Technical Report Vol14-No.1 (通刊23号 - くまもと産業支援財団

電応研テクニカルレポート
Vol.14 No.1 November, 2004
Ser.No.
23
〔表紙説明〕
アレイセンサシステム センサ部(正面)
本文 P.15 ∼ 19
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□ 巻頭言
「木と森と」
:鶴島稔夫(電応研所長) ………………………………………………………………………4
──────────────────────────────────────────────
□ 研究論文
IT活用型意思伝達支援システムの開発 ………………………………………………………………………6
上妻健一郎,権藤常人,清家英明
生活活動度計(A
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)の商品化に向けた機能改善 ……………………………………………………1
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坂田俊一,野尻晋一,永田正伸
M
系列変調を用いる超音波アレイセンサシステム ………………………………………………………1
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椛 一喜,山口 晃生
キャビテーション噴流を利用した洗浄装置の開発 ………………………………………………………2
0
縄田 豊,田中禎一,古嶋 薫,西 誠治,大友 篤,永田正伸
超精密 X
Yステージ軽量化のための構造解析 ……………………………………………………………2
8
東町高雄,石井 守,小坂光二
□ 事例報告
双方向情報配信の通信基盤の調査・実験 …………………………………………………………………4
0
岡田辰也
□ 英文抄録 ………………………………………………………………………………………………………4
4
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□ 記録 ……………………………………………………………………………………………………………4
6
・ 学会等講演一覧
・ 知的財産権出願一覧
・ 技術移転一覧
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(財)くまもとテクノ産業財団 研究理事
電子応用機械技術研究所 所 長
鶴島 稔夫
「木を見て森を見ず」ということが言われる。部分にとらわれ過ぎて全体の的確な把握を欠くといった体験
は、きっと誰もが持っている。その逆の体験も少なからずありそうに思われる。全体の中の個々の要素や部
分がもたらす現象が、全体の姿とはかけ離れた様態を見せる、といった類の体験である。
部分と全体との対比とでも言える状況は、科学や技術の領域でも様々な形で姿を見せる。むしろ科学や技
術の本質の一面をなしていると言ってもよい。
今年の夏は、早くから幾つもの台風に見舞われた。各地で土砂崩れや水害が相次ぎ、直接大きな被害を被
られた方々も少なくなかった。浅間山の噴火も話題を提供した。また、この稿の脱稿に前後して、新潟県中
越地震による災害の状況が繰り返し伝えられている。
気象予報や防災に関する科学や技術の進歩は、一面で文字通り日進月歩である。しかし、こうした自然現
象を正確に予測したり、それがもたらす被害を完全に回避するといった状況から、現実はまだ遙かに遠いの
も事実である。
台風も噴火も地震も、自然現象である以上自然科学の対象であり、それがもたらす被害の回避や軽減とい
った課題が技術開発の対象になることは言うまでもない。問題は、一つ一つの台風や、噴火、地震などが、
どれをとっても全く同じ状態では二度と起こらないという点にある。再現性の乏しい現象に対して、科学や
技術は時として無力に近い。「火星へ行ける日が来ても、テレビ塔の天辺から落ちる紙の行方を知ることは
出来ない」1)という指摘は、私たちがほとんど直感的に理解する事実かも知れない。
電線や半導体の中を電流が流れているとき、電線の両端や半導体に取り付けた二つの電極の間に電子が流
れている、ということは大方の人が理解している基礎知識である。二つの電極の間に同じ値の電圧を加えれ
ば、何時も同じ値の電流が流れる。大きな電圧を加えれば、電流は沢山流れるし、小さな電圧では少ししか
流れない。オームの法則と呼ばれる物理学の基礎的な法則のもとになっている現象である。
ところで、例えば大学に入って、物理学や電子工学を少し体系的に勉強するようになると、オームの法則
で表されるような大変再現性の良い現象が、実は一つとして全く同じ経路をたどることは無いような、多数
の電子の流れがもたらす現象だということを知ることになる。個々の台風や地震、噴火などが、どれ一つと
して全く同じ状態では二度と起こらないのと同様に、電線や半導体の中で、寸分違わぬ動き方をする電子は、
まず二つと無いのである。
個々の電子の動きや経路を決めている背景を考えることも、勿論、科学や技術が取り扱う対象である。電
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線や半導体の中を流れる電子の動きを決める要因の一つは、それらを形作っている銅やシリコンといった物
質の中で、その銅やシリコンの原子一つ一つが、その時の温度に応じて不規則に振動しているという事実で
ある。流れている電子は、不規則に振動している原子に衝突して経路を妨げられ、その都度、速度や流れの
方向を不規則に変えることを繰り返しながら、高い電圧が与えられた電極に向かって移動してゆく、という
のが大凡の姿である。台風の規模や経路を決める要因として、発生時の海域やその移動経路に沿った海水の
温度、気圧配置、その他の気象条件が複雑に絡み合いながら、それらの条件は千差万別で、その絡み合いも
また千変万化である、といった状況と通じるところが少なくない。
このように、自然科学やそれを基礎にした技術開発の過程で扱う現象は、個々の現象としては、どれをと
っても、二度と全く同じ状態では起こらないと言って過言でない。科学や技術がとる通常の手法は、個々の
現象に共通する特徴的な性質を抜き出して、多くの場合それらを定量化し、一般化しながら、体系的な概念
や法則を作り上げてゆく、といったやり方である。この過程では、しばしば統計的な考え方や処理が取り入
れられる。そうして得られた概念や法則は、当然の結果として、個々の現象そのものを細部にわたって一つ
一つ言い当てることは出来ない。
しかしその一方で、個々の現象がどのような背景のもとにその姿を見せるに至ったかを理解し、その結果
が、個々の現象に共通する特徴や法則とどのように関わるのかを明確にするのも、科学や技術開発の過程で
取り扱う重要な部分である。
全体の中の個々の要素と、それが全体とどのように関わるのかを考える、これは、いわば「木を見て森を
見る」ことにほかならない。
本年8月末、かねて準備が進められて来た熊本セミコンダクタ・フォレスト構想を実行に移す県の推進本
部と、その実行母体となる民間の推進会議の立ち上げがはかられた。構想は、その目指すところを全体とし
て示したもので、
「森の形成」に関する大枠の方向付けを試みたものと理解される。森を形成する個々の樹木
を育てたり、花を咲かせたり、果実を収穫したりする個別の方法に立ち入るときには、大枠の方向付けとは
少しずつ、時には大幅に、異なる姿をみせる現場の実体が、一つ一つ問題として現れてくる筈である。
構想の成功には、その目標を達成する前提として、地域の企業が、それぞれの企業理念に基づく独自の戦
略に沿った発展の機会を、等しく得られる仕組みを作ると同時に、地域産業の全体構造と個々の企業との間
に、地域のための一企業、一企業のための地域、といった個と全体との均衡関係とでも言える意識を共有す
ることが欠かせないだろう。
木と森と、文字通りフォレスト構想の成否を左右するキーワードに違いない。
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)中谷 宇吉郎 著「科学の方法」、岩波新書 G
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これまでに開発してきた「肢体不自由者用インターネットアクセス支援システム」の技術を応用して新しい意思
伝達支援システムを開発した。これは肢体不自由者がスイッチ 1 個あるいは 1 キーのみで文字入力やメッセージの
交換ができるシステムである。特徴はユーザの操作ごとにインターネット上のサーバが実行プログラムを逐次生
成・配信するため、ウェブブラウザのみで利用できることと、ユーザによるシステムの保守が不要なことである。
キーワード:アクセシビリティ、肢体不自由者、ウェブアプリケーション、インターネット、スイッチ、1 キー、オー
トスキャン、コミュニケーションエイド、意思伝達支援システム
1.はじめに
従来より肢体不自由者のための意思伝達装置あるいはコ
ミュニケーションエイドと呼ばれるシステムが存在する。瞬
きや頷きなどの限られた動作により意思表示を行なうシステ
ムであるが、主に専用装置あるいはパソコンベースのシステ
ムに分類される。
専用装置は機能の発展性に乏しく、パソコンベースのシス
テムは安定性に欠け、導入・設定・操作に高度な知識を必要
とする。また、両者とも初期費用が高いという問題がある。
これらの問題を解決するため、平成 12 ∼ 13 年度に「肢体不
自由者用インターネットアクセス支援システム」(1)(2)のため
に開発したオートスキャンプログラムの逐次生成 • 配信技術
を応用して、スイッチ 1 個で文字入力が可能となるシステム
を開発した。
これにより肢体不自由者は人手を借りずに周囲の人間に文
字で意志を伝えたり、メールや電子掲示板などを通じて外部
とのコミュニケーションも可能となる。
短所: 導入・設定が難解。不安定。
パソコン OS の資源を利用するため、動作が不安
定。導入や設定には OS、支援技術双方の知識が必
要なため、周囲の十分なサポートなしでは挫折する
ケースが多い。
2)専用装置
長所: 操作が単純明快。安定している。
機能とボタン • スイッチが 1 対 1 対応していて分
かりやすい。
機能数に比例してソフトウエアのコードが小さい
ため安定している。
短所: 機能が限定。インターネット利用不可。
使い慣れてからの機能要求に対応できない。
現状でインターネット対応の機器はない。
2.従来のシステム
3.本システムの特徴
従来の意思伝達支援装置あるいはコミュニケーションエイ
ドを2種類に分類し、その長短について述べる。
ウェブアプリケーション(ウェブサーバで動作するアプリ
ケーション)とすることでパソコンベースのシステムと専用
装置の長所をバランス良く取り入れ、主に下記の3つの特徴
を揃えた。
1)導入 • 設定・操作が容易
2)機種・OS に依存したトラブルが少ない
3)ウェブアプリケーション(ウェブメール、BBS、検索
エンジン等)利用による機能拡張が可能
ただし、OS に依存しないことの代償として、仮名漢字変換
システムを利用できないという制約は避けられず、代替手段
として 50 音入力による単漢字変換機能(後述)を独自に実装
した。
1)パソコンベースのシステム
長所: 汎用性がある。インターネット利用可能。
ソフトにより機能の変更・拡張が可能なため、障
害の内容・度合いによって最適化が可能である。パ
ソコンのインターネット通信機能を利用して外界と
コミュニケーションできる。
───────────────────────────
*
1(財)くまもとテクノ産業財団 電子応用機械技術研究所
研究開発グループ 主任研究員
*
2 株式会社エクサデータ 代表取締役社長
*
3 株式会社テクノロジテック 代表取締役社長
4.文字入力方式
本システムにおける文字入力は基本的にオートスキャン方
式を用いる。オートスキャンでウェブページの文字入力
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フォームを選択すると、文字入力用の別ウインドウを開き、
文字盤から選択した文字列を並べた上で、ソフトキーボード
上の「決定」キーを選択すると所定のフォームに一括コピー
される。
ウェブブラウザで動作する
親ページ
文字入力ウィンドゥ
×××のホームページ
・・・・・・・・・・・
熊本県と
入力バッファ
1文字ずつ入力
熊本県と
一
括
コ
ピ
ー
入力フォーム
・・・・・・・・・・・
入力フォーム
あいうえおかきくけこ
さしすせそたちつてと
・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・
ソフトキーボード
図1 親ページと文字入力ウインドゥの関係
文字入力用のウインドウは 50 音による単漢字変換、ひらが
な、カタカナ、英数字(大文字・小文字)
、記号、定型文の
7つの入力モードに応じ 6 種類の文字盤を表示する。モード
の選択は1∼2行目のキーを選択することで行なう(図2∼
図7)。
図2 アルファベット(大文字)
図3 アルファベット(小文字)
図4 ひらがなキー
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図5 カタカナキー
図7 記号キー
文字入力ウインドウ上部のフォームは文字列を並べるた
めのバッファとなっており、カーソル移動や BackSpace、
CLR(フォーム内消去)による編集が可能である。
文字盤 1 行目右端には決定キーがあり、これを選択するこ
とで上部フォーム内の文字列をウェブサイト内の所定
フォームにコピーする。
漢字を入力する場合、まず表示されるひらがな文字盤より
漢字の音読みの先頭文字に相当するひらがなを選択する。
すると図6のような漢字の文字盤が現れるので、この中から
漢字を選択する。
文字盤に表示される漢字は当用漢字の範囲に限定される。
これは日常のコミュニケーションにおいて意志の疎通がは
かれることを目標としているためで、該当漢字がない場合、
ひらがなやカタカナで代替しても問題ないと考えている。
むしろ漢字の選択肢が増えて、使い勝手が悪くなることの弊
害を怖れた。
5.課題と展望
図6 漢字キー(読みが「し」で始まる文字盤)
検索フォームへ入力した場合、検索結果の表示にトリッ
キーな技術を用いているサイトで、うまく結果表示ができな
いことがある。しかし、これはサイト側のアクセシビリティ
の問題であり、今年勧告された JIS X 8341-3 のガイドライ
ン (3) に沿ったサイトが増えるに連れ、解決すると考えている。
漢字文字盤については現状の当用漢字のみに加えてユー
ザに応じたレベル設定ができるようにしたい。例えば、小学
校1∼6年・中学校1∼3年、高校1∼3年履修程度に区分
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した文字盤を用意したい。これにより養護学校等での教育
に役立てることができる。他に需要があれば、第一水準・第
二水準準拠の文字盤も用意したい。
定型文字列の文字盤を複数切り替えることで、入力の効率
を向上させたい。また、編集可能なパーソナル文字盤も実現
できると考えている。操作性を損なわない範囲で機能向上
を計ることを肝に銘じて開発を進めたい。
執筆者紹介 上妻 健一郎 Kenichiro Kozuma
昭和 60 年熊本大学工学部生産機械工学科卒業
専門分野:支援技術
ヒューマンインターフェース
ブロードバンドネットワーク
E-mail: [email protected]
6.おわりに
ウェブサイトのフォームに1スイッチで文字列を書き込
める文字入力システムを開発した。
これにより肢体不自由者が周囲の人間とコミュニケー
ションをはかるのを助けたり、インターネットを通じて社会
参加を促すことができる。
本システムは「肢体不自由者用インターネットアクセス支
援システム」と同じくウェブアプリケーションとして動作す
るため、導入・設定・操作が容易な上、安定動作が期待でき
るシステムとなった。下記の試験公開ウェブサイト (4) で動
作を試すことができるので、お試しの上、ご意見を頂きたい。
事前調査の段階で日本 ALS 協会熊本支部 笠 肇氏、ア
メックス熊本株式会社 中村顕吾氏には現場の切実なニー
ズをご教示頂き、それが本システム開発の動機付けになった。
ここに深く感謝したい。
権藤 常人 Tsuneto Gondo
昭和 54 年福岡大学経済学部経済学科卒業
専門分野:情報技術全般
E-mail: [email protected]
清家 英明 Hideaki Seike
昭和 63 年九州東海大学工学部経営工学科中退
専門分野:プログラミング
E-mail: [email protected]
参考文献
(1)上妻健一郎、権藤常人、古賀靖、清家英明:電応研テ
ク ニ カ ル レ ポ ー ト Vol.11-No.1, Ser.No.20 (2001)
PP.51-54「肢体不自由者用インターネットアクセス支
援システムの開発」
http://www.kmt-ti.or.jp/labo/pdf/tecrepo20.pdf
(2)上妻健一郎、権藤常人、古賀靖、清家英明:電応研テ
クニカルレポート Vol.12-No.1, Ser.No.21 (2002)PP.69「アクセシブルなポータルサイト構築支援システム
の 開 発」 http://www.kmt-ti.or.jp/labo/pdf/tecrepo21.pdf
(3)規格詳細情報(JIS)
規格番号 JIS X 8341-3:2004
標題 高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信におけ
る機器,ソフトウェア及びサービス−第3部:ウェブ
コンテンツ
原案作成団体 財団法人 日本規格協会 http://www.webstore.jsa.or.jp/webstore/Com/FlowControl.
