の経 済規模の違いを考慮して本稿では規模に関して収穫可変を仮定する。このとき、生産可能 集合は、 { } (1) P = x, y x ≥ Xλ ,y ≤ Y λ , eλ = 1, λ ≥ 0 で与えられる。ただし、 e はすべての要素が1の行ベクトルである。ここで、地域 i の効 率性は、次の線形計画問題を解くことによって得られる。 θ = min − 1 k sj 1− ∑ k j =1 x ji + 1 m sj 1+ ∑ m j =1 y ji s.t. x i = Xλ + s − y i = Yλ − s + s− , s+ , λ ≥ 0 − k (2) + m ここで、 s ∈ R は投入の余剰、 s ∈ R は産出の不足をそれぞれ表しており、スラッ クと呼ばれる。(2)から明らかなように、 θ は各スラックの減少関数であって、つねに 0 ≤ θ ≤ 1 が満たされる。θ = 1 が成立するとき、地域 i は効率的といわれる。定義から全て のスラックがゼロの場合にのみ θ = 1 が成立することが明らかである。本稿の関心は、効率 性そのものよりも節電可能な電力量にある。これは(2)のスラックで表される。電力が e 番 -5- − − 目の投入要素とすると、地域 i に関して sei がゼロの場合には節約の余地はなく、sei が正の − 場合には経済活動を害することなしに sei だけ節約の余地があるといえる。節電ポテンシャ − − ルが sei 、節電可能率が sei / xei で示される。 SBM モデルでは、各県は労働、資本、電力、電力以外のエネルギーを投入して産業別 GDP を産出すると仮定される。電力消費を減少させたからといって、他のエネルギー消費 を増加することは望ましいとはいえないことから、電力以外のエネルギーを投入要素とし て入れた。これは石炭、石炭製品、石油製品、天然ガス、都市ガス、再生可能・未活用エネ ルギー、熱のエネルギー単位の合計である。ただし、潤滑油やアスファルトのような非エ ネルギー利用は控除した。主な製造業として①化学・化繊・紙パルプ、②鉄鋼・非鉄・窯業土 石、③機械と製造業全体をそれぞれ独立に計算した。上述の3産業を取り上げた理由とデ ータの出所と利用は付録で述べられる。 3.結果 3.1 効率性 SBM モデルの計算は3つの産業と全製造業についてそれぞれ独立に行った。分析の結果 得られた効率性は表の通りである6。製造業の盛んな千葉県や愛知県でそれぞれ3あるいは 2産業が効率的であることが注目される。SBM モデルで効率的と評価された地域数は、化 学・化繊・紙パ産業が 41 道府県中 13 府県、 鉄鋼・非鉄・窯業土石産業が 40 道府県中 12 府県、 機械産業が 44 道府県中 18 府県、製造業全体では 44 道府県中 16 府県であった。 表 2 は3産業と製造業全体の効率性の相関をスピアマンの順位相関係数で示したもので ある。表から明らかなように、機械産業と製造業全体の相関はひじょうに高いが、それ以 外の組み合わせの相関は 0.3 から 0.4 程度で、それほど高くない。これは、ある地域の産業 6 効率値が「-」となっている箇所がある点については付録を参照。 -6- 表1 各道府県の製造業の効率性(2008 年度) 道府県名 北海道 青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県 茨城県 栃木県 群馬県 埼玉県 千葉県 神奈川県 新潟県 富山県 石川県 福井県 山梨県 長野県 岐阜県 静岡県 愛知県 三重県 滋賀県 京都府 大阪府 兵庫県 奈良県 和歌山県 鳥取県 島根県 岡山県 広島県 山口県 徳島県 香川県 愛媛県 高知県 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 大分県 宮崎県 鹿児島県 平均 化学・化繊・紙パルプ 鉄鋼・非鉄・窯業土石 0.145 0.305 0.263 1.000 0.335 0.360 0.176 0.466 0.479 0.429 1.000 1.000 0.377 0.677 0.746 0.729 1.000 0.506 0.382 1.000 0.662 1.000 1.000 0.673 0.710 0.197 0.262 0.556 0.654 0.725 0.504 0.855 1.000 0.390 0.596 1.000 1.000 0.433 1.000 0.441 0.804 1.000 1.000 0.759 1.000 1.000 