平地研究室技術メモ No.20080622 アクティブクランプ方式のソフトスイッチング成立条件 (読んでほしい人:パワエレ技術者) 2008/6/22 舞鶴高専 平地克也 ■あらまし 平地研究室技術メモ No.20080519 にてアクティブクランプ方式フォワード形 DC/DC コンバータ の基本動作を説明した(1)。しかし、実際にこの回路方式を設計して製品に使用するには基本動作だけ ではなく、もっと詳しい動作解析が必要となる。動作を詳しく検討すれば、実はこの回路では通常の 設計ではソフトスイッチングを成立させることができず、トランスの励磁電流が負荷電流より大きく なるように設計しないとソフトスイッチングが実現しないことが分かる。 (1) 平地研究室技術メモ No.20080519、「アクティブクランプ方式 1 石フォワード形 DC/DC コンバ ータ」 、2008 年 5 月 19 日 ■回路構成 図1にアクティブクランプ方式フォワード形 DC/DC コンバータの回路図を示す。Lm はトランス T1 の励磁インダクタンスである。Q1 は出力電圧 Vout を適切な電圧に制御するようにパルス幅制御 される。Q2 は Q1 と短いデッドタイムを挟んで交互に ON/OFF する。 Lm C2 D2 Im E Q2 Q1 T1 ID3 D3 Vn1 Vn2 n1 Ld D4 ILd I D4 C3 Vout n2 VC1 D1 C1 図1 アクティブクランプ方式フォワード形 DC/DC コンバータ ■通常の動作モード 文献(1)ではこの回路方式には6つの動作モードがあることを示し、それぞれの動作モードにおけ る電流径路と回路各部の電圧電流波形を説明した。しかし、詳しく検討すれば、文献(1)で示した Mode2 は 2 つの動作モードに分かれることが分かる。また、Mode6(Q1 が ZVS でターンオンする モード)は存在しないことが分かる。即ち、通常はこの回路方式では主スイッチ素子のソフトスイッ チングは実現できず、ソフトスイッチング実現のためには特別な工夫が必要となる。以下、動作モー ドの詳しい検討結果を説明する。図2に各動作モードの電流経路、図3に各動作モードの回路各部の 電圧電流波形の模式図を示す。 1 <Mode1> Q1 が ON しておりトランス T1 の 1 次コイル n1 には電源電圧 E が印加されている。D3 が導通し、 2 次側に電力が伝達されている。励磁電流 Im は直線的に増加する。 ∆ Im = 1 E∆T Lm <Mode2> Q1 が OFF し、C1 が充電される。Q1 が OFF の瞬間は C1 電圧は 0V であるので Q1 のターン OFF は ZVS である。C1 の充電に伴いトランス T1 の n1 コイルの電圧 Vn1 は徐々に減少する。 Vn1=E−VC1 <Mode2’> C1 が E まで充電されると Vn1 は 0V となる。さらに充電されると Vn1 は負となる。Vn1 が負となる と Vn2 も負となり、D3 は逆バイアスされ非導通となる。よって、負荷電流は D3 から D4 に転流す る。Mode2 では C1 は負荷電流+励磁電流で充電されていたが、Mode2’では励磁電流のみで充電さ れる。 <Mode3> C1 が「E+C2 電圧」まで充電されると励磁電流は C1 から D2 に転流して C2 を充電する。n1 には C2 の電圧が逆方向に印加され、励磁電流は直線的に減少する。 ∆ Im = − 1 VC 2 ∆T Lm 負荷電流は D4 を介して環流している。D2 が導通している時に Q2 が ON するので、Q2 のターンオ ンは ZVS かつ ZCS である。 <Mode4> 励磁電流がさらに減少し、方向が反転し、Im は負となる。なお、C2 は Mode3 では充電、Mode4 では放電するが、C2 の容量は十分大きく、電圧はほとんど変化しない。 <Mode5> Q1 の ON の直前に Q2 を OFF させる。励磁電流は Q2 から C1 に転流し、その電荷を引き抜く。Q2 ターンオフの瞬間は C1 は「E+C2 電圧」に充電されているのでその時の Q2 電圧は 0V であり、Q2 のターンオフは ZVS である。C1 の電荷の引き抜き(即ち C1 の放電)に伴い、トランスの電圧 Vn1 は増加する。 Vn1=E−VC1 なお、Mode5 開始時は「Vc1=E+Vc2」より「Vn1=−Vc2」であり、Vn1 は負であったが、徐々に 増加して 0V に接近する。 2 <Mode5’> C1 の放電が進行して「Vc1=E」まで低下すると Vn1 は 0V となり、さらに低下すると Vn1 は正とな る。Vn1 が正となると Vn2 も正となり D3 が順バイアスされる。D3 が順バイアスされるとこれまで トランスの 1 次側を流れて C1 を放電させていた励磁電流はトランスの 2 次側に転流して D3 を通っ て流れる。