jsp?lang=jp&bunsyoId=JIS+X+83413%3A2004&dantaiCd=JIS&status=1&pageNo=0
(4)「肢体不自由者用インターネットアクセス支援システ
ム」試験公開サーバ
http://enabler.systemsoft.co.jp/
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リハビリテーションの現場において、被験者の日常の活動状況(臥位、座位、立位、歩行、車椅子駆動)を客観
的かつ定量的な評価が可能な生活活動度計(A- MES)の商品化を推進するために、評価ソフトウェア及びデー
タロガーの機能改善を行った。評価ソフトウェアについては、個別解析機能の充実、経時解析機能の追加、データ
ロガーについては小型化と長時間計測への対応を実現した。
キーワード:姿勢計測、動作計測、寝たきり度、ADL、介護、リハビリテーション
1.はじめに
リハビリテーションの質の向上に資するために、平成 12
年度より介護老人保健施設 清雅苑と共同で生活活動度計を
開発している (1)。医療や福祉の現場における治療方法の検
討やリハビリテーションのプログラム作成、さらに介護の必
要性の判断において、特に重要となっている被験者の生活活
動度(日常の活動状況)の把握を定量的、自動的に行う。本
装置によって、従来から実施されている問診の不正確さ、ま
た直接観察における観察者、被験者双方の身体的、精神的負
担に対する問題を克服することが可能となる。
プロトタイプ 1 号機における課題として(1)評価精度の
検証と評価方式の改善、
(2)長時間計測の実現、
(3)デー
タロガーの小型化、
(4)装着性、操作性の向上、
(5)デー
タ処理速度の向上を挙げた。今回、清雅苑でのフィールドテ
ストにおける現場スタッフからの改善要望を踏まえ、これら
課題点を解決するために評価ソフトウェア及データロガー
の機能改善を実施した。
2.2 被験者のプライバシーを守ること
被験者とその家族のプライバシーに関して最大限の配慮
を行い、精神的抑圧感、拘束感を排除する。具体的には、ビ
デオカメラ等による映像観察ではなく、センサを被験者の身
体に直接装着することで観察者を無くした被験者独自での
計測を実現する。また、日常生活の様々な場面において被験
者の動作を阻害しないように留意し、また装着感の向上を図
る。
2.3 計測、評価の負荷軽減を図ること
計測作業の負荷軽減のために、計測作業の自動化と操作方
法の簡便化を図る。また、評価に関してはデータ処理方式を
確定の上ソフトウェア化を図る。ソフトウェアはパソコン
上で稼動するものとし、データロガーより計測データを一括
して取り込み、自動的に処理を行うようにする。必要に応じ
て処理のための各種条件設定も可能とする。
3.評価ソフトウェアの機能改善
2.開発の目的
本開発の目的は以下の三点に絞られる。
2.1 客観的かつ定量的な計測を実現すること
被験者の日常生活における活動状況をデジタルデータと
して収集、分析し、定められた評価項目(臥位、座位、立位、
歩行、車椅子駆動)に従って定量的評価が可能な手段を実現
する。具体的には、計測期間内における各評価項目の発生時
刻及び時間が判定可能な計測装置を開発する。
───────────────────────────
*
1(財)くまもとテクノ産業財団
電子応用機械技術研究所 研究開発グループ主任研究員
*
2 医療法人社団寿量会 老人保険施設 清雅苑 副施設長・センター長
*
3 熊本電波工業高等専門学校
電子制御工学科 助教授
3.1 個別解析機能の拡充
一回分の計測データの解析を総じて個別解析と称してい
るが、これまで実現していた測定開始時刻からの時系列での
評価機能をもとに以下の解析機能を追加した。
(1)総時間・最大連続時間表示
評価項目毎、及び臥位の各姿勢(背臥位、右側臥位、腹臥
位、左側臥位)毎の総時間及び最大連続時間を表示する。
総時間は一日の内での活動状態を把握する重要な指標で
ある。寝て過ごす時間がどれくらいあるか、離床はできてい
るか、移動はどれくらいの時間行っているか、などリハビリ
テーションやケアプログラムの効果判定や新たなリハビリ
テーションプログラムやケアプラン作成時に有用な指標と
なる。連続時間は同じ姿勢が長く継続する場合は、褥創や変
形の危険度や運動負荷の状態などの指標となる。表示例を
図1に示す。この例は2
4時間連続計測を行ったもので、画
面左側に各姿勢の総時間及び最大連続時間値、画面右側に総
時間において各姿勢の占める割合を円グラフで示している。
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での評価項目の占める割合とその時間を表
示している。
図1 総時間・最大連続時間表示
(2)姿勢遷移回数表示
評価項目間、及び臥位での各姿勢間の遷移回数を表示する。
座位、立位間の変化では一日行われる立ち座りの回数を把握
し、また立位、歩行から臥位への回数は、危険な寝方(倒れ
こむように床に入る場合など)あるいは転倒があった時間や
状況を知る一助となる。
臥位姿勢変化では、特に寝返りの回数や同一臥位の持続時
間は褥瘡の管理と密接な関連があるため、臨床上非常に有用
な指標となる。表示例を図2に示す。
図2 姿勢遷移回数
(3)時間帯毎比率分布表示
時間帯(1時間刻み)毎に各解析結果の総時間に占める割
合の表示を行う。大まかな一日の生活状況を視覚的に捉え
ることが可能である。表示例を図3に示す。この例は2
4時
間連続計測を行った例で、グラフ横軸は計測した時間帯(1
時間刻み)
、縦軸は時間(単位は分)を示しており各時間帯
3.2 経時解析の追加
経時解析は個別解析結果をもとにして、被
験者個々について経時変化を捉えることを
目的に行う。解析にあたっては、解析対象と
なる個別解析結果を選択する。
(1)総時間・最大連続時間の経時変化表示
総時間及び最大連続時間についての経時
変化を表示する。リハビリテーションやケ
アプログラムの変化に伴う活動状態の効果
判定や生活環境の違いによる変化、あるいは、
急性期、回復期、維持期の各ステージにおけ
る活動量の経時的変化の指標として有用で
ある。表示例を図4、図5に示す。この例は
1週間間隔で行った計測を経時解析したも
ので、画面上部に各姿勢の時間割合、画面下
部に各姿勢の時間値を表示している。
(2)姿勢遷移回数の経時変化表示
各姿勢遷移回数の経時変化を表示する。回数の変化から
活動状態の向上度合いと、それに伴うリスク状況の変化を把
握する指標となる。表示例を図6に示す。
(3)寝返り回数の経時変化表示
寝返り回数の経時変化を表示する。褥瘡の治癒過程に伴
いどう変化するのか、あるいは変化していないことを確認す
ることで、マットレスのタイプや、他の治療、ケアプログラ
ムなどの効果判定に使用する。表示例を図7に示す。
3.3 評価精度の向上
(1)Y軸空間交角の判定ルールへの追加
臥位、座位、立位の姿勢判別はセンサ各軸の重力方向成分
を個別に取得し判定を行ってきたが、新たに体幹部と大腿部
の相対関係を算出し判定ルールに追加した。具体的にはセ
ンサ座標系における体幹部Y軸及び大腿部Y軸間(図8 セ
ンサ座標系を参照)の空間交角を求める演算部を作成し、演
算結果を姿勢判定ルールに追加した。結果、特に臥位判別に
おいて体幹部と大腿部の大きな捩れに起因する判定ミスが
大幅に減少し評価精度が向上した。
(2)周期運動の判別
エアロバイク等における自転車漕ぎ運動を伴うリハビリ
テーションの場合、大腿が深く折れ曲がる場合に座位と判定
してしまい、結果立位と座位間の遷移回数において実態と乖
離してしまう不具合が発生していた。これに対処するため
に、姿勢遷移の時間間隔が指定周期以下の遷移を周期運動と
して数え、周期運動回数として表示を行う機能を追加した。
被験者の活動レベルに応じて周期指定値の変更が可能であ
る。
3.4 計測データ・解析結果の管理機能追加
(1)個人別データ管理
計測データ及び解析結果について、被験者毎の個別管理を
可能にした。先ず被験者はA- MESの使用にあたってフェ
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図3 時間帯毎比率分布
図4 総時間の経時変化
図5 最大時間の経時変化
図6 姿勢遷移回数の経時変化
図7 寝返り回数の経時変化
イスシートの登録を行う。被験者の属性をフェイスシート
に入力し、個人別に管理を行う。図9に登録例を示す。項目
名及び項目毎の入力形式(キイ入力方式または選択方式)は
容易にカスタマイズ可能である。
データ管理方法として、被験者毎に個人コードを採番した
のち、計測日時別のフォルダを自動生成し当該フォルダ内に
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計測データ及び解析結果一式を格納する。フォルダ構成及
びフォルダ生成規則をユーザに公開することで、ユーザ自身
によるデータメインテナンスが自由に行えるよう考慮して
いる。
(2)表計算ソフト Excel へのエキスポート
A- MESでの解析結果を表計算ソフト Excel へエキス
ポートする機能を追加した。上記個別解析結果、及び経時解
析結果におけるグラフィック、及びテキスト情報を Excel の
シート上に個別に抽出する。各種報告書作成において素材
として利用できる他、Excel の集計、解析機能を用いることで
解析データの加工、編集、解析が独自に可能になる。
(3)個別計測デー
タの合成
デ ー タ ロ ガ ー の
仕様により計測の
開始から終了まで
(ロ ガ ー 側 ス イ ッ
チが“RUN”状態の
間)を1ブロックと
して扱い、評価ソフ
ト上ではこの1ブ
ロックが個別解析
の 単 位 と な る。
従って、入浴時に一
時計測を中断する
場合やスイッチの
誤操作でOFFに
してしまった場合
図8 センサ座標系
等、計測が分断し評
価ソフト上では別解析となってしまう不具合があった。分
断された解析結果を合成処理する機能を付加することで連
続的な解析評価が可能となる。
3.5 処理速度の向上
評 価 ソ フ
トウェアで
の解析処理
の速度向上
の た め に、
内部処理に
おける中間
結果のファ
イル保存部
及び画面表
示部の大幅
見直しを実
施 し た。記
憶媒体に保
存すべき情
報と画面情
報として表
示すべき内
図9 フェイスシート登録例
容の再検討
を行い不要な部分について削減した結果、コンピュータ資源
の使用効率が向上し処理時間の半減化が達成できた。特に
長時間計測データの処理におけるストレスが緩和された。
4.データロガーの機能改善
4.1 改善要望と基本仕様について
データロガーは腰部のポシェットに収納して使用するが、
特に就寝時の寝返り時に違和感があるために、その小型・軽
量化について現場スタッフからの強い要望があった。また、
被験者が自ら操作を行う場合を想定し容易でかつ誤操作を
排除できる操作性を実現すること、従来最大9時間であった
計測時間を拡大し2
4時間以上の長時間計測へ対応すること
が要望事項として挙がっていた。
今回、以上の改善要望を実現すべく、データロガーの新規
設計製作を前提として必要機能を検討し、基本仕様を策定し
た。表1にデータロガー基本仕様、表2に基本機能を示す。
表1 データロガー基本仕様
項 目
内 容
記録データ
サンプリング時刻+ 6 軸データ(0 ∼
4096 の A/D 変換値)+計測時刻(24 時
表記)
A/D 分解能
0 ∼ 5V:12 ビット
サンプリングタイム
0.2sec 固定
記録時間
24 時間以上
電源(センサ を含む)
電池駆動(充電式単 3 電池 1 本)
サイズ
85mm × 75mm × 25mm 以下
筐体製作方法
簡易金型
メモリ
フラッシュメモリ
その他
スイッチと LED は同一端面に配置するこ
と(75 × 25 端面側)。ケーブル接続用コ
ネクターは堅牢に設置すること。
表2 データロガー基本機能
項 目
内 容
スイッチ操作
電源 OFF /電源 ON / RUN の三段切り
替え。スライド式を採用
LED 表示
・電源 OFF 位置:乾電池入替え時は点滅、
通常時は常時消灯
・電源 ON 位置 : 常時点灯
・RUN 位置:正常時は 1 秒に一回点灯、
電池電圧低下時は3秒に一回点灯、メ
モリー残量減少時は06
. 秒に一回点灯
パソコンとのインタ
フェース
ケーブル接続(RS232C)
日時設定
パソコンから指示
データ消去
パソコンから指示
中断・再開処理
・RUN 位置→電源 ON 位置で中断
・電源 ON 位置→ RUN 位置で再開(再
開時は記録データの末尾より追加記録
する)
メモリ保存
2sec 毎にメモリへ保存
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5.今後の課題
5.1 加速度センサの小型化
現行センササイズ(27.2mm × 27.2mm × 19.8mm)、重量
(23 g)を大幅に小型軽量化すべくA- MESの要求仕様を
満たすセンサについて市場調査を継続中である。小型軽量
化によって現在コルセット、サポータによる装着方法から、
被験者の身体へ直接貼付するような全く違った方式への移
行も可能となり、被験者の身体的負担の軽減化とセンサ姿勢
保持の格段の安定化につながると期待できる。
執筆者紹介 5.2 センサとデータロガー間の無線化
センサとデータロガー間のコードが計測中に身体と絡
まってしまい最悪の場合断線してしまう事態が発生してい
る。コードが存在すること自体が身体的負担を増加させて
いることも否めない。
無線化へ移行する場合データロガーを身体から離して別
置きにするのか否か、またリアルタイム処理によるモニター
機能を実現するのか否か、その必要性も含めて検討を行う必
要がある。
坂田 俊一 Shunichi SAKATA
昭和 54 年九州大学工学部機械工学科卒業
専門分野:CAD/CAM/CAT
製造分野システム開発
福祉機器開発
E-mail :[email protected]
野尻 晋一 Shinichi NOJIRI
昭和 57 年九州リハビリテーション大学校卒業。
理学療法士、介護支援専門員
平成 8 年訪問リハセンター清雅苑センター長
平成 11 年老人保健施設 清雅苑 副施設長
全国訪問リハビリテーション研究会理事。
E-mail:[email protected]
6.終わりに
プロトタイプ1号機における課題およびその後のフィー
ルドテストで挙がった課題に対処するために評価ソフト
ウェア及びデータロガーの機能改善を実施した。評価ソフ
トウェアについては導入施設での実際の運用を意識してリ
ハビリテーションの質の向上に貢献するための機能を厳選
して実装した。また、データロガーについては必要機能を明
確化し絞り込むことで、小型化と電池長寿命化を実現した。
これにより、A- MESの商品価値がさらに高められるもの
と期待する。
永田 正伸 Masanobu NAGATA
昭和 60 年熊本大学大学院工学研究科機械工学
専攻修了。博士(工学)
平成 15 年 熊本電波工業高等専門学校電子制
御工学科助教授
専門分野:自動制御、シーケンス制御
ロボット制御
学会:計測自動制御学会、日本機械学会各会員
E-mail :[email protected]
参考文献
(1)坂田俊一、永田正伸、野尻晋一:電応研テクニカルレ
ポート Vol.12 No.1(2002),pp.19-25.