1.000 0.325 0.708 0.583 0.437 0.231 1.000 1.000 0.440 0.194 0.449 0.179 0.205 1.000 0.239 1.000 0.492 0.302 1.000 0.347 0.248 1.000 1.000 0.261 0.504 1.000 1.000 0.431 0.254 0.563 0.202 0.384 0.248 0.597 0.302 0.576 0.652 機械 製造業 0.322 0.497 1.000 0.840 1.000 1.000 0.697 0.563 0.333 0.759 1.000 0.666 0.627 0.482 1.000 1.000 1.000 1.000 0.587 1.000 1.000 0.586 0.491 0.491 1.000 1.000 0.470 1.000 1.000 1.000 0.546 0.657 0.520 1.000 1.000 0.615 1.000 0.342 0.610 0.700 0.539 0.584 0.406 0.448 0.736 0.287 0.494 0.460 0.738 1.000 0.655 0.639 0.563 0.333 0.759 1.000 0.666 0.627 0.482 1.000 1.000 1.000 1.000 0.587 1.000 1.000 0.586 0.491 0.491 1.000 1.000 0.470 1.000 1.000 1.000 0.546 0.657 0.520 1.000 1.000 0.615 1.000 0.342 0.610 0.700 0.539 0.584 0.406 0.448 0.711 注)-となっている箇所は異常値として計算をしていないことを示している(付録を参照) 。 -7- 表2 各道府県の製造業の効率性に関するスピアマンの順位相関行列 化学・化繊・紙パ 鉄鋼・非鉄・窯業土石 機械 化学・化繊・紙パ 1.000 鉄鋼・非鉄・窯業土石 0.421 1.000 機械 0.315 0.400 1.000 製造業 0.431 0.420 0.918 製造業 1.000 はすべて効率的(あるいは非効率的)となっているのではなく、効率的な産業と非効率的 な産業が同じ地域に混在することの方がむしろふつうであることを示している。 3.2 節電ポテンシャルと節電可能率 表3は 3 産業と製造業全体について節電ポテンシャルと節電可能率を示したものである。 合計に対する節電可能率は計算対象の道府県の電力消費量の合計に対する節電ポテンシャ ルの割合を示す。節電ポテンシャルがゼロ、節電可能率が0%となっている地域は、電力 利用に関しては削減の余地がないと評価されたことを意味する7。GDP を減少させること なしに電力を削減する余地があると評価された地域数は、化学・化繊・紙パ産業が 41 道府県 中 26 道府県、鉄鋼・非鉄・窯業土石産業が 40 道府県中 26 道県、機械産業が 44 道府県中 18 道府県、製造業全体では 44 道府県中 16 道府県であった8。これらの地域の節電によって削 減可能な電力は化学・化繊・紙パ産業では 33,179 百万 kWh、鉄鋼・非鉄・窯業土石産業では 33,252 百万 kWh、機械産業では 12,120 百万 kWh、製造業全体では 124,263 百万 kWh にお よぶ。本稿では、付録で述べられた理由によって 47 都道府県すべてを分析したわけではな 7 ただし、これは DEA による相対評価に基づいて削減の余地がないという意味であり、工 学的な意味で絶対的に削減の余地がないことを意味するわけでない。 8 先の表 1 と表3との関連について述べると、表 1 で効率的と評価された場合(効率値が1) には表3で節電の余地がある(電力のスラックが正となる)ことは定義からあり得ないが、 効率的でないと評価された場合(効率値が1未満)でも表3で節電の余地がない(電力の スラックがゼロとなる)と評価されることはあり得る。なぜならば電力に関しては余剰が ゼロでも、電力以外の投入の余剰や産出の不足が生じて、非効率的と評価されるケースは あり得るからである。このケースに該当するのは、すべての分析の中で化学産業での和歌 山県と鉄鋼・非鉄・窯業土石産業での福井県の2つがあった。 -8- いが、分析で得られた節電電力量の大きさを理解するために、国全体の電力消費と比較し よう9。