1. VAR モデル - Math工房

Stata12 whitepapers
mwp-084
多変量時系列分析
Stata には多変量時系列データを分析するための機能として var, vec 等のコマンドが用意されています。そ
れぞれの機能/用法については別に whitepaper を用意していますが(mwp-004 , mwp-063 , 等)、前提となる
基本的事項については別途整理しておいた方が良いと考え、本 whitepaper を作成しました。なお、arima,
arch 等の単変量時系列分析機能に関する同様のイントロについては mwp-083 をご参照ください。
1. VAR モデル
2. イノベーション会計
3. 構造型 VAR
4. VEC モデル
補足1
1. VAR モデル
(1) 多変量時系列
単変量の場合には {yt } という 1 つの変数に関する時系列を分析の対象としましたが、多変量の場合には
yt = (y1t , y2t , . . . , ynt )′ で表されるベクトルが考察対象となり、その確率過程は
{yt } = {. . . , y−1 , y0 , y1 , . . .}
(1)
として定義されます。このような {yt } に対する定常性(より厳密には弱定常性または共分散定常性)は次の
ように定義されます。
(i) 平均 E(yt ) を µ としたとき、ベクトル µ がすべての t に対して一定である。
(ii) 分散共分散行列 V (yt ) = E[(yt − µ)(yt − µ)′ ] がすべての t に対して一定である。
(iii) 自己共分散行列 Cov(yt , yt−s ) = E[(yt − µ)(yt−s − µ)′ ] が t には依存せず、時点の差である s(s > 0)
のみに依存する。
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一部 ⃝
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(2) VAR モデル
ベクトル自己回帰モデル (VAR: vector autoregression model) は単変量の AR(p) モデルの延長として、一般
的に次のように表現されます。
p
Ai yt−i + ut
yt = A0 +
(2)
i=1
ここに A0 は定数項を表す n × 1 の列ベクトル、Ai (i = 1, 2, . . . , p) は係数を表す n × n の行列、ut は擾乱を
表す n × 1 の列ベクトルです。なお、ut に対しては次の性質を仮定します。
E(ut ) = 0
V (ut ) =
(3a)
E(ut u′t )
E(ut ut−s ) = 0,
=Σ
(3b)
for s > 0
(3c)
この中で Σ は対角行列とは限らない点に注意してください。すなわち同時点の誤差項間における相関の存在
が許容されているわけです。モデル式 (2) の場合には過去 p 期の値に依存した形になっているため、VAR(p)
モデルと表記されます。
定常性の条件: VAR(p) モデル (2) の定常性の条件は
p
In −
Ai z i
=0
(4)
i=1
の根の絶対値がすべて 1 より大きいことである。ただし | | は行列式を意味する。
(3) VAR モデルの推定
(2) 式に示されるような VAR モデルの各方程式は誤差項の相関を通じて関係しています。このようなモデル
は見かけ上無関係な回帰 (SUR: seemingly unrelated regression) モデルと呼ばれます。一般的に SUR モデ
ルに対して有効な推定を行うためには、誤差項の相関を考慮する必要があるため、すべての回帰式を同時に推
定しなくてはなりません。しかし VAR モデルの場合にはすべての回帰式が同一の説明変数を持つという特殊
性が備わっています。この条件のもとでは、各方程式に対し個別に OLS を適用することによって得られる係
数の推定値が最良線形不偏推定量 (BLUE: best linear unbiased estimator) となることが知られています。
VAR モデルの推定には通常 var コマンドが使用されます*1 。仕様の詳細や用例については [TS] var (mwp004 ) をご参照ください。なお、var コマンドの実行に際してはラグ次数 p を指定する必要があります。そこ
でどのような値を選択したら良いかが問題となるわけですが、Stata には次数選択を支援する preestimation
機能が varsoc コマンドとして用意されています。[TS] varsoc (mwp-057 ) をご参照ください。
*1
後述するインパルス応答解析等の機能まで包含し、VAR の機能をより使いやすくしたコマンド varbasic も用意されています。
[TS] varbasic (mwp-005 ) をご参照ください。
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2. イノベーション会計
VAR や VEC モデルがフィットされた段階で、そのモデルがショックに対してどう反応するかを調べる動学的
分析手法はイノベーション会計 (innovation accounting) と呼ばれます。インパルス応答関数 (IRF: impulse
response function) や予測誤差分散分解 (FEVD: forecast-error variance decomposition) による分析手法が
その代表的なものです。
評価版では割愛しています。
3. 構造型 VAR
評価版では割愛しています。
4. VEC モデル
(1) 共和分とは
xt と yt が 1 次の和分過程 I(1) であるときに、それらの線形結合 β1 xt + β2 yt が定常過程 I(0) となる関係が成
立するのであれば、xt と yt とは共和分の関係にある (cointegrated) と言います。またベクトル β = (β1 , β2 )′
を共和分ベクトル (cointegrating vector) と呼びます。
ベクトル誤差修正モデル (VECM: vector error correction model) は経済変数間に何らかの長期的均衡が存
在する場合の分析手法として用いられます。
(2) 誤差修正メカニズム
まず、次のような n 変量の VAR(p) モデルについて考えます。
p
Ai yt−i + ut
yt = A0 +
(22)
i=1
ただし {yt } を構成するすべての変数 y1t , y2t , . . . , ynt は I(1) 過程に従う非定常系列である点に注意してくだ
さい。このモデルを扱う上では第 1 階差を取ることがポイントとなります。詳細は補足1を参照いただくとし
て、(22) 式は次のように変形できます。
p−1
∆yt = A0 + Πyt−1 +
Γi ∆yt−i + ut
(23)
i=1
ただし Π =
p
i=1
Ai − I n , Γ i = −
p
j=i+1
Aj です。この (23) 式で重要な点は、左辺、及び右辺の Πyt−1
という項以外は定常であるという点です。このことから Πyt−1 も定常でなくてはならないという帰結が導か
れます。そのためには次のいずれかの条件が成立する必要があります。
Case 1: Π = 0、すなわち
p
i=1
Ai = In となること。
たまたまこのような条件が満たされるのであれば、(23) 式は VAR のモデル式となるため、{∆yt } について
VAR をフィットさせれば良いことになります。この場合、{yt } は共和分の関係にはありません。
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Case 2: Πyt−1 というベクトルの各成分が定常であること。
これは変数 y1t , y2t , . . . , ynt 間の線形結合(1 つとは限らない)が定常であること、すなわち共和分関係の存
在を意味するものです。この場合、Π は αβ ′ のように表現できることが知られています。すなわち (23) 式は
p−1
′
Γi ∆yt−i + ut
∆yt = A0 + αβ yt−1 +
(24)
i=1
のようになります。ただし α, β は共に n × r の行列であり、r は Π のランクを意味します。β ′ は r 組の共和
分ベクトルを表し、β ′ yt−1 によって r 個の線形結合式、すなわち誤差修正項 (error correction term) が規定
されることになります。一方、α は調整係数ベクトル (adjustment coefficient vector) と呼ばれます。
(24) 式は VECM の基本式です。変数間に共和分の関係が存在する場合にモデルが (24) 式のような形で表現
できることをグランジャーの表現定理 (Granger’s representation theorem) と言います。
(3) 共和分ランクの検定
評価版では割愛しています。
(4) VEC モデルの推定
評価版では割愛しています。
補足1 – VEC モデル式の誘導
評価版では割愛しています。
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