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M系列変調を用いる超音波アレイセンサシステム
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本論文では、超音波送波子をアレイに配置したセンサに対して、各送波子への送信信号の位相を制御して、超音
波ビームを形成するデジタルビームフォーミング(DBF)による送信信号をM系列信号で変調した超音波を用いる
超音波センサシステムについて述べる。超音波センサシステムは、M系列信号によって変調された送信信号と、そ
の送信波が反射して戻った受信信号との相互相関関数のピークを求めるシステムである。本方法の実験結果は、
耐雑音性を有する事と、超音波アレイセンサによるデジタルビームフォーミング(DBF)技術が有効であることを
示している。この計測システムは、視覚を補完するセンサとして応用可能なシステムである。
キーワード : デジタルビームフォーミング、超音波アレイ送波子、M系列変調、相互相関関数
1.はじめに
日本における超音波計測は、1948 年頃の魚群探知機に始ま
り、現在では金属探傷の非破壊検査や医療用として応用され
ている。それとは別に、超音波を利用して離れた物体の位置
や形状を計測することは自然界ではこうもりやイルカなど
に興味深い例が見られる。たとえば、視覚や聴覚に関して高
度な能力を持つイルカは、海面下での視界限度が 30m にも係
わらず、水中を時速 30km で進むため、視覚だけで対象物を
識別するのではなく、17Hz ∼ 250kHz 程度の音波を発しその
反射波から対象物の距離、形など瞬時に識別している。この
ことは、3次元空間における対象物を画像のみで特定するの
は困難である場合に、図1に示すような視覚を補完するため
の超音波アレイセンサを用いることとの類似点が見られる。
しかし、空中での超音波は雑音環境下に弱いことから、この
ような応用では、耐雑音性が要求されている。そこで、電子
応用機械技術研究所と熊本大学との共同研究によりM系列
を用いる耐雑音性を有する超音波アレイセンサを開発した。
従来の1送波子による超音波距離計測では、指向性が幅広
の固定ビームのために位置の特定が困難であった。それに
対し超音波アレイセンサによるデジタルビームフォーミン
グ(DBF)技術 (1) を用いる方法では、電気的な送信波ビーム
形成とビーム走査ができるので、物体の位置情報を得ること
が可能となり広範囲な応用が考えられる。
本論文では、超音波アレイセンサによるM系列変調超音
波 (2) のデジタルビームフォーミング(DBF)の原理や、電気
的な送信波ビーム形成とビーム走査による物体の位置認識
の有効性を示す。
───────────────────────────
*
1(財)くまもとテクノ産業財団
電子応用機械技術研究所研究開発グループ主任研究員
*
2 熊本大学工学部知能生産システム工学科講師
図1 超音波アレイセンサによる視覚の補完
2.超音波計測の原理
2.1計測の基本原理
超音波による距離測定の基本原理は、超音波の直進性・定
速性を利用するもので、送波子から送信されたパルス超音波
が、物体に当たって反射し、受波子で受信されるまでに要す
る時間を測定することにより距離が算出できる。
このとき問題になるのが、反射波の立ち上がりの検出方法
である。
最も簡単かつよく使われる検出方法として、予め規定した
一定レベルよりも大きくなった点を検出する方法がある。
しかし、この方法ではサンプリング周波数が低いときに、対
象物からの反射波の立ち上がりを検出することが難しく誤
差が生じやすい。また、超音波は減衰が激しいために、近距
離標的と遠距離標的との反射波の振幅に差が生じるため、こ
の方法を用いるとさらに誤差が大きくなる。その上、実際に
測定を行う際にはノイズの影響なども考えられ規定したレ
ベル以上のノイズが入った場合など誤差が生じてしまう。
そのため、今回は送信側の信号に M系列信号を用い受信側
のデータとの相互相関処理を行う。
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2.2 アレイによる超音波のビーム走査
図 2に示すように複数の素子を等間隔に並べたアレイに
ついて考える。隣接した素子間のピッチを d、素子から発生
した超音波の波長をλとする。この時、正面方向から角度θ
だけ傾いた方向に超音波ビームを偏向させる場合について
考える。隣接した素子間の超音波が進む距離の差は図2に
示すように
となるので、隣接する素子間の位相差 Φ
は
2.3 アレイ送波器の振幅強度
ここで、前述のθ方向の指向性をメインローブ(主ローブ)
とすると、角度が大きくなるにつれてメインローブとは別の
サイドローブが発生することがあるので注意が必要である。
アレイ送波器が二次元平面上の点 P(X,Z) につくる波動場の
振幅強度は、
と表すことができる。
となる。
ここで、 r は位置ベクトル、 k は波数ベクトル、 は図4
のように中心を 0, 左右に±1番目±2番目とした場合の
番目に位置する各超音波素子の位置で 、
は i 番目に位置する各超音波素子から送波される超音波の
位相である。
図 2 超音波のビーム走査と指向性
図4 アレイ型送波器
よって、図3のように隣接する素子間の位相差Φを変化させ
ることによって、超音波のビームを様々な方向へ走査するこ
とができる。
2.4 M系列とは
M系列とは Maximum length sequence の最初のMをとった
M-sequence の訳で、最大長系列または最大周期列と呼ばれ、
規則性と不規則性を合わせもつ系列であり擬似不規則系列
とも呼ばれている。M系列の特徴 3) としてはM系列の自己相
関特性が挙げられる。M系列の自己相関特性とは、一周期内
における自己相関関数
が原点においてただ唯一の
最大ピークを有する事であり、その自己相関関数を (2) 式に、
その形状を図5に示す。本研究では、この特性を利用してい
る。
図5 M系列の自己相関
図3 アレイによる超音波のビーム走査
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2.5 M系列変調
雑音に強く、複数の超音波センサを用いたときに、他の送
信波と区別するために、送信波に固有の送信パターンを与え
ることにより区別を行う。その送信パターンにM系列信号 3)
を用いた。n 次の原始多項式
から発生される周期 N のM
系列 (=0 又は 1)によりキャリア信号を図6のような方法で
変調する。
図7 M系列変調を用いた計測システム
図6 M系列変調方法
4.実験
3.相互相関の測定原理
M系列を用いた相関法による距離計測原理 1)、2) は、図7に
示すように超音波センサの素子を駆動する 40kHz のキャリア
信号を、M系列信号
で変調しバースト信号
に変換す
る。そして、その信号を送波子からM系列のパターン信号と
して送信し、それを受波子で受波し回路にて増幅・検波した
信号を
とし、受信M系列信号
に整形する。
さらに式 (3) に示す様に、キャリア信号を変調するM系列
信号と、受信信号を増幅・検波・整形して得られたM系列信
号との相互相関関数φmy(τ) を求める。
4.1 実験装置の概要
実験装置は、9素子のアレイ型送波子と2素子の受波子に
よるセンサ部とそれらを制御する回路、ワンボードコン
ピュータ及びホストコンピュータから構成される。制御器
は、M系列信号を 9 個の送波子から発生させると共に位相を
制御して超音波のビームを左右に走査させる。またこの装
置は市販品のマイコンボードコンピュータによって制御さ
れ、送波子からの送信信号と対象物からの反射波との相互相
関を計算し、ホストコンピュータで結果を表示できる。図8
に測定システムの構成図を示す。
このφmy(τ) が最大になるτの値τ 0 から受信信号が、送信信
号よりどの程度遅延しているのかが求められ、式 (4) を用い
て距離 に変換できる。
ただし、Δ t はサンプリング周期 (s)、τ 0 ×Δ t は遅延時
間 (s)、T は気温 (℃),(331.5+0.6T) は気温 T における音速 (m/s)
である。
図8 測定システム構成図
4.2 超音波センサ
対象物の測定に今回使用した超音波センサは、村田製作所
製のバイモルフ型振動子で、送波器を9素子、受波器を2素
子使用している。また送波器の素子間隔は 10mm となってお
り、センサ側の回転台を回転させることにより、指向性の測
定も可能である。図9のようにアレイ送波器を中心が原点
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となるように配置し、アレイ送波器と同一基線上に受波器を
左右に配置した装置を用いる。超音波センサはプラスチッ
ク製の部品で支持され、コネクタ側はアクリル板を挟んであ
る。また受波器にはホーンの取り付けが可能である。以下
に今回使用する実験用超音波センサ装置の概略仕様を示す。
・送波器の数 : 9 個
・受波器の数 : 2 個
・目盛盤の表示 : 中央 0 ゜で左右± 90 ゜
・目盛盤の最小単位 : 0.5 ゜
・地上からの支持方法 : 三脚支持
4.4実験方法
(1)対象物体
本実験における対象物体としては、直径 11.5cm で高さ
200cm の塩化ビニール製の円筒形物体とした。
円筒状物体は、音波の散乱が特定の方向に偏らず無指向性
であるため、一般的な未知形状の物体を最もよく模擬するも
のとして用いられている。
(2)実験状況
本実験のセットアップ状況は、前述の対象物体を床に設置
して、回転テーブルに搭載した超音波アレイセンサ部分を三
脚支持し、対象物までの距離が約3mになるようにしている。
実験は、方位角を±20°の範囲で駆動して、次の3つのケー
スについて超音波の送・受信による相互相関関数を求めた。
(ア)距離3mの円柱に対する相互相関関数 (イ)距離3mで 30 cm離した2円柱の場合
(ウ)距離3mの円柱に対する妨害超音波の影響
40kHz キャリア信号の連続波をM系列周期の
約 30%の時間連続に送信する妨害波の場合
5. 実験結果
5.1 距離 3
m
の円柱に対する相互相関関数の結果
対象物体の距離を3mに固定して設置した円柱に対して、
送信波のM系列と受信波を復調増幅放絡線検波して求めた
受信M系列信号との相互相関関数を図1
1に示す。この場合
の相関関数は送信波と右受波子から検出したM系列との相
互相関関数を示している。実験結果より相互相関関数値が
3mの位置に円柱の表面形状を再現しているのが分かる。
図 9 センサ部(正面図)
4.3 DBF回路
前述のように隣接する素子間の位相差をΦずつ変化させ
ることによって、超音波のビームを様々な方向へ走査するた
めの、デジタルビームフォーミング(DBF)回路を図10
に示す。本回路では、2.5 節で述べたM系列の性質を利用し
て耐雑音性を向上させるため、DBF 出力信号を2値のM系列
信号で On/Off して変調するようにしている。また、本回路は、
4000 ゲートFPGA 2 個(受信IF部含む)で 9ch の独立位
相制御(1/500 波長 step) を可能としている。
図1
1
対象物3mにおける送・受信信号の相互相関値
5.2 距離 3
m
で3
0
c
m
離した2円柱の場合
対象物体の距離を3mに固定して、左右に 30cm 間隔で置
いた2円柱に対する送受信の相互相関関数を図1
2に示す。
この場合の相関関数は送信波と右受波子から検出したM系
列との相互相関関数を示している。実験結果より相互相関
関数値が3mの位置に左右に円柱を分離して定位している
のが分かる。
図1
0
DBF回路
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参考文献
(1)Teruo Y.,Hiroshi K. and Hiroshi H. : A Multi-Beam Ultrasonic Echo Location System for Multi-Object
Environment,
Proc. of IMEKO-XV World Congress, Vol.10, (1999),
pp.1-6.
(2)青島伸治:M系列変調相関法とその応用 , 計測と制
御 ,vol.16,no.5,(1977),pp.41-48.
(3)柏木 濶:M系列とその応用 , 昭晃堂(1996),pp.1682.