総合エネルギー統計では 2008 年度の全国の電力消費は、化学・化繊・紙パ産業で 85,244 百万 kWh、 鉄鋼・非鉄・窯業土石産業で 105,838 百万 kWh、 機械産業で 80,349 百万 kWh、 製造業全体で 308,129 百万 kWh であるので、全国の電力消費との比較でいうと順に 38.9%、 31.4%、15.1%、40.3%の割合で削減余地があるといえる。 3.3 供給区域別の節電余地 図 1-1 から図 1-4 は、大手電力会社の供給区域別に節電可能な電力を示したものである。 一部の県は複数の大手電力会社の供給区域に含まれるし、電力は独立系電力事業者(IPP) からも供給されるが、ここでは説明の都合上、結果を大手電力会社の供給区域別に整理し た。図で、必要電力量は SBM モデルに従って非効率な道府県が効率化した場合の電力を 地域ごとに集計した値である。ただし、本稿では東京都は付録の理由で分析データからは 除外されているので、東京電力の必要電力量には東京都の電力消費は含まれていない。 化学・化繊・紙パ産業では、東京、北陸以外の各電力会社の供給区域で大幅な節電の余地 がある。鉄鋼・非鉄・窯業土石産業では中国、九州の各電力会社の供給区域で大幅な節電の 余地があるといえよう。機械産業では東京、中国、九州の各電力会社の供給区域で大幅な 節電の余地があるといえる。製造業全体では、節電率でみれば北海道電力と中国電力の供 給区域でそれぞれ 68.2%と 55.4%と5割を超える節電余地があり、節電可能量でみると中 国電力の供給区域が 28,366 百万kWh ともっとも大きく、東京電力の供給区域(節電可能 量 16,081 百万kWh、以下同様) 、関西電力の供給区域(14,749 百万kWh)、東北電力の供 給区域(14,680 百万kWh)、九州電力の供給区域(14,425 百万kWh)がほぼ同じくらいで 並ぶ。 9 本稿の分析で利用した都道府県別エネルギー消費統計は、総合エネルギー統計に基づいて 算定されるものだが、地域分割や統計上の誤差によって両者の数字は完全には一致しない。 -9- 表3 製造業の節電ポテンシャルと節電可能率(2008 年度) 化学・化繊・紙パルプ 鉄鋼・非鉄・窯業土石 機械 製造業 節電ポテン 節電ポテン 節電ポテン 節電ポテン 道府県名 シャル シャル シャル シャル 節電可能率 節電可能率 節電可能率 節電可能率 (100万 (100万 (100万 (100万 kWh) kWh) kWh) kWh) 北海道 4,379 88.6% 648 35.1% 153 35.6% 11,215 青森県 773 75.5% 0 0.0% - - - - 岩手県 63 25.2% 0 0.0% 110 74.1% 1,330 30.9% 宮城県 1,810 78.7% 416 58.6% 0 0.0% 5,406 63.4% 秋田県 232 55.0% 683 69.6% 19 9.0% 836 23.9% 山形県 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 福島県 440 43.9% 147 32.5% 0 0.0% 2,830 32.3% 茨城県 953 30.4% 1,080 25.0% 335 50.8% 1,099 8.7% 栃木県 0 0.0% 415 42.5% 643 71.3% 3,772 33.1% 群馬県 - - 544 62.6% 995 89.6% 4,222 40.9% 埼玉県 0 0.0% 554 34.7% 44 7.9% 0 0.0% 千葉県 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 神奈川県 68.2% 846 29.1% 568 17.0% 686 39.2% 6,987 25.6% 新潟県 2,301 80.4% 1,226 70.9% 224 64.5% 4,279 45.0% 富山県 897 58.9% 242 32.8% 307 89.0% 5,313 61.5% 石川県 54 39.8% - - 0 0.0% 370 11.1% 福井県 137 27.4% 0 0.0% 0 0.0% 1,495 34.7% 山梨県 - - - - 0 0.0% 0 0.0% 長野県 0 0.0% - - 0 0.0% 0 0.0% 岐阜県 344 38.0% 447 57.2% 322 76.0% 3,261 39.3% 0.0% 静岡県 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 0 