よって、C1 の放電は停止し、Vc1 はこれ以上低下しない。この状態で Q1 がターンオン して Mode1 に移行する。よって、Q1 はハードスイッチングとなる。文献(1)では Vc1 は 0V まで低 下して次に D1 が導通して Mode6 に移行するように説明したが、通常は上記のように Mode6 に移行 することはできない。 T1 C2 D2 E Lm D3 D4 Ld C3 C2 D2 E Q1 Q2 Lm C1 Mode 1 T1 E D2 Lm D3 D4 T1 Ld D2 C2 C3 E Q1 Q2 Lm T1 E Lm Mode 3 D3 T1 Ld C3 C2 D2 E Lm D4 C1 Mode 4 D1 D2 E Q2 D3 Ld C3 Q1 Q2 C1 C2 C3 D1 D4 T1 Ld C1 Q1 Q2 Mode 2 D3 D4 Mode 2’ D1 D2 C3 Q1 Q2 C1 C2 Ld D1 D1 C2 D4 Q1 Q2 C1 D3 T1 Mode 5 D1 D3 Lm D4 T1 Ld C3 C2 D2 E Q1 Q2 C1 Lm D4 C1 D1 各動作モードにおける電流径路 3 Ld C3 Q1 Mode 5’ D1 図2 D3 Mode 6 (通常は存在しない) ON Q1 OFF ON Q2 OFF V Q1 Vn1 0V Im 0A Mode 5 ’ 1 図3 2 2’ 3 4 5 5’ 1 2 回路各部の電圧電流波形の模式図 このように、アクティブクランプ方式フォワード形 DC/DC コンバータでは励磁電流がトランスの 2 次側に転流するためにスイッチ素子のスナバコンデンサの放電が完了せず、通常はソフトスイッチ ングを実現することができない。 なお、トランスの励磁電流は普通はトランスの 1 次側を流れるので、励磁電流がトランスの 2 次 側に転流することは理解されにくいかもしれない。フォワード形 DC/DC コンバータの励磁電流がト ランスの 2 次側にも流れることは次の文献で詳しく解説しているので参照下さい。 (2) 平地研究室技術メモ No.20061125、 「フォワード型 DC/DC コンバータの励磁電流について」、 2006 年 11 月 25 日 (3) 平地研究室技術メモ No.20061230、「フォワード型 DC/DC コンバータの負方向の励磁電流」、 2006 年 12 月 30 日 (4) 平地研究室技術メモ No.20070106、「フォワード型 DC/DC コンバータの 2 次側を流れる励磁電 流」 、2007 年 1 月 6 日 ■ソフトスイッチングが成立する動作モード 次にアクティブクランプ方式フォワード形 DC/DC コンバータがソフトスイッチングできる場合の 動作を説明する。図4(a)に Mode5’の電流経路を再度記載する。D3 を流れている電流 ID3 は励磁電 流 Im であり、Ld を流れている電流 ILd は負荷電流である。この場合、ID3 は Ld を経て負荷にも供 給されているので励磁電流であると同時に負荷電流でもある。ILd と Im との差の電流は D4 を流れ ている。 ID4=ILd−Im 4 通常はトランスの励磁電流はなるべく小さくなるように設計するので ILd>Im であり、ID4 は正であ る。もしトランスの励磁電流が大きく、ILd<Im ならどうなるだろうか? ID4 は負にはなれず、ID3 は ILd を越えることはできない。よって、励磁電流の ILd を越える部分はトランスの 1 次側を流れる ことになる。この場合の電流経路を図4(b)に示す。1 次側の励磁電流は図4(b)に示すようにコンデ ンサ C1 の電荷を引き抜くように流れる。よって、C1 の放電が完了すれば 1 次側の励磁電流は C1 から D1 に転流し、Mode6(図2参照)に移行することができ、Q1 の ZVS ターンオンが可能となる。 よって、アクティブクランプ方式フォワード形 DC/DC コンバータの最も重要なソフトスイッチング 成立条件は「励磁電流が負荷電流より大きいこと」であると言える。その他、詳しくは、漏れインダ クタンスの影響、C1 の容量と Lm のインダクタンスの関係なども検討しなければならない。これら は今後の課題とする。 Lm C2 D2 Ld ID3 D3 ILd D4 Im Vn1 E Vn2 n1 Q1 Q2 T1 I D4 C3 Vout n2 VC1 D1 C1 (a) 通常の電流経路 Lm C2 D2 Im E Q2 Q1 T1 Ld ID3 D3 ILd D4 Vn1 Vn2 n1 I D4 C3 Vout n2 VC1 D1 C1 (b) 励磁電流が負荷電流より大きい時の電流経路 図4 Mode5’の電流経路 以上 5
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