図1
2
2対象物における送・受信信号の相互相関値
執筆者紹介 5.3 距離 3
m
の円柱に対する妨害超音波の影響
対象物の距離を3mに固定した円柱に対して、40kHz キャ
リア信号の連続波をM系列周期の約3
0%の時間を超音波伝
搬経路に連続送信するような妨害を行った。その相互相関
関数の結果を図13に示す。図13から小さいピーク値が多数
現れているのは雑音の影響によるものであるが、送信波との
相互相関処理により雑音信号の成分は低く抑えられていて、
3m地点においては明らかな円柱の相関値が現れているこ
とも分かる。
椛 一喜 Kazuki Kaba
1980 年熊本大学工学部生産機械工学科卒業
博士(工学)
専門分野:信号処理、自動化機械、
実験モーダル
学 会:計測自動制御学会、
日本ロボット学会各会員
E-mail : [email protected]
山口晃生 Teruo Yamaguchi
1990 年東京大学大学院工学系研究科博士課程
単位取得退学、同年同大学助手
1993 年熊本大学助手、95 年同講師、現在に至る
博士(工学)
専門分野:視覚情報処理等の研究に従事
学 会:計測自動制御学会、
日本ロボット学会各会員
図1
3
3
0
%ノイズ混入時の送・受信信号
6.おわりに
本研究では、DBF 技術で生成した超音波信号をさらにM系
列変調した信号によりアレイ送波子を駆動して、DBF スキャ
ンによる物体認識の有効性を示すことができた。耐雑音性
では、40kHz キャリア信号の雑音下において、雑音のない場
合とほぼ同じ測定結果が得られ雑音に強いことが示された。
確認できた内容は次の2点である。
(1)アレイ送波子のDBFによる有効性
DBF回路により各送波子への遅延による送信波と受信
波の相互相関関数から対象物に相当する明確な相関値の
ピークが得られた。
(2)DBFに対するM系列変調の有効性
DBF回路で各送波子に対する遅延信号をM系列信号で
変調した送信波と受信波の相互相関関数において、雑音がな
い場合と同等な相関値ピークが検出できた。
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縄 田 豊*1 田 中 禎 一*1 古 嶋 薫*1
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工業洗浄の分野では、以前はフロン、エタン洗浄が広く使われていたが、オゾン層破壊、地球温暖化、地下水汚
染、土壌汚染、廃棄物処理などの様々な環境問題から、これらの溶剤の使用中止ないし削減の方針が決定されてい
る。化学的洗浄力のない水や空気に新規の物理作用を導入して高精密洗浄を可能にする方式としてキャビテー
ション噴流洗浄法がある。キャビテーション噴流洗浄法とは液体が急な低圧にさらされると気泡が発生する現象
で、圧力が回復してその気泡が崩壊するときの高衝撃圧のエネルギーを洗浄に利用するものである。キャビテー
ション噴流洗浄法では、効率よくキャビテーションバブルを発生させることが課題となる。本研究では、異なる2
種のノズルを試作し洗浄の効果を比較すると共にキャビテーションバブルの衝撃力を計測するセンサとそれによ
る計測結果について述べる。
キーワード:洗浄、キャビテーション、キャビテーションバブル、ノズル、センサ
1.研究の背景と目的
工業洗浄の分野では、以前はフロン、エタン洗浄が広く使
われていたが、オゾン層破壊、地球温暖化、地下水汚染、土
壌汚染、廃棄物処理などの様々な環境問題から、これらの溶
剤の使用中止ないし削減の方針が決定されている (1)。現在は
フロン・エタン洗浄からその代替洗浄法に転換しつつある。
しかし、代替洗浄法になっても洗浄剤の汚れに対する化学的
作用を主体とする洗浄システムであるため、生活環境に有害
な物質が色々使われている。究極としては洗浄がすべての
環境へ一切の悪影響を与えないことを目指すとすれば、自然
に存在する空気や水しか使わない新洗浄システムに転換す
ることが必要である ( 図1参照 )。しかし、その場合は油など
を取り除くために強力な機械力が必要になる。そういう観
点から、化学的洗浄力のない水や空気に新規の物理作用を導
入して高精密洗浄を可能にしようといういくつかの洗浄法
が研究されている。例えば氷やドライアイスの微粒子を汚
れ面に衝突させて洗浄するというエアロゾルブラストや、水
中に強力な超音波を発振するメガソニック洗浄もそれらの
一つである。ここで述べるキャビテーション噴流洗浄法 (2) も
それらのひとつとして研究されている。
キャビテーションとは液体が急な低圧にさらされると気
泡が発生する現象で、圧力が回復してその気泡が崩壊すると
───────────────────────────
*
1 八代工業高等専門学校 機械電気工学科
*
2 八代工業高等専門学校 専攻科(生産情報工学専攻)
*
3 九州東海大学工学部 機械システム工学科
*
4 熊本電波工業高等専門学校 電子制御工学科
図1
洗浄技術の展望
き高衝撃圧を生じ、ポンプやプロペラなどに悪影響を与える
現象として知られている。高衝撃圧の原因として、気泡の収
縮、再膨張による衝撃波や、気泡の固体表面の反対側がくぼ
んで生じるマイクロジェットが考えられている。キャビ
テーション噴流洗浄法とは、ノズルから出た高速水と周囲の
低速水の境界の速度差により渦が生じ、渦の中心が真空にな
ることによりキャビテーション気泡が発生し、その気泡が洗
浄対象物に衝突して、リング状に広がり成長して崩壊すると
きの衝撃力を利用するものである (3)。図 2 に本実験で撮影し
たキャビテーション噴流の様相を示す。
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泡核の数に影響されるので、溶存空気が十分飽和状態にある
一定の水を供給するため水供給用水槽を用いている。二つ
の水槽には水位レベルセンサーが取り付けられており、実験
中は水位が一定になるように給排水を制御している。使用
したポンプはプランジャー型高圧ポンプで最高圧力 21MPa、
最大流量 23L/min である。
洗浄面はサーボモータを使用した移動装置で噴流に対し
直角な面上を 35mm × 35mm の範囲でコンピュータによる移
動制御ができる。また、ノズルと洗浄面の距離 ( スタンドオ
フ距離L ) は手動で変えることができる。
今回用いたノズルを図 4 に示す。ノズル①はノズル出口が
直径 1mm の円形で単純な形状をしている。それに対してノ
図2
キャビテーション噴流の様相(ノズル①)
本研究の目的はエネルギーをあまり消費しなくて、しかも
キャビテーションを起こしやすいノズルを開発することで
ある。そのための基礎的なデータとして、単純な形状と工夫
したノズルの二種類について、ノズルと対象物までの距離や
洗浄時間などを変えて洗浄効果がどのように変わるかを実
験した。また洗浄効果を定量的に測定するため、キャビテー
ション気泡崩壊時の衝撃力測定のための衝撃力センサの開
発を行った。
2.実験装置及び実験条件
2
.1実験装置
図 3 に実験装置の概略を示す。装置には二つの水槽がある。
いずれも 1200 × 450 × 450[mm] の寸法である。一つは実験
水槽で、一つはノズルへの水供給用水槽である。洗浄実験の
場合、一つの水槽で循環させると、供給水が次第に汚れてく
る。またキャビテーションの発生は供給水内に存在する気
図4
使用したノズル
ズル②は三つの部品からなっており、ノズル出口は直径 1mm
の円形とその周囲の 0.25mm 幅の環状の出口よりなっている。
供給水はノズル内で中心部と環状部に分離されそれぞれ異
なる出口速度で噴出するようになっている。吐出圧力はノ
ズルの上流側すぐに取り付けた圧力計で測定している。使
用した圧力計はキーエンス社の AP-16(0 ∼ 50MPa) である。
ノズル①に対してノズル②は 3.25 倍の出口面積を有するが、
構造の違いによる流量係数の違いにより実際の流量の違い
はそれほど大きくない。吐出圧力 20MPa のときに測定した
それぞれのノズル流量はノズル①では 5.58 /min、ノズル②
は 8.64 /min であった。
2.2 実験条件
今回は吐出圧力 p1 = 20MPa 一定で実験した。周囲圧力は p2
= 0.1MPa なので、キャビテーション数=
図3
実験装置概略図
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となる。ここで、pv は水温に相当する飽和蒸気圧である。ス
タンドオフ距離 Lと洗浄時間を変化させて実験を行った。
3.噴流が洗浄面に及ぼす圧力分布の測定
吐出圧力が 20MPa というような高圧になると、噴流が洗浄
面に衝突するときの圧力で洗浄が行われるのではないかと
考え、噴流が衝突しているときの洗浄面の圧力分布を測定し
た。洗浄面に直径 0.5mm の穴を開け、洗浄面の背後に市販さ
れている圧力計を設置した。使用した圧力計はキーエンス
社の AP-15(0 ∼ 20MPa) である。噴流を中心とした 10mm ×
10mm の領域を 1mm おきに 121 点測定して圧力分布を求めた。
その結果の一例を図 5 に示す。またノズル中心を通る線上の
洗浄面圧力変化を図 6 に示す。これらからわかるように、噴
流の衝突によって洗浄面の圧力が著しく上昇するのはノズ
ル中心からわずか 2mm 程度である。もし、噴流の圧力だけ
で洗浄が行われるなら、わずかな領域しか洗浄できないこと
になる。図 7 はノズル中心での洗浄面最大圧力を、横軸にス
タンドオフ距離をとって示したものである。最大圧力はス
タンドオフ距離が 60mm 以上では 1MPa 以下になる。
図7 洗浄面最大圧力(ノズル①)
4. ペイント法による洗浄面の観察
アルミ板にケガキ用の青ニスを塗布し、噴流によって青ニ
スが除去される様子を観察した ( ペイント法 )。観察は洗浄
(a) L= 20 mm
(b) L= 50 mm
10mm × 10mm の正方形領域、スケールの単位は kPa、
Lはスタンドオフ距離
図5
洗浄面圧力分布(吐出圧力 2
0
M
P
a
、ノズル①)
図6
噴流中心線上の圧力変化 (ノズル① )
L=10mm
L=20mm
L=30mm
L=40mm
L=50mm
L=60mm
L=70mm L=80mm
(50mm × 50mm の領域、吐出圧力 20MPa、洗浄時間 60sec)
図8
ペイント法による洗浄後の画像 (ノズル① )
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事例報告
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後の面をスキャナーで読み取り、取得画像にコントラスト処
理を行い、青ニスが除去されている面積を計算し、それを洗
浄された面積とした。図 8 はノズル①について洗浄時間を 60
秒にして、スタンドオフ距離を変えた場合の画像例である。
この図は 50mm × 50mm の領域を示しており、図 5 の 10mm ×
10mm の領域と比較すればわかるように、通常の圧力センサ
では検知できない何らかの衝撃力で塗布膜がはがれている
ことがわかる。その衝撃力は非常に小さい面に高い圧力が
生じていることが周辺の点状の壊食痕からうかがえる。ま
た、この衝撃力はスタンドオフ距離が 50mm 以上では環状に
生じている。これはスタンドオフ距離が小さい時は噴流中
心は噴流の衝突圧力で青ニスが除去されるが、スタンドオフ
距離が大きくなるともはや衝突圧力では青ニスは除去され
ず、噴流のまわりに生じたキャビテーション気泡群がリング
状に成長しながら広がり、そして崩壊するときに衝撃力を発
生していることを示している。
②でも同じ吐出圧力を与え、同じエネルギーを消費している。
余分なエネルギーは伏流水として水供給水槽に排水してい
る。そういう意味では同じ洗浄時間で比較してもよいので
あるが、ここではノズルからの吐出量が同じになるときを比
較した。各試験片の青ニスの塗膜状態を一様にすることは
困難なため、データにはばらつきがある。この図の一点は数
点の測定データの平均値を示している。ノズル①ではスタ
ンドオフ距離が 20mm と 50 ∼ 60mm のときに洗浄面積のピー
クが存在する。第 1 ピークは気中水噴流と同様に分裂した液
塊による衝撃力で、第2のピークがキャビテーションの崩壊
衝撃圧によるものであると考えられる。しかしノズル②で
は二つのピークは現れずスタンドオフ距離 30 ∼ 40mm のと
ころで一つのピークがある。
図 10 はスタンドオフ距離を 50mm に一定にして噴射時間
を変化させたときの洗浄面積の変化を示す。横軸は吐出量
をとっている。この図よりノズル②の方がノズル①より洗
浄能力が大きいことがわかる。これはノズル②の構造より
生じる二段階のノズル噴流速度の効果が表れていると考え
られる。
(a)
図1
0
洗浄時間による洗浄面積の変化
洗浄後のアルミ板表面を観察すると、キャビテーション気
泡崩壊時の衝撃力による壊食痕が、噴流を中心としてドーナ
ツ状に現れる。スタンドオフ距離 50mm、洗浄時間 300 秒の
ときの壊食痕を図 11 に示す。下が壊食痕の最も多い領域の
拡大図を示す。生じているピットの直径は 20 ∼ 80 μ m 程度
である。
5. 衝撃力センサの製作
(b)
図9
スタンドオフ距離による洗浄面積の変化
図 9 にスタンドオフ距離を変えたときの洗浄面積の変化の
様子を示す。それぞれの図は同じ洗浄時間のときではなく、
ノズル①と②で吐出量が等しくなるときの比較を示してい
る。同じ洗浄時間で比較するとノズル①と②の違いはもっ
と大きくなる。高圧ポンプは出口面積の異なるノズル①と
5
.1
衝撃力センサの構造
キャビテーション気泡崩壊時の衝撃力はμ sec オーダの短
時間に、数μ m オーダの局所的領域に数 GPa の高衝撃圧が付
加されるので、普通の圧力計では計測が困難である。このた
め衝撃力の計測を行っている例のすべてが、圧電材料を使用
した自作の衝撃力センサを用いている。これらのセンサは
衝撃的に加えられた力を検知することはできるが、静的な力
は検出できない。衝撃力センサの形態は大きく分けて 2 つあ
る。2 つの金属棒の間に圧電材料を挟みこむ形式の縦長のセ
ンサと、圧電材料の板をそのまま試験片に貼り付ける平らな
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子材料の一種で、次のような特徴を持っている。
・非常に軽い薄膜であり、厚さは 24 ∼ 110 μ m のものが市
販されている。
・衝撃などに対して強く、壊れにくい。
・成形、加工が容易で形状を制御するのが容易である。
・広帯域の周波数特性を有しており、時間分解能が高い。
・安価
・過渡的な力に対する出力電圧は、圧電セラミックに比べて、
およそ1桁小さい。
図1
1
洗浄後のアルミ板表面の壊食痕(拡大)
図1
2
製作した衝撃力センサの構造
センサの2種類である。
本研究ではキャビテーション気泡の崩壊衝撃力の累積頻
度分布を計測するため、圧電材料として PVDF 膜を用いたも
のを利用した。PVDF (Polyvinylidene fluroride) は圧電性高分
今回用いたのはピエゾフィルムと呼ばれるもので、PVDF
膜の両面に電極として銀の皮膜が塗布されている。センサ
を作るとき、不必要な銀の塗膜はアセトンで除去する。製作
した衝撃力センサの構造を図 12 に示す。感圧面は 3mm ×
3mm の部分である。この構造は加工可能な小ささと、感圧面
以外の PVDF 膜をなるべく小さくするためにこのような形を
している。 また強度と出力を考慮し、本研究では入手でき
るものの中で最も厚い 110 μ m のものを使用した。このセン
サをアクリル板上にアラルダイトで貼り付けて、その上をポ
リイミドテープで覆い、アクリル板をあてがって万力で挟み
つけてそのまま硬化させた。銀電極は接着銅テープで接続
した。
5
.2
衝撃力センサの検定
衝撃力センサの検定は鋼球落下試験によって行った。小
さな鋼球をある高さから自由落下させてセンサの感圧面に
当て、速度の減少からセンサに与えられた力積を求める。ま
たセンサの出力波形から衝撃が加えられた時間を求めて力
積をその時間で割ることによって、加えられた力を得るとい
う も の で あ る。5 種 類 の 鋼 球 (0.0159g, 0.4401g, 1.0477g,
1.4884g, 2.7131g) を 30mm, 80mm の高さから落として検定を
行った。感圧面に加わる衝撃力を F とすると、次式が成り立
つ。 ここで、
F:衝撃力 [N]
m:鋼球の質量 [kg]
e:跳ね返り係数
g:重力加速度 [m/s2]
h:鋼球の最初の高さ [m]
Δt:衝撃が加えられた時間 [s]( 図 13 参照 )
跳ね返り係数 e は
より求める。h1 は鋼球の跳ね
返り後の高さで、鋼球落下試験をビデオ撮影して求めた。
図 13 に落下試験時の出力波形の一例を示す。出力波形は、
PC カード型高速データ収集システム NR350 (KEYENCE 社 )
を用いて、ノートパソコン上で波形の収集、解析を行った。
NR350 の最高サンプリング周期は 5nsec である。図 14 に検定
結果の一例を示す。これにより、センサ出力 [ V ] を測定すれ
ば、衝撃力[N]を知ることができる。