愛知県 2,050 77.1% 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 三重県 1,954 74.1% 79 15.1% 2,381 84.8% 4,833 31.0% 滋賀県 0 0.0% 0 0.0% 549 85.6% 0 0.0% 京都府 19 17.4% 0 0.0% 454 85.5% 0 0.0% 大阪府 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 582 2.6% 兵庫県 3,095 83.2% 3,865 46.9% 0 0.0% 13,942 46.0% 奈良県 - - - - 239 52.2% 0 0.0% 和歌山県 0 0.0% 328 21.4% 0 0.0% 225 8.2% 鳥取県 504 66.4% 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 島根県 0 0.0% 166 34.5% 0 0.0% 0 0.0% 岡山県 2,904 83.8% 4,024 72.4% 566 73.7% 11,053 68.3% 広島県 1,112 66.5% 5,097 80.9% 1,147 69.9% 4,008 35.5% 山口県 0 0.0% 4,701 79.7% 250 85.8% 13,305 68.1% 徳島県 0 0.0% 427 86.8% 0 0.0% 1,823 42.1% 香川県 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 685 19.6% 愛媛県 6,252 84.1% 474 61.8% 267 89.1% 6,966 69.3% 高知県 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 福岡県 328 36.9% 3,631 62.5% 551 86.2% 7,986 59.3% 佐賀県 0 0.0% 0 0.0% 37 56.3% 533 18.0% 長崎県 - - 197 82.4% 89 32.8% 0 0.0% 熊本県 459 54.6% 100 56.2% 359 60.2% 2,875 49.1% 大分県 559 64.5% 2,757 70.5% 546 69.0% 0 0.0% 宮崎県 503 43.7% 436 87.2% 226 47.8% 1,408 34.7% 211 70.4% - - 620 69.2% 1,623 38.3% 33,179 46.7% 33,252 40.3% 12,120 38.5% 124,263 27.3% 鹿児島県 合計 - 10 - 図1-1 化学・化繊・紙パルプ産業の節電可能量と必要電力量(2008 年度) 百万 kWh 図1-2 鉄鋼・非鉄・窯業土石産業の節電可能量と必要電力量(2008 年度) 百万 kWh - 11 - 図1-3 機械産業の節電可能量と必要電力量(2008 年度) 百万 kWh 図1-4 製造業の節電可能量と必要電力量(2008 年度) 百万 kWh - 12 - 3.4 節電による二酸化炭素の削減効果 節電のもともとの目的は電力不足への対応だが、節電には(1)発電時の二酸化炭素の発生 を抑制、(2)化石燃料の消費を抑制、(3)企業のコストダウン10、といった副次的な便益もあ る。節電による二酸化炭素削減効果は、各電力会社の供給区域別に集計した節電ポテンシ ャルにその区域の電力会社の 2008 年度の二酸化炭素排出係数を乗じて計算することがで きる。計算の結果、化学・化繊・紙パ産業では 16,134 千 t-CO2、鉄鋼・非鉄・窯業土石産業で は 17,181 千 t-CO2、 機械産業では 5,785 千 t-CO2、製造業全体では 61,250 千 t-CO2 となった。 図 2 は電力会社の供給区域別に節電による二酸化炭素削減効果を示したものである。中国 電力供給区域の二酸化炭素削減効果がひじょうに大きいが、その要因は同区域の節電ポテ ンシャルが大きい上に、中国電力の二酸化炭素排出係数が9電力会社の中でもっとも大き かったからである。 図2 節電による二酸化炭素削減効果(2008 年度) 25,000 二酸化炭素削減量(千t-CO2) 20,000 15,000 化学・化繊・紙パルプ 鉄鋼・非鉄・窯業土石 10,000 機械 製造業 5,000 0 10 ただし、平日の節電による夜間や休日の操業のために割増賃金を支払うなどのように、 節電は企業の負担になる面もあることに注意する必要がある。 - 13 - 4.おわりに 本稿では、2008 年度に関して、①化学・化繊・紙パルプ、②鉄鋼・非鉄・窯業土石、③機械 の3つと製造業全体の4つに関して節電ポテンシャルと節電率を SBM モデルで計算した。 分析の結果、化学・化繊・紙パ産業では 33,179 百万 kWh、鉄鋼・非鉄・窯業土石産業では 33,252 百万 kWh、機械産業では 12,120 百万 kWh、製造業全体では 124,263 百万 kWh が経済に悪 影響をおよぼさずに節電可能という結果が得られた。製造業全体では、節電率でみれば北 海道電力と中国電力の供給区域でそれぞれ 68.2%と 55.4%と5割を超える節電余地があり、 節電可能量でみると中国電力の供給区域が 28,366 百万kWh ともっとも大きかった。また、 節電による二酸化炭素削減効果は、化学・化繊・紙パ産業では 16,134 千 t-CO2、鉄鋼・非鉄・ 窯業土石産業では 17,181 千 t-CO2 、機械産業では 5,785 千 t-CO2、製造業全体では 61,250 千 t-CO2 となった。 本稿の分析から示唆される政策的含意を述べよう。第 1 に、節電の余地は地域によって 大きく異なる。節電の必要性が高い関西電力の供給区域での節電余地は小さいが、同じ 60Hz 圏の中国、四国、九州電力の供給区域では必要電力に比べて節電余地は大きい。電力 会社間の電力の融通能力の向上が必要であるといえる。第 2 に、節電余地は、同じ県の中 でも産業によって大きく異なるのがふつうである。地域省エネルギー政策は削減余地の大 きくて非効率な産業に焦点を当てることが重要であろう。第 3 に、節電は発電時に発生す る二酸化炭素の排出を削減する効果がある。2008 年度よりも火力発電の割合が高まってい る現在では節電による二酸化炭素削減効果はより重要であろう。 最後に、今後の課題について述べよう。第 1 に、節電の電力量を評価する分析の精度を 向上させることである。本稿では付録で述べられたように、電力消費量/産業別 GDP の値 がその産業で最大となる県の百分の一に満たない県は異常値と見做してデータを除外した。 しかし、このような異常値の除外はアドホックな手法との批判は免れ得ないであろう。第 2 に、本稿ではデータが得られる最新年として 2008 年度をサンプルとしたが、時系列で節 - 14 - 電余地を評価することである。第 3 に、節電による大気汚染物質の削減効果を示すことで ある。節電による二酸化炭素削減効果を示したが、火力発電においては二酸化炭素だけで なく硫黄酸化物や浮遊粒子状物質などの大気汚染物質も排出される。これらの削減効果も 示すが可能である。 参考文献 Charnes, A. C., Cooper, W. W. and Rhodes, E. (1978), “Measuring the Efficiency of Decision Making Units”, European Journal of Operational Research, 2, pp. 429-444. Cooper, W. W., Seiford, L. M., Tone, K. (2006), Data Envelopment Analysis: A Comprehensive Text with Models, Applications, References and DEA-Solver Software, Kluwer Academic Publisher 2nd Edition. Honma, S. and Hu, J. L. (2008), Total-Factor Energy Efficiency of Regions in Japan, Energy Policy, 36, pp. 821-833. Howarth, R.B., Andersson, B. (1993), Market barriers to energy efficiency, Energy Economics 15, 262–272. Hu, J.L., Kao, C.H. (2007). Efficient energy-saving targets for APEC economies. Energy Policy, 35, 373-382. Hu, J.L., and Wang, S.C. (2006). Total-factor energy efficiency of regions in