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m=2.7131[g] h=80[mm]
Emax=7.33[V] △ t=60.8[ μ sec.] F=86.48[N]
図1
3
鋼球落下試験時のセンサ出力波形
図1
5
キャビテーション噴流の衝撃力測定例
図1
4
検定結果の例
6. 衝撃力センサによる
キャビテーション噴流の測定結果
中心に衝撃力センサを貼り付けたアクリル板を洗浄面と
して、その面に垂直に噴流を衝突させて実験を行った。スタ
ンドオフ距離 L が 60mm、50mm のときに計測を行った。ノ
ズル①では L を 30mm にしたとき、ノズル②では L を 40mm
にしたとき噴流圧力によってセンサは破壊された。測定は
噴流中心の水平線上を 3mm おきに 11 点測定した。全測定長
は 30mm である。サンプリングレートは 2 μ sec で1測定点
に対して 65 万点測定した。NR350 は1回の測定の最大デー
タ数は 6 万 5 千点なので、洗浄面をステージで移動させなが
ら 11 点の測定を行うということを 10 回繰り返した。測定時
間は 1 測定箇所に対して 1.3sec になる。測定時間が 0.5 秒以
上あれば十分安定した値が得られるということを確認した。
測定した出力波形の例を図 15 に示す。この図はスタンド
オフ距離 50mm で、噴流の中心から− 9mm の箇所での測定例
である。3つの図は同じ測定結果を示しており、横軸の時間
軸を 50ms、10ms、2ms に拡大した時の様子を示している。矢
印は同じパルスを示している。
これらの図からわかるように気泡が崩壊するときの衝撃
力パルスは極めて短い幅を有していることがわかる。パル
ス幅は 4 ∼ 6 μ s である。また衝撃力自体は大きなもので 20
Nぐらいであるが、図 11 のピットの径を 50 μ m にして圧力
を計算すると、10GPa という高い衝撃圧力が生じていること
になる。
検知された発生衝撃力にはばらつきがある。これは発生
した衝撃力の大小ばかりでなく、感圧面が 3mm × 3mm とい
う領域があるので、崩壊の生じた場所にも依存すると思われ
る。もちろん衝撃力の発生頻度は感圧感圧面の面積に依存
する。
図1
6噴流中心線上の衝撃力累積頻度分布(ノズル①)
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面積が小さくなればなるほど発生頻度は小さくなる。また
いくつかの衝撃力の複合された結果が生じる確率は波形か
ら見てそれほど大きくないと思われる。1測定箇所で 65 万
点のデータより、洗浄面での衝撃力の累積頻度分布を求めた。
図 15 からわかるように、正のパルスが現れた直後に負のパ
ルスが現れる。洗浄という点ではこの負の衝撃力で洗浄面
の汚れを剥ぎ取るのではないかと考えられるが、ここでは正
のパルスのみをカウントした。計算は MATLAB を用いデー
タを2階微分することによりピークを求めた。図 16 にノズ
ル①の、図 17 にノズル②の結果を示す。(a) は 8N、(b) は 12N、
(c) は 16N 以上の衝撃力が生じた1秒間の回数を縦軸に、横軸
に中心からの位置をとって示したものである。アルミニウ
ムに壊食ピットが発生し始める臨界衝撃力が 8.5N 程度であ
る (4) ことから、8N 以上の衝撃力をカウントした。
図 16 と 17 から吐出圧力 20MPa のキャビテーション噴流に
対し次のようなことがわかる。(a) ノズル①ではスタンドオ
フ距離が 50mm と 60mm では衝撃力分布に大きな差があるが、
ノズル②ではあまり差がない。これは 50 ∼ 60mm のスタン
ドオフ距離でノズル①は噴流方向に流れに大きな変化があ
るが、ノズル②ではあまり変化が生じていないためと考えら
れる。(b) ノズル①でスタンドオフ距離 L=50mm では噴流中
心に噴流の衝突によるせき止め力が生じているが、60mm で
は周囲のキャビテーション気泡の崩壊による衝撃力と同じ
かそれより小さくなる。噴流の衝突する中心の衝撃力は周
囲で生じている衝撃力より小さくて頻度は大きい。せき止
め力はほぼ定常的なもので衝撃力計には出力として現れな
いと考えられているが (5)、吐出圧力 20MPa の噴流ではスタン
ドオフ距離が短い場合は現れる。ノズル②では中心のピー
クはほとんど現れていない。(b) ノズル①でも②でも中心か
らほぼ− 9mm の付近に衝撃力パルスの頻度が最大になる位
置が存在する。その頻度のピークは衝撃力が大きいものほ
ど顕著になる。(c) 衝撃力分布は左右で対称になっていない。
これは図 8 から見てもわかるように必ずしも衝撃力は円対称
になっていないので、一直線上の衝撃力分布だけでなく、衝
突面上の衝撃力分布を測定する必要がある。今回、中心線上
のみの測定をした理由はデータ処理上の問題からである。
面上の測定をするとデータが膨大になりコンピューターの
処理能力を超えるためできなかった。
図 18 はスタンドオフ距離 60mm のとき、横軸に衝撃力をと
り、縦軸には横軸以上の衝撃力出現頻度を 11 箇所の測定点
すべてについて合計したものを示している。これからノズ
ル②はノズル①に比べて衝撃力の発生頻度は2倍以上ある
ことがわかる。ピット形成のエネルギーに相当する値とし
て ( 衝撃力 )2 ×回数をとると (6)、この差はもっと大きくなる。
この差は二つのノズルの流量の違い以上の差であり、ノズル
②の洗浄用ノズルとしての有効性を示している。
図1
7噴流中心線上の衝撃力累積頻度分布(ノズル②)
7
. 今後の展望
キャビテーション噴流で生じる衝撃力を効果的に使えば、
溶剤を使わなくても洗浄物表面の異物を取り除くことがで
きることがわかった。これから、吐出圧力などを変化させて
実験を行い、洗浄に適した条件を求めるとともに、キャビ
テーション気泡が広範囲に発生しやすいノズルを開発して
図1
8噴流中心線上の全衝撃力累積頻度
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いく。洗浄能力という点からは衝撃力とその衝撃力の範囲
が重要であり、必ずしも局所的に衝撃力の発生頻度が大きく
ても優れているとはいえない。ペイント法では一定の塗布
面を作ることが困難であり、また相対的な洗浄力しかわから
ないため、それに代わる洗浄能力評価法を考える必要がある。
また、今後開発した衝撃力センサを用い、ノズル中心線上だ
けでなく、2次元で衝撃力分布を測定し、洗浄能力を直接測
定できる方法を追及する。
本論文は、八代高専紀要1
5に掲載したものであるが、ここ
で示したように基礎的なデータがでてきており今後の応用
が期待されるものである。ノズルの改良により効率の良い
ものが開発されれば薬品を使うことなく環境に優しい洗浄
装置ができることになる。また、洗浄だけでなく高エネル
ギーによる材料の表面加工や表面強度の改質などの応用も
考えられる。これらの点から県内企業により知ってもらい
今後の共同研究のきっかけになることを期待して再度電応
研テクニカルレポートとして掲載したものである。
執筆者紹介 参考文献
(1)工業調査会:洗浄技術入門、工業調査会(1998)
(2)辻村学:キャビテーションの半導体精密洗浄への応用、
噴流工学、Vol.14, No.2 (1997) 21-25
(3)祖山均:キャビテーション噴流による表面改質、機械
の研究、第 52 巻、第1号 (2000)7-13
(4)岡田庸敬、岩井善郎、石丸洋一、前川紀英:キャビテー
ション気泡崩壊圧の計測とその評価 ( 第2報 )、日本機
械学会論文集 (A 編 )、58 巻 552 号 (1992-8)、203-208
(5)寺崎尚嗣、和田英典、高杉信秀、藤川重雄、杉野芳
宏:水中ウォータージェット衝撃力に関する研究、日
本機械学会論文集 (B 編 )、64 巻 623 号 (1998-7)、20042010
(6)岡田庸敬、粟津薫、岩井善郎:キャビテーション気泡
崩壊圧の計測とその評価、日本機械学会論文集 (A 編
)、51 巻 471 号 (1985-11)、2656-2662
縄田 豊 Yutaka NAWATA
昭和 43 年九州大学大学院工学研究科動力機械
工学専攻修士課程修了、工学博士
八代工業高等専門学校機械電気工学科教授
専門分野:熱工学
学会:日本機械学会、日本伝熱学会、
日本太陽エネルギー学会
田中 禎一 Teiichi TANAKA
平成 9 年九州工業大学大学院 工学研究科設計
生産工学専攻博士後期課程修了、博士 ( 工学 )
八代工業高等専門学校機械電気工学科助教授
専門分野:流体工学
学会:日本機械学会、ターボ機械協会
古嶋 薫 Kaoru FURUSHIMA
昭和 63 年豊橋技術科学大学院工学研究科
エネルギー工学専攻修了
八代工業高等専門学校機械電気工学科助教授
専門分野:熱工学
学会:日本機械学会、日本太陽エネルギー学会
西 誠治 Seiji NISHISHI
平成 15 年八代工業高等専門学校機械電気工学
科卒業。八代工業高等専門学校専攻科生産情
報工学専攻在学中
学会:日本機械学会
大友 篤 Atsushi OHTOMO
昭和48年熊本大学大学院工学研究科機械工学
専攻修了。博士(工学)
平成 16 年九州東海大学工学部機械システム工
学科教授
専門分野:自動制御、ロボット、自動機械
学会:計測自動制御学会、日本機械学会各会員
永田 正伸 Masanobu NAGATA
昭和 60 年熊本大学大学院工学研究科機械工学
専攻修了。博士(工学)
平成 15 年 熊本電波工業高等専門学校電子制御
工学科助教授
専門分野:自動制御、シーケンス制御
ロボッ ト制御
学会:計測自動制御学会、日本機械学会各会員
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II 小 坂 光 二*3
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熊本県地域結集型共同研究事業「超精密半導体計測技術開発」のコアテーマである超精密高速 XY ステージ開発
の一環として、ウェハーサイズ 12 インチ対応のXYステージ軽量化のために、有限要素法による構造解析を実施
した。ムク(無垢)構造、リブ構造、ハニカム構造の3種類のセラミックステージについて、自重によるたわみ解
析、姿勢評価、固有振動解析を行った結果、ハニカム構造化により、ムク構造に比べて、約50%の大幅な軽量化
が実現できる見通しが得られた。
キーワード:セラミックス、XY ステージ、軽量化、有限要素法、構造解析、非線形解析、接触問題
1. はじめに
2. X
Yステージの材料
熊本県地域結集型共同研究事業「超精密半導体計測技術開
発」(1)のコアテーマである超精密高速 XY ステージ開発の一
環として、ステージ軽量化のために有限要素法による構造解
析を実施した。ウェハーサイズ 12 インチ対応のXYステー
ジシステムの開発目標は以下の通りである (1)。
・軸構成 X−Y2軸
・有効駆動範囲 300mm × 300mm
・最高速度 300mm/sec
・位置決め精度 10nm
この開発目標を達成するために、駆動用非共振型超音波
モータ(NRUSM:Non-Resonance type UltraSonic Motor)と軽
量ステージの開発等が行われた (1)(2)。
ステージ軽量化技術開発は、ステージ材料および構造の両
面から進められた。材料開発については文献(1)
、
(2)に
述べているので、本報では構造の面からの報告とする。
XY ステージ構造の面からは、まず、アルミナムク(無垢)
構造からリブ構造(中空構造)とすることによる軽量化が検
討された。次に、ハニカム構造にすることにより、更なる軽
量化の可能性が検討された。
本報では、リブ構造化やハニカム構造化の実現可能性をス
テージ剛性の面から調べるために、ステージ自身の自重によ
るたわみ解析と上段ステージが端部に移動したときのス
テージ姿勢に対する評価、及び、各段のステージの固有振動
解析による剛性評価を行った。
───────────────────────────
*
1 財団法人くまもとテクノ産業財団
電子応用機械技術研究所 次長
*
2 太平洋セメント株式会社 中央研究所
研究開発部 エンセラ材料チームリーダー
*
3 有限会社熊本テクノロジー
常務取締役
表1 XYステージの材料データ
ステージ部 レール部
ヤング率(G
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ポアソン比
0
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比重
3
.9
ムク構造
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ポアソン比
0
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8
0
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4
比重
2
.5
3
.3
リブ構造
ハニカム構造
表1に、XYステージの材料データを示す。比重3.9の
アルミナセラミックス製ムク構造ステージに対して、リブ構
造及びハニカム構造ステージでは、太平洋セメント株式会社
と株式会社日本セラテックにより共同開発された比重2.5
のゼロ膨張セラミックスZPF(Zero thermal expansion Pore
Free ceramics)(1) がステージ材料として採用された。ヤング
率はアルミナセラミックスに比べて低いが、室温付近の熱膨
張係数がゼロである特長を有する。また、レール部材料とし
ては、株式会社日本セラテック開発の耐磨耗性の高いポアフ
リーセラミックス SLPF が採用された。
3. XYステージの構造解析
3.1 ムク構造XYステージの構造解析
3.1.1 ムク構造XYステージの構造
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写真1 ムク構造XYステージ全体構造
図3 ムク構造XYステージの有限要素モデル
(上段ステージが中央位置の場合)
図1 ムク構造上段ステージ形状モデル
図4 ムク構造XYステージの有限要素モデル
(上段ステージが端に移動した場合)
図2 ムク構造中段ステージ形状モデル
写真1にムク構造ステージの全体構造を示す。図1、図2
にムク構造上段ステージと中段ステージの形状モデルを示
す。
3.1.2 ムク構造XYステージの構造解析
図3、図4にムク構造XYステージの有限要素モデルを示
す。最下段ステージはレール部のみモデルに含まれている。
いずれも四面体1次要素で分割され、図3のモデルが要素数
17,748、節点数 32,097、図4のモデルが要素数 17,842、節点
数 32,225 である。
な お、本 報 で の 構 造 解 析 に 用 い た ソ フ ト ウ ェ ア は、
COSMOS/Works (3) であり、ステージとステージの境界面に
は接触条件が設定されている。
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図5 ムク構造XYステージのたわみ分布
(上段ステージが中央位置の場合)
図7 リブ構造 X
Yステージ全体構造モデル
図8 リブ構造 X
Yステージ上段の形状モデル
図6 ムク構造XYステージのたわみ分布
(上段ステージが端部に移動した場合)
図5、図6に自重によるたわみ分布を示す。
上段ステージが中央位置にある場合、上段ステージの最大
たわみは 0.3288μm、中段ステージの最大たわみは 0.2609μm
である。上段ステージが端に移動した場合、上段ステージの
最大たわみは、上段ステージが中央位置にある場合に比べて、
約7.3%増の 0.3527μm となり、中段ステージの最大たわみ
は、約33
. %減の 0.2522μm となった。このように中段ステー
ジのたわみが若干減少したのは、上段ステージが端に移動し
たことにより、中段ステージに対する上段ステージの荷重と
しての影響が少なくなったためと考えられる。
3.2 リブ構造XYステージの構造解析
3.2.1 リブ構造XYステージの構造
図9 リブ構造 X
Yステージ中段の形状モデル
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図7に、リブ構造XYステージの全体構造モデルを示す。
最下段ステージも示されている。また図 8、図 9 に上段ス
テージと中段ステージの形状モデルを示す。多数の小さな
円孔は部材締結用のネジ穴であり、有限要素モデルでは省略
される。
3.2.2 リブ構造XYステージの構造解析
図1
2
リブ構造XYステージのたわみ分布
(上段ステージが中央位置の場合)
図1
0
リブ構造XYステージの有限要素モデル
(上段ステージが中央位置にある場合)
図1
3
リブ構造XYステージのたわみ分布
(上段ステージが端に移動した場合)
図1
1 リブ構造XYステージの有限要素モデル
(上段ステージが端部に移動した場合)
図 10、図 11 に、リブ構造XYステージの有限要素法モデル
を示す。最下段ステージはレール部のみモデルに含まれて
いる。いずれも四面体 2 次要素で分割され、図 10 のモデルが