China. Energy Policy 34, 3206-3217. Lozano, S. and Gutiérreza, E. (2008). Non-parametric frontier approach to modelling the relationships among population, GDP, energy consumption and CO2 emissions. Ecological Economics, 66, 687-699. Mukherjee, K. (2008). Energy use efficiency in U.S. manufacturing: A nonparametric analysis. Energy Economics, 30, 76-96. - 15 - Sözen, A., and Alp, I. (2009). Comparison of Turkey's performance of greenhouse gas emissions and local/regional pollutants with EU countries. Energy Policy, 37, 5007-5018. Thanassoulis E., Portela, M. C. S., and Despić O. [2008], “ DEA – The mathematical programming approach to efficiency analysis,” in The Measurement of Productive Efficiency and Productivity Growth [Fried, H., C.A.K. Lovell, and S. Schmidt], Oxford University Press, New York. Zhou, P., and Ang, B.W. (2008). Linear programming models for measuring economy-wide energy efficiency performance. Energy Policy, 36, 2911-2916. 植田和弘・梶山恵司編(2011) 『国民のためのエネルギー原論』日本経済新聞出版社。 歌川学(2011) 「エネルギー消費削減の可能性とリアリティ」 、植田・梶山編(2011) 、第 5 章。 戒能 一成(2010)「都道府県別エネルギー消費統計の解説」 (http://www.rieti.go.jp/users/kainou-kazunari/energy/pdf/TODOFK2009.pdf) 杉山大志・木村宰・野田冬彦(2010)「省エネルギー政策論」エネルギーフォーラム。 付録 データの データの出所と 出所と利用 A.1 データの出所 データの出所と構築は以下の通りである。各県の電力消費量と電力以外のエネルギー消 費量は資源エネルギー庁の都道府県別エネルギー消費統計を用いた。統計では、各エネル ギーの消費量が TJ(テラジュール)単位で記載されているので、電力と電力以外のエネル ギー消費に集約した。なお、非エネルギー利用の消費量は除外した。労働は、経済産業省 「工業統計調査」産業編データの産業別統計表(産業中分類別)の産業別従業者数を用い た。資本ストックは内閣府都道府県別経済財政モデル(平成 23 年度版)の民間企業資本ス トックのうち製造業の資本ストックを用いた。本稿のサンプルが 2008 年度なのは、同デー タに収録されている最新年度が 2008 年度であるためである。また、大手電力会社の二酸化 - 16 - 炭素排出係数は環境省ホームページによる。各道府県の産出は内閣府の県民経済計算の経 済活動別県内総生産を用いた。 A.2 対象産業 本稿の分析対象の産業は、①化学・化繊・紙パルプ、②鉄鋼・非鉄・窯業土石、③機械と製 造業全体である。上述の都道府県別エネルギー消費統計では、製造業は①化学・化繊・紙パ ルプ、②鉄鋼・非鉄・窯業土石、③機械、④重複補正、⑤他業種・中小製造業と分類されてい る。製造業ではしばしば1つの事業所が複数の業種にわたって生産を行うが、製造業のエ ネルギー消費の元となる経済産業省「特定業種石油等消費統計」ではそうした事業所のエ ネルギー消費量が二重に計上されてしまう。そこで、二重計算を回避するために重複補正 に負値のエネルギー消費量が計上されている11。従って、都道府県別エネルギー消費統計 では製造業は実質 4 分類である。