要素数 60,823、節点数 106,239、図 11 のモデルが要素数 68,732、
節点数 119,014 である。
図 12、図 13 に自重によるたわみ分布を示す。
上段ステージが中央位置にある場合、上段ステージの最大
たわみは 0.3931μm、中段ステージの最大たわみは 0.3044μm
である。上段ステージが端に移動した場合、上段ステージの
最大たわみは上段ステージが中央位置にある場合に比べて、
約7.9%増の 0.4241μm となり、中段ステージの最大たわみ
は 0.3033μm であり、わずかに減少した。
ムク構造XYステージに比べ、リブ構造上段ステージの最
大たわみは約20% 増加し、中段ステージは17∼20% 増加し
た。また、トータル自重は約39% の減少となった。リブ構造
化により大幅な軽量化は実現されたが、表1に示すように剛
性の低い材料となった(ステージのヤング率が 400GPa から
150GPa に低下した)ため、たわみが増加したものと考えられ
る。
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E
N
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-K
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E
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H
N
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3.3 ハニカム構造XYステージの構造解析
3.3.1 ハニカム構造XYステージの構造
3.3.2 ハニカム構造XYステージの構造解析
図1
6
ハニカム構造XYステージ有限要素モデル
(上段ステージが中央位置の場合)
図1
4
ハニカム構造XYステージ上段構造
図1
7
ハニカム構造XYステージ有限要素モデル
(上段ステージが端にある場合)
図16、図17に、ハニカム構造XYステージの有限要素モデ
ルを示す。ハニカム構造の場合、データ量が膨大になるので、
対称条件を用いて 1/2 の領域をモデル化した。いずれも四面
体 1 次要素で分割され、図16のモデルが要素数 317,313、節
点数 81,746、図1
7のモデルが要素数 317,508、節点数 81,734
である。
図1
5
ハニカム構造XYステージ中段構造
ハニカム構造XYステージの全体構造は図7と同様であ
る。図14、図15に上段ステージと中段ステージの部品構成
を示す。
図1
8
ハニカム構造XYステージたわみ分布
(上段ステージが中央位置の場合)
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-−
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段ステージが上下方向にどれだけ傾斜するか(目標値:1
sec)。
○水平方向真直度:上段ステージが端に移動した時、上段ス
テージ側面中央が水平方向にどれだけ変位するか(目標
値:1μm) 。
○水平方向ヨーイング:上段ステージが端に移動した時、上
段ステージが水平方向にどれだけ傾斜するか(目標値:1
sec)
表2 XYステージの最大たわみの比較
上段ステージ 上段ステージ
が中央位置に が端に移動し
ある場合
た場合
図1
9
ハニカム構造XYステージたわみ分布
(上段ステージが端に移動した場合)
図18、図19に自重によるたわみ分布を示す。
上段ステージが中央位置にある場合、上段ステージの最大
たわみは 0.2296μm、中段ステージの最大たわみは 0.1687μm
である。上段ステージが端に移動した場合、上段ステージの
最大たわみは上段ステージが中央位置にある場合に比べて
約2.8%増の 0.236μm となり、中段ステージの最大たわみは
約5.5%減の 0.1596μm となった。このように中段ステージ
のたわみが若干減少したのは、上段ステージが端に移動した
ことにより、中段ステージに対する上段ステージの荷重とし
ての影響が少なくなったためと考えられる。
リブ構造ステージに比べ、ハニカム構造上段ステージの最
大たわみは約42∼44% 減少し、中段ステージは45∼47%
減少した。また、トータル自重は約16% の減少となった。ハ
ニカム構造とリブ構造は同一材料であるので、リブからハニ
カムへの構造変更に伴う軽量化の効果が顕著に出て剛性向
上に繋がったと考えられる。
上段ステージ
0
.3
2
8
8
0
.3
5
2
7
中段ステージ
0
.2
6
0
9
0
.2
5
2
2
上段ステージ
0
.3
9
3
1
0
.4
2
4
1
中段ステージ
0
.3
0
4
4
0
.3
0
3
3
上段ステージ
0
.2
2
9
6
0
.2
3
6
中段ステージ
0
.1
6
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7
0
.1
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9
6
ムク構造
(5
4
.5
8
k
g
f)
リブ構造
(3
3
.0
7
k
g
f)
ハニカム構造
(2
7
.8
k
g
f)
( )内は解析上のトータル重量 (単位:μ m
)
3.4 XYステージのたわみ解析結果の評価
XY ステージのたわみ解析結果をまとめると、表2のよう
になる。先にも述べたが、ムク構造ステージとリブ構造ス
テージの最大たわみを比較すると、約 20%のたわみの増加と
なった。リブ構造ステージには軽量化のために比重の小さ
い材料が採用されたが、同時にヤング率も低下しているので、
結果的にステージの剛性は低下している。これに伴い、たわ
みが増加したものである。
一方、リブ構造ステージとハニカム構造ステージの最大た
わみを比較すると、両者の材料は同一であるためハニカム化
の効果が顕著に出て、軽量化と剛性向上が同時に達成された。
次に、XY ステージの上段が端に移動した場合のステージ
の姿勢について評価すると、表3のようになる。同表の真直
度、ピッチング、ヨーイングの目標値は下記の通りである。
表3よりいずれも目標値を十分満足していることが分かる。
○上下方向真直度:上段ステージが端に移動した時、上段ス
テージ中央が上下方向にどれだけ変位するか(目標値:1
μm)。
○上下方向ピッチング:上段ステージが端に移動した時、上
表3 XYステージの姿勢評価
ムク構造
リブ構造
ハニカム
構造
真直度
(n
m
)
6
7
.9
7
0
.8
3
9
.1
ピッチング
(s
e
c
)
0
.0
8
9
6
0
.1
9
5
0
.0
7
5
5
真直度
(n
m
)
8
.8
7
5
.0
3
1
.6
9
上下方向
幅方向
ヨーイング
0
.0
0
1
0
7 0
.0
0
1
7 0
.0
0
0
8
8
(s
e
c
)
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4.XYステージの固有振動解析
4.1 ムク構造XYステージの固有振動解析
4.1.1 ムク構造上段XYステージの固有振動解析
図20(a)∼(c)に、ムク構造上段ステージ固有振動
モードを示す。1 次振動モードは長手方向のねじれ、2 次振
動モードは幅方向の曲げ、3次振動モードは幅方向の非対称
曲げである。
4.1.2 ムク構造中段XYステージの固有振動解析
(a
)ムク構造上段ステージ 1次振動モード(6
7
6
H
z
)
(a
)ムク構造中段ステージ 1次振動モード(6
4
6
H
z
)
(b
)ムク構造上段ステージ2次振動モード(8
6
4
H
z
)
(b
)ムク構造中段ステージ2次振動モード(8
3
5
H
z
)
(c
)ムク構造上段ステージ3次振動モード(1
8
9
7
H
z
)
図2
0
ムク構造上段ステージ固有振動モード
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(c
)ムク構造中段ステージ3次振動モード(1
4
4
6
H
z
)
(b
)リブ構造上段ステージ2次振動モード(7
1
1
H
z
)
図2
1
ムク構造中段ステージ固有振動モード
図21(a)∼(c) に、ムク構造中段ステージ固有振動モー
ドを示す。1 次振動モードは長手方向のねじれ、2 次振動
モードは長手方向の曲げ、3次振動モードは長手方向の非対
称曲げである。
4.2 リブ構造XYステージの固有振動解析
4.2.1 リブ構造上段XYステージの固有振動
(c
)リブ構造上段ステージ3次振動モード(1
7
3
2
H
z
)
図2
2
リブ構造上段ステージ固有振動モード
図22(a)∼(c) に、リブ構造上段ステージ固有振動モー
ドを示す。1 次振動モードは長手方向のねじれ、2 次振動
モードは幅方向の曲げ、3次振動モードは長手方向の曲げで
ある。
(a
)リブ構造上段ステージ 1次振動モード(7
0
8
H
z
)
D
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-−
-K
E
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4.2.2 リブ構造中段XYステージの固有振動解析
図23(a)∼(c) に、リブ構造中段ステージ固有振動モー
ドを示す。1 次振動モードは長手方向のねじれ、2 次振動
モードは長手方向の曲げ、3次振動モードは長手方向の非対
称曲げである。
4.3 ハニカム構造XYステージの固有振動解析
4.3.1 ハニカム構造上段XYステージの固有振動
解析
(a
)リブ構造中段ステージ 1次振動モード(5
5
6
H
z
)
(a
)ハニカム構造上段ステージ 1次振動モード(6
0
1
H
z
)
(b
)リブ構造中段ステージ2次振動モード(8
9
9
H
z
)
(b
)ハニカム構造上段ステージ2次振動モード(7
6
1
H
z
)
(c
)リブ構造中段ステージ3次振動モード(1
3
5
5
H
z
)
図2
3
リブ構造中段ステージ固有振動モード
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E
N
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-K
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N
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(c
)ハニカム構造上段ステージ3次振動モード(1
5
9
8
H
z
)
(b
)ハニカム構造中段ステージ2次振動モード(8
3
7
H
z
)
図2
4
ハニカム構造上段ステージ固有振動モード
図24 (a)∼(c)に、ハニカム構造上段ステージ固有振
動モードを示す。1 次振動モードは長手方向のねじれ、2 次
振動モードは幅方向の曲げ、3次振動モードは幅方向の非対
称曲げである。
4.3.2 ハニカム構造中段XYステージの固有振動
解析
(c
)ハニカム構造中段ステージ3次振動モード(1
2
2
5
H
z
)
(a
)ハニカム構造中段ステージ1次振動モード(4
8
0
H
z
)
図2
5
ハニカム構造中段ステージ固有振動モード
図25(a)∼(c) に、ハニカム構造中段ステージ固有振
動モードを示す。1 次振動モードは長手方向のねじれ、2 次
振動モードは長手方向の曲げ、3次振動モードは長手方向の
非対称曲げである。
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-K
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4.4 X
Yステージ固有振動解析結果の評価
5
.おわりに
表4 XYステージ固有振動解析結果
上段ステージ
中段ステージ
固有振動
振動モード
数(H
z
)
固有振動
振動モード
数(H
z
)
6
4
6
長手方向
ねじれ
8
6
4 幅方向曲げ
8
3
5
長手方向
曲げ
幅方向
非対称曲げ
1
4
4
6
6
7
6
ムク構造
1
8
9
7
7
0
8
リブ構造
ハニカム
構造
長手方向
ねじれ
長手方向
ねじれ
7
1
1 幅方向曲げ
5
5
6
長手方向
ねじれ
8
9
9
長手方向
曲げ
1
7
3
2
長手方向
曲げ
1
3
5
5
6
0
1
長手方向
ねじれ
4
8
0
7
6
1 幅方向曲げ
8
3
7
幅方向
非対称曲げ
1
2
2
5
1
5
9
8
長手方向
非対称曲げ
長手方向
非対称曲げ
長手方向
ねじれ
長手方向
曲げ
長手方向
非対称曲げ
表4に XY ステージの固有振動解析結果を示す。
1 次モードに限定すれば、リブ構造ステージはムク構造ス
テージに比べ、約 4.7%の剛性向上(上段ステージの場合)、約
14%の剛性低下(中段ステージの場合)となった。このよう
に中段ステージの剛性が低下したのは、表1に示すように剛
性の低い材料となった(ステージのヤング率が 400GPa から
150GPa に低下した)ためと思われる。
材料剛性の低下にも関わらず上段ステージの剛性が向上
したのは、上段ステージはムク構造もリブ構造も共に中実体
(ムク構造)のままであり、両者の形状の違いによるものと
考えられる。
一方、ハニカム構造ステージはリブ構造ステージに比べ、
14 ∼ 15%の剛性低下となった。両者の材料は同じで形状寸
法もほぼ同一であるので、リブとハニカムの構造の違いが剛
性の差異の原因であると考えられる。
超精密高速 XY ステージ開発の一環として、ムク構造、リ
ブ構造、ハニカム構造の3種類のセラミックステージについ
て、有限要素法による構造解析を実施した。得られた結果を
要約すると下記の通りである。
(1)ムク構造ステージに比べ、リブ構造上段ステージの最
大たわみは約20% 増加し、中段ステージは、17∼2
0%
増加した。また、トータル自重は、約39% の減少と
なった。大幅な軽量化は実現されたが、剛性の低い材
料 と な っ た(ス テ ー ジ の ヤ ン グ 率 が 400GPa か ら
150GPa に低下した)ため、たわみが増加したものと考
えられる。
(2)リブ構造ステージに比べ、ハニカム構造上段ステージ
の最大たわみは約42∼44% 減少し、中段ステージは、
45∼47% 減少した。また、トータル自重は、約16% の
減少となった。ハニカム構造とリブ構造は同一材料
であるので、ハニカム化による軽量化の効果が顕著に
出て、剛性向上に繋がったとものと考えられる。
(3)上段ステージが端に移動したときの各ステージ姿勢
(真直度 / ピッチング / ヨーイング)の評価結果は、
目標値を十分満足するものであった。
(4)各ステージの固有振動解析の結果より、ハニカム構造
は他の構造に比べ若干の固有振動数の低下となった
が、特に問題になるような剛性低下ではない。
(5)ムク構造、リブ構造、ハニカム構造の自重によるたわ
み解析、姿勢評価、固有振動解析を行った結果、ハニ
カム構造化により、ムク構造に比べて、約50%の大幅
な軽量化が実現できる見通しが得られた。
参考文献
(1)セミコン・ジャパン 2003 超精密半導体計測技術開発
フォーラム資料∼次世代半導体熊本フリープロジェ
クトの事業化に向けて∼ , 財団法人くまもとテクノ産
業財団 ,(2003)
(2)熊本県地域結集型共同研究事業「超精密半導体計測技
術開発」最終成果発表会(第 5 回技術シンポジウム)
資料,財団法人くまもとテクノ産業財団 ,(2004) (3) COSMOS/WORKS ユーザーズガイド Version6.0、株
式会社コスモスジャパン(2000)
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執筆者紹介 東町 高雄 Takao HIGASHIMACHI
昭和 46 年 鹿児島大学大学大学院工学研究科
機械工学専攻修了。工学博士(九州大学)。
専門分野:有限要素法、材料力学、CAE
学会:日本機械学会、精密工学会各会員
E-mail:[email protected]
石井 守 Mamoru ISHII
昭和 59 年 太平洋セメント株式会社
( 旧日本セメント株式会社 ) 入社
平成2年 長岡技術科学大学大学院
電子機器工学専攻修了。博士 ( 工学 )。
専門分野:無機材料
学会:日本セラミックス協会会員
E-mail:[email protected]
小坂光二 Kouji KOSAKA
昭和 58 年東京都立工科短期大学工学部電気電
子工学科卒業
専門分野:電子線描画装置・システムの開発、超
音波モータ駆動による高精度ステージシステ
ムの開発
学会:精密工学会会員
E-mail:[email protected]
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双方向情報配信の通信基盤の調査・実験
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岡 田 辰 也*1
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K
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企業間などにおいて、安全な通信路上で双方向に情報を配信する機能、もしくはASPサービスとして同様の機
能を実現する通信基盤を想定してモデル化を行った。モデリングを行うにあたり、前提条件としたのは以下のよ
うなものである。(1) 認証手段の検討、(2) SSLによる通信路の暗号化、(3) 複数の利用者が各々のリソースに排他
的にアクセスできる環境である。また擬似的な環境を構築し、2台のホスト間での評価実験を行った。この結果
Stunnelによる暗号化、復号化の高効率性を確認できた。上記の利用環境でのシステム構築に有効活用す
ることを提案する。
キーワード:ASP事業、双方向情報配信、WebDAV、HTTP /1.1、SSL/TLS、PKI、登録局、認
証局、CRL、Stunnel、OpenSSL
1. はじめに
インターネットに接続したサーバー等の安全性が問われ
るようになって久しいが、様々な企業活動で主にファイル形
式での情報交換の需要は高い。このような要求に対応する
ために、従来のHTTP /1.1 を拡張したWebDAV (Web
Distributed Authoring and Versioning) と呼ばれる技術が提唱さ
れ、RFC2291および2518で規定されている。WebDA
Vによると、サーバーサイドにリモートからのコンテンツ作
成や更新が容易になり、この技術を核として上記のような
様々な企業ニーズやASP事業に応用できると考えられる。
本稿ではこのようなシステムの必須要素と考えられる認
証・暗号化技術とともに、通信基盤部分に関して幾通りかの
通信実験を通して性能の評価を試みたのでその結果につい
て述べる。
2. 通信基盤のモデル化
WebDAVは、元々リモートファイル操作とバージョン
管理を目的として、マイクロソフト、ネットスケープなどが
中心となって提唱されたプロトコルであるが、バージョン管
理に関しては、今年4月にRFC3
523でようやく仕様が固
まった。WebDAVで実現している機能は、近似的には従
来のプロトコルでも可能であるが、以下に示すような特質が
ある (1)。
───────────────────────────
*
1 財団法人くまもとテクノ産業財団
電子応用機械技術研究所 研究開発グループ
主任研究員
第 1 にWindows系で利用されるSMBプロトコルに
比べシンプルである。ローカルでの編集作業などを伴わな
いCOPYメソッドはリモートでの処理で完結する。従っ
てネットワークに余分な負荷をかけることがなく、全体とし
ての処理効率の向上が期待できる。
第2にFTPなどと違い、単一のコネクション上に単一の
プロトコルの通信となるので、セキュリティの向上を検討す
る場合のシステム設計が容易になる。
第3に基本的に稼動する処理系やファイルシステムに依
存しない。このため現時点でWebDAV機能が実装され
ている代表的なOSとして、IIS 5.0 とApache 2.0、
MacOS Xなどがある。
一方でWebDAVに関するRFCでは、利用者の認証や
通信路の暗号化については、何ら規定されていない。このた
め通信の安全性に関しては、HTTP /1.1 での問題をそのま
ま受け継いだ形となっている。北川氏らの報告書 (2) によると、
セキュアなWebDAV運用指針として以下の3点を挙げ
ている。
(1) 適切な認証の手段を備えること。
(2) SSL/TLSやIPsecなどの手段により、通信路
を暗号化すること。
(3) サーバー実装によるセキュリティ設定上の相違を踏まえ
て、要求される機能とセキュリティを矛盾なく実現する
こと。
以上の指摘を踏まえて、WebDAVプロトコルでの双方
向情報配信を主目的とした通信基盤のモデル化を行ったの
で、以下にその概要を示す。
2.1 認証手段の実現
前述の北川氏らの報告書では、セキュアな通信路ではBa
sic認証を、そうでなければDigest認証を推奨して
いるが、ビジネスユースでの複数の利用者を前提としたAS
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P事業などを考えると、さらに厳密な認証手段を講じる必要
がある。PKI (Public Key Infrastructure 公開鍵基盤 ) は、政
府のe−Japan重点計画でのGPKIにも応用されて
おり、X.509デジタル証明書による、クライアント、サー
バー相互の認証が最も妥当であると考えられる。
PKIは登録局 (Registration Authority)、認証局 (Certificate
Authority) およびリポジトリにより構成され、ベリサインや
ボルチモアなどの商用サービスを利用するのが一般的であ
るが、企業内利用など限定された環境では、デジタル証明書
とCRL (Certificate Revocation List) の発行機能に限定した
EasyCert (3) を利用する方法や、無料で証明書発行
サービスを行う、株式会社デジオンのFreeCA (4) を利用
する方法もある。本稿での通信基盤の実験にはMicro
soft社のWindows 2000 サーバーに付随するCe
rtificate Server2.0 により、512ビットの
RSA公開鍵を利用した。図1はこれにより発行、使用した
サーバー証明書を示す。
リセキュリティの設定により、128ビットのセッション鍵と
クライアント証明書をサービス要求側に求めることができ
る。またクライアント側で利用したIE 6.0 およびWeb
フォルダーは128ビット暗号化に対応しており、WebDA
Vクライアント機能を備えている。こうした点により現在
最も利用しやすい環境と考えられ、実験の対象とすることに
した。
また一方でWebアクセスのみならず、任意のTCPセッ
ションをSSL化する手段としてStunnelがある。
Stunnelはクライアントモードとサーバーモードが
あり、これを利用し、本来暗号化未対応のソフトウェア間の
通信路上での暗号化が可能になる。本稿の実験では、クライ
アント側、サーバー側、および両側にこれを用いた場合の評
価も行った。Stunnelの概要については、2.4項にお
いて述べる。
2.3 サーバー実装に関する方針
2.2項でも述べたように通信実験ではWindows
2000 サーバーのIIS 5.0 をWebDAVサーバーとして利
用したが、IISでは仮想ディレクトリ単位により、
SS
L有効の設定が可能である。このため複数の利用者が各々
のリソースに排他的にアクセスするためには、認証機能を
持ったポータルを用意し、CGIやスクリプトなどにより
各々のユーザに対応する仮想ディレクトリへと移動するア
クセスコントロール機能を前提とする。本稿で述べる通信
実験では、この部分を省略した環境での評価を行っている。
2.4 Stunnelの利用
図1 サーバー証明書
2.2 通信路の暗号化
北川氏らの報告書では、SSL/TLSはWWWでは最も
標準的に用いられており、多くのWebブラウザやWebD
AVクライアントも対応している。またサーバーソフト
ウェアでも対応している製品が多いということで、WebD
AVとの整合性が良いと述べられている。さらに最近では
アクセラレーターボードも安価に入手できるようになり、シ
ステム構成の変更を最小限にしてパフォーマンスの向上が
期待できるなどのメリットもあり、この手段を利用すること
にした。
本稿の通信基盤の実験に利用したWindows 2000
サーバーに実装されるIIS 5.0 は、WebDAVサーバー
機能およびSSLサーバー機能を具備しており、ディレクト
Stunnel (5) は暗号化ラッパーであり、大別して2つ
の機能がある。1つめは暗号化されていないTCPパケッ
トを受け入れて、これにSSL暗号化処理を施し、指定され
たリモートホストの指定されたポートへフォワーディング
すること。2つめはSSL暗号化パケットを受け入れて、こ
れに復号化処理を施し、指定されたリモートホスト、ポート
へフォワーディングすることである。前者をクライアント
モード、後者をサーバーモードと呼んでいる。これを利用す
ることで、WWWに限らず、POPやIMAPなどSSL未
対応のサーバーソフトウェア、クライアントソフトウェアの
通信路を暗号化することができる。本稿執筆時点で最新の
バージョンは 4.05 であり、デジタル証明書の検証に対応し、
Windows版ではサービスとしてインストールも可能
である。コンフィグレーションファイル内のパラメータ指
定により、クライアントモード/サーバーモード、証明書検
証レベル、ルート証明書指定、自身の証明書の指定、デバッ
グレベルとログ出力などを詳細に設定できる。またサービ
スレベルオプションでは、待ち受けポート番号、フォワード
するリモートホストとポート番号などを指定する。
Stunnelでは、暗号化・複合化機能や鍵生成などの
SSL通信の主要素となる部分をOpenSSLに依存し
ている。OpenSSLはOpenSSLプロジェクト (6)
によって運営されるサイトからダウンロード可能であり、現
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時点で入手できる最新バージョンは 0.9.6 Cとなっている。
上記の機能のほかに、認証局機能やPKIに関連するデータ
の生成・解析などの多彩な機能を持つ。ここでは当該実験環
境の構築に関与した部分についてのみ述べる。
(1) PKCS#12形式ファイルの認証局の自己署名証明書か
らPEM (Privacy Enhancement for Internet Electronic Mail)
形式に変換し、ルート証明書として用いる。PEMとは
バイナリデータをbase64エンコーディングしたもの
で、OpenSSLがデフォルトで用いるファイル形式
である。
>openssl pkcs12 -in 入力ファイル名 -out root.pem -passin
PKCS12パスワード -cacert -nokeys
(2) 同じくPKCS#12形式からPEM形式のサーバー証明
書と秘密鍵、クライアント証明書と秘密鍵を抜き出す。
>openssl pkcs12 -in 入力ファイル名-out server.pem
-passin PKCS1
2パスワード -clcert -nodes
>openssl pkcs12 -in 入 力 フ ァ イ ル 名-out client.pem -passin
PKCS12パスワード -clcert -nodes
(3) 512ビットのDiffie−Hellman鍵交換用の
パラメータを加える。
>openssl dhparam 512 >> server.pem
これにより、PKIでのサーバー・クライアント相互認証の
準備が整ったことになる。
3.SSL通信調査実験
2節での前提を踏まえて、次の4種類の通信実験環境を構
築した。
(1) クライアントSSL化にIE6.0とWebフォルダー、
サーバーSSL化にIIS5.0を利用する。
(2) クライアントにStunnel、サーバーにIISを利
用してSSL化する。
(3) クライアントにIE6.0およびWebフォルダー、サー
バーにStunnelを利用する。
(4) クライアント、サーバー双方にStunnelでSSL
化する。
これらにより、WebDAVフォルダーの参照・更新機能な
どの確認および送受信パケットのバイト数の計数を行い、S
SL通信の効率性を評価した。できる限り平等に評価する
ために、暗号化アルゴリズムとメッセージダイジェスト関数
には、Windows環境に合わせてRC4と MD5を使
用している。また送受信パケットの計数には、Sakura
Informationv2.21を使用した。
れの実験結果を表に示す。
表1 (1)の場合
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表2 (2)の場合
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②
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表3 (3)の場合
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1
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,3
3
6
3.1 SSLパケット計数実験
この実験では、2台のホスト間において、1回のHTTP
セッションでクライアント側から送受信した IPパケッ
ト全体のバイト数を計数した。実験は3節の (1) から (4) の方
法で、各々5回行って平均値を算出している。以下にそれぞ
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事例報告
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表4 (4)の場合
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参考文献
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,7
1
7
6
,9
4
8
(1)宮本久仁男:次世代プロトコルWebDAVの可能
性 ,http://www.atmarkit.co.jp/flinux/special
/webdav/webdav01a.html
(2)北川和裕他:WebDAVシステムのセキュアな設定・
運用に関する調査
(3)名古屋工業大学 岩田研究室 , http://mars.elcom.nitech.ac.jp/security/download.html
(4)http://freeca.digion.com/
(5)http://www.stunnel.org/
(6)http://www.openssl.org/
6
,5
5
9
執筆者紹介 3.2 実験結果についての考察
表1から表4の結果を総括すると、クライアント側の暗号
化機能にIE6.0を用いた場合とStunnelを用いた
場合では、特に顕著な差異は見られない。しかしサーバー側
暗号化機能にStunnelを利用した場合には、送信バイ
ト数は1/2.5から1/3.3に、受信バイト数は1/3.7
から1/7.8にいずれもかなり減少している。特にクライ
アント側とサーバー側双方にStunnelを利用した場
合、送受信量の減少が顕著である。これは共通鍵ビット数や
暗号化方式、メッセージダイジェスト関数の条件が同じであ
ることを考えると、IIS5.0のSSL処理の効率化に改
善の余地があるのではないかという予想が成り立つ。但し
今回の実験は送受信量の計数のみで処理速度の計測は行っ
ていないので、この観点からの考慮も必要となってくる。な
お表3のケースでは、SSLセッション開始時に複数のクラ
イアント証明書の選択が要求されたので、この間の送受信量
も勘案している。
岡田辰也 Tatsuya OKADA
昭和 56 年九州工業大学電子工学科卒業。
専門分野:通信・ネットワーク、
ソフトウェア工学
E-Mail:[email protected]
4.おわりに
企業内活動やASP事業としての需要を想定して、ホスト
間の双方向での情報配信機能の基幹となる通信基盤の調査・
構築を行い、4種類の条件を変えてパフォーマンスの測定を
行った。その結果以下に示すようなことがわかった。
(1) クライアント側にIEとStunnelを利用した場合
の差異はあまり見られない。
(2) サーバー側にStunnelを利用すると、IISの場
合に比べ、クライアントがIEでもStunnelでも
送受信量が大幅に減少した。
(3) (2) の減少の割合は送信量で1/2.5から1/3.3、受信
量で1/3.7から1/7.8であった。
これを踏まえて企業間利用やASP事業でのシステム構築
に際して、Stunnelの暗号化・復号化機能を有効活用
することを提案する。
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English Abstracts
A Novel Communication Support System for Person with Physical Disability
6P
Kenichiro KOZUMA, Tsuneto GONDO, Hideaki SEIKE
We developed a novel communication support system. It is an application of our own previously developed technology of "A New Support
System for Severely Physically Handicapped Person to Access Internet”. The system is featured by the fact seriously that the Internet server creates
and distributes the execution program in every operation of the user. Therefore, the user can easily use this system only with the web browser.