このような荒い分類がなれるのは、細かな産業分類では 特定の事業所のエネルギー消費量が公になってしまい、統計上の秘匿が守られなくなる恐 れがあるからである。 上で述べた重複補正をエネルギー消費量あるいは GDP で残りの4産業に按分すること も試みたが、しばしばエネルギー消費量が負値となるケースが生じてしまった。そこで重 複補正の按分は行わずに、3産業について分析した。従って、各産業のエネルギー消費量 は重複を含んでいるために、潜在的に過大となる傾向があることに注意する必要がある。 A.3 一部の地域の除外 本稿では以下の3つの理由から、47 都道府県すべてをサンプルとはしなかった。 (1)外れ値 DEA の欠点として外れ値(異常値)によって大きな影響を受けることがいわれている。 11 くわしくは戒能(2010)を参照。 - 17 - 外れ値であってもユニークな経済主体であるならば取り除かないでおくべきだが、データ の信頼性に疑問がある外れ値は取り除かれるべきであろう。 都道府県別エネルギー消費統計では、経済規模が小さい県においてはエネルギー消費量 が極端に小さい場合が散見される。例えば、2008 年度の鹿児島県の鉄鋼・非鉄・窯業土石産 業の電力消費量は 0.00004 百万 kwh である。このように極端に小さい値が統計に表れる背 景として、筆者の推測では次のような要因があると予想される。第 1 に、エネルギー・デ ータの元となっている経済産業省「特定業種石油等消費統計」の調査は対象となる生産品 目を生産していて一定規模以上の事業所が調査対象となっている。例えば、紙・板紙生産 では従業員 50 人以上の事業所が対象となる。従って、同調査の「裾切り」によって対象外 となるような小規模な事業所が多い地域は、エネルギー消費量の推定精度が低くなる恐れ がある。第 2 に、ある産業について大規模な事業所がない県では、統計ではその産業のエ ネルギー消費量の大半が他業種・中小製造業や重複補正に含まれてしまっている可能性が ある。第 3 に、都道府県別エネルギー消費統計の各地域のエネルギー消費量は総合エネル ギー統計での国全体のエネルギー消費量を産業連関を援用して地域分割しているが、経済 規模の小さい県ではこの分割の推定精度が低くなっている恐れがあることである。 以上のように、地域別のエネルギー消費量の中には、異常値として分析から除外した方 が 望 ま し い 値 が 含 ま れ て い る 。 Thanassoulis et al (2008, pp315-319) で は 超 効 率 性 (supperefficiency)を用いた外れ値の除去が述べられている。超効率性とは、通常の DEA では効率値が1と評価される効率的な経済主体の間で、さらに優劣をつけるために 1 以上 の効率値を定義したものである。超効率性を用いた外れ値の除去では、例えば超効率値が 1.3 以上の経済主体のデータは異常値と見做して除去するといった方法がとられる。筆者も 超効率性によって異常値の除去を試みたが、この方法では上述のようなエネルギー消費量 が異常に少ない県を取り除くことはできなかった。その理由は、それらの県は産業別 GDP に比してエネルギー消費量が少ないだけで、他の投入(労働や資本)は少ないわけではな - 18 - いからである。 そこで、本稿ではやや恣意的ではあるが、産業ごとに各県の電力消費量/産業別 GDP を計算し、電力消費量/産業別 GDP の値がその産業で最大となる県の百分の一に満たない 県は異常値と見做してデータを用いないことにした。具体的には、化学・化繊・紙パ産業 で群馬県、山梨県、奈良県、長崎県の 4 県、鉄鋼産業で石川県、山梨県、長野県、奈良県、 鹿児島県の5県、機械産業で青森県1県を異常値として取り除いた。 (2) 東京都の除外 DEA では、効率的な地域の活動が張る凸集合である効率的フロンティアにもとづいて効 率性が評価される。非効率と評価される地域には効率化する場合に改善のための“お手本” となる地域が存在する。これは参照集合とよばれるが、東京都を含めて計算すると、東京 都は効率的と評価され、非効率な多くの県の参照集合に東京都が含まれる。しかし、多く の県が東京都を“お手本”として効率化を図ることは現実的とはいえないであろう。従って、 分析では東京都を除外した。 (3)沖縄県のデータ欠如 沖縄県は統計上の秘匿処理によって部門別の産出データが県民経済計算で一部得られな かったので分析では除外された。 - 19 -
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