The system is maintenance-free to the user.
Key Words : Accessibility, Person with Physical Disability, Web Application, Internet, Switch, One Key, Auto Scan, Communication Aid
The Improvement on the A-MES(Activity Monitoring and Evaluation System) for Commercialization
12P
Shunichi SAKATA, Shinichi NOJIRI, Masanobu NAGATA
In the field of rehabilitation, the objective and quantitative evaluation is possible with respect to ADL(Activities of Daily Living ; for example ,
supine , sitting , standing , walking and wheelchair driving) of the examinees by the A-MES. In order to promote the commercialization of the
A-MES, the function improvement of the evaluation software and the data logger was carried out.
In the evaluation software, fulfillment of the individual analytical function and addition of the history analysis function were carried out. In the
data logger, the correspondence to long-time measurement and miniaturization was realized.
Key Words : Posture measurement, Motion measurement, The degree of being bedridden, ADL, Care, Rehabilitation
An Ultrasonic Array Sensor System by Use of M-sequence Modulation
18P
Kazuki KABA and Teruo YAMAGUCHI
This paper describes an ultrasonic sensor system using ultrasonic waves generated by the digital beam forming (DBF) and modulated by an Msequence. This system has ultrasonic transducers arranged in a linear array and they are driven by the digital signals which are controlled in
frequency and phase by the DBF technology. The ultrasonic sensor system measures the delay time of peak in the cross-correlation function
between the transmitted signal modulated by an M-sequence and the received signal reflected from objects. Experimental results show that this
sensor system is much more robust against noise and that the digital beam forming technology by use of ultrasonic array transducer is effective.
The above measurement system can be applied to detecting objects around camera’s field of view.
Key Words : digital beam forming, ultrasonic array transducer, M-sequence modulation, cross-correlation function
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英文抄録
Development of Cleaning Devices Using Cavitation Jets
41P
Yutaka NAWATA, Teiichi TANAKA, Kaoru FURUSHIMA, Seiji NISHI, Atsushi OHTOMO and Masanobu NAGATA
In the field of industrial cleaning, solvents like Freon and ethane have been used widely. But such solvents will be prohibited soon from a
viewpoint of environmental problem. Some cleaning methods not using solvents have been developed. One of them is the cleaning method using
cavitation jet. It utilizes the impulse force of cavitation bubbles collapsing. It is the purpose of the present work to obtain the characteristics of
cavitation jets and develop a new cleaning method using them. We did experiments with two different nozzles, one simple and one sophisticated.
Also we developed an impulse sensor to measure the impulse force generated when cavitation bubbles collapse. As a result we were able to obtain
some common features of cavitation jets.
Key Words : Industrial Cleaning, Cavitation, Cavitation Bubbles, Nozzle, Sensor
Structural Analysis of X − Y Ultra-precise Stage for Weight Reduction
45P
Takao HIGASHIMACHI, Mamoru ISHII and Kouji KOSAKA
As the part of XY stage development in Collaboration of Regional Entities for the Advancement of Technological Excellence, the finite element
structural analysis was carried out for ultra-precise and high-speed XY stage lightening. This XY stage can be applied to 12 inch size wafer process.
Deflection analysis in case of dead weight, attitude evaluation and natural frequency analysis were done on 3 kinds of ceramics stages (solid
structure, rib structure and honeycomb structure). As a result of analysis, it was clear that the large lightening of about 50% by the honeycomb
structure in comparison with the solid structure could be realized.
Key Words : Ceramics, XY stage, Lightening, Finite Element Method, Structural Analysis, Nonlinear Analysis, Contact Problem
Research and Experiments of Fundamental Function of Data Exchange System
49P
Tatsuya OKADA
Telecommunication infrastructure was modeled assuming data exchange system on cipher channel between enterprises, or between Application
Services Providers and customers. This study is predicated on (1) the investigation of an authentication method, (2) the cipher exchange data by
SSL, (3) the system or the condition where multiple users can access their resources exclusively. Telecommunication efficiency was evaluated on
this experimental system. According to this experiments, Stunnel has turned out to be effective. It is useful to construct data exchange system
based on Stunnel in enterprises or ASPs.
Key Words : ASP, Bi-directional Data Exchange, WebDAV, HTTP/1.1, SSL/TLS, PKI, Registration Authority, Certificate Authority, CRL,
Stunnel, OpenSSL
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記 録
□学会等講演一覧
発表先等
発表年月日・発表誌
及びページ
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氏名
共同発表者
発表題目
1
東町高雄
井原なつみ
小庵 輝男
篠原 寿人
構造解析CAEの有効活用事
例
第1
8回熊本県産
学官技術交流会
平成161,第18回熊本県産
学官技術交流会講演論文集
p
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.2
2
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3
2
大友 篤
平子 進一
澁澤 栄
土壌センサの開発
第1
8回熊本県産
学官技術交流会
平成161,第18回熊本県産
学官技術交流会講演論文集
p
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.2
5
8
-2
5
9
萩原宗明
八坂 三夫
北村 智行
田間 政義
竹下 正吉
児玉 昭和
岡村 浩治
上杉 文彦
伊藤奈津子
宮川 隆二
浅野 種正
検出機能を向上させたプラズ
マ異常放電監視システムの開
発
第1
8回熊本県産
学官技術交流会
平成161,第18回熊本県産
学官技術交流会講演論文集
p
p
.3
0
8
-3
0
9
小山善文
羽山 隆史
山口 貴弘
中田 明良
久保田 弘
相川 創
藤井 敏夫
井上 知行
大型フラットパネルディスプ
レイ膜厚検査装置の開発
第1
8回熊本県産
学官技術交流会
平成161,第18回熊本県産
学官技術交流会講演論文集
p
p
.3
1
0
-3
1
1
5
小山善文
園田 頼信
谷崎 広幸
増矢 拓郎
福島 敏貢
篠原 寿人
黒木 卓也
大隈 義信
上村 直
大隈 恵治
山川 昇
田口 智弘
FPD表示ムラ検査装置の研
究開発
第1
8回熊本県産
学官技術交流会
平成161,第18回熊本県産
学官技術交流会講演論文集
p
p
.3
1
2
-3
1
3
6
坂田俊一
守屋 善巳
生産統合支援システム
“M
a
n
u
F
@C
T
”について
第1
8回熊本県産
学官技術交流会
平成161,第18回熊本県産
学官技術交流会講演論文集
p
p
.3
1
8
-3
1
9
7
東町高雄
八戸 和男
木下 和久
研削切断ホイールの固有振動
数に及ぼす2種のスリットパ
ターンの影響
2
0
0
4年度砥粒加
工学会学術講演
会・立命館大学
平成 1
6
-9
,2
0
0
4年度砥粒加
工学会学術講演会講演論文集,
p
.3
9
5
3
4
発表先
D
E
N
-−
-K
E
NT
E
C
H
N
IC
A
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m
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0
0
4
46
記 録
□特許出願一覧
N
o
1
出願日
出願番号
発明の名称
発明者 /所属
受付№
位置検出装
置および位
特 願
置検出治具、 1
H
1
6
.3
.2
5
1
6
2
0
0
4
-0
8
8
2
3
5
並びに位置
検出法
氏名 /所属
共同出願者
特許番号
備考
坂田俊一・小山義
文 /電応研、中木
戸至 /中木戸鉄工、(株)中木戸鉄工 山口晃生 /熊本大
学
D
E
N
-−
-K
E
NT
E
C
H
N
IC
A
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E
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0
0
4
47
記 録
□技術移転一覧
N
o
.
開発担当
研究員
成果名称
1
坂田俊一
永田正伸
生活活動度計
2
永田正伸
カイトプレーン
「カイトプレーン」
3
大友 篤
精密農業のため
の土壌センサ
「精密農業」
上妻健一郎
肢体不自由者用
インターネット
アクセス支援シ
ステム
「イネーブラー」
4
実施商品名等
契約日
「A−MES(エイメス)」 H
1
6
.1
.1
9
技術移転先
実施許諾
株式会社 暖
H
1
6
.2
.2
7
実施許諾
株式会社
スカイリモート
H
1
6
.3
.1
実施許諾
石井工業
株式会社
H
1
6
.3
.2
6
実施許諾
株式会社
システムソフト
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-K
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4
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契約種別
備考
記 録
1. 生活活動度計(A−MES) ■リハビリテーションやケアの分野において、対象者の日常生活における活動状況を定量的・客観的に把
握し、その後のリハビリの効果判定やプログラムの変更に役立てることができる。臥位、座位、立位、
歩行、車椅子駆動について秒単位の計測が可能。
■老人保健施設 清雅苑との共同開発。(株)暖に技術移転(実施契約)
、全国の福祉関連施設に向けモニ
ターを実施しながら普及展開を開始。
【装置及び装着方法】 加速度センサー
データ−ロガー
A
-M
E
Sの外観
【解析例】 加速度センサー信号
姿勢・動作の解析結果
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-K
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0
0
4
49
記 録
2. カイトプレーン ■カイトプレーンは、ハンググライダーのようなデルタ型の翼を持った小型無人航空機で、通常の翼に
比べてより重い荷物を搭載することができ、また、エンジンが停止しても滑空して着陸できるので墜
落の危険性が少ない、などの特長があります。
今回、技術移転したシステムは、自動飛行機能を備えたシステムで、使用者が設定した複数の位置を
自動的に飛行することができます。
■この自動飛行システムは、遭難者の探索、危険箇所の監視、災害発生状況の把握、交通状況の監視、
および、有害ガスの検知や気象データの観測など、有人飛行では常に危険が伴う作業を、安全かつ経済
的に行うことができるため、そのような現場での活躍が期待されています。
カイトプレーン
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N
-−
-K
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NT
E
C
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N
IC
A
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P
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0
4
50
記 録
3. 精密農業のための土壌センサ ■従来の土壌管理では、一つの圃場に対して数点の土壌サンプルを取り、土壌分析して平均した値に対
して均一の施肥を行っているため収穫量がばらつく等の問題が生じる。これを解決する手段として、
収穫量の分布を示す収量マップや土壌の養分の状態を示す土壌マップをもとに、効率のよい施肥を行
い、施肥量を減らすと共に収量を増加させる P
F
(P
re
c
is
io
nF
a
rm
in
g
)の研究が注目されている。こ
のための重要な要素技術が、リアルタイムに土壌をセンシングする土壌センサである。
■くまもとテクノ産業財団電応研、オムロン(株)
、及び東京農工大の共同研究として光の反射スペクト
ルを使用して、リアルタイムに土中を走らせながら、位置を G
P
Sで取得し、土中成分、E
C
,p
H
,土壌
硬度をセンシングする土壌センサの開発を行った。下図にセンサの構成を示している。証明用の光
ファイバによりチゼルで土中に形成された計測空間の土壌表面を照射し、その反射スペクトルで土壌
成分を推定するものである。
チゼル(土中貫入部)土壌センサ構成図
試作土壌センサ(計測中)
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-K
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0
4
51
記 録
4. 肢体不自由者用インターネットアクセス支援システム(イネーブラー) ■重度の肢体不自由者はパソコンのキーボードやマウスの操作が困難である。
近年、生活に必要な情報がインターネットのホームページで公開されることが多くなり、これらの情報
を肢体不自由者が自分で入手できるようにすることでデジタル格差をなくし、生き甲斐や自立心を身
につけてもらうことを目的とした。
そのためにスイッチ1個でホームページを閲覧できるシステムを開発した。
■この製品は次のような特長を持っている。
・ウェブアプリケーション(サーバで動作する)のため、導入・設定・更新作業が不要。
・端末側はホームページ閲覧ソフト(In
te
rn
e
tE
x
p
lo
re5以上)のみで動作(M
a
cも可)。
・ 従って、端末側のコスト、高度な知識、作業負担は不要。
・ ウェブメールや電子掲示板などへの書き込みも可能。
・ 検索エンジンでの文字列サーチも可能。
動作画面例
D
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-K
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C
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0
4
52
ご 案 内
■電子応用機械技術研究所(通称:電応研)は、熊本テクノポリス建設構想に基づき、県内
企業の高度技術に関する技術水準の向上を支援するため、(財 )くまもとテクノ産業財団の付
属研究所として建設され、昭和 6
0年 4月に開所しました。地域企業のA(オートメーショ
ン)・C(コンピュータ)・D(データプロセッシング)分野に係わる技術水準の向上を図るこ
とを主な目的として設立され、設立以来、産・学・行政との連携・交流を図りながら、地域に
おけるニーズとシーズを踏まえ、研究開発を通じて地域企業の技術高度化の支援を行ってい
ます。
電応研では上記の目的に沿って様々な事業に取り組んでいますが、特に、企業ニーズ、行政
ニーズ等に対応する研究開発事業を受託したり(受託研究)、あるいは企業等と共同して新製
品 /新技術の開発を行っています(共同研究)。また、電応研に蓄積された技術成果を用いて、
地域企業等への技術の指導及び普及を図っています(技術指導・技術相談)。更に、電応研と
の共同研究やインキュベーション施設としての利用のために、電応研の施設の一部を県内企
業に開放しています(有料)。
電応研は地域に開かれた研究所としての役割を積極的に果たしてまいります。共同研究や
技術指導等の申し込みの詳細につきましては、下記までお問い合わせください。
■ 問合せ先
財団法人くまもとテクノ産業財団電子応用機械技術研究所・管理担当課
T
E
L
.0
9
6− 2
8
6− 3
3
0
0
(代表)
F
A
X
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9
6− 2
8
6− 9
6
3
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